非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況と問題
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(2) 2. 非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況と問題(林 弘正). により胎児医療として胎児段階でのレザー手術や侵襲性の少ない胎児鏡や超音波 ガイド下治療を実現している。 子を持つ可能性のある当事者は,この現況にどの様に対応し選択するのか。ま た,社会は,この現況に介入しコントロールするのか。 非侵襲的出生前遺伝学的検査(Non Invasive Prenatal Genetic Testing: NIPT) ,着 床前遺伝子診断(Preimplantation Genetic Diagnosis: PGD) 及び異数性に関する着床 前遺伝学的検査(Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy: PGT-A)は,この 問題を考える Prüfstein である2)。 2. 室月 淳教授は,NIPT 導入前後の世界と日本の動向について 2010 年アムステ ルダムで開催された第 15 回国際出生前診断学会(15th International Conference on Prenatal Diagnosis and Therapy)を想起する。同学会のテーマは,NIPT 一色であり, 日本は「臨床的にも研究的にも周回遅れどころか 2 周遅れの状況」にあり,同学会 に参加した 10 名にも満たない日本人医師と驚愕し,日本への NIPT 導入に際して の懸念を語り合い,2012 年産婦人科遺伝専門医の自主的な組織 NIPT Consortium 結成の経緯を紹介する3)。 2013 年日本産科婦人科学会の作成した「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的 検査に関する指針」 (以下, 「2013 年 NIPT 指針」と略称する)は,NIPT に内在する 懸念として「先天的な異常については,出生前診断を行うことにより,障害が予 測される胎児の出生を排除し,ついには障害を有する者の生きる権利と命の尊重 を否定することにつながる」と指摘する。その上で,同指針は,NIPT の普及によ り 「染色体数的異常胎児の出生の排除,さらには染色体数的異常を有する者の生 命の否定へとつながりかねない。」として NIPT に内在する優生思想に警鐘を鳴ら す。2013 年 NIPT 指針は,NIPT 施行前後での臨床遺伝専門医による遺伝カウン セリングの実施を条件とする。2013 年 NIPT 指針附則は, 「本検査には倫理的に考 慮されるべき点があること,試料を分析する検査会社がいまだ国内にはないこと, わが国独自の解析結果が存在しないことなどから,その実施は,まず臨床研究と して,認定・登録された施設において,慎重に開始されるべきであります。当分 の間,本検査実施施設の認定・登録については,臨床研究の形態をとったものの みを審査の対象といたします。」と明言する4)。 2019 年 6 月 22 日,日本産科婦人科学会は,臨床研究 6 年の経緯を踏まえ臨床 研究とする 2013 年 NIPT 指針附則を削除し,NIPT を実施する認定施設を基幹施 設とし,産科医がおり小児科医と連携を取れる分娩施設を連携施設とし臨床遺伝.
(3) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 3. 専門医の遺伝カウンセリングではない簡易なカウンセリングにより NIPT を実施 するとの改正(以下, 「2019 年 NIPT 指針」と略称する)を行った。但し,実施は, 厚生労働省に設置した「母体血を用いた出生前遺伝学的検査 (NIPT)の調査等に関 する WG」の動向を見守るとする。 NIPT 及び PGD は,産婦人科医を中心とした医学プロフェッション固有の問題 領域ではなく,生命の在り方をも容含する哲学的問題であり,導入には国民のコ ンセンサスが必須である。 日本産科婦人科学会は,2013 年 NIPT 指針の策定に際しては社会的コンセンサ ス形成の必要性から様々な論議を重ねた。然しながら,2019 年 NIPT 指針は,日 本産科婦人科学会内部での密室の論議であり社会的コンセンサスは形成されてい ない。 医学プロフェションの責務は,討議の前提としての臨床研究データの公開である。 医学プロフェションが,独断暴走するのであれば国家の法的介入も必要である。 3. 本稿は,生命の尊重を基本的視座とする。新たな生命を巡っては,神からの授 けものとして新たに生まれ出る生命への畏敬という原初的感情と生命の誕生の決 定権は当該男女当事者にあるとする超個人主義的見解とがある。 吉村. 典教授は, 「21 世紀の生殖医療は,神に代わってヒトが新しい生命を造り. 出す時代といえるかもしれない。しかし,いつの時代でも忘れてはならないことは, 生命の尊厳に対する畏れと謙虚さである。生殖医療においては,単にクライアント のニーズに応えるだけではなく,新たに独立した生命を造り出す手技であることを 胆に銘じて,生まれてくる子の幸せと福祉を最優先すべきである。 (中略) 子 を持ちたいという願望は無条件の人権ではなく,時として倫理的,社会的,法的 問題点のみならず,医学的障害があることを銘記すべきである。 」 と指摘する5)。. 第 1 章 非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況 1. 日本医学会は,臨床研究である NIPT の実施施設を認定し,日本産科婦人科学 会は,NIPT 実施細則で認定施設に単年度毎の実施状況報告義務を課している6)。 日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会「母体血を用いた出生前遺伝学的 検査」施設認定・登録部会は,HP 上に平成 25 年度及び平成 26 年度のデータを開 示しているに過ぎない 7)。 日本産科婦人科学会は,独自のデータ公表の必要性を認識する。苛原 稔倫理 委員会委員長は,平成 28 年 11 月 11 日開催平成 28 年度第 3 回常務理事会 8)及び.
(4) 4. 非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況と問題(林 弘正). 平成 29 年 3 月 4 日開催平成 28 年度第 4 回理事会において臨床研究データ公表の 必要性に言及する9)。久具宏司倫理委員会副委員長は,平成 30 年 2 月 9 日開催平 成 29 年度第 5 回常務理事会においてデータ公表の具体的進捗状況を説明する10)。 日本産科婦人科学会は,独自のデータ公表の必要性を認識しつつも,NIPT Consortium のデータに依拠し若干の単独施設からのデータを加味する程度の公表 に過ぎない 11)。日本医学会及び日本産科婦人科学会は,主体的に NIPT 検査デー タ公表義務を果たしておらず,懈怠以外の何ものでもない。 NIPT Consortium は,2013 年 4 月から 2019 年 3 月までの 6 年間の NIPT 検査デー タを一定程度公表するが,社会的責務からデータ公表するのではなく国立成育医 療研究センターの開発研究費による研究成果報告義務に基づき公表するに過ぎな い 12)。なお,NIPT Consortium は,遺伝医療専門家の個人参加による組織であり 構成員の所属機関が臨床研究に参加するものでないことからデータの収集方法は 不明であり信憑性確認の視点から問題である13)。 以下,NIPT Consortium データを必要な項目に焦点を合わせ編集し掲記する14)。 2. NIPT Consortium のデータは,以下 2 点が問題である。表 1 の検査実数は超音波 マーカー検査,母体血清マーカー検査及びその他(染色体転座等)を含む広義の件 数であり狭義の NIPT 検査数は 70,193 件である。 表 3 は, 妊 娠 継 続 を 希 望 し な が ら 子 宮 内 胎 児 死 亡 IUFD (intra-uterine fetal death)になった方を含むとするが,妊娠継続希望者数は不明である。. 表 1 NIPT の適応別での検査陽性率 2013 年 4 月~ 2019 年 3 月 ・NIPT 実施施設数:86 施設 ・検査データ結果集計数:72,526 例 ・受検者の背景:平均年齢 38.4 歳・妊娠週数 13.1 週 陽性数. 検査適応. 検査実数. %. 高年妊娠. 68,361. 94.26. 出産既往. 1,832. 2.53. 18. 12. 4. 34. 1.86%. 超音波マーカー. 1,345. 1.85. 115. 67. 16. 198. 14.72%. 21T. 18T. 13T. 計. 632. 310. 97. 1041*. 陽性率 (%) 1.52%. 母体血清マーカー. 344. 0.47. 10. 3. 1. 14. 4.07%. (染色体転座等) その他. 644. 0.89. 7. 4. 1. 12. 1.86%. 782. 396. 119. 1299*. 1.79%. 合計 * 多発陽性例 2 例を含む. 72,526.
