●授賞理由 本論文では,構文木集合を表現するうえで実験的に はサイズ最小になることが示されていたゼロサプレス型 項分岐決定図(ZSDD)を CYK アルゴリズムに基づい て素朴な方法より効率的に構築する手法が提案されてい る.ZSDD については研究例がまだ少なく効率的構築も 含め解くべき課題が多いことから,今後の発展への期待 も含めて優れた研究と考える. ●アブストラクト 文脈自由文法は記号とその変換の方法を表す生成規則 からなり,記号列の解析に幅広く用いられる.例えば, 自然言語処理における構文解析や,生命情報学における RNA配列の二次構造の解析などに使われる.記号列の 構造は構文木の形で表され,構文木の集合を求める高速 なアルゴリズムとして CYK(Cocke-Younger-Kasami) アルゴリズムが知られている. 一方で,何らかの追加の制約条件を満たす構文木の集 合を求めたい場合には,CYK アルゴリズムを適用でき ない.ここで追加の制約条件とは,ある生成規則の使用 回数に制限をつけることや,特定の規則の組が同時に使 われないといった規則に関する制限のことである.この ような制約条件を考慮できると,問題分野特有の背景知 識を加味した解析が行える.例えば生命情報学において は,結合位置間の距離など構造に関する背景知識が既知 の場合にそれを考慮できる. 著者らは先行研究において,制約条件が課されたう えでの文脈自由文法による解析を,決定グラフを用いて 行う方法を示した.決定グラフとはブール関数をグラフ として簡潔に表現するデータ構造であり,ブール関数に 対するさまざまな演算を決定グラフの大きさに比例した 時間で実行できる.構文木の集合を決定グラフとして表 現することで,制約を追加するなどの演算や制約を満 たす最適な構文木の探索などを高速に実行できる.ま た,決定グラフにはいくつかの変種があるが,構文木の 集合を表現する場合にはゼロサプレス型項分岐決定グ ラフ(Zero-suppressed Sentential Decision Diagram: ZSDD)が最小になることも著者らは先行研究で実験的 に示している. 先行研究では決定グラフの大きさについての議論が された一方,効率的な構築法については言及されていな かった.決定グラフを用いて解析を行うためには構築に かかる時間も重要であるため,本研究では効率的な構築 方法について検討した.既存法ではまず構文木の集合を 表す論理式を求めたのちに,その式に沿って ZSDD 間の ブール演算を繰り返すことで所望の ZSDD をボトムアッ プに構築していた.一方,本研究では CYK アルゴリズ ムに沿って ZSDD 間のブール演算を繰り返すことで構文 木の集合を表す ZSDD を構築する方法を提案した.提 案法は既存法と比べて ZSDD 間の演算の回数を大幅に 削減することが可能であり,また実験的にも最大で数千 倍程度高速に構築できることを示した. 人工知能基本問題研究会:SIG-FPAI-105-02 2018 年 1 月 18 日
文脈自由文法による構文木の集合を表現する
決定グラフの高速な構築
網井 圭,西野 正彬,山本 章博
「2017 年度研究会優秀賞受賞論文紹介」著 者 紹 介
網井 圭(正会員) 2016年京都大学工学部情報学科卒業.2018 年同大 学院情報学研究科知能情報学専攻修士課程修了.離 散構造に関する研究に従事. 西野 正彬(正会員) 2008年京都大学大学院情報学研究科知能情報学専 攻修士課程修了.同年,日本電信電話株式会社入社. NTTサイバーソリューション研究所配属.2014 年 京都大学大学院情報学研究科知能情報学専攻博士後 期課程修了.博士(情報学).現在,NTT コミュニケー ション科学基礎研究所研究主任.アルゴリズム,自 然言語処理に関する研究に従事. 山本 章博(正会員) 1985年京都大学理学部卒業.1990 年九州大学大学 院総合理工学研究科博士課程修了.同年,北海道大 学工学部講師.同助教授を経て 2003 年より京都大 学大学院情報学研究科教授.理学博士.主として論 理プログラミングの基礎理論とその機械学習への応 用に関する研究に従事.情報処理学会,日本ソフト ウェア科学会各会員.●授賞理由 本論文では,新たなテンソル分解手法を提案した.テ ンソル分解は,高次な関係データに関する予測や補完問 題に利用されるため,さまざまな研究がなされており, 多くの手法は高階のテンソルをより階数の低いテンソル の積和で表現することで分解を達成する.一方で,本研 究で提案されるルジャンドル分解は,もとのテンソルの 一部の要素を既定パラメータとして与え,残りの要素に 関しては他のパラメータのルジャンドル変換として記述 されると仮定する.これまでのテンソル分解が,テンソ ルの素性や低ランク性を利用したものであるのに対し て,本論文のルジャンドル分解はどちらも陽には必要と しない,新たな分解手法であるといえる.本研究では, どの要素を既定パラメータとして選ぶかなど,いくつか の重要な部分に関してはまだ考察されていないが,今後, 新たなテンソル分解手法として広く利用される可能性を 含めて,重要な研究であるといえる. ●アブストラクト 行列やテンソルの分解は,多次元配列で表現された データを解析する基本的な機械学習手法であり,さまざ まな分野で用いられている.例として,コンピュータビ ジョンや推薦システム,信号処理,脳科学でのデータ 処理などがある.現在の標準的な手法として,行列に 対する NMF(Non-negative Matrix Factorization:非 負行列分解),テンソルに対する CP(CANDECOMP/ PARAFAC)分解やタッカー分解がある.CP 分解は入 力のテンソルをランク 1 テンソルの和に分解し,タッ カー分解はコアテンソルと行列の積で入力テンソルを近 似する.これまでに,行列やテンソルを分解する手法の 研究が進み,数少ないパラメータの組合せで入力を精度 良く近似するために,多くの関連手法が提案されている. しかし,このような分解技術の発展にもかかわらず,ベ クトルや行列を含む任意の次数のテンソルに対して分解 を可能とする統計理論は,いまだ確立されていない.さ らに,CP 分解やタッカー分解は,非凸最適化を含むため, 大域最適解は保証されない. 本稿では,これらの問題を解決するために,情報幾何 を用いた行列やテンソル分解の新しい枠組みを構築し, ルジャンドル分解という分解手法を提案した.提案手法 では,任意の次数の非負テンソルが,統計多様体上の(離 散)確率分布として扱われ,入力テンソルの再構築可能 なテンソルからなる部分多様体への射影として分解が実 現される.鍵となるのは,テンソルのインデックスによっ て生成される半順序構造であり,これによってテンソル を多様体上の確率分布として情報幾何的に扱うことが可 能となる. 情報幾何的性質を利用することで,提案手法は以下 のような特徴をもつ.(1)分解は必ず唯一存在し,そ こから再構成されるテンソルは入力テンソルからの Kullback–Leibler(KL)ダイバージェンスを最小化す る.(2)分解は凸最適化として定式化され,勾配法で計 算できる.さらに,自然勾配法を用いることで,より効 率的に計算できる.(3)提案手法は柔軟であり,欠損値 や 0 などを取り除いた部分テンソルに対しても適用でき る.さらに,提案手法は既存の統計モデルとも密接な関 係があり,特に,ボルツマンマシンの拡張として解釈で き,テンソル分解とグラフィカルモデルとの関係に対し て新しい見方を与える.本稿では,実験によってルジャ ンドル分解の性能を検証し,非負タッカー分解や CP 分 解と比べてより精度良くテンソルが再構成できることを 示した. 人工知能基本問題研究会:SIG-FPAI-B509-12 2018 年 3 月 16 日
