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令和元年度 学内研究助成成果報告

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Academic year: 2021

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The Journal of Kansai Medical University

Published online: 15 March, 2021 in J-STAGE (www.jstage.jst.go.jp) doi: 10.5361/jkmu.71.39

令和元年度 学内研究助成成果報告

学内研究助成 D1

1.うつ病に対する寛解維持まで一貫したニューロ モデュレーション療法の位置づけの検証 精神神経科学講座・講師 池田俊一郎 【研究目的】 現在,うつ病に対する薬物療法以外の身体的な生物 学的治療として,電気けいれん療法(Electro Convul-sive Therapy: ECT),反復性経頭蓋磁気刺激法(repeti-tive Transcranial Magnetic Stimulation: rTMS),経頭蓋 直流電気刺激法(transcranial Direct Current Stimulation: tDCS) などのニューロモデュレーション療法が注目さ れている.それぞれうつ病に対しての効果があるとの 報告があるが,統一したプロトコールで有効性,安全 性などを評価し,それぞれの治療法の使い分け,その 客観的予測因子を検証したクロスオーバーした研究は いまだにない.このような中で,本研究では,統一し たプロトコールを用いた試験により,それぞれの特徴 を同定し,寛解維持療法に関しても他の療法の可能性 を模索することを目的とする. 【研究計画・方法等】 研究対象は DSM-5 で診断したうつ病患者,50 名の 登録を目標とする.主治医・患者本人の協議の上, ECT 群,rTMS 群,tDCS 群の 3 群に分類しそれぞれを 施行し,比較・解析を行う.それぞれの療法前後で うつ症状評価(HAM-D, MADRS),不安症状評価(新 版 STAI 状態―特性不安検査),脳波測定を行い,3 群 を比較し eLORETA 解析(電流源密度解析,functional connectivity 解析) を行う.また,それぞれに対し,重 回帰分析など相関性の解析を行う.それにより,それ ぞれのうつ病への有用性を,臨床的と生物学的両面よ り評価し,それぞれの特徴,使い分け,さらに予測因 子を同定し,臨床応用への基盤を構築する.うつ病に おけるECT後の再燃予防には,一般的に抗うつ薬やリ チウムなどの気分安定薬による維持療法が行われる. 【研究成果】 本年度は rTMS が導入になり,うつ病患者に対する 診療の体制構築を行った.rTMS に関して,安静時運 動閾値の決定が刺激強度の設定のもとになっており非 常に重要であるため,現在,健常者において運動閾値 の測定を試みている.現時点での結果ではあるが,刺 激部位の前方にずらしても大きな変動はないものの後 方にずれた場合は運動閾値が有意に上昇していた.そ のため,安静時運動閾値を測定する場合は正しい位置 より後ろにいくことがないよう注意を要する可能性が 示唆された. ECT に関しては,総合病院精神医学会の ECT 研修 施設となっており,週 2 回年間 200 件を施行している. ECT においても,Seizure qualiy categoriesを用いてけん れん発作を客観的かつ包括的に評価を行っている.両 側刺激に比べ片側刺激にすることや麻酔薬を変更調 整することなどによりけいれん閾値が低下し ECT の 質・効果が向上することが明らかになった. 【課題点・問題点】 ECT 群,rTMS 群,tDCS 群の 3 群で 50 人と被験者 を予定したが,研究期間が短く,それぞれの治療が約 1 か月半を要するため,必要な被験者数を確保するこ とが出来なかった.そのため,予備的研究であるが, rTMS に対しては臨床的重要項目について,健常者を 対象に安静時運動閾値に関する研究を行った. ECT や rTMS によるうつ病に対する治療は保険収 載されており,特定臨床研究に対象とならないが, tDCS に関しては海外での適応があるものの日本では 保険収載されておらず特定臨床研究の対象となる.そ のため,様々な複雑な手続きを要するため,実行可能 性に疑問が出るため,再度,研究プロトコールを再考 する必要性がある.現在,臨床として rTMS, ECT は 稼働しており,そちらに焦点を当て研究を進める. 【今後の展望】 上記にも記載したように,再度,実現可能性を検討 しプロトコールの改変が必要であると思われる.現 在,関西医科大学総合医療センター精神神経科学教室 にて臨床において施行中である rTMS および ECT に 集中して,うつ病患者さんに対して治療を並行し研究 を行う予定である. また,ECT, rTMS ともに関西を中心とした研究会

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が発足しており,そこにおいて共通のプロトコールの 作成も行っていく予定であり,報告者は上記研究会の 世話人であり,同時に多施設共同研究も行う予定であ る.本研究においては,臨床指標に加え脳波測定を 行っていれば他施設共同研究も可能であり,脳波検査 は全体的な数値として測定できるため,客観的であり 被験者数を増やすことも可能である. 【研究業績(論文,著書,産業財産権,招待講演等)】 1. Ikeda S, Ishii R, Pascual-Marqui RD, Canuet L,

Yoshimura M, Nishida K, Kitaura Y, Katsura K, Kinoshita T.; Automated Source Estimation of Scalp EEG Epileptic Activity Using eLORETA Kurtosis Analy-sis. Neuropsychobiology. 2019; 77(2): 101–109. 2. Keiichiro Nishida, Yosuke Koshikawa, Yosuke

Morishima, Masafumi Yoshimura, Koji Katsura, Satsuki Ueda, Shunichiro Ikeda, Ryouhei Ishii, Roberto Pascual- Marqui, Toshihiko Kinoshita; Pre-stimulus Brain Activ-ity Is Associated With State-Anxiety Changes During Single- Session Transcranial Direct Current Stimulation. Front Hum Neurosci. 2019; 13: 266.

3. Yoshimura M, Pascual-Marqui RD, Nishida K, Kitaura Y, Mii H, Saito Y, Ikeda S, Katsura K, Ueda S, Minami S, Isotani T, Kinoshita T.; Hyperactivation of the Frontal Control Network Revealed by Symptom Provocation in Obsessive-Compulsive Disorder Using EEG Microstate and sLORETA Analyses. Neuropsychobiology. 2019; 77(4): 176–185.

4. Funada D, Matsumoto T, Tanibuchi Y, Kawasoe Y, Sakakibara S, Naruse N, Ikeda S, Sunami T, Muto T, Cho T.; Changes of clinical symptoms in patients with new psychoactive substance (NPS)-related disorders from fiscal year 2012 to 2014: A study in hospitals spe-cializing in the treatment of addiction. Neuropsycho-pharmacol Rep. 2019 Apr 9.

5. Hata M, Hayashi N, Ishii R, Canuet L, Pascual-Marqui RD, Aoki Y, Ikeda S, Sakamoto T, Iwata M, Kimura K, Iwase M, Ikeda M, Ito T.; Short-term meditation modu-lates EEG activity in subjects with post-traumatic resid-ual disabilities. Clin Neurophysiol Pract. 2019 Feb 20; 4: 30–36.

6. 池田俊一郎;精神疾患におけるマイクロステート 解析の有用性.臨床神経生理学.2019; 47: 163–167. 学会発表

1. Shunichiro Ikeda; Microstates analysis in psychiatric disorders & age-related change of the EEG microstates topography. the 4th International Conference on Basic and Clinical Multimodal Imaging (BaCI) 2019/9(成

都.中国) 2. 池田俊一郎;ニコチンによる電気生理学的変化か ら考察するニコチン依存症の病態生理.2019/7(東 京) 3. 池田俊一郎;てんかんにおける脳波・脳画像の最 新の知見.第 49 回日本臨床神経生理学会学術大会  2019/11(福島) 2.新生児黄疸と腸内細菌叢の関連性 小児科学講座・助教 赤川 翔平 【研究目的】 近年,新生児黄疸の既往がある児では 1 型糖尿病や 気管支喘息の発症率が高くなるという報告(McNamee MB, et al. Acta Diabetol. 2012, Kuzniewicz MW et al. Pediatrics. 2018) や,光線療法を受けた児では自閉症 スペクトラムの発症リスクが 1.7 倍になるという報告 (Wu Y, et al. Pediatrics. 2016) が散見され,新生児黄疸 や光線療法が将来における様々な慢性疾患発症に関連 することが相次いで報告されている. 一方で,乳幼児期の腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis) がアレルギー疾患,自閉症,炎症性腸疾患,自己免疫 疾患,肥満,糖尿病などの慢性疾患発症と関連がある ことが報告されている.新生児黄疸の原因となるビリ ルビンの代謝には腸肝循環が関与しており,これには 腸内細菌叢が重要な役割を果たしている.すなわち, dysbiosis を呈する児ではビリルビン代謝が低下し,新 生児黄疸を呈する可能性があり,そして dysbiosis が 続くことで将来の慢性疾患の発症リスクが高まってい る可能性が考えられる. そこで,本研究では「新生児黄疸を呈する児は dys biosis を来たしている.」 という仮説を明らかにす ることを目的とした.本研究の成果により,新生児期 に黄疸を来たしている児の腸内細菌叢を評価し,是正 することにより,種々の疾病の予防につながると考 える. 【研究計画・方法等】 I.研究対象者 2015 年 9 月から 2016 年 8 月に関西医科大学の関連 施設で経腟分娩,正期産,正常体重で出生した児のう ち,日齢 4 時点で新生児黄疸に対して光線療法を実施 していた新生児 10 名 (黄疸群) と出生後に光線療法を 要さなかった児 10 名 (対照群) を対象とする. II.研究方法 ①対象児の便を日齢 4 および 1 か月時にそれぞれ 1 回採取し,便中の細菌 DNA を抽出し次世代シーク

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エンサー Ion PGM Systemを用いて16sリボソームRNA 遺伝子解析を行う.

