はじめに 葉緑体(色素体) は10億年以上前の太古の時代に現在の シアノバクテリアのような原核生物が細胞内共生したこと で誕生したと考えられている(一次共生;一次植物)(Gray 1992).一次植物には灰色植物,紅色植物,緑色植物の三 つのグループが現存している.さらに真核藻類が複数回独 立に非光合成真核細胞内に絶対共生することで,光合成能 は多数の真核生物系統にもたらされた(二次共生)(Archibald 2015).ユーグレナ(ミドリムシ)やクロララクニオン植物 は緑藻由来の葉緑体を,珪藻,ハプト藻,褐藻などは紅藻 由来の葉緑体を有する.重篤な疾病を引き起こすマラリア 原虫やトキソプラズマなどのアピコンプレクサには,紅藻 由来の葉緑体が光合成能を喪失することで誕生したアピコ プラストが存在する.アピコプラストはこれらの寄生生物 の生存に必須であるため,アピコプラストDNAの複製や 分配機構の解明は新奇治療薬のデザインに有効だとして注 目されている(Lim and McFadden 2010).
一般的に葉緑体ゲノムは多コピーであり,一つの葉緑 体には約 100 コピーの相同な DNA が存在する.一細胞 に複数の葉緑体を有する陸上植物では,一細胞に数千も の葉緑体 DNA が存在する.かつてはこの大量の葉緑体 DNAは裸でストロマを浮遊すると考えられていた.しか し,DNA に特異的に結合する DAPI(4 ,6-diamidino-2-phenylindole)などの蛍光色素を用いて葉緑体DNAを可視 化してみると,葉緑体DNAは小さな輝点として観察され ることが明らかとなった.この構造は葉緑体核様体と呼ば れ,多コピーの葉緑体 DNA が様々な RNA 分子やタンパ ク質とともに高度に組織化されたものであり,藻類や植物
PLANT MORPHOLOGY vol. 32 pp. 75-82 INVITED REVIEW
葉緑体核様体の分子構造と進化
小林優介 城大学大学院理工学研究科理学野 〒310-8512 城県水戸市文京2-1-1 要旨:葉緑体(色素体)は光合成によって地球上のほぼ全ての生態系を支えている.葉緑体には,シアノバクテリア様 の祖先から引き継がれた独自のゲノムDNAが存在し,これらは光合成装置の構築や植物の生存上必須なタンパク質 をコードしている.葉緑体DNAは裸でストロマを浮遊するのではなく,多様なタンパク質によって折りたたまれて 葉緑体の染色体に相当する 核様体 として纏められている.これまで,葉緑体核様体の構成因子が進化の過程でど のように変遷したのか,さらには葉緑体核様体形態を制御するメカニズムはほとんど明らかとなっていなかった.そ こで我々は緑藻から被子植物までの各進化段階を代表するモデル生物について,葉緑体核様体構成タンパク質の変遷 を解析し,進化の過程でバクテリア由来の葉緑体核様体因子が,宿主由来の因子へと漸進的に置換されてきたこと を明らかにした.また,代表的な葉緑体核様体タンパク質である亜硫酸還元酵素(SiR)が葉緑体核様体に局在するに はSiRのC末端ペプチドが重要であることも示した.さらに我々は,世界に先駆けて葉緑体核様体の維持・分配機構 の解析にも着手し,葉緑体核様体形態異常のクラミドモナス変異体moc1の原因遺伝子が葉緑体型Hollidayジャンク ション切断酵素遺伝子であること発見し,MOC1遺伝子は緑藻から陸上植物まで広く保存され,葉緑体分裂や分化に 伴う核様体の分離に欠かせないことを示した.Molecular structure and evolution of chloroplast nucleoids
Yusuke Kobayashi
College of Science, Department of Science, Ibaraki University 1-1-2 Bunkyo, Mito, Ibaraki, 310-8512, Japan Author for correspondence: Y. Kobayashi, [email protected]
Summary: Almost all life on earth depend on photosynthesis performed by chloroplasts of algae and land plants. Chloroplasts possess their own genomic DNA (cpDNA), which are considered as a relic of the endosymbiotic cyanobacterium. A copy of cpDNA encodes ~200 proteins essential for photosynthesis and biogenesis, and are packaged in DNA-protein complex called chloroplast nucleoids (CPNs), a counterpart of nuclear chromosome. However, little is known about the evolution of CPN structure and the molecular mechanism that regulates CPN morphology. To deduce the evolution of CPN structure, we analyzed s of algae and liverwort, and proposed a model that the recurrent modification of organi ation by eukaryotic factors originally related to chromatin organi ation likely have been the driving force for the diversification of s since the early stage of plant evolution. e also investigated sulfite reductase Si , a ma or component of s in land plants, to reveal the molecular basis to bind and bend cpDNA. The combination of in silico and in vivo analysis revealed that C-terminally region of SiR (~50 aa plays a key role to interact and compact cp . urthermore, we identified the novel gene MOC1, which regulates the CPN morphology in algae and land plants. MOC1 encodes the chloroplast-targeted Holliday junction resolvase, suggesting that MOC1 untangles cpDNA tangled via Holliday junctions to segregate chloroplast genome faithfully.