テンソルのルジャンドル分解
杉山 麿人,中原 裕之,津田 宏治
著 者 紹 介
杉山 麿人(正会員) 2006年京都大学工学部情報学科卒業.2012 年同大 学院情報学研究科知能情報学専攻博士課程修了,博 士(情報学,京都大学).独マックスプランク研究 所研究員,フンボルト財団ポスドクフェロー,大阪 大学助教を経て,2017 年から国立情報学研究所准教 授.2014∼18年JSTさきがけ研究者.機械学習,デー タマイニングの研究に従事. 中原 裕之(正会員) 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課 程修了(学術博士,カリフォルニア大学サンディエ ゴ校認知科学部留学含む).1997 年より理化学研究 所(甘利研究室).2006 年,自らの研究室,理論統 合脳科学研究チーム設立.2018 年理化学研究所脳神 経科学センター学習理論・社会脳研究チームに移管. 専門は計算神経科学.主な研究テーマは意思決定と 学習,社会知性の脳計算モデル,情報幾何,ヒト fMRI 実験.また人工 知能との境界研究. 津田 宏治 1994年京都大学工学部情報工学科卒業.1996 年同 大学院工学研究科情報工学専攻修士課程修了.1998 年同博士課程修了.電子技術総合研究所入所.2000 年独 GMD FIRST 客員研究員.2003 ∼ 04 年独マッ クスプランク研究所研究員.2006 ∼ 08 年同チーム リーダー.現在,東京大学大学院新領域創成科学研 究科メディカル情報生命専攻教授.博士(工学).●授賞理由 相関ルールの前件,後件にアイテム集合の否定表現を 許容する負の相関ルールは,それを許容しない一般的な 正の相関ルールよりも多様なアイテム集合間の共起関係 を表現できるため有用性は高いが,その抽出コストは格 段に高くなる.この問題に対して,著者らのグループは アイテム集合の極小生成子から効率的に負の相関ルール を抽出する手法を過去に提案しており,本論文では,そ のキーとなる極小生成子を飽和アイテム集合からトップ ダウン,ボトムアップそれぞれの探索方向で効率的に抽 出する健全,かつ完全な三つのアルゴリズムを提案して いる.また,複数の標準的なベンチマークデータセット を用いた実証実験を通して,各提案アルゴリズムの効率 性とデータセットに対する特性を明らかにするととも に,現時点のボトルネックとそれに対する解決法のアイ ディアを示している点も高く評価できる.研究全体の完 成度も高く,今後の発展も期待できること,および,第 一著者が修士課程の学生であり若手の研究を奨励すると いう意味でも受賞候補としてふさわしいと考える. ●アブストラクト 相関ルールとは,トランザクションデータベース中 に出現するアイテム集合の共起関係を記述したものであ る.X と Y をアイテム集合とするとき,X が出現するト ランザクションの多くに Y も出現することを X → Y と 表し,正の相関ルール(以下,“正ルール”と略記)と呼ぶ. これに対して本論文では,X と Y があまり同時に出現し ない現象を表現する X → ¬Y や ¬X → Y なる形の負の相 関ルール(以下,“負ルール”と略記)を考察する.負ルー ルは正ルールでは表現が困難な共起関係を記述でき,潜 在的な関係を表現できるため極めて有用である.例えば, e1, e2, e3, …, en, ecを現在考慮しているすべてのアイテム とするとき,n−1 個の正ルール {e2}→ {ec},{e3}→ {ec}, …, {en}→{ec} 全体で表す性質は,ただ一つの負ルール ¬{e1}→{ec}でコンパクトに表現することが可能になる. 稠密なデータセット中にはこのような潜在的な関係が多 数存在している.このような負ルールを抽出するために は非頻出なアイテム集合を扱う必要がある.そのため, 正ルールに比べて探索空間が格段に大きく,また抽出さ れるルールの数も非常に多くなる.正ルールの集合は飽 和アイテム集合を用いて可逆圧縮することができるが, 負ルール集合は圧縮できない.極小生成子は飽和集合と 対となる表現で,同じ頻度をもつ真部分集合が存在しな い集合であるが,負ルール集合は,この極小生成子を用 いることで可逆圧縮できる.圧縮した負ルール集合は極 小生成子と飽和アイテム集合のペア情報から復元するこ とができるため,本研究では,負ルール集合の抽出シス テムの効率化を目的として,飽和アイテム集合から極小 生成子を高速抽出する手法を考察した. 極小生成子は飽和集合の部分集合からなる束空間を探 索して抽出するが,本論文ではボトムアップ型,トップ ダウン型ならびに混合型の 3 種類の探索抽出手法を考察 した.極小生成子と飽和集合のアイテム数の差が大きい 場合は,ボトムアップ型手法が高速であると期待される. これに対して,アイテム数の差があまりない場合,トッ プダウン型手法が高速であると期待される.ボトムアッ プ型では,要素数 k の極小生成子を探索するとき,すで に k 以下の極小生成子についてはすべて抽出されるた め,効果的な枝刈り原理が適用できる.トップダウン型 では,探索を行ったアイテム集合をハッシュ表に保存す ることによって,重複探索を抑制できる.混合型は,要 素数 1 の極小生成子のボトムアップ探索を前処理として 行うことで,探索空間の枝刈りをより積極的に行うトッ プダウン型アルゴリズムである. 実験結果より,おおむねボトムアップ型が優れている ことが確認できた.また,アイテム集合の支持度計算が 抽出計算のボトルネックになっていることが確認できた ことから,今後の課題として,支持度計算を陽には行わ ない極小生成子の抽出手法の開発があげられる. 知識ベースシステム研究会:SIG-KBS-B508-04 2017 年 11 月 24 日
負の相関ルールマイニングの効率化のための
飽和アイテム集合からの極小生成子の高速抽出
谷島 健斗,岩沼 宏治,山本 泰生
著 者 紹 介
