症例提示 西山真由美医員(内科学 2) 症例: K.H. 51 歳 男性(ID064-960-4,AN1336) 主訴:発熱,腹部膨満感,呼吸困難,下痢 現病歴:平成元年 5 月 17 日当院泌尿器科で生 体腎移植術を施行(免疫抑制剤投与あり)さ れ,以後外来で経過観察されていた。平成 10 年 8 月に軽度の汎血球減少が認められた が,免疫抑制剤の中止にて軽快した事がある。 平成 11 年 4 月の定期受診の際に,血小板減 少(血小板 6.1 × 104)が,翌 5 月には貧血 と血小板減少の進行が認められ,第二内科を 紹介された。この時点での骨髄穿刺では,胸 骨・腸骨いずれも dry tap であり,形態学的 診断は困難であったが,染色体分析で 5 番・ 7 番欠失を含む複雑な染色体異常が認められ ていた。徐々に汎血球減少が進行し,輸血依 存性となり(外来で輸血による対症療法のみ 施行),8 月頃より末梢血中に幼若な細胞が 認められていた。このころから歯肉周囲の蜂 窩織炎など感染を繰り返し,易感染状態であ った。10 月 15 日頃より右鼻腔内発赤腫脹と 発熱が出現,鎮痛解熱薬で対処していたが尿 量が減少傾向となっていた。17 日には 40 度 台にまで発熱したため受診し,CRP 32 mg/dl, Cr 2.7 mg/dl の結果から腎不全および細菌感 染が疑われ泌尿器科に緊急入院となった。入 院後は補液,抗生剤,γグロブリン投与など の治療が行われたが感染の改善傾向なく,さ らには黒色便,下痢が続き,敗血症・心不 全・胸腹水貯留を併発したため第二内科に転 科となった。 既往歴: S56 年;慢性腎不全にて透析開始。 S62 年頃;二次性副甲状腺機能亢進症に対し て手術。平成元年;生体腎移植術。平成元 年;腎盂腎炎,間質性肺炎にて入院。 家族歴:家族に心疾患,腎疾患,血液疾患はな い。 患者背景:喫煙 1 日 30 本,30 年間。飲酒歴 日本酒 1 合 30 年間。 転科時身体所見: 身長 166.5 cm,体重 64.1 kg,体温 38.4°C, 血圧 113/67 mmHg,脈拍 104 bpm ;整,意 識は清明。皮膚では体幹(腹部)に点状出血 が散在。眼瞼結膜に貧血,眼球結膜に軽度の 黄疸を認める。右鼻腔に粘膜の発赤と出血後 の痂皮を認める。口唇には 5 mm 大の水疱を 3 個認める。口腔内粘膜下に血腫が散在する が歯肉出血は認めず。頚部には 5 mm 大から 1 cm 大の柔らかく圧痛のあるリンパ節を多 数触知す。胸部では両側下肺の呼吸音減弱が 第 35 回山梨医科大学 CPC 記録 日時:平成 12 年 4 月 19 日(水)午後 5 時 15 分∼ 7 時 場所:臨床講堂大講義室 司会:柳 光章助手(内科学 2),大井章史教授(病理学 1)
腎移植 10 年後に貧血及び血小板減少を来した症例
要 旨:症例は 51 歳の男性です。11 年前に生体腎移植を受け,以後免疫抑制剤の投与を受けて いた。平成 11 年 5 月に貧血と血小板減少が認められ,骨髄穿刺をしたところ,染色体異常を持っ た芽球が見つかった。8 月には末梢血中に幼若細胞が認められ,この頃より易感染状態となり敗 血症を併発した。全身状態の改善を待って,10 月より化学療法を開始したが,末梢血中の芽球は 減少せず,11 月頭部打撲による脳内出血により死亡した。剖検では,肝,脾を始め全身臓器に巨 核芽球様細胞あるいは由来不明の大型芽球がみられ,急性未分化型白血病(FAB 分類 M0)と診 断された。急性骨髄性白血病の亜分類および免疫抑制剤投与と癌の発生を中心に討論された。あるが湿性ラ音は聴取せず,心音は正常で心 尖部に収縮期雑音(Levine II/VI)を聴取す る。