(5) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 5. 表 2 検査陽性者の確定検査実施状況 全検査会社検査データ結果 72,526 例中の陽性例の集計 (2019 年 3 月実施分) Trisomy21. Trisomy18. Trisomy13. TOTAL. 陽性者数. 782. 396. 119. 1299*. 確定検査実施数. 696. 291. 103. 1092*. 真陽性数. 673. 257. 54. 984. 96.7%. 88.3%. 52.4%. 90.1%. 陽性者的中率 擬陽性数. 23. 34. 49. 108*. 確定検査非実施数. 86. 105. 16. 207. IUFD. 55. 86. 15. 156. 核型判明. 14. 28. 8. 50. 核型不明. 41. 58. 7. 106. 妊娠継続. 9(1.22%). 6(1.71%). 0(0.00%). 15(1.29%). 研究脱落. 22. 13. 1. 36. * 多発陽性例 2 例を含む. 令和元年 9 月現在. 妊娠継続率=妊娠継続数(陽性者数-擬陽性者数-研究脱落) /. 表 3 検査陽性者の妊娠転帰 全検査会社検査データ結果 72,526 例中の陽性例の集計 (2019 年 3 月実施分) Trisomy21. Trisomy18. Trisomy13. TOTAL. 陽性者数. 782. 396. 119. 1299*1. 擬陽性数. 23. 34. 49. 108*1. 24(3.25%). 21(6.01%). 3 (4.34%). 48(4.15%). 67. 119. 19. 205. 妊娠継続数 IUFD *2. 643. 209. 47. 899. 妊娠中断率 *3. 87.6%. 59.9%. 68.1%. 78.0%. 研究脱落. 25*4. 13. 1. 39. 妊娠中断. *1 多発陽性例 2 例を含む *2 妊娠継続を希望するも IUFD になった方を含む 希望者数不明 *3 妊娠中断率=妊娠中断数(陽性者数-擬陽性者数-研究脱落) / *4 確定検査後の転帰が確認不可の症例を含む. 令和元年 9 月現在.
(6) 6. 非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況と問題(林 弘正). 第 2 章 2013 年 NIPT 指針改正の動向 第 1 節 2013 年 NIPT 指針改正の端緒 1. 平成 28 年 12 月 10 日開催平成 28 年度第 3 回理事会において,小西郁生監事は, 「NIPT は現在,臨床研究として行われているが,そろそろ次の段階に進むべき と思われる。しかしこのような方(日本医学会「母体決を用いた出生前遺伝学的検 査」施設認定・登録部会での認定施設外で NIPT 検査を実施した日本産科婦人科学 会会員=筆者註=)がいると次に進めないので,止めてもらうことが必要である。 例えばイギリスでは国策で NIPT を推進してダウン症を減らすことをしているが, 一方で,検査を受けない権利も保証し,生まれてきた場合には手厚く対応してい る。単に NIPT だけを取り上げるのは問題がある。」として,2013 年 NIPT 指針の 方針変更を示唆した。 小西監事の発言は,日本産科婦人科学会での 2013 年 NIPT 指針改正の端緒と なる15)。 平成 28 年度倫理委員会は, 「NIPT に関する検討小委員会」 を設置する16)。 NIPT に関する検討小委員会は,日産婦誌を検索する限りでは平成 29 年度倫理 委員会には設置されておらず,平成 30 年度倫理委員会は 「母体血を用いた出生前 遺伝学的検査に関する検討委員会」を設置する17)。 2. 2013 年 NIPT 指針改正は,先ず 2013 年 NIPT 指針附則削除として提案された。 平成 29 年 2 月 14 日開催平成 28 年度第 4 回倫理委員会において,協議事項と して 「 「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」の改定について」 が論議された。久具宏司倫理委員会副委員長は,厚労省小西班で平成 29 年度末 をめどに羊水検査や絨毛検査など確定的検査を含めた出生前検査を登録制にする 提言が示される見込みであること,NIPT 研究は 4 年が経過しデータをまとめて 報告する予定であること,厚労省小西班研究の終了後は NIPT も登録制 【資料 8】 とし,附則が削除されても施設要件はそのまま残るので実情に変化はなく,医学 会の枠組みの中で実施する予定であると説明した。 議事録は, 「 特に異論は無く,次回理事会にて検討することとなった。 」と記載 する18)。 同倫理委員会議事録には,配布資料として「【資料:】8. 母体血を用いた新しい出 生前遺伝学的検査に関する指針(改定案)」と記載され,既に 2013 年 NIPT 指針の 改定案が提案されているが同資料の閲覧は不可能である。.
(7) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 7. 3. 平成 29 年 3 月 4 日開催平成 28 年度第 4 回理事会では,協議事項 「4. 倫理委員 会からの報告について」の協議冒頭において苛原 稔倫理委員会委員長より 「 「母体 血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」から, 「附則」を取り外すこと について([資料:協議 倫理 1])」を撤回しその経緯が報告された。 理事会での論議は,2013 年 NIPT 指針改正についての重要な論点を含んでいる。 以下,論議を紹介する。 苛原倫理委員会委員長は,3 月末で NIPT を臨床研究から外すことを前日の運営 委員会及び総務担当理事会で提案し, 「羊水検査等については産婦人科医が担当す るが NIPT は採血だけであり幅広い者が関与する可能性があるので,臨床研究を外 すことは,その方向はよいとしても,外すにあたっての十分な検討,商業主義に陥 らない仕組みを考えた上でこの提案をすべきである」 と指摘され提案を撤回した。 倫理委員会が自ら提案した 「 「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関す る指針」から 「附則」を取り外すことについて」との提案を撤回したことは,委員会 として 2013 年 NIPT 指針作成時になされた 21 トリソミーの会等を交えた論議での NIPT に内在する問題の本質を理解していないことを露呈するものである。 吉川裕之理事は, 「プライマリーエンドポイントで,結果が出た時に場合によっ ては NIPT を行わないという結論もあり得るというのが前提にあるはずである。 またプライマリーエンドポイントで施設を限らずに行うのか,施設を限るのか等 のディシジョンをどうするのかを前もって決めておく必要があると思う。一般に 広げるのが前提であれば臨床研究とは呼べないので,臨床研究の結果によって 色々な結論が有り得るということであるのでゴールを整理して,結果が出たとき にどうするのかは何通りか決まっているはずなので,そこを明確にしていただき たい。ゴールについて判定もしないのに研究を止めるというのは,開始する資格 がなかったといわれても致し方ない。きちっとやった方がよい。 」 と発言する。 吉川理事の指摘は,倫理委員会の安易な 2013 年 NIPT 指針附則削除の提案と ゴールをも見極めない論議の在り方を批判する的確な指摘である19)。 臨床研究である NIPT 結果データ公表義務は,クライアントに直接接する日本産 科婦人科学会なのか施設認定登録を実施する日本医学会のいずれが負うのか,そ れとも双方に科されているのか。基本的には,それぞれの学会が NIPT との関わり において臨床研究結果データ公表責務を負う。一義的には,NIPT 実施細則で認定 施設に単年度毎の実施状況報告義務を課す日本産科婦人科学会にあると解する。 両学会は,第 1 章で検討したように臨床研究結果データ公表の責務を果たして.