谷島 健斗(学生会員) 2017年山梨大学工学部コンピュータ理工学科卒業. 同年,同大学院医工農学総合教育部工学専攻コン ピュータ理工学コースに入学.現在に至る.主とし て負の相関ルールマイニングの効率化,特に負の相 関ルール集合の圧縮抽出に関する研究・開発に従事. 岩沼 宏治(正会員) 1985年東北大学大学院電子及通信工学専攻修士課 程修了.現在,山梨大学大学院総合研究部教授.工 学博士.人工知能の基礎,特に非単調論理,定理自 動証明プログラム,系列データマイニングなどの研 究と開発に従事.1987,89,90,91 年本学会全国 大会優秀論文賞.2004 年 FIT 優秀論文賞.2014 年 日本ソフトウェア科学会ソフトウェア論文賞.2014 年度本学会研究会優秀賞. 山本 泰生(正会員) 2005年神戸大学大学院自然科学研究科電気電子工学 修士課程修了.2010 年総合研究大学院大学博士課 程修了.博士(情報学).2009 年より山梨大学大学 院総合研究部助教.2014 ∼ 17 年 JST さきがけ研究 員(ビッグデータ基盤領域).仮説推論,システム 生物学,データマイニングなどの研究に従事.2010 年帰納論理プログラミングに関する国際会議(ILP 2010)最優秀学生論文賞受賞.2014 年度本学会研究会優秀賞.2017 年 度日本データベース学会上林奨励賞.●授賞理由 対話システムにおいては,ユーザの状態を適切に推定 することが重要になるが,そのためには各状況における 各状態の「正解」が何であるかを決定する必要がある. その決定は第三者の主観に基づく評定によらざるを得な いことが多々あるが,評定者間・評定者内の揺らぎが問 題となる.これまで,評定者間の揺らぎを抑える方法と しては多数決などいくつかの手法が使われてきたが,本 研究では評定者内の揺らぎを扱う手法として,確率的ト ピックモデルを応用した潜在キャラクタモデルを提案 し,その有効性をエンゲージメント推定問題において一 部確認している.このモデルでは,各アノテータを複数 の判断傾向(キャラクタ)の複合と捉え,それを潜在変 数として推定を行う.他の手法との比較において課題が 残るが,評定者内の揺らぎに取り組む点でオリジナリ ティーの高い研究であること,またエンゲージメントに 限らずさまざまな問題に適用できる可能性がある汎用性 の高さとを特に評価して,本発表は授賞に値すると判断 した. ●アブストラクト 会話ロボットやスマートスピーカに見られるように, 機械と人間が対話をする場面が日常的になってきてい る.現在は,一問一答やあらかじめ用意されたパターン に基づく簡単な対話がほとんどであるが,今後は長い対 話を行えるようになることが望まれる.その場合には, 対話中のユーザの状態をシステムが正しく推定すること が重要となる.そこで本研究では,ユーザが聞き手であ るときのマルチモーダルな振舞いに基づく対話エンゲー ジメントの推定に取り組んだ.対話エンゲージメントと は,対話に対する興味や意欲を表す指標である.対話中 のエンゲージメントを推定することで,システムの振舞 いを動的に切り替えることが可能になる.ここでは,マ ルチモーダルな聞き手の振舞いとして,相づち,笑い, うなずき,視線を用いた.エンゲージメント推定を行う ためには,その正解ラベルが必要になるが,客観的にラ ベルを定義するのは困難であるため,通常は複数のアノ テータにラベルを付与してもらう.その際,エンゲージ メントの判断は主観的であるため,アノテータ間での不 一致が散見される.従来手法では多数決法などにより複 数のアノテータのラベルを統合していた.本研究では, 個々のアノテータの内部にエンゲージメントの判断傾向 を表すキャラクタが存在すると仮定する.このキャラク タを潜在変数とする階層ベイズモデルとして,潜在キャ ラクタモデルを提案した.このモデルでは,各アノテー タの判断傾向がモデル化されるため,個々のアノテータ のラベルが推定できる.これにより,例えば,想定する 会話ロボットの性格に近いアノテータの判断結果を利用 する,といったことが可能になる.評価実験では,著者 らが構築を進めている自律型アンドロイド ERICA を用 いたヒューマンロボットインタラクションコーパスの対 話データを用いた.ここでは,12 名のアノテータにエ ンゲージメントのアノテーションを行ってもらった.実 験の結果,キャラクタを考慮しない場合に比べて,提案 モデルは各アノテータのラベルをより正確に推定できる ことを示した.さらに,入力である聞き手の振舞いを自 動で検出するモデルとの統合を行い,リアルタイムでも 精度を損なわずにエンゲージメントが推定できることも 示した.今後は,エンゲージメントを推定した後のシス テムの振舞い生成について,対話データを用いた分析お よびモデルの学習に取り組む予定である.そして,実ユー ザとのやり取りを通じて,エンゲージメント推定の有効 性を検証していく. 言語・音声理解と対話処理研究会:SIG-SLUD-B508-18 2017 年 10 月 12 日
潜在キャラクタモデルによるリアルタイム対話
エンゲージメント推定
著 者 紹 介
井上 昂治(正会員) 2015年京都大学大学院情報学研究科修士課程修了. 同年,日本学術振興会特別研究員.2018 年,京都大 学大学院情報学研究科博士後期課程研究指導認定退 学.現在,京都大学大学院教務補佐員.対話システム, マルチモーダル信号処理に関する研究に従事. Lala Divesh 2015年京都大学大学院情報学研究科博士後期課程修 了.博士(情報学).同年,日本学術振興会外国人 特別研究員.現在,京都大学大学院情報学研究科特 定研究員.ヒューマンコンピュータインタラクショ ンに関する研究に従事. Milhorat Pierrick2014 年 Institut Mines-Telecom(Telecom Paris Tech)博士課程修了.2015 ∼ 17 年まで京都大学大 学院情報学研究科特定研究員.対話システムに関す る研究に従事. 高梨 克也(正会員) 2000年京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程 単位取得退学.博士(情報学).独立行政法人情報 通信研究機構専攻研究員,京都大学学術情報メディ アセンター特定助教,科学技術振興機構さきがけ専 従研究者などを経て,現在,京都大学大学院情報学 研究科研究員.主著に,『多人数インタラクション の分析手法』(オーム社,2009),『基礎から分かる 会話コミュニケーションの分析法』(ナカニシヤ出版,2016). 河原 達也(正会員) 京都大学大学院情報学研究科教授.音声情報処理, 特に音声認識および対話システムに関する研究に 従事.主著に,『音声認識システム』,『音声対話シ ステム』(いずれもオーム社,2016,2006).IEEE Fellow.情報処理学会,日本音響学会,電子情報通信 学会,言語処理学会各会員.日本学術会議連携会員.