腹部は膨満,軟で,多量の腹水貯留を認 め,肝脾腫は明らかでない。両下肢に浮腫を 認める。神経学的に異常所見なし。 転科時血液検査結果: WBC 1250/µl,(blast 51.0 %,neut 2.0 %, lymph 47.0 % ), RBC 2.54 万 /µl, Hb 7.4 g/dl,Ht 21.8 %,MCV 85.8 fl,MCH 29.1 pg,MCHC 33.9 g/dl,Reti 0.1 %,Plt 1.1 万/µl,PT-T 12.3 s,PT-% 52.4 %,APTT
41.9 s,fib 664 mg/dl,AT III 73 %,FDP-DD 2.4µg/ml,TAT 2.2 ng/ml,PIC 1.5µg/ml, TP 5.1 g/dl,Alb 2.8 g/dl,Che 74 IU/l, ZTT 1.4 KU,TTT 0.7 KU,T.Bil 0.7 mg/dl, D.Bil 0.3 mg/dl, ALP 295 IU/l, LAP 93 IU/l,γ-GTP 177 IU/l,LDH 375 IU/l, GOT 19 IU/l,GPT 52 IU/l,BUN 8 mg/dl, Cr 1.06 mg/dl, UA 3.6 mg/dl, Na 134 mEq/l,K 3.1 mEq/l,Cl 101 mEq/l, Ca 7.3 mg/dl,IP 3.9 mg/dl,Fe 90µg/dl, CRP 25.5 mg/dl,蛋白分画; alb 46.6 %,α1 7.9 %,α218.6 %,β12.2 %,γ14.7 % 細菌学的検査: 10/18 血液培養;
enterobac-ter cloacae, 鼻 腔 培 養 ; staphylococcus aureus,咽頭培養; alpha-streptococcus,尿 培養;(−),便培養;(−) ( CD45 blast gating 法骨髄細胞表面マー カ ー: 10/18)CD13,CD33,CD34,HLA-DR 陽性(図 1) (骨髄細胞染色体分析: 10/18)5 番染色体欠 失,7 番染色体欠失を含む染色体異常あり (図 2) 二内転科後経過: 転科時には全身状態も悪く(PS = 4),敗 血症を併発していたため leukemia の治療を 直ちに行うことは不可能であった。まず全身 状態を改善するために頻回の MAP・PC 輸血 を行いながら,敗血症・下痢・低アルブミン 血症に対して G-CSF 併用抗生剤(IPM/CS, CZF)の投与・アルブミン製剤投与・高カロ リー輸液管理とし,心不全・胸腹水貯留に対 しては利尿剤・酸素投与を行なった。これら の 治 療 に よ り 心 不 全 及 び 炎 症 所 見 は 改 善 (CRP 8.3 mg/dl)し,腹水の減少が得られた。 依然末梢血中の blast は 54 %程認め,頻回の 輸血にても Hb 7 g/dl 台,plt 1 万以下が持続 していた。 肝脾腫の増大による腹部膨満感や LDH の 上昇など原病の進行が認められたため,10 月 28 日より CAG 療法(キロサイド少量,ア クラシノン,G-CSF 併用療法)を抗生剤併用 下にて開始した。化学療法により一時的な全 身状態の改善や肝脾腫の縮小・腹水の減少・ 図 1. 細胞表面マーカによる骨髄細胞 の分析 CD13,CD33,CD34 及び HLA-DR 陽性細胞のクローナルなら増 殖がみられる。 図 2. 骨髄腫瘍細胞の染色体分析。 基体的 4 倍体で 5 番,7 番をはじめ多く の染色体の欠失とマーカー染色体の出現 を認める。
