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イラショナルキャリアビリーフの概念についての探索的研究

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産業カウンセリング研究 2020年 第22巻 第1号 15-24 The Japanese Industrial Counseling 2020 Vol.22 (1) 15-24

資料

イラショナルキャリアビリーフの概念についての探索的研究

An Exploratory Study of Irrational Career Belief Constructs

森本 康太郎(大阪国際大学)

Kotaro MORIMOTO(Osaka International University)

【要約】 本研究では,REBT を用いたキャリア支援の具体化に向けた基礎的データを提示することを目的とし,就職活動 を経験したが内々定を獲得できていない大学 4 年次生を対象に半構造化面接を行い,イラショナルキャリアビリ ーフの構成概念を探索的に検討した。発言内容を分析し,「自己の価値下げ」,「自分らしさの隠伏」,「就活の無 駄」,「楽な就職」,「環境依存」,「受験者尊重」の 6 のカテゴリーを設定した。また,各カテゴリーについて, REBT におけるイラショナルビリーフの分類である,1)絶対的要求,2)過剰な恐れ,3)価値の全否定・人とし ての包括的評価,4)低い欲求不満耐性,との対応を検討した。これらのうち,就職活動そのものに関連する内容 としてとらえられるビリーフへの介入は,学生が就職活動に臨むうえで現実を認識し受容するうえで有用である と考えられる。また,「自己の価値下げ」は REBT の無条件の自己受容と関連させ,ライフキャリアの支援という 視点から取り上げることができる。本研究の結果は,今後 REBT の技法体系を適用したイラショナルキャリアビ リーフに介入するキャリア支援の具体化や尺度作成の際に,基礎的資料として活用することが可能と考えられる。 キーワード:キャリア支援 イラショナルビリーフ REBT 論理療法 論理情動行動療法 Abstract

This exploratory study examines irrational career belief constructs. A semi-structured interview was conducted with five university students who did not obtain successful job offers despite their employment-seeking activities. Based on this data, the analysis constructed six categories: disvalued as a human being, concealed identity, futility of employment-seeking activities, ease in getting job offers, dependence on circumstances, and respect for applicants. In addition, the relationships between these categories and Rational Emotive Behavior Therapy’s (REBT’s) classification of irrational beliefs as“absolute demands,”“awfulizing,”“depreciation,”and “discomfort intolerance”were examined. Five categories were directly related to employment-seeking activities, therefore, intervention is necessary to help students understand and accept the real conditions and circumstances in the job-hunting market. The category of “disvalued as a human being” was associated with REBT’s unconditional self-acceptance which should be understood from a perspective of life career support. The implications of this study could be used as information to help develop a technique and an assessment tool to intervene irrational career beliefs for career support and career counseling based on REBT method.

