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三芳町パソコンセミナー参加高齢者のパソコン利用状況調査

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(1)国際経営・文化研究 Vol.16 No.2 March 2012. (研究ノート). 三芳町パソコンセミナー参加高齢者のパソコン利用状況調査. 齊 藤 鉄 也 キーワード. 高齢者 生涯教育 情報通信機器 アンケート 定性的調査. 1.はじめに 本論文では、家庭でパソコンを代表とする情報通信機器を高齢者が利用している様子を調査し、 そこでの利用に際して発生している課題を述べる。調査では、高齢者が直面している問題を探索す るために、三芳町パソコンセミナー参加者を対象としてアンケートとインタビューを行った。 調査の背景としては、情報通信機器の普及とコンピュータ化した家電機器やAV機器の登場がある。 例えば、これからの高齢者の生活においては情報通信機器の利用が避けられない。既に商品の通信 販売やその商品の情報提供においては、日常的にウェブが利用されている。このサービス提供手段 が発展することはあっても、高齢社会になったからといってなくなることは非常に考えにくい。ま た異なる例としては、コンピュータの搭載を前提とした多様な家電機器やAV機器の登場とその予想 される普及である。コンピュータの利用に対する「使えない」 、操作に対する「できない」 、トラブ ルへ対する「わからない」といった不満や不安は、コンピュータが機能の中心的な役割を果たすこ とが前提となっている多様な機器においても繰り返し発生する可能性が高い。これらの情報通信機 器やコンピュータを搭載した家電機器にはパソコンと共通する不満や不安の要因があることが予想 できる。この要因を探り、それらを解消する方法の手掛りを得ることは、それらの機器に搭載され るソフトウェアの設計や開発に示唆を与えることも可能であろう。さらには、 「使いにくい」とされ る情報システムへの改善への示唆や今後の情報教育の内容への示唆ともなり得る。 調査結果からは、既に高齢者の家庭にパソコンが普及し、利用されている状況が推測できた。パ ソコンを代表とする情報通信機器は、これまでのテレビやビデオといった家電機器とは異なり、家 族で共有する使い方よりも個人が利用する使い方をされている。また、ウェブやメールは、新聞や テレビ、FAXといった既存の情報媒体と家庭における役割は重複するが、調査の時点においては、 利用者が使い分けを行い共存していると言える。さらには、利用に関してのトラブルへの対応は難 しく、その対応への解決方法がわからず困っている様子も伺えた。 以下、第2章で、調査対象となる高齢者が参加した三芳町パソコンセミナーの概要を述べる。第 3章では、アンケート及びインタビュー調査の概要を述べる。第4章では、調査結果を述べる。そ さいとう てつや:淑徳大学 国際コミュニケーション学部 経営コミュニケーション学科 准教授. — 85 —. 1.

(2) 三芳町パソコンセミナー参加高齢者のパソコン利用状況調査. の結果は、利用環境と利用習慣、これまでの利用経験、利用の際に起きた問題の四つの点からまと めた。第5章では、これらの調査結果を考察した。第6章はまとめである。 2.三芳町パソコンセミナーの概要 三芳町パソコンセミナー(以下パソコンセミナーと省略する)は、淑徳大学国際コミュニケーシ ョン学部が主催し、三芳町と三芳町教育委員会が共催する公開講座のひとつであった。その始まり は2000年度に森内閣が行った IT 講習会にある。この IT 講習会は2000年度と2001年度に淑徳大学埼 玉みずほ台キャンパスで行われた。その後、2003年度より、国際コミュニケーション学部と三芳町 の共催する公開講座のひとつとして、同キャンパスにおいてパソコンセミナーを開催し2010年度ま で行っていた。2003年度より2005年度までは、年1回、2月にセミナーを開催していた。その後、 受講者からの要望が多かったため、2006年度から年2回、9月と2月にセミナーを開催していた。 参加対象者は主として三芳町在住のパソコンの利用の初心者としている。参加者数は1講座40名を 定員としている。講座は1回4時間であり、1日間または2日間で実施した。講座内容は、パソコ ン初心者を対象とした文書処理の入門や表計算の入門、ウェブブラウザを利用した検索やメールの 利用を中心としたインターネット入門、といったソフトウェアの使い方を紹介している。年1回開 催していた時期には、各講座内容を年1回ずつ開催していた。