(8) 8. 非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況と問題(林 弘正). いるとは言えない。 4. 苛原委員長は,平成 29 年 3 月 21 日開催平成 28 年度第 5 回倫理委員会で前回 提案した NIPT に関する指針の変更(附則の削除)案について理事会で将来的には 指針の変更(附則の削除)を検討するべきとの意見であったが,現時点では時期尚 早であるとして変更は先送りとなったと報告した 20)。 苛原委員長の報告は,議事録を見る限りでは単なる報告であって,何故倫理員 会提案「『母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針』から 『附則』を 取り外すことについて」を撤回したのかの説明に欠け,また,理事会での批判的 意見の紹介もなされていない。倫理委員会は,社会を納得させる論議を重ね自ら の見解を社会に発信し社会の理解を得るとのスタンスが不可欠である。 第 2 節 2013NIPT 指針改正の胎動 1. 平成 29 年 7 月 21 日開催平成 29 年度第 1 回常務理事会において,小西郁生顧 問は,登録施設でないにも拘わらず NIPT を実施している施設への注意および患 者さんへの説明を行いたいという NIPT Consortium からの要望書を論議する中で 「NIPT は次の段階に進むべきところに来ている。指針を改定するにあたって,今 後どのような体系にしていくかを本会で十分に議論しておく必要がある。 」と発言 する21)。 平成 29 年 8 月 26 日開催平成 29 年度第 2 回理事会において, 「 母体血を用いた 新しい出生前遺伝学的検査(NIPT)」についての声明についての論議が行われた。 小西郁生顧問は, 「最近では世界でも日本でも NIPT を希望する人が増えており, 次の段階にきていると感じている。5 年前,国民の議論は賛成,反対の意見があっ たが,しっかりとした体制や学会の見解もできており,ここで本会主導で見解の 改定を行うためにも,臨床研究の結果をしっかりと公表することが必要と考える。 コンソーシアムを作成しているので,一つの施設ではなく共同で研究結果を公表 し,論理的展開を明白にしながら次の段階に進んでいただきたい。 」と発言し,苛 原 稔倫理委員会委員長は「この臨床研究をいつまで行うかに関しては,本年 3 月 の倫理委員会では,そろそろ終了してもよいのではとの意見があり,今年度 1 年 かけて検討することになった。現状を踏まえて臨床研究を収束し,日本医学会や 本会が中心となって施設認定を行いながら適切に検査を実施できるように規則改 正または見解の策定等に向けて対応していきたいと考えている。 」 と発言する22)。 苛原倫理委員会委員長の発言は,先に検討した平成 29 年 3 月 4 日開催平成 28.
(9) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 9. 年度第 4 回理事会での「『母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針』 から 『附則』を取り外すことについて」撤回発言から 4 か月余で,論議の深まって いない中での臨床研究収束と 2013 年 NIPT 指針改正の方向への宣言である。 2. 平成 30 年 1 月 12 日開催平成 29 年度第 4 回常務理事会において,苛原 稔倫理 委員会委員長は,NIPT の見解につき見直しを平成 30 年 4 月から 6 月を目途に考 えており,現在続けている臨床研究を終了し,次のステップに進むことに日本医 学会の賛同を得たと報告する23)。 平成 30 年 3 月 3 日開催平成 29 年度第 4 回理事会において,苛原 稔倫理委員会 委員長は,倫理委員会報告として 2013 年 NIPT 指針附則の削除と臨床研究の枠組 み終了を提案し,論議がなされた 24)。報告と論議は,以下の通りである。 苛原委員長は, 「 平成 25 年 4 月から始まった NIPT 臨床研究が満 5 年となるた め,全施設の 90% 以上を占める NIPT コンソーシアム関連の論文と,それ以外の 施設からの報告を資料にまとめ,今回の理事会で報告したい。その上で,臨床研 究として行ってきた NIPT の位置付けを見直したい。具体的には,本会が作成し た NIPT に関する指針の附則の部分を削除し,臨床研究としての枠組みを終了す る案を審議いただきたい。施設認定はこれまで同様とし,対象なども,当面,従 来通りとし,今後の新たな枠組みは,出生前診断全体の枠組みに関する厚生労働 省研究班の提案を受けて決定したい。」と発言する。 久具宏司委員は, 「現在は,臨床研究の形態を取った申請のみを対象として,施 設の審査を行っている。コンソーシアムから 5 年分の結果が公表され,臨床研究 の結果が出そろったこの機会に,附則の削除を提案したい。指針本文に変更は無 く,施設基準や対象に変更は無い。本案が承認されたならば今後は,研究計画書 や施設内倫理委員会の承諾書がなくても,施設基準を満たす施設であれば認定す ることになる。メディアは,臨床研究が終わる=一般診療になると必ず言うが, 一般診療という言葉の定義は定かでなく,ただ単に臨床研究に限定している現在 の附則を削除するだけである。」と発言する。 小西郁生顧問は, 「一般国民とメディアが心配している事は,これで自由に誰で も NIPT をできるのかという点である。検査施設を承認するシステムを維持するこ とを強調し,全体数の把握のための登録制度を継続することを明言いただきたい。 加えて,カウンセリングが重要であることも強調していただきたい。カウンセリ ングに来た妊婦さんの意見として,ダウン症の赤ちゃんを産んだ場合に,どのよ うに育てるのかという情報が不足していると班研究で指摘されている。ダウン症.
(10) 10. 非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況と問題(林 弘正). の方々の現状調査で,こんなふうに生きていますよとか,こういうサポート体制 がありますよということが,明らかになっているので,その点を十分研修し説明 できることが重要と考える。 」 と発言する。 吉村. 典顧問は, 「附則を外すことは良いと思うが,指針本文に 『障害を持つ』と. いう言葉があるので, 『障害のある』という表現の方が望ましいのではないかと感 じる。要するに多様性を受容する姿勢ということである。 」 と発言する。 平成 29 年度第 4 回理事会は,2013 年 NIPT 指針附則の削除と臨床研究として の枠組み終了との提案について特に異議無く,全会一で承認した。2013 年 NIPT 指針作成時の日本産科婦人科学会会長小西郁生顧問と倫理委員会委員長吉村. 典. 顧問も特段の異論もなく提案を了承する。 苛原倫理委員会委員長は, 「施設認定はこれまで同様とし,対象なども,当面, 従来通り」とし, 「今後の新たな枠組みは,出生前診断全体の枠組みに関する厚生 労働省研究班の提案を受けて決定したい」として厚生労働省研究班の提案に下駄 を預ける。又,久具委員は, 「指針本文に変更は無く,施設基準や対象に変更は無 い。 」 と説明する。 日本産科婦人科学会は,独自の NIPT 臨床研究結果データを公表することなく, NIPT Consortium のデータに依拠して 2013 年 NIPT 指針附則削除と臨床研究とし ての枠組終了との方向性を明確にした。 3. 平成 30 年 4 月 17 日開催平成 30 年度第 1 回倫理委員会は,陪席として小西郁生 (独立行政法人国立病院機構京都医療センター院長)及び山田重人 (京都大学教授) 同席のもと NIPT に関連した「遺伝カウンセリング」の構築に関する厚生労働省班 研究の進捗状況及び NIPT に関連する「遺伝カウンセリング」の構築に関する厚生 労働省班研究(小西班,平成 26 ~ 28 年度第一期,平成 29 ~ 31 年度第二期) 」の進 捗状況について両氏より説明の後,質疑応答がなされた 25)。 倉澤健太郎委員:遺伝専門医,認定遺伝カウンセラーが,関連する全てのカウ ンセリングを対応することが理想であるが,実際のニーズに応えるために現実的 な対応も検討する必要があるかと思われる。 小西郁生先生:学会で指針を作成し,一定の質を確保した実施体制と,判断が 難しい症例に対する 2 次カウンセリングを保証するなどの方策を立てていただき たい。 河端恵美子委員:医師,カウンセラー以外の職種の関与はどうか? 山田重人先生:看護師の関与についても検討している。.