末梢血中の blast の減少傾向は得られた。し かし Day 12(11/8)頃より頚部皮下蜂窩織 炎を併発し,大腿部及び腹部に皮下膿瘍を疑 わせる 5 mm 大の隆起性発赤が生じ感染症状 は再び増悪した。抗生剤投与などを行ったが, Day 19(11/15)には末梢血中の blast と LDH などが増加傾向を示し,肝脾腫も増大 し化学療法抵抗性となった。(図 3) このころより発熱が認められ,時折咳嗽も 出現していた。leukemia cell を減少させ原病 のコントロールをつけるために 11 月 20 日か らキロサイド+イダマイシンによる化学療法 を開始した。治療中も発熱が持続し,22 日 には胸部レントゲン上右上肺野の浸潤影が認 められ,血痰がみられるようになった。やや 意識も混濁するようになっており,翌 23 日 午前 2 時頃床に転倒し頭部を打撲,約 1 時間 後意識状態低下,頭部 CT 上左後頭葉に脳内 出血,左側脳室穿破が認められた。血小板輸 血,頭蓋内圧減圧療法など施行したが著効せ ず,14 時 9 分永眠された。 検査値分析 矢富 裕助教授(臨床検査部) 近年,sepsis の定義がより明快になり,sys-temic inflammatory response syndrome (SIRS)を伴った感染症となってきている。 本例は,体温 38.4 度,脈拍数 104,(原病の 存在によると考えられるが)白血球数 1250 であり,SIRS さらには sepsis の状態と考え られる。このような状況では,炎症性サイト カインにより惹起される急性期相蛋白質の発 現が高まるが,本例における CRP・fbg の著 高やα1・α2グロブリンの上昇は,この反映 と考えられる。 また,基礎疾患・臓器症状の存在,FDP 上 昇,プロトロンビン時間異常,plasminogen inhibitor complex 上昇を考慮すると,DIC の合併を考慮すべきと考える。血小板数の低 下は,原病によると考えられる。fbg の上昇 は,過度の炎症反応によるもので,絶対値よ りその経時的変化を追うことが重要である。 剖検の目的: 1)肺炎の状態について(細菌性なのか真菌 性なのか)。肺出血の有無について。 2)化学療法中の死亡であるが,腫瘍細胞の 広がりはどうであったのか。 *主要臓器への浸潤の有無について。 図 3.末梢血に芽球細胞の出現を認める。 図 4. 骨髄では,造血細胞は消失し線維化を認 める。 図 5. 白血病細胞は比較的小型で裸核状(アセ テート・ディエラスターゼ染色陰性)。 由来不明の異型巨核様細胞も認められ る。
*リンパ節腫脹,胸水,腹水は炎症性 か,浸潤によるのか。 3)移植腎の状態は? 4)直接死因は脳出血でよいか。 病理所見と診断 平島奈緒子大学院生(病理学 1) A.肉眼的所見 1.外表: 170 cm,体重 62.3 kg,中肉中背。 表在リンパ節は左鎖骨上窩に数ヶの腫大を認 めた。眼球結膜に軽い黄染があり,眼瞼結膜 に貧血を認めた。瞳孔は正円で,左 5 mm, 右 5 mm。皮膚に黄染はないが大小出血斑を び漫性に認めた。胸囲は 90 cm。下腿に軽度 の浮腫をみた。 手術瘢痕:右下∼側腹部に 20 cm,17 cm。 右鼠径部∼大腿部に 11 cm。(腎移植) 頚部正中に 10 cm。(副甲状腺摘出術) 左手首に 4 cm。(シャント形成) 2.体腔液:胸水は両側とも黄色透明で少量。 胸膜の癒着は左にはないが右肺尖部に軽度み られ,壁側胸膜下に出血も伴っていた。心嚢 液も黄色透明,少量。腹水は 1300 ml(細胞 診にて leukemia cell(+)),黄色透明。腹膜 も滑らかであった。 3.骨髄: Th10–12,L1–3 を採取。いずれも 白色で硬化していた。 4.肝臓:(2850 g)表面は平滑で凸凹はなか った。色はレンガ色でうっ血気味であった。 