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インフレーション心理

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Academic year: 2021

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0 インフレーションと云うは、普通に通貨の膨張の状態を意味する。詳言すれば、一定の社会の邇貨の需要蛍に対し て麺邇貨が相対的に繼続的膨張を爲し、それにつれて物価が騰貴して行く現象を意味するものと理解されている。 インフレーションの経済理論は複雑である。蓋しそれは複雑なる経済事象の綜合的な現はれ功一現象であるからで 而も之を惹起す原因となるものは、国民経済の全休に影響を及ぼすような重要な事件、即ち、戦争の勃発、財政の素 乱などによる国家財政の緊急の必要に迫られて免換停止となり、銀行券が不換紙幣化された場合に起る現象であって かかる不換紙幣インフレーションこそが本来の典型的なインフレーションなのである。 かかるインフレーション下にあっては、一度流通界に投入された通貨は牧縮することなく物価騰貴を客観化し、そ の過程に於て、対外的には爲替を低下し、対内的には物価騰貴による社会の所得及び分配を不公平ならしめて、遂に は破局的なインフレーションに迄導くのであるが、而しかかる発展は、専らその国の特殊な事情や、対外的な情勢に よって左右されるものであって、インフレーション自体が自動的に発展する必然性があるか否かに就ては未だ定論を 欠いていると云えよう。

インフソーション心理

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● 経済理論的にインフレーション内部に於ける自動的発展性を考究することは興味ある問題ではあるがじこの小文に 於ては智らく其補論的に、主として経済外的事情からインフレーションの発展を促成する事情について考察して見る インフレーション自体が自動的に発展性を有するか否かを考察するに当って、先づ考えて見る必要のあることは、 インフレーションはその無絡性、即ちそれ券促成する原因さえ作用すれば、若くはそれを妨けるものがなければ、際 限なく発展する性質を有するか何らかと云うことである。或はインフレrションそれ自体にある周期とも云わるべき 心のがあって何処までも発展する事なく或程度迄行くと自然に維焉する性質のものであるか何うかと云う事である。 歴史は繰り返すと云われる人事現象のように。叉春は一度逝いてもまた訪れる事があると云われる自然現象のように 不換紙幣の濫発が世界のインフレーション史に記録を留めた事例は少くない。フランヱ革命の時に財政の窮乏を救 うために発行されたアッシニア紙幣は、一七九六年四百五十五億七千八百八十万リーヴルの茸額に達し、殆んど無価 値になったと傳えられている。アメリカでは南北戦争の際に、戦喪調達の方法として一八六二年に緑背紙幣の発行老 始めたが、その後数回に亘り増発され、柊には不換紙幣化し、物価は騰貴し、鋳貨は影をひそめ、国民の経済生活は 混乱の極に達したと云う。矛一次世界大戦後のドイツが通貨膨張に伴うマルク貨幣の価値の激落に依って蒙つた惨害 は、インフレーション史上最も顯著なものであった。一九二三年に至りレンテン銀行を設立して、新たに銀行券ぞ発 行し之を整理したが、その時のレンテン・マルクの価値は実に一兆マルクに等しいとされたと云う。我国では曾て明 治初期に、爲替会社や国立銀行の発行した民間紙幣が何れも不換紙幣となってインフレーションを激化したが、殊に 西南の役の軍費は四千万円に達し、その爲邇賃膨張の勢は著しく、所謂不換紙幣の洪水は急激なる物価臓貴と著しき 銀紙の開きとを現はしたのである最近才二次世界大戦後のインフレーションが我が国民生活に未曾有の恐怖と混乱

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ヂ とをもたらしたことは未だ記憶に新たなところである。以上は最も顯著なるインフレーションの数例に過ぎず、而も これ等のものに就て凶些細に令析して見ろと、発生の事情や国情に依って通夫々型態や性質に於て同じものではない のであるが、ただ之等のものを通じて知られることは、インフレーションなるものにはその程度が極めて深刻なるも のがあって国民生活を全く根底から破壊し去らざれぱ止まないと云うような悪性のものがあると云うことや、その発 展の過程には幾つかの起伏があり、その発生の原因が緩和され若くは殆んど解消されても、他の何等かの事情の突発 に依って再燃され易いものであると云うことや、更にそれが根本的收束はそれ自体の自制力に依っては出来ず、国家 の残力な施策に依り且つ国民の多大の犠牲に於てでなければ出来ないものであると云うことを実証しうるのである。 脆風はどんなに強いものでも何時間か経てば一過して了うが、インフレーションは唯時の過ぎるのを待っていただけ では牧まらない。否恰かも急流を落下する水添岩に激しく瀬に急かれて、時に緩急はあっても、流を下るに從って 益々激化し、遂には全くこれを支えることの出来ない程の水勢となるのと同じであらう。 まことにインフレーションは磁力を有するものの如くである。それが放たれた廣野が、手足を自由に伸し得るよう な環境でありさえすれば、遠慮なく縦横無識に暴れ廻るのである。全く手がつけられない。而し元来インフレーショ ン自体は一つの経済現象に過ぎないのである。幾つかの経済事実が複合して出来上った結果がインフレーションと云 う型態をとって現はれたものに過ぎない。從ってそれを組成する事情が解消するか、若くは変質するかすれば、インフ レーションは既成のものと逢った形態、作用のものとなって現はれるであろう。インフレーションが磁力あり、悪性 のものであると解される限り、然る場合にはそれは既にインフレーションたる本質を失うに至ったものと考えらるべ きであろう。 ノ 〆 117

