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教員養成学生の教授法学習の素材としての音楽授業記録活用の可能性 : 映像記録と逐語記録の比較を通して

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(1)Title. 教員養成学生の教授法学習の素材としての音楽授業記録活用の可能性 : 映像記録と逐語記録の比較を通して. Author(s). 尾藤, 弥生. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 64(2): 51-61. Issue Date. 2014-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7322. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第64巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.64,No.2. 平成26年2 月 February,2014. 教員養成学生の教授法学習の素材としての音楽授業記録活用の可能性. ∼映像記録と逐語記録の比較を通して∼. 尾 藤 弥 生. 北海道教育大学岩見沢枚音楽教育研究室. Possibilityofmusicclassrecordsuseasmaterialofdidactics Studyforteachertrainingstudent ”−ThroughthecomparisonbetweentheimagerecordandtheWordrecord”− BITO Yayoi DepartmentofMusicEducation,IwamizawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 本論文は,音楽科の教員養成初歩の学生が,どのように授業を参観しているのかを調査する. ことを目指し,尾藤1)の研究を発展させ,学生が中学校歌唱教材の映像及び逐語授業記録をど のように読解しているのか比較してその傾向を明らかにすることを目的とした。具体的には,. 同一の中学校音楽科,歌唱の50分の授業映像記録の参観と逐語記録の読解を通して行った。授 業記録の分析の視点を先行研究より得て分析を行った。その視点は,①教師の話し方(目線, 表情や動きなど)②教師の非言語行為(演奏,範唱,例示演奏),③教具,提示物,板書,④ 指導内容(授業の構成,授業の流れ),⑤教師の発言(助言,説明,指示,受容,評価,褒める), 教師の発間,⑥生徒の演奏,⑦生徒の様子,生徒の発言,⑧教室の雰囲気,座席など,である。. 分析の結果,主に次のことが明らかになった。 ① 映像記録は,演奏と関わった言語による指導の部分で,具体的な指導内容の把握が細かく できることが分かった。 ② 逐語記録では,④指導内容(授業の構成,授業の流れ),⑤教師の発言(助言,説明,指示,. 受容,評価,褒める)に関して,指導の意図や目的まで理解を深めた把握が可能であること が分かった。. ③ 今回の考察により,映像も逐語記録も学習教材として,教授行動を学ぶ上で,効果的であ ることが分かった。. 51.

(3) 尾 藤 弥 生. 1.研究の目的と背景 教員養成初歩の学生が,過去のすぐれた実践から学ぶことは意義深い。しかし,指導スキルが優れ,指導 目的が明確で,生徒の能力に即した授業の構成や発間がテンポ良く行われている「生」の授業を数多く,教 育法の授業の一環として参観することは現実的に大変難しい。そこで,研究授業などの映像記録や,それを 文字に起こした逐語記録を基に学習することが教授法のスキルを学ぶ上で有効であるという仮説に至った。 授業記録を活用する目的には,①授業改善のため,②教師の授業力量形成のため,③授業についての学問 的研究のため(吉崎1991,pp.123−126)などがある。