年2回開催していた時期には、9月 に文書処理入門の講座を、2月に表計算入門の講座をそれぞれ2回開講していた。担当講師は2005 年度まで松永修一助教授(当時)、駒﨑久明准教授、阿部勘一専任講師(当時)、齊藤が担当し、 2006年度以降は駒﨑准教授、齊藤が担当した。講師の他に学生アシスタントとして学部生を配置し、 各講座に5名程度を割当て、会場設営、テキスト作成、講座中の参加者からの質問への応対やトラ ブルへの対応を行った。 3.アンケート及びインタビュー調査の概要 パソコンセミナー参加者のうち、高齢者を対象としてパソコンの利用環境や利用習慣についてア ンケート及びインタビューを用いて調査した。調査の目的は、高齢者がパソコンを中心とした情報 通信機器を利用した際に生ずる現象の記述とその要因を探ることである。パソコンセミナーの参加 希望者が多く、講座の開催回数を増やしたことから、多くの利用者はパソコンを「使えるようにな りたい」という要望は持っていても、実際のパソコンの利用に関して日常生活の中では「使えるよ うにはならない」という解決できない問題があることを表している。この差の要因を明らかにする ことで、高齢者の利用の現状と利用に際してのパソコンに代表される情報通信機器に求められる改善 点を探る。 調査では、相対的に情報通信機器の利用経験が少ない高齢者の行動や発言を収集した。具体的に は、情報機器を利用し始めた高齢者であれば様々な問題に直面する機会がある可能性が高く、調査 対象として適していると判断し、パソコンセミナー参加者を対象とした。その理由として、次の二 2. 点を考慮した。全くパソコンに興味がない利用者からは、パソコンセミナーへ参加せず、おそらく 日常生活においてほとんど利用していないと考えられるので、調査対象として適切ではない。反対 に、パソコンを使いこなせる利用者は、パソコンセミナーへ参加せず、直面した問題を自ら解決す ることができるので不満を持つことはなく、調査対象として適切ではない。なお、この調査では、 受講者のアンケート回答の際の回答者の便宜を考え区分が複雑となることを避け、10年単位で年齢 を区切った結果、60才以上を高齢者として調査対象としている。 上記の目的である利用の際に発生する問題とその要因を明らかにするために、高齢者の利用の現. — 86 —.

(3) 国際経営・文化研究 Vol.16 No.2 March 2012. 状とこれまでの経験、パソコンセミナー受講後の行動をアンケートとインタビューで調査した。利 用環境や利用経験を尋ねるアンケート調査は、2006年度から2008年度に三芳町パソコンセミナー 実施後に合計6回実施した。アンケートの実施形式は2007年度まではアンケート用紙を利用し回収 した。2008年度からはウェブアンケートを利用し回収した。インタビュー調査は2007年3月と 2007年8月に行った。 アンケートの質問項目はアンケート毎に異なり、20項目から40項目ある。これは情報通信機器に 関係するアンケートであるため、パソコンに限らず、デジタルカメラやゲーム機といった情報通信 機器の普及状況や利用状況に応じて、質問項目を追加したことが理由である。また、オフィスツー ルやウェブに関係したソフトウェアやサービスの利用状況に関する項目に関して、各回のアンケー ト結果を受けて、質問する項目の詳細の程度を変更し続けたことも理由である。このため、ここで は質問項目のうち、各アンケートに共通する質問内容の分類を述べる。質問内容は次の四項目に分 類した。具体的には、各自の家庭におけるパソコンの情報通信機器の「利用環境」と、それらの日 常生活の中での「利用習慣」 、これまでの利用の多様さを尋ねる「利用経験」、 「利用の際に起きた問 題」に質問項目を分類した。次にそれぞれの分類に対応する質問内容を挙げる。利用環境に関する 項目としては、パソコンの所有歴、設置場所とインターネット接続の有無を挙げた。利用習慣に関 する項目として、利用頻度と利用状況を挙げた。利用経験に関する項目として、メールやウェブと いった代表的な利用を挙げ、これまで経験したことがある利用事例の種類を挙げた。利用の際に起 きた問題に関する項目としては、これまで経験したトラブルへの対処方法を挙げた。利用環境と利 用習慣、利用経験に関してはアンケートの選択欄で、利用の際に起きた問題についてはアンケート への自由記入欄への記入とインタビューで回答していただいた。 4.調査結果 アンケート実施日時及び回答数、全回答に占める60歳以上の回答の割合、さらに60歳以上の回答 に占めるリピータ層の割合を表1にまとめた。