中国における日本語研究
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(2) 北京師範大学(2013) 中国人民大学(2013) 西安外国語大学(2014) 福建師範大学(2015) 延辺大学(2015) なお、これとは別に、華東師範大学や天津外国語大学では、日本語翻訳・通訳 専攻の博士課程も開設されている。 一方では、日本の大学院に留学して博士号を取った上で帰国して中国の大学 の日本語教師になった者もますます増えている。 高学歴の日本語教師の増加を背景に、現在中国の日本語学界の主力研究層は 30 代や 40 代の教師であり、その活躍ぶりは目を見張るものがある。日本語学 の分野だけではないが、学会での発表者や論文の執筆者や研究書の著者を見る と、若手の研究者が目立っているのが争えない事実である。. 3.学会組織 日本と異なり、中国では学会を立ち上げるのは決して容易なことではない。 それゆえに、日本語関係の学会というのは、片手の指で数えられるほどしかな い。まず、比較的歴史が古く且つ半ば公認されている学会として、「中国日語教 学研究会(中国日本語教育学会)」と「中国大学日語教学研究会(中国大学日本 語教育学会)」がよく知られている。前者は日本語専攻の大学教員、後者は非専 攻第一外国語・非専攻第二外国語としての日本語を教える大学教員が中心とな っている。そしてどちらも個人会員制ではなく、大学単位で入会している。その ためか、学会の役員が会員の選挙によるものではなく、まず大学の知名度や日 本語学科の歴史・規模などによって理事校・常務理事校・一般会員校などが決ま り、更に理事校と常務理事校から推薦された者が選出されるのである。この二 つの学会は隔年で大会を開催している。「中国日語教学研究会」の場合は、新し い動向として地域別の支部が次々に設置され、支部による地方の大会も積極的 に開催されるようになっている。 一方、上記の二つの学会と一味も二味も違う学会もある。それは 10 年ほど前 に発足した「漢日対比語言学研究会(中日対照言語学会)」である。この学会は むしろ日本の学会組織に近い存在であり、完全に個人会員制が導入され、理事. 2.
(3) 会も二年ごとに改選されているだけではなく、毎年のように大会が開催され、 機関誌も発行されている。 更には、2014 年に発足し翌年から毎年のように中国を舞台に大会を開催し機 関誌も発行している学会もある。「日本語誤用と日本語教育研究会」である。日 本語誤用研究に特化した学会としてユニークな存在である。加えて、会員によ る共同研究の成果として誤用に関する研究書(『日語格助詞的偏誤研究(日本語 格助詞の誤用研究)』)を出版していることも、国内外から注目を集める所以と なっている。. 4.研究誌 中国で最も権威のある日本語関係のジャーナルは、1979 年に創刊された隔月 刊の『日語学習與研究(日本語学習と研究)』である。同誌が、約 40 年来、中 国における日本語研究に大きく貢献してきたことは周知の通りである。ただし、 これには、日本語学のみならず日本文学・日本文化研究の論文も掲載されてい る。 一方では、ほぼ年刊に近い『日語研究(日本語研究)』もあり、この商務印書 館刊が唯一の日本語研究の専門誌と言える。『日語学習與研究』との相違点は、 毎号必ず日本の学界を代表する日本語研究の専門家に執筆を依頼していること と、書評も欠かさず掲載していることである。査読が厳しいことも加わって、 『日語研究』は日本語学界で高く評価されている。 上記の2誌の他に、日本語研究の論文が掲載されることの多い『東北亜外語 研究(東北アジア外国語研究)』、 『日語教育與日本学(日本語教育と日本学)』、 『日本学研究』などの研究誌も注目に値する。. 5.シンポジウムの開催と教師研修 日本語関係の学会によって定期的に開催される全国大会やシンポジウムの他 に、各大学の日本語学科または出版社が独自でシンポジウムを開催するのも常 態化している。その中で特に大学院生の参加・発表が増えつつある。 なお、国際交流基金北京文化センターや大手の出版社や日本語教学指導委員 会の主催による日本語教師向けの研修会も定期的に実施され、日本語教師のレ ベルアップに貢献していることも特筆すべきである。. 3.
