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中学校家庭分野住生活領域における実践研究の現状と課題 : 全日本中学校技術・ 家庭科研究会機関誌の分析を通して

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中学校家庭分野住生活領域におけ る実践研究の現状 と 課題

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全日本中学校技術 ・ 家庭科研究会機関誌の分析 を通 し て 一

Current Status and Issues of Practical Studies on Living Li fe in Junior High

School Home Economics Education : Through the Analysis of All Japan

Industrial Arts and Home Economics Studies Group Organ “Theory and Practice”

村 田 晋太朗*

永 田 智 子**

MURATA Shintaro

NAGATA Tomoko

中学校家庭分野住生活領域は必修内容の中で も実施率の低 さが指摘 さ れてい る。 ま た、 実践 レベ ルでの質的 な課題につ い ては明 ら かに さ れてい ない こ と から、 全日本中学校技術 ・ 家庭科研究会機関誌 『理論 と 実践』 の分析 を通 し て、 先進的 な実践研究の現状 と 課題 を明 ら かにす る こ と を目的 と し た。 結果 と し て、 (1) 住生活領域の実施率の低 さは確認で き なかっ たが、 (2) 実践研究内の授業の目標におけ る抽象度は高 く 、 (3) 実践研究におけ る妥当性と 信頼性、 一貫性は低い、 と い っ た課題のほか、 (4) 住生活領域におけ る学習内容や授業方法の影響 を受け る要因 と し て、 「社会問題」 「大き な災害」 「学 習指導要領な どの公的資料」 があ る、 な どの現状が明 ら かと な り 、 実践の質的向上のための具体的資料 を得 るこ と がで き た . キ ーワ ー ド : 中学校、 家庭分野、 住生活、 全日本中学校技術 ・ 家庭科研究会、 『理論 と 実践』 1 . 研究の背景およ び目的 1 .1 . 研究の背景 平成20 (2008) 年改訂学習指導要領 (以下、 現行学習 指導要領) では、 こ れま での学習内容の構造 を抜本的に 見直 し、 大き く 4 つの柱 と し て明示 さ れた。 具体的には、 平成10 (1998) 年度改訂学習指導要領において中学校技 術 ・ 家庭, 家庭分野は 「A 生活の自立と 衣食住」 「B 家 族 と 家庭生活」 であ っ た もの を、 現行学習指導要領では 「 A 家族 ・ 家庭 と 子 ども の成長」 「B 食生活 と 自立」 「c 衣生活 ・ 住生活 と自立」 「D 身近な消費生活 と 環境」 と 4 つに分類化 し た。 こ れま で統一性のなか っ た小学校家 庭科の学習内容につい て も同様の柱 を設け、 系統性 を重 視 し た内容 と な っ た。 今回顕示 さ れた 4 内容の中で も、 特に 「c 衣生活 ・ 住 生活 と自立」 に含ま れてい る 「住生活」 の領域は実施率 の低 さ が指摘 さ れてい る。 小川 ら (2015) は、 中部地方 に所属する中学校家庭科教員 を対象に、 各内容の実施状 況や教員 の特性につい て調査 を実施 し た。 結果 と し て、 平成10年学習指導要領におい て必修であ っ た内容の中で 最 も 低い実施率 であ っ た (90.4%) 。 低 さ の要因 と し て は、 「家庭科教員免許の所得の有無」 及び 「経験年数」 があげ ら れてい る。 小川 ら (2015) の研究 によ り 、 「 住 生活」 領域の深刻 な課題が顕在化 し た。 住生活に特化 し た研究では、 速水 ら (2000) が、 住生 活は選択項目 と し て学習指導要領に規定 さ れてい た時期 ではあ る も のの、 他領域に比べ実施時間数は少 ない こ と を明 ら かに し てい る。 その背景 と し ては、 教員 の専門性 (出身の学部な ど) や内容に対す る 「得意」 や 「好 き」 と い っ た意識が要因 と な っ てい る。 こ れら先行研究 で明 ら かと な っ た要因 を解決す る ため には、 教員 養成段階におけ る住生活領域の専門的資質 の 育成や各校に家庭科の教員免許を有する専任の家庭科担 当教員 を配置す るな ど行政 レベルで長期的 な方策 を取 る し かな く 、 実現可能性や即時性は低い と 言え る。 ま た、 先行研究では、 住生活領域の課題は 「実施率の低 さ」 を 明 ら かにす る に留 ま っ てお り 、 実践におけ る授業 の質 に 関す る課題は明 ら か と は な っ てお ら ず、 実践者自身 へ課 題 を フ イ ー ド バ ツク す る た めの資料は見当 た ら ない。 そ こ で、 実 際に どのよ う な学習指導が行 われてお り 、 そ こ には どのよ う な課題 を包含 し てい るのか と い っ た実 践 レ ベルでの現状 と 課題 を明確化す る こ と で、 実践者に よ る授業実施率向上及び質的向上に対す る資料 と なり 得 る と 考え ら れる。 1.2. 研究の目的 そ こ で本研究は、 実践研究 での現状 と 課題 を明 ら かに し、 住生活領域におけ る実践の実施率向上と質的向上を 目指すための資料 を得 るこ と を目的 と す る。 なお、 先行 研究で行われた広範囲での調査 と 同質の視点 を担保す る こ と を可能 と す る資料選定 を前提 と し た分析 と す る。

