Author(s)
小西, 吉呂; 外間, 淳也
Citation
沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL
OF LAW & ECONOMICS(24): 27-46
Issue Date
2015-11-30
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/18784
1.はじめに わが国の刑事司法に関する議論において、いわゆる厳罰化を懸念する声が聞かれて久しい。そ の中にあって、本稿のテーマである少年法は、2000年以降、数度の改正を重ねて刑事司法へ「接 近」し続けている。昨年(2014年)の改正では、国選付添人制度及び検察官関与制度の対象事件 の範囲をさらに拡大し、少年の刑事事件に関する処分の規定の見直しを行ったことにより、刑事 司法厳罰化の最も中心的な役割を担っていると言えよう。また、少年の重大事件に関する報道が 相次いでいる中、少年法に対する疑問が社会に広がり、少年の「健全育成」という理念の後退を 招きかねない危うい風潮もある1。 その風潮に拍車をかけるようにして、神戸児童殺傷事件の加害者である元少年Aが手記を出版 した。刊行に踏み切った出版社に対する批判を通して、報道機関の在り方への疑問や被害者遺族 の感情を「逆撫で」するかのような元少年Aの記述は、社会全体に波紋を広げている。「この手 記には、そうした自らが犯した罪への贖いの香りも償いの営みも全くない」2と、長期間に渡っ て医療少年院で処遇された元少年Aが事件当時から改善更生していないと評価されたとき、それ でもわれわれは少年法の理念を強調することができるのかと考えずにはいられない。 そもそもの疑問として、少年法の刑事司法への接近を正当化する根拠は何なのであろうか。 2014年度版犯罪白書を見ると、少年による殺人や強盗等の一般刑法犯の検挙人員は減少の一途を 辿り、犯罪情勢の悪化を理由に厳罰化を容認することは困難である3。また、一部報道にもある ように、少年事件の凶悪化を根拠づけることも困難であろうと思われる。むしろ、厳罰化がもた らす弊害が指摘されていることに、注意を払うべきであろう。さらに付言するならば、凶悪事 【論文】 専 門 分 野:刑法 刑事政策 司法福祉 キーワード:発達障がい 非行 少年法 特別支援教育 自立 社会参加 A Study on Juvenile Delinquency with Developmental Disorder
―Focucing on Special Needs Education―
小 西 吉 呂* Yoshiro KONISHI 外 間 淳 也** Jyunya HOKAMA
発達障がい者の非行に関する一研究
―特別支援教育に焦点を合わせて―
件に限らず、昨今の厳しい国内外の情勢の影響であろうか、あらゆる場面で「保守化」「右傾化」 が指摘され、端的に言えば異分子を排除しようとする動きが懸念される。ヘイトスピーチの激化 はその象徴のように思われるのは、筆者らだけの感想に限らないであろう。 そうは言うものの、加害者が少年であろうが成人であろうが、被害者や遺族にとってそれはさ ほど重要ではなく、深い心身の傷からいかに立ち直れるか、それを癒すことができるかが、大き な課題である。加害者ばかりに目を奪われて被害者に思いを致すことがおざなりになるとすれば、 少年「厳罰化」の世間的風潮に拍車がかかるばかりである。やはり刑事司法においては、加害者 と被害者双方への目配りが大事であり、両者へのバランスある対応が求められる。 今回、筆者らは加害者の視点から少年事件の背景に迫るのであるが、これは加害者を生まない ことで被害者も生まれないという意味において、被害者への視線を忘れてはいないことを、まず 強調しておきたい。 ところで、少年非行もまたその時代の情勢とは無関係ではあり得ないのであり、実務から見た 非行の実態として、「潜在的な薬物非行」「非行にみえる関係性の変化」「累非行少年が抱える問題」 が指摘されている4。中でも本稿との関連で言えば、「累非行少年は背後に抱える問題も少年の資 質、家庭環境・家族関係、帰属集団など多岐にわたることが多い。幼少期から発達障がい5、被虐待、 学童期から非行等の相談で児童相談所に係属歴をもつ者も増えている感がある」6との指摘が注 目される。2013年の累非行少年に関する状況を少年の一般刑法犯検挙人員中の再非行少年の人員・ 再非行少年率の推移から見ると、人員自体は年々緩やかに減少しているものの、これを割合とし て見ると全体の34.3%(56,469人中19,345人)と緩やかに上昇していることが注目される7。犯罪 学・刑事政策的観点から挙げられる要因は種々あり得るが、累犯非行少年が有する問題の根深さ を示す数字であると読み取ることができる。 さらに、今国会において、公職選挙法等の一部を改正する法律が成立し、選挙権年齢が18歳以 上に引き下げられたことを受け、また成人年齢の引下げを見据えつつ、少年法の適用年齢につい ての議論もさらに活発になることが予想される8。いずれにしても、わが国の少年法制の一つの 過渡期的段階に差し掛かっているという印象を受けざるを得ない状況にあると言えよう。 以上のような諸問題を背景に、本稿では、近年特に注目を集めている発達障がいやそれと類似 した困難を有する非行少年について、特別支援教育の重要性に焦点を当てて考察する。なぜなら ば、このような視点から少年事件や少年法について論じたものは、従来ほとんど見られないばか りか、この発達障がい等への特別支援教育という視点から少年非行や少年事件を考察することが、 現在の少年事件や少年法の置かれている状況やその課題を抽出する上で有益であると考えるから である。また、その前提作業として、「少年」の法的位置づけを確認し、次いで、特別支援教育 の観点から少年非行や少年法制の現状を概観することが、本稿の中心的課題となる。 ここで、本稿の主要なテーマである発達障がいについて、触れておくことが有益であろう。と 言うのは、一口に「発達障がい」と言ってもその概念は必ずしも明白ではないからである。まず わが国の発達障害者支援法における定義を見ると、同法第2条の中では、「『発達障害』とは、自 閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これ に類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定める ものをいう」(図1参照9)とされている。
また、世界保健機構(WHO)の国際疾病分類ICD-10では、「心理的発達の障害」のカテゴリ の中で、会話及び言語の特異的発達、学習能力の特異的発達障害、運動機能の特異的発達障害、 混合性特異的発達障害、広汎性発達障害等が下位分類として置かれている。しかし、2013年に発 表されたアメリカ精神医学会のDSM-5においては、新しく「神経発達群」が登場し、従来厳格 な枠組みのなかった発達障がいに対して、「この新しい分類概念には、多くは小児期に症状が見 られ診断されるべき、中枢神経系の機能障害が推定されている障害が当てはまる」10と、ある程 度明確な定義が与えられている。この「神経性発達障害群」の下位分類として、知的発達障害、 コミュニケーション障害、自閉症スペクトラム(ASD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)、特 殊的学習障害、運動障害が規定されている。特に自閉症スペクトラムは、従来の広汎性発達障害 に対応するものとなっているが、この診断名の変更は、単に名称に止まらず、広汎性発達障害の 下位分類であった自閉性障害、レット障害、小児期崩壊性障害、アスペルガー障害、特定不能の 広汎性発達障害(非定型自閉症を含む)の削除を含むものであり、「診断の大綱化といってよい 改変」11 といった評価も見られる。後述の判例において登場する非行少年は、現在では主にこの 自閉症スペクトラムに該当するものと思われる。この障がいの特性は、社会的コミュニケーショ ンと社会的相互交渉(対人交流)の持続的な欠如及び行動・興味・活動の限定的で反復的なパター ン化とされていることから12 、非行への親和性が他の障がいと比較して高位であるかどうかが注 目される。 ただし、重要な前提として、発達障がいの医学的概念については上記の医学的判断基準が重要で あり、臨床の現場においてもこれに基づく診断が行われているが、特別支援教育の対象となる発達 障がいは、上記の基準を基礎としつつ、各自治体の教育委員会に設置された専門家が原則全員一致 図 1 発達障がいの特性(発達障害情報・支援センター HP より)