edge はやや dull で,割面は小葉像は明だが diffuse に白色斑や出血様のところが見られ た。胆嚢は虚脱していて胆汁の貯留はなかっ た。胆嚢頚部から下部総胆管まで胆砂の貯留 があった。 5.脾臓:(230 g)腫大が軽くあり,被膜や 脾柱が部分的に厚くなっているところがあっ た。割面にても血量が増しリンパ小節は不明 だった。脾門部リンパ節に転移を認めた。 6.腎臓:(左 110 g,右 90 g,移植腎 280 g) 左右共に被膜剥離は容易で,多数の小嚢胞形 成や結石,腎梗塞の瘢痕がみられる。割面で は腎皮質は萎縮し,白色調,軽い腎盂拡大も 見られた。移植腎は右腸骨窩に位置していて 腫大しているが,割面は皮髄境界も明瞭で血 量の減少もなかった。皮質内に diffuse に白 色小粒状斑を認めた。 7.消化管:回盲部,横行結腸,直腸に正常粘 膜を被って 5–8 mm 程の半球状結節が数多く 見られた。直腸に 0.9/0.6/0.4 cm の head と 図 6. 萎縮した左右腎と,右腸骨窩に位置した 移植腎。 図 7. 右肺には出血がみられ(A),アスペルギ ールスと思われる真菌の菌糸を認める (B,グロコット染色)。 A B
0.6 cm の stalk を持つ Y-IV 型のポリープを認 めた。直腸膀胱窩に出血を伴った結節をみ た。 8.膀胱:粘膜面に上記消化管と同様の半球状 結節を 1 ヶ認めた。 9.肺:(左 960 g,右 1030 g)両肺とも胸膜 面は平滑であったが,白色小粒斑が見られた。 両上葉(特に右)に著しい出血を認めた。出 血は境界明瞭に円形になっているところもあ った。肺内血管に血栓の形成が目立った。は っきりした炎症像は認めなかった。気管支粘 膜にび漫性に出血,発赤があった。リンパ節 は気管分岐部に軽い腫大がある他,肺門リン パ節にも軽度の腫大がみられた。 10.心臓:(470 g)心外膜は滑らか。左室壁 の肥厚を認めた(18 mm)。左室中隔前壁に 白色の線維性瘢痕を認めた。心内膜も滑らか で明らかな血栓形成も認めない。冠状動脈に 動脈硬化は目立つが有意な狭窄は見られなか った。 11.前立腺,甲状腺(15 g),副腎(左 7 g,右 6 g),精巣(左 30 g,右 30 g):著変なし 12.大動脈:全体的に動脈硬化が著しく,石灰 化,潰瘍形成が目立つ。 B.組織学的所見 1.骨髄:正常な造血巣は全くなく,線維化組 織と少量の脂肪組織がみられる。 繊維化組織の中に leukemia cell をみる。そ れとともに異型的な巨核球様細胞(あるいは 由来不明の大型芽球)も認められる。(図 4, 5) 2.リンパ節:上記と同様の leukemia cell,大 型の巨核球様細胞が浸潤し,正常のリンパ節 の構造は認められない。 3.肝臓:拡大した類洞に大型の異型性の強い leukemia cell をみる。うっ血による中心静脈 周囲の肝細胞脱落が目立つ。肝細胞核にも大 型化やクロマチンの増加等の異型が見られる が索状構造は保たれている。肝細胞質内にヘ モジデリン顆粒を認める。門脈域に石灰化吸 虫卵を多数認める。血栓,塞栓の形成は認め ない。 4.脾臓:実質内に多数の leukemia cell をみ る。リンパ小節の形成は見られず,うっ血や ヘモジデリンの沈着が目立つ。被膜にはヘモ ジデリンの沈着とともに弾性線維の変性石灰 化した Gamna-Gandy 結節が見られる。小血 管内に真菌の集合をみる。 5.腎臓:もとの腎臓においては,糸球体はほ ぼ完全に硝子化していて,尿細管の中には cast がつまっている。間質内には leukemia cell がび漫性に浸潤している。小さい嚢胞は 全て retension cyst である。