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大腸内視鏡が嵌頓した左鼠経ヘルニアに対し,腹腔鏡と内視鏡を併用しヘルニア根治術を施行した1例

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Academic year: 2021

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全文

(1)

はじめに 鼠径ヘルニア嵌頓は多くの外科医が経験する common diseaseであるが,下部消化管内視鏡検査 を契機にヘルニア嵌頓が発症するのは極めて稀で ある1).今回下部消化管内視鏡検査を契機に鼠径ヘ ルニア嵌頓が発症し,腹腔鏡および術中内視鏡を 併用し,安全に治療した症例を経験したので,文 献的考察を加えて報告する. 患 者:73歳,男性. 主 訴:便潜血陽性. 現病歴:以前より左鼠径部の膨隆を自覚してい たが,左鼠径ヘルニアと診断はされていなかった. 受付:2020年1月29日,採用:2020年2月20日  連絡先 中西 亮  〒362-8588 埼玉県上尾市柏座1-10-10  上尾中央総合病院外科 便潜血陽性であったため,下部消化管内視鏡検査 を施行された.当初S状結腸から下行結腸への挿 入が困難であったが,push法にて挿入し回盲部ま で到達した.しかし引き抜き時に左鼠径部に疼痛 を訴え,内視鏡抜去が困難であった.腹部診察に て左鼠径部に,内視鏡が触診される大腸が嵌頓し ており,鼠径ヘルニア嵌頓と診断した.用手的整 復が困難であったため,緊急手術の方針となった. 既往歴:糖尿病,突発性血小板減少性紫斑病, 非アルコール性脂肪性肝炎. 家族歴:特記事項なし. 来院時現症:特記事項なし.下部消化管内視鏡 検査中に左鼠径部に疼痛と膨隆を認め,左鼠径ヘ ルニアと診断した.ヘルニア内に内視鏡が触診さ れ,疼痛を伴い整復は困難であった. 入院時血液検査所見:PLT 26,000/μlと低下して いた.その他検査所見に特記すべき異常所見は認 めなかった.

症例報告

 

大腸内視鏡が嵌頓した左鼠経ヘルニアに対し, 

腹腔鏡と内視鏡を併用しヘルニア根治術を施行した1例

上尾中央総合病院外科

中西  亮 

五十嵐一晴 

尾﨑 貴洋 

筒井 敦子 

若林  剛

内容要旨 症例は73歳男性で,以前より左鼠径部の膨隆を自覚していたが,左鼠径ヘルニアとは診断されてい なかった.便潜血陽性精査の目的にて下部消化管内視鏡検査を受けたところ,内視鏡抜去時に抵抗を 感じ,同時に下腹部痛が増強した.左鼠径部が膨隆し,CTにてヘルニア囊内にS状結腸と内視鏡が嵌 頓していた.整復を試みるも疼痛が強く,腸管損傷の可能性もあったため全身麻酔下に整復およびヘ ルニア根治術を行う方針とした. 腹腔鏡手術にて開始し,腹腔内操作と体外からの圧迫により嵌頓を解除したが,S状結腸の一部に 漿膜損傷を認めた.術中内視鏡では明らかな粘膜壊死を認めないため,腸管切除はせず漿膜面の損傷 を直視下に修復した後に前方修復術によるヘルニア根治術を行った.下部消化管内視鏡検査中のヘル ニア嵌頓を経験することは極めて稀であるが,腹腔鏡および術中内視鏡を用いることで低侵襲かつ安 全に治療することができたので報告する. 索引用語:鼠径ヘルニア,嵌頓,下部内視鏡