●授賞理由 一般的な HRI 研究では,ロボットの能力を高めるこ とに主眼が置かれがちである.しかしながら,人とロボッ トがお互いに支え合い共存する社会においては,ロボッ トに対する人の手助けをいかに引き出すかという視点も 重要である.本研究は,こうした他者からの手助けを引 き出す「弱いロボット」について,人・ロボット間の会 話において,言葉足らずなロボット発話が生み出す効果 を調べたものである.ロボットが言葉足らずな発話をす ることで,対話への人の積極的な関与が増加し,また第 三者評価ではあるが,ロボットの協調性が向上したこと が報告されている.ロボットと話すモチベーションにつ いての考察が不十分なことや,ロボットの発話が固定的 なシナリオになっていることなど,課題も多くあるが, 人の関わりを積極的に引き出すことを目指した,人・ロ ボットの共存に対するユニークな試みであることを高く 評価し,授賞に当たる発表であると判断した. ●アブストラクト 「ハロー,〇〇! 今日の予定は?」,「本日は,午後 3時から 409 会議室にて,ウィークリーミーティングが あります」などの過不足のない情報交換も良いが,幼児 などとの少し言葉足らずな発話を介してのやり取りも面 白い.「今日ね,いっぱいあそんだ!」(えっ,だれと?)「き みちゃん」(へー,なにしてあそんだの?)「おえかきし たよ」(たのしかった?)「うん」……など,聞き手の手 助けと解釈が上手に引き出されて,何とかおしゃべりが 続いていく.過不足のない情報交換と比べても,むしろ 豊かなコミュニケーションを実現しているようにも思わ れる.これはどうしてなのだろうか. 人とスマートスピーカとの会話を見てみると,多くの システムは大人のようにしっかりと話すことで,過不足 のない情報交換の様相が見られる.そのため,人とシス テムは互いに十分な能力が必要とされ,相手の発話に的 確に対応することが求められてきた.これに対し,例に あげたようにコミュニケーションとして会話を考えたと き,幼児の言葉足らずな発話が備える〈不完結さ〉には, 他者を上手に巻き込み,一緒に発話をつくり上げる重要 な機能を備えていると考えられる. 著者らはこれまで〈弱いロボット〉などの不完全さを 備えたロボットと人とのインタラクションについて着目 してきた.また近年の Human-Robot Interaction 研究 では失敗するロボットにも注目が集まっている. 著者らは〈不完結さ〉が聞き手の積極的な手助けや解 釈を引き出す〈余地〉として機能することに着目し,人 とロボットとの共創的なコミュニケーションについて 探ってきた. 本稿ではロボットの発話が言葉足らずで〈不完結さ〉 を備えるとき,聞き手からどのような関与が行われるか を調べるとともに,〈弱いロボット〉の概念やミハエル・ バフチンの対話論などに依拠しつつ,ロボットの発話に 統語的制約を与える〈言葉足らずな発話〉を行うロボッ トと人とのインタラクションについて述べた. 情報が整理されているニュース記事に〈言葉足らずな 発話〉を適用する条件と,適用させずに情報が欠けるこ とがない条件を設定し,ロボットの発話に対する人の応 答について分析を行った.その結果,〈言葉足らずな発話〉 を行うロボットに対し,人は質問と会話内容を踏まえた 応答を増やし,単純な相づちを減らすことを確認した. また第三者評価より会話が協調的と評価され,人からの 積極的な関わりが行われることが示唆された. 言語・音声理解と対話処理研究会:SIG-SLUD-B509-06 2018 年 3 月 2 日
〈言葉足らずな発話〉が備える共創的
インタラクションを生み出す余地について
西脇 裕作,岡田 美智男
著 者 紹 介
西脇 裕作(学生会員) 2018年豊橋技術科学大学大学院工学研究科情報・知 能工学専攻修了.現在,同研究科情報・知能工学専 攻博士後期課程に在学中.2016 年 4 月より豊橋技術 科学大学博士課程教育リーディングプログラム履修 学生.主に,人が備える不完結さに着目したインタ ラクションデザインとそのコミュニケーション技術 への応用に関する研究に従事.日本認知科学会会員. 岡田 美智男(正会員) 1987年東北大学大学院工学研究科博士後期課程修 了,工学博士.NTT 基礎研究所,国際電気通信基 礎技術研究所(ATR)を経て,2006 年 4 月より豊 橋技術科学大学情報・知能工学系教授.専門はコ ミュニケーションの認知科学,社会的ロボティクス, ヒューマンロボットインタラクションなど.主な著 書に『弱いロボット』(医学書院,2012),『〈弱いロ ボット〉の思考』(講談社現代新書,2017)がある.●授賞理由 本論文は,遠隔環境でなされる協調学習支援システム (以下,CSCL システム)の開発・運用・分析を支援す る統合プラットフォームの開発という研究テーマを対象 としている.学習支援システムの開発者向けには,多人 数マルチモーダルインタラクションに関する知見を学習 支援ツールに組入れ可能な,言語・非言語アウェアな環 境を提供するとともに,学習者には学習ツールを活用し た言語・非言語アウェアな協調学習環境を,そして,分 析者には協調学習コミュニケーションの分析環境を提供 しており,CSCL システムライフサイクルを循環させる 基盤を実現している.本論文の中心的主題である分析支 援環境では,多人数マルチモーダルインタラクション分 析に活用可能な可視化機能を備え,さらに,データの解 釈パターンを独自に定義可能とすることで,共同注視や 相互注視といった高次なイベント情報を,データ整形作 業を要することなく抽出できる仕組みを実現している. このため,多人数マルチモーダルインタラクション分析 に必要な情報を容易に整えることができる環境が実現さ れており,遠隔環境を前提とする制限はあるものの,新 規性が高く持続的な知見の積上げに寄与する有用な協調 学習基盤が実現されている. 以上より,新規性,有効性に優れ,信頼性も担保され た将来性の高い論文であると判断し,本論文を研究会優 秀賞に推挙する. ●アブストラクト
CSCL(Computer Supported Collaborative Learning) の研究領域では,協調学習のプロセスを支援するさまざ まなシステムが提案されている.協調学習参加者は,言 葉を交わすだけではなく,他者がうなずいているのを見 ながら意見を述べたり,ノートをとっている様子を確認 して発言をいったん止めたりと,非言語情報も交換しな がら学習を進めていく.このような発話や視線,身振り といった複数の社会的シグナルからなるマルチモーダル 情報を CSCL システムが統合的に処理できるようになれ ば,特定の参加者だけで議論が展開され取り残されてい る学習者がいる,議論が膠着しているといった協調学習 の状況の把握・評価や,学習をさらに促す知的介入を実 現できる可能性がある.このような CSCL システムの実 現には,開発・運用・分析活動からなるシステムライフ サイクルにおいて,開発者と分析者が互いの専門作業に 専念できるとともに,緊密な連携により知見を持続的に 積み上げていくことが可能な基盤形成が必要となる. これまでに我々は,ネットワークを介した参加者間 の言語・非言語コミュニケーション情報を各種センシン グデバイスを用いて捉え,それを利活用できる学習支援 ツールの開発支援環境と運用環境を提案している.学習 支援ツール上でセンシングされる各種イベント(例:ホ ワイトボードツール上の説明に目を向けている)を学習 ツールメッセージとしてツール間でやり取り可能な仕組 みが備えられ,これを組み合わせてツール開発者は共同 注視や相互注視といった高次なイベント情報を解釈定義 し,これを用いた支援機能を実現できるようになってい る.本研究では,さらに分析者を支援する分析支援環境 を組み込んだ統合プラットフォームを提案している. 分析支援環境は,CSCL システム運用環境で計測され る協調学習参加者のインタラクションデータを,整形作 業を要することなくそのまま扱えるように設計されて いる.ここでは,マルチモーダルインタラクション分 析の基本機能が提供され,学習理論に基づく参加者の役 割(例:ヘルパー,オブザーバなど)を規定したうえで, マルチモーダル情報の解釈方法を宣言的に定義でき,こ れに基づいたデータ抽出機能を備えている. このような分析支援環境において分析者は,タイム ライン形式で可視化されるインタラクションデータを観 察しながら,学習者の間でやり取りされる言語・非言語 情報や,開発者が意図をもって定義した学習ツールメッ セージを組み合わせてより高次な解釈(例:ホワイトボー ドツール上でのヘルパーの説明に皆が注目している)を 積み上げていく作業に専念できる.その結果は,解釈の 根拠(宣言的情報)とともに開発者にフィードバックで きるため,開発者・分析者間の連携,意思疎通を促し, CSCLシステムライフサイクルの循環による持続的な知 見の積上げに寄与できる基盤となっている. 先進的学習科学と工学研究会:SIG-ALST-B509-06 2018 年 3 月 13 日
CSCL システムの開発・運用・分析を支援する
統合プラットフォーム
杉本 葵,林 佑樹,瀬田 和久
「2017 年度研究会優秀賞受賞論文紹介」杉本 葵(正会員) 2016年 大 阪 府 立 大 学 現 代 シ ス テ ム 科 学 域 卒 業. 2018年同大学院人間社会システム科学研究科修了. 在学中は協調学習支援や多人数インタラクションに 関する研究に従事.現在,新日鉄住金ソリューショ ンズ株式会社に勤務. 林 佑樹(正会員) 2012年名古屋大学大学大学院情報科学研究科博士後 期課程修了.博士(情報科学).2009 ∼ 12 年日本 学術振興会特別研究員,2012 ∼ 14 年成蹊大学理工 学部情報科学科助教を経て,2014 年より大阪府立大 学現代システム科学域知識情報システム学類助教. 人の知的活動の高度化を目指して,多人数インタラ クションや思考スキルに関する研究に従事.情報処 理学会,ヒューマンインタフェース学会,教育ステム情報学会各会員. 瀬田 和久(正会員) 1998年大阪大学大学院工学研究科電子工学専攻博 士後期課程修了.大阪大学産業科学研究所,大阪府 立大学総合科学部を経て,2012 年より大阪府立大 学現代システム科学域,同大学院理学系研究科教授. 2016年より同大学院人間社会システム科学研究科教 授.ソフトウェア開発支援,知的学習支援システム, オントロジー工学に関する研究に従事.博士(工学).