2 . 研究の方法

2.1 . 対象 と な る資料の選定及び分析枠組みの検討 本研究の目的 であ る、 実践研究の現状 と 課題 を明 ら か にするにあたり 、 全日本中学校技術 ・ 家庭科研究会が毎 年発行す る機関誌 『理論 と 実践』 を対象 と す る こ と が適 切 で あ る と 考え ら れる。 『理論 と 実践』 は、 毎年開催 さ れてい る同研究会によ * 吹田市立南千里中学校 * * 兵庫教育大学大学院教科教育実践開発専攻生活 ・ 健康 ・ 情報系教育 コ ース 教授 平成28年 6 月29 日受理

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36 学校教育学研究, 2016, 第29巻 る全国大会や各地域大会におい て発表 さ れた、 研究や授 業実践の成果や進捗状況 を論文 と い う 形で集約 し、 編集 さ れた も の で あ る。 こ の論文 を対象 と す る こ と で、 次の 3 点の利点があ る と 考え ら れる。 一つ目は、 「俯瞰的資料」 で あ る こ と 。 全国大会や各 地区大会は毎年持 ち回り で分担 さ れてい る ため、 一定の サ ン プル を分析す る こ と で広い地域の実践 を対象 と す る こ と がで き る。 そのため、 『理論 と 実践』 を対象 と す る こ と で、 全国的 な現状や課題 を俯瞰的に把握す る こ と が で き る。 二 つ目は、 「熱心 な教員 によ る実践」 で あ る こ と 。 全 国大会や各地区大会に向け て概ね 3 カ年で研究が進めら れる。 そのため、 所属校 に おけ る多 忙 さ に加え 、 3 年 と い う 期間におい て定期的に集ま り 、 検討 を重ね、 実践及 び論文執筆 を行え る教員は家庭科教育に対す る意欲は高 い と 考え ら れる。 三つ目は、 「経年変化 を把握で き る」 点 にあ る。 『理論 と 実践』 は先述の通り 、 1 年間の大会におけ る実践の様 子 を収録 し た も のであ り 、 年 1 回の発行 と な っ てい る。 現在 No 54 (平成27年度版) ま で発行 さ れてい る。 その ため、 家庭科教育に関する動向な どを経年的に把握 し分 析す る こ と がで き る。 こ れら の特徴から 『理論 と 実践』 は、 中学校家庭分野 におけ る住生活領域におけ る現状 と 課題 を把握す る ため に有用性の高い資料と 言え る。 文献の対象期間は No 48 (平成21年度版) から No 53 (平成26年度版) の計 6 年分 と し、 平成20年告示学習指 導要領 を対象 と し た。 なお、 No 54 (平成27年度版) に つい ては、 発刊 は さ れてい る と 予 測 さ れる が、 筆 者の自 治体では配布 には至 っ てい ない ため除外 し た。 以下 に、 全日本中学校技術 ・ 家庭科研究会が毎年発行す る機関誌 『理論 と 実践』 の表紙 を図 1 に、 論文の一部 (平成22年 度版内容 c 、 2 番目の論文) を図 2 に示す。 次 に、 『理論 と 実践』 に掲載 さ れてい る実践論文 の分 析枠組みについ て検討 を行 う 。 機関紙 『理論 と 実践』 を 対 象 と し た先 行研 究 は、 鈴木 ら (2005) と 永田 ら (2015) の 2 つがある。 鈴木ら (2005) は、 『理論と実践』 に掲載 さ れた食生活に関す る実践論文 を 「学習内容」 に 着目 し、 近年扱 う 内容の偏 り が見 ら れな く な っ てい る こ と を明 ら かに し てい る。 具体的 には、 「調理」 「献立」 「栄養」 「食品」 「食文化」 「消費者」 「 その他」 の 7 項目 に分類 し てい る。 一方、 永田 ら (2015) は 『理論と実践』 に掲載 さ れてい る家族 に関す る実践論文 を GTA 理論 に 基づい て分析 し た結果、 論文構成の視点 に基づ き、 「 ね ら い」 「題材」 「成果」 の 3 構成から な っ てい る こ と を明 ら かに し 、 実践 レ ベルでの現状 と 課題 を明 ら かに し てい る。 本研究の目的から 、 実践 レ ベルでの課題 を多面的 に 検討す る必要があ る。 そ こ で、 住生活領域の現状 と 課題 を明 ら か に す る研 究 の目的 を 達成 す る た め に、 永田 ら (2015) で明 ら か と な っ た 「 ねら い」 「題材」 「成果」 の 3 構成に おけ る現状 と 課題 を そ れぞれの視点 で考察す る こ と と し た。 図 1 『理論と実践』 表紙 (H26) 2.2. 論文の抽出 2.1.で示 し た通り 、 『理論と 実践』 の No 48 (平成21年 度版) から No 53 (平成26年度版) の計 6 年分に掲載 さ れてい る内容 c の論文 を抽出 し 、 一覧 を作成す る。 内 容 c は 「 衣生活」 「住生活」 の 2 領域を複合 し た内容 と な っ て い る た め、 一覧 に あ る 論文 を 「 衣」 、 「 住」 、 も し く は 「衣 と 住の両領域」 の どの領域 を対象 に し た実践で あ るかに分類す る。 その上 で、 住生活 に関連のあ る論文 のみを さ ら に抽出 し、 分析の対象 と す る。 2.3. 論文の構成ご と の記述 本研究の分析枠組みは、 永田 ら (2015) にあ る 「 ねら い」 「題材」 「成果」 の 3 構成 と す る。 そ こ で、 2.2.にあ る方法 で抽出 し た住生活領域に関す る論文 を読 み、 「 ね ら い」 に あ た る箇所 を 選定 し 、 一覧 にす る。 ま た、 「 題 材」 と し ても どのよ う な学習形態 ・ 学習方法 ・ 学習内容 で行 われたかについ て、 記述 を抜 き出 し一覧にす る。 最 後 に、 「成果」 に関す る記述 も 前述の 2 つ と 同様の手順 で行 う 。 2.4. 類型化 2.3. で 抽出 さ れた記述 か ら な る一覧 を元 に、 各項目 (研究の日的、 研究の背景、 授業方法、 研究の成果) の 傾向 を明 ら かにす る ために類型化す る。 2.5. 現状 と 課題に関する考察 2.4. におい て明 ら か と な っ た類型 を基盤に、 項目 ご と に現状 と 課題 を考察す る。 3 . 結果及び考察 3.1 . 内容 c におけ る住生活の位置付け 対象 と し た 『理論 と 実践』 (現行学習指導要領改訂後 の平成21年から平成26年) におい て、 「c 衣生活 ・ 住生 活 と自立」 に関す る実践論文は全部で21本あ っ た。 こ の 21本について、 ①発行年、 ②章立ての番号、 ③論文番号、 ④主題及 び副題、 ⑤著者の所属す る地域、 ⑥対象 と な る 内容の 6 観点 で ま と めた も のを表 1 に示す。 「⑥対象 と な る内容」 の結果か ら、 衣生活 に関す る実