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Fig. 1 Abdominal CT. a: The left inguinal hernia was incarcerated, the hernia sac contents including the sig-moid colon with the endoscope inserted in it. There was no apparent ascites or free air. b: The endoscope was inserted into a loop. Fig. 2 Operative findings. a: The sigmoid colon was incarcerated and we diagnosed externa inguinal hernia. b: Serosal injury was found in the sigmoid colon (white arrow). Fig. 3 Intraoperative endoscopic findings. Mucosal redness was observed, but there was  no apparent mucosal necrosis. 腹部CT所見(Fig. 1a, b ):左鼠径ヘルニア嵌 頓を認め,ヘルニア内容は内視鏡が挿入されてい るS状結腸であった.内視鏡はループ形成して挿 入されていた.腹水や明らかな血流障害を示唆す る所見は認められなかった. 手術所見:全身麻酔下に臍部に12mmポートを 挿入し気腹し腹腔内を検索すると,S状結腸が左 鼠径部に嵌頓していた(Fig. 2a ).左右下腹部に 5mmポートを追加し,体内からの牽引および体 表からの圧迫により嵌頓を解除し,内視鏡を抜去 することができた.嵌頓していたS状結腸は一部 暗赤色変化と漿膜損傷を認めたが(Fig. 2b ),抜 去した内視鏡を再度用いて術中内視鏡検査を行っ たが,明らかな壊死所見を認めなかった(Fig. 3 ).

(3)

漿膜損傷部位の修復については,損傷部位が広かっ たことと嵌頓していたため,S状結腸の浮腫が著 明であったため,直視下に修復することとした. 約左下腹部に約4cmの傍腹直筋切開にて開腹し, 漿膜損傷部位を修復した.ヘルニア修復について は,漿膜損傷していることも考慮し,鏡視下修復 術ではなくMedtronic社のパリテックスプログリッ プ™メッシュを使用したLichtenstein法によるヘル ニア根治術を選択した.また遅発性穿孔に備え, information drainとして骨盤腔にドレーンを留置 した. 術後経過:一過性の腸管麻痺を認めたが,保存 的加療にて軽快した.遅発性穿孔などの所見もな く,術後14日目に自宅退院した.術後6カ月,ヘ ルニアの再発などの所見はなく外来にて経過観察 中である. 今回われわれは,下部消化管内視鏡検査を契機 に発症した鼠径ヘルニア嵌頓という極めて稀な症 例を経験した.過去の文献2)では,このような症例 に対し鼠径部切開法による修復術がされているこ とが多いが,本症例では腹腔鏡および術中内視鏡 を併用することで,低侵襲かつ安全に治療するこ とができた. 一般的に成人の鼠径ヘルニア発症頻度は,45歳 以上で0.7%,60歳以上では3~4%と推定されて いる3).また鼠径ヘルニアの嵌頓率は4.9%4)と,大 腿ヘルニアの嵌頓率41.6%5)や閉鎖孔ヘルニアの嵌 頓率20.3%6)に比べ低いが,鼠径ヘルニア嵌頓は多 くの外科医が必ずと言っていいほど経験する疾患 であり,その対応法に熟知すべきなのは言うまで もない.自験例では,下部消化管内視鏡検査を契 機に鼠径ヘルニア嵌頓が発症したが,日山ら1)によ ると下部消化管内視鏡検査における非常に稀な合 併症として鼠径ヘルニア嵌頓が報告されている. 下部消化管内視鏡検査中に発生した鼠径ヘルニア 嵌頓の報告7)~11)では,鼠径ヘルニアの存在を確認 されていない例が多かったが,鼠径ヘルニアの存 在を確認されていても,検査中の内視鏡嵌頓の危 険性を十分認識していないと,鼠経ヘルニア嵌頓 が発症してしまうとされている.一方で伊藤ら12) は,S状結腸挿入時に内視鏡が左鼠経ヘルニアに 嵌頓して挿入困難となったため,一旦抜去し左側 陰囊を圧迫しながら再挿入することで,全大腸内 視鏡検査が可能であったと報告しているので,検 査前の鼠経ヘルニアの有無について把握すること は重要であろう.自験例において内視鏡が嵌頓し た原因としては,S状結腸とヘルニア囊との癒着 と内視鏡挿入時のループ形成という2つの要因が 考えられる.内視鏡抜去時の嵌頓は,内視鏡のルー プが形成された状態で,ループの弧がそのまま腹 腔内に戻ろうとするときに生じるとされ,自験例 も画像所見からも同様の機序で生じたと考えられ る. 鼠径ヘルニア嵌頓の修復方法は,鼠径部切開法 や鏡視下手術が挙げられるが,嵌頓臓器の壊死の 有無によって,生体修復法やmeshを用いたtension  free repairを選択する必要がある.鏡視下手術の 利点は,鼠径部ヘルニアの診断が容易である点, 嵌頓臓器の壊死の有無の判断が容易である点,腸 切除を要する場合でも最小限の開腹創にて対応で きる点である13).嵌頓解除については,開腹によ る腹腔内側からの用手的操作も考えられたが,全 身状態も安定していたことと過去に鼠径ヘルニア 嵌頓に対し,鏡視下に鉗子操作で解除した経験も あったことからまずは鏡視下手術を選択した.た だし嵌頓解除の際は,長時間を要さないことを前 提とし,時間がかかる場合は開腹下に解除する方 針としていた.鏡視下に腹腔内を観察し,外鼠径 ヘルニアであること,明らかな腸管壊死や汚染腹 水がないことを確認したうえで,体表からの徒手 整復と腹腔内からの丁寧な鉗子操作により,S状 結腸の嵌頓を3分程度で解除した.さらに術中内 視鏡を用いて粘膜面の壊死がないことを確認し腸 管切除が必要ないことを確認した.嵌頓を解除し た消化管臓器が,一見正常に見える場合でもその 後に遅発性の穿孔や狭窄をきたす場合があるので, 内視鏡下に粘膜面を観察するのは有用であると思 われる.嵌頓していたS状結腸の漿膜損傷につい ては,鏡視下修復も考慮されたが,嵌頓していた ことにより,腸管が浮腫むことで組織が脆弱化し ていたため,確実な漿膜補強を行うため小開腹下 に修復した.鼠径ヘルニアの修復方法については, 明らかな汚染腹水もなく,腸管切除も行わなかっ