(4) 6.研究成果の量的特徴 中国では、大学の日本語教師の数が多いだけに、日本語関係の研究成果もか なりの量になっている。于康(2014)の調査によると、2012 年と 2013 年の 2 年間において中国大陸で刊行されている日本語研究の論文はおよそ 954 本、著 書はおよそ 36 冊に達しているという。また沈力(2016)の調査では、2014 年 から 2015 年にかけて中国大陸で発表された日本語研究の論文は 330 本、出版 された著書は 20 冊だということである。更に、施建軍(2018)の調査では、 2017 年の 1 年間だけで日本語研究の論文が 289 本発表されているデータが提 示されている。言うまでもなく、いずれの調査も漏れがある可能性は否定でき ないため、実際の論文と著書の数が更に多いはずである。. 7.研究分野 この節では、中国人日本語研究者が関心を持っている研究分野について見て みたいと思う。伝統的に中国人研究者が母語である中国語との相違から語彙や 文法のほうに目が向けられやすいので、その分野の研究論文が最も多くなって いる。語彙研究の場合は、中日同形語や日本語からの借用語に集中しているよ うに見える。文法研究の場合は、とかく有標の形に目が奪われやすい。この他に は、日本語教育学にも相当に関心が深まり、そして、一時的には語用論に関する 研究も多く見られたものである。研究の方法から言うと、記述的研究が圧倒的 に多いが、対照研究もかなりの比率を占めている。近年、認知言語学の影響を受 けて認知言語学の銘を打った論考が多く見られる。一方、類型論からのアプロ ーチも現れている。 施建軍(2018)は、2017 年に発表された日本語研究の 289 本の論文をまず大 きく二分して、更に分野別に分類している。以下に引用しておく。 表1. 音声音韻 文字表記 語彙 文法論. 記述 研究 1 2 34 16. 日本語そのものに関する研究論文の分布 対照 研究 1 1 23 19. 実証 研究 1 0 10 9. 認知 言語学 0 0 2 3. 4. 生成 言語学 0 0 0 1. 類型論. 合計. 0 0 0 2. 3 3 69 50.
(5) 11 4 28 96. 意味論 談話論 語用論 合計. 5 0 4 53. 表2. 2 3 3 28. 2 0 0 7. 0 0 0 1. 1 0 0 3. 21 7 35 188. 日本語の応用に関する研究論文の分布. 研究分野. 教育. 習得. 翻訳. その他. 合計. 本数. 46. 22. 26. 7. 101. 8.問題点 中国における日本語研究の問題点としては、まず、研究へのモチベーション の向上が必要だと思う。授業のコマ数をこなすだけでよく、研究などしなくて もよかった一昔前とは違って、現在、大学の教員として論文の発表が義務付け られている大学が増えている。そういった時代背景の下で、昇格のためにある いは、ノルマの数をこなすために論文を書いている人も一部見られる。そのた め、昇格した後、または定年退職したらぴたっと研究をやめてしまう人も少な くない。とにかく研究者としての使命感や研究への情熱を忘れないでほしい。 次に、研究成果を見渡すと、総合的研究、体系的な研究または複眼的な考察が 少ないのに気が付く。 更に用語の選択も問題点に挙げることができる。日本語研究における専門用 語、特に字音語をそのまま中国語による論考に使ってしまうケースが目立って いる。中国語で論文を書く際には、用語の規範化を念頭に入れてもらいたいも のである。 もう一つ、学界全体の問題として指摘しておきたいのは、書評への重視が欠 けていることである。人の研究成果を無視したり軽視したりするのではなく、 他山の石として過不足なく評価したいものである。 施建軍(2018)では、次のような問題点が指摘されており、傾聴すべきであ る。 ①. 研究分野のアンバランスが目立っている。特に音声・文字・談話に関 する研究が足りない。. ②. 研究の質が懸念される。内容が重複している論考も多い。. 5.