ここでは,上記②の目的により,教員養成初歩の学生が, 教授=教えることつまり,どのように指導,支援することが適切かを授業記録から学ぶことができるかに焦 点を当てる。 本研究では,音楽科の教員養成初歩の学生が,どのように授業を参観しているのかを調査することを目指. し,尾藤1)の研究を発展させ,学生が中学校歌唱教材の映像及び逐語授業記録をどのように読解しているの か比較してその傾向を明らかにすることを目的とした。具体的には,授業映像記録の参観及び授業逐語記録 の読解を通して行うこととした。 なお,授業記録とは,一過性という特性を持つ授業を映像・音声で記録したり,文字・言語として記録し た資料のことである2)と定義できる。つまり,本論文で比較する映像記録と逐語記録は,どちらも授業記録 であると言える。. 2 研究方法及び分析視点 研究方法は,授業映像記録及び逐語記録に対する学生の記述を分析する質的方法を採用した。 そして,記述内容の分析視点を決定するため,授業記録の分析・読解に関する研究を検討した。その主な ものは,小金井正巳らがOSIAの授業分析カテゴリーを簡便化した分析枠組み(小金井1988,pp.251−256), 重桧鷹泰(1961,pp.40−56)の授業観察・分析視点,藤岡完治の自己授業改善のための「手がかり一認識マ トリックス」と「意思決定一表現マトリックス」(藤岡1988,pp.257−260)である。. まず,小金井らのOSIAを簡便化した授業分析枠組みについて,これはコミュニケーション分析の手法 が取り入れられている。そのカテゴリーは,教師に関して「1.評価・確認・受容・判断,2.再質問,解 明,3.間合い取り,4.開かれた質問,5.閉じられた質問,6.指示,指名,7.操作,行動,8.情 報提起,9.沈黙,10.授業運営」,11.教師と学習者の授業として機能を持たない言語的,非言語的行動, 学習者に関して「12.授業運営への参加,13.沈黙,14.学習作業,15.16.反応・応答1,2(掘り下げ) 17.自発的発言,18.再質問解明,19.評価・確認・受容・判断」である。 次に,重桧は授業観察の視点として「観察事項」を,①児童生徒の発言(発言の調子やニュアンスを十分 念頭に置く,つぶやきにも注目),②児童生徒の動作(積極的参加,授業からの逃避に属するもの,受身な態 度),③教師の言葉(発間のし方,子どもの発言の受けとめ方,子どもたちの話しあいにおける媒介の仕方),. ④板書(教師の指導意図,教材の理解,指導の順序が表れる,子どもたちの理解や思考の足がかり),⑤教師 の位置と机間巡視(空間的位置,視線の方向,巡視の動き方),⑥教師の指名(指名分布,指名回数),⑦教室. の空気(人間関係,雰囲気),⑧全体の動き,を挙げている。さらに,重於は授業記録の要件として,「教師 と子どもたちの動きがそのまま記述されていること」「時刻の記録や発言者個人が特定できるものであるこ と」「それを手がかりに各種の解釈が成立するくらい詳しいもの」であることを求めている。. 最後に,藤岡の授業分析のマトリックスは,教育実習生が自分の授業における知覚と意思決定の過程を意. う2.

(4) 教員養成学生の教授法学習の素材としての音楽授業記録活用の可能性. 識化できるように作られている。まず,どのような手がかりをどんな種類のもので判断したかを分析するた めに「手がかり一認識マトリックス」が示され,これらを手掛かりに,どんな種類の意思決定をし,それを どのような形で表現したかを分析する「意思決定一表現マトリックス」の二種類となっている。「手がかり 一認識マトリックス」の項目は,手がかり刺激として,学習者には「発言,行動,感情」,教師には「発言, 行動,感情」が示され,認知の内容としては,「理解・達成,興味・意欲,マネージメント実習生への態度,. 教材,指導方法,予想外・その他」となっている。