このアンケート回答者数には同一参加者を含む延べ 人数である。アンケート回答数が調査毎に異なる理由は、アンケートに回答せずに帰宅した参加者 が存在することを示している。この表からわかる通り、パソコンセミナーの参加者は60歳以上が半 数を占め、その中でも参加回数が多い「リピータ」参加者が一定数を占めている。以下、本節で述 べる集計及び調査結果は、各調査の全ての60歳以上の回答に対して行っている。各調査の回答者の うち、60歳以上のリピータと非リピータの参加者に対して、一週間の利用日数を利用経験と看做し、 その利用日数の平均の差があるかを t 検定で確認した。その結果、リピータと非リピータ参加者にお いては利用日数において有意差がないことがわかったので、ここでは60歳以上の全ての回答結果を 利用している。利用環境と利用習慣、利用経験に関してはアンケート項目が比較可能な2006年9月 と2008年9月のデータを主に利用している。 アンケート調査実施日. 回答数. 60歳以上(%). 60歳以上のリピータ(%). 2006年9月 5日、 7日. 67名. 41名(61.2%). 15名(36.6%). 2007年2月 7日、 9日. 41名. 27名(65.9%). 24名(88.9%). 2007年9月 4日、 6日. 39名. 23名(60.0%). 11名(47.8%). 2008年2月13日、 15日. 47名. 34名(72.3%). 22名(66.6%). 2008年9月 9日、 11日、12日. 61名. 42名(68.9%). 23名(58.1%). 2009年2月 9日、 11日、12日. 30名. 20名(66.7%). 11名(55.0%). 表1:アンケート調査回答数内訳. — 87 —. 3.

(4) 三芳町パソコンセミナー参加高齢者のパソコン利用状況調査. インタビュー調査はアンケート実施の際に、協力していただける方を募り、2007年3月と8月に 電話調査または訪問調査を行った。対象となった60歳以上の方の内訳は、電話でインタビューした 人数は10名、自宅に訪問してインタビューした人数は4名である。このうち、60歳以上であり、か つ、上記の質問項目に当てはまるトラブルに関する発言を得た人数は、電話でインタビュー調査を した9人と、自宅に訪問してインタビュー調査をした2名である。 4−1.利用環境に関しての集計結果 3年間の調査結果からは、調査を行う前から既に高齢者の家庭においても十分にパソコンの普及 が進み、その後インターネット接続が普及したことが伺えた。これは、パソコンを日常的に利用す る環境としては各家庭に既に揃っていることを示している。2006年9月の調査においてパソコンの 所有者は既に82.9%(34名)であった。2008年9月の調査においては92.7%(38名)であった。 インターネットへの接続も同様である。インターネット接続をしている利用者は2006年9月の調査 においては53.7%(22名)であり、2008年9月の調査においては90.2%(37名)であった。この ことからは、2006年以来、既に多くの家庭にパソコンが普及し、2008年9月の時点で、それらの パソコンのほとんどがインターネット接続されていることがわかった。 次に、パソコン所有者において、パソコンの設置されている環境を調査した。パソコンの所有形 態を尋ねたところ、自分専用のパソコンを所有していると回答した参加者は2006年9月において 63.4%(26名)、2008年9月において63.4%(26名)であった。デスクトップ型とノートブック型 の形態の相違に関しては、デスクトップ型の割合が2006年9月において29.1%(7名)、2008年9 月において50.0%(13名)であった。さらに、家庭の中でパソコンの位置づけを推測するために、 2008年9月にはパソコンの設置場所についても尋ねた。居間や食堂といった家庭で共用する空間に 設置している割合は34.12%(14名)、個室や寝室といった個人が利用する空間に設定している割合 は51.2%(21名)であった。この点に関して、パソコン所有者のうち、リピータ参加者と非リピー タ参加者で、設置場所において共用空間に設置されているか否かの相違をχ2(カイ二乗)検定で検 定したところ、5%有意水準で有意であった。つまり、リピータ参加者はパソコンを家庭の共用空 間には設置していない。このことからは、パソコンを利用したいと考えるリピータ参加者にとって は、家庭の中にパソコンが普及したといっても、家族で共有する家電機器としてではなく、個人が 利用する情報通信機器として認識されていると推測できる。 4-2.