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問題と目的 わが国における大学生の就職活動は,精神的な過 酷さを伴う(例えば輕部・佐藤・杉江,2015)。不 採用経験によって,ストレス,挫折感,不安,抑う つなど様々な影響を受け(北見・森・茂木,2009), 実際に「就活うつ」や「就職失敗による自殺」の増 加などの現象も見られる(李,2013)。また,ひき こもり者1,134人を対象とした調査(京都府, 2017) では,30代のひきこもり者のうち12%が,ひきこも りのきっかけが「就職活動がうまくいかなかったこ と」を理由として回答している。最近では人手不足 を背景に大学生にとって有利な売り手市場が続いて いると言われているが(例えば東京新聞,2019), すべての学生が内定を獲得している訳ではない。マ イナビの調査によると,2019年8月末時点で内々定 率は82.6%だったが,未内定者を含めて就職活動を 継続する学生は28.6%に上っている。これより約3 人に1人は自分が納得できる進路選択のために模索 を続けていることがわかる。雇用情勢の如何に関わ らず,常に一定数の学生が就職に苦労を抱えている ことを踏まえると,就職という青年期の大きな進路 選択に対して,有効な支援が行われる必要があると いえよう。 そこで本稿では,学生の進路選択や就職活動を含 めたキャリア形成の支援を考えるにあたり,認知行 動アプローチの有効性に着目し,なかでも認知行動 療法の一つ に数え られるRational Emotive Behavior Therapy(以下REBT:論理療法,論理情動行動療法) (Ellis, 1994; 1996)の適用を念頭に置く。その理由 としては,①治療仮説や効果のエビデンスが蓄積さ れている(例えばDavid, Szentagotai, Eva, & Macavei, 2005),②介入ターゲットのビリーフは操作可能な 認知的変数である,③ABCモデル(Ellis, 1996)で 構造化され支援者が活用しやすい,の三点があげら れ,有効な支援の具体化が可能と考えられるからで ある。その証左としてこれまで,キャリアカウンセ リングやキャリア支援におけるREBTの活用が提唱 されてきた(例えばDryden, 1979 ; Richman, 1993 ; Ogbuanya, Eseadi, Orji, Anyanwu, Joachim, & Otu, 2018)。REBTによる支援では,イラショナルビリー フへの介入により,キャリア選択やキャリア形成の 阻害となる感情的問題や行動的問題の軽減を目指す。 この手法を用いたキャリア支援を実行するうえでは, イラショナルビリーフのアセスメントと特定化が重 要となる。そのためのビリーフのアセスメントツー ル と し て は , Career Beliefs Inventory ( Krumboltz, 1991; 1994),Chinese Career Beliefs Checklist(Liu, 2004)Career Beliefs Pattern Scale(Arulmani, Laar, &

Easton, 2003 ) な ど が 開 発 さ れ て い る 。 な か で も Career Beliefs Inventory(以下CBI)は,キャリアビ リーフを扱った実証研究において最も多く使用され て き た 尺 度 で あ る ( 例 え ば , Naylor & Krumboltz, 1994 ; Krumboltz & Vosvick, 1996 ; Porat, Marshall, & Howell, 1997 ; Mahadevan, 2003 ; Liu, 2004 ; Hess, Tracey, Nota, Ferrari, & Soresi, 2009 ; Turner, Ziebel, & Conkel, 2011など)。それは,キャリアに関する尺 度の多くが進路意思決定に関する事柄をアセスメン トするのに対し,CBIは,キャリア上の目標達成を 阻害する障壁を捉えようとする点において,クライ エントが一旦進路選択を行ったり,これから決断し ようとする時点でカウンセラーが用いることで,有 効な支援につなげることができる(Levinson, Ohler, Caswell, & Kiewra, 1998)点や,キャリアカウンセリ ングの実践に対して理論的客観性をもたらすものと し て 潜 在 的 価 値 を 有 し て い る ( Fuqua & Newman, 1994)という点を持つからであろう。 一 方 で CBI は , REBT に お け る ビ リ ー フ と Krumboltz(1994)が指すビリーフの意味との間に 不明確な点と曖昧さが残っている(Walsh, 1994) という課題が未解決である。そのため,REBTの手 法を用いてキャリアビリーフにアプローチするため には,キャリアビリーフをREBTの理論的基盤に基 づき,イラショナリティ/不合理さの観点から捉え 直して整理することが必要であると考えられる。 REBTでは,イラショナルビリーフには,「推論的 ビリーフ」と「評価的ビリーフ」の2層があるとさ れている(Walen, DiGiuseppe, & Dryden, 1992)。1層 目の推論的ビリーフは,認知療法での自動思考と類 似しているもので,ある出来事についての,現実か ら得られるデータ以上に意味づけられた,一つの判 断である。これは感情的混乱を引き起こす必要条件 だが,十分条件ではないと考えられている(Walen, et al., 1992)。他方,2層目の評価的ビリーフは,単 にイラショナルビリーフと呼ばれることもあり,出 来事に対する良し悪しの判断,価値の格付け,価値 判断を表し,好き嫌い,愛と憎しみ,志向が反映さ れたものである。評価的ビリーフは,生活上のルー ルや人生哲学となっている。そのため通常は自覚し にくいものだが,感情的混乱を引き起こす元凶であ ると考えられている(Walen, et al., 1992)。評価的 ビリーフは,1)絶対的要求,2)過剰な恐れ,3) 価値の全否定,人としての包括的評価,4)低い欲 求不満耐性,の4種類に分類される(Table 1)。こ のような分類を参照することは,キャリアビリーフ の概念を再検討する際に有用であろう。

