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女子を対象としたプログラミング・ワークショップの実践と定性調査

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Academic year: 2021

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【研究論文】

女子を対象としたプログラミング・ワークショップの実践と定性調査

Practical and Survey Report of a Programming Workshop for Girls

甲村美帆

†1

KOMURA Miho

†1 要旨: 小学生向けプログラミング・ワークショップにおいて,女子児童を対象として実施された調査を報告する. 本研究では,ワークショップに参加した女子児童の活動の観察と半構造化インタビューによって,定性的なデー タを得た.その結果,本事例の女子児童では,プログラミング学習に対する興味関心はインタラクティブな反応制 御よりも,イラストの描画や動画制作に向けられていたことが示唆された.また,児童がプログラミングを学習する 過程において生じたつまずきとして,時間制御や細かな順次処理の困難さを指摘した. キーワード: プログラミング教育,小学生,ジェンダー・ギャップ,Scratch

Keywords: Programming Education,Elementary School Students, Gender Gap,Scratch

1 はじめに

2020 年度の新学習指導要領から小学校でのプロ グラミング教育が必修化され,続いて中学校,高等学 校でも順次導入が予定されている.一連のプログラミ ング教育必修化のねらいを,文部科学省は“情報活 用能力”を構成する資質・能力の育成,としている 1) 情報活用能力とは,“知識および技能”“学びに向かう 力,人間性等”“思考力,判断力,表現力等”の資質・ 能力で構成され,そのうち“思考力,判断力,表現力 等”がプログラミング的思考に相当すると考えられてい る.文部科学省による小学校プログラミング教育の手 引では,プログラミング的思考とは“自分が意図する 一連の活動を実現するために,どのような動きの組合 わせが必要であり,(中略)記号の組合わせをどのよう に改善していけば,より意図した活動に近づくのか,と いったことを論理的に考えていく力”(p.9)だと説明さ れている1) 一方,総務省も地域IoT 実装推進事業においてプ ログラミング教育の重要性を説いている 2).同省は, 文部科学省と同様にプログラミングの高度な技術者を 直接育成しようとするのではない,としつつも,プログ ラミング学習に対する動機づけと継続を通して“将来 の高度 ICT 人材としての素地の構築・資質の発掘” (p.1)を図ることを意図している 3).企業が求めるプロ グラミング人材のニーズに言及していることからも,青 少年に対するプログラミングあるいはコード記述その ものへの興味喚起と人材育成を,明確に視野に入れ ている様子がうかがえる. 以上のような政府の取り組みが一助となり,IoT や AI などへの社会的な関心の高まりもあって,営利・非 営利を問わず,教育関係団体が提供するプログラミン グ教室や講座が 2013 年ごろから増加していることが, 総務省の報告(p.19)に著されている 3).また教室や 講座への参加児童・生徒は,小学校4年生~6年生 が最も多い.その一方で,同報告書では男女差につ いても触れられている.同報告書では教育関連団体 25 団体にヒアリングを実施しているが,受講者は 25 団体中21 団体で男子の比率が高く,うち 11 団体は 男子比率が 8 割を超えるという回答であった.任意の プログラミング教室への参加は男子が優勢であるとい うこの状況は,他の研究報告でも見られ,2017 年の 岡崎らの実践と調査においても,プログラミング体験イ ベントに参加した小学生は男子13 ないし14 名に対し, 情報教育 Vol. 2 2020 Research Report of Informatics Education Vol. 2 2020 pp.17-23