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衣生活 ・ 住生活と自立 1 はじ めに 技術 ・ 家庭科の家庭分野の学習では, 生徒が 社会におい て自立 し て自分の生活 を送 るこ と の で き る力 を身 に つ け る こ と を 第一 に考え , 指1●を行 っ てい る , 「住居」 と は人々が休息 し , 心身共に安心 で き る場 で あ る , ま た , 家族が 集い衣食 を営 む と と も に , 子 ど も が 地城 と 共 に育 つ基盤 と し f の l ll き を担 っ て い る , そ の ため住 ま いの 学習は , そ れ ぞれの立 場 で快 適 な生 活 を 送 る こ と の大 切 さ に気づ かせ るこ と で , 生従 に個 人的 な自立 に と ど ま ら ず , 日 々変化 し う る 社 会に対応で き る力 を身 に付け さ せ ら れる内容 だ と 考 え る , 2 研究のねら い 今回の学習指導 要領の改l f では, 小 学投 と 中 学校そ れぞれの学習内容 を階 ま え た指導 を行 う よ う に求め ら れて い る , そ こ で , 限 ら れた 時 間の中 で , よ り 効果的 な授 業 を行 う ため に は , 小 ' 中 学校 の 実態 を , お 互 い に知 る こ と が必 要で あ る と 考 え た , ま た , 生徒 は住 ま い や, 自 ら よ り 快 適で安 全 な住 ま い 方 を工夫 す る こ と については関心が低いこ と を踏ま え て 住ま いの学習に興味 を も たせ, 自分の生活 を よ り よ し よ う と す る生 活 に生 かす こ と の で き る実践力 を身 に付け さ せ たい と 考え た , こ の ね ら い を 達 成 す る た め の仮 説 を 次 の よ う に 設定 し た , 一 ' 画 一 = 一 一 ' ' 、m E のある指 導計国 を作成す れば, よ り 重点化 を図 っ た授業 を行 う こ と がで き るであ ろ う . 0 安全 で快 適 な住 ま い方 を す る た め の 実践的 ・ 体験的な学習活動の工夫 を すれ ば, 生従の実践力 を高め るこ と がで き る であろ う , 0 生従が住空間や生活行あ な ど を想像 し やす く す る ための視覚的 教材 を工夫 す れ ば, 住ま いの学習に対す る異味 ・ 関心 を 高め る こ と が で き る で あ ろ う , 3 研究の内容 ( 1 ) 事前ア ンケ ー トの実施 住ま いの学習に入る前に, 生従の住ま いに関 す る実態に つ い て調査 し た , ( 2 年生44名 5 月実施) 国 1 住 t いの学 9 は必●だ と a う か 快通に住 ま う ために. 何 か工夫 t し て い るか (a 数回書) 中学校家庭分野住生活領域におけ る実践研究の現状 と 課題 ( 2 ) 小 ・ 申の連構 八幡浜市で は 「市教育研究会」 が各教科で 年 3 回行 われ る . 中学校の技術 ・ 家庭科部会 は, 小 学 校の家 庭科 部会 と 合同 で行 っ てい る ため . 情 報交換 を し た り , お互いの授業 を参 観 し 合 っ た り し て連携 を図 っ てい る・ 今年度は, 住ま いの学習に焦点 を当 て研究 を 進め る こ と に し た , 第 1 回 の研究会で , 小 学校の先生 方 に住 ま いの学習 につ い ての取組 内容 を調査 ( 4 月実施) し , 小学校の実態 を 把提 し た , (小学校 7 校教員 9 名) 表 2 取 り 組 んでい る住 t いの授 内容 さ - 寒 さ , 通風 ・ 換気及 び採 光が全員 置修 済みなのでE 青や安全な室内環境 を重 点的 に 扱っ たり するこ と にし た・ 第 2 回の研究会では, 中学校の住ま いの授業 (題材 「災書に備え た住ま い方」 ) を提業 し , 小 ・ 中学校それぞれの立場で意見 を出 し 合 っ た . 限 ら れた時間 で , よ り 効果 的 な授 業 を行 う ためには, 連続性 と 系続性 を重視す る必 要 があ ると い う 意見が多 く 聞かれた , なお, 次回の第 3 回の研究会では, 小 学校 の住まいの学習の授業 を参観す る予定で ある,