②便中の微生物構成割合および酪酸産生菌の割合, 微生物生態系の多様性を示すShannon Index,Chao Index, Simpson Index を比較する. 【研究成果】 当初の研究予定は,2015 年 9 月から 2016 年 8 月に 採取し小児科学講座研究室で冷凍保存していた便検体 を用いて,16S rRNA 遺伝子解析を実施し,腸内細菌 叢の評価を実施するものであった.しかし,実際に解 析を試みると検体の劣化が明らかとなり,有用な解析 データが得られなかった. そこで,新たに研究試料の採取を実施しており,研 究計画に大きな遅れが生じている.研究計画の大幅な 変更に伴い,新たに当院倫理委員会の承認を得た(承 認番号 2019257).現在は研究試料の蒐集を実施して おり,目標検体数の約 20% の検体を蒐集することが できている.現段階では当初の計画から約 8 か月の遅 れが生じるものと考える. 【課題点・問題点】 一般的に腸内細菌叢解析に用いる便検体は –80°C で 保管すれば,数年間は劣化することなく,解析に耐え うるとされている.今回の研究に用いる予定であった 便検体も –80°C で保管していたが,別の研究の際に融 解再凍結を行ったことや,冷凍庫の扉の開閉などによ る一時的な温度上昇により,保管状態が悪くなり検体 が劣化してしまった可能性が考えられた. 【今後の展望】 研究対象者を以下のように変更し,便検体の採取を 行う.研究計画変更に伴い,新たに当院倫理委員会の 承認を得た(承認番号 2019257). ①2020年1月1日から2022年12月31日までの間に, 附属病院で出生し新生児黄疸に対して光線療法を 実施した新生児 20 名 ②健常コントロールとして,同期間に附属病院で出 生し,新生児黄疸を来たさなかった健常な新生児 20 名 新生児黄疸を呈する児では dysbiosis を来たしてい るという仮説が証明できることを期待している.仮説 が証明できれば,新生児黄疸や光線療法が直接 1 型糖 尿病や気管支喘息,自閉症スペクトラムのリスクとな るのではなく,dysbiosis により新生児黄疸が起こりや すく将来の疾患発症リスクが高まっているという新し い知見を提唱できると考える.これにより,新生児期 に黄疸を来たしていた児の腸内細菌叢をプレバイオ ティクスやプロバイオティクスを用いて是正すること により,将来の様々な慢性疾患の発症を予防すること ができる可能性がある. 【研究業績(論文,著書,産業財産権,招待講演等)】 未 3.サルコイドーシス患者末梢血液中の B 細胞受容体 のレパトア解析 皮膚科学講座・講師 植田 郁子 【研究目的】 サルコイドーシスは,全身諸臓器に乾酪壊死のない 類上皮細胞肉芽腫が形成される全身性の疾患である. なんらかの抗原物質に曝露されておこると考えられて いるがその原因は不明である.これまでの研究で,サ ルコイドーシス患者において B 細胞の生存・増殖因 子であるBAFFの血中濃度が上昇し,自己抗体の産生, 病気の活動性との相関があることから(Rheumatology, 2013),何らかの自己抗原に対する反応である可能性 も示唆される.さらに B 細胞の胚中心形成に重要で ある濾胞性ヘルパー T (TFH) 細胞を解析したところ, TFH17 の分画に偏っていることが明らかとなった (J Dermatol Sci 2020).したがって,これらの環境で産 生される抗体のクロナリティーを,B 細胞受容体のレ パトアを解析し検討する. 【研究計画・方法等】 1)末梢血からの RNA 抽出:患者およびコントロール よりヘパリン加全血 10 ml を採取し,PBMC を単 離し RNA を抽出する. 2)次世代シークエンサーによる BCR 遺伝子レパトア 解析:次世代シークエンサーによる BCR 解析は Repertoire Genesis 株式会社に委託する.全アイソ タイプのうち IgG において解析する. 3)BCR レパトア解析結果の比較:BCR レパトア解析 により,多様性指数(シャノン指数,シンプソン 指数,ピールー指数など),V, D, J, C 遺伝子の使 用頻度を集計した 2D グラフ,V-J 遺伝子の組み合 わせの使用頻度を集計した 3D グラフ,Unique read ランキング Top50 など個々の検体から結果を得る ことができる.これらの結果を集計し,検体間の 比較,疾患群とコントロールでの比較を行う. 【研究成果】 サ ル コ イ ド ー シ ス 患 者 4 例 お よ び 健 常 人 4 例 の PBMC から RNA を回収し,次世代シークエンサー による BCR 遺伝子レパトア解析を行った.サルコイ ドーシス患者および健常人から得られた RNA の品質 および回収量は解析を行う上で十分で,Total reads, assigned reads, in frame reads, unique reads, in frame

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unique reads は患者と健常人の間で差がなかった.ま た多様性指数として,シャノン指数,シンプソン指数, ピールー指数,Diversity evenness score を測定し比較 したが,いずれもサルコイドーシス患者および健常人 において差はみられなかった.したがって,少人数の 解析であるが,これまでのところサルコイドーシス患 者において特定のレパトアのクローナルな増殖はみら れていない. 【課題点・問題点】 少人数の解析であるが,サルコイドーシス患者にお いて特定のレパトアのクローナルな増殖はみられてお らず,Repertoire Genesis 株式会社が健常人から算出し た多様性指数の範囲内である.したがって今後患者数 を増やしたとしても,有意な結果が得られない可能性 が高い.また,次世代シークエンサーによる BCR レ パトア解析は Repertoire Genesis 株式会社に委託してい るが,解析費用が高額である. 【今後の展望】 患者における BCR レパトア解析では明らかな異常 がみられず,その多様性指数は健常人で検出される範 囲内であった.今後 TFH細胞の TCR レパトア解析を 行うことを検討中である. 【研究業績(論文,著書,産業財産権,招待講演等)】 1. Circulating intermediate monocytes produce TARC

in sarcoidosis.

Kishimoto I, Nguyen CTH, Kambe N, Ly NTM, Ueki Y, Ueda-Hayakawa I, Okamoto H. Allergol Int. 69(2): 310–312, 2020.

2. Exploring the imbalance of circulating follicular

helper CD4+ T cells in sarcoidosis patients.

Ly NTM, Ueda-Hayakawa I, Nguyen CTH, Okamoto H.

J Dermatol Sci. in press 2020.