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Table 1 REBTにおけるイラショナルビリーフの分類 また,わが国ではキャリアに関連したビリーフに ついての研究は,浦上(2001),本多(2008),森本 (2018)にとどまっている。その理由の一つとして, キャリア支援の実践場面で使用できるイラショナル なキャリアビリーフを査定するための尺度やアセス メントツールが,本邦ではまだ存在していないこと があげられる。REBTを用いたキャリア支援を実践 するためには,まず大学生がどのような就職活動の 妨げとなるイラショナルキャリアビリーフを持って いるのかを把握することが不可欠である。そのこと によって,就職活動の妨げとなるネガティブな要因 について検討していくことが可能となるであろう。 以上より本稿では,イラショナルなキャリアビリ ーフの概念に着目し,REBTの技法体系を用いたキ ャリア支援の方法論を具体化するための,基礎的デ ータを提示することを目的とする。このデータは, イラショナルキャリアビリーフを査定する尺度作成 の際に,基礎的資料となりうる。そのために,就職 活動を経験したが内々定を獲得できていない大学4 年次生を対象に半構造化面接を行い,イラショナル なキャリアビリーフの概念を探索的に検討し,構成 概念の検討を試みる。 方法 調査対象者 就職活動が思うようにいかないことで 精神的なつらさを経験する学生の存在が明らかであ り(例えば労働政策研究・研修機構, 2006),その ような学生に対する有効な支援方法を検討する必要 がある。そこで本研究では,就職活動を経験したが 企業から内々定を獲得していないX大学の4年次生5 名を調査対象者とした。この5名は,3か月~4か月 間就職活動を行い,うち1次面接を受験した者が4名, 2次面接を受験した者が3名であった。 調査時期 2019年6月~7月 データ収集の手順 事前に準備したインタビューガ イド(Table 2)に基づいた半構造化インタビュー を実施した。インタビューはX大学内で研究者自身 によって行われれ,平均時間は42分間であった。イ ンタビュー内容はICレコーダーで録音され,発語内 容は逐語録として作成された。 データ分析の手順 ①テキストを繰り返し読み込み, 就職活動の停滞や進展が阻害されている内容,就職 活動中に経験したネガティブ感情に代表されるスト レス反応について,該当する発話部分を抽出した。 ②その発話部分について内容分析を行い,構成要素 を整理してカテゴリー化を行った。③各カテゴリー について,REBTにおけるイラショナルビリーフの 分類(Table 1)との対応を検討した。 倫理的配慮 本研究は,Z大学大学院心理学研究科研 究・教育倫理委員会による審査を受け,プライバシ ーの保護や機密性の保持のもと調査協力者の同意を 得た調査として承認されている(承認番号第115号)。 評価的ビリーフの種類 派生形態 絶対的要求 ~ねばならない 過剰な恐れ ~になったらおしまいだ,~になったら終わりだ 価値の全否定・ 人としての包括的評価 ~な人間は価値がない,~な人間は意味がない 低い欲求不満耐性 ~は我慢できない,~は耐えられない   Walen, et al.(1992), 加濃(2013)より作成