a-田

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_

:it:・ El 2 申学被の住 t いの学●の内容o nっ て い る か, こ の ア ンケ ー ト の結果か ら , 小学校の先生 は , 中 学校の学習内容 をほ と ん ど知 ら ないこ と が分 か っ た , そ こ で , 校区の小学校が取 り 組 んで い る内容 を 考慮 し て, 本校の指導計画 を 改善 し た , 例 えば , 「 整理整頓の方法」 は 修 済み なの で , 洗剤の使用上の注意点 を中心 に扱 っ た り . 限 適な住ま い方の工夫」 では, 表 3 n 名 「 に住 t う」 の授 の指 計口 整理整額の方法 ・ ・ ・ 9 名 快適な住まい方の工夫 ( ・ さ . 寒 さ 通風. 換気, 採光) ・ ・ ・ 9 名 < 小学校の先生の感想 > 小学校の指導内容 を踏ま え て 中学校 で の 指導が あ るの で , 小 学校 で も 責任 を も っ て 指導に当 た ら なけ れば な ら ない と 実感 し た . 整理整額 何 も し てい ない 換気 部屋 を明 る く す る 20名 12名 10名 2名 ( 3 ) 指 計画の作成 ( 1 0 時間) 践論文は 9 本、 住生活に関す る論文は 7 本、 衣 ・ 住生活 の両方 を対象 と し た論文は 5 本であ っ た。 こ の結果よ り 、 内容 「c 衣生活 ・ 住生活 と 自立」 におい ては、 やや衣生 活が多 い も のの、 対象 と し ての偏 り は確認 さ れなか っ た。 こ の結果は、 鈴木ら (2005) の食生活領域におけ る傾向 と 同様であ っ た。 ま た、 先行研究 (小川 ら , 2015) が指 摘 し た よ う な住生活の実施率の低 さ は見 ら れなか っ た。 本調査の結果 と 先行研究の結果 を比較 し た結果、 『理論 と 実践』 の執筆 に当 た っ た教員の中では衣生活 と 住生活 の間 で実施の差は見 ら れなか っ た も のの、 広 い範囲 で調 査 し た結果では差が生 じ てい る。 こ の差が生 じ てい る原 因 と し て、 調査対象 と な る教員 の質的 な問題 にあ る と 推 察 さ れる。 『理論 と 実践』 を発行 し てい る全日本技術 ・ 家庭科研究会は自主的 な参加 によ る民間研究組織であ る と さ れてい る (荒井 ら , 2015) 。 そのため2.1.で も 述べた よ う に、 実践論文執筆者 ら の家庭科教育 に対 す る意欲や 専門性は高い と 考え ら れる。 つま り 、 熱心 な教員 によ る 実践では、 実施率に関す る課題は表面化 さ れに く い こ と が推察 さ れる。 3.2. 実践研究の目的 実践論文 におけ る研究の目的 を抽出 し 、 類型化 し た結 果及び記述例 を表 2 に示す。 結果と し て、 ①現行学習指 導要領な どの公的資料 で示 さ れた目標に関す る記述、 ② 生活に活かす実践力、 ③問題解決的 な学習過程の 3 つに 類型化す る こ と がで き た。 こ の ア ン ケ ー ト の描果 か ら , 約 9 割の生 従 が住ま いの学習 の必要性 を感 じ てお り , 予想 以上 で あ っ た , 快適 に住 ま う た めの工夫 に つ い ては , r 整理整額」 と い う 内容が最 も多 かつ たが, 何 も 工夫 し てい ない生徒 も多 く い た , つ ま り , ・l央適な 住 ま い方の工夫 を積極的 に し て い る生 従は少 ない のでは な い か と 考え ら れ る ・ l 住ま いのはた ら き 2 家族と 共に住ま う 4 安全な住まい方 5 災書に1. えた住まい方 図 2 実践論文の一部 (H22-2) 住ま いの役を理解 ・ る・ 国内や世界の住 を知 る , 生清行a と住空Illの11M t 理 し , 家族で住 t い方が な るこ と を理 す る 沈 の正し い使い方に つい て理解す る , 重内の さ ま ざま な書 を量書計 でil l 定し, 防書対I t について考え る・ シニア を通し て. 