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未来の学部教育のデザイン -知識伝達型から臨床知創成・交流型への転換-

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Academic year: 2021

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(1)未来の学部教育のデザイン. 教育デザイン研究会 第 1 回大会 講演記録 (2009 年 11 月 8 日) 基調講演. 未来の学部教育のデザイン. − 知識伝達型から臨床知創成・交流型への転換 − お茶の水女子大学大学院教授. 内 田 伸 子. . 大学教員、院生、学生、そして学校教育現場の教員とが連携して、教育現場に即した独創的な研究デザインを研 究、開発し、そしてそれを公開していくという、大変志の高い研究会の第 1 回にお呼びいただき、十分その意にこ たえられるかわからないが、私の考える未来の学部教育についてお話ししたい。 1. 考える力が弱い子ども、 2. よく考える学生を育てる授業デザイン、3. 書くこと・考えること、 4. 日本語談話の構造、5. 新しい知の創造について、順を追ってお話ししたい。. 1 考える力が弱い子ども. ング / ライティング / リスニング / スピーキングと. (1) PISA 型調査より. いった、自分なりの判断や根拠に基づいて評価しなが. 高校 1 年生に対して、情報を読み取り論証し論述. ら読み、書き、聴き、そして話すという能力が欠けて. する力が不足しているという実態が明らかになってい. いる、ということを指している。そこで新しい学習指. る。特に読解力が先進諸国の中で最下位であり問題視. 導要領では、言語活動、そして交流型の授業を重視し. されている。日本の高校生という対象は 9 割の進学. ている。つまり自分で考える力を養うために、知識は. 率によるものなので、他国と単純に比較することはで. 個人の中でつくられるのではなく、交流の中で社会的. きないが、それにしても、数学の力や読解力がどんど. に構成されるのだという考えを基に、総合学習だけで. ん下がっていることは明らかである。. はなく、教科学習でも日本語を重視するという方向性 に切り替えることになった。. (2) 全国学習状況調査より この調査からは、日本の子どもたちは基本問題はお. 言語力を核とする確かな学力を身につけるための基. おむね理解しているが、自分で考え判断する力、知識. 礎として、言語活動を各教科でどう実現していくかが. 技能を活用し思考し表現する力に欠けている状態が続. 重視されているのである。. いている。活用力とは「自分で考える」力、論証し論. 現在、小中学校では論理的思考力を育てる、論理科. 述する能力である。これは、クリティカル・リーディ. カリキュラムの開発と実践が取り組まれている。広島. 12.

(2) 県安芸高田市立向井原小では 3 年前から論 理科 開発 に取り組み、大きな成果をあげた。今年度からは熊本 大学、お茶の水女子大学などの附属校など全国小中学 校など 8 校が開発指定校として論理科カリキュラム の開発に取り組んでいる。重要な問題は、大学生をど うするかである。小中高生の考える力が弱くなってい る中で、考える力が弱い生徒を受け入れた大学は今後、 どうすべきなのか、重要な問題である。 そこでまずは、よく考える力を育てることを目指し た大学での具体的な実践例を、三つお話したい。 2 よく考える力を育てる授業デザイン (1)ハーバート大学医学部の「ニュー・パースウェイ」 これは、「Advanced PBL チュートリアル」と呼ばれ ている。. この学習が導入された発端は、病気の急増にある。 つまり、知識伝達型の学習では対応できないのである。 どんな病気の患者に出会っても対応できるように問題 発見学習方式、問題にに応じた解決策を探る学習方法 を導入せざるをえなかったのである。. 現実問題に基づく学習である。医学部の 1・2 年生 が受けるもので、患者さん一人に 3 日間かけて調べ る。ある主訴で来院した患者の現病歴について調べる。 そこでは、少人数グループの教育手法を取り入れてい る。この PBL による教育には、次の 3 つの特徴があ る。①小グループ性。日本でいう班学習に近いもので ある。②自発性。③自己評価、ふりかえり。これらに よって、現実問題に基づく学習となっていることが大 切である。. その目標は、次の二つにある。 ①「臨床知」を創生すること。このためには、現実 の患者について様々な角度から調べる必要があ る。 ②「コミュニケーション力」を涵養。そのためにグ ループで対話・相互交流し、患者や開業医・エキ スパートなどにインタビューすることとなる。こ れにより、医師の臨床知やコミュニケーション力 を育てていこうとするものである。 このニュー・パースウェイの効果としては、①国家 試験の合格率が向上した。②知の社会構成、臨床知を つくりだす方向に効果があった。つまり、学生が討論. 教育デザイン研究 創刊号 13.