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Table 2 インタビューガイド 1. 就職活動に対して持っていたイメージ 2. どのような就職・就職活動が理想的だと考えているか 3. 就職活動をしていて,うれしかったことや楽しかったこと 4. 就職活動をしていて,ストレスだと感じたこと 5. 就職活動をしていた時の,不安や迷い 6. ネガティブな感情を経験した時に,どのような考え方をしているか 7. 就職活動中のストレスにはどのように対応しているか 8. 就職活動は,自分にとってどのような意味があるか 9. その他 結果と考察 発言内容を分析し,キャリアについてのイラショ ナルビリーフに関連すると考えられる29の発言内容 が抽出された。それらを検討し,6のカテゴリーを 設定し,各名称を「自己の価値下げ」,「自分らしさ の隠伏」,「就活の無駄」,「楽な就職」,「環境依存」, 「受験者尊重」と名付けた(Table 3)。次に,各カ テゴリーがREBTにおけるイラショナルビリーフの 分類とどのように対応するかを検討した。以下,そ れぞれのカテゴリーの内容について記述する。 イラショナルキャリアビリーフのカテゴリー (1)自己の価値下げ このカテゴリーは,就職活動を続けているにも関 わらず企業から内々定を獲得することができない状 態にある自分は,企業の需要に見合わないために価 値がない,無能な人間であるというビリーフとして まとめられた。つまり,内々定が出ていない自分は 需要がなく売れ残りの人材であり,そのような人間 は出来損ないであるという考えを表している。そし てこの考えは,人間としての価値のなさに結び付け られ,そのような人間は生きている意味がないとい う発言につながっていた。「死」のような強い否定 的な表現も示されたことからも,発言者が就職活動 で思うような成果を得られないことで抱える苦労や つらさ,強いストレスを持つ状態がうかがわれる。 本来的には,就職活動における結果と,人としての 総体的価値に関連性はない。しかしこのビリーフは, 真剣に就職活動に取り組み自らの目標や希望を達成 することが,人間としての優位性や価値を示すこと の条件であるという考えを示していると考えられる。 (2)自分らしさの隠伏 このカテゴリーは,就職活動で成果を残すために は本当の自分らしさを隠したり,偽らなければなら ない,というビリーフとしてまとめられた。就職活 動において,採用されやすい人物として企業側に認 識されるためには,本来の自分の個性を出すのでは なく,表面的に就活向けの自分,いわば「よそ行き の自分」を演じる必要があるという認知として捉え られた。具体的には,エントリーシートや履歴書, 面接において本当に自分が考えていることを表現す るのではなく,企業の採用側に良い評価を得られる ような内容に仕立て上げる,あるいは流通している 就活テクニック的な形式に則って体裁を整えるとい った行動に結びつく。結果として,自分が思ってい ないことを書いたり言ったりすることへの疑心や, 就職活動そのものに対する不全感に至っていること がうかがえる。 (3)就活の無駄 就職活動に取り組むために必要となる時間や労力, お金の負担がすべて無駄なもので意義を感じられな い,というビリーフを表すカテゴリーとしてまとめ られた。これは,就職活動を開始する前の学生生活 では経験することのなかった時間や労力,金銭的な 負担感を,就職するための準備として受け入れるこ との難しさにつながっていると推察される。見通し を持ちにくく,大学生活のペースを乱されるだけの 意義を就職活動に見出すことは難しく,負担感や徒 労感が先に立ってしまうことがうかがわれる。結果 として,就職活動を無駄なものとして認識し,活動 に対する意欲の低減を招いていることが考えられる。 (4)楽な就職 特に明確な根拠や見通しがある訳ではないが,自 分は苦労なく,楽に就職できるだろう,というビリ ーフを示すカテゴリーとしてまとめられた。この考 え方には,進路就職に関する探索行動が十分に行わ れず,進路決定に向けた意識が高まらない状態で就