において極めて普遍的に観察されるものである(Kuroiwa 1991, Sakai et al. 2004).
酒井らは植物のオルガネラ核様体を生化学的に単離する 技術を確立した(Sakai et al. 1991, Sakai et al. 2000).その 方法に従い,Majeranら(2012)はトウモロコシの葉から葉 緑体核様体を分画し,さらに共免疫沈降法を用いて核様体 複合体を精製したのちに,そこに含まれるタンパク質を質 量分析によって網羅的に同定した.その結果,葉緑体核様 体にはDNA複製,修復,転写を担う酵素群に加え,RNA スプライシングやmRNA 安定性制御などの転写後プロセ スに関わる多様な因子群が存在することが明らかとなっ た(Majeran et al. 2012).一方で,葉緑体における転写に 注目した解析からも多くの葉緑体核様体因子が同定されて きた.Pfalzら(2006) は,シロイヌナズナの葉緑体から転 写活性を有する画分を各種クロマトグラフィー技術で精製 し,そこに含まれるタンパク質をplastid transcriptionally active chromosome proteins (pTAC)と名付け,質量分析に よって網羅的に同定した.pTACのほとんどは植物または 真核生物特有のタンパク質であり,特に,pTAC1(Whirly) やpTAC3(SAPドメインタンパク質) などは葉緑体核様体 構造を構成する主要成分であることが示唆されている(Pfalz et al. 2006, Majeran et al. 2012).こうした研究成果から, 葉緑体核様体が葉緑体DNA複製,修復,転写,翻訳,お よび転写後プロセスの中枢として機能していることが分 子レベルで示唆されて始めている(Pfalz and Pfannschmidt 2013, Powikrowska et al. 2014).しかしながら,植物の進化 における葉緑体核様体構造の変遷や葉緑体核様体の形態を 制御する分子機構など多くの未解決の問題が残されている. これらの に挑むために我々は多彩な藻類や植物をモデル に分子生物学や生化学的手法を駆使して研究を進めている. 本稿では,我々の研究成果を中心に紹介し,さらに今後の 研究課題についても議論したい. 葉緑体核様体構造因子の多様性から見た葉緑体の進化 葉緑体核様体はDNA複製,修復,転写,翻訳,転写後 プロセスなどに関わる多様なタンパク質群から構成される が,そのなかでも葉緑体DNAの折り畳みや構造化の中心 的な役割を担う 構造タンパク質 の変遷に我々は着目し, 葉緑体進化を考察することにした. 細胞核の染色体を形成するヒストンタンパク質群は,生 物種間で極めて高度に保存されている.ところが,バクテ リアや葉緑体の核様体の構造因子は種間で多様性に富む (Sato et al. 2004).そのなかで例外的に広く保存されてい る核様体因子がHU(heat unstable) である.単細胞紅藻シ ゾンやクリプト藻(紅藻を二次共生させたもの) ではhu遺 伝子は葉緑体ゲノムにコードされている(Kobayashi et al. 2002).同じく紅藻葉緑体由来のアピコプラストにおいて もHUが核様体構造の維持に機能することが報告されてい る(Reiff et al. 2012).ただし,アピコプラストで機能する HUは細胞核にコードされている(Reiff et al. 2012).紅藻 と並ぶ大分類である緑色植物は緑藻類(クロレラ,アオノ リなど) とストレプト植物(ミカヅキモ,シャジクモ,陸 上植物など) の2つのグループで構成される.緑藻では細 胞核に HU 遺伝子がコードされ,HU タンパク質が葉緑 体に輸送されている(Karcher et al. 2009, Kobayashi et al.