(3) 未来の学部教育のデザイン. に持ち込む生活体験や既有知識を最大限に活用して、. こと、を目指している。. 臨床現場の課題について、人・本・インターネットを. 受講するときの心構えとして、最初に必ず伝えるこ. 活用して病歴を調べ上げ、仲間の学生やチューターと. とは、次のことである。. 相互作用することが促された。その結果、「理解」す なわち「わけがわかる」だけでなく、「納得・腑に落. 「科学理論というものは、無条件に信じるべきでは. ちる」すなわち感覚的にも心でも納得することができ. ない。講義やテキストに書かれた事柄は「今の段階で. るようになった。そういうわけで「学問知」を「臨床知」. はここまでしかわかっていない」ということの洗練さ. へと転換する方法を会得することにつながっていった. れた表明にすぎないのである。つまり学問の知の限界. のである。. を示しているものである。究極の真理についての「試 論」であり、「至論」ではない。 ・・・日本語は美しい、 漢字はとても便利ですね (笑) ・・・ありうる仮説 の可能性の一つを提示しているのである。従って、常 に自分の頭を通して考え、これは確かなことか、本当 にそうと言えるのかを常に吟味することが必要なので ある。この講義で提示することも、無条件に鵜呑みに せず、きちんと吟味して取り込んでほしい。この講義 を聴きながら、疑問を持つこと、対案を提起すること が受講者の貴女たちのなすべきことである。」 第一回の授業の導入でこのことを述べることによっ て、受講生たちに、高校までの学びとまったく違った. (2) 入門期『発達心理学概論』. 学び方をしていくことを求めているのである。そし. 先の学習は、いわゆるゼミ形式であるが、1 年生で. て予習と復習を必ず行うことを要求する。2 単位の定. しかも大規模な授業において、同じ考え方を実現する. 義をしっかり理解させ、欠席も 3 回までとしている。. ことができるか、ということで私の授業を紹介したい。. さらに授業はパワーポイントで提示し、その日の夕方 までに私の HP にアップしておくこととし、欠席者も 補習できるようにしている。授業の進め方としては、 開始 5 分前に、授業内容に関係したメッセージソン グを流している。例えば、虐待の話しをするときは、 中島みゆきを、五月病が起こりやすい時期には、さだ まさしなどの曲を流す。そして授業は 3 分前に終わ らせ、3 分間でコメント作文を書かせて提出させてい る。これは、授業でおかしいな、と思ったことや聞い てみたいことを書くものである。つまり、より一層授 業に積極的に関わる手がかりとして活用しているので ある。 私がなぜ、このような授業をするようになったのか. この授業で大切にしていることは、 「Evidence-based. というと、スタンフォード大学の『心理学入門』の授. Communication」である。つまり、鵜呑みにせずに自. 業に出会ったからである。. 分の頭で考えること、そして疑うこと、うわさに頼ら ぬこと、原典にあたること、証拠・根拠を明確に示す. 14. (3) スタンフォード大学の『心理学入門』.

(4) 授業者は、ジンバルド (Zimbardo.P) という、ス タンフォード監獄実験で有名な社会心理学者である。 このジンバルドの授業は、200 名着席の教室に立ち 見で一杯になるほどの人気のある授業である。. この授業で、彼はメッセージソングを流し、自身の 服装も内容に沿って変える。ゲストスピーカーを呼ぶ ことも多く、予習・復習といった時間外学習を設けて いる。そして欠席者や復習のために、ビデオをサンフ ランシスコのケーブルテレビによって放映している。 このように人気が非常に高い 1 年生のための授業で ある。私は、大規模な授業でもこのように受講生と教 師との間に交流をつくることができることに感動し、 その方法を取り入れるようになった。さすがに服装ま では変えられないが。 3 書くこと・考えること / なぜコメント作文を書か せるのか ではなぜ、私の授業でコメント作文を書かせるのか、 ということについてお話したい。 私は以前、作文の研究に取り組んでいた。小学 6 年生に作文の推敲過程において、どのようなイメージ が浮かぶのか、ということを調べるために実験してみ たものを紹介する。この実験では、子どもに 3 ヵ月 にわたって 3 回の推敲を行わせている。そして作文 を書くときには、頭の中に浮かんだことはすべてしゃ べってもらうという、とても負担のかかる方法を取る。 ひとつ例を出す。小学 6 年生の女子児童 (T.Y さん) の例である。. 教育デザイン研究 創刊号 15.

