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Academic year: 2021

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フォーラム現代社会学 19(2020) 3 21世紀に入ってから、大学および学問のあ り方が問われるようになった。このような問 いが発せられた背景には、長い人類史のなか で社会の向かうべき道が見えなくなったこと がある。向かうべき道が見えなくなったとい うことが意味するのは、20 世紀においては、 ある程度自明のものとして承認されていた社 会の目標が自明ではなくなったことである。 歴史のまったくの偶然であるが、2001 年 9 月に発生したアメリカ同時多発テロによる世 界貿易センタービルの炎上・崩壊は、21 世 紀が「不安」の時代であり、「戦争とテロリ ズム」 の時代であることを示しているように 思われてならない。 それでは 20 世紀において、ある程度自明 のものとして承認されていた社会の目標とは 何だったのだろうか。それを一言で表現する ならば、西欧で誕生した近代社会の優れた面 をポジティブに評価し、それを完全に実現し ようとするものであり、モダニティの集大成 だったと言うことができる。具体的には、経 済成長による「ゆたかな社会」(ガルブレイス) の実現、完全雇用と社会保障の充実(=福祉 国家体制の完成)というものであった。 ところがこれらの具体的な社会の目標は、 周知の通り、20 世紀後半に頓挫する。たし かに経済成長による「ゆたかな社会」の実現 という目標は、20 世紀後半から 21 世紀前半 にかけて日本、NIES(中国を含む)で、あ る程度実現された。先進諸国が大衆消費社会 を謳歌したことは、多くの社会学者にとって はよく知られた知識である。しかしこの経済 成長が、開発途上国に貧困と飢餓をもたらし ―言うまでもなく、経済成長と貧困・飢餓 との因果関係については厳密な検証が必要で あるが―地球環境問題の深刻化を生み出し たのであった。 ステフェンたち(Steffen, W. et al., 2015)は、 1750年から 2010 年までの 260 年間の、実質 GDPの増加、一次エネルギーの使用量、二 酸化炭素の濃度について、データを提示し、 3つの折れ線グラフの形状がきわめて似てい るという知見を示している。そして 1950 年 以降、この 3 つの指標が急激に上昇している ことを指摘している。きわめて単純な知見で あるが、1750 年から 2010 年までの間に、 こ の地球システムに何が起こったのかを、驚く べきほど明瞭に示しているのである。 開発途上国を中心にした貧困と飢餓の問題 に加えて、民族紛争・宗教紛争によって、世 界社会は危機的状況にあると言ってよい。こ の事態を社会学の言葉で表現するならば、21 世紀は、「もはや近代ではない」「第二の近代 もしくは脱近代」ということになる。このよ

巻頭言

友枝 敏雄

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4 うな危機的状況において、大学および学問の あり方はいかにあるべきだろうか。ここでは、 とりわけ日本の学術の状況に焦点をあてなが ら考えてみよう。 第二次世界大戦後における人文・社会科学 の展開を考える上で、ターニングポイントに なるのは、やはり 1960 年代後半の「学生運動」 と 1990 年代に入ってからの情報化の急激な 進展に伴う科学技術の高度化であろう。 1960年代後半の学生運動は、それまでの 「象牙の塔」としてのアカデミア(大学)を 臨終させ、大衆教育社会の出現と「教養の没 落」をもたらした。社会科学の分野で言うな らば、丸山真男、大塚久雄、川島武宜といっ た社会に影響力を持つ知識人(大学教授)は、 その後登場しなくなった。 この状況に追い打ちをかけたのが、ポスト モダン思想であった。ポストモダン思想が有 する、それまでの知識の体系に対する批判的 機能は、 それなりに高く評価されなければな らない。しかし問題とすべきは、「真理の探 究は不可能だ」「真理は存在しない」という 言説が舞台の正面に登場してきたことであ り、その結果、アカデミア(大学)にとって のアルファでありオメガである「真理の探究」 という機能が揺らぎはじめたことである。 さらに情報化の進展に伴う科学技術の高度 化は、科学的知識の高度な専門化と断片化を もたらした。科学的知識が日々更新されてい くのは、当たり前のことである。しかし更新 されるスピードと量の加速化によって、当該 分野の知識を俯瞰し、編集し、新たな知識の 体系へと確立すること、さらにはその知識を 人類社会が直面する課題に役立てていく― 自然科学者が好きな言葉で表現するならば、 知識を社会に「実装」していく―ことが、 困難になっているのである。 このことは社会学においてもあてはまる。 日本の社会学に限定しても、社会調査が市民 権を得、その技法が精緻化されるとともに、 実証研究は格段に進展してきた。優れた実証 研究は枚挙にいとまがない。しかし問題なの は、その実証研究から社会学の根本問題であ る「社会とは何か」「社会的なるもの」「社会 において正義とは何か」「新しい社会イメー ジの構想」に迫ろうとする研究が少ないこと である。私が関与してきた社会階層論の研究 で言うならば、社会構造の一つとしての階層 構造(不平等の構造)を明らかにし、階層構 造の問題点をどのようにして解決するのかと いう姿勢が弱い。言うまでもないが、階層構 造は「社会的なるもの」の具体的な現象形態 であり、社会における正義を構想するきっか けとなるものである。20 世紀の正義論の泰 斗であるロールズの最大の貢献は、「格差原 理」を提出したことにある。 日本社会は、1990 年代以降、大震災(阪神・ 淡路大震災、東日本大震災、熊本地震)や災 害を経験し、目下(2020 年 4 月現在)新型 コロナウイルスの蔓延という人類史の危機の なかにある。このような状況のなかで、レジ リエントな社会をつくるために、社会学者に 求められるのは、社会学誕生以来のメイン テーマである「社会的なるもの」「新しい社 会イメージの構想」に立ち返り、そこから社 会に貢献する学問を構築していくことであろ う。こういう愚直な研究姿勢のなかにこそ、 アカデミア(大学)における研究の意義があ るといえるのではないだろうか。

文 献

Steffen, W. et al., 2015, “The Trajectory of the Anthropocene: the Great Acceleration,” The Anthropocene Review, 2(1): 81–98.

(関西社会学会会長・大阪大学国際共創大学院 学位プログラム推進機構特任教授) E-mail: [email protected]

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