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【25】③原発震災後の被災者支援を巡る国家と市民社会のあり方に関する考察 -市民社会の役割と課題-

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142 Ⅱ 福島乳幼児・妊産婦支援プロジェクト(FSP) shigeta@cc.utsunomiya-u.ac.jp キーワード:原発震災、被災者・避難者、国家、市民社会、人間の安全保障

重 田 康 博

宇都宮大学 1.はじめに  3.11 福島原発震災は、福島だけでなく、栃 木、茨城、群馬など北関東を含む多くの地域 を放射能汚染被害をもたらし、避難や防護を 強いられる被災者・避難者が多数存在してい る。今回の福島原発震災は、国家や企業によっ て進められてきた日本の原子力産業の最悪な 惨事であり、避難させられた住民、特に弱き 女性と子どもがその被害の犠牲者となり、過 去の国策事業の失敗と同じ構造の延長上に位 置し、悲劇は繰り返されている。本報告は、 人間の安全保障に関する理論的示唆をもとに、 原発事故の被災者に支援を行い、国家に対して 政策提言や住民参加の働きかけを行う市民社会 について、ガバナンスに関わるアクターとして 立場からその役割と課題を分析し、その被災者 に対する支援を巡る国家と市民社会の関係のあ り方を考察する。本報告で調査を行った市民社 会組織は、福島県内外で特に女性や子ども支援 を行っている NPO(3 団体)や国際協力 NGO(2 団体)、またネットワーク組織として福島の NPO ネットワーク(1 団体)、国際協力の NGO ネットワーク(1 団体)の 7 団体で、支援活動 の現状、活動支援や政策提言する際の住民側、 国側の課題について、インタビュー調査を実施 した。本報告で NPO という時福島県内外で活 動する国内組織を指し、NGO という時国際協 力を行う NGO を指す。 2.原発事故被災者の支援の現状と課題ー問題の 所在 3.11 以後原発被害の実態と課題、被災者、避 難者の立場から、宇都宮大学「福島乳幼児妊産 婦支援プロジェクト」では、福島県内・栃木 県内等で調査を実施した結果、福島県内避難 者、県外避難者、特に女性や子どもの権利が侵 害されていることが実証され、国への要望書を 提出した1。この間、2012 年 6 月民主党政権時 代に議員立法で成立した「原発事故子ども・ 被災者支援法」は被災者や避難者を支援するた めの支援法であるが、いまだに実施されず、こ の支援について早期に実施するように市民団体 や NGO が国への働きかけや批判を強めてきた が、現在まで具体的な進展はなく膠着状態であ る。これと並行して、2012 年 11 月福島原発事 故後の人権状況を事実調査した、国連人権理事 会のアナンド・グローバー氏による『グローバー 勧告』2 が 2013 年 5 月 27 日に国連人権委員会 に提出された。同勧告には、緊急対応、避難者 指示、健康調査等日本政府の対応を健康の権利 の観点から包括的検証にし、検証「年間追加被 爆線量 1 ミリシーベルト」を基準とする住民保 護の施策や「子ども被災者支援法」の早期の実 1 宇都宮大学国際学部多文化公共圏センター(2012)「福島 乳幼児妊産婦支援プロジェクト」『福島乳幼児・妊産婦プ ロジェクト(FSP)報告書』、(2014)『福島乳幼児・妊 産婦プロジェクト(FSP)報告書』 2 国連人権委員会アナンド・グローバー(2013)『到達可能 な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利に関する 国連特別報告者の報告(グローバー勧告)』

〈2014 年 11 月 30 日 国際開発学会企画セッション報告要約〉

③原発震災後の被災者支援を巡る国家と市民社会のあり方に関する考察

―市民社会の役割と課題―

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143 多文化公共圏センター年報 第7号 施など、人権を中心に今後の改善に向けた重要 な勧告が提起されている。 3.NPO・NGOによる支援の現状と課題 今回福島原発震災後 NGO がどのように被災 者・避難者支援に関わり、国にどのような提言 をしているかを把握するために、日本の国際協 力 NGO、福島 NPO、ネットワーク NPO・NGO へのインタビュー調査を行った。その結果、 NPO・NGO による支援活動の現状は、以下の 通りである。 ①県内避難者、県外被害者・避難者を福島県内 外のNPO・NGOが支援 ②状況の変化により住民の意識が変化している ③ネットワークNGOが大きな役割を果たして いる  ○うつくしまNPOネットワーク  ○国際協力NGOセンター(JANIC) 一方、NPO・NGO が活動支援や政策提言す る際の住民側、国側の課題は、以下の通りであ る。 ①子どもの保養や女性への支援 ②住民に倦怠感がある ③NPO・NGOによる国や自治体のへの依存 ④国は「支援法」を実施せず、グローバー勧告 を無視している ⑤国は人権の保護の基準を浸透させず避難者の 「避難する権利」を保証していない ⑥国は低線量被爆を過小評価し、結果的に被災 者・避難者の分断政策を行っている ⑦NGOの役割は、被災者・避難者の支援と国 へ働きかけや提言 4.あとがき―国家と市民社会の関係のあり方  福島第一原子力発電所事故を契機に国家主導 による一方的な開発や経済成長偏重による開発 のあり方に対する批判や疑問が出され、特に福 島の乳幼児を含めた子どもや女性たち等脆弱な 立場にある人々は南の国々において強制的に 「周辺化された立場に追いやられた人々」との 共通性が見出される。ガバナンスに関わるアク ターとして NPO・NGO を含めた市民社会の役 割は、国家や自治体ができないこれらの「周辺 化された立場に追いやられた人々」への人道的 支援を行うことである。それが、人間の安全保 障という観点から、市民社会が行う道義上・倫 理上の義務でもある。今後市民社会は、国家に よるグローバル化を進める国々にそのような脆 弱で周辺化された人々の権利擁護をどのように 求めるのかを問いていかなければいけない。 参考文献 宇 都 宮 大 学 国 際 学 部 多 文 化 公 共 圏 セ ン タ ー (2012)「福島乳幼児妊産婦支援プロジェ クト」『福島乳幼児・妊産婦プロジェクト (FSP)報告書』。 宇 都 宮 大 学 国 際 学 部 多 文 化 公 共 圏 セ ン タ ー (2014)『福島乳幼児・妊産婦プロジェクト (FSP)報告書』。 国際協力NGOセンター(2014)『JANIC『放射 能と闘う人々と共に―JANIC福島事務所 活 動の記録2011-2014』』。 ヒューマンライツ・ナウ翻訳チーム(2013) 『国連「健康に対する権利」特別報告書アナ ンド・グローバー氏・日本への調査(2012年 11月15日から26日)に関する調査報告書』。 藤岡美恵子・中野憲志編(2012)『福島と生き る―国際NGOと市民運動の新たな挑戦』新 評論。

参照

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