のもとで判断を下すという、教育的配慮に基づく方法を採っていることに留意すべきである13。 本稿での議論は、発達障がいを有する少年に対する教育的支援の重要性の観点から、厳罰化の 潮流に一石を投じることを目的とするものである。ただし、前述したように、被害者や被害者遺 族を少年司法あるいは刑事司法から取り残されたものとして捉えるのではなく、いかに加害少年 と被害者等の緊張関係を緩和させるのかにも配慮しつつ考察を深めていくことも重要な課題であ ると、筆者らは認識している14 。 事件が重大であればあるほど、また、それが人の生命を奪うものであればなおのこと、被害者 や被害者遺族、社会の規範意識は動揺させられる。その動揺を回復させようと、加害少年に対す る処罰感情が激しいものになるのは、当然の反応であると思われる。しかしながら、単に厳しい だけの処罰が犯罪の予防にとって十分な効果を発揮できないことも、過去の教訓から学ぶべきで あろう。刑事司法制度がわれわれ国民の規範意識の投影であるとすれば、「われわれがどのよう な社会を形成しようとしているのかに大きく関わっている」15 という主張を意識しつつ、少年法 が抱える問題点に対して、本稿がわずかでも寄与することができれば幸いである。 2.少年法の理念と子ども(児童生徒)の成長発達権の保障について まず最初に、本稿の主要テーマである少年司法の基本的特徴をここで概観する。 少年法の目的は、その第1条を見ると、「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して 性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措 置を講ずること」と規定されているように、刑事訴訟法の目的である、「刑事事件につき、公共 の福祉の維持と個人の基本的人権の保障を全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適 正且つ迅速に適用実現すること」(刑訴法第1条)とは、異なるものである。一方では、刑事訴 訟法を適正な刑罰法令の適用を通じて社会の利益を保護するものと位置づけ、他方で、少年法を 適切な矯正教育を実施することによって少年個人の利益を図るものであると端的に位置づけるこ とができよう。ただし、少年個人の利益とは言っても、将来における「犯罪の芽を未然に摘み取る」 という意味においては、少年法も社会的利益の促進に資する法律であると言うことができよう。 2000年以降、少年法が幾度かの改正を通じて、刑事司法へと傾斜しつつあることはすでに指摘 したところであるが、少年法制において、さらに特徴的な変化があった点も以下に触れておく。 その変化とは、2014年に成立(2015年6月1日施行)した新たな少年院法と少年鑑別所法である。 この二つの法律の成立は、2009年に広島少年院で発生した在院者に対する職員の暴行事件に端を 発するものである。この事件を受けて、法務省に置かれた「少年矯正を考える有識者会議」では、 少年院・少年鑑別所の業務に関する基本法規である少年院法が少年の保護育成という少年法の理 念を受けて1948年に制定(施行は1949年1月1日)されて既に60年余りが経過し、時代の要請に 応じているとは言いがたい状況であったと指摘されている。すなわち、従来の少年院法の課題と して、「在院者の権利義務関係、職員の権限、矯正教育の内容、分類処遇制度をはじめとする基 本的な処遇制度等についての規定が十分には法律に盛り込まれてはおらず、多くの訓令・通達等 で補っているため、法令上、少年院・少年鑑別所の全体像を把握することが困難となっており、 職員や保護者にとっても理解が容易でないものとなっている」 ということが挙げられており、「適 正且つ有効な処遇を支えるための法的基盤整備の促進」を期して、今回の改正少年院法及び少年
鑑別所法の成立に至った17。 今回の改正における大きな変更点としては、従来の初等・中等と呼ばれていた少年院の区分を 第1種少年院として統合し、また、特別少年院と医療少年院をそれぞれ第2種少年院と第3種と に改称、さらに受刑在者(少年院収容受刑者)を収容する第4種少年院として区別したことである。 また、少年院法30条は、「在院者の年齢、心身の障害の状況及び犯罪的傾向の程度、在院者が 社会生活に適応するために必要な能力その他の事情に照らして一定の共通する特性を有する在院 者の類型ごとに、その類型に該当する在院者に対して行う矯正教育の重点的な内容及び標準的な 期間」を矯正教育課程として法務大臣が定めることとされ、各少年院に対して実施すべき矯正教 育課程を指定することとなっている(法31条)。この各少年院が実施する矯正教育課程を「少年 院矯正教育課程」という。さらに、少年院の長は、入院した在院者に対して、家庭裁判所および 鑑別所の長の意見を踏まえて、当該在院者が履修すべき矯正教育課程を指定することとされてお り(法33条)、個々の在院者に対して個人別矯正教育計画を策定しなければならないとされてい る(法34条1項)。そして、ここで注目すべきは、矯正教育課程として、本稿の対象である発達 障がいやそれと類似した困難を有する在院者の存在を背景にして、支援教育課程Ⅲ(N3)が新 設されたことである。 以上、非行少年を取り巻く法制度を概観したが、ここからは、少年という生物学的・社会的な 特質がどのような意味を持つものであるのかについて、少年の成長発達権の保障という法的観点 から確認しておく。筆者らが配慮しようとするのは、一方では権利の主体あるいは保護の客体と して尊重される子どもの権利であり、他方においては違法行為の主体あるいは刑罰の客体として 事件の性質によっては成人と違わず理解されている少年という存在である。 まず、少年の学習権を認めた旭川学力テスト事件最高裁判所大法廷判決は、憲法26条が子ども の教育に対する国家と親の義務を規定しているとした上で、「この規定の背後には、国民各自が、 一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必 要な学習をする固有の権利を有すること、特に、みずから学習することのできない子どもは、そ の学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有すると の観念が存在していると考えられる。換言すれば、子どもの教育は、教育を施す者の支配的権能 ではなく、何よりもまず、子どもの学習をする権利に対応し、その充足をはかりうる立場にある 者の責務に属するものとしてとらえられているのである」18 として、成長発達権の主体としての 子どもの地位を明確に判示している。 また、少年法61条違反の報道について争った名古屋高裁判決においても、「少年は、未来にお ける可能性を秘めた存在で、人格が発達途上で、可塑性に富み、環境の影響を受けやすく教育可 能性も大きいので、罪を問われた少年については、個別処遇によって、その人間的成長を保障す る理念(少年法1条『健全育成の理念』)のもとに、将来の更生を援助促進するため、社会の偏見、 差別から保護し、さらに、環境の不充分性や、その他の条件の不充足から誤った失敗に陥った状 況から抜け出すため、自己の問題状況を克服し、新たに成長発達の道を進むことを保障し、さら に、少年が社会に復帰し及び社会において建設的な役割を担うことが促進されるように配慮した 方法により取扱われるべきものである」19 と判示している。 このように、上記二つの判例は、ともに少年を自身の成長発達及び人格の完成を志向する主体