移植腎において は糸球体は多くのところで保たれているが, 尿細管は間質内に浸潤した leukemia cell や 炎症細胞により破壊されているところもあ る。leukemia cell は被膜直下,腎門部,血管 周囲間質内に浸潤が目立つ。ボーマン嚢の拡 張があるが,糸球体毛細血管に fibrin 血栓は 見られない。(図 6) 6.消化管: leukemia cell が粘膜内や粘膜下 層で集塊を形成していて,胃,回盲部,横行 結腸,S 状結腸,直腸の粘膜面に見られた隆 起を作っている。いずれの場所にも石灰化吸 虫卵をみる。直腸のポリープは中等度異型の 線腫. 7.肺:境界明瞭な結節性病変の部分は,肺胞 中隔や気管支,脈管等既存の構造とは無関係 な均等かつ放射状の菌糸の伸張とともにこれ に一致した組織の凝固壊死をみるが,好中球 を含むすべての炎症細胞浸潤がほとんど認め られない。肺動脈内に真菌が多数見られ,こ れらの真菌は Y 字状の分岐を示し隔壁を有 し,多数の血管浸潤や菌塞栓を認めることか ら侵襲型の肺アスペルギルス症である。右上 葉では肺胞壁が ghost 状になり出血性梗塞の 像を呈している。出血周囲には Masson 体を 形成する器質化肺炎の像が見られる。気管支 のなかにも fibrin と真菌を含んだ粘性の痰の 貯留を見る所が多い。肉眼的に正常肺に見え た所も肺動脈枝内に真菌を含んだ血栓を認め る。胸膜下の白色斑には leukemia cell の浸 潤がみられる。(図 7)
8.心臓:心筋細胞の腫大,核大型化や中心化 など左室肥大の所見を認めたが,線維化や梗 塞巣は認めない。心内膜や心筋内血管に真菌 を含んだ血栓が見られた。 9.脾臓:著変なし。 10.甲状腺:著変なし。 11.副腎:コレステロール成分の減少がある。 12.前立腺,膀胱:結節性の過形成あり。腺の 二 相 性 は 保 た れ て い る 。 膀 胱 粘 膜 下 に leukemia cell(+) 13.精巣:精子形成なく atrophic である。 <病理組織学的診断> 主病変 1.急性骨髄性白血病 1.急性未分化型白血病: M0 :化学療法後 状態 2.広範囲な浸潤(肝,脾,両腎,移植腎, 胃,回盲部,横行結腸,S 状結腸,直腸, 膀胱,胸膜,腹水,頚部・鎖骨下リンパ 節) 3.骨髄線維症(二次性) 4.出血性素因:皮膚出血斑,肺出血 5.侵襲型アスペルギルス症(肺,心腔内, 脾臓) 副病変 1.慢性腎不全に対する腎移植状態:免疫抑 制剤療法後 2.脳内出血(臨床的) 3.左室肥大 4.日本応血吸虫症(大腸,肝,腎) 5.輸血による肝,脾のヘモジデローシス 6.直腸ポリープ(管状腺腫) <死因に関連すると思われるもの> 造血能低下による易出血性状態(→脳内出血) と sepsis(→真菌感染症) 考察 今回の症例は腎移植後 10 年経って発症し た白血病ということだったが,今回白血病と 診断がつくまでも最初の血小板減少の症状が でてから約 1 年たっている。この時点で再生 不良性貧血(AA),骨髄異形成症候群(MDS), 低形成性白血病(hypoplastic leukemia)が 疑われていたとのことであったが,dry tap になっていた時の骨髄の標本を retrospective に見返すと,今回の骨髄の所見のように骨髄 線維症や,大型の異型核を持つ巨核球様細胞 も認められる。大型異型核を持つ細胞が出現 していることから M7(巨核芽球性白血病) も鑑別疾患に挙がるが,この症例の白血病は, 骨髄細胞の表面マーカーの分析から急性骨髄 性白血病の中でも最も未分化である M0 であ り,予後不良の因子である 5 番,7 番染色体 異常を伴っていたことが明らかなので,なぜ この骨髄線維症が発生したのかが疑問とな る。