家の中の危 な1●所と 要会な住まい方を理解す る . 地から身を等るた 0 の家真の配 t 方法 を す る . まず、 「①現行学習指導要領 な どの公的資料 で示 さ れ た日 標 に 関 す る 記 述」 と は 、 中央 教 育 審 議 会答 申 (2008) 「幼稚園、 小学校、 中学校、 高等学校及び特別支 援学校の学習指導要領等の改善について」 で示 さ れた学 力の重要な要素の 3 つ及び国立教育政策研究所 (2011) 「 評価規準 の作成、 評価方法等 の工夫改善のた めの参考 資料 (中学校技術 ・ 家庭)」 におい て示 さ れた 4 観点 と 関連 し た記述で あ る。 具体的 には、 「生活に関す る関心 ・ 意欲 ・ 態度 ( 8 本)」 「基礎的 ・ 基本的な知識 ・ 技術の習 得 ( 5 本)」 「生活 を工夫 し創造す る能力 ( 3 本)」 の 3 つで あ っ た。 こ れら の記述は、 表 2 で示 し た記述例のよ う に、 答申や参考資料 と 同等 な抽象度の高い記述と な っ てい るこ と がわかる。 つま り 、 日標の具体性が希薄と な っ てい る こ と がわか る。 西岡 (2015) は、 教科の目標 を設 定す る にあ た っ て、 「教科内 容に即 し て目標 を明確 にす る こ と が求め ら れる」 と 述べ てお り 、 実践研究の目的 に おい て教科内容 と の関連が見 ら れる も のの抽象度が高い 点 につい ては実践上の課題 と 言え る。 次 に、 「②生活に活かす実践力」 に関す る記述では、 主に 「学習 し た こ と を生活に活かす、 実践す る」 こ と を 目標に掲げた も ので あ る。 こ れら の記述が見 ら れた 5 本 の実践論文 におけ る研究 の成果 と し ては、 「家 で実践 し た生徒 も い た」 「家庭で も実践 し た生徒が増え た」 「 地震 対策の実行に移す生徒が増え た」 な どと 述べ ら れてい る。 つま り 、 「生活に活かす、 実践す る」 と い う 目標は、 「学 習 し た内容 を即時的に家庭で実践す る」 こ と と 読み替え

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38 学校教育学研究, 2016, 第29巻

表 1 「C 衣生活 ・ 住生活と自立」 に関する実践論文

発行年 t ●文 ●号

H21 8 1 ~ :l;コパツクを作ってみよう・使ってみよう~ 0

l・l21 8 2 積l l 的に住まう生性の書 ~ 査0 ・室全な住まい方を 0 さした:I

n

の工実~ 0

l・l21 8 3 「生活の白立! をはォ む'e t を索a)て ~ i 内◆It の●●を通して~ 和111.11

-

l 防市 0

l・l21 8 4 0 H22 8 1 生活に生かすことができる かな H カの ・ 成 ~ 生活に生きる「見方・ ・ え方・a じ方」が書つ授集~ I t ・ 開 究グループ 0 H22 8 2 検 i な住まい方の工夫がで書る生使の●l ! t 0一八lll前 0 H22 8 3 習l l した知M・技新を活用する学習摘 法の工夫 ~ 表生活の間題解決を通して~ 0 H22 8 4 生活に活きる表生着学 i の工夫 ~ パツグインパツグの 作・活用を通してよりよい生活を日 す~ 書a i ●町・平川市 0 H23 8 1 これからの生活を最●して. 表生着と住生活をよりよくしようとする生性の ・ 成 0 l・l23 8 2 生着に生かすことができる かな11