また,「意思決定一表現マトリックス」の項目は,意思 決定の内容として「目標・達成,教材・教具,指導方法,学習のしつけ,感情の状態,その他」が示され, 表現の方法として「発間,指示・命令,情報提示,KR,演示・実験,指名,机間巡視,故意,無為」となっ ている。. 以上3件の授業記録分析視点の考え方を,表にまとめると以下のようになる。. ≪授業分析視点の考え方のまとめ≫ 注:★→重松,■→小金井,▲→藤岡 教. 師. 児童・生徒. ★言葉,発間,受け止め,話しあいの媒介,指名. ★発言. 活. 解明),指示,指名,情報提示,沈黙. ▲発言. 些. ★板書 ★教師の位置と机間巡視. ★動作 ■学習作業 ▲行動,表情. ∈∃ 享五 ロロ ■質問(再質問,開かれた質問,閉じられた質問, ■発言(自発的,反応,応答,再質問解明),沈黙. 動 ▲発言,発間,指示,命令,情報提示,指名, 百 享五 ■捜査,行動 白口 活 ■間愛取り. 動 ▲浜示,実験,机間巡視 ▲行動,感情 そ ★教室の雰囲気,全体の動き の ■評価,確認,受容,判断. 他 ■授業運営. この他,藤岡における「認知の内容」「意思決定の内容」の項目も分析視点項目作成の参考とした。 その結果,聴覚及び視覚の非言語の要素を多く含む音楽の授業ということも勘案して,上記表では,「演示,. 実験」のみが示されていた項目を音楽に合わせて解釈し,教師の非言語行為(演奏,範唱,例示演奏)と生 徒の演奏,の項目を加えることとした。そして,次の8つの項目に分類して検討することとした。①教師の 話し方(目線,表情や動きなど)②教師の非言語行為(演奏,範唱,例示演奏),③教具,提示物,板書, ④指導内容(授業の構成,授業の流れ),⑤教師の発言(助言,説明,指示,受容,評価,褒める),教師の 発間,⑥生徒の演奏,⑦生徒の様子,生徒の発言,⑧教室の雰囲気,座席など,である。. 3 実践概要と授業記録素材の概要 本研究では,音楽科教育法受講1年日の本学2年生47名を対象に2012年4月映像記録の参観,6月に逐語 記録の読解を実施した。実践では,50分の授業すべてを映像と逐語記録で参観し,それぞれに対して「良い なと思った点」と「改善してほしい点」に分けて気づいたことを記述させた。その後,4−5名のグループ ごとに前述の8項目の分析視点に沿って,2つの各記録の各自の気づきの記述を分類させた。 授業記録素材は,平成23年度全日本音楽教育研究会全国大会札幌大会中学校部会の研究授業である。. 53.

(5) 尾 藤 弥 生. 題材名:情景や心情と曲想とのかかわりを感じ取って表現を工夫し,味わって歌おう. 対象学年:中学1年生 題材目標:. ① 「夏の思い出」「実り」の歌詞が表わす情景や心情,曲想に関心を持ち,音楽表現を工夫して歌う学習 に主体的に取り組む. ② 「夏の思い出」「実り」のリズム,速度,旋律,強弱,構成を知覚し,それらの働きが生み出す特質や 雰囲気を感受しながら,歌詞の表わす情景や心情,曲の表情や味わいを感じ取って音楽表現を創意工夫す る. ③ 創意丁夫を生かした音楽表現するために必要な,発声,日本語の発音,呼吸法などの技能を身に付けて 歌う. 指導計画:4時間設定。本時はその3時間目 本時の目標:. 「夏の思い出」のリズム,速度,旋律線の方向性,強弱,構成を知覚・感受し,「夏の思い出」の歌詞の 内容や曲想を味わい,音楽表現を追求する。. 4.分析結果と考察 映像記録と逐語記録を参観して記述させた「よいと思う点」と「改善してほしい点」のカードを「2.研 究方法及び分析視点」の8項目に分類し,分析した。 4−1 映像記録と逐語記録の数量的比較考察 まず,映像記録と逐語記録で,各項目の記述がどの程度異なるか数量的に検討した。次に,両方の記録読 解において,記述量が多かった,「指導内容」と「教師の発言」について,詳細に検討した。. ≪授業の映像記録と逐語記録の気づきの圭のまとめ≫ ○=>よいと思ったこと。△=>改善してほしいこと 項 目. 1教師の話し方. う4. 映像 逐語. 映像 逐語. 映像 逐語. 映像. 06 3. 01 0. 02 0. 09.