利用習慣に関しての集計結果 パソコンの利用頻度に関しては、普及に応じて利用者も増えていることが伺える。例えば、2006 年9月において、普段パソコンを使っていると回答する利用者は51.2%(21名)であった。同様に、 2008年9月においては普段パソコンを使っていると回答している利用者は75.6%(31名)であった。 このことからはパソコンの普及の次の段階として利用者の利用頻度が上がっていることが伺える。 4. この普段からパソコンを利用している利用者のうち、一週間の利用日数を調べた。2006年9月か ら2009年2月の間の、一週間に利用する日数を調べたところ、利用日数は増える傾向にあることが わかった。図1はこの一週間の利用日数の変化の様子を表すグラフである。調査期間において、一 週間のうち3日以上利用する利用者が増える傾向にあり、一方で1日または2日利用する利用者が 減る傾向にあることから、利用日数において利用者が二極分化する傾向が伺える。 さらに、2008年9月において、一度利用し始めると一時間以上利用する利用者が42.1%(16名) いること、一日のうちに利用する時間帯は「夜」と回答した利用者が28.0%(11名)、 「時間がある. — 88 —.

(5) 国際経営・文化研究 Vol.16 No.2 March 2012 100.0% 82.4%. 80.0%. 60.0%. 40.0%. 20.0%. 54.2%. 55.6%. 33.3%. 38.9%. 12.5%. 63.0% 37.0%. 43.8%. 28.9% 15.8%. 12.5%. 5.6%. 200702. 200709. 未利用. 11.8%. 0.0%. 0.0% 200609. 55.3%. 200802 1、 2日利用. 5.9% 200809. 200902 3日以上利用. 図1:高齢者の一週間の利用日数の変化. ときはいつでも」と回答した利用者が26.3%(10名)であった。このことからは、まとまった時間 にパソコンに向かっている利用状況が推測できる。 4-3.これまでの利用経験に関しての集計結果 パソコンの代表的な利用事例であるメールとウェブに関しては、共に増加しているが、相対的に ウェブの方が伸びていることが明らかになった。利用はまずメールから始まり、次にウェブといっ た順番で普及したことが伺える。メールの利用は2006年9月において34.1%(14名)であった。 2008年9月において61.0%(25名)であった。ウェブの利用は2006年9月において26.8%(11名) であった。2008年9月において58.5%(24名)であった。 また、メールやウェブは既に家庭に存在するテレビや新聞といった情報提供媒体と役割において 競合する。この点から、メールやウェブの利用が増えた結果、既存の媒体の利用への変化の有無を 調べた。その結果からは、少なくとも高齢者の利用においては、ウェブやメールと競合する情報提 供媒体であっても、その競合関係は明らかではないことがわかった。具体的には次のとおりであっ た。テレビや新聞、雑誌は同様の情報がウェブでも利用できる点で、ウェブと競合関係にあるとい える。これらに費やす時間の変化を尋ねたところ、2009年2月において、 「テレビの見る時間は変 わらない」という回答が50.0%(10名)、「新聞を読む時間は変わらない」という回答が65.0%(13 名) 、「雑誌を読む時間は変わらない」という回答が55.0%(11名)であった。また、文書を送信す るという点でメールと競合関係にあるFAXの利用回数の変化を調べた。その結果、FAXの利用は減少 していると推測できる。2009年2月において、パソコンのメール利用者は65.0%(13名)であり、 そのうちFAXの利用回数が減少したと回答した利用者は40.0%(8名)であった。 Word に代表される文書処理ソフトとExcel に代表される表計算ソフトの利用に関しては、2008年 9月において、共に43.9%(18名)が利用していた。これらのソフトウェアの利用者は重なってい ることから、高齢者においても文書処理や表計算といったソフトウェアを積極的に使いこなしてい る利用者がいることを表している。 パソコンと接続して利用するデジタルカメラに関しても調査した。写真をパソコンで整理したこ とがある利用者は、2006年9月の調査において14.6%(6名)であったことに対し、2008年9月 においては36.6%(15名)に増加している。この間にデジタルカメラも普及したことが伺える。 ウェブページの作成に関しては2006年9月と2008年9月において共に0%(0名)であった。. — 89 —. 5.