m

力の ・ 度 ~ ・ 量口 ll にせまる「 ・:i え方・ t l:方」~ Il l」11.開 I t グループ 0 H23 8 3 より●かな衣生活をはぐ< t:'ための学智 -- a土に わる衣

n

の01材化を通して一 0

H23 8 4 持IM可e な社a をめさし、 t 体的に家生活・住生着 t i二ザインする生 の ・ 成 ~ 人と表生活・住生着のかかわりを1

H

したt「 l の工夫~ 東東O i l川区 0 l-l24 8 1 白ら技新と生着の題■ を つけよりよいものを求0 て●量する力をI t う最集のa ~ a l ! の道防を t a する着●を通して~ 0 H24 8 2 「生活にいかせる力度 ・ む技新・家e 科教 ・ のあり方 ~ 表生活における身近なa 材を取り入れた実建力を高める学l l 指 の工夫~ 大分I

M

島村 0 l・l24 8 3 表生着・住生活を 通し、 i かに生書る集H カを ・ てる学● 事の工実 0 l・l25 8 1 社会◆

a

の t 化に対応 'e i る白立した生接 を ・ む学智

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事の在り方 ~「

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・安全・'fil l 」な生着に a をあてた学 f 一 を●して~ 山 t ・最生・真■支部 0 l・l25 8 2 生着を工実・ t 書し杜

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に生かす力をl l てるl l 事のa ~ 安全な住まい方の工実を●して~ 山形l..lll■市 0 H25 8 3 よりよい生活9●lる技 ・ i i 科a ・ ・a

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「・l●上l■「 0 H26 8 1 より検適な表生活・住生活を i むための布を用いた物のa 作における の工夫 0 H26 8 2 構々な同■と向書合い、解決する力を ・ t a . i・家 i 科a ・ ~ 住まいの安全における「住生活I= ついての ■と実H 」を●して~ 0

H26 8 3 「生活で活用で書るカ」の青成を目指して ~ 表生活におIナる「つながり」を操めるための題材・

M

の工夫~ 0 表 2 実践論文の目的に関す る記述の類型 と 記述例 a本 7本 5本 類型 出現本数 記述例 ①現行学習指導 要領な どの公 的資料で示 さ れた日標に関 す る記述 生活に関す る関 心 ・ 意欲 ・ 態度 な どの情意的側 面 8 「快適に住ま う _/ の学習においては、 身近な人 への聞き取 り を テった り 、 家族の協力を 得ながら実践を組み込んだ゛りする など、 実践的 ・ 体験的な学習活動を取 り入れ経験させ るこ とによ り、 ま ず室内環境を整え るこ とへの関,i、・ 意欲を高めたいと考え る る (H21-3) 基礎的 ・ 基本的 な知識、 技能 5 0 衣生活 ・ 住生活に関する基礎的 ・ 基本的な知識や技術を習得 した生徒 (H23-4) 生活 を工夫 し創 造す る能力 4 0 持続可能な社会をめざ し , 二t 1白 ' 1二t 二t f白 :: ッ cl、