(4)

たが,S状結腸に漿膜損傷が認められため,鏡視 下修復術はmesh感染の危険があると考え,鼠径部 切開法へ移行した.鼠径部切開法では,鏡視下に 外鼠径ヘルニアと診断していたため,Medtronic 社のパリテックスプログリップ™メッシュを使用 したLichtenstein法にて確実に修復し,鏡視下にも 確認した.生体修復に比べ,再発率の低いmeshを 用いたtension free repairで完遂できたのは意義が あると考える.医学中央雑誌で『大腸内視鏡』『鼠 径ヘルニア』『嵌頓』『手術』,PubMedで「Colono-scope」,「incarceration」,「inguinal hernia」の keywordで検索したところ,本邦で下部消化管内 視鏡検査時に鼠径ヘルニア嵌頓をきたし,緊急手 術 を 行 っ た 報 告 は 4 例2)14)~16)の み で あ っ た (Table 1 ).自験例以外は,全例鼠径部切開法に よる治療を行っており,腹腔鏡および術中内視鏡 を併用して治療した例は自験例のみであった.ま た嵌頓解除後に漿膜損傷をきたしていたのは自験 例を含め2例14)のみであったが,今後は,漿膜損 傷程度であれば鏡視下手術のみで完遂することも 試してみてもいいかもしれない.下部消化管内視 鏡検査による鼠径ヘルニア嵌頓は極めて稀な合併 症であり,検査前の問診および診察が重要である. 鼠径ヘルニア併存患者であれば,CTによるヘルニ ア内容,腸管の走行を確認することで,無理な内 視鏡挿入の回避や挿入時に患側鼠径部を用手圧迫 したりすることで,嵌頓の予防をすることもでき るであろう. 利益相反:なし  1) 日山 亭,田中信治,茶山一彰,他:大腸内視鏡 の手技に伴うまれな偶発症にはどのようなものが あるか.Gastroenterol Endosc  53:233-247,2011  2) 木庭 遼,自見政一郎,大畑佳裕,他:下部内視 鏡検査を契機に横行結腸が嵌頓した巨大右鼠径ヘ ルニアの1例.日臨外会誌  77:454-458,2016  3) Glick PL, Bounlanger SC : Inguinal hernia and  hydrocele.  ED.  By Rosfeld JL, O ‘Neil JA Jr,  Fonkalsrud EW, et al,  Pediatric Surgery, 6th ed.,  Mosby, Philadelphia, 2006, p1172-1192  4) 三重野寛治:嵌頓ヘルニア.臨外  43:1049-1055, 1988  5) 餐場庄一:鼠径ヘルニアの治療,大腿ヘルニア. 臨外  43:1071-1079,1988  6) 小柳泰久,浦田義孝,原 義和:内外ヘルニア嵌 頓.外科診療  37:293-301,1995  7) Yamamoto K, Kadakia SC : Incarceration of a  colonoscope in an inguinal hernia.  Gastrointest  Endosc  40 : 396-397, 1994  8) Fan CS, Soon MS : Colonoscope incarceration in  an inguinal hernia.  Endoscopy  39 : E185, 2007  9) Kume K, Yoshikawa I, Harada M : A rare compli-cation :  incarceration of a colonoscope in an ingui-nal hernia.  Endoscopy  41 : E172, 2009 10) Tan VP, Lee YT, Poon JT : Incarceration of a  colonoscope in an inguinal hernia : Case report  and literature view.  World J Gastrointest Endosc   5 :  304-307, 2013 11) Tas A, Oruc C, Olmez S, et al : Colonoscope incar-ceration in an inguinal hernia : a complication of  colonoscopy.  Endoscopy  47 : E125-126, 2015 12) 伊藤 誉,堀江久永,直井大志,他:大腸内視鏡 が左鼠径ヘルニアに嵌入し挿入困難となった3例. Gastroenterol Endosc  60:1331-1337,2018 13) 川口保彦,三上隆一,茅田洋之,他:両側大腿ヘ ルニア嵌頓に対して腹腔鏡下手術を施行した1例. 日鏡学会誌  19:761-765,2014 14) 所 智和,堀川直樹,眞鍋高宏,他:検査中に下 部消化管内視鏡が嵌頓した左鼠経ヘルニアの1例. Table 1 Reported  case  of  emergency  operation  for  Inguinal  hernia  with  endoscopic 