2016).しかし,被子植物ではこれまで細胞核ゲノムや葉 緑体ゲノムから HU 遺伝子は見つかっておらず,葉緑体 核様体構成成分がバクテリアや藻類のものとは全く異な ると考えられていた(Sato et al. 2004).我々はシャジク藻 植物クレブソルミディウムにはシゾンのhu と類似したシ アノバクテリア由来の HUが細胞核にコードされ,HUタ ンパク質が葉緑体核様体に局在していることを確認した (Kobayashi et al. 2016).さらに,ゼニゴケゲノムからは HU遺伝子が検出されなかったことから,HU遺伝子は陸 上植物の誕生とほぼ同時期に消失したのではないかと提唱 している(図1, Kobayashi et al. 2016). では陸上植物においてHUに相当する因子は一体何であ ろうか?東京大学の佐藤らは,生化学的に単離したエンド ウマメの葉緑体核様体に多量の亜硫酸還元酵素(SiR)が含 まれると報告した(Sato et al. 2001, Sekine et al. 2002).同 時期に米国のグループは大豆の葉緑体核様体からSiRを同 定している(Chi-Ham et al. 2002).さらに佐藤のグルー
プは,in vitroにおいてSiRにはDNAに結合し,小さくま とめる活性があることを示している(Sekine et al. 2007). SiRは,ヒメツリガネゴケやタバコなどでも葉緑体核様体 に局在することが報告され(Wiedemann et al. 2010),加え てゼニゴケにおいてもSiRが葉緑体核様体因子であること を我々は確認している(論文準備中).このようにSiRは葉 緑体核様体因子として知られているが,絶対的なモデル 植物であるシロイヌナズナやトウモロコシの葉緑体核様 体のプロテオーム解析ではSiRは含まれないことが報告さ れてた(Sekine et al. 2007, Majeran et al. 2012).では,ど うして植物種によってSiRが葉緑体核様体から検出された り,されなかったりするのであろうか.この に挑むため に我々は,様々な植物種のSiRのアミノ酸配列を多重配列 整列によって解析した.すると,葉緑体核様体局在すると 報告されたSiRにはC末端に約50アミノ酸程度の短い領域 CEP (C-terminally Encoded peptide)が存在することが明 らかになった.一方で,アブラナ科植物や単子葉植物の非 核様体局在型SiRにはCEPは保存されていなかった。さら に SWISS ホモロジーモデリングプログラム(Biasini et al. 2014)によって CEP が DNA 結合モチーフをとることが示 唆された.これらの解析結果を基に我々は,SiRが葉緑体 核様体に局在するためにCEP が重要な機能を果たしてい ると仮説を立てた.そこで我々はプルーフオブコンセプト 実験として,CEPを有さないシロイヌナズナ(アブラナ科) のSiRにエンドウマメのSiR由来のCEPを融合したキメラ タンパク質(AtSiR-PvCEP)を発現させるベクターを作成し, シロイヌナズナにおいて発現させた.シロイヌナズナの野 生型のSiRの体部分は葉緑体ストロマに局在し,核様体と 共局在しなかった.しかし,CEP を融合したキメラのシ ロイヌナズナのSiRは葉緑体核様体に明瞭に局在し,CEP が核様体局在に重要であることが示された.分子系統解析 の結果,SiRが葉緑体核様体因子として機能し始めたのは 陸上植物の誕生時期の頃であり,後にアブラナ科植物や単 子葉植物では独立にCEPが消失することでSiRが核様体非 局在型へと変化したことがわかった.この研究成果 はこれまでの葉緑体核様体因子としてのSiRの報告 を全て矛盾なく説明できるため,我々は葉緑体核 様体構造の進化の理解を推し進めることができた (Kobayashi et al. 2016).しかし,アブラナ科植物や 単子葉植物でSiRの核様体非局在化が起きた生物学 的意義はいまだわかっておらず,今後,解明すべき 課題である. 2012年,ドイツのKrupinskaのグループは,ホウ レンソウの葉から生化学的に葉緑体核様体の主要構 成因子の探索を行い,20 kDa 程度の比較的低分子 の新奇タンパク質を同定した(Melonek et al. 2012). このタンパク質にはクロマチンのリモデリングに 関わるタンパク質に保存されているSWIBドメイン が存在した.