(6) 教員養成学生の教授法学習の素材としての音楽授業記録活用の可能性. 2教師の非言語行為. 3教具,提示物,板書. 4指導内容. 5教師の発言. 6生徒の演奏. 7生徒の様子,発言. 8教室の雰囲気,座席など. △9 1. △4 0. △6 0. △19. 03 3. 01 1. 01 2. 05. △4 0. △2 0. △2 0. △8. 020 15. 022 9. 021 14. 063. △7 9. △8 4. △5 2. △20. 06 11. 00 13. 013 7. 019. △5 8. △5 4. △9 7. △19. 07 2. 02 0. 02 0. 011. △3 0. △4 0. △2 0. △9. 012 5. 05 0. 03 0. 020. △0 2. △7 2. △3 0. △10. 01 4. 02 4. 07 3. 010. 上記8項目の映像と逐語記録の比較を行うと,1,2,3,7,の項目に関しては,映像記録の方が記述 量が圧倒的に多い。これらの項目は,視覚的に把握できる内容であるため,さらに,音楽の歌唱の授業であ るため,学習中の演奏を聴いて判断できる部分が多いためと言える。8に関してはほぼ同じ数であり,視覚 における気づきも多いと言える。 4に関しては,映像が83記述,逐語が43記述と数からは映像の方が多い。. 5の教師の発言に関しては,映像が38記述,逐語が50記述と逐語の方が多い。 そこで,4,5の記述内容を詳細に検討することとした。. 4−2 二つの記録の「指導内容」の気づきの比較考察 ここでは,指導内容を導入,授業の流れ,生徒の意見を生かす,指導内容の構成,に分けて,同じ様な記 述でも具体的にどのような違いがあるか考察する。. ≪指導内容の良い点の主な内容の比較まとめ≫ 逐語記録. 映像記録 準星 ・前回の話と本口の内容説明=ラ見通しが持てる. 質疑応答形式で前回の復習. 授業の流れ ・先生が問題点上げ, ・歌ってみる=ラ生徒に考えさせる=ライメージを持たせ る=ラもう一度歌う. =ラ生徒がそれについて考える. ・「水芭蕉の花が」で生徒にイメージを聞く=>それを ・生徒の発言を引用し 実際に歌う=>やってみた感想も聞く. =>理解へと導く. ・授業全体を通して計画的で論理的,無駄な時間がな しヽ. ・思いをこめて歌う側⇔聴く側,それぞれがどう思い をこめて歌ったか,どう聞こえたか意見交換. 55.

(7) 尾 藤 弥 生. 生徒の意見を生かす ・気づきを生徒に生み出させる=>一緒に気づいたふり. ・先生の一方的指導ではなく,生徒の発言を踏まえて 指導内容伝える はじめから答えを教えるのではなく生徒の考えを重視 して歌わせている ・生徒に解決方法を導きださせる ・先生が教えているというより生徒と考え学んでいる ・生徒に再確認させる ・生徒の意見積極的に取り入れて何回も歌っている. ・生徒の発言を拾って実践している。 ・生徒が考えたように実際に歌い表現する,それに対 するディスカッション ・生徒が書いたものを=>授業の教材にしている ・前の生徒の発言からつなげて,=ラ最終的に題材を明. ・生徒の書いたプリントを使っている。=>一人の生徒. の意見をみんなで共有 ・生徒が書き込んだ楽譜を使って授業をする ・違った場所でグループごとに歌わせる ・もう一度歌わせて何かを気づかせる ・生徒の発言を基に歌っていたこと ・書いてもらった楽譜を実際に歌っていた 指導内容の構成 ・色々なパターンで歌わせる. 生徒に何度も歌わせることで=>人前で歌うことへの恥. =>耳で明確にさせる. ずかしさ軽減. ・同じフレーズを違うパターンで歌う=ラ表現の幅広が る. ・グループに分けて発表することで=ラ違う表現を聴き. 比べられる ・あえて悪い例を「示す,やらせる」ことで=>よい例. ・悪い例も実践させる=>より深い実感伴う. がなぜ良いかという理由につなげている. ・ダメなパターンも試させることで=>気づかせている. ・良くない歌い方も歌わせている=>違いが明確. ・あえてダメな歌い方を歌わせて=>比較して分かるこ. ・2回線り返し比較しながら=>実感を促している. とを見つけさせている. ・様々なパターンを試させている. ・教材の利用がうまい=ラ学習指導要領の内容を筋道だ. ・あえて色々なバージョンを歌わせる ・生徒に色々なバージョンの歌い方を体験させること. てて指導できている ・授業の最後にそれぞれが大切に歌いたいことを楽譜 に書かせるひとつだけ ・最後まとめとして演奏したこと ・次の課題を提示して授業を終わる ・次の授業で何をするか伝える=>目標になる. ・最後のまとめで発表した子は今口の内容を理解でき. で=>新たな発見をさせる. ・何に気を付けて歌うか明確に示している ・音楽記号の表現についてもさりげなく触れている=>. 先入観を持つことなく学べる ・授業の締めくくりを次回の学習につなげる ・最後に授業のまとめ,そして,次の時間の課題を提. ているようだったので,=>進め方として良かったと思 つ. ・同じ楽譜でもたくさんの意見があることを知らせな がら進める ・「どんな思い出?」と聞いた時最近の出来事に結び つけている ・生徒の意見を試してみてからどう歌うのかを考えさ. 牛徒に音楽用語を発言させている ・常に生徒と対話しながら授業を進めている ・歌う前に気をつけることや課題を与えている。考え ながらできる. せる. ・作者の意図を予想しながら歌わせていく ・よい例と悪い例を実際に歌わせて理解させる ・作者の思いを表現したいという気にさせる. ここでの音楽の諸要素に関する気づきは,映像記録のみであり,以下の内容が記述された。. 強弱=>少ない人数で歌わせ,わからせる あえて楽譜通りでない強弱で歌う 生徒に自分で強弱記入させる=ラ作曲者の気持ちを理解させる試み. う6.