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職活動の時期を迎えている背景があると推察できる。 現実を吟味して直視する作業を経ず,独りよがりの 思い込みで何となく自分も就職できるだろうという ビリーフとしてとらえられる。結果として,自分が 思っていたような状況とは異なり,内々定を獲得す るまでには一定の労力や時間を必要とし,受験先に よっては採用試験に合格することが難しいという事 実に遭遇し,活動の停滞や不適応感情を経験するこ とにつながることがうかがわれる。 (5)環境依存 このカテゴリーは,就職活動や進路決定に関する 親や他人への依存の必要性を表し,自分自身の責任 というよりは,運や環境の良し悪しで就職活動の結 果が決まるというビリーフとしてとらえられた。こ こからは,環境に対して自らが働きかける力の低さ がうかがわれ,自己決定の意識や主体性の低さも推 察される。あるいは,活動がうまくいかない理由を 自分の行動ではなく,主に環境に対して求める傾向 もあるかも知れない。結果として,活動や決定に対 して無力感を持ち,不適応的感情を引き起こすこと につながる可能性を示している。 (6)受験者尊重 採用試験を受ける学生は,企業側から大切に扱わ れ尊重されるべきであるという考えを表すカテゴリ ーとしてまとめられた。ぞんざいに扱われたような 気持ちや,企業側に横柄な態度を取られたという意 識につながった場合,それは怒りの感情を引き起こ す要因になることが発言内容から示された。ある意 味,健全な反応であるとも言えるが,採用側に完璧 な尊重を求めるような要求を持つ場合は,イラショ ナルビリーフとしてネガティブな結果を引き起こす ことにつながると予想される。 REBTのイラショナルビリーフ分類との対応 本研究では,これらのREBTにおける整理に則っ た形式で,上述の6カテゴリーとイラショナルビリ ーフである評価的ビリーフとの対応について考察す る。 「自己の価値下げ」は,本来的には別個である就 職活動の成否と人間としての総体的な価値をつなげ ている。これは,「価値の全否定・人としての包括 的 評 価 」 の イ ラ シ ョ ナ ル ビ リ ー フ に 該 当 す る 。 REBTではこのビリーフは,人と比較して,自分は 存在価値がないとか,他者より劣っていると考えを 意味する。Ellis(1994)は,人間の存在は常に変化 し続けるプロセスであり,人間の本質的な価値や値 打ちといったものは実際に測定することができない と述べている。そして,我々は自分の行動,思考, 感情に対する評価と自分の存在,本質,全体性の評 価を混同してしまう傾向を持っているために,イラ ショナルビリーフを変えることによって自己卑下を 減少させることができるとしている。 「自分らしさの隠伏」は,本当の自分を表現する ことが就職活動のうえで不利に働くというビリーフ を示しているが,これは「過剰な恐れ」のイラショ ナルビリーフに対応すると推察される。つまり,グ ループディスカッションや面接試験において高い評 価を得るためには,普段の自分を押し殺し,就職活 動向けの取り繕った自分を表現しておかなければい けないという恐れとの関連性が考えられる。また, 本来の素顔の自分は,就職試験では通用せず評価を 得られないのではないかという,自己卑下に類する 発言も,過剰な恐れを反映したものであるとうかが われる。 「就職の無駄」と「環境依存」のカテゴリーは, 「低い欲求不満耐性」のイラショナルビリーフとの 関連性が考えられる。この「低い欲求不満耐性」と は,きっかけとなる不快な出来事には耐えられない ため,安易さや快適さを要求するビリーフである (Walen, et al., 1992)。就職活動を進めていくうえ で自分が置かれた環境に対して,快適性の強い希求 や,大きな苦労なく楽に進められて望む結果を手に したいという願望といった考えは,不快な環境に対 する耐性の低さに起因するものである可能性が考え られる。 「受験者尊重」は,「絶対的要求」というビリー フとの関連性が考えられる。受験者は,いつでも必 ず尊重され大切に扱われるべきである,という強い ビリーフを持つことで,現実がそうでない場合は, 怒りの感情を持つことが予想される。 「楽な就職」は,4つのイラショナルビリーフと の対応は想定されなかった。しかし,このビリーフ は,就職や就職活動に対する根拠のない思い込みや 誤解として捉えられ,非現実的な楽観性ともいえる もので,就職活動の妨げとなる可能性がある。学生 の支援を行う際には,このような現実に基づかない 思い込みに類するイラショナルビリーフに留意して おく必要があるだろう。