9 o /こ oり 1 .、 1:月半iプ、. し cl、 う と工夫創造する生徒 (H23-4) ②生活に活かす実践力 5 考え た。 (H22-2) ③問題解決的な学習過程 3 ①PDCDA サイ クルを大切に した学習過程 (H23-2) が可能であ る。 中学校家庭分野の目標にあ る 「将来の生 活 を展望」 す る視点は希薄であ るこ と が伺え る。 さ ら に、 時間軸的 な広がり を持 っ た目標 を設定す る こ と で家庭分 野の ね ら いは達成 さ れう る。 3 点目 と し て、 「 ③問題解決的 な学習過程」 につい て の記述 を 3 本確認 し た。 現行学習指導要領 「内容の取り 扱い (2) 問題解決的な学習の充実」 では 「変化の激 しい 社会に主体的 に対応す る ためには問題解決能力 を も つ こ と が必要」 で あ り 、 こ れ ら の能力 を育 成 す る た め には 「 生徒自 ら が課題 を発見 し 、 習得 し た知識及 び技術 を活 用 し 意欲 を も っ て追求 し 、 解決の ための方策 を探 る な ど の学習 を繰り 返 し行 う こ と が大切であ る」 と し てい る。 つま り は、 家庭科の目標の一側面は問題解決的 な学習 を 通 じ た問題解決能力 の育成 と 言え る。 ③は こ の視点 を研 究のねら い と し て設定 し た も のの集 ま り で あ る。 記述例 に あ る PDCDA サイ ク ルを大切 に し た学習過程は、 「 つ かむ」 「見通す ・ 追及する」 「学び合う」 「解決す る」 「振 り 返 り ・ ま と め」 と 具体的 な学習過程の設計 を ねら っ た も ので あ る。 そ も そ も 問題解決的 な学習は、 学習 の過程 をい く つかの段階に分け、 丁寧 に学習 を進めてい く 方法 であ る。 そのため、 問題解決的 な学習過程 を研究の目的 の一つに据え る こ と で、 具体的 な題材 を設定す る こ と が 可能に な る と 考え る。 3.3. 実践研究の背景 実践論文におけ る実践研究の背景に関す る記述 を抽出 し、 類型化 し た結果及び記述例 を表 3 に示す。 結果と し て、 ①衣 ・ 住生活に関す る関心の低 さ 、 ②大震災 を受け て、 ③社会全体に関す る動向、 ④学習指導要領の改訂、 の 4 つに類型化す る こ と がで き た。 「①衣 ・ 住生活に関す る関心の低 さ」 につい ては、 実 態把握 を し た上で 「衣生活よ り 住生活の方が関心が低い」 と 述べ てい る論文 も あ る が、 根拠 と な る デ ー タ を示 さ ず 実践者の経験則 を根拠 と し て指摘 し てい る論文が多 かっ た。 実践研究 と し て客観性のあ る問題提起 を行 う ために は、 経験則 を仮説と し て、 調査段階 を設け、 生徒の実態 を把握す る必要があ る。 「②大震災を受けて」 は、 2011年 3 月に発生 した東日 本大震災を経験 し たこ と で、 2011 (平成23) 年度発行の 機関誌以降で多 く 触 れら れてい る。 震災後の住生活につ い ては、 安全 や安心 な ど災害対策 を目指 し た実践 と な っ てい る と 言え よ う 。 今年 4 月に も熊本地震が発生 し甚大 な被害 を受け たこ と は、 今後 も災害への備え を中心題材 に し た実践は多 く 現れる と 予測で き る。 「③社会全体に関す る動向」 では、 住まいや家族に関 す る社会問題的 な視点に関す る記述であ る。 具体的 には、 「 昔 なが ら の住ま いの減少」 「 共働 き 世帯の増加」 「快適