として観念し、同時に、それを保障するための責任を国家をも含めた大人に課したものと読むこ とができる。特に名古屋高裁判決については、成長発達権の主体性を非行少年にも認めている点 で、本稿との関わりも大きく、現在においても少年法の理念を考える際には看過できない判例で あろう。 これらの判例は、子どもの権利に関する世界的な潮流と無関係ではない20 。その最も代表的な ものは、1989年に採択された「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」であるが、この 条約は社会における子どもの権利の発展を目的として採択されたものであり、わが国では1994年 に批准されている。上記名古屋高裁の判決も同条約を引用し、先の結論に至っている。 子どもの権利の保障という国際的な要請は、1924年の子ども権利宣言(ジュネーブ宣言)にま で遡ることができると言われており、そこから様々な変遷を辿っているが21、基本的には社会に おける様々の権利やそれを主体的に享受する地位が子どもに保障されなければならないという理 念において一貫していると言えよう。 しかしながら、国内外を問わず、刑事責任年齢に達した少年に対する厳罰化の社会的要請は強 く、事件の性質等に照らして、わが国の少年法の保護理念や国連の児童の権利に関する条約等の 理念が後退する場面も少なからず散見される。わが国では、2000年改正少年法において原則逆送 の規定を設けたことにより、「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって、そ の罪を犯すとき16歳以上の少年に係るもの」については刑事裁判手続に乗ることになっている。 また、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件とは、裁判員裁判の対象事件であると ころ、より厳しい市民の応報感情が反映されるものとなる。 例えば、交際相手とその姉及び友人らに対する傷害・殺人の事案に関する裁判員裁判で初めて 少年に死刑判決が言い渡された仙台地方裁判所第一刑事部2010年11月25日では、「被告人が本件 当時18歳7か月の少年であることを指摘するが、この点は、被告人の刑を決めるにあたって相応 の考慮を払うべき事情ではあるが、先に見た本件犯行態様の残虐さや被害結果の重大性に鑑みる と死刑を回避すべき決定的な事情とまではいえず、総合考慮する際の一事情にとどまり、ことさ らに重視することはできない。…以上の事情、特に、犯行態様の残虐さや被害結果の重大性から すれば、被告人の罪責は誠に重大であって、被告人なりの反省など被告人に有利な諸事情を最大 限考慮しても、極刑を回避すべき事情があるとは評価できず、罪刑均衡の見地からも、一般予防 の見地からも、被告人については、極刑をもって臨むほかない」として、死刑の適用を是認して いるのである。 少年に対する死刑適用の是非は、永山事件以来、判例の承認するところであるが、少年法の精 神はたとえ刑事手続にあっても遮断されることはなく、故に「死刑は、その『矯正可能性』をつ みとり、人として成長・発達する機会を奪い去るものである」22として、その適用には慎重な立 場も多い。本事案の少年についても矯正可能性が検討されているが、「生育環境上の問題に根ざ した人格の偏りは大きく、暴力や共感性等の問題は深刻で、その矯正には相当の時間を要すると いう点に主眼があるというべきであって、他方、矯正可能性を認めた根拠は、被告人の年齢など の抽象的なものに過ぎず、当裁判所が認定した上記事実を排斥してまで被告人の矯正可能性を認 める根拠にはなりがたい」と判示し、また、少年が保護観察期間中に本件犯行に及んでいたこと が加味されたことにより、少年の矯正可能性を否定している。
このように、判例においては、一方では少年を権利の主体あるいは保護の客体として位置付け ており、しかし他方では、違法行為の主体あるいは刑罰の客体として、事件の性質によっては成 人と同様に死刑の適用も辞さないという態度であることが確認された。この対立項については、 本稿の主題との関わりからは、少年の「成長発達権」あるいは「矯正可能性」と呼ばれるものを、 主に司法手続きに至る前の段階において、いかに社会の中で保障していくかという議論へと展開 していくこととなる。その際、発達障がいあるいは発達障がいに類似した困難を有する少年に対 する特別支援教育の有効性を強調することによって、少年の「成長発達権」及び「矯正可能性」 概念を実質的に強化し、非行少年全般に対する広い意味での教育の意義及び少年法理念の価値に ついて、再認識する契機を提供することが本稿の課題である。 また、なぜ発達障がいという点に着目したのかを改めて強調するとすれば、発達障がいに対す る正しい理解が世間や関係者に未だ十分に広まっていないにもかかわらず、発達障がいやそれを 疑われる者の非行がマスコミ等で大々的取り上げられ、発達障がいと非行を安易に結びつける風 潮が助長されているように見えるからである。さらには、発達障がいが特別支援教育の対象となっ て8年余りが経過する中で、発達障がいの早期発見・早期支援や、その二次障がいへの移行阻止 が可能となりつつあり、その結果、幼少期からの適切な対応が非行行動を含めて、本人の良好な 対人・対社会関係性を育むことにも繋がるからである。ところが、非行への予防的対応として、 特別支援教育にまで視野を広げたり考察を深めたりする論考は、筆者らの知る限り少なく、この 方面を考究することにより、発達障がいのみならず、多くの障がいについて、幼少期からの支援 により、反社会的行動へと至らない手だての示唆を得ることが可能となるであろう。 様々な社会的・環境的困難や少年自身の身体的・精神的困難等に置かれているすべての少年 に等しく教育の機会を与えることは、実質的に無理があろう。そのような、本人の責めに帰すこ とのできない要因により非行に至る少年がいるという事実を否定する者は少ないと思われる中に あってさえ、2000年以来、少年法は刑事司法制度との距離を縮小し続けている23。しかし、それ でもなお、子どもの成長発達権の保障という要請を基盤に置き、「少年に対して、その非行を契 機にして、これまでの成長発達プロセスにおいて十分に与えられてこなかった教育的機会をあら ためて手厚く提供することによって、その主体的非行克服を教授する」24という少年法の理念を 徹底することによって、われわれの希求する安心・安全な社会の形成に資するものと信ずるとこ ろである。 3.少年非行・犯罪に対する特別支援教育の関係及び意義 本稿では、発達障がい等を有する非行少年について、特別支援教育の有用性を指摘することに より、非行を未然に防ぐための示唆を得ることを目的としているが、まず、特別支援教育の意義 を概観する必要があろう。 かつて特殊(養護)教育と言われ、今日では「特別支援教育」と呼ばれるこの制度は、時の社 会情勢あるいは国際情勢の影響を受けながら多様な変遷を辿っていると言えるが、ここでは知的 障がい児と発達障がい児のそれに焦点を当てて概観したい。なぜならば、特別支援教育では、身 体障がい者が大きな比重を占めるとは言うものの、本稿は発達障がいとの関連で少年非行や少年 法を扱うものであり、身体障がいを除いて差し障りがないからである。また、通常、身体障がい