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Table 3 インタビューによる発言の整理とカテゴリー化 カテゴリー 発言 自己の価値下げ ・自分って,需要あるんかなってめっちゃ思いました。生きてていいんかな,とか。(D) ・自分って本当に需要ないな,生きてる価値ないなって。思うタイプなんですよ。内定が出てない自分は,なんか  出来損ないみたいな。(D) ・価値がない自分は,今すぐ死んでもいいかなと。321パタって死んでも何の後悔もないと思いました。(D) ・周りと比べると,自分は売れ残りだと思うんで。(D) ・就活中に気づいたことは,自分の無能さ。(E) ・就職できない自分は「くそ」やなって思います。(E) ・自分がこんなにできひん人間だとは思わなかったです。(E) 自分らしさの隠伏 ・志望動機とか,ほんまに思ってない人の方が多いと思うんですよ。ぶっちゃけ。周りから聞いててもそうですし。  そうしないとみんな就職できないから,就職部とか使って書かされてるっていうか書いてると思うんで。そういう  やり方が気に食わなくて。(A) ・志望動機とかに関しては,ぶっちゃけフォーマットに合わせてやるしかないかなと。自分の本心を隠しながら,  それを本気のように見せて。受けていくしかないのかなあと,あきらめの気持ちもあります。(A) ・自分は他の人と結構違う部分があるけど,就活ではそれを隠しながら面接とかを受けているんで。(E) ・本当の自分の考えは世間で通用しないと思っています。(E) ・働いていくためには,自分の考えを偽っていかなければならないんで。(E) 就活の無駄 ・別に一生働く訳でもないのに,めちゃめちゃ考え込んで就職活動する意味あるのかなって,個人的に思う。(A) ・興味があるところはあるんですけど。それをいっぱい調べたりとか,説明会とかに行くっていうのが  面倒くさくて。(B) ・なんか,その説明会に行くまでに,準備もあるじゃないですか。その準備が面倒くさい。(B) ・(就職活動を始めてから)それはずっと。面倒くさい。(C) ・(選考が)3回あるっていうのが面倒くさい。(C) ・時間の無駄になることが最もストレス。(E) ・時間もお金もかかる就活という行為自体がストレス。(E) 楽な就職 ・でも自分は自分だし。結構、ポジティブというか、もともと。自己肯定感が強くて。自分が正しい,正しいと  思うんですけど。(A) ・自分のやりたいことが決まっていれば、そういうところの説明会にポンポンと行って、早めの段階で決めたいと  思ってたんですけど。(B) ・すぐ終わると思ってたから。(C) ・行ったら受かると思ってたんで。(C) ・最終的にはどこかに受かるだろうとは思っています。(E) 環境依存 ・今までその,大学に入るとか高校に行くのも,母親がここがいいんじゃないの,いろんな話を聞いてくれて  助言してくれたというのがあったんですけど。ここの大学も決めて入ったんですけど。いま,母親が亡くなって  自分で全部しなきゃいけなくなって,できないというか。自分でもするっていう,決断力がないというか。(B) ・就活は運だと思う。(E) 受験者尊重 ・合否出る時に,落ちたら連絡せえへん,みたいのあるじゃないですか。なんでかなあって。落ちた人にも  連絡すべきじゃないですか。大体コンサートの登録って両方出るじゃないですか。それが普通と思ってたんで。  忙しいだけじゃないですか,向こう。ずっと思ってます。それが一番いやなことです。(C) ・他の受験者と比べて自分がぞんざいな対応をされた時,「死ね」と思いました。(E)  

