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川島佑介『都市再開発から世界都市建設へ―ロンドン・ドックランズ再開発史研究』

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Academic year: 2021

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<書評>

川島佑介『都市再開発から世界都市建設へ―ロンドン・ドックランズ再

開発史研究』(吉田書店、2017年)

北 原 鉄 也 本書は、1980年代から20年間にわたるロンドン・ドックランズの再開発事業につい て、その展開を中央政府や地方自治体など公的セクターの政策選択に着目して都市間競 争論に従って説明しようとした事例研究である。 ドックランズの再開発事業は日本でも世界的にも大変に有名な事業である。停滞荒廃 した港湾・産業地域を再開発し世界都市建設の中心、華々しい都心を生み出した最大規 模の都市再生事業として、サッチャー主義、新自由主義の都市開発の象徴的な政策や政 治として、あるいは既存の都市計画を否定し規制緩和やleverage型計画手法を適用した 新しい都市計画様式として、当初から大変に注目を浴びてきた。また、そこで適用され たエンタープライズ・ゾーン(EZ)や都市開発公社(UDC)等の開発手法、計画様式 はその後の日本の都市開発や都市計画に対し大きな影響を及ぼしてきた。したがって、 この再開発事業の経過や特徴をあきらかにすること自体大変に興味深いものであり、貴 重な貢献と言える。 以下、本書の構成に沿って概説しておこう。 まず、分析を進めるための着眼点である「政策選択」について、「どのような都市を 建設するかについての志向性」とし、利益の最大化を図る合理的な選択としての「選 好」と、与えられる「政府機能の分担」という2つの要素で理解するとする。役割(意 識)を政策選択に組み込む工夫をすることによって、本書の分析が成り立っている。 第1章では、既存の研究を検討し、ドックランズ再開発事業は経済成長重視の再開発 であって、それを推進したのは中央政府が設立した再開発の担当する準政府機関である LDDC(ロンドン・ドックランズ開発公社)であり、地方自治体は生活保障型再開発を 目指していたが、敗北したという通説を説明し、さらに、開発事業の後期においては、 LDDCの立場は経済成長一辺倒ではなくなり、地方自治体は明らかに経済成長路線をと ることになったことをあきらかにしている。しかし、これまでの研究では、そうした政 策選択が変化したことを十分に説明できていないし、それを説明するための分析枠組み ないし理論も明示化されていないと批判する。 さらに、LDDCの政策選択を規定する要因として、国際化する市場から要請される役 割、サッチャー首相の個人的イデオロギーの産物、中央政府の一部局としての役割を検 討し、それぞれ十分にその具体的な政策選択、その変化を説明できていないとする。そ して、このドックランズの再開発をめぐる中央政府、LDDC、地方自治体の政策選択を 説明するために新たな分析枠組みを構築する必要があるとし、その理論的検討を第2章 において行う。 124

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第2章では、P.ソーンダースの二重国家論とP.E.ピーターソンの「都市の限 界」論を検討し、中央政府と地方政府の政策選択に関する議論をまとめている。前者は 資本蓄積、労働再生産、社会的消費に着目し、地方自治体は社会政策的機能を、中央政 府は経済的機能を担うとし、後者は、公共選択の理論によりながら、地方政府は開発政 策に、中央政府は再分配政策に取り組むことになるとしており、相互に結論が対立する 理論を展開している。日本ではこの理論的対立を解決するために理論的検討や実証がな されてきた(佐藤満、北山俊哉、曽我謙吾などの研究)が、そこで鍵として指摘されて いる中央地方間の政治行政関係のあり方がまたソーンダースの理論もピーターソンの理 論においても取り込まれていることを鮮やかに立証する(ただし、本書の採用する理論 分析や説明はピーターソンの理論を軸にして展開されており、ソーンダースの理論との 架橋が意味を持っているわけではない。また両者の政策選択の説明するための基本的原 理が相違していることを忘れてはならない)。そして、中央政府の地方自治体への介入 の強弱を変数として取り込み、両政府の政策選択ないし役割の違いないし変化を説明す る理論を提示する。これを「可変的都市間競争論」と呼ぶ。 第3章以下では、ドックランズ再開発におけるLDDC及び地方自治体の政策選択がど のようなものであったかをあきらかにしている。第3章では、前期ドックランズ再開発 において、地方自治体は強い中央地方関係のもとで中央政府に依存した、旧住民に寄り 添った生活保障的側面重視の再開発を計画したこと、他方、中央政府が設置したLDDC は、迅速な開発、迅速な民間投資を求め、既存の計画システムの否定、公有地強制帰属 権の活用、規制緩和や税免除などを伴うエンタープライズ・ゾーンの設定などによっ て、経済成長を重視し、社会保障的側面を軽視した政策選択を行ったことを説明する (この地域は公有地や準公有地が多く、また、中央政府からの資金が大量に投入されて いることを忘れてはならない)。 第4章では、前期ドックランズ再開発の政治過程を詳細に検討する。LDDCが経済成 長的側面を重視する政策選択をし、地方自治体が生活保障的側面重視の立場から抵抗し たが、権限と財源を有するLDDCが勝利した過程を描いている。 第5章と第6章では、後期ドックランズ再開発期において地方自治体の政策選択は社 会保障重視の再生から経済成長重視の立場に転換したこと、それに対し、中央政府・ LDDCは生活保障重視の施策をとるようになったことをあきらかにするとともに、 LDDCは国際的な都市間競争のなかで世界都市建設を目指す立場を明確にし、その環境 の変化が政策選択を規定していることを指摘する。新たに国際移動可能性という変数を 組み込むことで、筆者の唱える可変的都市間競争論をバージョンアップするのである。 これら2章では、制度、環境、政府間関係、政治過程などが詳細に分析されており、中 央政府・LDDCや地方自治体の政策選択あるいはその変化が説得力をもって説明されて いる。 以上、本書では、地方政府と中央政府(中央政府の出先機関)の政策選択を「中央政 府による地方自治体への介入」の強弱によって説明し、さらに「国際化の進展」という 都市再開発から世界都市建設へ 125