(8) 教員養成学生の教授法学習の素材としての音楽授業記録活用の可能性 「実り」で言葉と強弱,速度の関係を学ばせた後,=>「夏の思い出」でさらに発展的内容,. 強弱の質まで突き詰めていたので良かった どんな強弱で変化するか,どんな速度で変化するか,どんな声色で変化するか実践をどんどん行っていく 思いをこめない歌い方をさせてみる。=ラ気持の持ちようと強弱の関係を体感させている だんだん遅くするrit.など,そういうのもしっかり説明していたのが良かった 曲を通して音楽記号を学習し実践してみる フェルマータについてなど一つひとつ丁寧に行っていた 生徒に強弱記号をつけさせる,自分で考えることで=>記号と曲の関係性役割を考える それぞれどのように強弱をつけ,=>なぜそこにつけたのかを考え,客観的に聴いた意見を発表する. 次に,以上の指導内容の記述結果を考察する。 記述内容を表のとおり,4項目に分けて分類した。そこで,各項目ごとに,映像と逐語記録でどのような違 いがあるか考察する。 まず,「導入」に関しては,どちらの参観でも同程度の理解がされ,違いは見られないと言える。. 次の「流れ」に関しては,気づきの事実は同じ内容に気づいているが,映像記録では,実際の授業の流れ の事実(歌う→考えさせる→イメージを持たせる→もう一度歌う,など)を記入しているものがほとんどで あった。それに対して逐語記録では,何のためにその指導を行うのかという,目的に着目した記述,つまり 理解へと導く記述がみられた。. 次の「生徒の意見を生かす」に関しては,どちらも多くの記述があり,理解の深まりについてもほぼ同程 度だと言える。 次の「指導内容の構成」に関しては,どちらも多くの記述があり,気づきの内容は共通している。 特に「ダメなパターンを歌わせる」に関する映像記録の気づきの深まりの記述は「表現の幅が広がる。よ. り深い実感伴う,気づかせる,比較して分かることを見つけさせる」であったが,逐語記録での気づきの深 まりは「よい例がなぜ良いかという理由につなげている. ,違いが明確,実感を促している,新たな発見をさ. せる」など,どのような学びのためにこの内容を取り入れているのかまで,踏みこんで理解がなされている と言える。. 前述の音楽の諸要素に関わる気づきは,映像参観のみにみられた。特に記述の「⇒」の後の内容は,学習 の目的に踏み込んだ気づきがなされていると言える。また,音や演奏とのかかわりの中で指導されたことへ の気づき(音楽記号,フェルマータ,rit.,強弱の変化,速度の変化,声色の変化など)が多くみられた。「強. 弱の質まで突き詰めて」という記述「記号と曲の関係性役割を考える」などは演奏と指導が一体化して把握 できる場面でないと気づきにくい内容であると言える。. 改善を求める記述では,授業展開のスピード感に関して記述が多かった。これは映像においても逐語記録 においても記述されている。事前に授業の目標と本時の指導案は配布してあったが,参観者の学生にとって もスピード感があったようである。また,記述の中に「自分が生徒だったら∼」という記述があるように, 改善してほしい点に関しては,学生自身が生徒目線から授業を見ていたためと言える。さらに,★印の記述 は,文字記録を読む場合に起こる特徴であると思われる。つまり,映像では,非言語活動としての演奏の状 況や生徒や先生の表情で,言葉が途中で終わっていてもコミュニケーションが成立していることが理解でき る場合がある。しかし,文字だけになるとそれらのシチュエーションが想像できず「話が飛ぶ」と感じてし まうのだと言える。. 57.