(11) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 11. 山中美智子委員:羊水検査に関してはどのような方向性か? 小西郁生先生:NIPT と同様に遺伝カウンセリングが重要と認識しており,本 会において議論することが必要と考える。 論議の後,苛原倫理委員会委員長は, 「倫理委員会内に出生前診断に関する小委 員会を設けて指針を作成することとしたい。委員長は久具先生とし,メンバーは 前回の委員会を参考にし,久具先生と倫理委員長で検討のうえ,次回倫理委員会 で提案したい。」と発言した。 平成 30 年 5 月 15 日,平成 30 年度第 2 回倫理委員会において,苛原委員長よ り NIPT に関する小委員会(仮称)のメンバー案が提案された 26)。久具宏司委員は, 「幹事を補佐役として,東京大学の永松先生の陪席を提案したい。今後,この委 員会で NIPT のあり方に関して再検討したい。全国 91 施設で NIPT 実施が認可さ れ,これまでに 6 万件程が NIPT を実施している。残念ながら非認可施設で,十 分な情報提供,カウンセリングの機会の無いまま NIPT を受ける事案がかなりの 数あり,混乱していることが問題であり,一方,着実に増えてきた NIPT 実施認 可施設数が最近,頭打ちになっていることも事実である。現在の施設要件が実態 に比して厳しすぎる懸念があり,全国の妊婦の不安に寄り添うことになっていな いとの意見がある。実際に NIPT を受けるにせよ,受けないにせよ,なぜ受けさ せてもらえないのか判らない状態で不安に思っている妊婦が多くいることが事実 と思われる。そこで,今後は現在の大枠を変更することなく,より多くの実際の 妊婦のニーズに応えられる体制を構築していくことを検討したい。一方,遺伝カ ウンセリングの重要性は今後とも変わらないので,遺伝カウンセリングを提供で きない施設での実施は避けなければならない。」として出生前診断に関する小委員 会の方針を説明した。 平成 30 年度第 2 回倫理委員会議事録は,資料 5. NIPT に関する小委員会 (仮称) 委員案及び当日資料 3. NIPT に関する小委員会委員就任依頼 (案)を記載するがア クセス不可能である。なお,平成 30 年 12 月 3 日現在の 「母体血を用いた出生前 遺伝学的検査に関する検討委員会」の構成員は,小委員長:久具宏司,委員:織 田克利,榊原秀也,澤 倫太郎,関沢明彦,永松 健,松原洋一*,平川俊夫,平原 史樹,加部一彦*,丸山英二*,齋藤有紀子*,玉井邦夫*,中込さと子*,山内泰 子*,山田重人(以上 16 名,*は外部委員と思われる)27)。 母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する検討委員会の審議状況については, 「委員会は初の本格的な指針見直しのため,日産婦が昨年 8 月に設置したが,委員名.
(12) 12. 非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況と問題(林 弘正). や開催日時を非公開とし,委員に情報を漏らさないようクギを刺すなど 「密室」 での 協議にこだわった。委員は日本小児科学会など他学会の代表を含む 16 人だが,実 際には藤井知行理事長ら日産婦幹部を中心に 8 人の陪席者も加わった。複数の委員 によると,陪席者の藤井氏が何度も議論に介入して新指針案に理解を求め,委員と 口論になる場面もあったという。委員会は 3 回開かれたが合意に至らず,今年 1 月 に打ち切られた。6 年前の導入時の指針には,日本医学会や日本人類遺伝学会など 4 団体も支持に名を連ねていた。 」 との批判的紹介がある28)。 4. 平成 30 年 9 月 1 日開催平成 30 年度第 2 回理事会において,苛原 稔倫理委員 会委員長は,NIPT に関する小委員会について「3 月の理事会で臨床研究の終了が 決まり,他の学会等へ働きかけを行い,新たに検討委員会を設けて指針の改定を 進めることになった。8 月 16 日に第 1 回小委員会を開催し,これまでの臨床研究 の結果の報告が行われ,今後は久具宏司委員長のもとに新たな指針を作成する事 となった。需要の増加傾向,検査施設の偏在,施設認定に際してカウンセリング 体制の設定などの諸問題について,ワーキンググループでのたたき台作成を経て 小委員会での検討を行い,各団体への説明を行う。」と報告した。久具小委員会委 員長は,審議の方向性について「日本小児科学会,日本人類遺伝学会など,関連 団体の立場によって見解が異なる。それぞれの立場を最大限尊重してたたき台を 作成する。可及的迅速に進めたい。」と説明した 29)。 苛原倫理委員会委員長は,ワーキンググループでたたき台を作成すると説明す るが,具体的項目として「需要の増加傾向,検査施設の偏在,施設認定に際して カウンセリング体制の設定」と述べる。たたき台は,WG の専権事項であるにも関 わらず方向性を指導し,かつ WG の方向性を決める重要な要因であるメンバー構 成はたたき台同様に非公開であり,密室での論議との批判がされる所以である。 平成 30 年 11 月 20 日開催平成 30 年度第 4 回倫理委員会では,2 回の小委員会 での議論と審議中の指針見直し案が提示される30)。 久具小委員会委員長は, 「これまでの議論では,現在の指針見直し案を成案とす るには至らず,引き続き検討することとなっている。 」とし,苛原倫理委員会委員 長は, 「日本医学会の打ち合わせ会に出席したところ,前回の小委員会の議論は不 十分と指摘された。様々な意見を尊重し議論を追加して,本会としての細則を含 む指針案を作り,日本医学会に投げかけたいと考える。 」 と発言する。 5. 平成 30 年 12 月 8 日開催平成 30 年度第 3 回理事会において,同年 11 月 7 日開催 された母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する検討委員会の報告がなされた。.
(13) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 13. 苛原 稔倫理委員会委員長は,認定施設のない県が 10 県あること,日本医学会の 施設認定外での NIPT が増えている状況,日本産科婦人科学会が日本医学会から 委託を受けて認定事業の事務負担に応じられないとの 3 点を問題点として指摘し, 倫理委員会の中に NIPT 検討小委員会を設け WG 案の作成・検討中であると言及 する31)。 日本医学会は,平成 30 年 12 月 25 日,日本医学会 「母体決を用いた出生前遺伝 学的検査」施設認定・登録部会の認定を受けていない無認可施設で遺伝カウンセ リングを受けずに実施されている NIPT 検査の横行に対して,日本医学会会長門 田守人名で日本医学会分科会理事長・会長宛に「『母体決を用いた出生前遺伝学的 検査 (NIPT)』指針の順守についての依頼」を発し,無認可施設で 「当該検査を実施 している医療機関や医療従事者,また受諾して検査を請け負っている検査機関や 仲介業者等これにかかわる全ての関係者は,いずれも直ちに検査の受諾及び実施 をはじめとする全ての関係業務を中止すべきである。 」 との依頼を発した 32)。 日本産科婦人科学会倫理委員会に設置された母体血を用いた出生前遺伝学的検 査に関する検討委員会は,NIPT を臨床研究から外し一般診療とする方針や無認 可施設での受検数増大防止との改正の意図を妊婦の安全等にすり替えている。 平成 31 年 1 月 18 日開催平成 30 年度第 5 回常務理事会は,倫理委員会提案の 2013 年 NIPT 指針の見直しについて論議する33)。論議の中心は,1 月 9 日開催の 小委員会での公開シンポジウム開催やパブリックコメントの方法が検討された。 小西郁生顧問からは, 「メディアにパブコメを求めていることを伝えてもらい, 広く国民に議論を起こすのがよい。」とのアドバイスがなされた。 常務理事会での論議は,国民の意見を踏まえての 2013 年 NIPT 指針改定の必要 性を勘案せず内向きの議論に終始している。 第 3 節 2013 年 NIPT 指針改定原案 1. 平成 31 年 2 月 12 日開催平成 30 年度第 5 回倫理委員会では,母体血を用いた 出生前遺伝学的検査に関する検討委員会の「NIPT に関する指針案 (委員会最終 案) 」が論議された 34)。久具検討委員会委員長より,NIPT に関する指針案 (委員会 最終案)の説明がなされた。苛原 稔委員長の「9 月から数回に分けて行われた検討 委員会の最終案が,倫理委員会に提示された。すでに日本医学会には本案を提示 しており,日本医学会内の専門委員会で検討するとともに,関連団体 (人類遺伝学 会,小児科学会,日本医師会,日本産婦人科医会)に提示して,ご検討いただく.