(5) 未来の学部教育のデザイン. このように作文の推敲の過程は非常にダイナミック で複雑なプロセスだということがわかった。決してア イデアがあって、それを適切なことばに置き換えてい くというスタティックなモデルでは説明できない行為 なのである。必ず「おかしい !?」という「感覚」が起 こり、それでことばの引き出しをいろいろ探し、出て きたところで納得するものがあったときにそれを分析 し、初めて受け入れるというプロセスなのである。ま さに、推敲過程は考え (アイディア) を発見する過 程でああり、アイディアをことばを探すことにより自 分自身で納得する過程なのである。 つまり、「書く」というのは、その前に自分の考え を発見するという作業が伴うのである。書くことに よって、自分のアイデアを自覚するという過程なのだ。 ゆえに文章に書かせるということは、学生が授業の中 で自分の考えをはっきりさせる、あるいは生み出すた めに有効であるということができる。ヴィゴツキー (Vygotsky) は言っている。「私は、私が言おうとし ていたことばを忘れてしまった。すると具体化されな かった思想は陰の世界に帰っていってしまう。」 4 日本語談話の構造 では、日本語談話の構造は、論証・論述にはむかないか、 この推敲過程における「ことばの発見」の様子から. という話題に移りたい。文法は 3 歳で身に付くとされて. は、次のような表現と意図との調整過程が見られる。. いる。これは、時間・空間の体制化の道具として大切で. まず「ズレの感覚」があり、その「ズレの原因は何か」. ある。そして談話文法は、5 歳前後には成立する。これ. と「ことばの探索」が同時並行に行われる。そして「ピッ. によって、文章を構造化する枠組みが獲得されることと. タリ感」のある言葉が探し出され、それとともに「対. なる。ここで 5 歳 10 ヶ月の子どものお話しを聞いてい. 案の解釈と評価」が行われる。そして最後に、そのこ. ただきたい。(音声 :5 歳児の談話「星を空へ返す方法」 ). とばの「受け入れの決定」がなされるのである。. この物語はとても美しい談話構造をもっている。. 16.

(6) このようなお話しを、物語文法を習得する幼児期の終. 日本人の子どもが、主人公のストーリーを時系列で展. わりにはつくれるようになる。. 開させるのに対して、アメリカの子どもは、はじめに. この談話の構造には、日米でその展開のさせ方に大. 結論があり、その後にその理由を説明するという、因. きな違いがある。「字のない絵本」を見ながらお話し. 果律によるストーリー展開を製作する傾向があること. をつくってもらう実験では、日本人児童は、出来事の. がわかった (マンガ) 。つまり、日本語談話の特徴. 説明において「時系列」によるものがほとんどである. としては、時系列を用いて出来事を説明し、原因・結. のに対して、英語母語話者は、幼児も児童も「因果律」. 果を「~ のせいで ~ になった、だから ~」という接続. を用いて説明を展開していることが明らかになった。. 形式で表現しているのである。 以上の知見を踏まえると、日本の子どもには結論先 行型で根拠を挙げて意見を述べさせる指導が必要なの ではないかと考えられる。「論理科」の開発と実践が 取り組まれているのである。 ここで広島の向原小学校の論理科開発と実践を紹介 する。. この「因果律」か「時系列」か、という問題に対し て、名古屋大学の渡辺雅子は著書『納得の構造』の中 で、日米での歴史の授業の進め方の違いに原因がある のではないかと指摘している。アメリカでは、事実を 時系列で講じた後、因果律でなぜか、を説明させてディ ベートに持ち込んでいるのに対して、日本では事実を 時系列で説明し、覚えさせてテストで確認するという 授業が行われているとしている。そして、こんなに授. 同校の教育目標は、子どもに言語力、すなわち論理. 業の構造が違うのだから、子どもの作文構造への影響. 力を身につけさせることであり、情報に表された内容. があっるだろうと推測し、4 コママンガについて説明. を読み解くことや、内容の真偽性や考えの妥当性につ. 作文を書かせてみた。. いて判断すること、真実や考えを筋道立てて表現する ことが目指され、結論先行型の表現形式の「型」を教 えている。その指導原理は、第一に必ず比較による類 推をさせること、具体的にはワークシートに相違点と 共通性を記させる、そして自己内対話を促すことがあ げられる。そして第二に他者との対話、ディベートを 行わせる。意見を表明し、対立点や相違点を明らかに し、説得を行い、さらには自己内対話による省察を行 わせることにより、納得し、判断し、自分なりに結論 を出していくという形で授業が進んでいく。 . 教育デザイン研究 創刊号 17.