(9) 尾 藤 弥 生 ≪指導内容の改善希望点の主な内容の比較まとめ≫ 映像記録. 逐語記録. ・展開が早い ・一時間にやる内容が濃いため,展開が早い。=ラ定着できているか不. 安. ・1時間に取り組む題材が多すぎる ・先生だけが少し突っ走りすぎたよう な. ★前回の復習に時間かかり過ぎ ★何回も歌わせてつまらない気が ・音楽記号の説明が短い ★授業の進行がたまに不自然 ★先生しゃべり過ぎ,もっと簡潔で良. ・授業が濃い,リラックスタイムほしい. ・少し生徒主体すぎ,自分が生徒でこの授業受けていたら,途中で疲 れそう ・ずっと理論的に詰めて授業進めすぎている感じがした ・歌ったり発表するだけでなく,聴いたり映像を見たりするのもいい と思う ・詰め込みすぎている感じがした ・50分の中で体を動かすなど息抜きの時間があるともっと良い歌にな ると思う ・時々流れが速く生徒がついて来られなかったと思う. しヽ ・一見全員に当てているが,=>授業を. 進めるために当てる生徒を選んでいる 先生の授業の型が出来上がっている 感じ=>生徒が先生の指導の型に組み込. まれている. 4−3 二つの記録の「教師の発言」の気づきの比較考察 次に,教師の発言に関する項目の比較結果を述べる。. ここでは,深める・共有,助言,認める・受容・褒. める,説明,指示,その他に分けて記述を分類して考察することとした。. ≪教師の発言の良い点の主な内容の比較まとめ≫ 逐語記録. 映像記録. 深める・共有 生徒にたくさん質問を投げかけている ・ただ注意するのではなく=>子供たちに質問を投げか け情景を想像させていた ・「どんなふうに」や「なぜ」というといかけが多く ・良くある「同じ」という意見に対して=ラ「どういう =ラ探く追求させようとしている ・「同じ」や「いいと思う」と発言する生徒に=>「ど 風に同じだった」と発見を促している ・生徒が言った発言を繰り返して先生がまとめ=>みん んなふうに」と自分の言葉で発言させる なへの理解を深めている ・どんどん質問が出てくる. ・先生は生徒の意見をつなげる存在だと思った=>先生. は正解を教えるのではない ・「どうしたらよい?」と=ラたくさん質問し=ラ生徒の ・歌い終わった後,すぐ意見を求めている。授業のテ 発言から授業を展開 ンポが良くて生徒が飽きないし,きちんと考えている ・生徒の発見から新たな発見 ・「水芭蕉の花」歌い方によって,「花」のイメージ ・生徒の発言から発見したことを分かりやすく伝える がどう変化したか,考え発表させていた. ・生徒の意見と先生の意見とを合わせて納得いくまで =>互いに言い合い何度も演奏を繰り返す. ・何度も生徒に感想を求めている ・生徒の発言に対する=ラ意見,考えを他の生徒に言わ せる. 嬰貫 ・生徒が発言しやすいような=>さりげないヒント. ・歌っている間の伴奏のみの時に「そう」「いいよ」 旦 ヤアドバイスをいう. う8. ・人に伝えるということを=>意識して工夫を求めてい.