(14) 14. 非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況と問題(林 弘正). ようにお願いした。3 月の理事会で承認が得られれば,パブリックコメント 【当日 資料 4】を集めて,さらに最終指針とするよう,慎重に検討したい。 」 との説明の後, 論議された。 山中美智子委員:年齢制限を設ける根拠が,不明確であることを指摘したい。 陽性的中率が高い妊婦は,何歳でも適切な遺伝カウンセリングを行ったうえで実 施できる必要がある。 久具宏司委員:元の指針でも,明確な年齢制限はない。年齢制限を設けるかど うかは,各施設で判断していただきたい。 関沢明彦委員:連携施設での説明・情報提供と同意をもって遺伝カウンセリングに 代えることができる,と記載されているのは,いかがかと思う。遺伝カウンセリング をしなくても NIPT が実施可能であるかのように読めてしまうので,語弊がある。 説明・情報提供と同意により,遺伝に関するカウンセリングを行うこととする, または,遺伝に関するカウンセリングとすることができるなど,記述を再検討し ていただきたい。 山中美智子委員:遺伝看護専門職に関する記載が削除されたのはなぜか? 河端恵美子委員:看護協会が認定する遺伝専門看護師も,NIPT に関する遺伝 カウンセリングに関与できるようにしていただきたい。 久具宏司委員:委員会では,遺伝カウンセリング学会,人類遺伝学会を代表す る委員から,産婦人科医や看護師が行う情報提供と説明は,遺伝カウンセリング ではないとの度重なる指摘があり,訂正した経緯がある。 苛原 稔委員長:分娩を取り扱わないが,遺伝的に高度な診療を行っている施設 などでの実施を可能にしてほしい,との意見もある。今回いただいたご意見やパ ブリックコメントを参考に,今後,現行案を最終案に仕上げていきたい。また, この指針は,必要に応じて,定期的に見直すことが必要であると考えている。 平成 30 年度第 5 回倫理委員会では,資料 6.「NIPT 指針案,細則案」及び当日配 布資料 4.「パブコメ案」が配布され論議のベースになっているが,議事録を閲覧す るかぎりでは各委員の指摘している「NIPT 指針案,細則案」の内容の確認ができ ず,平成 30 年度第 5 回常務理事会での「広く国民の論議を喚起する」との小西郁 生顧問の指摘にも関わらず内向きな論議がなされ議事録公開の意義が没却されて いる。 2. 平成 31 年 3 月 2 日開催平成 30 年度第 4 回理事会において, 倫理委員会報告 「NIPT に関する指針の見直しについて」が論議された 35)。.
(15) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 15. 苛原 稔倫理委員会委員長は, 「NIPT に関しては厳格な基準で行なってきたが, 10 の県では実施できておらず,アクセスの悪い妊婦さんも生じている。そこで従 来の認可施設を基幹施設として,そこに連携する連携施設を作ることによって施 設を増やすことが適当であると考えた。連携施設は産婦人科医であり,小児科と 連携を取れる分娩施設とする。これに関しては様々な意見があるため,NIPT に 関するパブリックコメントの実施についてご承認いただければ早速パブリックコ メントを募集し,妊婦からの意見も取れるように Baby プラスでも意見を求めた い。関連学会には NIPT に関する指針の見直し案についても意見を求めている最 中である。3 月一杯でパブコメ案を〆切とし,4 月の臨時総会には意見を集約し たものを出したい。そして 6 月の理事会で NIPT に関する指針の終案としたい。 」 と報告する。藤井知行理事長は, 「本件に関しては,学会の正式な案として世の中 に出すのはこれが初めてであり,今まで新聞に出た内容はすべて審議途中の物が どのような経緯かは不明だが漏れ出ていたものである。今回の報告が私たちの提 示する案ということになる。本日は決定しないが,パブリックコメントを求める ためにこれをまず世の中に公開することになり,本日の記者会見でも公表する。 」 と発言し,理事会は,特に異論はなく,全会一致で「NIPT に関する指針の見直し」 を承認した。 2013 年 NIPT 改正の計慮は,認可施設の無い 10 県への対応をも勘案し,従前 の認可施設のみの NIPT 検査実施を「認可施設を基幹施設とし産科医がおり小児科 医と連携を取れる分娩施設を連携施設」とする制度設計の変更である。. 第 3 章 2013 年 NIPT 指針及び指針施行細則改正論議 第 1 節 令和元年度第 1 回倫理委員会及び令和元年度第 1 回理事会での論議 1. 令和元年 5 月 14 日開催令和元年度第 1 回倫理委員会は,母体血を用いた出生 前遺伝学的検査について論議する36)。 久具宏司検討委員会委員長は,母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する指 針案及び指針施行細則案を提示し,関連施設での NIPT の施行範囲と関連施設で 行うカウンセリングの名称の 2 点を論点とする。 関沢明彦委員は, 「『遺伝カウンセリング』という言葉は残して,NIPT を実施す る産婦人科が行う『遺伝カウンセリング』とはどういうものか,どういう人が行う 事ができるかを定義した方が良いと考える。一方,県内に基幹施設が無い地域も あり,関連施設でも羊水検査などが行えるのであれば,一貫した治療を行うこと.
(16) 16. 非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況と問題(林 弘正). を可能とした方が良いと考える。」と発言する。 苛原 稔委員長は, 「他に意見がなければ, 「遺伝カウンセリング」という言葉は残 し,関連施設でも羊水検査などが行えるのであれば一貫した治療を行うことを可 能として倫理委員会案をまとめたい。「日本産科婦人科遺伝診療学会が行う講習 会」 を明記すること,施設審査料を集めることも検討したい。 」 と意見集約する。 石原 理委員は,講習会について「特定の学会が開催する講習会のみではなく, 他の講習会を受講した場合なども含め,あくまでも本会が最終的に認めることを 基本にしていただきたい。」と発言する。 苛原委員長は,今後の進め方について「慎重な審議が必要なので,次回理事会 で原案を提案し,定時総会時の理事会に最終成案を提出する予定としたい。 」と発 言する。 令和元年度第 1 回倫理委員会では,資料として 6-1. 修正の概要と今後の道のり (2/14 の倫理委員会からの修正事項と,今回の倫理委員会で決める必要のある事 項について),6-2. 指針案 1,6-3. 指針案 2,6-4. 指針施行細則案,6-5. 申請書 (新規・ 更新・辞退)一式,および認可証(案),申請書(新規・更新・辞退)一式,および 認可証(案),様式 1-1 ~ 6,2-1 ~ 7,3,4,5,A1,A2,6-6. 指針を会告として会 員に提示する際の前文(案),6-7. 日本産科婦人科遺伝診療学会についての 7 つの 資料が配布されている。 従前の委員会同様これらの資料はタイトルのみで内容は black box の中に秘匿 されている。 2. 令和元年 6 月 1 日開催令和元年度第 1 回理事会は,倫理委員会からの母体血を 用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)について論議する37)。苛原 稔倫理委員会委員 長は,前回平成 30 年度第 4 回理事会以降修正した指針案を提案する。久具宏司 検討委員会委員長は,連携施設でカウンセリングを行い確定検査を行ってもよい か, 「遺伝カウンセリング」という表現を使い続けるかの 2 点の検討を提案する。 NIPT 検査実施は,日本医学会の施設認定・登録部会で承認を得た機関のみに 限定されてきたのを連携施設でどの範囲まで許容するかは重要な論点である。 海野信也特任理事は, 「今までの検討のプロセスは NIPT に関する検討委員会が あり,日本小児科学会や日本人類遺伝学会の委員も含めて議論を尽くした。この 修正点については,NIPT に関する検討委員会の段階では議論していないのでは ないか。」と指摘し,決定プロセスに疑問を呈する。久具検討委員会委員長は, 「委 員会では NIPT が陽性であれば基幹施設に行くという話になっていた。その後,.