(7) 未来の学部教育のデザイン. ではこのような論理科の実践には、どのような効果. 結論先行型の表現形式は、論理科を受けている高学. があるのだろうか。私が行った調査を紹介する。実験. 年の子どもに多くみられたわけである。また論理科を. 群として、論理科の開発・実践校である向原小学校の. 受けている子どもは、文章量が少なくて済んでいるこ. 3 年生と 5 年生、対照群として広島市内の学習到達度. と、受けていない子どもには、感想や教訓、反省的な. 調査の上位校である小学校の 3 年生と 5 年生に協力. 表現が目立った。. していただいた。図 11-1 の 4 コママンガについての ストーリー作文を書かせる課題を与えた。. 結果は、論理科カリキュラムの効果は、5 年生で高 くなることがはっきりした。. 18.

(8) 5 新しい知の創造 新しい知が創造されるためには、どのようなことが 大切であるかというと、「認知的葛藤」と「学びのリ フレクション」である。そして教育力のある教師を育 てることである。授業に参加し、自分の意見とは異な る子どもたちと出会うこと、それによって認知的葛藤 が起こり、そこに適切な指導があれば、はじめて科学 的概念へと自分の疑問を消化することができる。この ときに必要なのは、討議が発生するような教室である ことと学びを振り返ることとがセットになっているこ とである。 ここで、熊本大学附属小学校の開発・実践を紹介す る。同校では、子どもが自分で課題を見つけ、それを 探求していくという「自立した探求者」として子ども を育てることに全校あげて取り組んでいる。. フィンランドの教育省のヤッピネン事務次官は『1 に教師、2 に教師、3 に教師』と言っている。それだ け教師教育が重要であるということだ。フィンランド の教師について注目すべきことをまとめてみると、次 そして、理数系の教科の授業は、小中教員免許状を. のようになる。第一に教師は大学院修士課程修了者で. もち中学校での理数系専門教育歴が 5 年の教員が担. あること、第二に教師教育の一環として、大学で地域. 当している。つまり専門性の高い授業を行っているの. の乳幼児のためのデイケアセンターを開設し、実地研. である。指導の基本は「子どもの認知的葛藤」を見逃. 究で子どもの成長を支える教育実践を構想する実践的. さないこと、学力の気になる子に焦点を当てて、その. 知識の涵養を中核に置いている。つまりことばがうま. 子が理解できるように、みんなで支えていくことであ. く伝わらない乳幼児を対象にしたインターンシップが. る。. 子ども理解のために位置づけられており、とても興味 深い。第三に教員採用試験は、大変厳しい面接による. 6 教師教育の課題. ものである。第 4 に少人数学級 (25 人程度) であ. 次に教師教育の課題として、フィンランドの教師教. ることである。そして「教師は国民の蝋燭である」と. 育の例を挙げてみたい。. 言われていることも重要である。フィンランドでは小 さな蝋燭の灯りを大切にしており、暗闇の中で灯りを ともし、知へと誘い、人を導く教師への尊敬とあこが れを込めての表現なのである。さらには教師として「協. 教育デザイン研究 創刊号 19.