●授賞理由 実環境での音声認識ではある程度離れた発話を正し く認識することが必要で,特にそのピッチを推定するこ とは重要である.遠方の音声を聞き分けるうえでマイク ロホンアレーの利用は効果的であるが,昨今進展の目覚 ましい機械学習のアプローチと組み合わせたピッチ推定 において有効であるとの報告は今後の展開が期待される チャレンジである.また,事前学習に用いる信号は,収 音系にマイクロホンアレーを想定していなくとも大きな 効果があるとの指摘は興味深く,シンプルな比較を通し て明瞭な違いがわかりやすかった.今後同様のアプロー チにおいても機械学習手法のロバスト性を活用して,効 果的な学習が可能になることを示唆しており,有用性も 高いと考えられる. ●アブストラクト
Pitch estimation methods have been developed to estimate the pitch of the human voice as it conveys important information on the emotional status of the speaker. These methods perform well for speech recorded by a close talking microphone. This paper presents some preliminary experiments for pitch classification of distant speech. The proposed classifier is a deep neural network(DNN)composed of 6 fully connected layers. The input features are short-term spectrum frames(512 values)and the pitch range from 50Hz to 300Hz is linearly divided in 46 pitch classes. In addition,a class for unvoiced frames and another one for pitch values over 300Hz are also considered. The dataset consists of 42 minutes of speech from a single male speaker recorded with a distant microphone array(8 microphones)and a close talking microphone. The pitch class labels are extracted from the close talking microphone using a conventional pith estimation software. The pitch classification is performed by feeding the DNN with frames computed from either a single distant microphone or from the output of a beamformer applied to the eight distant microphones. This
beamformer sums delayed versions of the microphone signals in order to emphasize the voice. In the first experiment,with the limited amount of training data, using the beamformer output as input for the DNN resulted in worse pitch classification performance than using a single distant microphone as input. In a second experiment,the DNN was pre-trained with an additional 100 hours of close talking speech(both features and labels are extracted from the same signals). The proposed network seemed to be robust to miss-matched data as pre-training with close speech data significantly improved the classification performance of distant speech for both types of input. Then,the classification performance of the DNN was the best in the beamformer case.
AI チャレンジ研究会:SIG-Challenge-049-7 2017 年 11 月 25 日
DNN Based Pitch Estimation Using
Microphone Array
Jani Even,Carlos Toshinori Ishi,Hiroshi Ishiguro
「2017 年度研究会優秀賞受賞論文紹介」
著 者 紹 介
Even Jani(正会員) 2003年ジョゼフ・フーリエ大学大学院博士後期課程 修了.博士(工学).2004 年奈良先端科学技術大学 院大学情報科学研究科日本学術振興会外国人特別研 究員.2007 年奈良先端科学技術大学院大学情報科学 研究科ポスドク.2009 年株式会社国際電気通信基礎 技術研究所研究員.2018 年京都大学大学院情報学研 究科研究員.音響信号処理,移動ロボット,ヒュー マンロボットインタラクションなどの研究に従事. 石井 カルロス 寿憲 2001年東京大学大学院工学系研究科電子情報工学 専攻博士課程修了.博士(工学).2002 年 ATR 内 JST/CREST ESPプロジェクトの研究員として,音 声情報処理の研究に従事.2005 年 ATR 知能ロボティ クス研究所にてコミュニケーションロボットを対象 とした音声情報処理の研究に従事.2013 年より同研 究所の音環境知能研究室長として,音環境知能の研 究にも従事.ISCA,日本音響学会各会員. 石黒 浩(正会員) 1991年大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修 了.工学博士.その後,京都大学大学院情報学研究 科助教授,大阪大学大学院工学研究科教授などを経 て,2009 年より大阪大学大学院基礎工学研究科教授. ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATR フェロー). 2017年から大阪大学栄誉教授.専門は,ロボット学, アンドロイドサイエンス,センサネットワークなど. 2011年大阪文化賞受賞.2015 年文部科学大臣表彰受賞.●授賞理由 本研究では,深層学習などを用いた表情認識アルゴリ ズムを用いて,会見における日銀総裁の表情を解析して 「喜び」・「怒り」・「悲しみ」・「驚き」などの感情値の変 化を計測しており,大きな金融政策変更を行う直前の回 の会見では「怒り」や「嫌悪」の値が高くなる一方,金 融政策変更後の会見では「悲しみ」の数値が低下する傾 向が確認された.このことは,表情解析に基づく情報が 金融政策の先行きを予測するうえで有用な材料となり得 ることを示唆している.研究会終了後の聴講者アンケー トにより,推薦率(推薦数 / 聴講数)が 47.7%(31/65)と, 2回の研究会における 41 件の発表件数の中で最も高く, 授賞に値する. ●アブストラクト 日本銀行(以下,日銀)は,金融政策に関する方針を, 金融政策決定会合にて審議・決定している.決定会合の 後には,日銀総裁が記者会見を行い,金融政策運営に関 する説明を行っている.日銀は,総裁記者会見の内容を, 後日文書化して公表しているが,これらはあくまでテキ ストデータであり,それらがどのようなトーンや表情で 発言されたかについての情報は含まれていない.