(17) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 17. 連携施設でも施行をという意見が寄せられてきた。倫理委員会では連携施設で完 結してもよいのではないかとの意見になった。」と発言する。 苛原倫理委員会委員長は, 「NIPT に関する検討委員会ではその後にパブリック コメントや,意見書などの結果により,内容を修正することもありうる旨は伝え てある。」として手続の正当性を主張する。 海野特任理事は,更に「原案と修正案で根本的な違いがあるが,大きく変更し てしまってよいのか。日本人類遺伝学会や日本小児科学会は原案について意見を 寄せているのであって,遺伝カウンセリングの語の変更や連携施設で陽性例でも 確定検査まで行うということについて,ここで変更してしまってよいのか。 」 とし, 手続的瑕疵を指摘する。 議事録は, 「本件について特に異議はなく,全会一致で原案通り承認された。 」と 記載するが海野特任理事の指摘に対して適切な説明がなされていない。 検討委員会は,遺伝カウンセリングについて「『遺伝カウンセリング』を使い続 けるか検討いただきたい。」と提案する。 藤井理事長は, 「検討委員会では当初『遺伝カウンセリング』ではなく 『説明と同 意』としたが,それには異論が強く,修正する必要があった。 」とした上で, 「検討 の中のポイントとして,臨床遺伝専門医が不足していて,NIPT のボトルネック となっている現状があった。臨床遺伝専門医でなくてはならないということにな ると,現状とかわらないことになる。『説明とカウンセリング』でも弱いと思われ るため,ぜひ意見を伺いたい。」と発言する。 小西郁生顧問は, 「 オランダからは Prenatal counseling という語が頻出するが, genetic counseling という語が出てくることは少ない。それが参考になるのではな いか。日本人類遺伝学会の『遺伝カウンセリング』の定義は高いレベルであるが, NIPT のカウンセリングは遺伝カウンセリングとはもともと違うと思われる。 」と してオランダの用語を紹介する。久具検討委員会委員長は, 「小西郁生先生から紹 介があった『Prenatal Counseling』ということばを使って, 『 出生前のカウンセリン グ』としてはどうか。」とし,藤井理事長は, 「『NIPT に関する出生前カウンセリン グ』 はどうか。」と提案し,苛原及び関沢理事が同意する。 検討委員会は,連携施設でのカウンセリング担当者を臨床遺伝専門医とは異なる 資格を有する者として日本産婦人科遺伝診療学会の認定制度の利用を提案する。 議事録には, 「本件について特に異議はなく,全会一致で原案通り承認された。 」 と記載されている。.
(18) 18. 非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況と問題(林 弘正). 2013 年 NIPT は,検査実施の前後に遺伝カウンセリング受診を条件として, 「十 分な遺伝医学の基礎的・臨床的知識のある専門職(臨床遺伝専門医等)による適正 な遺伝カウンセリングが提供できる体制下で実施すべきである。また,関係医療 者はその知識の習熟,技術の向上に努めなければならない。 」とし,厳格なカウン セリング受診を前提とする。 藤井理事長は, 「臨床遺伝専門医が不足していて,NIPT のボトルネック」と発言 し,久具検討委員会委員長は, 「定時総会後のスムーズな運用のためには,臨床遺 伝専門医とは異なる資格を与える必要があり,日本産婦人科遺伝診療学会の認定 制度を用いたい」と発言する。両氏の発言は,今回の検討委員会提案の遺伝カウ ンセリング修正が NIPT の普及に重点があり,そのネックとなっている遺伝カウ ンセリングの担当者の要件緩和として顕在化している。 検討委員会提案は,2013 年 NIPT の趣旨を換骨奪胎し安易なカウンセリングで 代替するものである。 更に,重大の問題点は,第 2 章 2013 年 NIPT 指針改正の動向,第 2 節 2013 NIPT 指針改正の胎動 4 で検討したように母体血を用いた出生前遺伝学的検査に 関する検討委員会の構成員であり,倫理委員会提案が構成員の了解を得ているか である。 吉村. 典顧問は, 「NIPT に関する検討委員会は,どのような委員構成だったの. か。 」と質問し,苛原倫理委員会委員長は, 「学会等の有識者や患者団体も含まれて いる。」と回答する。吉村. 典顧問は, 「この指針案はそういった人たちが納得して. いる指針案ではないのではないか。」と指摘し,苛原倫理委員会委員長は, 「この指 針案に賛成しますということではないと思う。」と回答する。 吉村顧問は, 「あくまで倫理委員会案ということにすべきである。本会としての 態度を示すのはよいが,NIPT に関する検討委員会の名前を入れるのはよくない だろう。」と正鵠を得た指摘をする。 藤井理事長は,以上の論議を踏まえ「6 月 22 日までに修正案を作成する方向で よいか。」と提案する。議事録は, 「本件について特に異議はなく,全会一致で原案 通り承認された。」と記載する。 第 2 節 NIPT 指針及び指針施行細則改定案の論議 1. 令和元年 6 月 22 日開催令和元年度第 2 回臨時理事会は,倫理委員会提案の 「母 体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)について」を論議する38)。.
(19) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 19. 苛原 稔倫理委員会委員長は,指針見直しのポイント (資料 1-1)を示し指針改定 案の検討を提案した。藤井知行理事長は,厚生労働省から指針改定を待つように 依頼された経緯を説明し,学会として指針全文を公表したいとの見解を述べた。 久具宏司検討委員会委員長は,定時総会で代議員に資料 1-1『見直しの趣旨と 要点』を配布して理解を得たいとし,苛原委員長は,学会の指針改定について総 会で報告し了承を得たというプロセスを示したいと発言する。臨時理事会は,全 会一致で原案を承認した。 藤井理事長は,無認可施設での NIPT 実施対応を厚生労働省へ丸投げする。 2. 日本産科婦人科学会は,会告において平成 31 年度日本産科婦人科学会臨時総 会決議事項・報告事項 2「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査 (NIPT)に関 する指針の改定について」と会員にアナウンスメントする39)。その後,令和元年度 日本産科婦人科学会定時総会次第には,議事報告事項 2「母体血を用いた新しい 出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針の改定について」の項目で最終的な指針 案は調整に時間を要するとして 6 月 22 日定時総会当日配布と記載する40)。 日本産科婦人科学会 2019 年 NIPT 指針案は,令和元年 6 月 22 日開催令和元年 度第 2 回臨時理事会の審議において指針改定が承認され,同日開催の臨時総会に 報告され了承された 41)。 倫理委員会は,母体血を用いた出生前遺伝学的検査 (NIPT)に関する指針の眼目 として「リプロダクティブライツの観点から,1)出生前診断に関する正確な情報 を示し,妊婦自身の的確な判断の一助となるようにすること,2)妊婦と真摯に 向き合い,妊婦に寄り添うこと」とする42)。 厚生労働省は,日本産科婦人科学会の 2013 年 NIPT 指針の変更に対し関連学会 の批判や国民の理解を得るに至る十二分な論議が尽くされていないとして子ども 家庭局に「母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)の調査等に関するワーキン ググループ」を設置し論議を継続する43)。 日本産科婦人科学会は,2019 年 NIPT 指針を決定したが実施は厚生労働省 WG の動向を見守るとする44)。 日本産科婦人科学会の 2013 年 NIPT 指針改正は,倫理委員会の指針改正あり きの姿勢を理事会も追認する前のめりの姿勢が顕著である。その一因は,倫理委 員会に設置された「母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する検討委員会」にあ る。倫理委員会は,同検討会の構成について日本産科婦人科学会,日本小児科学 会,日本人類遺伝学会,日本医師会構成員の他に遺伝看護学分野,遺伝カウンセ.
(20) 20. 非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況と問題(林 弘正). リング分野,法学・医療倫理学分野,日本ダウン症協会からの専門家が委員とし て加わった組織であるとする。第 2 章第 2 節 3. で検討したように,検討委員会は, 3 回開催され,藤井知行日本産科婦人科学会理事長ら日産婦幹部を中心に 8 人の 陪席者も加わり,陪席者の藤井氏が何度も議論に介入して新指針案に理解を求め たが合意に至らず,2019 年 1 月に打ち切られた。 なお,木村 正日本産科婦人科学会理事長は, 「 今回の母体血を用いた出生前遺 伝学的検査(NIPT)に関する指針についての経過報告と理事長所感」に NIPT アン ケート結果報告書を添付するが,国民のコンセンサスを必要とする論議とは全く 別のものであり,論議のすり替えである45)。. 第 4 章 2019 年 NIPT 指針及び指針施行細則 第 1 節 2019 年 NIPT 指針への批判 1. 平成 31 年 2 月 12 日開催平成 30 年度第 5 回倫理委員会に提示された母体血を 用いた出生前遺伝学的検査に関する検討委員会「NIPT に関する指針案 (委員会最 終案)」に対しては,関連学会から批判が寄せられた。 平成 31 年 3 月 5 日,日本小児科学会は,1. NIPT 実施において,多職種,多領 域の連携による継続的な支援体制が損なわれかねないこと 2. NIPT 実施の前後を 含む妊娠・出産・誕生・母子の健康と医療というプロセスに対して小児科医によ る必要なサポートの機会が失われてしまうことの 2 項目の批判を行った 46)。 NIPT Consortium は,平成 31 年 3 月 29 日意見書において 1. 基幹病院と連携病 院の連携について 2. 連携病院の要件について 3. 検査対象について 4. 遺伝カウ ンセリングは最低限必要である 5. 臨床遺伝専門医が活用できる体制に 6. 検査陽 性者が確実に確定検査を受検できるような仕組みについてご考慮いただきたい。 との 6 項目の要望と提案を行った 47)。 平成 31 年 3 月 29 日,日本人類遺伝学会は,1. 連携施設は,臨床遺伝専門医, 小児科医,認定遺伝カウンセラーなどの多領域・多職種の関与がなくとも実施可 能となり得る点 2. 臨床遺伝専門医,小児科医による説明,支援が失われる可能 性がある点 3. いわゆる非認可施設での実施に対する対策が不十分な点 4. 格差に 対する対策が不十分と思われる点の 4 点について批判する48)。 2. メディアは,平成 30 年 6 月「新型出生前診断の施設増へ 検討開始」の見出 しのもと「妊婦の血液から胎児の染色体異常の可能性を調べる新型出生前診断 (NIPT)について,日本産科婦人科学会(日産婦)は 23 日,検査できる医療機関を.