シロイヌナズナには葉緑体またはミ トコンドリアの核様体に局在するSWIBドメインタ ンパク質のパラログが 6 つ存在し,Krupinska らは SWIBには DNA 結合能が存在し,さらに核様体因 子H-NSを欠損した大腸菌の低温感受性を相補する ことを示した.これらの結果を基に彼女は,SWIB こそが陸上植物の葉緑体核様体コア因子であると結 論づけている(Melonek et al. 2012).我々がクレブソルミ ディウムやゼニゴケを用いてSWIBのオーソログを探索し, 局在解析したところ,これらの生物ではSWIBのオーソグ が1つ存在し,それらは主に細胞核に局在し,葉緑体核様 体からは検出されなかった.つまり,SWIBは元来,細胞 核で機能する因子であり,陸上植物の進化においてコケ植 物以降にSWIB遺伝子の重複が起き,そのうちの一部が葉 緑体またはミトコンドリア移行シグナルを獲得することで 誕生した比較的新しい葉緑体核様体構成因子であろうと考 察される(Kobayashi et al. 2016).しかし,疑問はまだ残 る.SWIBドメインは元来p53などと結合するためのタン パク質結合ドメインである.確かに葉緑体核様体で機能す るSWIBのアミノ酸配列は細胞質や細胞核でタンパク質結 合ドメインとして機能するSWIBドメインと相同性を有す る.だが,わずかなアミノ酸変異によってタンパク質の立 体構造が変化し,その結果,DNA結合ドメインとしての 構造・機能を獲得した可能性が考えられる.今後,SWIB のX線結晶構造を基にした議論が必要になるだろう. ではこれらの真核型因子は植物の進化において,いつご ろから葉緑体核様体構造維持に関わり始めたのだろうか. これまでの葉緑体核様体の分子生物学的研究は被子植物を 対象としており,葉緑体核様体構造の進化は不明であった. そこで我々は緑藻クラミドモナスにおいてHUを標的とし た免疫沈降によってタンパク質複合体を精製し,葉緑体核 様体のプロテオーム解析を行った.その結果,緑藻の葉緑 体核様体に Whirly や SAP ドメインタンパク質などの真核 型葉緑体核様体コア因子が含まれることを発見した.さら に,クレブソルミディウムやゼニゴケで同定された葉緑体 核様体因子候補の細胞生物学的,生化学的,分子系統を行い, 詳細な葉緑体核様体の進化を推定した.その結果,緑藻の 段階で葉緑体核様体はすでに宿主細胞由来の因子を獲得し ており,さらに植物の進化と伴に機能的に冗長的な核様体 因子を獲得することで,陸上植物ではHU遺伝子を消失し たというモデルを提唱した(図2, Kobayashi et al. 2016). 図2 緑色植物の葉緑体核様体構成因子の変遷
葉緑体DNAの複製・分配
ロシアの植物学者メレシコフスキーは,葉緑体は分裂 によってのみ増殖することを根拠に初めての葉緑体の細 胞内共生説を提唱した(Martin and Kowallik 1999).葉緑 体増殖の際,光合成装置の構成因子をコードした葉緑体
DNAは正確に複製され,娘葉緑体へと確実に分配されな
くてはならない.葉緑体のDNAポリメラーゼPOP(plant and protist organellar DNA polymerase)は大腸菌のDNA ポリメラーゼ I と類似しており,分子系統解析によると
POPはシアノバクテリアや −プロテオバクテリア由来で
はないことが示されており,葉緑体の誕生の歴史を考え る上で興味深い(Moriyama et al. 2008, Moriyama and Sato 2014).壁谷と宮城島(2013) はPOPによる葉緑体DNAの 合成活性は細胞周期とは独立であり,おそらく葉緑体の レドックス状態によって制御されると示した(Kabeya and Miyaghishima 2013).しかしながら葉緑体DNAの複製機 構,特に葉緑体 DNA の複製開始の制御機構に関しては 多くは現在でも に包まれている.Bendich は,葉緑体 DNA複製はT4ファージのように相同組換えの鎖侵入を起 点にしていると提唱している(Bendich 2004).