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女子は4 ないし 5 名であり,2 倍から 3 倍程度の偏り がある4) このような,プログラミングあるいはコンピュータ・サ イエンスに関わる男女の偏りは,国や文化を超えて共 通した現象でもある.たとえば,OECD が 2012 年に 15 歳(15 歳 3 か月から 16 歳 2 か月)の男女を対象 に行った調査データでは,幼少期からのジェンダー・ ギャップが報告されている 5)6 歳までにコンピュータ を使ったことがある男子は OECD の平均でおおよそ 35%であり,女子はそれよりも 8.3%低く,30%を下回 る.デンマークやイスラエルの男子は 60%を超えるが, 女子は 50%前後にとどまる.程度の差こそあれ,この ようなジェンダー・ギャップは42か国中39か国で観察 されている.ただし日本は調査当時,幼少期からのコ ンピュータ使用率が 15%を下回り,OECD の中でも 最下位である.そのためか,この点について日本では 顕著な男女差は見られない. この男女差が生起する理由として,そもそもの興味 関心が男女では異なる傾向を有することも,その一因 だと考えられる.OECD は,コンピュータの使用目的 として,テレビゲームやコンテンツのダウンロード・アッ プロードが男子に多く,ソーシャル・ネットワーキング への参加が女子に多いことを報告している 5).男子は 女子よりもテレビゲームへの嗜好が高い,という傾向 は各国に共通している可能性がある. 以上のような,プログラミング教室や講座に参加す る男女の数の差異,および興味関心の多様性に鑑み ると,これからのプログラミング教育を考えるためには, このようなジェンダー・ギャップを解消するための具体 的な施策につながる知見を得た方が良いのではない かと考えた.実際に現場の教育関係団体からも,課題 として“女子が参加しにくいイメージを持たれている” (p.70)点が挙げられており 3),そもそも女子がプログ ラミング教室に参加すること自体がハードルあるいは ボトルネックになっている可能性が指摘されている. 本研究ではこのような状況を受けて,女子児童の興 味を喚起し,プログラミングに挑戦する動機を与える カリキュラムを構築するための定性的な知見と課題を 提供することを目的とした.具体的には,プログラミン グ・ワークショップを開催すると同時に,参加した児童 に対して定性調査を実施し,女子児童の興味関心お よび学習の状況を検討することとした.

2 ワークショップ

対象となるワークショップは,2019 年 8 月 20 日~22 日に,群馬県立女子大学のコンピュータルームにお いて実施された.ワークショップは株式会社 NSP 群 馬が主催し,群馬県立女子大学の後援により開催さ れた.

2.1 児童の募集方法

主催事業者の呼びかけによって参加児童が募集さ れた.募集は主に,主催事業者が運営する水泳教室 とSNS を通じて呼びかけられた.募集段階でワークシ ョップの対象児童は小学校4 年生から 6 年生であるこ とを明記したが,性別は限定しなかった. 応募書式には,ワークショップでは写真撮影を行う こと,およびワークショップが研究の一環であることに 関する説明を記述し,あらかじめ保護者に周知した. 保護者はワークショップの参加とは無関係に,写真撮 影あるいは研究参加への同意・不同意を自由に決定 することができた.

2.2 参加児童

ワークショップに参加した児童は 3 名であった.女 子大学での実施であったためか全員が女子であり,4 年生が1 名,5 年生が 2 名であった.5 年生の 1 名は プログラミング体験イベントに参加した経験が1 度あっ た.2 名はプログラミングに触れること自体が初めてで あった.

2.3 ワークショップの実践内容

使用するプログラミング環境として,本ワークショッ プでは Scratch(スクラッチ)を用いた.Scratch はマ サチューセッツ工科大学で開発されたビジュアル型プ ログラミング言語であり,マウス操作でコードを組み合 わせるため,キーボード操作をほとんど必要としない. 基本的にはテキストによる文法を意識する必要がなく, ブロックを積み重ねる感覚でスクリプトを記述すること ができる.本ワークショップではインターネットに接続し た環境で,参加児童一人につき1 台の Window10 端 末を使用し,Web ブラウザ上で Scratch を操作した. なお,ワークショップに保護者が帯同できた場合に は,研究の内容と実施方法について書面と口頭で詳 しい説明が行われた.説明後に保護者からの同意が 得られた児童2 名のデータのみを研究対象とした.児 童 1 名については保護者が帯同しなかったため,研