(6) 三芳町パソコンセミナー参加高齢者のパソコン利用状況調査. ウェブページの作成は全く普及していないと言える。 なお、2回目の調査である2007年2月から2009年2月の間において、 「パソコンセミナーの内容 を活用したことがある」と回答した利用者は、2007年2月の58.3%(14名)から2009年2月の 90.9%(10名)まで増加する傾向にあることがわかった。これを図2に表す。このことからは、リ ピータ参加者である高齢者の利用に関してパソコンセミナーの開催も効果があったと言えるだろう。 100.0%. 100.0% 90.9%. 90.0% 82.6%. 80.0%. 70.0% 63.6% 60.0% 58.3% 50.0%. 200702. 200709. 200802. 200909. 201002. 図2:セミナー内容の活用経験者数の変化. 4-4.利用の際に起きた問題に関しての集計結果と対応プロセス 2007年3月と8月において、現在の利用状況を確認し、パソコンを利用しているならばその際に 経験したトラブルについて、利用していないならばその理由を半構成的面接法でインタビューした。 インタビュー結果からは、トラブルに遭遇した際に、問題を解決することができなくとも、自分で できることに積極的に取組む姿勢があると、その後の利用の習慣化が起きることが推測できた。分 析は次の方法で行った。まず、インタビュー結果を記録した記述から、グラウンデッドセオリー[2] の手法に基づき、これまで経験したトラブルやその対応に該当する文を切り出した。次に、それぞ れの文の内容に基づいた分類と抽象化を行い、分類項目の名前付けをし、トラブルへの対応を表す 構造とプロセスを分析した。その構造は「予期しないトラブルとの遭遇」 「問題への対応行動の計画」 「解決できそうな問題への対応」「一人で問題を考える不安」 「利用の習慣化」の五つのカテゴリから なる。それぞれのカテゴリはインタビューの記述に基づいた分類項目からなる。これを図3に表す。 ここでは、高齢者のトラブル対応の様子を図3に従って述べていく。 高齢者が予期しないトラブルに遭遇した時、その原因がわかることはほとんどない。実際にトラ ブルに遭遇し、原因を分析し、問題を解決するといった問題解決の一連のプロセスに沿った行動に 関しては何もできないと言える。この点で、ここでの利用状況の説明は、問題の解決プロセスでは なく、問題への対応のプロセスの記述である。2007年9月のアンケート調査で「よく困ったこと」 6. に関しての集計結果からは、11人中5名が「用語の意味がわからない」 「メッセージを理解できな い」「突然何が起きたのかわからなくなる」「メニューの違いがわからない」 、4名が「間違えたとこ ろがわからない」と回答している。これらの点からは、利用者の理解の程度が用語の理解や操作の 理解の段階で留まっているため、トラブルの原因を分析することは難しいと言える。また、 「困った ことへの対応」に関しての集計結果からは、11名中6名が「家族や知人に質問した」 、4名が「 『元 に戻す』操作をした」「取扱説明書を読んだ」、3名が「最初からやり直した」 「本を読んだ」 、2名 が「サポートセンターに電話した」と回答している。これらの「困ったことへの対応」の行動から. — 90 —.

