1 「対話」によるさまざまな知の創発を目指す本誌も 11 号を迎えることとなった。無事に刊行の運 びとなったのも、先人が残した足跡のおかげである。 今号の特集は「『病いの語り』再考」である。ことを今一度考え直すというからには,これまでに 抱かれてきた何かしらの通説に問いを投げかける必要がある。本特集では 3 つの問いが投げかけら れている。1 つ目の問いかけは,病いを患う者が語り手となり,治療をおこなう者が聞き手になると いう構図が私たちに馴染みのものとなっているのではないか,というもの。2 つ目の問いかけは,研 究上の語り手が,発症や治癒までに長い時間のかかる疾患,慢性疾患を抱えて生きる人々に偏ってき たのではないか,というもの。そして最後の問いかけは,病いを受け入れ,克服していく患者像を理 想化する思想的,社会的な言説が病いを抱えて生きる人々のさまざまな声を抑圧することになってい るのではないか,というものである。この 3 つの問いかけに応答するかたちで 3 つの論考が寄せら れている。いずれの論考も「病いの語り」という主題を広い視野をもって考え直すきっかけを与えて くれる。 展望論文は「質的研究の評価をどう考えるか」と題して能智正博先生に論考を寄せて頂いた。質的 研究のための APA スタンダード(JARS-Qual)の発表は,質的研究を論文にしていく際の具体的な 見取り図や評価の指針を私たちに与えてくれた。その一方で質的研究の生い立ちを振り返るならば, スタンダードの公表は質的研究のもともとの志向と折り合いが悪いようにも感じられる。スタンダー ドに囚われないことが質的研究の 1 つの醍醐味とも考えられるからだ。こういった観点からも今号 の展望論文は質的研究の今後のあり方についての示唆に富む内容になっている。 「パイオニアに聞く」の語り手は山本登志哉先生にお願いした。本文に登場する「自信をもって馬 鹿になってほしい」という言葉が印象に残る。むつかしい話を聞いて相手に「なに言ってんの?」と 素朴に聞き返す。実はその人もよく分からないで話をしていたことが見えてくる。お互いにかっこつ けることなく率直に分からなさを伝えあっていくと,ふとした瞬間に新たな思考の筋道がみつかるこ とがある。 「良質な対話」を編集方針に掲げる本誌も,読者が自信を持って馬鹿になれる場になるといい。 日本質的心理学会『質的心理学フォーラム』編集委員長 横山草介
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