最近になっ て,シロイヌナズナの葉緑体 DNA には 2 つのオリジンが 活発に転写されるrDNA領域に存在することが示唆されて いる(Yang et al. 2017). 葉緑体DNAの分配に関しては,培地や光条件を制御す ることで均質な細胞集団を容易に調整できる緑藻クラミド モナスにおいて,細胞周期と葉緑体核様体形態との関係が 詳細に研究されている.間期のクラミドモナスでは葉緑体 核様体は 5-10 個ほどの塊として観察されるが,葉緑体分 裂直前に葉緑体核様体は葉緑体中に細かく拡散すること で,娘葉緑体に葉緑体DNAを確実に分配していると考え られている(図3, Ehara et al. 1990).同様の形態変化は陸 上植物シロイヌナズナでも観察されており,普遍的な葉緑 体DNAの分配機構でと考えられている(Terasawa and Sato 2005).しかしながら,この葉緑体核様体形態の動態を制 御する分子メカニズムはあまり理解されていなかった.我々 は,葉緑体内での相同組換え中間体Hollidayジャンクショ ンが適切に解消されることが葉緑体核様体の分配や形態維 持に重要であることが明らかにした.次に,Hollidayジャ ンクション研究の歴史を紹介し,葉緑体型Hollidayジャン クション切断機構が発見された意義や葉緑体DNA分配に おける重要性について紹介したい. 葉緑体核様体形態のダイナミズムを支えるHollidayジャンク ション切断機構 生命の設計図であるDNA分子は,紫外線,電離放射線, 活性酸素種等による損傷を頻繁にうける.体細胞ではゲ ノムDNA損傷を相同組換えによって修復し,保守的に維 持する.一方で,生殖細胞ではDNAヌクレアーゼSPO11 によって自らのゲノム DNA を 2 本鎖切断してまで,相同 組換えによって積極的に多様性を創出する(Keeney et al. 1997).現在の相同組換えのモデルの原型はSzostakらによ って提唱された(Szostak et al. 1983).ここでは,相同組換 えを大まかに3つのステップに分けて紹介する. ステップ 1: 2 本鎖切断を受けた DNA は加工を受け, 1本鎖突出末端が形成される.RecA(バクテリア型) や Rad51(真核細胞核型)などのリコンビナーゼは1本鎖DNA 上に数珠状に結合し,相同な塩基配列を有する二本鎖 DNAに鎖侵入し,短い領域で塩基対を形成させる. ステップ2: 鎖侵入により,一対の相同DNA分子が四 方向に繋がったHollidayジャンクション構造が形成される. Hollidayジャンクションは塩基対の融解と結合を繰り返す ことでDNAに沿って移動することが出来る. ステップ 3: Holliday ジャンクションを適切に切断 (resolution)または解く(dissolution) ことで,再び独立し た 2 つの DNA 分子に解離させる.この際,切断する方向 によって,Hollidayジャンクションの内側の限られた領域 の遺伝情報のみが伝わる非交差型(non-crossover),また は,Hollidayジャンクションの外の領域も置換される交差 型(crossover)相同組換えが引き起こされる. Szostakらよりも前にHolliday ジャンクションの存在を 予想したのが,英国の遺伝学者Hollidayである(Holliday 1964, Liu and West 2004).Hollidayは酵母で観察された メンデルの法則に従わない遺伝様式を説明するためにモ デルを提唱した(Holliday 1964, Liu and West 2004).酵 母には2 つの接合型(a と ) が存在し,メンデルの法則に 従えば,四分子解析をすると細胞核の遺伝子型は2対2に 分離する筈である.しかし,しばしば一塩基多型はメン デルの法則を逸脱し,3 対 1 に遺伝子型が分離する現象 (gene conversion)が観察される.Holliday は,相同 DNA 間でHollidayジャンクションを介して組換えを起こし,然 図3 野生型とmoc1変異体の細胞周期における葉緑体核様体形態
る後にミスマッチが修復されれば,3対1の分離比が引き 起こされると,矛盾なく説明した.つまり,Hollidayは,
Hollidayジャンクションとそれを解消する酵素,さらには
ミスマッチ修復機構の存在を予想していたことになる.