(7) 国際経営・文化研究 Vol.16 No.2 March 2012 予期しないトラブルとの遭遇 説明できないトラブル 経験したトラブルと結果 問題への対応行動の計画 経験のあてはめ 対応行動の想像. 一人で問題を考える不安 問題を考えることの回避 できない理由の説明. 解決できそうな問題への対応 今後の対応のための努力. 利用の習慣 現在の利用経験. 図3:トラブルとその対応の構造とプロセス. 推測すると、この段階においても、多くの利用者にとっては問題となった操作や問題の原因は何で あるかはわかっていないようである。このことからは、トラブルの原因を追求することよりも、ト ラブルがあることを前提に利用している様子が伺える。 この様子からは利用経験が多ければトラブルに遭遇することも多いと推測できる。そのため、利 用経験の多寡は、トラブルへの対応行動の相違に現れると言える。具体的には、利用経験の少ない 利用者は、コンピュータ以外の機器での成功例をあてはめ、トラブルに対応しようとする。これを 裏付ける記述として、例えば、80歳代女性の「何故この操作が必要なのかがわからない。日常生活 の感覚と異なる。」や60歳代男性の「電源を切って閉じてくれない(終了しない)。使いにくい。 」 がある。また、トラブルへの対応行動を想像し、60歳代女性の「本を読むと面倒。携帯ではどこで どう押せばよくわかる。わからないことは近くの主人に聞く。本は面倒くさい。 」というように、想 像するだけで、実際に自分で問題へ対応しようと行動することはせず、面倒と述べている。さらに は、70歳代女性の「困った時に誰かいないと怖い。 」という不安を訴え、 「隣に誰か居ればやる。す ぐ呼んで質問する。トラブルが起きて困る。」といった、自分で問題を考えるのではなく、相談相手 を必要とし、相談相手に依存することを前提に利用しようとする。 これに対して、利用経験が多い利用者は、トラブルへの対応を想像することよりも、トラブルに 対して自分ができる行動をしようとする。例えば、60歳代男性の「上手くいったことを忘れる。そ れで何回もやってみた。」「わからないことがあるとすぐ調べる。(ウェブで)検索(する)。手当た り次第開く。」や60歳代女性の「わからなくなったら電気屋に来てもらったり、(自分で)尋ねてい った。」「説明書を読むのは面倒でも、読み砕いて理解する。できるところまでは自分でやる。 」とい うように、問題へ対応するために自分でできる範囲の行動を積極的に選択することが伺える。さら には、60歳男性の「わからない時にはメモして聞きにいく。すぐ家に帰って復習(する)。 」という ように、今後のための努力を行う。これらの行動を繰り返すことが利用習慣につながっていくよう である。 5.調査の考察 調査結果からは、高齢者の家庭にコンピュータが普及し、利用されていく様子が伺えた。コン. — 91 —. 7.

(8) 三芳町パソコンセミナー参加高齢者のパソコン利用状況調査. ピュータの操作や用語に戸惑うことはあっても、高齢者だからといって特別なことはなく、高齢者 もメールやウェブを目的に応じて利用をしていると言える。一方で、コンピュータがこれまで家庭 に普及している家電機器とは異なる性質を持つことから、提供されているサービスを利用するとい う段階から自分でトラブルを解決できることや自分で利用方法を工夫することといった次の段階へ 進むことが難しいことも推測できた。 情報通信機器を利用する際の難しさは、目に見える画面上のボタンやメニューといった部品やマ ウスによる操作の複雑さに注目してしまうことで、そのソフトウェアの背景にある基本的なモデル やモデル同士の関係への理解が進まないことにある。そのため、利用時に問題が発生した時に可視 化され操作できる部品の操作体系だけで問題を解決しようとしてしまう。結果的に、利用者は、現 象への対応ではなく、本来必要な原因追求とその問題解決方法が発見できない。ここに情報通信機 器の抱える難しさがあり、利用者はこの問題の本質を理解できなくなっている。 このことはこれまで普及してきた家電とは異なる性質である。家電機器であれば、電源投入後す ぐ利用することができる。その機能はひとつであり、電源を切断すれば動作は終了する。また電源 を投入すれば何事もなかったように動き出す。これに対して情報通信機器は、次の三つの特徴があ る。第一に、ソフトウェアによって実現されたファイルやフォルダ、操作メニューに代表される抽 象概念の操作体系とその階層構造の理解が必要である。