を有する子どもと精神的障がいを有する子どもは、別個の施設で養護されてきたという歴史的経 緯からも、独立した考察が必要である。ただし、両方の障がいを重複している子どもについては 考慮する。同様にして、知的障がいを加える理由は、発達障がいと知的障がいを重複して抱え る子どもがいるためであるが、加えて、この二つの障がいは共に精神的発達に関わる点で共通す る特徴を持つため、厳密に分離することが難しいからである。なお、周知のように、今日では統 合教育の理念を経て、インクルーシブ教育が障がい児童生徒の教育で重要視されており(後述)、 障がいを種類別で分けたり、これを健常児童生徒と「分離」したりすることを避け、様々な個性 から構成される集団として状況に応じて教育する方向性にあることを、ここで強調しておく25。 1878(明治11)年に「京都盲唖院(現在の京都府立盲学校)」が設立されたことで日本の盲・ 聾教育が始まったとされ、同時にこれが、日本の障がい児教育の始まりであるとする考えもあ ると言われている26。それから十数年の後、1891 (明治24)年には東京に「孤女学園」を設立し、 1897(明治30)年には「滝乃川学園(現在の社会福祉法人滝乃川学園)」と改称した。これは、 日本最初の知的障がい施設であるとされている27。狐女学園の設立から数えて49年後の1940(昭 和15)年には大阪に「大阪市立思斉学校(現在の大阪市立思斉特別支援学校)」が成立された。 これは、日本最初の公立の知的障がい者教育学校であったと考えられている28 。そこからさらに 17年後の1957 (昭和32)年には、「東京都立青鳥養護学校(現在の東京都立青鳥特別支援学校)」が、 最初の公立精神薄弱(知的障がい)養護学校として設立されており、全国的に普及していったの である29 。そして1979(昭和54)年に至り、「学校教育法中養護学校における就学義務及び養護 学校の設置義務に関する部分の施行期日を定める政令」が公布され、養護学校が義務教育化され たのであった。なお、これをもって、わが国の特殊教育のはじまりとする見方がある。 ここでは省略しているものの、盲・聾教育制度の整備が常に知的障がい児の教育制度に常に先 行していたことは興味深い。その理由については、「江戸時代から既に指導がなされ始めていた ために、盲・聾教育の方が知的障害教育よりも指導の開始が早く(京都盲唖院)、結果的に、盲 学校と聾学校の方が養護学校よりも義務制が早く開始された」と考えられているようである30。 時代は進み、2001年1月には、「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」が示され、 特別支援教育という呼称が使われ始めた。2003年には、通常学級における学習上あるいは行動上 著しい困難のある児童生徒に関する全国調査の結果が公表され、6.3%の割合の子どもが困難を もっていることがわかっている(2012年の文部科学省「通常の学級に在籍する発達障害の可能性 のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」では6.5%へと微増)。 この結果、「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」の中で公表されたこと等から、 通常学級に在籍している発達障がいを有する児童生徒の教育・支援の体制が整備されることにな り、2006年には学習障がいと注意欠陥/多動性障がいが通級による指導の対象となった31。 そして、2007(平成19)年には、これまでの特殊教育から特別支援教育への転換を図り、従来 は対象とされてこなかった発達障がいを有する児童生徒についても、「教育的ニーズ」という概 念に基づき、特別支援教育の中で指導や支援を受ける対象とされ、インクルーシブ教育を促進さ せる要因となった。さらには、「特別支援教育は、障害のある幼児児童生徒への教育にとどまらず、 障害の有無やその他の個々の違いを認識しつつ様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の形 成の基礎となるものであり、我が国の現在及び将来の社会にとって重要な意味を持っている」32 と
いうところに大きな特色があるということができよう。 このように、わが国の特別支援教育は、上記のような変遷を辿りつつ現在に至る。すなわち、ノー マライゼーションの理念を媒介にして、分離教育から統合教育へ、そして現在、インクルーシブ 理念を媒介に、統合教育からインクルーシブ教育へと至ろうとする過程である33。 さて、筆者らの少年法の意義に関する理解は既述の通りであるが、ここから先の議論は、少年 法における保護理念を実現するための一つの手だてとして特別支援教育を位置付け、特に発達障 がいやそれに類似した困難を有する少年と非行・犯罪との関わりに言及していくことを目的とす る。しかしながら、特別支援教育は、少年法の理念そのものを実現するために、少年司法の内部 において機能するものではなく、非行に至る前にその「芽を摘む」、いわば予防的役割を担う教 育的措置としての意義を有すると考える。少年法と特別支援教育を結ぶ接点は、少年法が非行少 年のみならず、「少年の健全な育成を期し」ているところに求められるし、特別支援教育がその 対象生徒にとどまらず、「様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の形成の基礎」の形成に 資するものであると、自らの意義を示したことに求めることができよう。 加えて、統合失調症その他の様々な障がいと同様に、発達障がいを有していることただそれだ けをもって犯罪に至るわけではなく、特別支援教育の対象となる児童生徒が将来の非行・犯罪の 「予備軍」であるかのような誤解や偏見を与えることは、本稿の目的から大きく外れる。筆者ら の主張は、非行少年のうち、発達障がいを有している少年に対しては、非行・犯罪の前段階で、 早期発見・支援が有効であり、この有効な手立てを講じない理由はない、というところである。 また、特別支援教育の目標は、対象となる児童生徒が将来自立して社会参加できるようにするこ とであり(文部科学省通知等)、発達障がいが脳の器質的異常を来していると規定したところで、 それだけではこの障がいの特性を理解するのには不十分である。その障がいを社会が如何に捉え ているのか、すなわち、「人々にとって他者との差異が重要になると、障害者と非障害者との間 にある際に焦点が当たるようになる。自閉症スペトラム障害も非障害者との差異の中で捉えられ るようになる。…自閉症スペクトラム障害の問題は、非自閉症スペクトラム障害者とは切り離さ れた自閉症スペクトラム障害者の問題として認識されるようになっていく34 」という指摘が、社 会的観点からの分析の重要性をよく示している。これは発達障がいの中でも、特に自閉症に関す る見解であるが、障がいと社会との関わり全般について当てはまることであろう。 とは言うものの、発達障がいが遠因となって非行や犯罪を行ってしまった少年は確かに存在す る。以下に挙げる判例で注目されるのは、発達障がいやそれに類似する困難を有する少年たちで あり、先述より触れているように、彼らに対する早期の教育や支援の重要性が明確に浮かび上がっ てくるものと思われる。 まず、情緒障がい児短期治療施設への入所歴のある15歳の少年のぐ犯保護事件について少年を 初等少年院に送致した事例(広島家決2006年2月13日)35は、「自閉症スペクトラム」と診断され た少年に対して、「本件は、少年が、保護者の制止に従わず家庭内暴力を繰り返していたぐ犯の 事案であるが、少年は、その粗暴は振舞い等から情緒障害児短期治療施設に入所したものの、同 施設でも規則違反を繰り返すなどし、自宅に戻った後も弟に対する暴力を繰り返すなど、少年の 資質的、環境的問題の根深さからすると、資質面に周到に配慮した専門家による矯正教育を行う ことが相当である」と理由を付した上で、少年を初等少年院に送致する決定を下している。また、