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究対象とはなっていない. 3 日間のワークショップは,次の通り構成された.す べての日程において実施時間は90 分であった. 2.3.1 1 日目:基本操作 ~ ミッション入門編 アイスブレイクとして,まずコンピュータを使わずに, カードを用いてコードを組み合わせる体験学習を行っ た.カードはワークショップの講師である筆者があらか じめ準備した,ビジュアル型プログラミング言語のブロ ックを模したものであった.コードやスクリプトの概念を 理解できたあとで,Scratch の基本操作を学習した. 操作の対象となるステージ,コードエリア,背景,スプ ライトと呼ばれるキャラクター画像の説明を行い,実際 にステージ上にスプライトを配置した.ブロックの基本 操作を学習し,実行ボタン,ブロックの削除,スプライ トの初期位置への戻し方等を実践した. 続いて,「ミッション」と題した演習形式の学習を行 った.初日は基本操作を習得するための入門編であ った.あらかじめ講師が作成しておいたプロジェクトを ステージに読み込み,講師によって指示された動作 をスプライトが遂行できるよう,ブロックを組み立てた. 2.3.2 2 日目:ミッション初級編 「ミッション初級編」と題された2 日目には,6 つのプ ロジェクトと,それに対応する,ミッションと呼ばれる課 題があらかじめ講師によって用意された.各ミッション は基本的には1 つの背景と 1 つのスプライトで構成さ れ,短いスクリプトで完遂できるようになっていた.ただ し,6 つのミッションで求められるスクリプトの内容が異 なっており,「拡大,回転などの動きの制御」「コスチュ ームと呼ばれるスプライトの外観の入れ替え」「マウス クリックに対する反応制御」「背景の制御」「音・音楽の 制御」「複数のスプライトの制御」を目的としていた.素 材には,オウムなどの動物,星などのシンボル,人物 などを設定した. 参加児童はプロジェクトの画像とミッションが書かれ た 6 枚のシートを見て,各自の好みに応じてどのミッ ションから取り組んでも良い,と説明された.ミッション に取り組んでいる間は,講師はスクリプトの説明はしな い.参加児童の後ろから見守り,質問があれば対応し, 困っている様子があれば適宜声をかけるようにした. 2.3.3 3 日目:ミッション中級編 最終日は,「自分CM を作る」と題し,2 日目までに 学習した短いスクリプトを組み合わせて,インタラクテ ィブな映像を作成することが課題であった.講師が作 成した CM 映像例を見せたあと,参加児童には自由 に発想してもらい,創作活動を行った.2 日目と同様 に,講師の主な役割は児童へのアドバイスおよび質 問への対応であった.

3 定性的データ収集

以上の 3 日間のワークショップを通して,参加児童 のプログラミング学習を支援するとともに,データの収 集を行った.参加児童が少数であったため,児童の 作業過程の観察,およびワークショップ前後に半構造 化インタビューを実施し,データを収集した. 表 1 インタビュー項目

3.1 観察

2 日目および 3 日目のミッション初級編および中級 編の取り組みについて参加児童の学習過程を観察し, 配置したスプライトや背景,ブロックの扱い方,音源へ の興味,つまずきについて記録を行った. 1 日目(ワークショップ前) プログラミング経験の有無 参加のきかっけ プログラミングへのイメージ 電子媒体でのゲームの利用頻度 好きな遊びやスポーツ 好きな教科 1 日目(ワークショップ後) プログラミングへのイメージの変化 楽しかった点 困難さを感じた点 2 日目(ワークショップ後) ミッションへの感想 面白さを感じた課題,そうではない課題 演習形式の学習「ミッション」への評価 3 日目(ワークショップ後) 作品への満足度 当初作りたかった作品イメージ 困難さを感じた点 Scratch をまた使ってみたいか プログラミングを使って将来行ってみたいこと

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3.2 半構造化インタビュー

参加児童に半構造化インタビューを行った.インタ ビューの質問項目は表1 の通りであった. インタビュアーは講師であった.設定された質問項 目について聞き取り,児童の回答を受けてさらに発展 させた質問を行った.インタビュー時間はそれぞれ 5 分程度であった.インタビューはIC レコーダを用いて 録音され,のちに文字化を行った.

4 結果

ミッションと呼ばれる演習形式の学習過程を観察し, インタビューを行った結果,次のような傾向が得られ た.