4.病変局所へ浸潤する好塩基球に着目した特発性 蕁麻疹における病態検討 皮膚科学講座・助教 岸本  泉 【研究目的】 申請者は,遊離 IgE をターゲットとした分子標的薬 である omalizumab 投与が奏功した蕁麻疹患者を検討 した際に,「末梢血好塩基球数が病勢に相関して減少 する一方で,塩基球数の活性化マーカーの発現が逆相 関して増強する」ことを経験した.この観察から,皮 疹誘発時には活性化された好塩基球は病変局所へと移 行して病変を形成し,活性化していない好塩基球だけ をわずかに血中で同定できる状態にある一方で,皮疹 がコントロールされると活性化能をもつ好塩基球が末 梢血に止まると考えた.蕁麻疹は,これまで皮膚局所 に存在する肥満細胞が脱顆粒することで皮疹が誘発さ れると考えられてきたが,本研究によって好塩基球の 貢献度を検証することで蕁麻疹の疾患メカニズムに新 たな知見を提供することができる. 【研究計画・方法等】 本年度研究実施計画・方法を記入 ヒトの皮膚組織への好塩基球浸潤は免疫組織化学染 色で同定する.まずは染色条件の設定のため,好塩基 球の浸潤が報告され,臨床的に多くの生検組織が利用 可能である水疱性類天疱瘡の組織標本(ホルマリン固 定)を用いる.好塩基球の同定には抗ヒト好塩基球抗 体 (BB1:英国 Southampton 大の AF. Walls 教授より供 与済)を用い,必要に応じて高親和性 IgE 受容体や IL-3 受容体,肥満細胞との鑑別のためトリプターゼや Kit に対する抗体を用いる.その後,これまでの診療 の中で難治であることを理由に施行された蕁麻疹の生 検を用いて,好塩基球の浸潤を評価する. 【研究成果】 まず水疱性類天疱瘡の組織標本にて好塩基球抗体 (BB1) と高親和性 IgE 受容体抗体 (22E7) とトリプター ゼ抗体(G3)の染色を行い,染色条件の設定を行った. その上で過去に難治性の蕁麻疹にて生検された標本に 対し染色を行った.21 検体を染色した結果,1 症例で は膨疹部に好塩基球が真皮内の血管周囲性へ多く浸潤 していることが分かった.またその症例では症状の発 症時期(生検時)には血中好塩基球数が減少し,また ヒスタミン内服のみで症状消退時には血中好塩基球数 が上昇していることより,末梢血中内の好塩基球の減 少は組織への遊走を反映している可能性があると考え た.その他 15 検体の膨疹部はごく少数であるが好塩 基球の浸潤は認めた.しかし,ごく少数であり,病的 意義の評価は困難であった. 【課題点・問題点】 通常蕁麻疹では皮膚生検を行わないことが多いが, 難治性である場合蕁麻疹様血管炎の鑑別のため皮膚生 検を行うことがある.今回,使用した組織切片はそう した背景があるため,生検時には内服のステロイド治 療が既に行われている症例が多かった.ステロイド治 療が組織に影響していたことも考えられるため,ステ ロイド治療を行っている組織の評価は不可能と考え た.しかし,無治療の蕁麻疹の組織標本を得ることは 困難で,ヒトでの評価は限界があり,マウスでの実験 を行う必要があると考えた.

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【今後の展望】 マウスを用いた好塩基球の動態検討 ヒトの検体では困難な「末梢血から皮膚への時間的 空間的な好塩基球の動態を検討」するため,既に皮膚 に好塩基球が浸潤して病勢形成に関わることが報告さ れている 2 つのマウスモデルを活用して検討する. 1.IgE を用いた皮膚炎モデル:IgE が関わるモデルと して,東京医科歯科大学のグループから報告されてい る TNP 特異的マウス IgE を投与し,TNP-OVA で脱顆 粒を促すモデルを用いて,好塩基球の末梢血から皮膚 への移行(好塩基球が皮膚へと移行したタイミングで 末梢血中の好塩基球数が減少するのか),さらに末梢 血中と皮膚から単離した好塩基球の活性化状態を検討 する. 2.Oxazolone を用いた接触皮膚炎モデル:上記の IgE を用いた皮膚炎モデルで実験を行うためには,ハイブ リドーマを用いた TNP-IgE の生成が必要であること から, 好塩基球の皮膚浸潤が報告されているoxazolone を用いた接触皮膚炎モデルを用いて,予備実験を開始 している. 【研究業績(論文,著書,産業財産権,招待講演等)】 第 48 回日本皮膚免疫アレルギー学会にて発表し論 文作成中. 5.唾液腺の機能回復および再生を目指したヒト iPS 細胞の基礎的研究:頭蓋顔面神経堤細胞から唾液 腺幹細胞分化 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座・講師 澤田 俊輔 【研究目的】 唾液分泌の減少は加齢に伴う現象だけでなく, シェーグレン症候群などの自己免疫疾患や放射線治療 後の副作用として知られている.口腔乾燥は,二次的 に顎骨壊死などの重篤な有害事象に関わることも知ら れているが,現在では対症療法が中心であり根本的な 治療法は開発されていない.そこで,本研究は未だ確 立されていないヒト iPS 細胞を用いた唾液腺再生治療 法の基盤形成のために,頭蓋顔面神経堤細胞から唾液 腺幹細胞への分化を目的とする.ヒト iPS 細胞から唾 液腺幹細胞への分化が成功した暁には,再生医療への 応用はもとより,唾液腺幹細胞が新たな治療薬開発の 強力なツールの一つとなる可能性がある.本研究の遂 行により,実臨床での再生医療実現に近い in vivo 実 験が可能となることが予想される. 【研究計画・方法等】 唾液腺は,頭蓋顔面神経堤細胞(CF-NCC) に由来 する.申請者らは,2018 年度の KMU コンソーシアム を基盤に, 既存の方法 (Int. J. Dev. Biol. 60: 21–28, 2016) を参考に,CF-NCC をヒト iPS 細胞から分化誘導する ことに成功した. 続いて本研究では移植前段階として CF-NCC を分化 培地で培養することにより,間葉系幹細胞(唾液腺幹 細胞と仮定)へと分化する試みをおこなう.分化の成 否は,既知の間葉系および唾液腺幹細胞マーカーを用 いて確認する.また,放射線傷害を与えたマウスに対 して移植を実施し,生着と機能性の確認をおこなう. 移植に際してはヒト由来 iPS 細胞を用いるため免疫不 全マウスを用いる.また,移植細胞は生着を確認する ために生細胞の蛍光標識をおこなった後に唾液腺を摘 出し,切片を作製し検鏡する. 【研究成果】 CF-NCC を間葉系幹細胞分化培地で培養し,フロー サイトメトリーにて表面抗原マーカーの確認をおこ なった.過去に報告のある間葉系幹細胞マーカー陽性 の細胞集団であることを確認した.また,一旦生着を 確認するために放射線照射はおこなわず,ヒト iPS 由 来間葉系幹細胞様細胞の集団を生細胞染色キットで染 色をおこなった後に免疫不全マウスの唾液腺に移植し た.1 ヶ月後にマウス顎下腺を摘出し,検鏡をおこ なった.一ヶ月以上前に顎下腺に移植した細胞集団は 腺房間の組織に生着していることを確認することがで きた.蛍光免疫組織化学的手法を用いて各種抗体で染 色をおこない,生着した細胞がどのような役割を行っ ているか検討しているところである.また,現在,免 疫不全マウスへの照射線量を振り分けて,各照射線量 の唾液腺への影響を検討している. 【課題点・問題点】 iPS 細胞から段階的に分化誘導をおこない最終的な 移植用細胞を準備するため,各ステップでの細胞特性 の確認や,再現性の担保が容易ではないと考える.ま た,唾液腺の再生についてはメカニズムに未解明な部 分が多く残されており,各種抗体やマーカーなど評価 系の設定が十分とは言えない.そのため,今回は例え ば涙腺や乳腺などの類似器官分野の先行文献を参考に した. 一度,iPS 細胞より分化した間葉系幹細胞マーカー 陽性細胞を移植したが,生着を確認したのみであり神 経系や筋上皮系の細胞への分化は確認できなかった. 唾液腺内での機能は不明であるが,組織傷害時に活性 化される可能性も考え,今後,放射線照射後の萎縮し た唾液腺に移植し比較検討をおこなう予定である. 【今後の展望】 2018 年度, 2019 年度 KMU コンソーシアムの助成金