Hollidayジャンクション構造の存在は,電子顕微鏡観
察によって証明され始めた(Doniger et al. 1973, Bell and Byers 1979, Potter and Dressler 1979).さらに1990年代, 日本の品川のグループと英国のWestのグループの激しい 研究競争によって,大腸菌における Holliday ジャンクシ ョン解消機構の大枠が解明された(West 2009).2000年代 になると,酵母やヒトの細胞核での Holliday ジャンクシ ョンの解消機構の研究が進み,ガンや早老症といった疾病 とHollidayジャンクション解消機構の関係性が見え始めて きた(e.g. Wu and Hickson 2003).上記に加え,ウイルス (Mizuuchi et al. 1982, Garcia et al. 2000)や古細菌(Komori et al. 1999)においてもHollidayジャンクション切断酵素が 報告された.そしてついに 2017 年,我々は葉緑体におい て初めて Hollidayジャンクションの切断因子 MOC1を同 定することになる.これまで Holliday ジャンクション解 消因子は,紫外線,薬剤などへの高感受性や遺伝的疾病を マーカーとした遺伝学的手法や細胞抽出液からの生化学的 手法によって単離されてきた.しかし我々はこれまでの Hollidayジャンクション切断酵素の発見過程とは全く異な り,葉緑体核様体構造の形態学に基づいた変異体スクリー ニングを起点として,Hollidayジャンクション解消酵素に り着いた. きっかけとなったのは1999 年に単離されたクラミドモ ナスの変異体である(図3).黒岩のグループは,ランダム タギングによって作出したクラミドモナスの変異体ライン を,一つずつDAPI染色し,顕微鏡観察することで葉緑体 核様体形態に異常を示す変異体の単離を試みた.この気が 遠くなりそうになるスクリーニングの結果,細胞周期を通 して葉緑体核様体がたった一つに凝集した変異体を単離が され,その変異体はmonockaryotic chloroplast(moc)と名付け られた(図3, Misumi et al. 1999).しかしながら,moc変異 体には複数のタグがゲノムに挿入され,ゲノム構造が再編 成されており,さらに当時はクラミドモナスのゲノム情報 が不十分であったため,mocの原因遺伝子は未同定のまま であった.筆者は遺伝学的に葉緑体核様体形態を制御する メカニズムに迫る為に,moc変異体の原因遺伝子の同定を 目指した.古典的な遺伝子マッピングや最新のゲノム情報 を利用したTAIL-PCRによって候補遺伝子を探索し,相補 実験を繰り返すことでようやく原因遺伝子MOC1に り着 いた.MOC1 は藻類・植物で広く保存されており,シロ イヌナズナにおいてMOC1を発現抑制すると葉緑体核様 体は凝集し,さらに完全破壊株はアルビノ致死であった. 次にMOC1の生化学的な機能に迫ることにした.しかし, 通常のBLASTやCDSサーチではMOC1と既知の機能ドメ インとの相同性が一切検出されず,当初解析の方向性が定 まらなかった.様々なプログラムを試みたところ,SWISS ホモロジーモデリングプログラム(Biasini et al. 2014)によ って,MOC1 とバクテリアの RuvC の間に 10%程度のと ても低いアミノ酸配列相同性が検出されたが,あまりにも 相同性が低く,配列からMOC1 の活性を確定することは できなかった.そこで,MOC1 のリコンビナントタンパ ク質を精製し,生化学的に MOC1 に RuvC と類似した活 性が存在するか検証することにした.