(21) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 21. 増やすため,施設要件緩和などの検討を始めると正式に発表した。新設した委員 会で来月にも議論を始め,年度内に結論を出す方針。国内導入から 5 年が過ぎ, 「命の選別につながる」との懸念もある中,検査の拡大範囲を決める初の本格的な 検討となる。」と NIPT 改正への動きを報道する49)。 更に,平成 31 年 3 月「新型出生前診断,新指針案 日産婦,緩和ありき 利潤 生み,開業医要望強く」との見出しのもと「日産婦が施設拡大に前のめりな背景に は,開業医などからの強い要望がある。NIPT は妊婦から採血して検査企業に出 すだけで済み,利潤が大きい。高齢妊娠の増加で夫婦のニーズも高く,指針を無 視して検査を受け付ける無認可の施設も増えている。日産婦は 1 年以上前から 今回の指針改定を想定し,理事の医師らで作る研究班が産婦人科医だけでカウン セリングできる研修制度の準備やマニュアル作りを進めてきた。オランダなど が公費で NIPT を推奨している実態を背景に, 「 日本は慎重すぎる」との意見も根 強い。一方,日本では 1970 年代に優生保護法に基づく政策の一環で胎児診断の 普及が図られた歴史があり,現行指針も「広く普及すると,染色体数的異常を有 する者の生命の否定へとつながりかねない」と警告している。今回の委員会でも, 複数の委員が優生学的な問題点を指摘したが,日産婦側は取り合わなかった。 」と し日本産科婦人科学会の動向を批判する50)。 3. 日本産科婦人科学会は,令和元年 8 月 31 日開催令和元年度第 2 回理事会にお いて NIPT に関する報道について自画自賛する51)。然しながら,NIPT 改定につい てのメディアの批判は,問題の本質に向けられたものであり,密室の内向きな産 婦人科医プロフェッションの独善を指摘するものであり, 「真意が十分伝わってい ない」とのレベルの問題ではない。 NIPT 陽性結果のみで人工妊娠中絶を選択する妊婦が 95% 存在する事実は,三 上幹男理事「NIPT の結果をもって産婦人科医が中絶に誘導しているという報道も ある。安易に行われているわけではなく,行われる場合も母体保護法のもとで行 われている。」及び木村 正理事長「経済条項により結論が出されても,その決断を 誰も責められない。」の見解は問題の本質の理解を欠如するものであり事実認識不 足と言わざるを得ない。万代昌紀理事は, 「不完全な情報に基づいて認可外施設で 検査を受けることで不必要な人工妊娠中絶が行われることを回避する重要性を理 解してもらいたい。」と指摘し,日本産科婦人科学会が万代理事の認識を共有する ことが必要である。.
(22) 22. 非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況と問題(林 弘正). 第 2 節 情報公開の在り方 1. NIPT は,胎児の存在を継続するか否かの判断を迫る自己決定権という内在的 問題を包含する。それ故,NIPT の前後を通して遺伝カウンセリングの受診が要 件とされる。 2013 年 NIPT 指針は,障害者の生存否定との批判をも踏まえて導入の是非を論 議した。NIPT に対する生命倫理及び法的論議は,その審議過程を透明化するこ とにより事後判断の検証が可能となる。 NIPT 新指針導入の論議は, 日本産科婦人科学会倫理委員会を中心になされ,特に, 母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する検討委員会での論議が中核となった。 日本産科婦人科学会役員会及び同倫理委員会は,議事録を公開するがその内容は 要旨程度であり,然も論議の土台となった資料はそのタイトルを記すのみである。 具体例を挙げれば,平成 31 年 2 月 12 日開催平成 30 年度第 5 回倫理委員会で は,資料 6.「NIPT 指針案,細則案」及び当日配布資料 4.「パブコメ案」が配布され 論議のベースになっているが,議事録を閲覧するかぎりでは各委員の指摘してい る内容の確認ができず,議事録公開の意義が没却されている52)。令和元年 6 月 1 日開催令和元年度第 1 回理事会は,倫理委員会提案の母体血を用いた出生前遺伝 学的検査(NIPT)について論議し,配布資料として[資料:協議 倫理 1-1,1-7] [資 料(回収) :協議 倫理 1-2,1-3,1-4,1-5,1-6]が記載されているが,最も重要な [協 議 倫理 1-2,1-3,1-4,1-5,1-6]は回収資料であり,議事録に 「原案通り承認され た。 」と記載するのみで原案そのものが確認できない 53)。いずれも論議の土台とな る NIPT 新指針及び細則が示されず,然も会員に対しては,定期総会当日に配布 資料として配布し,論議を回避していると言わざるを得ない。 2. 日本産科婦人科学会は,産科学及び婦人科学の進歩・発展を図りもって人類・ 社会の福祉に貢献することを目的とする公益社団法人である (公益社団法人日本 産科婦人科学会定款第 3 条)。公益社団法人日本産科婦人科学会定款第 40 条は, 理事会の議事について議事録作成を規定する。 理事会議事録の開示請求者の範囲は,理事は勿論会員も含むのか,議事録に添 付されている資料も開示請求の範囲なのか明確ではない。 日本産科婦人科学会は,公益財団法人であり審議の経緯の透明化は必須要件で あり資料の開示も社会的責務である。 法務省の法制審議会や厚生労働省の厚生科学審議会科学技術部会は,議事録と 資料を公開し論議へのアクセスが可能である。.
(23) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 23. 具体例としては,平成 27 年 11 月 2 日開催法制審議会刑事法 (性犯罪関係)部会 第 1 回会議は,性犯罪規定の見直しの審議プロセスを公開する54)。令和 2 年 1 月 22 日開催母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)の調査等に関するワーキン ググループは,議事録及び資料を公開する55)。 公益財団法人日本産科婦人科学会の議事録及び資料公開は,各省庁の開示レベル までは要求しないが妊婦とパートナーの自己決定権を担保するためにも不可決である。. 結 語 1.「疑うことを恐れないひとに 疲れ果てることなく 死ぬほど苦しみながら なぜか と問うひとに 生むか生まないかという 究極の選択をみずからに課すひとに この 本は捧げられる ひとりの女から すべての女へ」56) 社会が新しい生命の誕生をどのように迎えるかについては,各国の生命観や社 会保障制度の充実度を勘案して検討されるべきである。また,子どもの誕生を迎 える当事者カップルは,自らの意思に従って生命の誕生を選択すべきである。 わが国は,子どもの誕生に際し胎児条項のない法制度である。NIPT 受検後及び確 定検査としての羊水検査等受検後陽性との結果に基づく人工妊娠中絶は,母体保護 法で許容される経済条項を充足しなければ実施不可能である。選択的人工妊娠中絶 (selective abortion) は,現実の運用とは別に欺瞞的用語であり法律上許容されない。 2. ART による妊娠は,妊婦に妊娠・出産を「授かりもの」とする感受性に変容を齎 し,ART の費用対効果を勘案しての「質の良い生命」選択,NIPT 受検との潮流を 導いているとの指摘がある57)。 NIPT や PDG 等の生命の選択との懸念のある診断技術導入は,国民のコンセン サスを前提とするものであり単独の医学会の方針で決定されるものではない。 日本産科婦人科学会の 2013 年 NIPT 指針改正は,日本小児科学会,日本人類遺 伝学会及び NIPT Consortium 等の他学会や国民の見解を無視した学会執行部を含 めての「前のめり」の決定である。 医学プロフェッションの独断先行は,国民の医療行政を統括する厚生労働省等 の国家機関の介入を齎すものである。 3. 日本産科婦人科学会は,臨床研究として実施された NIPT の検査結果及びその 後の妊婦の転帰データを公表することなく臨床研究を終了するとの決定をした。 日本産科婦人科学会は,医師又はその他の自然科学者及び大学に在籍する医学 生を中核とする学会であるとしても公益社団法人として NIPT 指針及び細則改正.