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を基盤とし,唾液腺研究を開始することができた.そ の後,本学内研究助成 D1 で継続的に研究を推進する ことができた.そのことにより,基礎的データの蓄積 が可能となったと考える.本助成でのデータを基に令 和 2 年度科学研究費補助金・若手研究での採択を得え ることができた.引き続き,今後は放射線照射による 唾液腺障害モデルマウスへの細胞移植を行い移植細胞 の動態や機能回復への寄与を検討する予定である.本 研究の遂行により頭頸部領域の放射線治療後に高確率 で現れる唾液分泌障害に対して画期的な細胞治療法へ と繋がる可能性がある.加えて,未だ報告のないヒト iPS 細胞由来唾液腺オルガノイドの作製に繋がる可能 性がある. 【研究業績(論文,著書,産業財産権,招待講演等)】 本研究助成に関連する業績はない. 6.動態制御分子 Rap1 シグナルによる NKT 細胞の 分化・機能調節機構の解明 分子遺伝学部門・講師 植田 祥啓 【研究目的】 ナチュラルキラー T 細胞(NKT)はウイルスやがん に対する免疫に重要な T 細胞サブセットであり,臨床 への応用が期待されている.NKT 細胞は胸腺におい て未熟 T 細胞が CD1 抗原に提示された脂質を認識し て,正に選択され,末梢に移動して脾臓や肝臓に移動 し,活性化されると様々なサイトカインを産生するこ とで T 細胞の活性化・抗体産生の増強および免疫抑制 など,多様な機能を発揮する.予備実験により,細胞 動態や接着を制御するRap1分子の欠損マウスで, 胸腺 や脾臓において NKT 細胞の減少が認められることを から,NKTの分化・機能にRap1が関与していること が示唆される.本研究では細胞動態を制御する Rap1 シグナルによる NKT 分化・機能の調節機構機構を明 らかにする.その解析により,NKT のあらたな NKT の分化・機能の制御シグナルが明らかとなり,NKT を標的とした分子標的薬の開発に寄与する可能性が ある. 【研究計画・方法等】 ① NKT細胞の分化段階はNK1.1 抗原とCD44抗原の 発現レベルにより, ステージ 0 (CD24+CD44loNK1.1-), ステージ 1 CD44loNK1.1-), ステージ 2 (CD24-CD44hiNK1.1-), ステージ 3 (CD24-CD44hiNK1.1+) に 分かれる.T 細胞特異的な Rap1 欠損マウスにおいて Rap1 欠損による NKT 細胞の減少がどのステージで起 こっているかどうかを検討し,Rap1 が関与する NKT 細胞の分化の過程を明らかにする. ② NKT細胞の分化に重要な転写因子PLZFやNF-kB, STAT5などのシグナル強度をRT-PCRや胞内染色を用 いたフローサイトメトリーにより測定し, Rap1による NKT 細胞分化のシグナル調節を明らかにする. ③胸腺において NKT 細胞は胸腺未熟細胞上に発現 するCD1抗原よって提示される抗原を認識することで 選択されていると考えられている.そこで Rap1 は末 梢 T 細胞の接着や移動に必須の分子であるため, Rap1 が DP 細胞の移動や DP 細胞同士の相互作用を調節す ることで NKT 細胞の分化を制御している可能性があ る.そこで, T 細胞特異的なRap1欠損マウスからRap1 欠損型 DP 細胞を単離して蛍光標識し,胸腺スライス に導入して,DP 細胞の移動や相互作用を 2 光子励起 レーザー顕微鏡を用いたライブイメージングにより検 討する. 【研究成果】 Rap1 の NKT 細胞に与える影響を検討するために, Rap1a/b 二重欠損マウスの胸腺を摘出し,胸腺および 脾臓中の NKT 細胞を CD4+NK1.1 CD44hi の画分とし て測定したところ,割合が低下する可能性の再現性 が確認された.また,Rap1 が恒常的に活性化してい る RapGAP タンパクのノックアウトマウスを作成し, NKT 細胞の割合を測定したところ,逆に NKT 細胞の 割合が上昇する結果を得ることができ,現在再現性を 確認中である.また,NKT 細胞のサブセットを確認 するためにサイトカインの細胞内サイトカインおよび NKT 細胞に必須の転写因子などを測定する実験を確 立するための準備を進めている.Rap1 はリンパ球の インテグリン依存的な接着および細胞極性をを制御す る分子であり,NKT 細胞の組織中の動態と細胞極性 の関係を明らかにするために,まず,普通のリンパ球 でイメージングサイトメーターを用いた細胞極性の測 定系を確立した.また,組織中を移動するリンパ球の 細胞極性の測定するために,CD44 抗体を用いてリン パ球の後端の可視化して組織中に動くリンパ球の細胞 極性を測定する実験系を確立中である. 【課題点・問題点】 今後,NKT 細胞の分化を詳細に観察するためによ り,NKT 細胞のサブセットを同定する実験系を確立 する必要がある.また,NKT 細胞の大部分は特定の TCR 鎖を (invariant TCR) を持つ TCR であり,その集 団を観察するために CD1d テトラマー法を導入する必 要がある.また,ライブイメージングにより NKT 細 胞の動態を検討する際には,NKT 細胞の前駆細胞お よび NKT 細胞の割合を増大させるためにinvariant TCR を遺伝子導入した TCR トランスジェニックマウスを

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導入する必要がある可能性がある. 【今後の展望】 現在,NKT 細胞を解析するための試薬を選定,収 集しているところであり,今後より詳細な NKT 細胞 の解析が可能になると考えられる.また,Rap1 欠損 マウスや Rap1 が恒常的に活性化しているマウスにお ける NKT 細胞の動態を観察することにより,Rap1 に よる動態制御が NKT 細胞の機能に与える影響が明ら かになると考えられる. 【研究業績(論文,著書,産業財産権,招待講演等)】 1. Yoshihiro Ueda, Naoyuki Kondo and Tatsuo Kinashi

MST1/2 balance immune activation and tolerance by orchestrating adhesion, transcription, and organelle dynamics in lymphocytes (accepted) Front. Immunol. doi: 10.3389/fimmu.2020.00733 総説・査読あり. 7.病原性小胞の制御を目指したインテグリン含有 小胞の制御機構と生理学的意義の解明 分子遺伝学部門・助教 近藤 直幸 【研究目的】 インテグリンは生体内における細胞の接着・動態を 司る.細胞接着面でのインテグリン制御機構は長年謎 であったが,申請者は接着の場におけるリガンド結合 の一分子計測に世界で初めて成功し,局所的構造変化 による結合制御の重要性を証明した.一方,インテグ リンを含む小胞の膜交通を介した接着制御や生理的役 割には未だ不明な点が多い.本研究では,インテグ リン接着調節とその小胞動態の“ミッシングリンク” を繋ぎ,その経路の制御機構や生理学的意義を精査す る目的で,細胞内一分子計測,三次元イメージング, KO マウス病態解析を用いて全容解明を目指す.本研 究の成果はウイルス感染やがん転移に関連するインテ グリン含有小胞の人為的制御に繋がると期待される. 【研究計画・方法等】 a.インテグリン含有小胞の細胞内制御機構の解明: 一分子計測実験系と三次元超解像実験系を駆使 し,HaloTag 等により細胞内標識化したインテグリ ン含有小胞の動態,放出,接着への影響の詳細を CRSPR/CAS9 法で作成した種々の小胞輸送関連因 子の欠損株を用いて精査する. b. 小胞輸送関連因子の KO マウス解析による生理学的 意義の解明: 小胞輸送を介したインテグリン制御因子群の EV 放 出―接着バランス制御の重要性を調べる目的で,a で影響が見られた小胞輸送関連因子の KO マウス 作製を進め,がんの転移やウイルス感染性への影 響の解明を目指す. 以上により,インテグリン依存的な細胞接着制御機 構の全容が解明できるのみならず,インテグリン小胞 の基礎的な制御機構の理解にも繋がり,病原性を持つ インテグリン小胞の排出を形質膜輸送チャネルの方向 へ切り替える等の人為的な制御を行うための知識基盤 を得ることができる. 【研究成果】 インテグリン LFA-1 を HaloTag 化し,リンパ球内で この融合タンパク質を排他的に発現する細胞株を作製 した.この細胞の接着と移動における LFA-1 の動態 を,高光安定性の HaloTag 蛍光リガンドを用いてビデ オレート測定する系を樹立し,一分子レベルで可視化 したところ,LFA-1 は細胞内で非常に速い動態を示す こと分かった.興味深いことに,これまでに測定した 細胞骨格に結合する LFA-1 活性化因子 Talin1 と比べ て,拡散係数にして LFA-1 は 1 桁以上も高かった. また,細胞内の膜交通関連因子と結合し,エンドサ イトーシスを介して LFA-1 の細胞内取り込みを誘起 する LFA-1 細胞内領域のモチーフを変異させ,同様 の解析を行ったところ,LFA-1 の膜滞在の頻度が有意 に上昇したことから,リンパ球の接着や移動の間に LFA-1 がこのモチーフを介して細胞の内・外に動的に 授受されていることが明らかになった. 【課題点・問題点】 リンパ球は刺激の種類依存的に静的な細胞接着と細 胞の移動を伴う動的な細胞接着の二種類の動態を示 す.後者の現象はレーザー等の励起光による光毒性に 敏感であり,光毒性があると細胞の動きが止まってし まうため,測定時間や光照射条件をはかなり厳密に制 御する必要があることが問題点である.また,膜上の タンパク質の取り込み・輸送は細胞接着面を X-Y 平 面とした際の Z 方向の動態変化を伴う過程であるた め,制御メカニズムの包括的な理解のためには高速に 3 次元画像を取得可能なシステムの導入が今後の課題 である.インテグリン小胞輸送関連因子のノックアウ ト細胞・マウスの作製にも着手しているが,多くの生 命現象に関わる輸送関連因子群は細胞増殖が極端に限 られ,マウスも胎生致死の場合が多いため,LFA-1 に 特異的な輸送関連因子群を同定する必要があることが 重要な問題点の一つになってきている. 【今後の展望】 今後,照射方法の工夫や,LED 等の低毒性照射光 源の導入の検討を行い,細胞移動中での長時間イメー ジングが可能な測定系のバージョンアップを目指す.