基質となるHolliday ジャンクションは,オリゴDNAをアニーリングさせるこ とで人工的に作製した.酵素学的解析を行うと,MOC1 はMg2+イオンまたはMn2+イオンのいずれかの二価の金属 イオンの存在下で,Hollidayジャンクションを特異的に切 断することが明らかとなった.さらに多角的に検証する ために,高速原子間力顕微鏡とDNAオリガミ技術を用い て MOC1 の解析を行った.その結果,MOC1 が Holliday ジャンクションの中央部に特異的に結合しそれを点対称に 切断する過程を可視化することに成功した.様々な構造・ 配列を持つDNA基質を作製することで,MOC1は長いシ ス配列を必要とせず,Hollidayジャンクションの分岐点に 存在するコア配列 C ↓ C を点対称にニックを入れ中間体 を分離することを明らかにした(↓は切断位置).残った ニックにはリン酸基とヒドロキシル基が存在し,そのまま DNAリガーゼでシールされた.これらの結果は,MOC1 は Holliday ジャンクション切断酵素であり,一塩基の変 異を許さずに相同組換えを終結させることが可能であるこ とを示している.故に,我々の研究によって細胞核,ミト コンドリア,葉緑体の三オルガネラにRuvCモデルに従う Hollidayジャンクション切断機構が存在すると証明できた
(Kobayashi et al. 2017).このMOC1の発見は世界的に注 目され,最近になって,海外の研究チームによって分解能 1.68Å (結合しているMg2+イオンの数や配位する水分子が 見えるレベル)の詳細なMOC1の結晶構造が解かれた(Lin et al. 2019).MOC1はRNase Hファミリーに属し,バク テリアのRuvCなどには見られない特有の -hairpin構造を 有している.MOC1 はホモダイマーを形成しながら 2 つ の -hairpin という腕で Holliday ジャンクションの分岐点 を抱きしめるように結合し,さらにbase-recognition motif (BRM)とよばれる領域に存在するフェニルアラニンの芳 香族環を連続する2つのシトシン(認識配列)のピリミジン 環の間に挿入し,芳香族環とピリミジン環の間でπ-π相 互作用を形成させることで,CC間の塩基スタッキング (DNA二重らせん中の塩基部分が重なり,電子を共有する こと) を不安定化させることが明らかになった(Lin et al. 2019).BRM の配列はあらゆる藻類や植物のMOC1に高 度に保存されており,おそらくはMOC1 は植物種に関わ らず,Hollidayジャンクションのコアに存在するCCとい う同じ配列を選択的に切断すると考えられる. では何故,MOC1 遺伝子が機能不全になると葉緑体核 様体は凝集するのであろうか.相同組換えは頻繁に行わ れ,DNA二本鎖切断だけではなく,例えばニックによっ てDNA複製が停止すると,複製フォークは相同組換えに よって修復される。その結果,DNA 分子同士はHolliday ジャンクションによって連結される.この連結は共有結 合によるものであり,葉緑体DNA分子を物理的に分離す ることが極めて困難となる.葉緑体核様体は葉緑体 DNA とタンパク質の複合体であり,葉緑体 DNA が分離でき ないと葉緑体核様体自体も分離できなくなる.MOC1 は Hollidayジャンクションで繋がった葉緑体DNAを分離す ることで,葉緑体核様体の分配を促進していると考えられ る(図4, Kobayashi et al. 2017).