少年院送致と併せて保護観察所長に対する環境調整の措置を命じている。当該少年は、児童福祉 法上の措置として児童相談所長の決定する情緒障害児短期治療施設への入所歴があるものの、特 別支援教育のスタート以前の義務教育課程における通常学級に在籍していた。少年の資質として は、自閉症スペクトラムの影響を受けつつ、「相手の気持ちや周りの状況に合わせて自分の行動 を統制することが苦手で、自分の歩調を崩そうとせず、自己中心的となる傾向を有し、自己の要 求が通らないと苛立ち、衝動的に粗暴な行為に出たり、外界の認知が歪んだりする上、自分より も弱い者や年下の者に対して支配的に振る舞う傾向もあるところ、特定の物事に強くこだわり、 知能面における得手不得手の差が大きい」という困難を有していたとされている。加えて、幼少 期の父親の自殺や情緒不安定な母親からの対応等から影響を受けていることも、裁判所は少年に 対する少年院送致を決定する上で考慮している。 次に、現住建造物等放火、現住建造物等放火未遂保護事件の保護処分決定に対する抗告事件(名 古屋高決2007年1月25日)36 では、「軽度の精神発達遅滞が認められ、知的能力が最劣域にあると ころ、ストレス解消のために、人の現存する店内で火を放つという極めて危険な行為を短時間の うちに繰り返しており、対人関係の持ち方や不快感情の統制等の資質面の課題が改善されない限 り、ストレス等が講じた場合、この種の非行を繰り返すおそれがあること、保護者が少年の指導・ 監督に限界を感じていることなどを併せ考慮すると、少年の要保護性は極めて高く、相当期間に わたって施設に収容した上で、能力に応じた個別的できめ細かい教育を徹底して受けさせる必要 があることなどからすれば、少年を初等少年院送致とした原決定の処分は相当」と判示している。 当該少年は精神遅滞/知的障がいと診断され、そのため特殊学級(当時の養護学級)に在籍して いたものの、「小学校4年生から同6年生まで普通学級(通常学級:筆者らの注記)に編入(措置: 筆者ら追記)されたが、能力的な制約から周囲と円滑な意思疎通ができずに、常に孤立したり、 いじめを受けたりして深刻な不適応を来した」ことが各証拠により認められており、また、言語 能力が7歳前後であったことから、自身の考えや主張を他人に伝えることを不得手とし、常に周 囲から反感を買っているものと過敏に反応していたということから、発達障がいあるいはそれに 類似した困難を有していた可能性が疑われる。 そして、少年を医療少年院に送致(医療措置終了後初等少年院移送相当の処遇勧告付き)した 原決定に対し処分不当を理由に申し立てられた抗告を棄却した事例( 東京高決2007年11月9日)37 においても、少年は、「児童相談所に一時保護された後も、児童相談所における指導に従わず、 器物を損壊するに至っているなど、規範意識は薄弱で非行性は進行していると言い得ること、自 己の性行や問題点に対する自覚をほとんど有していないこと、少年鑑別所における検査や診断で は、注意欠陥/多動性障害などが認められるなど、少年の成育環境、性格、資質について多くの 問題点が指摘されていること、現時点においては家庭内などにおける少年の指導監護を期待す ることは出来ないことなどからすると、…医療少年院に収容して治療を受けながら、規則正しい 生活習慣を身につけさせることなどが肝要である」として原審の判断を正当としている。当該少 年は発達障がいの一種である注意欠陥/多動性障がい(ADHD)を有しており、不良交友や深 夜はいかいを繰り返していたことから児童相談所に一時保護されていたものの、前述(広島家決 2006年2月13日)の少年と同様に発達障がい児童生徒に対する特別支援教育が実施される以前の 事例でもあり、その方面の教育を受けた経験はない。
さらに、営業中の大型店舗3件に連続して放火しようとした決定時13歳の少年を初等少年院に 送致した原決定に対し、少年側から処分に著しい不当があるとして申し立てられた抗告を棄却し た事例(東京高決2008年11月17日)38 では、「原審の精神鑑定の結果によると、少年には、脳器質 的疾患はなく、アスペルガー障害(発達障がい)の疑いを否定できないものの、現在では行為障 害と診断される可能性が高く、医療よりも矯正を主とする教育が必要」であるとして、初等少年 院送致の決定を下した原審(水戸家決2008年9月26日)を是認している。 また、少年を医療少年院に送致した上、医療措置終了後は初等少年院に移送するのが相当であ る旨の処遇勧告を付し、併せて、保護観察所長に対し、環境調整の措置を命じ、強制的措置を不 許可とした事例(大阪家堺支決2012年6月19日)39 では、施設や病院を転々としながら粗暴行為 や自傷行為を繰り返してきた注意欠陥/多動性障がい(ADHD)を有する少年に対して、「こう したぐ犯行状は、感情統制が利きにくく衝動性が高い上、承認欲求が強い一方で言語表現が苦手 であることから粗暴行為や自傷行為によって自己表現を図りやすいという少年の性格、資質上の 問題に起因していると考えられるところ、…まずは少年を医療少年院に送致して投薬等の医療的 措置を行い、その後、知的能力の問題に配慮された特殊教育課程を有する初等少年院に送致して 綿密かつ系統的な矯正教育を施すことが相当」であるとして、上記の決定を下している。当該少 年の生活歴を見ると、小学1年生の頃にADHDの診断を受けて投薬治療を開始したものの、妹 や他児童に対する粗暴行為が治まることはなく、11歳の頃から自閉症児施設へ入所し、その直後 に思春期病棟を有する病院に医療保護入院をしている。その後、再び自閉症児施設へ入所し、13 歳の頃には情緒障害児短期治療施設に入所している。しかし、同施設においても粗暴行為が止む ことはなく、再び先の思春期病棟を有する病院に医療保護入院するという有様であり、さらにそ の後も精神科病院への入院や児童自立支援施設への入所を経ているものの、本件決定に至ってい るというのである。本件審判例の記載の中で、少年が特別支援教育を受けていたという事実は認 められず、ここでもやはり、発達障がいを有する少年の早期発見・早期支援の重要性に思いを致 さざるを得ない。 このように、ここ10年来の判例をみても、決して数こそ多くはないものの発達障がいやそれと 類似する困難を抱え、程度の差こそあれ、それが非行に至る過程で影響を及ぼしていると懸念さ れる事例は散見される40。こうした中にあって、2014年7月26日に発生した佐世保高1殺害事件 は、加害者が犯行当時16歳を数日に控えた同級生の女子生徒であったことから、一際社会に大き な衝撃を与えたことで記憶に新しい。 長崎家決2015年7月13日によれば、上記加害少年である女子生徒に対して、医療少年院送致決 定を下しているが、この女子も重度の発達障がい(自閉症スペクトラム)を有していた。家裁が 認定した犯行の背景や少女の資質は、概ね次の通りである。すなわち、猫の死骸を目撃したこと によって生じた生と死の境界への関心や殺人欲求は、少女が小学5年生の頃から猫を殺害したり 給食に異物を混入したりといった形で、問題行動として兆候が早くから表れていた。精神科への 通院歴があるものの殺人欲求が治まることはなく、高校に進学したにもかかわらず、周囲と自身 の違いを自覚したことによる疎外感や孤立観からであろうか、通学もなかったという。しかし、 児童相談所等への相談を父親はためらっており、中学校卒業の前後あるいは高校入学直前の2014 年3月2日には就寝中の父親の頭部を殴りつけているにもかかわらず、適切な支援や保護等とは