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また,近年の発展が著しい最新型の超解像用蛍光標識 化化合物も上述の系に導入し,光の照射時間や照射パ ワーを抑えた更なる系の最適化を目指す.また,他予 算の獲得も考慮にいれつつ三次元高速撮像系の確立, 例えば高速 Z ステージの導入も検討し,LFA-1 含有小 胞制御の包括的かつ視覚的な解明を目指す. LFA-1 特異的な輸送関連因子群に関しては,現在申 請者が立ち上げている構造解析コンソーシアムの研究 協力体制を駆使して,MALDI-TOF MS 質量分析装置 を用いた新規因子の同定を進めていく予定である. 【研究業績(論文,著書,産業財産権,招待講演等)】

Ueda, Y., Kondo, N. and Kinashi, T. (2020) “Mst1/2 bal-ance immune activation and tolerbal-ance by orchestrating adhesion, transcription, and organelle dynamics in lym-phocyte” Front. Immunol. In press

8.インテグリン活性化阻害剤の開発による新規神経 膠 (芽) 腫治療戦略 分子遺伝学部門・助教 池田 幸樹 【研究目的】 神経膠(芽)腫は悪性度の高いがん種の 1 つであり, 有効な治療法の確立が遅れているため早急な対策が 望まれている.私たちは神経膠 (芽) 腫において発現 が増加し,かつ発現の増加が生存期間に負の影響を 与えている遺伝子として Talin-1 を新規に同定した. Talin-1 はインテグリンに結合することでインテグリ ン活性化を促すタンパク質として報告されている.ま たインテグリンは神経膠芽腫の増悪に関与しているこ とが報告されている.そこで神経膠 (芽) 腫において shRNA を用いた Talin-1 遺伝子のノックダウンによっ て細胞増殖に差が見られるかについて検証を行ったと ころ,細胞接着及び細胞増殖能が減弱する結果を得 た.これらの結果を得て,私たちは Talin-1/インテグ リン間結合を阻害する薬剤の開発が神経膠 (芽) 腫の 新規治療戦略に繋がると考え,そこで本研究では Talin-1/ インテグリン結合阻害薬の開発のための薬剤 スクリーニング法の開発を行う. 【研究計画・方法等】 先行研究において Talin-1 上のインテグリン結合領 域内に薬剤結合に適した結合ポケットが存在するか in silico において探索し,適当な部位の発見に至った. 次に発見した結合ポケットに結合可能な薬剤につい て 400 万種の化合物 3D 構造ライブラリから in silico ドッキングシミュレーションモデルを用いて選び出 し,そのうち複数の薬剤を化学合成した.本薬剤が直 接 Talin-1 に結合し,インテグリンとの結合を阻害し ていることを示すために愛媛大学・竹田浩之先生と共 同でインテグリン・Talin-1 間タンパク質相互作用を 定量化するシステムについて AlphaScreen を用いて構 築し,薬剤の作用機序の主体がインテグリン・Talin-1 間タンパク質相互作用を阻害するものであることを評 価する. 【研究成果】 Talin-1 が神経膠 (芽) 腫患者群において発現上昇し ていることを明らかにするために,神経膠芽腫患者由 来の病理切片を免疫染色し,腫瘍部位特異的に Talin-1 の発現が亢進していることを明らかにした.また,大 規模データベース解析を行い,神経膠 (芽) 腫細胞株 において網羅的遺伝子発現量解析,及び遺伝子依存性 解析を行なったところ,神経膠 (芽) 腫細胞株におい て TLN1 遺伝子は必須遺伝子であることが明らかに なった. さらに,愛媛大学・竹田浩之先生との共同研究の成 果により,当該タンパク質間相互作用を定量化するシ ステムを確立し,薬剤スクリーニングにおいてこの評 価系が有用であることを示した.さらに,本検出シス テムをハイスループット化(1 万化合物/日のスクリー ニング速度)することに成功した.これらの結果を元 に本プロジェクトを AMED・創薬ブースター事業に 提案し,採択されるに至った(創薬ブースター,課題 番号:DNW-20007). 【課題点・問題点】 目的とする薬剤の開発では薬剤開発元との協業が必 要不可欠であるが,本プロジェクトに参画しているア カデミア間の創薬速度では限界があり,年間 2 種ほど の薬剤合成に留まった.有効薬剤の単離には,より多 くの設計・作出サイクル循環が不可欠であるため,薬 剤創出速度の上昇が課題として浮き彫りになった.ま た現在,本学にはタンパク質間相互作用を検出あるい は定量化するための基盤がない.そのため本プロジェ クトでは共同研究先である愛媛大学プロテオサイエン スセンター及び東京大学・創薬機構に依存している状 況にある.今後,タンパク質間相互作用に着目した阻 害剤開発は世界的に加速することが予測されている が,逸早く対応することが望まれる.また,当該タン パク質間相互作用が亢進している神経膠(芽)腫では, その下流シグナル伝達機構が未解明であり,このシグ ナル伝達解明を行うことで,薬剤効果の評価軸を複数 持つことがより良い創薬に繋がるため,上記 3 点が今 後の課題であると考える. 【今後の展望】 本プロジェクトは今後,AMED・創薬ブースター事

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業として発展させて行く.そこで本年度では,上記の 課題に対応するために AMED を通じて,薬剤作出課 程に化学系企業数社と協業体制を敷くことを目標にし ており,現在 2 社と年間 100 程度の薬剤合成に関して 随意契約の合意形成を行なっている.また,本年度に 学内総合研究施設に導入予定であるタンパク質間相互 作用検出機器を使った薬剤評価系についても準備を進 め,本学においてもタンパク質間相互作用薬開発の基 盤を整備したい.また神経膠芽腫細胞における Talin-1 の重要性を明らかにする目的で,任意のタイミングで 標的遺伝子ノックアウトを行うことが可能な細胞株 の単離を行っており,この細胞株を用いて今後は神経 膠芽腫インテグリンの下流シグナル伝達解明に注力し たい. 【研究業績(論文,著書,産業財産権,招待講演等)】 なし 9.がん再発・転移予防法の開発に向けた新規抗癌剤 の創出 細胞機能部門・講師 林 美樹夫 【研究目的】 近年,腫瘍治療後の再発や転移の原因としてがん幹 細胞の存在が注目されている.治療に抵抗したがん幹 細胞が増殖をくりかえし,転移する.私たちは,グリ オーマ,肺癌,および肺癌脳転巣由来のがん幹細胞が, イオンチャネル(ムコリピン)を発現していることを 明らかにした.さらに,ムコリピンの遮断薬はがん幹 細胞を死滅させることを見いだした.本研究では,こ れらの成果を発展させ,ムコリピンを標的とした新規 がん治療法の開発をめざす.そのために,1) 独自に がん幹細胞株を樹立し,形質転換がない条件で解析を する,2) 新たに同定したがん再発予測マーカー(ム コリピン)を臨床検体で解析する,3) ムコリピンの 遮断薬を最適化した抗癌剤を創出する.4) モデル動 物における治療効果を検証する,これらの独創的なア プローチは,がん予防や早期治療にブレークスルーを 引き起こす. 【研究計画・方法等】 倫理委員会承認(2017188)のプロトコールに従い 患者の同意のもと,手術で摘出されたグリオーマ組織 から,スフェア培養によりがん幹細胞株を樹立した. ムコリピンをコードする遺伝子の変異を RNA シーケ ンス (イルミナ社 NovaSeq 6000) で解析した.膠芽腫 の患者検体における,ムコリピンタンパク質の発現を 免疫組織化学法で評価した.遮断薬とムコリピンチャ ネルとのドッキングを教師データ (機械学習) としたイ ンシリコスクリーニングにより,100 万化合物のバー チャルライブラリーから 998 種類の候補化合物を得 た.これらの上位 100 から,28 種類の化合物の合成 に成功した.これらの新規化合物について,がん幹細 胞の生存に及ぼす影響を細胞増殖アッセイ (WST-8 法)により評価した. 【研究成果】 膠芽腫の 3 患者由来のがん幹細胞株における,ム コリピンをコードする分子の発現量は,MCOLN1 (17 TPM) > MCOLN2(8.2 TPM) > MCOLN3(3.6 TPM) の順位であった.MCOLN1 の mRNA において,スプ ライシングバリアントを発見した.MCOLN2 におい て,アミノ酸置換の変異を 2 つ発見した.MCOLN3 において,アミノ酸置換の変異を 3 つ発見した.膠芽 腫の病理組織標本(4 患者) において,MCOLN1 が コードするムコリピンタンパク質の発現を病巣の中 心部で認めた.28 種類の新規化合物から,終濃度 100 nM において既存薬より有効に膠芽腫由来のがん 幹細胞の生存を抑制できる,8 種類の化合物を見いだ した. 【課題点・問題点】 がん幹細胞において過剰に発現しているムコリピン をコードする MCOLN1 において,スプライシングバ リアントを発見した.このスプライシングバリアント の病理学的意義を明らかにするために,RNAシーケン ス解析の症例数を追加する必要がある.MCOLN2 お よび MCOLN3 におけるアミノ酸変異についても,同 様である.これらの変異によるムコリピンタンパク質 の発現,細胞内動態,およびイオンチャネル機能を解 析する必要がある.ムコリピンタンパク質の発現をグ リオーマの病巣において認めた.今後,転移性脳腫瘍 およびその原発巣(例,肺癌)においても比較検討す る.新規抗癌剤の候補となる 8 種類の化合物を創出で きた.これらの化合物とムコリピンチャネルとのドッ キングを教師データとしたインシリコスクリーニング により,さらに有効性および選択性の高い化合物を創 出する. 【今後の展望】 本研究で見いだした 8 種類の化合物を最適化し, 脳腫瘍治療薬を創出する.そのために質量顕微鏡 (iMScope) を用いて,マウス脳内における化合物の動 態を評価し,脳血液関門透過性を有する化合物を選別 する.がん幹細胞をヌードマウスの脳内に移植し,脳 腫瘍モデル動物を作製する.新規脳腫瘍治療薬の有効 性をマウスの生存期間と腫瘍形成能で証明し,非臨床 POC 取得する.治療薬の安全性を評価し,特許を出