(10) 教員養成学生の教授法学習の素材としての音楽授業記録活用の可能性 認める・受容・褒める. ・生徒の発言を復唱していた→きちんと聞いてもらえ ・歌詞をどのように歌えばいいか,生徒からの発言を 尊重していた たというのが伝わる ・少人数で頑張って歌っているときに「いいよ!」な ・全員に聞こえるように生徒の発言を繰り返している ど先生が声をかけ拍手させている ・生徒が言ったことを繰り返したりまとめたりしてい ・生徒が感想言いやすくしたり=ラ提案しつつ質問した る. りしているのが良かった ・生徒の発言にそうだねと反応していた ・生徒に質問して帰ってきた答えを否定しない. ・色々な生徒に聞いている=>視野が広い ・答え,言葉がうまく出てこないときに手助けしてい る. ・生徒の発言に対して「お−」「なるほど」と肯定的. ・表現についての生徒の発言をフォローしている. ・「ありがとう」という. ・褒めている(2人). ・生徒発言に言葉を足してフォローしている ・生徒が発言しやすいように導いている ・人それぞれ違うことを大切にしたいという話 ・身近な例を使っている ・表現したいことの個人差を尊重 翠嬰. 題材を言葉で明確に発している ・前回の授業内容を具体的に思いだすことのできる導 入。「?」で問いかけて生徒からも反応あり. ・最初に前回の授業を振り返っている ・どういう姿勢が良いか言っている ・フェルマータの説明をしている ・rit.の説明をしている. 指示 何を聴いてほしいか,聴く前に言っていた. その他 ・全員に発言させようとしている ・生徒一人一人に問いかける,. ・演奏が終わったら「拍手」と言っている ・感じること表現したいことは人それぞれだけど,今 はみんなで歌っているから統一するねという発言 ・授業前のあいさつ ・生徒の名前の呼び方. ・遠い場所にいる生徒にも問いかけている ・生徒に考えを発言させる ・しゃべっていない人に発言させていた. 教師の発言の気づきを「深める・共有」「助言」「認める・受容・褒める」「説明」「指示」「その他」に分 けて考察する。. 「深める・共有」に関しては,どちらも多くの記述がみられる。映像の記述でも指導内容の目的に迫る気 づきのある記述(発見を促している,先生は正解を教えない)も見られる。逐語記録では,同様の指導内容の. 目的に迫る記述(深く追求させる,生徒の発言から授業展開,自分の言葉で発言させる,新たな発見など) が多くみられる。特に映像と逐語記録で指導目的への迫り方で違いを読みとることができた部分は,映像の 「良くある「同じ」という意見に対して「どういう風に同じだった」と発見を促している」と逐語記録の「「同 じ」や「いいと思う」と発言する生徒に「どんなふうに」と自分の言葉で発言させる」の違いである。映像. では「どういう風に同じだった⇒発見促す」という深まりだが,逐語記録では「どんなふうに,と自分の言 葉で発言させる 」と,一人一人の生徒が自分の知覚,感受,工夫として理解を深めることを狙っているとこ ろまで踏み込んだ理解がみられる。. 次の「助言」に関しては記述が少ない。ここでは,逐語記録からの気づきの「人に伝えるということを意 識して工夫を求めている」という記述は,なぜ先生がそのような発言をしたのかの真意まで読み取ることが できていると言える。. 59.

(11) 尾 藤 弥 生. 「認める・受容・褒める」に関しては両方に多くの記述がある。映像記録に関しては,すべてが,映像か ら読み取れる事実が記述されている。逐語記録においては,事実に加え,その事実が何に繋がるか,その真 にどのような意図があるまで読み取っている記述が多い。例えば「きちんと聞いてもらえたというのが伝わ る」「視野が広い」「フォローしている」「表現したいことの個人差を尊重」などである。また,教師の発言. の「人それぞれ違うことを大切にしたい」などという発言を聴き逃さず,キャッチできているのも逐語記録 ならではの読み取りと言える。 「説明」に関しては,映像記録では気づきがなく,逐語記録のみに見られた。その内容は,題材の明確化,. 前回の内容,音楽記号や姿勢に関してであった。 「指示」に関しては,両方の参観に気づきがある。特に,逐語記録に授業の目的に関連する具体的で重要 な発言への気づきがみられた。それは「感じること表現したいことは人それぞれだけど∼」の場所である。. 