第 1 に骨髄線維症の経過が短いならば急 性の骨髄線維症が起こったことも考えられ る。その理由は,急性骨髄線維症はいわゆる 通常の骨髄線維症(骨髄増殖性疾患の 1 型で ある慢性の骨髄線維症)とは異なり臨床経過 が 急 な こ と が 特 徴 で , M D S , M 7 な ど の AML で起こることがあるので,M0 白血病と 骨髄線維症はいずれも stem cell disorder で あることから両者の間に移行があってもおか しくないと考えられるためである。第 2 に骨 髄線維症は放射線治療後や化学療法後に二次 性に起こることもあるので,原疾患がコント ロールされていて単に二次的に起こったと考 えることもできる。臨床経過からすると骨髄 線維症の経過がそれなりの時間を経ているこ と,末梢血に芽球が出現してからは消えるこ とがなかったことによりこの 2 つの考えは否 定的であった。結局,免疫抑制剤の使用歴の ある治療関連性白血病(Therapy-related AML)は先行する MDS をしばしば伴うこと から考えて,低形成性の MDS から白血病に 移行したと考えるのが最も妥当であると考え られる。(MDS というと普通正形成,あるい は過形成性骨髄と考えるが低形成性のものも 有り得るとのことであった。)表面マーカー 解析などが盛んになった昨今,血液疾患にお いては臨床的な診断は決定的な位置を占めて
いるので,病理学的にはいかにそれに相当す る解析ができるかが大切になってくると思わ れる。 解析して各臓器に見られた所見は白血病の 末期の典型像で,広範囲の臓器に白血病細胞 の浸潤がみられること,易感染性の結果であ る真菌感染症(血管内に浸潤しているように 見える侵襲型アスペルギルス症)が認められ た。巨核芽球様の異型細胞が骨髄以外の臓器 (この症例では,肝,腎,リンパ節)に浸潤 することも血液疾患ではしばしば有り得ると のことであった。組織学的に疑問を残した所 は,末梢血のデータでほとんど好中球が見ら れないのに,なぜか腎臓に白血病細胞に混在 して ASD 陽性の分化した顆粒球系細胞が多 数認められたことである。 田邉信明助教授(泌尿器科学) 本症例は腎移植 10 年後に白血病を発症し た。移植後の白血病の発症についての報告は 少ないが,悪性腫瘍発症については,一般の 癌統計に比べ高い発症率といわれている。 腎移植後の悪性腫瘍の発生要因としては, 一般的に,1)免疫抑制療法による免疫監視 機能の低下,2)免疫抑制剤自体の腫瘍原性, 3)腫瘍ウイルスの感染や活性化,などがあ げられる。頻度については,2.8 ∼ 19.4 %と 報告によりばらつきがあるが,6 %前後の報 告が多い。種類としては,皮膚癌,リンパ腫, 消化器腫瘍,泌尿器腫瘍などがあげられる。 地域間・人種間での差が大きく,欧米では皮 膚癌が多く,日本では消化器腫瘍が多い傾向 にある。当科では付属病院開院以来 46 例の 腎移植を行っているが,このうち悪性腫瘍の 発生は尿路上皮癌 2 例,今回の症例での白血 病 1 例の計 3 例(6.5 %)であった。悪性腫 瘍発生時の対応としては,長期生着後の早期 癌以外は,免疫抑制剤の減量ないし中止が必 要となる。この場合には,当然拒絶反応発生 の可能性が出てくる。 免疫抑制剤の進歩により,腎移植後長期正 着例が増加しており,今後悪性腫瘍の合併も さらに増加していくのではないかと思われ る。 柳 光章助手(内科学 3) 本症例は腎移植後 10 年を経過した時点で 汎血球減少を来たし当科に紹介された。平成 11 年 5 月にその原因検索の為に骨髄検査を 行った。しかし,結果は dry tap であり,こ の時点では診断がつかなかった。