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願する.その後で,製薬企業と協議をし,前臨床試験 と治験をめざす. がん幹細胞の細胞膜においてムコリピンタンパク質 が過剰に発現するメカニズムを研究する.本研究で見 いだしたスプライシングバリアントやアミノ酸変異に ついて,シグナル伝達,タンパク質相互作用,および エンドサイトーシス回避機構を解析し,新たな治療法 の開発につなげたい. 【研究業績(論文,著書,産業財産権,招待講演等)】 Iwata R, Lee JH, Hayashi M, Dianzani U, Ofune K,

Maruyama M, Oe S, Ito T, Hashiba T, Yoshimura K, Nonaka M, Nakano Y, Norian L, Nakano I, Asai A. ICOSLG-mediated regulatory T cell expansion and IL-10 production promote progression of glioblastoma.

Neuro-Oncology 2020 Mar; 22(3): 333–344

Shoji T, Hayashi M, Sumi C, Kusunoki M, Uba T, Matsuo Y, Kimura H, Hirota K. Pharmacological polysulfide suppresses glucose-stimulated insulin secretion in an ATP-sensitive potassium channel-dependent manner.

Scientific Reports 2019 Dec 18; 9: 19377

Kusunoki M, Hayashi M, Shoji T, Uba T, Tanaka H, Sumi C, Matsuo Y, Hirota K. Propofol inhibits stromatoxin- 1-sensitive voltage-dependent K+ channels in pancreatic

β-cells and enhances insulin secretion. PeerJ 2019 Dec 2; 7: e8157

Hayashi M. Expression of adenosine receptors in rodent pancreas. International Journal of Molecular Sciences 2019 Oct; 20(21): E5329 林美樹夫,岩田亮一,羽柴哲夫,埜中正博,淺井昭雄. グリオーマにおける一過性受容体電位型チャネル の分子基盤.Progress in Neuro-Oncology 2020; 27(1): 5–16

学内研究助成 D2

1.慢性移植片対宿主病モデルマウスを用いた IL-2, タクロリムスの免疫調節作用解明のための研究 内科学第一講座・大学院生 奈佐悠太郎 【研究目的】 慢性移植片対宿主病(GVHD)は同種造血細胞移植 後にドナー由来の免疫細胞によって引き起こされる晩 期合併症であり,重症化すると死亡リスクが上昇し, 生活の質が低下する.近年,発症のメカニズムに関す る動物モデルの知見が増え,モデルに基づいた様々な 機序を標的とする治療が考案されてきている.T 細胞 の抑制は GVHD 治療において重要である.その一方 で制御性 T 細胞 (Treg) は GVHD 対しても抑制効果を 持つことが示されている.T 細胞抑制に関わるカルシ ニューリン阻害薬であるタクロリムスは GVHD の予 防,治療に広く使用されている.また,慢性 GVHD に対して IL-2 投与による治療効果の報告も出てきて いる.IL-2 は Treg の活性化・増殖効果により GVHD の治療効果を示していると考えられている.両薬剤を 併用することにより,タクロリムスによる T 細胞の抑 制に加えて,IL-2によるTregの活性化・増殖効果から 一層の治療効果があるのではないかと推測する.しか し慢性 GVHD に対してのIL-2, タクロリムス併用治療 に関しての治療効果,作用機序は不明である.本研究 は慢性 GVHD に対するIL-2, タクロリムス投与の治療 効果データを得ることと Treg を中心とした免疫学的 機序を解明することを目的とする. 【研究計画・方法等】 ① マウス慢性 GVHD モデル (DBA2 → BDF1) を用い て,IL-2, タクロリムスの治療効果判定を行う. DBA2 マウスの脾細胞を BDF1 に静脈注射すること により移植モデルを作成する.作成したマウスにタク ロリムス単剤,IL-2 単剤,タクロリムス/IL-2 両剤投 与をそれぞれマウスに腹腔内注射を行う.マウスの蛋 白尿,体重,生存の経時的変化を観察する.観察終了 時点で脾細胞の FCM を用いた解析,腎臓の組織学的 変化を観察する.腎臓の組織学的変化は HE 染色と蛍 光抗体法を用いて行う.また,Western blot 法を用い て脾細胞の転写因子発現(主に Stat5)解析を行う. ② ヒト T 細胞に対する IL-2, タクロリムスの作用を in vitro で検討する. ヒトから採血を行い,セルソーターを用いて Treg (CD4+Foxp3+), conventional T cell (Tconv)(CD4+Foxp3),

CD8 を分取し,CFSE 染色する.CFSE 染色したそれ ぞれの T 細胞と CD3 抗体・CD28 抗体の存在下で培養 し,IL-2・タクロリムスを様々な濃度で添加して,IL-2, タクロリムスが T 細胞増殖に与える影響について FCM を用いて解析する. 【研究成果】 マウス慢性 GVHD モデルに対して,PBS, タクロリ ムス 1 mg/kg (3 日間),IL-2IC 1 μg (3 日間), タクロリ ムス/IL-2IC 併用投与を移植 21 日後にそれぞれ群分け して投与した.併用群では蛋白尿の抑制効果がみられ たが,タクロリムス,IL-2IC それぞれ単独群では悪化 傾向がみられた.追加実験として最適なタクロリムス (TAC),IL-2IC の投与量を検討した.検討するにあ たって 1 週間後の脾細胞の FCM 解析を行った.PBS