一方, 2014年度以降,日銀は決定会合後の記者会見の様子を メディアを通じて動画配信することを解禁した.これに より,総裁の会見内容について,テキスト情報だけでは なく,表情やトーンも含めた解釈が可能になった. 情報理論的な定義における情報量で見た場合,文章よ りも動画・音声のほうが,情報量ははるかに大きい.本 研究では,これらの点に注目し,会見動画の解析を行う ことで,テキストデータに含まれない情報の抽出を試み た.具体的には,深層学習などを用いた表情認識アルゴ リズムを用いることで,会見における総裁の表情を解析 し,「喜び」・「怒り」・「悲しみ」・「驚き」などの感情の 機微な変化を指数化した. その結果,重大な金融政策変更を行う直前の回の会見 では,「怒り」や「嫌悪」の値が高くなる一方,金融政 策変更後の会見では,「悲しみ」の数値が低下する傾向 が確認された.このような感情値の変化は,政策変更前 の金融政策に対する問題意識の高まりと,金融政策変更 によってそれが緩和されることによる安堵が,表情に表 れていた可能性を示唆していると考える.そして,その ようにして得られた感情変化の時系列データと,実際の 金融政策変更との関係を確認したことで,新たな政策分 析アプローチの可能性を示すことができたと考える. 金融情報学研究会:SIG-FIN-019-22 2017 年 10 月 14 日
日銀総裁会見の表情解析に基づく感情値の
計測と金融政策変更との関係
水門 善之,勇 大地
著 者 紹 介
水門 善之(正会員) 2005年 慶 應 義 塾 大 学 理 工 学 部 管 理 工 学 科 卒 業. 2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理 工学専攻修士課程修了.2007 年野村證券株式会社金 融経済研究所金融工学研究センター.2013 年米国ミ シガン大学経営大学院修了 MBA.同年,野村證券 株式会社金融経済研究所経済調査部エコノミスト. 勇 大地 2005年東北大学工学部電気情報物理工学科卒業. 2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑 理工学専攻修士課程修了.同年より 2014 年まで株 式会社野村総合研究所に勤務.2014 年日本マイク ロソフト株式会社に入社,2017 年より Microsoft Corporationに異動し,米国勤務.●授賞理由 本論文は,IoT 技術の活用によって,主に中小製造業 を対象とした現場作業者の活動を可視化する取組みにつ いて述べている.本取組みでは,中小製造業が自社用 の業務ソフトウェアやシステムを構築すること(IT 化) を支援する目的でエンドユーザ開発を支援する独自のソ フトウェア開発環境「MZ Platform」を拡張し,機械か ら情報を自動収集し,また得られた情報からシステム側 で状況に応じて通知を発行する機能を開発した.金属プ レス加工機での実証実験により,時間当たりのショット 数の記録を行い,データの可視化から工程や作業者の技 能の評価が可能であることが示された. 以上のように,中小企業の作業現場を改善するうえ で有益な情報システムの開発に取り組む研究テーマであ り,その実用化によって多大な貢献が期待できるため, 授賞に値する. ●アブストラクト 企業内の業務に関する知識・技術・技能の伝承を支援 するためには,それらの存在を明確にし,多くの人が認 知できる形式で可視化することが重要である.近年注目 される“IoT”技術のうち,センサを用いた計測と可視 化を活用することで,知識・技術・技能の伝承支援に貢 献することが可能である.本論文では,IoT 技術を活用 した業務システムを中小製造業の現場に適用し,作業者 活動実績の自動収集と可視化を実現する取組みについて 述べる.このような可視化自体は,市販の製品やサービ スとして各事業者から提供される範囲が広がりつつある が,本研究ではこのような可視化を非専門家の使用者自 らが実現する“エンドユーザ開発”の観点で考察する. 著者が所属する産業技術総合研究所では,中小製造 業が自社用の業務ソフトウェアやシステムを構築(IT 化)することを支援する目的で,独自のソフトウェア開 発環境“MZ Platform”の研究開発と普及活動を実施し ている.MZ Platform を用いたこれまでの IT 化事例で は,主に人の活動実績について人がデータを入力し,そ のデータを可視化して人が見ることが中心となっていた が,現在は既存の機械や設備から直接データを収集(IoT 化)することが技術的に容易になりつつある.そこで, 産業技術総合研究所では MZ Platform に IoT 化の機能 を追加して拡張した“スマート製造ツールキット”の研 究開発を進めており,このツールキットの構成要素の一 つとして,市販の安価なマイコンとセンサを用いた機器 の自作による計測システム構築機能の提供を予定してい る. 本論文では,実際に中小製造業の金属プレス工場にお いて,作業者が操作するプレス加工機の稼働状況につい て自作の計測システムでデータを収集して,そのデータ を可視化して分析した事例について述べる.なお,構築 したシステムは産業技術総合研究所が作成しておりエン ドユーザ開発の事例ではないが,非専門家が計測システ ムを構築して運用するための観点について考察し,ツー ルキットの機能に反映している.さらに,構築システム を現場で運用して得られたデータの可視化と分析の結果 からは,可視化の仕方を工夫することで現場の改善に有 益な知見が得られる可能性が示された. 知識・技術・技能の伝承支援研究会:SIG-KST-032-01 2017 年 11 月 24 日
エンドユーザ開発と IoT 活用による
現場作業者活動実績の可視化
古川 慈之
「2017 年度研究会優秀賞受賞論文紹介」著 者 紹 介
古川 慈之(正会員) 2003年東京大学大学院工学系研究科環境海洋工学 専攻博士課程修了.博士(工学).同年,産業技術 総合研究所入所,現在に至る.入所以来,中小製造 業の IT 化を支援するソフトウェア作成ツール「MZ プラットフォーム」の研究開発に従事し,現在は IT 化の延長としての IoT 化を支援する機能拡張ととも に普及活動に取り組む.●授賞理由 本研究が対象としている,Wikipedia の半構造情報資 源を利用したオントロジー構築は,今後の大規模ナレッ ジグラフの構築にあたり必須の手法である.Wikipedia は有用な情報資源であり,ここから構造化されたオント ロジー知識を抽出・構造化することは,実用的な利用 価値が高い.本研究では,著者らのグループが日本語 Wikipediaに対して検討してきたオントロジー構築手法 をもとにして,より利用者が増える英語版 Wikipedia に 適用する手法を提案している.関連研究である YAGO, DBpediaとの比較による評価では,全体的なカバー率・ 精度はやや劣るものの,これらの既存研究にはない多く の関係の抽出に成功していることが示されている.また, 本論文で特筆すべきは,詳細な実験結果の分析・考察が なされていることである.これらの結果は技術資料とし ての利用価値も高い.これらの理由から研究会優秀賞に 推薦する. ●アブストラクト 大規模なオントロジーの構築は情報検索やデータ統 合,質問応答といったさまざまな分野でその有用性が注 目されている.大規模オントロジーとしては WordNet や DBpedia Ontology が知られているが,これらは手動 で構築されているため,膨大な構築コストがかかるとい う問題がある.そこで近年,Wikipedia などの半構造情 報資源に着目し,オントロジーを自動構築する研究が注 目されている.こうした Wikipedia からのオントロジー の自動構築を目的とした研究の例としては,YAGO が知 られている. 我々はこれまでに日本語 Wikipedia におけるさまざま な機能(カテゴリーツリー,一覧記事,Infobox,Infobox テンプレート,定義文,目次見出し,リダイレクトリンク) から,Is-a(rdfs:subClassOf)関係やクラスインスタ ンス(rdf:type)関係,プロパティ定義域,プロパティ 値域,同義語,トリプルといった概念および概念間の関 係を抽出することにより,高精度かつ大規模な汎用オン トロジーである日本語 Wikipedia オントロジーの構築手 法を提案してきた.