4.1 観察

基本操作の学習後,2 日目に児童はミッション初級 編に取り組もうとするが,表示されるスプライトや背景 を選択すること自体に興味が移り,さまざまなスプライ トをステージに並べて楽しむ,という活動が見られた. 児童によっては自分からブロックを組み立ててコード を記述する様子がなかったため,講師が声掛けをす ると,背景を変化させるコードに興味を持った.ミッショ ンで用意した背景ではなく,自身が選んだ背景とスプ ライトを使用し,講師のアドバイスを得ながらコードを 完成させた. 3 日目のミッション中級編では,作品制作に取り掛 かる前にラフデザインを作る,という講師からのアドバ イスがあったものの,その作業を経ずに,全員がまず スプライトあるいは背景を選定することから取り掛かっ た.Scratch に用意されたスプライトから選ぶ児童,自 分で描画しようとする児童に分かれた. ミッション中級編で設定されたテーマ「自分 CM」へ のこだわりは見られなかった.当初はテーマ通り「自分 に似たスプライト」を探していた児童も,時間の経過と ともに自分CM というテーマとは無関係なスプライトを 探すようになり,うさぎに行き着いた.テーマから思考 を巡らせるのではなく,好みのスプライトや背景を探す ことを通して作品をイメージしたり,制作への意欲がわ くようであった.図 1 は,ミッション中級編で児童が制 作した作品のステージとコードエリアの一部である. (a)と(b)は別の児童のものであるが,共にうさぎのスプ ライトを使用している.(a)は当初,背景をすべて自分 で描画しようとしたが,途中で人参だけの描画に切り 替えた.(b)は,吹き出しにテキストだけでなく,絵文字 が使われている. 続いて,Scratch の扱い方やブロックの組み立てに おいて,とりわけ困難さが見られた次の 4 点について 述べていく. 第 1 に,元に戻す処理に戸惑う場面が見られた.ス プライトの大きさを変えたあと,もとの大きさに戻せな い,コスチュームを変更後,元に戻せないなど,ブロッ クを使って試行錯誤するも,独力での解決は困難で あった. 第 2 に,時間制御に困難さを覚えるようであった. 「〇秒待つ」ブロックを使うことは理解していたが,い つ・どこに挿入すると想定した動きになるのか予測す ることが難しいようであった.自身の作品においてスプ ライトの動作の速度を調整したいときには,ブロックの 挿入と削除を繰り返しながら何度も試行していたが, 最終的に意図した速度にならないことも多々あった. 一度,想定した動きや速度をうまく実現できることがあ っても,そのアルゴリズムを汎化させ,他の動きにも適 用するには至らなかった.また,音源を挿入する際, 音の持続時間やタイミングを調節する作業も困難な様 子であった. (a) (b) 図1 ミッション中級編で制作された作品の一部 (a)(b)はそれぞれ別の児童のもの

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第3 に,細かな順次処理を制御できなかった.たと えばうさぎが跳ねる動作を作るには,「回す」「動かす」 「逆方向に回す」「待つ」といった動きを制御するブロ ックを順序良く組み合わせる必要があるが,これらの 組み合わせの試行錯誤から抜け出すことができなか った.ブロックを試行的に置いてみた結果,意図した 動きと異なっていても,なぜ想定した動きと違うのかを 考えることは難しいようであった.その結果,意図した 動きと異なっていても,自分なりに動きの妥協点を見 つけて完成とする,という作業過程が見られた.その 一方で,簡単な繰り返し制御に関しては,困難を感じ た様子は見られなかった. 最後に,不要なブロックを片づける作業をないがし ろにしがちであった.コードエリアにブロックを並べる ものの,意図した動作が得られなければ,ブロックを 戻すことなく新たなブロックを追加するため,コードエ リアに置かれたままのブロックを適当に組み合わせる, という操作をしがちであった.

4.2 半構造化インタビュー

ワークショップ前後のインタビューからは,主に参加 児童の動機と興味関心を聞き取ることができた.なお 本節のかぎ括弧内は,児童の発言のまま記載する. ワークショップ参加のきっかけは保護者の声かけで あった.プログラミングについての事前知識がなかっ た児童も,「楽しそう」と興味を持って参加していること が分かった. 演習形式の学習であるミッションを実施したあとで は,スプライトの「形を変える」「背景やスプライトが動 いた」点に興味を持っていた.自分CM の制作に関し て,作りたい作品のアイデアがあったかどうかを質問し たところ,児童が回答に苦慮している様子がうかがえ た.質問を重ねてみると,制作したい作品のイメージ やアイデアがない状態から,さまざまなスプライトをス テージに並べ,操作しているうちに「跳ねさせたい」 「ポーズをとる」といった動きに思い至ったとのことであ った.制作するにあたって児童が好ましいと思う作品 としては「落ち着けた」「いろんな音の入っ」たものが良 い,という印象を持っていた. プログラミングで困難さを感じた点について,1 名の 児童は「(〇秒)待つ」ブロックの制御だと回答した.ま た,音の繰り返し回数の調節も困難だった,と答えた. この点は4.1 の観察結果を追認する回答である.他の 児童は,はっきりと,困難さを感じた点は「ない」と回答 した.ただし(講師に分からない箇所を)「教えてもらえ ば,ない」と付け加えた. ワークショップが終わっても Scratch を使ってみた いと思うか,という点について尋ねたところ,両児童と もにはっきりと「はい」と回答した.ただし1 名の児童は Scratch で今後実施したい活動について,具体的な イメージは持っていなかった.あいまいに「ゲームの方 が作りたい」と回答したが,そのゲームは点数が入っ たり,パズルのようなものではなく,キャラクターが出て くるゲームであり,「友達をそこで作ったり」できるもの であった.他の児童は明確に「動画作ってみたい」と 回答した.なお,後日この児童の保護者から聞き取っ たところ,ワークショップ後に自宅でもScratch の環境 を保護者が整え,自分で学習している,とのことであっ た. 本ワークショップでミッションと呼んだ演習形式の学 習について尋ねた結果は,次の通りであった.ミッショ ン初級編では,簡単な動きの制御に関しては,はっき りと,面白くなかったという回答が得られた.しかしなが ら,演習形式の学習そのものに対する評価は高かっ た.講師に教えてもらうよりも「自分でやった方がい い」「自分の力でできるから」との回答が得られた.ま た,「試して,分からないところだけ先生に聞いてや る」「分かんないところがあればちょっとやって,教えて もらったり」する形式が良い,との回答であった.