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投与群,タクロリムス単独投与群,IL-2IC 単独投与群, IL-2 単独投与群,TAC/IL-2IC 併用投与群に分けて行っ た.TAC 単独投与群では,ドナー濾胞性 T 細胞を減 少させる傾向がみられた一方で制御性 T 細胞の減少傾 向がみられた.IL-2IC 単独投与群では制御性 T 細胞を 上昇させ,ドナー濾胞性 T 細胞を減少させ,さらにホ スト B 細胞を減少させる効果がみられた.また,量 に関しては TAC 群では 10 mg/kg 投与で一番効果がみ られ,IL-2IC 投与群では 1 μg で一番効果がみられた. TAC と IL-2IC の併用では制御性 T 細胞はやや上昇さ せ,IL-2IC 単独投与より濾胞性 T 細胞を減らす傾向が みられた. 【課題点・問題点】 先行文献,実臨床も考慮すると慢性 GVHD に対し てタクロリムス,IL-2IC 投与で蛋白尿は改善すると予 測していたが, マウス慢性GVHDモデルの観察実験で はタクロリムス 1 mg/kg 群,IL-2IC 1 μg 群で PBS 投与 群より蛋白尿の悪化傾向がみられた.我々が行った観 察実験でのタクロリムス,IL-2ICの投与量,投与時期, 投与期間では治療効果が得られないと推測され,再検 討をする必要があると考えた.そのため,上記研究成 果の記載の様に薬剤投与を移植日にし,その 7 日後に 脾臓解析を行い,最適な投与量を模索中である.上記 結果が示すような傾向がみられたが,まだ有意差は出 ておらず,実験回数を重ねる必要がある.他には腎臓 の組織学的変化を確認できていないのと,ヒト細胞で の検討が未施工なので今後行っていく必要がある. 【今後の展望】 タクロリムス,IL-2IC の最適な投与量が決定した ら,再度観察研究を行う予定である.上記の研究成果 の様に 1 週後の脾臓の解析の結果ではドナー濾胞性 T 細胞がタクロリムス,IL-2IC 投与で低下していること が示唆された.機序としてタクロリムスは直接濾胞性 T 細胞を減少させ,IL-2IC は制御性 T 細胞増多による 効果で減少していると考察している.濾胞性 T 細胞に より,自己抗体を産生しうる形質細胞を増やすことが 先行文献から示されており,濾胞性 T 細胞の減少は形 質細胞減少,自己抗体減少を導くことが推測される. そのため,今後は形質細胞にも焦点を当てて実験を行 う予定である.また,濾胞性 T 細胞が産生する IL-21 も形質細胞への分化へ重要な因子と考えられており, それも治療効果判定として解析を行うことを検討して いる. 【研究業績(論文,著書,産業財産権,招待講演等)】 特にありません. 2.心筋細胞増殖における ErbB4 の役割の解明 内科学第二講座・大学院生 藤原 敬太 【研究目的】 現在,高度に障害を受けた心臓の根本的な治療は存 在しないことから,心臓の再生は,循環器領域におけ る宿願である.その目的を果たすため,心筋細胞を増 殖させるとの報告がある ErbB 受容体(Bersel K et al, Cell, 2009, D’Uva G et al, Nature Cell Biology, 2009) に 注目し,心筋細胞特異的 ErbB4 過剰発現マウスを作製 した. ところが予想に反して,ErbB4 を過剰発現したマウ スの心臓では,心室壁が菲薄化し,心機能は著明に低 下しており,拡張型心筋症 (DCM) を呈した.単離し た心筋細胞の核は,著明に延伸しており,あきらかな 形態異常を認めた.本研究課題では,心筋細胞特異的 ErbB4 過剰発現マウスで,どのような機序で心筋細胞 の核が延伸し,DCM の表現型を呈したのかを明らか にする. 【研究計画・方法等】 心筋細胞特異的ErbB4受容体過剰発現コンディショナ ルノックインマウスの作製 心筋細胞における ErbB 受容体の役割を解明するた めに,心筋細胞特異的 ErbB4 過剰発現マウスを作製し た.Rosa遺伝子座に, Creを発現した細胞でのみErbB4 が強発現するよう,CAG プロモーターの下流に flox-Neo カセットを置き,さらにその下流に ErbB4 cDNA を置いた.また,2A を挟んでヒストン融合 mCherry を配することにより,ErbB4 が発現した細胞の核が赤 く光るように設計した(図 1).このマウスと,心筋 細胞特異的に発現するトロポニン T-Cre トランスジェ ニックマウスと掛け合わせることで心筋特異的 ErbB4 過剰発現マウスを作製した.ところが,予想に反して, 心筋細胞特異的 ErbB4 過剰発現マウスの心筋細胞の核 は異常に延伸し,心機能が著しく低下し,拡張型心筋 症 (DCM) を呈した(図 2). 心臓における ErbB4 受容体の役割の解明 本研究計画では,心筋細胞特異的 ErbB4 過剰発現マ 図 1 Rosa ノックインベクター:Cre が発現した細胞での み,ErbB4 と同時にヒストン融合 mCherry が発現する. ErbB4 が発現した細胞の核は赤く光る.

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ウスの心機能低下及び核の形態異常の原因を解明する ため,コントロールおよび ErbB4 過剰発現マウスの生 後 2, 4, 6, 8 週齢の心臓を採取し,これを材料として 以下の実験を予定している.

1)Western blot による MAPK, Akt, ErbB2/4 などの シグナル分子のリン酸化を調べる. 2)ErbB4 を過剰発現した心筋細胞で活性化されて いるタンパクを決定するために,リン酸化ペプチドを 濃縮し,LC-MS/MS を用いた網羅的な解析. 3)最終的なターゲット分子を同定するために, RNA-seq による発現解析. 4)チミジンアナログである EdU の取り込み活性, および,FACS を用いた細胞周期活性の解析. 【研究成果】 拡張型心筋症(DCM)の表現型の機序 今回,作製したマウスは,ErbB4 が過剰発現した心 筋細胞を可視化するために,ヒストン融合 mCherry も 同時に発現している.ヒストン融合 mCherry の影響を 確認するために,ErbB4 の過剰発現がなく,ヒストン 融合 mCherry のみが発現するコントロールマウスを作 製した.Rosa 遺伝子座に,Cre を発現した細胞でのみ 発現するよう,CAGプロモーターの下流に flox-Neo カセットを置き,2A を挟んでヒストン融合 mCherry を配することで,ヒストン融合 mCherry のみが強発現 するように設計した.このマウスと,心筋細胞特異的 に発現するトロポニン T-Creトランスジェニックマウ スと掛け合わせることで心筋特異的ヒストン融合 mCherry 過剰発現マウスを作製した.作製したコント ロールマウスを調べたところ,ErbB4 過剰発現マウス と同様の表現型を呈した.つまり,心室壁が菲薄化し, 心機能は低下しており,拡張型心筋症(DCM)であっ た.心筋細胞の核は,著明に延伸しており,形態異常 も認めた.その結果から,DCM の表現型の機序に, ErbB4 過剰発現ではなく,ヒストン融合 mCherry が関 与していることがわかった. 【課題点・問題点】 ヒストン融合 mCherry が DCM の表現型の機序の原 因だと判明した.そのため,2 つの問題が生じた.な ぜ,ヒストン融合 mCherry が DCM の表現型を引き起 こすのかという問題であり,その解明が必要になっ た.当初予定していた Western blot や RNA-seq などの 方法からそのメカニズムの解明に取り掛かっている. 次に,心臓における ErbB4 受容体の役割の解明に は,新たなマウスの作製が必要になった.研究目的で ある,心臓における ErbB4 受容体の役割の解明を行う ために,iGONAD 法による ErbB4 受容体過剰発現コン ディショナルノックインマウスを新たに作製してい る.すでに作製した ErbB4/ヒストン融合 mCherry 過剰 発現マウスに対して,iGONAD 法によって,2A 配列 を切断するようにgRNAを設計し, in-delによるframe- shift の導入しました.それによってヒストン融合 mCherry の発現を止めて ErbB4 のみを発現させるよう 設計した.現在, Sequenceで 2A 配列の部分からframe- shift が入っていることを確認しており,今後,ヒス トン融合 mCherry の発現が止まっていることや,それ によって DCM の表現型が消失することを確認する. 【今後の展望】 現在作成中の新規 ErbB4 過剰発現マウスを用いれ ば,ヒストン融合 mCherry の発現停止で DCM の表現 型が消失することが確認できる.ErbB4 のみが過剰発 現するので,研究目的である心臓における ErbB4 受容 体の役割の解明も進めることができる.また,別の ErbB 受容体である ErbB2 受容体の過剰発現マウスを 作製しており,その解明も同時に進めている.その結 果と合わせて心臓における ErbB 受容体の役割の解明 を進めていきたい. 一方で,DCM の表現型を引き起こしたヒストン融 合 mCherry についても,その機序を解明していく予定 であり,すでに,電子顕微鏡による観察や RNA-seq の解析を進めている.その解明によって,DCM をき たす機序の新しい知見が明らかになる可能性がある. 【研究業績(論文,著書,産業財産権,招待講演等)】 特記すべき業績なし.

3.Characterization of a Murine Model for Polycystic Kidney Disease by Conditional knockout of Tsc1.

内科学第二講座・大学院生 Tran Nguyen Truc Linh 【研究目的】

Polycystic kidneys are common causes of end-stage renal disease (ESRD) both in children and in adults, accounting

図 2 ErbB4 を過剰発現した心臓は,壁の菲薄化,および心 機能の低下を認めた.さらに心筋細胞の核の異常な変形 も確認された.

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for 5–15% of all causes. Autosomal dominant polycystic kidney disease (ADPKD) and autosomal recessive poly-cystic kidney disease (ARPKD) is cilia-related disorders and comprise the two main forms of monogenic cystic kid-ney diseases. ADPKD is a common disease that mostly manifests PKD in adults with an incidence of 1 in 400 to 1,000 live births. PKD1 mutated in 85% of cases and PKD2 mutated in the remaining 15%. In contrast, ARPKD is a rarer and often more severe PKD, of which onset is usually perinatally or in early childhood. ADPKD is a progressive disorder by the formation and expansion of cysts arising from the epithelial lining of the tubules of a minority of nephrons, which gradually causes compression and loss of function of all remaining nephrons. Most Individuals with ADPKD progress into ESRD at age 60.