無縁であった。 処遇の決定にあたっては障がいが犯行に直接影響を及ぼしたことを否定し、少女に対する遺族 の処罰感情にも配慮しつつ、「更生には、少女の特性に応じた個別性の高い矯正教育と医療支援 が長期間必要」とし、「今後も同様の問題を抱えた青少年が現れる可能性は否定できず、対応に 取り組む体制の構築も重要だ」としている。 改めて本稿との関わりから上記の判例を読むとき、次の点が注目される。すなわち、発達障が いやそれに類似する困難を抱えつつ、さまざまな要因が重複した結果として非行に至ってしまう 少年の姿である。これは何も発達障がい等を抱えた少年に特有のものではないものの、とりわけ 発達障がいについては、早期発見・早期支援の重要性が近年の教育現場の流れであることを踏ま えると、早期の対応によって防止できた可能性を否定することはできないであろう。 そもそも発達障がいを早期に発見し、治療や教育・支援を施すことが、後の生活に対してどの ような利点をもたらすのかと言えば、「年齢が低いほど、環境の影響をまだ受けておらず、環境 の脆弱性形成への影響はまだ少ないと考えられる。早期に適切な療育がなされれば生育環境が新 たな脆弱性を形成し、あるいは脆弱性を強めることは少ない」41という医学的知見に、ひとつ大 きな根拠を求めることができる。すなわち、精神障がいの発現は、個々人の脆弱性とストレスの 強弱が強く関係しており、限界を超えるストレスを被った場合に精神障がいが発現するという考 え方に依拠するならば、発達障がい児の早期発見・早期支援は、環境の変化が及ぼすストレスに 対する脆弱性の形成を抑制し、あるいは脆弱性の程度を緩和するものであると言えよう。 近年、少年院等の矯正施設においても発達障がいやそれに類似する困難を抱えた少年が少なか らず入所していることが徐々に明らかとなってきている。先述の少年矯正を考える有識者会議に おいても、「発達上の問題を抱える少年や虐待被害の体験があるとされる少年が増えているとの 指摘のほか、他者とのかかわりを持つことに困難があり、不適応感を内面に蓄積させがちな少年 が目立つようになっている」42という問題意識を有していた。発達障がい等を有する少年は、防 衛反応として被害的・差別的に物事を受け取りやすいことや、こだわりが強く集団の中で適切な 行動が取れないこと等の処遇上の困難があるとされており、また、感覚情報調整機能障がいや身 体症状等の影響から音に過敏であったり偏食であったりするが、これらが上記の障がいや身体症 状等の影響であるという理解が広まっていないため、単なるわがままと思われがちで、少年院で の処遇や支援においても困難を来しているという43 。 とりわけ問題視されているのが、認識や理解力に関する困難であり、すなわち、「『相手の気持 ちが考えられない、想像できない』こと、次いで『正当化・自己防衛』…『独自の理論・考え方・ マイルールを持っている』」こと等であり、これらの要因は非行へのリスクを高める方向で作用 すると言われている44。 しかしながら、少年院等の矯正施設に入所している間は、法務教官等の指導監督の下、細かな 規則や規律の中で、比較的安定して日常を送ることができるものと思われる。問題は、矯正施設 を退院後、様々な外部からの刺激にさらされる中で、どのようにして社会で自立して生活してい くことができるのかという点にある。先述した新しい少年院法44条1項3号においては、在院者 に対する社会復帰支援として、「就学又は就業を助けること」と明記されている。従来の少年院 でも在院者の社会復帰支援が行われていなかったわけではないが、今回の改正により、従来の取
組みが法定化された。具体的には、「入学試験や高等学校卒業程度認定試験を受けさせるための 便宜を図ったり、公共職業安定所(ハローワーク)の見学や雇用を希望する事業主との面接の実 施等のために面接場所を確保したり、事業所への外出に同行したりするなど」45 であるとされる が、発達障がい等の特性に応じたより一層の社会復帰の促進を期待したい46。 筆者らは、発達障がいを有する少年に限らず障がいのある非行少年や犯罪者全般について、社 会復帰を促進していく上で就労が一つの重要なファクターになると考えているが47 、それは、社 会との関わりを就労を通して獲得するという意味においてである48。この意味において、筆者ら の居住する沖縄県における特別支援学校高等部の就職率の推移が上昇傾向にあるのは注目に値す るものと思われる49 。ただし、これは主として知的障がい者に関してであり、発達障がいを抱える 児童生徒については、特別支援教育の対象ではあっても、特別支援学校の対象ではないことや50、 彼らの多くがコミュニケーションの不得手等、社会的不適応にそもそも困難を来していることか ら、高度な社会性が要求される就労や職場において、とりわけ不利な立場に置かれてしまうのが 現状のように見受けられる。この点に着目していればなおのこと、発達障がいの早期発見・早期 支援の重要性が指摘できよう。また、発達障がい者の個性に合った就労の機会を提供する等、社 会が臨機に対応することも必要であろう。 4.おわりに 少年法が理念として掲げる少年の健全育成を考えた場合、少年が置かれた環境、とりわけ幅広 い意味での教育が果たす役割は非常に大きいと考えなければならない。本人たちを善に導くのも 悪に導くのも、ひとえに教育にあると言えよう。たとえ、素質的器質的に脳に異常が見られる発 達障がいの児童生徒であっても、早期発見・早期支援51 により通常の社会生活や他者とのコミュ ニケーションは十分に可能である。その意味において、本稿が提示した特別支援教育に目を向け るという視点は、的を射たものであり、これを一層推し進めることで防げる非行があると考える。 また、年長少年になってから、あるいは成人してから、発達障がいで対人関係上、あるいは生活 や就労で苦労することがないように、児童生徒の段階から周囲の大人が注意することが大事であ り、保護者や初等中等教育の関係者はもちろんのこと、発達障がいに対する世間一般の理解と啓 発が非常に重要であると考える。 ところで、前述したように今日の教育はインクルーシブ教育を理想としており、様々な個性の ある子どもたちが同じ空間で共に学び、誰も排除しない統合型の教育を進める意味から、障がい の有無にかかわらず多様な児童生徒を分け隔てなく教育することは重要である。その一方で、す べての教員は、特別支援教育に関する一定の知識・技能を有していることが求められ、個別に必 要な合理的配慮と基礎的環境を提供しなければならない。しかし、発達障がいの児童生徒に、こ のような合理的配慮を加味した基礎的環境下での支援教育を施すためには、後述するように保護 者の理解が必要となる。しかし、保護者の中には、自分の子どもが通常の児童生徒と違わないと いう「思い込み」もあって、特別支援の教育を嫌がる場合もある。その場合、当該児童生徒を医 師に診てもらい、発達障がいである旨の診断が出れば、納得して特別支援教育を受入れることに 繋がる。このように、教員、保護者、医師等が連携して、児童生徒を特別支援教育へと導くこと が重要となる。以下に、この連携を特別支援教育の制度的流れに沿ってやや詳しく見ておきたい。
市町村教育委員会は、子どもの障がいの種類や程度、能力、適正等をもとに一人一人のニーズ を的確に把握し、保護者の意見を聞いて、就学先を総合的に判断する必要がある。このために、 保護者に加えて、教育学、医学、心理学等、専門的知識を有する人たちからの意見を聞くことが 学校教育法施行令で義務付けられている52。発達障がいの子どもを含む児童生徒への特別支援教 育を実施するにあたっては、この点に留意しつつ、おおよそ以下のような流れを経て、児童生徒 の状況把握を丁寧に行う53 。 まず、学校現場において、毎新年度、学級の「気になる」児童生徒をリストアップし、その児 童生徒について校内委員会(校内就学支援委員会も含む)54で検討して対応する。校内委員会で 検討された児童生徒については、保護者の同意を得て、必要書類を揃えたうえで、各市町村の就 学支援委員会に諮問する。この就学支援委員会は、特別支援教育において非常に重要な役割を担 う機関となる。すなわち、同委員会は「特別支援学校就学基準と特別支援学級、通級による指 導の対象者の基準」55 を基に慎重に審議を行い、特別支援学校、特別支援学級、通級による指導、 通常の学級等の判定を行い答申する。市町村教育委員会は、学校長と保護者にこの判定結果を通 知する。ただし、判定をそのまま承諾する保護者とそうでない保護者とがあり、特別支援教育の 具体的な方法等について、保護者の同意の有無が大変重要となる。