(9) 未来の学部教育のデザイン. 働的な開発者」になることが求められている。. の授業時数が相対的に減らされる傾向にあるが、これ. また、フィンランドの読解力が世界一である秘密と. は絶対に間違っていると思う。やはり、理性と感性の. して、次のことが挙げられる。まずは幼児期において、. 互恵ということを、もっと考えていくべきだと考える。. ストーリーテリングが重視されていることである。家. そして情報教育が行き届いており、インターネットの. 庭では父親が、幼稚園では教師がそれを行い、批判的. 活用率が世界一であることも挙げられる。. な質問を与え、考えさせながら読むようにしている。. 翻って日本では、OECD に「将来に向け教育にどう. このような中で、論理の整合性が身に付き、理数系の. 戦略的に投資するかが日本の課題である」と指摘さ. 学習にも役立っているようである。. れるくらいに教育予算が少ない。2005 年の教育予算 の対国内総生産費 (GDP) 比は、経済協力開発機構 (OECD) 加盟国中最低であり、問題に感じている。. そして児童期から思春期における読書活動の特徴と しては、 親も子どもも読書好きであるということである。 * これから、この教育デザイン研究会、そして教育デ ザインセンターで、未来の学部教育のデザインを創生 していくことに期待している。ぜひ、 「自立した探究者」 「臨床知の創造者」を育てることを目指していただき たい。学生が自発的に疑問をもち、その疑問を自力で 解く、仮説を立て自力で証拠を探し出し検証する、そ して教師は問題解決の方法を教える。学生の発するこ とばやコメント作文から認知的葛藤を洞察し、葛藤解 決に向かって努力することを励ます。答えをすべて明 示的に与えるのではなく、提案の形で複数の解決の方 一人一人に図書館入館証と博物館入館証が配布され. 向を照らすようにしたい。. るように、「読解フィンランド」は読解力強化事業に. 教育とは、『共育』であり、大学の教員、学校教育. よって支えられているのである。父親による夜遅くま. 現場の教員、院生、学生どうしが協力して “育ち合い”. での読み聞かせは思春期まで続き、国語は「母語・文. “育て合う” こと、さらにお互いに恊働で『協育』して. 学」であるとまで言われている。それから、学校と文. いくことなのではなかろうか。. 化の協働プログラムというものがあり、芸術科と他の. そしてヘレン・ケラーを育てたアン・サリバンのこ. 教科の協働を大切にしている。日本では、音楽、美術. とばに「教師はことばが豊かでなければならない。」. 20.

(10) というものがある。つまり論理的な物言いをしなけれ. このエピソードは、大人は質問に答えることはできる. ばならないと思う。こうも言っている。「私は決して. が、質問の仕方を教えることはできない。だから、簡. ことばを教えていたのではない。考えを伝える手段と. 単に答を余すところなく与えてしまうのではなく、子. してふだんのことばを用いたのです。言語は、子ども. どもに考えさせることが必要だということを私たちに. たちが理性と内省に入る “ 扉 ” なのですから。」ヘレ. 教えてくれる。大人が子ども自身に考えさせる余地を. ンがどのように教育されたかがわかることばだ。. 残した働きかけをしたときに、子ども自身が自律的・ 自発的に、創造的想像力を育んでいけるのである。. *. 本センターで取り組みの始まった「未来の学部教育 のデザイン」において、「自立・自律した探究者」、「臨. 最後に、大人は子どもに答えを教える人ではなく、. 床知の創造者」を育てることに期待したい。. 子どもに考えさせる人になってほしいということで、 「これにもお豆がなるの ?」というエピソードをお話 ししたい。昭和 38 年に明治図書から出版された雑誌 『理科の教育』に掲載されていたエッセーである。当時、 秋田大学の理科教育の先生で学長も務めていた渡辺万 次郎先生が、4 歳と 5 歳のお孫さんとのやり取りを描 いたものである。 私はかつて幼稚園の 2 児を近郊に伴った。彼らは “みやこぐさ” の花に注意を引かれたが、その名を問う ほかに能がなかった。当時、私どもの菜園には、同じ 豆科の “えんどう” の花が咲いていたので、私は名を 教えるかわりに、その花を持って帰りおうちでそれに. *. よく似た花を見出すようにと指導した。彼らが帰宅後 両者の類似を見出した時には、小さいながらも自力に. (星の王子様の映像). 基づく新発見の喜びに燃えた。やがて一人は “みやこ. 星の王子様が出てきた。王子様が地球に着いたとき、. ぐさ” について、“これにもお豆がなるのか” と尋ねた。. 小さなキツネが言った。. それは誰にも教えられない独創的な質問であった。私. 「この世で一番大切なものは、目に見えないんだよ。」. はそれにも答えず、次の日曜に彼らに現場で確かめる. 目に見えないモノやコトを洞察する力、その力を身. ことを提案した。彼らがそこに小さな “お豆” を見出. につけることが何よりも大切だと思う。. した時、そこには自分の推理の当った喜びがあった。 秋が来た。庭には萩の花が咲いた。彼らが萩にも豆の なることを予測した。彼らは過去の経験から、いかな. ご清聴に感謝申し上げます。 (文責 大泉義一). る花に豆がなるかを自主的に知り、その推論を独創的 にまだ見ぬ世界に及ぼしたのである。 (高橋金三郎『授業と科学』麥書房、1962 年。なお、 この文章は渡辺万次郎『理科の教育』8 巻 11 号より 引用したもの。文中の「私」は渡辺氏である。). 教育デザイン研究 創刊号 21.

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