Tuberous sclerosis complex (TSC) is an autosomal dom-inant disorder caused by TSC1 or TSC2 genes and is char-acterized by hamartomas in multiple organs, including the brain, skin, heart, kidneys, and lung. Individuals with loss of either TSC1 or TSC2 are prone to develop PKD but usu-ally display more variable and milder phenotype. These observations suggest that PKD1 and 2 play a key role in the pathogenesis of PKD but also TSC1 or 2, which may con-tribute to and/or modify the cyst formation.

We have attempted to explore the regulations of mTOR by generating several Tsc1 ablation mouse lines through recombination between floxed Tsc1 and various promotors. The animal developed PKD legions that eventually pro-gressed into ESRD. Our model allows efficient screening of drugs for PKD, particularly targeting an mTOR pathway 【研究計画・方法等】

We generated several Tsc1 ablation mouse lines through recombination between floxed Tsc1 and various promotors. Among these, we unexpectedly found that Tsc1 is inacti-vated in a segment of the renal tubule using a Cre-driven by our original promotor (cd79a Cre).

Tissue preparation

Mice were anesthetized and the kidneys tissue were removed. Slice the right kidney into halves by cross- sectioning, placed one half into 10% neutralized formalin to make a paraffin-embedded section for immunohistochemistry staining, the other half was embedded into OTC compound and kept in –80°C freezer for immunofluorescence staining. The left kidney was cut vertically, the large piece was fixed into 10% neutralized formalin and the remained tissue was frozen in liquid nitrogen and stored at –80°C for Western blot analyses. Serum creatinine was measured using the

7180 Hitachi clinical analysis.

Morphology analysis

Paraffin-embedded sections were stained with hematoxylin and eosin. For morphometric assessment, both coronal and transverse sections were used to quantitate the severity of cystogenesis. The cystic percentage was measured as a ratio of cystic area to a total kidney section area. The process was performed by Image J software (NIH, Bethesda, MD).

Immunofluorescence experiments

Five-micrometer-thick cryosections of kidney tissue from the wild-type and Tsc1knockout mice which were embed-ded in the OCT compound were fixed in 4% paraformalde-hyde in phosphate-buffered saline (PBS) for 20 minutes at room temperature. After that slides were washed with PBS for 5 min then blocked in 5%BAS in PBS for 1 hour at room temperature followed by staining with first antibodies: Living colors DsRed polyclonal antibody (1:100, Takara, 632496) diluted in 1%BSA, 0.3%Triton X in PBS for over-night at 4°C in a moist chamber. Then the corresponding secondary antibody was added into the tissue and incubate at RT for 1 hour. Nuclei were counterstained using Hochest (1:1000) for 15 minutes at room temperature. Slides were coverslipped with anti-fade mounting media All images were acquired using identical gain settings on the ZEISS LSM 700 Confocal Laser Scanning Microscope

Immunohistochemical staining procedure

Paraffin-embedded sections were treated with four changes of xylene to remove paraffin wax then put in 100% alcohol that helps in dehydration of the tissue. Slides were then treated with 3% hydrogen peroxide in methanol for 10 min to block endogenous peroxidase. Then the slides were dipped in two changes of TBST for 5 min each after that blocking with 1% Bovine serum albumin/0.05MTBST pH7.6 with 0.015M sodium azide. Then staining with the primary antibody: PCNA and pS6 which was diluted in TBST overnight at 4°C in a moist chamber. Following day primary antibody was added the slides were washed in three changes of TBST for 5 min in each change. Then, a drop of Biotnylated link from the secondary antibody kit (DAKO LSAB 2 KIT) was added on both the sections on the slides, and slides were incubated for 10 min in a moist chamber. Later slides were washed in 3 changes of TBST. Then a drop of Streptavidin (DAKO LSAB 2 KIT) was added on both the tissues on the slide and incubated for 10 min. The slides were then washed in three changes of TBST. Then DAB working solution was added to both sections. Slides were then washed in running distilled water to remove

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excess DAB and were counterstained with hematoxylin. Slides were then observed under the microscope.

Tunel assay

Paraffin sections from transgenic mice and age-matched controls were deparaffinized and hydrated in alcohol. Slices were incubated for 15 min at RT with 20 μg/ml Proteinase K in PBS. Endogenous peroxidase was blocked with 2%H2O2 for 5 min. The slides were washed in three changes of PBS. Then 2 drops of Equilibration buffer (ApopTad Kit) were added on the section. After that slices were incu-bated for 60 min in TdT reaction solution (ApopTad Kit) at 37°C in moist chamber followed by Stop/wash buffer (ApopTad Kit) for 30 min. Sections were counterstained with anti-digoxigenin-peroxidase. Apoptotic cells were quantitated by counting the number of stained tubular nuclei per mm2 of tissue.

Western blot

For western blot analysis, frozen kidneys were homo-genized in lysis buffer solution included 50 mM Tris HCl pH 7.5, 150 mM NaCl, 1% NP40, 0.1% SDS, 1 mM EDTA, 10 mM NaF, protease inhibitor( ). Total lysates were then centrifuged at 12000 rpm for 20 min and the supernatant was collected. Bradford protein assay is using to quantify the concentration and Laemmli buffer X4 was added to the samples. Proteins were next loaded onto a NuPAGE 4–12% Bis–Tris gel and then transferred to PVDF membranes. Then we blocked membranes with 5% skim milk in PBS, Tween 20 (PBS-T). All the primary antibodies used for western blot analysis were diluted in 3% skim milk. HRP-conjugated secondary antibodies were diluted 1:10000 in 1% skim milk. Signals were detected by ECL-plus (Amersham) on a LAS4000 min.

【研究成果】

Lineage tracing of Cd79a-expressing cells in the mouse kidney

To determine where the mb1 lineage cells existed in the embryonic mouse. Immunohistochemistry of cd79a reveals mb1 cells in the spleen, liver, and kidney particularly some tubular epithelial cells are positive. These results suggest that mb1 lineage constitutes in both B cell lineage and nephron progenitors. To exclude the contamination of B cell lineage in kidney and traced mb1 expressing cells in adult mouse we used the stop-LacZ and Rosa26-stop-RFP mouse. Immunofluorescence staining of Tsc1f/f kidney sections from 9-day mice was performed to localiza-tion of RFP in a different segment of the nephron. These immunofluorescences analyzed reveals that RFP is limited

expressed in tubular regions in the cortex.

Phenotype of PKD mouse model

PKD model mice Tsc1f/f were generated by both Tsc1 alleles are flanked by two LoxP with identified mb1 Cre which was activated in epithelial tubular starting at E9.5– 10.5. Tsc1f/f mice do not show embryonic lethality. Kaplan Meier analysis is used to estimate the average mortality for control compares with the female and male TSC1 mice. These were detected at similar rates in both male and female cohorts. In addition, Tsc1 mutant mice were born with nor-mal morphology similar to that of their control littermates. By 4 to 12 weeks of age, the Tsc1KO mice spontaneously developed abdominal distension¸ and more aggressive and expansive at P119 which were significantly bigger in size which reflected by kidney weight/body weights ratio were higher compared to their Tsc1 control littermates.

Loss of Tsc1 increase the activation of mTORC1

Various Tsc1 mouse model has been generated which general show mTORC1 signaling is involved in the cysto-genesis. To confirm that we first examined mTORC1 activ-ity by immunihistochemistry staining for phosphorylated S6 (a ribosomal protein that is a downstream effector of mTORC1 signaling) in 9 week-old mice compared with that in 13 week-old mice which were detected in most tubu-lar epithelial cell in the Tsc1KO kidney. The mTORC1 acti vation remained low in control kidney at but signifi-cantly increase in the mutants. Moreover, when evaluating pS6 expression from the same mouse sample, we found that pS6 was detected with different density signal at different area in all tubular cells including dilation and non-dilation. At P13 weeks, in the inner cortex where the initial cysts were observed, dilation tubular often being higher pS6 levels than in the medulla where cysts extremely dilation and lined with flat epithelial cells. In addition, in tumor like structure have substantially high levels pS6 expression. This suggested that mTORC1 exhibits variable amounts of pS6 in different stage development of cysts. Collectively, these results demonstrated that mTORC1 signaling gradu-ally increased activity in all of the epithelium tubular in TSC1 mice, and having the crucial role in the cystic pro-gression.

【課題点・問題点】

There are many logistical issues surrounding the research process that need to be addressed, with me as a clinical doctor and did not have a chance to work at the laboratory before. Thus, I have to face the difficulty of learning and practicing the technique for the first time and translating the

図 2 ErbB4 を過剰発現した心臓は,壁の菲薄化,および心

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