5.考察

以上の観察とインタビューの結果から,プログラミン グ教育に関連する女子児童の興味関心,および演習 形成期の学習と Scratch でのブロックの組み立てや 抽象概念に関するつまずきについて議論したい.

5.1 女子児童の興味関心と参加促進

総務省によると,教育関係団体の実感ではあるが, プログラミング教室や講座に参加した男子はルール や動きにこだわり,女子は“キャラクターやデザインを 作りこむ”“絵を描きたがる”(p.45)という傾向が報告さ れている 3).この実感を受けて,今後のプログラミング 教育では“課題設定や教材の選択肢において,それ ぞれの関心の高いものを選択できるメニューを用意す ることも有効”と提言されている.本研究においても, この報告を追認する傾向が見られた.本ワークショッ

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プへの男子の参加はなく,女子も 3 名(うち調査対象 児童は 2 名)にとどまることから,事例としての定性的 な記述にとどまるものの,児童はミッションの遂行過程 において,どのスプライトや背景にするかという点に熱 中するあまり,それらの選択や描画に時間を費やして しまう傾向があった. 自由な作品制作においても,「ユーザーの操作に よって反応が得られる」といった,インタラクティブなプ ログラムを構成しようとする意図はない点が 2 名に共 通していた.すなわち,ユーザーの操作が必要なゲ ームのような作品ではなく,動画共有サイトに編集さ れて投稿されるような,ユーザーが見て楽しめる作品 を構成したいようであった. さらに,インタビューでみられた,ゲームであっても そこで友達を作るものが良い,という発言は特徴的で ある.女子はコンピュータを使う目的として,よりソーシ ャル・ネットワーキングに興味を持つ,というOECD の 報告があるが 5),このような興味関心は,個人差はあ るものの,おそらく男女で異なる傾向を有するものと思 われる.プログラミング教育においても,児童の興味 の方向性を把握し,活用することで,より女子児童が 参加しやすいプログラミング・ワークショップや講座を 用意することができそうである.動画制作やデザイン, ソーシャル・コミュニケーションなど,児童の多種多様 な興味に応えることができる教材やカリキュラム開発も 望まれる.また,講座の広報時にはプログラミング学 習を前面に謳うのではなく,講座で何ができるのかと いった目的を明確にした募集を行う,という方法も参 加児童のすそ野を広げ,多様性を確保するためには 有効であると思われる. さらに,今回のワークショップでは,会場が女子大 学であったことが女子児童の参加のしやすさにつな がったのかもしれない.会場やフライヤー・デザインな どの周辺情報も,参加のしやすさに影響する要因で あると考えられる.