葉緑体核様体に関する今後の展開:「葉緑体エピジェネティク ス制御」仮説 葉緑体DNAは核様体で合成されるのか,それとも核様 体の外側(ストロマ) で合成されるのかという議論は古く から続いている.これまで生化学的に単離された葉緑体核 様体からDNAポリメラーゼが質量分析によって同定され ており(Majeran et al. 2012),さらに緑藻クラミドモナス にチミジンのアナログEdU を取り込ませ,新規合成され た葉緑体DNAの局在を調べたところ,EdUは葉緑体核様 体から検出されている.注目すべきことに,EdU は葉緑 体10 個程度に拡散して存在する全ての核様体で均質に局 在するのではなく,一部(数個)の核様体のみに存在した. このことから当初,我々は葉緑体DNAの複製は葉緑体核 様体で行われ,葉緑体核様体には複製が活発なものと不活 性なものがあるのではないかと考えていた.しかし,この 仮説はより慎重な検討が必要であることに気が付き始めた. きっかけとなったのは,moc1変異体である.上記の通り, moc1は生活環を通して葉緑体が1つに凝集し,葉緑体核様 体の不均等分配が起きる.その結果,核様体をたくさん有 する,またはほとんど有さない娘細胞が誕生する.moc1 変異体で EdU の取り込み実験を行ったところ,EdU のシ グナルは凝集した核様体ではなくストロマに存在した.さ らに核様体の動態を詳細に追跡するために筆者と西村らの グループは,クラミドモナスの葉緑体核様体をライブイメ ージングする技術を確立した(Kamimura et al. 2018).具 体的な方法としては,クラミドモナスの葉緑体核様体の主 要構成成分の一つであるHUにYFPを融合させることで葉 緑体核様体を可視化し,マイクロ流体デバイスによって 観察した.葉緑体核様体をほとんど有さない moc1 変異体 において葉緑体核様体の形成過程を追ったところ,細胞の 成長に伴って,細かい無数の顆粒として合成された核様体 は徐々に集まり,やがて大きな核様体へと凝集し始めた (Kamimura et al. 2018).つまり,葉緑体核様体は既に存 在するものが大きく成長し,分裂することで数を増やすの ではなく,ストロマで複製された葉緑体DNAが纏まるこ とで新規に形成されることが示唆される(図5). 図5 見えない 葉緑体核様体仮説 図4 葉緑体核様体(葉緑体DNA)分配におけるMOC1の機能
以上の結果は,DAPIなどで可視化される顆粒状の葉緑 体核様体に加えて,ストロマには葉緑体核様体からループ アウトした葉緑体DNA(見えない核様体) が存在し,これ が葉緑体DNA複製の鋳型として利用される可能性を示し ている.おそらくは顆粒状の葉緑体核様体は葉緑体 DNA が小さく纏められることで複製・転写因子などが相互作用 することが困難になるため,閉じた染色体(ヘテロクロマ チン) と同様に複製・転写などが抑制されていると考えら れる.一方で,緩く纏められた葉緑体 DNA(見えない葉 緑体核様体)は開いた染色体(ユークロマチン)として機能 し,複製や転写が盛んに行われていると考えられる(図5). これまで細胞核による葉緑体の遺伝子発現制御機構として, σ因子やNEP(nuclear-encoded plastid RNA polymerase)を 介した転写制御,PPR(pentatricopeptide repeat) タンパク 質等を介した転写後制御が証明されてきたが,それに加え て,細胞核は葉緑体核様体構造を制御することで葉緑体の 複製や遺伝子発現を調整しているのかもしれない.従来の 生化学的な解析では,葉緑体DNAの複製や遺伝子発現に 関する因子が葉緑体核様体から多数同定されている.しか しこれらは全てDAPIなどで観察される顆粒状の葉緑体核 様体由来とは限らない.葉緑体核様体を生化学的に単離す る際に,葉緑体核様体のコア部分からループアウトした DNAに結合するタンパク質も精製していた可能性もある. 今後の解析では,変異体の順・逆遺伝学的,生化学的解析 に加えて,超高解像度のライブセルイメージングなどの形 態学的な解析を積み重ねることで,この葉緑体のエピジェ ネティクス制御仮説に挑んでいきたい. 謝辞 本稿は 2019 年度日本植物形態学会奨励賞受賞に伴い, 執筆した.本研究の大部分は,京都大学大学院理学研究科 植物分子遺伝学研究室において,鹿内利治と西村芳樹の 指導の下で行われた.また,日本学術振興会特別研究員 DC1・SPDの支援を得た. 引用文献
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