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、 インフレーションは一の経済現象である以上、人間の心理作用に関連あることは明かである。而もその心理作用は その性質上インフレーションの深化するにつれて敏感に働くのである。複雑なる経済事実を原因として生れ、一定の 経済蒙境の中に発展の舞台を得たインフレーションは、人間心理の微妙な働きかけに依って益友活動の猛威を暹しう して行く。インフレーションなるものはまことに複雑敏感なる存在なのである。 インフレーションと云うのは人が数理に鈍化する現象である。人が数のマジックにかかって冷静な数値の判断を峡 くに至ることである。物とその価値とに関する冷静な批判力を失って了うのである。商品の爺的不足と云う観念が支 配的となって、それが獲得に対する正常なる手段を鐸ぶと云う老へが麻簿して了うのである。こう云う考え方の累積 は益々その傾向淀激化する。遂には価格の騰落に依って商品を撰鐸すると云う心の余裕を鉄いてしまうのである。た だ手に入れ度いと云う考のみが表化するだけである。人女のこうした心理傾向が、インフレーションを鴎って益度深 こう一写フ心理は先づ商品の生産者乃至供給者の側に在って大膳に卒直に露骨に而して功利的に顯現する。正常なる 経済社会にあっては商品の産価を決定するもの・は合理化された生産費である。ここでは眞実なる生産費は生産者の最 、大の関心事であり、且つ消餐者の購買力の蕪準でもある。而しインフレーンョン下にあっては、この生産費は殆んど閑 却される。鉦墓に鉦頽される。生産費を錐龍した法外な産価が生産者叉は商人に依って主張される。供給者側は之を寧 ろインフレ道徳であると信じている。消喪者側は敢てこれを反駁しようとしないoその法外価格を怪またいのみか、寧 ろ正常観さえする。否、その正否を冷静に判断する心の余裕を持ち得ないのである。かくして物価は生産費を無頑し て法外に吊上げられる。暴騰するのである。経済社会に於ける濡要と供給との均衡は全く破壊せられ、物憤は一方的 埜 化せしめて行く。

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生産者及び商人側が、かかる時代を躯歌して我が物顔に振舞うのに引きかえて、消饗者の態度は全く治極的である ただ生活苦に喘ぎながら貧乏線上を坊樫している。彼等にはその生活を擁護すべき組織的な主張乃至行動の手段がな いのではない。而し彼等は殆んどそれを採らないのである。・気力がないのである。何れの国でも概してそうであり、 現に経戦過程に於ける日本インフレーシ・ヨン痔代にもそうであったことは余りにも記憶に新たである。部分的には生 活擁謹の叫びはあった。而し之を大衆化し現実に組織化する迄には発展しなかった。更に之を分析し研討して見たな らばその理論的根擦は把めるだろう。而し事実はその這りであり、疑うの余地はない。 日本経済は経戦後五年目にして漸くインフレーションの危機は去つ垂新らしく自立の階段に立ち至ったと云はれ H た。それで多くの国民の気持は明るくなりかけたが、一皿し叉今日インフレ再燃の懸念が叫ばれている。インフレは敗 戦後の日本の最大の敵であり、之を征伐することが日本国民に課せられた喫緊の仕事であるとすれば、何故日本国民 はこの際強力にインフレ克服に立ち向はないのであるか。ある購層の人左は寧ろその再来を漱迎さえして居る。曾て そ の 爲 に 惨 傭 た る 生 活 苦 を 営 め さ せ ら れ た 多 く の 階 層 の 人 左 は 、 今 は か ょ る 事 態 を 冷 然 と 傍 観 し て 居 る 如 く で あ る 。 喉元すぐればあつさを忘れるとはこのことであろう。大小の都市では派手な歳末年始の風景が演ぜられ、一般消喪者 は乏しい職買力をかかえて夢我夢中でその渦中に巻き込まれた。忘年会や新年宴会は経戦後のレコードを作って盛大 に催されたと云う。資金斗争は執鋤に展開され、その中でも教職員関係の運動は仲倉理論的に顕行されたのは一つの せるC を規定しようとする経済的条件は力を失い、経済学の法則は闇の中に深く影老潜めて、空虚な心理が猫りで幅を利か に上騰する。これに追付こうと焦りつつ邇貨は濫発される。かかる社会には、需要と供給との相関関係に依って債格 礼 119

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∼ 凸 特色をなしたものと見ら伽よう。師走と云う言葉の意味が新たに反省される。インフレーションの柊末階段に於ては この種の運動は全体として賢明な策ではない。寧ろ物価の上昇傾向を阻止することが有効だ。米価は一月から改訂せ られたが、あらゆる物価中、特にこの際米価が上ると云うことは心理的にインフレーションへの最も有力な拍車であ ると云うことを知らなければならない。一部に米価引上の喰止運動があることはあったが、大衆は躍らなかった。今 日米価が上ると云うことは消喪者にとっては痛手であり、再燃しようとするインフレーションに油を注ぐようなもの であると共に、経済の流通が相当円滑になって来たこの際、生産者にとっても決して有利ではないのである。インフ レ上昇期と今日とでは、経済組織内部の有機的相互関係が全く逢って来ている。それを知って効果的に利用しない限 りいつ迄たっても同じ苦しみ、同じ不安を繰り返すのみだ。今日の我国の経済は、消極的に姑息的に、その時々を獺 縫して行っていい時期ではない。積極的に混沌を打開して行かなければならない。 インフレーションに働きかける功利的な生産者乃至商人の心理と、退嬰的な消費者心理とは、インフレーションを その内部から性格化し固定的な慢性的な恋のと化し、遂にはそれを経済領域から旗く一般社会領域に迄押し縦げ、浮 薄な空虚なインフレーション心理を中心とするインフレーンョン社会が作出されるのである。こう云う社会に定住す

る人倉は、インフレーションそのものの害毒を感じなくなる。︵二六二・五︶

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