これが、よく利用する操作を記憶すること で日常的な利用はできても、トラブルが発生した際には、操作体系や構造を把握していないと、ト ラブルへの対応方法を考えることができない原因である。第二に、文書作成といったコンピュータ 上の作業では、原因が発生したときと、問題が表面化し利用者に理解されたときの時間差があり、 原因と結果の因果関係が非常にわかりにくい。しかも、トラブルが発生した際には、この長い因果 関係を逆の順番に辿り、トラブルの原因追及をする必要がある。この問題を解決するためには利用 経験の蓄積だけでなく、体系的な知識が必要である。第三に、トラブルは複数のソフトウェアに関 係することが多く、それぞれのソフトウェアの持つ役割や構造を分類し、モデルと現象を対応づけ る思考が必要となる。これにもまた体系的な知識が必要である。 こういった特徴を持つ情報通信機器を効率的に利用するためには、これまでの家電機器のような 頻繁に利用する操作の記憶や電源を切るといった「実践的な」利用方法だけでは対応することが難 しい。利用者がトラブルを解決するためには情報通信機器に関する体系的な知識の学習を必要とす る。抽象的な概念である情報の性質やその処理モデルの説明は、大学をはじめとする教育機関で教 えることはあっても、情報通信機器を購入する家電量販店や、使い方を教わることを主目的とした 街のパソコン教室では、これらの内容を教えない可能性が高い。このため、今後、コンピュータを 搭載し、その機能を利用した家電機器やAV機器が普及し、そこで発生するトラブルへの対応やより 発展的な利用が必要となった後には、情報の持つモデルや概念を教える教育のニーズが高まること が予想できる。アンケートの自由記入欄やインタビュー記録の調査結果からは、このモデルに関し ての記述は全く存在しない。これはおそらく明確なモデルとその操作を理解している高齢者は少数 8. であることが原因であると推測する。つまり、高齢者が情報通信機器に共通するモデルと経験した 問題との関係を説明できるようになれば、自分で問題解決方法を発見できる可能性が高くなるだろう。 6.まとめ 本論文では、三芳町パソコンセミナーの参加者である高齢者を対象に、家庭で実際にコンピュー タを利用している状況を調査した。調査からは、高齢者の家庭でパソコンが日常的に存在し、ウェ ブやメールが利用されていることが明らかになった。但し、利用の際にトラブルが発生すると、自. — 92 —.

(9) 国際経営・文化研究 Vol.16 No.2 March 2012. 分でトラブルを解決できていないことも明らかになった。このトラブルを解決するためには、情報 通信機器の基本的な概念の理解やそれらに関する体系的な知識を必要とする。しかし、これらの知 識を提供し教育する場は大学といった教育機関に限られているため、調査の時点においては、高齢 者自身によるトラブルの解決ができていない。 今後、日常生活で利用する様々な家電機器やAV機器にコンピュータが搭載されることで、多くの 情報通信機器に囲まれて高齢者が生活していくことになるだろう。現在の高齢者が直面しているパ ソコン利用時の課題は、それらのコンピュータを搭載した多様な情報通信機器の登場と普及と共に、 再び繰り返される可能性がある。今後はリテラシーに加えて、情報通信機器の知識の教育の重要性 が高まるだろう。 謝辞 アンケート及びインタビュー調査に回答していただいた三芳町パソコンセミナー参加者の皆さん に感謝します。また、セミナー開催に協力していただいた教職員の方々、アシスタントとして参加 した学生達に感謝します。 この調査は平成18年度学術奨励助成費の補助を受けて行われました。 参考文献 [1]萱間真美,「質的研究実践ノート」,医学書院,2008 [2]𠀋木クレイグヒル滋子,「質的研究方法ゼミナール」 ,医学書院,2008 [3]佐野正之,奥山竜一,坂井善久,宇喜田宣穂,中森誉之,「アクション・リサーチのすすめ」, 大修館書店,2003 [4]齊藤鉄也, 「高齢社会下の情報通信技術の役割」,総合福祉研究Vol. 10,2006 (受理 平成24年1月9日). 9. — 93 —.

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参照

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