(24) 24. 非侵襲的出生前遺伝学的検査の現況と問題(林 弘正). の論議をも含めた決定プロセスの透明化の視点からも詳細な議事録及び議論の ベースとなった配布資料等を公開する責務がある。 追記 厚生労働省子ども家庭局に設置された「母体血を用いた出生前遺伝学的検査 (NIPT)の調査等に関するワーキンググループ」は,2019 年 10 月 21 日,同年 11 月 27 日,2020 年 1 月 22 日,同年 7 月 22 日と 4 回の会議を重ね 『母体血を用いた 出生前遺伝学的検査(NIPT)の調査等に関する ワーキンググループ報告』 (https:// www.mhlw.go.jp/content/11908000/000662129.pdf)を公表した。厚生労働省子ども 家庭局は,引続き「NIPT 等の出生前検査に関する専門委員会」 (https://www.mhlw. go.jp/stf/shingi/other-kodomo_145015_00008.html)を設置し,2020 年 10 月 28 日か ら 2021 年 1 月 15 日まで 4 回の委員会を開催している。 1) 松永正訓『いのちは輝く―わが子の障害を受け入れるとき』,中央公論社,2019 年, 43 頁以下参照。 2) NIPT 及び PGD(PGD-A)に関する基本的文献として,大野明子『子どもを選ばな いことを選ぶ―いのちの現場から出生前診断を問う―』,メディカ出版,2003 年, 吉村泰典『生殖医療の未来学』,診断と治療社,2010 年,利光惠子『受精卵診断と 出生前診断―その導入をめぐる争いの現代史』,生活書院,2012 年,立命館大学生 存学研究所『生存学研究センター報告書 22』,2014 年,白土なほ子他「NIPT 受検者 の受検時と分娩後の心理的変化と NIPT の問題点についての検討」,女性心身医学 Vol. 22. No.2 (2017 年)pp. 163-169.,拙著『先端医療と刑事法の交錯』,成文堂, 2018 年, 室月 淳 『出生前診断の現場から―専門医が考える「命の選択」』,集英社新書,2020 年等がある。なお,臨床婦人科産科第 73 巻第 2 号(2019 年)は, 「NIPT 新時代の幕 開け―検査の実際と将来展望」として興味深い論稿を特集する。 3) 前掲註 2)室月 淳『出生前診断の現場から―専門医が考える「命の選択」』,3 頁以 下参照。 4) 日産婦誌 65 巻 4 号(2013 年)1218 頁参照。 5) 吉村. 典「生殖医療と生命倫理―医学の進歩と社会の要請―」,日本医学会 100 周. 年記念シンポジウム記録集(2002 年)51 頁以下参照。 6) 2013 年 NIPT 指針は,Ⅶ. 認定登録制度の確立の章において 「認定された各 「実施施 設」 は,実施された母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の結果,およびその妊 娠の転帰について,認定・登録を行う委員会に報告しなければならない。 」 と規定する。 7) 平成 29 年 12 月 20 日開催日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会第 24 回 「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会議事要旨参照(http://.
(25) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 25. jams.med.or.jp/rinshobukai_ghs/proceedings24.pdf)。議事要旨によれば,当日,同部 会にオブザーバーとして日本医学会から門田守人会長,飯野正光副会長,福嶋義 光「遺伝子・健康・社会」検討委員会委員長が,日本産科婦人科学会から藤井知行 理事長,苛原 稔倫理委員会委員長,青野秀雄事務局長,吉田 隆人事務局次長が参 加している。議事次第 4. 「平成 28 年度年間実施報告,平成 25 年度から平成 28 年 度までの結果まとめ」と記載されている。 8) 平成 28 年 11 月 11 日開催平成 28 年度第 3 回常務理事会議事録 11 頁参照(http:// www.jsog.or.jp/activity/minutes/pdf/GIJIROKU/H28_3joumu.pdf)。 9) 平成 29 年 3 月 4 日開催平成 28 年 度第 4 回 理 事会議 事 録 4 頁 参 照(http://www. jsog.or.jp/activity/minutes/pdf/GIJIROKU/H28_4riji.pdf)。 10) 平成 30 年 2 月 9 日開催平成 29 年度第 5 回常務理事会議事録 13 頁以下参照(http:// www.jsog.or.jp/activity/minutes/pdf/GIJIROKU/H29_5joumu.pdf)。 11) 平成 30 年 2 月 9 日開催平成 29 年 度 第 5 回常 務 理事会 議 事 録 13 頁 以 下参照 (http://www.jsog.or.jp/activity/minutes/pdf/GIJIROKU/H29_5joumu.pdf)。 小 西 郁 生 顧 問は,平成 29 年 8 月 26 日開催平成 29 年度第 2 回理事会においてデータ公表は日 本産科婦人科学会の責務であると指摘する。平成 29 年度第 2 回理事会議事録参照 (http://www.jsog.or.jp/activity/minutes/pdf/GIJIROKU/H29_2riji.pdf) 。 な お, 苛 原 稔 倫理委員会委員長は, 平成 28 年 11 月 11 日開催平成 28 年度第 3 回常務理事会でデー タをまとめる必要性を指摘する(平成 28 年度第 3 回常務理事会議事録 11 頁参照 http://www.jsog.or.jp/activity/minutes/pdf/GIJIROKU/H28_3joumu.pdf 参照)。 12) NIPT Consortium 研究事務局関沢明彦氏は,平成 29 年 12 月 9 日開催平成 29 年 度第 3 回理事会でデータをまとめた経緯を報告する(平成 29 年度第 3 回理事会議 事録 2 頁参照 http://www.jsog.or.jp/activity/minutes/pdf/GIJIROKU/H29_3riji.pdf)。 13) NIPT Consortium HP 参照 (http://www.nipt.jp/nipt_02.html)。 14) 表 1 ~ 3 のデータは,2019 年 10 月 21 日開催,厚生労働省子ども家庭局に設置 された「母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)の調査等に関するワーキンググ ループ」第 1 回資料 3 関沢構成員提出資料・関沢明彦「NIPT:non invasive prenatal testing 無侵襲的出生前遺伝学的検査」,スライド 19,21,22 より引用(https://www. mhlw.go.jp/content/11908000/000559098.pdf)。 15) 平成 28 年 12 月 10 日開催平成 28 年度第 3 回理事会議事録 3 頁参照(http://www. jsog.or.jp/activity/minutes/pdf/GIJIROKU/H28_3riji.pdf)。 16) 同小委員会の構成員は,久具宏司小委員長以下 8 名の委員であり,外部委員は 小児科医・奥山虎之国立成育医療研究センター,小児科医・川目 裕東北大学教授, 法律家・神戸大学丸山英二氏である。 17) 同検討委員会の構成員は,久具宏司小委員長の下,16 名の委員がおり,外部委 員として日本人類遺伝学会・松原洋一国立成育医療研究センター所長,小児科医・ 加部一彦埼玉医科大学総合医療センター,法律家・神戸大学丸山英二,生命倫理・ 齋藤有紀子北里大学医学部附属医学教育研究開発センター医学原論研究部門准教.
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