保護者が就学支援委員会の判 定を承諾して児童生徒特別支援学級に在籍させた場合は、その児童生徒のニーズに合わせて必要 な教科や自立活動等を支援学級で学ばせ、他の教科は可能な限り協力学級で共同学習をさせて社 会性を養うように配慮しているが、保護者が通常の学級を強く希望した場合には、保護者の希望 を叶えて通常学級に在籍させることになる。この場合には、児童生徒が不適応を起こしかねない。 授業についていけない児童生徒が立ち歩きをして他の児童生徒の「邪魔」をしたり、当番活動を しなかったり、宿題や学習準備物・提出物を忘れたり、落としものをしたりする例が日常化し、 担任はその対応に苦慮する。このような児童生徒が複数になれば担任の負担はさらに大きい。可 能な合理的配慮を行うために特別支援教育支援員(ヘルパー)もいるが十分とは言えない。 したがって、保護者の理解を得て、発達障がい児童生徒に対する特別支援教育は不可欠であり、 児童童生徒それぞれに応じた個別の指導計画や個別の教育支援計画を実施に移すことが重要であ る。その大まかな内容は、自立や社会参加に向けた基本的な生活習慣の形成・確立であり、また、 基礎学力の定着、社会性の育成である。しかも、早い場合には幼稚園児からでも実施可能であり、 これを小・中学校において毎年積み上げていけば、数年間は継続的な支援が可能となり、大きな 成果が見込める。この結果、通常学級に戻る児童生徒も出てくるのである。 もっとも、現時点において特別支援教育に過度の期待を寄せるのは好ましくない面もある。特 別支援教育を担当する教員が特別支援学校教諭免許を有しているとは限らず、彼らは、持ち回り で担当を任されているに過ぎないうえに、極めて多忙な中で行える支援は限定的にならざるを得 ない。児童生徒に特別支援教育を実施するための保護者の同意については、さらに困難が伴う。「何 とか保護者に分かってもらいたい」という一心から、子どもの状態を伝え、理解や納得を得よう としながらも、「理解が得られない」「どうやって伝えればよいかわからない」「親が子どもの状 態や困り感を認識していない」等の悩みをコーディネーターが抱えているというのが現状である。 加えて、前述の判例(広島家決2006年2月13日)で登場した情緒不安定な母親の場合であれば、 同意を得ることがさらに困難となる可能性も高い。
期待が持てるという点では、校内委員会での議論や各教育委員会で採用される例が多くなって いる(仮称)特別支援教育指導コーディネーター(「巡回相談員」等の別称を用いる例も多い) の役割であろう。前者の校内委員会の役割については、上述した。要するに、発達障がいが疑わ れる児童生徒について、その保護者への対応も含めて校内での意見聴取等が行われる貴重な場で ある。また、後者の(仮称)特別支援教育指導コーディネーターは、それぞれ受け持つ小中学校 等を定期的に巡回し、特別支援教育についての実際的指導を行うのである。こうした地道な取組 みの中で、発達障がい児童生徒への目配りや配慮が可能となり、彼らの健全な将来的発展が期待 できるのである。 このようにして、発達障がい児童生徒が早期に見守られて多様な学びの場や多様な支援を継続 して提供されるならば、彼らの多岐にわたる二次障がいを防ぐのはもちろんのこと、彼らが非行 へと走る懸念は相当程度に軽減され得るであろう。大人が子どもを見守るという意識や視点こそ が、非行防止に繋がることを強調して、本稿の結びとしたい。 謝辞 特別支援教育について貴重なご助言を賜った銘苅愛子氏(沖縄大学大学院学生)に深く感謝の 意を表する。 ――――――――― * 沖縄大学法経学部教授 ** 沖縄大学法経学部非常勤講師 1 葛野尋之「少年法の歴史と理念」法学セミナー 714号(2014)12-15頁。わが国の少年法制 をアメリカのそれと対比しつつ、葛野教授は、「日本の歴史的発展は、アメリカと歴史的な ずれがあるものの、①刑事未成年制度の確立のうえに、②成人処遇と区別された特別な少年 処遇の形成(1900年感化法、1908年監獄法)、③刑事裁判所とは異なる特別な調査・審判機 関の創設(1922年旧少年法、1948年少年法の家裁)、④デュー・プロセス(適正手続)の強化、 ⑤厳罰主義の台頭(2000年・2014年改正による刑事処分の拡大・厳格化等)という同じ経路 を辿ってきた」(12頁)とされている。 2 垣花鷹志「売らないでほしい」琉球新報2015年8月25日。同新聞社からは、松本麗華「生き ていく―元少年A『絶歌』の波紋<1>」琉球新報2015年7月26日、武田砂鉄「生きていく ―元少年A『絶歌』の波紋<2>」琉球新報2015年7月27日、奥野修司「生きていく―元少 年A『絶歌』の波紋<3>」琉球新報2015年8月1日。また、2015年2月に発生した川崎市 中学1年生殺害事件(「河川敷に中1遺体、殺人断定」琉球新報2015年2月22日、「その命救 えなかったのか」琉球新報2015年3月1日、垣花鷹志「不良集団に近づくな」琉球新報2015 年4月5日)は、記憶に新しい。この事件も加害少年が当時18歳であった。 3 2014年度版犯罪白書3-1-2-2図参照。 4 矢代龍雄「家庭裁判所から見た非行の実態・課題と取組」そだちの科学20号31頁。 5 本稿では「障がい」または「障害」の両者を併用している。引用や法令等についてはそれら の記載通りとし、筆者らの記述については「障がい」としている。
6 同上。 7 2014年度版犯罪白書4-1-5-1図参照。 8 山田健太「適用年齢下げ影響か―規制強化させない矜持を―」琉球新報2015年9月12日。少 年法の中で国民にとって最も不合理と考えられているものとして、法61条の推知報道の禁止 であろうが、著者は、仮にいくつかの厳格な要件の下で推知報道の例外を認めたとしても、「そ の例外が一般化する可能性がある。その一般化の流れを加速させる危険性が拭えない」とし て、慎重な態度を示している。 9 発達障害情報・支援センター HP引用(URL: http://www.rehab.go.jp/ddis/)。 10 宮川充司「アメリカ精神医学会の改訂診断基準DSM―5:神経発達障害と知的障害,自閉症 スペクトラム障害」椙山女学園大学教育学部紀要7号(2014)66頁。 11 同上70頁。 12 山崎晃資「なぜこの特集を組んだのか―自閉症スペクトラム障害の診断と支援の在り方―」 精神療法41巻4号(2015)特集自閉症スペクトラム障害の臨床を問う8頁。 13 本文「おわりに」で詳述している。さらに、文部科学省「小・中学校におけるLD(学習 障害),ADHD(注意欠陥/多動性障害),高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整 備のためのガイドライン(試案)」 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/ material/1298160.htm参 照。 ま た、 教 育 現 場 に 発 達 障 が い の 診 断 が 過 度 に 浸 透 す る こ とに対する警鐘として、知名孝「発達障害の『診断』が、学校を『医療』の場にしてい る!?~ 教 育 の 医 療 化( 1)」 沖 縄 タ イ ム ス プ ラ ス2014年12月16日(URL:http://www. okinawatimes.co.jp/cross/index.php?id=188)。記事の中では、発達障がいという診断名だ けではその児童生徒の多様性まで判断することは不可能であり、関係者の試行錯誤が不可欠 であることが指摘されている。ただし、発達障がいという診断を不要とするわけではない。 知名孝「発達障害の『診断』による思わぬ副作用とは?~教育の医療化(2)」沖縄タイム スプラス2015年1月7日( http://www.okinawatimes.co.jp/cross/index.php?id=196)で は、「『診断』が『支援の切符』の機能を果たしているとも考えられます。