5.2 演習形式の学習におけるつまずき

本ワークショップは,講師による基本的な操作の教 授以外は,ミッションと名付けた演習形式の学習によ って進行した.その結果,いくつかの困難さやつまず きも報告された.報告された困難さやつまずきは,比 較対象である男子のデータが得られていないため,こ こでは男女による傾向の違いやジェンダー・ギャップと は無関係に,これらの困難さについて考察し,今後の 課題を提示したい. アルゴリズムに関連する児童の理解においては,と りわけ時間制御と細かな順次処理に困難さを伴う様 子であった.文部科学省はプログラミング的思考を “自分が意図する一連の活動を実現するために,(中 略)記号の組合わせをどのように改善していけば,より 意図した活動に近づくのか,といったことを論理的に 考えていく力”と定義している.このプログラミング的思 考を養うことがプログラミング必修化のねらいの一つで ある.しかしながら,Scratch が比較的容易に扱える プログラミング環境であるとはいえ,論理的で細かな 順次処理に加え,コンピュータ上の処理速度の速さを 理解し,その速度に合わせるようにブロックを制御す ることは,小学校高学年の児童でもつまずきの要因に なると考えられた.まずは時間制御に関して,児童に も直感的に理解可能な教材を提示し,順次処理の考 え方を養うことも必要だと考えられる. 他方,演習形式の学習,とりわけ自由な創作活動 は参加児童のプログラミングへの意欲を高めたことが, インタビューで確認できた.試行錯誤を経ながら,自 身が作りたい作品を作る過程に,児童は没頭する.そ こでの講師や指導者の役割は「わからないところを聞 ける」相談者であり,ファシリテーターである方が意欲 を維持できそうである.しかしながら,問題点も散見さ れた.プログラミング的思考で要請されている「意図し た活動に近づく方法を論理的に考える」態度に至るこ とは,今回の演習形式の学習では困難であった点で ある.自ら構成したブロックで意図した動きが実現でき なければ,児童はブロックを分解して考えるのではな く,場当たり的に並び替えてしまい,最終的には意図 した動きのように見える動作で完結させていた.そし て場合によっては,当初に想定した自分の意図その ものを変更してしまうこともあった.この「場当たり的な 並び替え」を行ってしまう一因が,不要なブロックを片 付けていないため,コードエリアにあるブロックを手近 に組み合わせてしまえることであったと思われる.演 習形式の学習は,プログラミングへの動機づけを高め たり,創造性を発現させる効果は十分にありそうであ る.しかしながら,さまざまな個性の児童が主体的に プログラミング的思考を育むためには,よりカリキュラ ム上の工夫が必要であろう.

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5.3 今後の課題と展望

以上,本研究ではワークショップで得られたデータ から,プログラミング教育に関連する女子児童の興味 関心,プログラミングの学習方法と困難さについて考 察した.その一方,本研究の実践と調査では,複数の 課題も残されている.ワークショップ中のビデオ撮影 は行われず,また文字化されたインタビューの分析も 仮説の生成にとどまるものとなった.調査対象の児童 が女子 2 名であるため,本章での考察が女子一般の 特徴を示すのか,それとも個別具体的な事例にとどま るのか,さらなる検討の必要がある.今後は,量的調 査の実施と男子児童との比較が必須であろうと考え る. 実践面における展望として,男女問わず動機づけ を高める教材を用いてプログラミング学習への参加を 容易にしたり,すそ野を広げたりする必要があろう.総 務省が取り組む“将来の高度 ICT 人材としての素地 の構築・資質の発掘”を実現するためには,試行錯誤 だけに頼らないプログラミング的思考の育成を両立で きるようなカリキュラム,児童の多様な興味関心に対応 した教材を,今後発展させていくべきだと考える. 謝辞 本研究は令和元年度群馬県立女子大学特定教 育・研究費「ジェンダー・デバイドを考慮したプログラミ ング教育の調査と実践」による助成を受けました. 本研究の対象となったワークショップは,株式会社 NSP 群馬の皆様の企画と募集により実施されました. 関係する方々には大変お世話になりました.また研究 へのご理解・ご協力も賜りました.ありがとうございまし た. 【参考文献】 1) 文部科学省 (2018), 小学校プログラミング教育 の手引. 2) 総務省 (2016), 若年層に対するプログラミング教 育の普及推進(平成28 年度~), https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_ts usin/kyouiku_joho-ka/jakunensou.html (2020 年 2 月 18 日参照). 3) 総務省 (2015), プログラミング人材育成の在り方 に関する調査研究報告書. 4) 岡崎善弘・大角茂之・倉住友恵・三島知剛・阿部 和広 (2017), プログラミングの体験形式がプログ ラミング学習の動機づけに与える効果, 日本教育 工学会論文誌, 41(2),169-175.

5) OECD (2015), The ABC of Gender Equality in Education: Aptitude, Behaviour, Confidence, PISA, OECD Publishing.

受付: 2019 年 12 月 9 日 採録: 2020 年 3 月 3 日 ――― 著者略歴 ――― 甲村 美帆 群馬県立女子大学教授.1996 年 お 茶の水女子大学文教育学部卒,2002 年 同大学 人間文化研究科博士後期課程修了,博士(学術), 2005 年から群馬県立女子大学勤務.研究内容:思 考過程と科学教育,記憶・注意などの日常認知. E-mail: [email protected]

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