次に,教師の発言の改善希望に関するまとめを記載する。. ≪教師の発言の改善希望点の主な内容の比較まとめ≫ 映像記録 ・発言を責められているように思える ・発声についてもう少し言及してもいいと 思う ・よく見ると発表する生徒,しない生徒が 極端,全員に考えさせて発表させる ・生徒の考え,コメントに対してもっと反 応したり繰り返してほしかった ・結構質問が難しいときがあると思った ・もっと生徒に対して発言する時間を待っ てあげなくては ・授業中あまり褒めてなかった. 逐語記録. 生徒に答えさせた方が良い所があった ★先生ばかりがしゃべって,書いた人に説明させていない ◆生徒の意見に先生の意見をかぶせて展開を急ぎ,学びの共同体 ができない ◆手助けしすぎているとき。答えが本当にその子が言いたかった ことなのかが不明. のと違う時の対応をもう少し丁寧にした方. ★説明が良く分からないところがあった,ちょっとだけ ・生徒の名前の呼び方がばらばら,名字だったり名前だったり2 人 ★時々先生と生徒の会話がかみ合わないように感じた ◆最後のまとめが長く生徒がだらけてしまう ★最後話が長すぎ一方的 ・生徒の意見に対して褒めたり同意したりあまりしない ・質問をたたみかけている感じ ・同じ人を何度も当てている2人. がよい. ■「今に∼という風に聞こえて,先生は花が枯れているように思っ. ・生徒の意見を否定するとき,なぜかを 言った方がよいと思う ・発言する生徒が偏らないようにした方が. た」というように説明した方がよいと思う ・生徒の回答に対して少々ドライな対応の仕方 ◆先生の話が長くて生徒が理解,消化しきれないおそれあり. ・先生の意見も,もう少し教えてあげたら よい ・生徒の発言に否定はしないが,求めるも. よい. 映像記録に関しては,「発言を責められているように思える」など,学生が学習者の生徒目線になって, 参観しているものが多いと言える。それに対して,逐語記録では,教師目線での気づきが多く,さらに,具 体的な記述も見られる。例えば,◆マークの「先生の話が長くて生徒が理解,消化しきれないおそれあり」 などは,指導内容だけでなく,教師としての目線で参観できていると言える。さらに,■マークの「「今に ∼という風に聞こえて,先生は花が枯れているように思った」というように説明した方がよいと思う」など,. 指導の改善碇案まで具体的に記述されており,映像よりも授業を指導者目線で具体的に把握できていると言 える。. 60.

(12) 教員養成学生の教授法学習の素材としての音楽授業記録活用の可能性. 5.まとめ及び今後の課題 以上の考察より,映像記録は,演奏と関わった言語による指導の部分で,具体的な指導内容の把握が細か くできることが分かった。. また,分析項目の,①教師の話し方,②教師の非言語行為(演奏,範唱,例示演奏),③教具,碇示物, 板書,⑥生徒の演奏,⑦生徒の様子,生徒の発言,⑧教室の雰囲気,座席においては,逐語記録より映像記 録の方が把握しやすいことが分かった。. これに対して,④指導内容(授業の構成,授業の流れ),⑤教師の発言(助言,説明,指示,受容,評価, 褒める),に関しては,映像記録より逐語記録の方が,指導の意図や目的まで理解を深めた把握が可能であ ることが分かった。. また,指導内容,教師の発言,どちらの項目においても,改善希望する点に関しては,学生自身が学習者 の生徒目線に近い状況で,改善希望を述べていることも分かった。 今回の考察により,映像も逐語記録も学習教材として,教授行動を学ぶ上で,効果的であることが分かっ た。. 今後は,よりどちらを先に学習することが効果的か,どのような併用の学習を行うことが効率的か,さら に,歌唱の授業だけでなく,器楽,創作,鑑賞の授業に関しても実践を行い,領域による差異があるのかな ど研究を進めることが必要であると考える。. 【注】 1)尾藤弥生(2012)「音楽の授業記録読解に関する一考察映像記録と逐語記録の比較を通して」学校音楽教育研究Vol.16, pp.129−130 2)南部昌敏(2003)「授業記録」『学校教育辞典』教育出版 pp.388−389 をもとにまとめた。. 【引用・参考文献】. 小金井正巳(1988)『授業技術講座3 教師の実践的な能力と授業技術』ぎょうせい「第四章6自己改善の方法」より. 重松鷹泰(1970)『授業分析の方法』明治図書. 藤岡完治(1988)『授業技術講座3 教師の実践的な能力と授業技術』ぎょうせい「第四章6自己改善の方法」より. 吉崎静夫(1991)『教師の意思決定と授業研究』ぎょうせい.. (岩見沢校教授). 61.

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参照

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