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環境の変化によって説明できるとする。これを可変的都市間競争論と呼ぶ。これまで述 べてきたドックランズ再開発のケースがこのモデルを実証しているとする。ここでは、 この理論についてコメントをしておきたい。 この理論は、「地域間の資源の移動可能性」を軸に仮説を提示するピーターソンの理 論の一つのバージョンであると言えるのではなかろうか。「中央政府の地方自治体への 介入」の強弱は、曽我謙悟の言葉によれば、「地域間の資源の移動可能性」とのトレー ドオフの関係にあり、さらにモデルに加えられた「国際化の進展」も国際的移動可能性 を介して作用すると解釈できる。本書の貢献は、そのドックランズ再開発の事例につい て、可変的都市間競争論の析出・検証を行ったこととともに、公的アクターの政策選択 がなされる具体的なメカニズムをあきらかにした記述的な分析にあると考える。 可変的都市間競争論の妥当性について、もちろん他のケースによる検証が必要であ る。その検証という点で、本事例においても、一部地方自治体の政策選択について仮説 どおり政策選択をしていなかったケースも認められる。たとえば、関係地方自治体に は、基礎自治体としてサザク区、タワー・ハムレット区、ニューハム区の3つあり、そ れぞれLDDCに対する態度が異なっていたといわれている。少なくとも政策選択におい ては一律ではなかったと思われる(理論的に言えば、G.アリソンのいう「組織過程」 モデルや「政府内政治」モデルによる分析がより説明的であると思われる)。さらに は、その3自治体間、あるいはシティーやその他の自治体も存在するので、その間の競 争も重要であり、また、それぞれの自治体内の政治も重要である。地方自治体の政策選 択という場合、そうした検討がなされておれば説得力が増したと思われる。本書の最後 のところで、多層的都市間競争について触れているが、実証作業が難しいものとなり過 大すぎる要求であるとも自覚しつつも、これを基本的な枠組みとして分析するほうがよ り説明力をもつことになると考える。 あるいは、1970年代における地方自治体の政策選択については説明されており、それ が1980年代になっても同種の政策選択を行っていると想定されているが、その際、中央 政府の政策選択はどうであったのか。LDDC創設以前には労働党政権由来のものとなる と思われるが、経済優先施行の政策選択をとっておらず、地元住民の民主主義過程を重 視した生活保障重視の政策選択を行っていたのではないかと考えられる。本仮説からど のように説明されるのであろうか。 あらためて考察するならば、ドックランズのような多様な特徴をもつ事例をめぐって 政策選択を説明するためには、例えば、ピーター・ホールのアイデア、制度、利益の3 次元の展開を検討するやり方も説得力のある分析を可能とするように思われる。 もちろん、本書は、興味深い都市再開発の事例を単に紹介するのではなく、政策選択 に着目する分析を行うことによってその政治行政過程の研究として成立しており、また それを可変的都市間競争論という理論的枠組みで説明し、中央地方関係論、都市間競争 論の精緻化など理論的にも大変に実りの多いものとなっている。 「ミネルヴァのフクロウは夕暮れに飛び立つ」というが、1980年代、90年代の有名な 126

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ドックランズ再開発についてようやく待望の本格的な研究書が登場した(「ローマは一 日にしてならず」としてまだ確定的な評価はできないという意見(P.ホール)もあ る)。そして、ここで試みられた新自由主義的な都市開発、leverage型都市計画、港湾 ・工場跡荒廃地の都市再生などは、今日の日本でも一般に行われているものであり、本 書はその種の都市開発のプロトタイプ事例の研究として施策分析の点でも政治行政研究 の点でも今日的な意義を備えていると言える。 127

参照

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