単に特別支援教育 や福祉サービスなどへの『切符』という意味もありますが、周りの人たちの対応の工夫・配 慮という意味も含めて」、発達障がいという診断名が重要な一側面であることを指摘してい る。 14 この点につき、子どもの成長発達の権利から修復的司法を捉え、アメリカの少年司法に対す る批判的検討から、これを強化しようと試みたRadoslava Karavasheva, La justice juvénile réparatrice à la lumière des droits de l’enfant, Presses Académiques Francophones, 2014. が非 常に示唆に富んだものであった。すなわち、一方で「子どもは、彼らの脆弱性という視点か ら特別の保護を受ける権利を有するのである。成長や教育というこれらの要請は、一般予防 や特別予防の思考とは区別された少年非行に対する異なる反応を解明している。実際、《小 さな人間》のための《小さな司法》を用意するだけでは不十分」p.22.であると著者はいう。 そして他方で、「修復的司法の本質的原理は、関心の中核を犯罪者からもたらされた損害へ 置き換えることを促進する。そして、それは拒絶されるべきはそれを犯した人間ではなく、 誤った行為であるということを強調しているのである。被害者も同様に、被った損害や侵害
された規範を解明する場に自らの地位を得るのである」p.28.としている。 15 内田博文「刑法学は、なぜ、刑務所を語らなくなったか」犯罪社会学研究37号(2012)31頁。 16 少年矯正を考える有識者会議「少年矯正を考える有識者会議提言 ―社会に開かれ,信頼の 輪に支えられる少年院・少年鑑別所へ―」法務省2010年12月7日34頁。 (URL: http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi06400003.html) 17 少年院法及び鑑別所法の目的規定を以下において掲載する。 (少年院法) 第1条 この法律は、少年院の適正な管理運営を図るとともに、在院者の人権を尊重しつつ、そ の特性に応じた適切な矯正教育その他の在院者の健全な育成に資する処遇を行うことによ り、在院者の改善更生及び円滑な社会復帰を図ることを目的とする。 (少年鑑別所法) 第1条 この法律は、少年鑑別所の適正な管理運営を図るとともに、鑑別対象者の鑑別を適切に 行うほか、在所者の人権を尊重しつつ、その者の状況に応じた適切な観護処遇を行い、並 びに非行及び犯罪の防止に関する援助を適切に行うことを目的とする。 18 最大判1976年5月21日刑集30巻5号615、633頁。 19 名古屋高判2000年6月29日判例時報1736号35頁。 20 Supra note 14p.30.では、「国際的・地域的なレベルで、法律に抵触した少年の権利に関す る法案が採用されたこの30年間は、実りの多いものである」と評されているように、数多く の規則が採用されている。 21 i,d. pp. 31-34.によれば、法に抵触した子供や虐待の被害を受けた子供は、1970年から1979 年の子どもの国際年間の間に、特別の関心が払われたといわれている。1980年から1990年は、 超国家的範囲で子どもの権利に関する数多くの規則が採用されるに至っている。 a) 少年非行の予防 1990年、国連は少年非行の予防に対する国連の指導原理(ガイドライン)に関する決議を 採択した。いわゆるリヤド・ガイドラインである。子どもの権利委員会は、少年司法制度に おける子どもの権利に関して、一般意見10(2007)においてリヤド・ガイドラインに無条件 で賛同することを言明したのであった。 リヤド・ガイドラインは、福祉や社会的統合が子どもを非行から遠ざけるために必然的に構 成されるものとして、積極的な方法で少年非行の予防に着手している。P.32 b) 少年司法の運用 少年司法の運用について、国連は、1985年に少年司法運用に関する国連最低基準規則(北 京・ルールズ)を採択した。この30条からなる規則は、手続保障を遵守しつつ、少年司法の 自立モデルの創設を強調している。 c) 自由をはく奪された児童の保護 自由の剥奪が、少年の成長発達にとって否定的な結果をもたらすことは、国際的に承認さ れているところである。少年の自由をはく奪する際に遵守すべき条件を規則化する必要性は、
自由をはく奪された少年を保護するための国連規則(ハバナ・ルールズ)に関する決議の採 択において示されている。 また、上記国連規則の相互関係及びわが国との関係については、武内謙治「少年の拘禁施 設と国際人権法」法律時報83巻3号(2011)22-27頁。 22 前田忠弘「少年に対する死刑適用の是非」別冊ジュリスト少年法判例百選147号(1997) 224-225頁。 23 わが国の旧少年法が継受したフランスも、近年では刑事司法化への加速が著しい。この点に つき、Justice, délinquance des enfants et des adolescents, Etat des connaissances Actes de la journée du 2 févruer 2015を参照(www. justice. gouv. fr. direction de Sylvie Perdriolle)。たとえば、 「少年司法の非特殊化(La déspécialisation de la justice des mineurs)」として、刑事司法制度及
び少年裁判への市民参加に関する2011年8月10日法によって新設された、少年軽罪裁判所が、 その代表的なものとして挙げられている。また、犯罪の予防に関する2007年3月5日法は、 13歳の少年に関する刑事手続きを拡大したと言われている。要するに、成人に対する刑事手 続きと少年に対する刑事手続きとの差異が縮小しているということができよう(p.58)。 24 葛野尋之『少年司法の再構築』日本評論社(2003)488頁。 25 柘植雅義「理念と基本的な考え」柘植雅義ほか編『はじめての特別支援教育改訂版―教職を 目指す大学生のために―』(2014)第1章4頁。 26 拓殖雅義「教育の歴史と現行制度」拓殖雅義ほか編『初めての特別支援教育改訂版―教職を 目指す大学生のために―』(2014)第2章21頁、髙橋純一・松﨑博文「障害児教育における インクルーシブ教育への変遷と課題」人間発達文化学類論19号(2014)13頁。 27 高橋ほか同上。 28 同上14頁。 29 同上14-15頁。 30 同上16頁。 31 柘植前掲注(26)22-23頁。 32 文部科学省「特別支援教育の推進について(通知)」2007(平成19)年4月1日。 33 高橋・松﨑前掲注(25)19頁。インクルーシブ教育に関する動きについては、「平成22年(2010 年)には,文部科学省において『特別支援教育の在り方に関する特別委員会』が開かれ、イ ンクルーシブ教育理念の方向性が示された。さらに、平成24年(2012年)には,文部科学省 (中央教育審議会)において『共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築の ための特別支援教育の推進』が提唱された。そのなかでは、“共生社会の形成に向けたイン クルーシブ教育システムの構築”、“就学相談・就学先決定の在り方の検討”、“障害のある子 どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及びその基礎となる環境整備”、“多様な学 びの場の整備と学校間連携等の推進”、“特別支援教育を充実させるための教職員の専門性向 上” 」等が指摘されている。また、インクルーシブ教育に関する動向として、筆者らの在住 する沖縄県においては、県立島尻特別支援学校小学部の分教室が南城市の馬天小学校内に開 校し(「特支小文教室が開校」琉球新報2015年4月9日)、県立沖縄高等特別支援学校の3つ の分教室をすべて併設型へ移行させるための検討に入っている(「全分教室、併設型へ」琉