一方で日本語 Wikipedia オントロ ジーは言語依存した処理が多く,他言語のコミュニティ では利用できず,また海外の Wikipedia オントロジー (YAGO や DBpedia など)との比較ができないという問 題があった. 本論文では,日本語 Wikipedia オントロジーの構築手 法を英語版 Wikipedia に応用したオントロジーの構築手 法について提案するとともに,構築したオントロジーを YAGOや DBpedia Ontology と比較評価した.その結果, 約 30 万の Is-a 関係と約 400 万のクラスインスタンス関 係を 9 割近くの精度で抽出することができ,そのうち, Is-a関係の約 6 割,クラスインスタンス関係の約 4 割が YAGOにも DBpedia Ontology にもない関係であること を確認した.今後は日本語 Wikipedia オントロジーで抽 出に成功した,プロパティ定義域やプロパティ値域,対 称関係プロパティや推移関係プロパティといった特殊な プロパティについて,抽出を試みていく予定である. セマンティックウェブとオントロジー研究会:SIG-SWO-043-06 2017 年 11 月 25 日
半構造情報資源を用いた Wikipedia
オントロジーの構築
川上 時生,森田 武史,山口 高平
著 者 紹 介
川上 時生(学生会員) 2017年慶應義塾大学理工学部管理工学科卒業.現 在,同大学院理工学研究科修士課程に在籍.オント ロジーに関する研究に従事. 森田 武史(正会員) 2003年静岡大学情報学部情報科学科卒業.2005 年 同大学院情報学研究科修士課程修了.2008 年慶應義 塾大学大学院理工学研究科博士後期課程修了.博士 (工学).現在,慶應義塾大学理工学部管理工学科専 任講師(有期).セマンティック Web とオントロジー に関する研究に従事.情報システム学会,電子情報 通信学会,日本データベース学会各会員. 山口 高平(正会員) 1979年大阪大学工学部通信工学科卒業.1981 年同 大学院工学研究科博士前期課程,1984 年同後期課程 修了(工学博士).大阪大学産業科学研究所助手,静 岡大学工学部助教授,同情報学部教授を経て,2004 年より慶應義塾大学理工学部教授.オントロジー, 総合知能,知能ロボットなどの研究に従事.2007 年 大川出版賞,2015 年本学会功績賞.元会長,現顧問. 著書は『データマイニングの基礎』(オーム社,2006),『人工知能とは』(近 代科学社,2016)など.●授賞理由 本論文では,マルチエージェントシミュレーションの 例題として考えられてきたテーマパーク問題に関して, アトラクション選定のための意思決定モデルを新たに提 案するとともに,モデルのパラメータ推定手法の提案も 行っている. アトラクション選定行動に関しては,従来,確率効用 最大化理論に基づくモデルが採用されてきた.本論文で は,モデルの妥当性が不十分であることを具体的に示し, それに対して,提案モデルが待ち時間推移の傾向を適切 に再現できることを示している.ここでは,提案モデル が待ち時間の推移の特徴を高精度で再現するためのパラ メータ推定手法も合わせて提案・適用しており,実験的 にその効果を示している.実験による分析も詳細かつ丁 寧に行われており,提案内容の検証が十分にできている と認められる. 本論文では,テーマパーク問題を対象としてモデル・ 手法が提案されているが,これらは一般的なマーケティ ング分野にも適用可能であることが示唆されており,本 論文の成果が広い影響を与えることを期待できる.以上 より,本論文は当研究会の優秀論文候補としてふさわし い内容と認める. ●アブストラクト 本論文では,テーマパーク問題におけるアトラクショ ン選択行動のモデルとして「多項線形モデル」を用いる ことを提案する.そして,提案モデルによるシミュレー ションが,実際のテーマパークアトラクションの待ち時 間の推移の傾向を適切に再現できることを示す.さらに, 提案モデルのパラメータを効率的に推定する手法を導出 し,観測結果から実際のテーマパークの状況をシミュ レーション上に再現できる可能性を示す. 「テーマパーク問題」とは,テーマパークの混雑状 況を計算機上のマルチエージェントシミュレーション (MAS)で再現して,来園者のアトラクション選択行動 を分析したり,混雑緩和するために来園者を誘導する手 法を評価したり,さまざまな検討をする研究のプラット フォームである.このような MAS での検討を有用なも のにするためには,シミュレーションモデルの妥当性を 検証することが重要である.しかしながら,テーマパー ク問題の研究においてよく用いられる確率効用最大化理 論に準拠する多項ロジットモデルは,妥当性とパラメー タの設定方法についてこれまで十分に検証されてこな かった. 我々が特に注目したのは,観察した遊園地のアトラク ション待ち時間が,①開園直後に一気に増加して,②日 中の変動は小さく,③閉園まで待ち時間が 0 にならない, という 3 点の特徴をもつことである.我々が提案する「多 項線形モデル」を用いたシミュレーションでは,これら の特徴をもつアトラクション待ち時間が再現できる.一 方,既存モデル(多項ロジットモデル)では,「アトラ クションを選択しない」という行動をうまく表現できな いため,特に混雑飽和状態において上限なく待ち時間が 増加する結果となる. また,多項線形モデルは,マーケティング分野のシェ アモデルにおいて予測性能が優れている場合があるにも かかわらず,論理的整合性を満たすような推定手法がな かったためにあまり使われてこなかった.そこで我々は, 論理的整合性を満たしながら提案モデルのパラメータを 効率的に推定する手法を導出した.これにより多項線形 モデルの適用できる範囲が広がったため,今後はテーマ パーク問題以外の実問題への適用を検討したい. データ指向構成マイニングとシミュレーション研究会:SIG-DOCMAS-013-04 2017 年 11 月 25 日
遊園地における待ち時間を考慮した
アトラクション選択行動モデルと
そのパラメータ推定手法
清水 仁,松林 達史,納谷 太,澤田 宏
「2017 年度研究会優秀賞受賞論文紹介」清水 仁(正会員) 2001年東京大学工学部化学生命工学科卒業.2004 年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士 前期課程修了.同年,西日本電信電話株式会社入社. 2006年より 3 年間 NTT ネットワークサービスシス テム研究所,2014 年より NTT コミュニケーション 科学基礎研究所にて,機械学習および人流分析の研 究開発に従事.電子情報通信学会会員. 松林 達史 2000年京都大学理工学部物理学科卒業.2002 年 10 月より 2 年半,理化学研究所非常勤研究員.2005 年東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専 攻博士課程修了.同年,日本電信電話株式会社入 社.以来,NTT コミュニケーション科学基礎研究所, NTTサービスエボリューション研究所にて,グラフ 可視化および機械学習の研究開発に従事.博士(理 学).情報処理学会会員. 納谷 太 1992年慶應義塾大学理工学部電気工学科卒業.1994 年同大学院理工学研究科修士課程修了.同年,日本 電信電話株式会社入社.2003 年より 6 年間 ATR メ ディア情報科学研究所,同知識科学研究所出向.コ ミュニケーションロボット,パターン認識,センサ ネットワーク,データマイニングなどの研究に従事. 現在,NTT コミュニケーション科学基礎研究所企画 担当主席研究員.博士(工学).電子情報通信学会,計測自動制御学会, IEEE各会員. 澤田 宏 1991年京都大学工学部情報工学科卒業.1993 年同 大学院工学研究科情報工学専攻修士課程修了.2001 年博士(情報学,京都大学).1993 年日本電信電話 株式会社(NTT)入社.以来,VLSI 設計技術,計 算機アーキテクチャ,信号処理,機械学習の研究に 従事.現在,NTT コミュニケーション科学基礎研究 所協創情報研究部部長.IEEE Fellow,電子情報通 信学会シニア会員,日本音響学会会員.