少量採取で きた骨髄液の染色体検査から 5 番染色体と 7 番染色体の欠損が認められ,染色体異常から 骨髄異形性症候群(以下 MDS)であること が示唆された。この時,骨髄移植の適応も考 慮したが,本人の希望がないこと(後に腎移 植患者,片腎患者では骨髄移植の前処置とし て行う大量化学療法の施行が不可能である事 が判明)から,対症的に輸血を行っていた。 8 月からは末梢血にも blast を認め,易感染 性となった。10 月の末梢血液像,骨髄検査 から AML(M0)と診断した。10 月末より延 命の為に化学療法を行った。しかし,効果は なく 11 月 23 日脳内出血を来たし死亡され た。 以上より本症例は treatment related MDS (t-MDS)を経て AML(M0)を発症した症例 である。臨床経過と(t-MDS によく見られる) 染色体異常の結果から免疫抑制剤の使用が t-MDS の発症に関与した事が考えられる。 本 CPC で明らかとなり教訓となった点は, 免疫抑制剤使用によると思われる白血病を初 めとした二次発癌の発生が予想以上に多い事 である。特に Azathioprine の使用時に多い 様である。 近年,脳死移植など臓器移植が盛んに行わ れている。その際に免疫抑制剤は頻繁に使用 されている。優れた免疫抑制剤の使用により 臓器移植後の長期生存例が増えることは好ま しいことだが,その一方,本症例のような二 次発癌の発生が増加する事が懸念される。従 って,免疫抑制剤の使用・継続の決定は二次
発癌の可能性も充分に考慮し慎重に行わなけ ればならない。本症例はそのことを我々に教 える非常に貴重な症例であった。 戸川 敦(国立甲府病院院長) 腎移植 10 年後に貧血及び血小板減少を来 し,主治医より骨髄異形性症候群 MDS を経 て急性骨髄性白血病 AMLM0 を発生した症例 との説明があった。MDS とした時期骨髄が dry tap であったため形態学的診断は不可で, 5q-の染色体異常より MDS と診断された。ま た AML の時期の骨髄像が低形成であること より hypoplastic MDS とされた。M0 の診断 は芽球の CD13,CD33 陽性所見よりなされ, 電顕 myeloperoxidase MPO や抗 MPO 抗体 の検索はされていない。剖検時骨髄は脂肪髄 が少しで,線維化が著しく,線維に隠れ白血 病細胞の浸潤を見,その他大型の巨核球様細 胞が多数見られ,hypoplastic leukemia に骨 髄線維症が重複する像であった。hypoplastic MDS との相関は不明である。 悪性腫瘍に抗がん剤を投与し二次発癌を見 ることは稀ではないが,1969 年 Penn により 臓器移植後,免疫抑制剤の長期投与により二 次発癌の見られることが報告された。疫学上 因果関係があるとするもので,実際に証明さ れたものではない。悪性腫瘍発生率 6 %は我 が国より高く,これは多分移植臓器の生着率 が高く,生存期間が長い故と考えられる。我 が国の報告で今西や国方らは,2.2 %,3.9 % の発生率を挙げ,腎,肝,胃,乳,大腸癌の 発生が多く,白血病は腫瘍全体の 2 %に過ぎ ないと述べている。白血病発生率はシクロポ リ ン で 0.36 % , ア ザ チ オ プ リ ン AZT で 2.7 %と AZT で多数見られている。 文 献 1) Penn I: Clinical Transplants 1994. 2) 今西正昭他,移植,31: 100, 1996. 3) 国方聖司他,日泌尿会誌,87: 50, 1996. 4) Bulter J et al. Transplant, 49: 813, 1990.