incarceration during colonoscope

No Year Author Age Sex Side Operative method mesh Hernial content 1 2016 Koba2) 72 M Right Anterior approach - Transverse colon

2 2019 Tokoro14) 65 M Left Anterior approach + Sigmoid colon

3 2018 Kimura15) 75 M Left Anterior approach + Sigmoid colon

4 2012 Kubo16) 77 M Left Anterior approach + Sigmoid colon

(5)

A Case of Left Inguinal Hernia with Endoscopic Incarceration During Colonoscopy

Treated by Laparoscopic Surgery and Intraoperative Colonoscopy

Ryo Nakanishi, Kazuharu Igarashi, Takahiro Ozaki, Astuko Tsutsui   and Go Wakabayashi Department of Surgery, Ageo Central General Hospital The patient was a 73-year-old male who was aware of a swelling in his left inguinal region, but had  never been diagnosed as having a left inguinal hernia. He was admitted to our hospital for colonosco-py because of a positive result of the fecal occult blood test. During the colonoscopy, we were unable  to withdraw the endoscope, and at the same time, the patient complained of severe lower abdominal  pain. Examination revealed a reddish swelling in the left inguinal region. Abdominal CT revealed in-carceration of the sigmoid colon along with the endoscope in the hernia sac. An immediate attempt at  manual reduction was unsuccessful, and we decided to perform emergency operation. Laparoscopic  surgery was performed, the diagnosis of indirect hernia was made, and the incarceration was relieved  by intra-abdominal operation and external manual reduction; however, serosal injury was noted in a  part of the sigmoid colon. As intraoperative endoscopy showed no obvious mucosal necrosis, no sig- moid resection was performed, but the serosal injury was repaired under direct vision. The hernia hi-lum was repaired using the Lichtenstein method. Incarcerated hernia as a complication of colonoscopy  has rarely been reported so far. We treated the patient by a minimally invasive and safe treatment  method: laparoscopic surgery and intraoperative endoscopy.

Key words:  inguinal hernia, incarceration, colonoscope

 

日臨外会誌  80:804-808,2019 15) Kimura Y, Taguchi S, Goi T : A Colonoscoope  Incarceration within Left Inguinal Hernia : Report  of a Case.  福井大医研誌  18 : 53-56, 2018 16) 久保孝文,佃 和憲:下部消化管内視鏡検査中に 内視鏡が嵌頓した左鼠経ヘルニアの1例.日臨外 会誌  73:497-501,2012

Fig. 1 Abdominal CT.  a: The left inguinal hernia was incarcerated, the hernia sac contents including the sig-moid colon with the endoscope inserted in it. There was no apparent ascites or free air
Table 1 Reported  case  of  emergency  operation  for  Inguinal  hernia  with  endoscopic  incarceration during colonoscope

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