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総合考察 本研究では,主に就職活動の側面よりキャリアに 関するイラショナルビリーフを探るために,就職活 動を経験したが内々定を獲得できていない大学4年 次生を対象に面接を行った。発言内容より,イラシ ョナルビリーフとして6カテゴリーが抽出され,う ち5カテゴリーについてREBTにおけるイラショナル ビリーフの分類との対応が示された。 第一に,「自分らしさの隠伏」「就活の無駄」「楽 な就職」「環境依存」「受験者尊重」の各カテゴリー は,就職活動そのものに関連する内容として理解す ることができる。学生が就職活動に臨むうえで現実 を認識し受容することや,実際に就職活動で経験す る事柄の受け止めることについて,必要に応じた理 解の促進を図るためにはこれらのビリーフの点検を 行うことが効果的であると考えられる。あるいは, 現実的に就職試験を突破し内々定を獲得していくた めに有効なノウハウや方略を実践するうえでも,ビ リーフを柔軟なものに変えていくことは就職活動の 円滑な遂行に役立つであろう。これらのビリーフへ の介入は,就職活動に取り組む前の予防的な実施と, 実際に就職活動が開始してから課題を持った場合の 対処的な実施の両面において検討することが可能で ある。 第二に,「自己の価値下げ」カテゴリーは,就職 活動のみならず日常生活全般に関わるビリーフとし て理解することができる。REBTでは,無条件の自 己受容(Unconditional Self -Acceptance: USA)が重 視されている。これは,行動や業績に対する評価と 人間としての価値を関連づけないことを意味する。 USAは,自分自身に対して一人の人間としての包括 的な評価を下したり,価値下げを行うことをやめ, 自分を不完全な存在として条件なしに受け入れるこ とを目指すものである。USAの実践は簡単なもので はないかも知れないが,進路就職の問題のみならず, 生活全体や人生にかかわるビリーフをラショナルな ものにしていくことは,ライフキャリアの支援とい う視点から重要であろう。 第三に,REBTの理論的基盤におけるイラショナ ルビリーフの概念とキャリアに関するビリーフの関 連性を示すことができた。このことにより,実際に REBTの技法を用いてキャリア支援での介入を実践 する場合,本研究で示した結果を参照しながらイラ ショナルビリーフの探索や査定を行うことが可能で ある。REBTではできるだけ早い段階で不適応行動 を支えているイラショナルで強固な極端なビリーフ に焦点を置く(Neenan & Dryden, 2006)という特徴

があり,すみやかなビリーフの特定に本研究の結果 が活用できるだろう。 Ellisは,ビリーフを,論理性を持ち,正誤が判定 できる「推論」と,「良い」「悪い」という善悪の判 断を下す「評価」とに分け,凝り固まった極端な評 価こそが感情の障害を引き起こすと主張し,評価と 推論の関連を理論化した(Trower, Jones, Dryden & Casey, 2011)。これを踏まえると,キャリア上の目 標達成を阻害するような何らかの「極端な評価的要 素」を含むイラショナルなキャリアビリーフに対し てREBTを用いて介入することで,問題解決につな げることができると考えられる。また,Ellis(1994) はビリーフを単なる認知としてではなく,人生観, 価値判断,評価を含む思考を含めた,いわば人生に おける基本的な哲学や価値観を含むものとしている。 これに関連して神村(2008)は,REBTは他の認知 行動療法の理論・介入と比べて,哲学的要素,いわ ば「人間がよりたくましく生きるための指針」を示 すという特徴があると指摘している。ビリーフとい う人生哲学への直接的な働きかけは,いかに働き, いかに人生を送るべきか,どのようなキャリアが自 分にふさわしいか,といったテーマを扱うキャリア 支援の実践にとって有用であると考えられる。本研 究の結果は,今後イラショナルなキャリアビリーフ を介入ターゲットとして,REBTの技法体系を適用 したキャリア支援の具体化を図るための基礎的資料 として活用することが可能と考えられ,本研究の目 的が達成された。 本研究は,一大学の学生を対象としている点で限 界を持つ。所属する学部学科の種別,大学の設置す る地域,人数等を広げて収集した情報によって,よ り多くのイラショナルビリーフの要素を探索できた 可能性がある。また,本研究では,イラショナルビ リーフと就職活動の結果の成否の因果関係を示すこ とができない限界がある。今後,インタビュー以外 にも,自由記述法や文章完成法等による質的データ の収集も含めて,多様な情報を参照しながら,イラ ショナルなキャリアビリーフの構成概念に関する継 続検討が求められる。

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