●授賞理由 本論文は,空港などの大型施設内で,サインを利用し ながら回遊する歩行者の視野を考慮したモデルを提案し ている.本論文では,大型施設においてのサインシステ ムの設計や実装の意思決定の支援となるように,サイン システムの事前評価を定量的に行うことができるシステ ムを開発しており,仮想的な空港ターミナルを想定した シナリオ分析を実施している.歩行者の意思決定と歩行 行動を精緻にモデル化し,大型施設利用者が情報に基づ いて移動するという動的視点から,定量的にサインシス テムを導入前に評価できるシミュレーションシステムを 開発した点は有用性が高いものであり,その有用性の高 さから研究会優秀賞に値する. ●アブストラクト 空港ターミナルや駅,ショッピングモールなどの大型 公共施設では,施設利用者が快適に施設をできるように, 情報提供を行うサインシステムが導入されている.適切 なサインシステムが設置されていない場合,施設利用者 のサービスの質の低下につながる.例えば,施設の中で 迷子になったり,特定の化粧室が混雑したりするなど, 施設利用者の不安や不満を招いたり,空港においてフラ イトまでの限られた時間の中で,経路情報が見つけられ ないことが原因で,食事や両替などのサービスが受けら れなかったりする.そのため,大型公共施設の管理者は 空間内に点在するサインに関連性をもたせて,利用者が 移動しながら直感的に情報を把握できるような仕組みを つくる必要がある. 本研究の目的は,計画したサインシステムについて動 的視点から事前に定量的に評価し,サインシステムの設 計,実装時の意思決定の支援することができるように, 歩行行動の特性を考慮して,シミュレーションシステム を開発することである.これまでのサインシステムのモ デルでは,歩行者の歩行行動の特性の考慮が限定的で, サインの設置方法によってはサインシステムを十分に評 価することができていない. 本研究ではサインシステムを評価するにあたって影響 が大きいと考えられる歩行者エージェントモデルに視野 モデルを導入した.サインシステムを設計するときの要 素である「情報内容」,「表現様式」,「空間上の位置」の 中から,特に「情報内容」と「空間上の位置」,および 情報探索行動と視野の関係を考慮した歩行者エージェン トシミュレーションシステムの開発を行った.本システ ムは,歩行者が利用する大型施設を表現した環境モデル, サインの特徴を捉えたサインモデル,大型施設内を回遊 する歩行者エージェントのモデルから構成されている. 本研究では,仮想的な空港ターミナルを想定し,サイ ンシステムの計画要素に関して設計条件を変更した複数 のシナリオでシミュレーション実験を行い,一般的にサ インシステムを評価するときの指標群に基づいてシナリ オ分析を行った.その結果,視野モデルの導入により経 路情報の取得の行動が改善され,目的地に到着するまで の迷い行動が減少した.また,サイン設置場所のシナリ オに関して,サインの情報を連続的に得られるようにサ インの間隔をあけないことや,施設の多いところにサイ ンを設置することの有効性を確認できた. ビジネス・インフォマティクス研究会(第 7 回):SIG-BI-007-05 2017 年 9 月 9 日
歩行者エージェントの視野を考慮した
空港などの大型施設における
サインシステムの評価
島田 英里子,山根 昇平,大堀 耕太郎,山田 広明,高橋 真吾
「2017 年度研究会優秀賞受賞論文紹介」島田 英里子(学生会員) 2017年 3 月早稲田大学創造理工学部経営システム 工学科卒業.同年 4 月,同大学院創造理工学研究 科経営システム工学専攻入学.現在はサインシステ ムへの引き付けられやすさの違いを考慮したシミュ レータを開発している. 山根 昇平(正会員) 2011年京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻 博士課程研究指導認定退学.同年,博士号取得.同 年より株式会社富士通研究所研究員.博士(情報学). マルチエージェントシミュレーション,社会シミュ レーションの研究に従事. 山田 広明(正会員) 2016年北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究 科博士後期課程修了.博士(知識科学).同年より, 株式会社富士通研究所研究員.AI サービスやコミュ ニティといった,人と人あるいは人と機械が相互作 用する系の,システムモデリング・システム設計方 法論の研究に従事.情報処理学会,地域活性学会の 各会員. 大堀 耕太郎 2011年早稲田大学大学院創造理工学研究科博士課程 修了.博士(工学).現在,株式会社富士通研究所 主任研究員.社会課題解決に向けた数理技術開発や サービスマネジメントの方法論構築の研究に従事. 高橋 真吾 1989年東京工業大学大学院総合理工学研究科システ ム科学専攻博士課程修了,理学博士.現在,早稲田 大学理工学術院教授(創造理工学部経営システム工 学科).システム論,社会シミュレーション,ソフ トシステムアプローチなどの研究に従事.特に世界 観の異なる複数の主体からなる複雑適応システムに 対するモデリングを探求している.
●授賞理由 本論文は,機械学習のコスト関数をブラックボック ス化する手法を提案しており,実現すれば機械学習器の 汎用性を高めるものと考えられる.「数値的勾配法学習 仮説」という脳での学習アルゴリズムの仮説をもとに ニューラルネットワークでの勾配推定アルゴリズムを提 案しているが,その計算方法として通信システム分野の 多重化方法を用いるという点でも独創性が高い.数学的 な基盤があるため,理論的な考察による発展性も予期さ れ,実験による性能評価結果も期待がもてるものである. 上記の理由により,研究会優秀賞に推薦する. ●アブストラクト ニューラルネットワークをベースとした機械学習技術 は,実社会への応用が近年幅広く行われており,社会を より豊かにする技術として期待されている.ニューラル ネットワークのパラメータ調整には誤差逆伝搬法が用い られることが多く,少ない計算量で実用的な多層ネット ワークの学習を進められるという利点は,機械学習技術 の実社会への適用を後押ししてきた. 一方で,誤差逆伝搬法には微分可能で連続な評価関 数に対してしか適用できないという欠点がある.この制 約は,複雑な問題に対して機械学習技術を適用しようと する際に強い制約条件となる.例えば,学習対象となる ニューラルネットワークの出力を別のシステムの制御入 力とし,後段システムの出力を最適化するような複合型 システムでは,前段のニューラルネットワークの学習を 行うために後段のシステムを評価関数の一部とみなさな ければならず,微分可能な連続関数として定義しなけれ ばならない.しかし,後段システムの定式化は容易にで きるとは限らず,適切な形に定式化することは専門的な 知識を要するうえに困難である.本論文では,実社会適 用において評価関数に相当する部分が複雑化した場合に 対応するため,誤差逆伝搬法に代わるパラメータの勾配 推定方法を提案している. 提案手法は,互いに相関が低い乱数系列を利用し,当 該乱数系列に基づいたパターンで個々のパラメータを正 負方向に微少量変化させて数値微分を行うことで勾配を 推定する.すなわち,通信分野技術の一つである符号分 割多重法を数値微分に適用して勾配推定を行い,単純な 数値微分よりも計算時間を削減している.提案手法は誤 差逆伝搬法に比べて計算量は増加するが,順伝搬計算だ けで近似勾配を算出することが可能となるため,評価関 数がブラックボックスでも勾配を推定することができ る. 本論文では提案手法の初期評価として,MNIST の手 書き文字認識問題を用いて従来手法と同等の学習が可能 であるかについて評価した結果を示している.評価結果 は,提案手法のナイーブな実装では誤差逆伝搬法に対し て数百∼数千倍の計算時間がかかるものの,正答率にお いては同等以上の学習が可能であることを示している. また,提案手法では勾配推定精度と計算時間がトレード オフの関係になることを示し,学習の進捗に合わせて勾 配推定精度の調整を行う必要があることを明らかとし た. 汎用人工知能研究会:SIG-AGI-007-06 2017 年 11 月 24 日