(6) ③. 個別的な言語現象に拘っており、体系の中で捉えることができないた め、言語現象から法則的なもの、引いては新しい方法論が見出せない。. ④. 中日対照研究を行う際に、両言語に見られる特殊性を強調しすぎて、 言語の間における普遍性・多様性への発見には繋がらない。. ⑤. 研究の実用性を過剰に重視するため、理論的研究が軽視されている。. ⑥. 日本語研究者の成果に頼り過ぎて欧米の言語研究に目を向けようと しない。. ⑦. 英語研究における方法論などへの模倣に偏重し、無理に日本語研究に 当てはめてしまう嫌いがある。. 9.おわりに 中国における英語研究やロシア語研究などに比べれば、まだまだ日本語研究 は立ち遅れていると言わざるを得ない。しかし、ここ 20 年来中国における日本 語研究が着実に発展してきたのも明白な事実である。若手研究者の成長に伴っ て、世界における日本語研究の一部として位置付けられるべく、中国における 日本語研究が少しずつではあるが、レベルアップしていくことを確信している。 注 (1)国際交流基金によって公表された「2015 年度『海外日本語教育機関調査』 結果」 (http://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/result/index.html)によ ると、中国(大陸)における日本語学習者数は、953,283 人となっており、前回 の調査結果に比べて減少(約 9.3 万人減)を見せたものの、依然として世界で第 一位となっている。 (2)前掲(注 1 参照)の 2015 年度の調査結果によれば、中国の日本語教師の 数は 18,312 人であり、学習者数の減少にひきかえ、教師数は増加しているとい う。その大半が大学の日本語教師である。 参考文献 于康 2014「海外における日本語研究―アジアを中心に―」『日本語の研究』第 10 巻 3 号 近藤泰弘 2004「総説」『国語学』第 55 巻3号. 6.
(7) 沈力 2016「海外における日本語研究―アジアを中心に―」『日本語の研究』第 12 巻 3 号 彭広陸 2001「日本語研究の現況」『国文学. 解釈と鑑賞』7月号、至文堂. 彭広陸 2004「中国における総合的日本語教育の現状」『第5回 国際日本学シ ンポジウム報告書. 国際日本学の可能性』お茶の水女子大学大学院人間文化. 研究科 彭広陸 2006「中国における日本語教育事情とその周辺」『環太平洋地域におけ る日本語の地位』(第 10 回. 国立国語研究所シンポジウム. 第3部会)独立. 行政法人国立国語研究所 彭広陸 2006「海外における日本語研究」『日本語の研究』第 2 卷第 3 号、日本 語学会 彭広陸 2007「中国における日本語教育事情」『中国 21』第 27 号、愛知大学現 代中国学会、風媒社 彭広陸 2012「中国における中日語彙対照研究の動向」 『日中語彙研究』創刊号、 愛知大学中日大辞典編纂所 彭広陸 2013「「中国における中日語彙対照研究の動向 2012」『日中語彙研究』 第2号、愛知大学中日大辞典編纂所 彭広陸 2014「中国における中日語彙対照研究の動向 2013」『日中語彙研究』第 3号、愛知大学中日大辞典編纂所 彭広陸 2015「中国における中日語彙対照研究の動向. 2014」『日中語彙研究』. 第4号、愛知大学中日大辞典編纂所 彭広陸 2016「中国における中日語彙対照研究の動向 2015」『日中語彙研究』第 5号、愛知大学中日大辞典編纂所 曹大峰 2012〈2011 年中国日语研究综述〉《日语学习与研究》第 1 期 李运博 2013〈2012-2013 年中国的日语语言学研究〉《日语学习与研究》第 6 期 毛文伟 2017〈2016 年度中国日语语言研究综述〉《日语学习与研究》第 1 期 潘. 钧 2016〈2015 年度国内日语语言研究〉《日语学习与研究》第 2 期. 彭广陆 2008〈2007 年日语语言学研究现状与动向〉《日语学习与研究》第 1 期 施建军 2018〈2017 年度中国日语语言学研究状况及动向分析〉《日语学习与研 究》第 2 期 王. 忻 2011〈2009、2010 年日语语言研究综述〉《日语学习与研究》第 2 期. 7.
(8) 毋育新 2015〈2014 年中国日语语言学研究综述〉《日语学习与研究》第 1 期 徐一平 2009〈2008 年日语语言学研究动态〉《日语学习与研究》第 1 期. 8.
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