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表 3 実践研究の背景に関する記述の類型と 記述例 類型 出現本数 記述例 ①衣 ・ 住生活に関 す る関心の低 さ 7 中学生に と って住ま いは、 L、の安定を図る大切な ものである。 しか し、 その反面、 自分が積極的に働 き かけな く ても比較的快適な生活が成 り立つてお り 、 よ り よ い住ま いを主体的に考え よ う とする生徒は少 ない。 (H23-2) ②大震災を受けて 6 あれから (東 日 本大震災) から三年が経過 し当時小学生だ゛った生徒た ちが中 学生となった今、 多 く の犠 牲者から学ばせてもらった貴重な教訓を改めて学び合い、 整理 し、 自分の生き方に積極的に活かす力と して身につけるべきと考え 、 この研究主題 を設定 した。 (H25-2) ③社会全体に関す る動向 5 時代の変化 と と もに、 音ながらの日 本の住 ま いが減少 し、 開 口 部が少な く 気密性の高い洋風 の住ま いが 増え てきている。 また、 共働き家庭の増加で、 昼間締め切ったま ま で風邪を通すこ とのできない家が増 え 、 衛生上 の問題 も出 てきている。 (H21-3) ④学習指導要領の 改訂 3 また、 学習指導要領 では新たに / 生活の課題と実践」 が力11え られ、 学んだこ と を自分の生活に:活かそ う とする力 を育成するこ とがこれま で以上に求められ ている。 (H24-3) 表 4 授業方法に関する記述の類型 と 記述例 類型 出現本数 記述例 ①実践的 ・ 体験的 な学習 11 課題解決に向 け て、 学校の棚や家具 を使って、 実際に災 害対策を考え る 場面を設定した。 ここでは、 自 分で調べたこ とや家庭での経験から、 対策の工夫を実践的 ・ 体験的活動と して位置付けた (H23-2) ②問題解決的な学 習 9 第 3 学年 では、 2 年間のま とめと して、 「 i、から家族に感謝」 とい う 題材 で家庭生活の課題解決 に挑戦 させ る。 (H24-3) ③グループ学習 8 班 を一 つの家族 と し、 それ ぞれ の要望 を取 り 入れ ながらマグネ ッ トポー ト゛に部屋 の構成図 を描かせた。 (H21 -2) な住ま いのために物質的環境 を整え る」 「物質の豊か さ」 な ど、 社会全体の課題 を背景 と し てい る も の を指す。 こ れら の記述から住生活の学習は、 社会的 な問題に裏打ち さ れた学習内容 に よ り 構成 さ れてい る と 推察 さ れる。 し か し 、 こ こ で も 「①衣 ・ 住生活に関す る関心の低 さ」 と 同様に、 具体的 な デー タ を示 し客観性のあ る問題提起 を 行 う 必要があ る。 最後に、 「④学習指導要領の改訂」 は、 前回の学習指 導要領 と の差異であ る 「安全 に重点 を置い た室内環境の 整備」 「生活の課題 と 実践の導入」 「小中での系 統的 な学 習内容」 に関す る視座 を背景 と し てい る。 そのため、 全 日本技術 ・ 家庭科研究会は、 学習指導要領や改訂時の変 更点 に影響 を受け てい る と 考え ら れる。 こ れは、 組織の 文化的側面 と 言え る。 3.4. 授業 (題材) の方法 授業方法に関す る記述は、 現行学習指導要領におけ る 授業方法を踏襲 し、 ①実践的 ・ 体験的な学習、 ②問題解 決的 な学習、 ③ グルー プ学習の 3 つに類型化で き た。 類 型化 し た結果及び記述例 を表 4 に示す。 全12本の論文の 内、 8 本から11本 と 高い出現数であ っ た。 こ れは、 現行 学習指導要領の 「各分野の内容の取扱 い」 におい て、 「 (1) 基礎的 ・ 基本的な知識及び技術 を習得 し、 基本的 な概念 な どの理解 を深め る と と も に、 仕事の楽 し さ や完 成の喜 びを体得 さ せるよ う 、 実践的 ・ 体験的 な学習活動 を充実するこ と。」 「 (2) 生徒が学習 し た知識及び技術 を 生活に活用 でき るよ う 、 問題解決的 な学習 を充実す る と と も に、 家庭や地域社会と の連携 を図 るよ う にす るこ と。」 と あり 、 実践的 ・ 体験的 な学習及び問題解決的 な学習 を 主 と な る方法論 と し て明記 さ れてい る こ と に帰す る と 考 え ら れる。 ま た、 「各分 野の指導 に つい ては、 衣食住 や も のづ く り な どに関す る実習等の結果 を整理 し 考察す る 学習活動や、 生活におけ る課題 を解決す るために言葉や 図表、 概念 な どを用い て考え たり 、 説明 し たり す る な ど の学習活動が充実す るよ う 配慮す る も のと す る。」 と あ るよ う に、 「 言語活動の充実」 を改訂のポイ ン ト に し て い る点 も影響 を受け てい る と 推察 さ れる。 以上の結果か ら 、 3.3.で も指摘 し たよ う に、 授業方法 の観点 におい て も学習指導要領の影響 を大 き く 受け てい る こ と がわか る。 3.5. 研究の成果 実践研究の成果に関す る記述 を抽出 し、 類型化 し た結 果及び記述例 を表 5 に示す。 ま ず、 最 も多 く 出現 し た記述は、 「①関心、 意欲、 態 度、 意識、 達成感 な どの情意的側面 に関す る成果」 の 9 本であ っ た。 住生活領域では、 情意的側面の変容が最 も 目指すべき姿と 言え る。 し かし、 田中 (2008) が指摘す る よ う に、 「関心 ・ 意欲 ・ 態度」 な どの情意面 を評価す る こ と は非常に専門性 (例え ばルーv リ ッ グ を作成、 使 用 し た評価方法が挙げ ら れる) を有 し、 ま た短期的 な視 点 ではな く 、 長期的 な生徒の変容 を基に評価す る必要が あ る と し てい る。 し か し 、 二番目に多 い 「②感想や グラ フ な ど を提示 し 根拠 と し てい る」 に代 表 さ れ る よ う に、 成果物 (感想やア ンケ ー ト の結果) は掲載す る も のの、 研究の成果 と判断 し た評価基準は不明確であ る場合が多 い。 こ のよ う に根拠に欠け る成果は、 3.2.で指摘 し た目 標の具体性の欠如 と 関連 し てい る と 考え る。 授業の目標 が抽象的 であ るため、 評価 も自ず と 曖味に な っ た と 考え る。 そのため3.2.の課題 と 同様 に、 ま ずは明確 な目標設

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40 学校教育学研究, 2016, 第29巻 表 5 研究の成果に関する 記述の類型 と 記述例 類型 出現本数 記述例 ①関心、 意欲、 態 度、 意識、 達成 感 な どの情意的 側面に関す る成 果 9 【関,i、・ 意欲 ・ 態度】 学校で学習 したこ とで、 家で実践 した生徒 も增え 、 実践 した内容も授業前は整理整頓が圧倒的に多かつ たのが、 『地震対策』 『防音』 『日 よ け』 とい う 内容が加わった。 このこ とは、 シニア体験や騒音計を使つ ての様々な音の測定、 地震対策のための家具の配置図の作成等、 実践的 ・ 体験的な活動を取 り 入れ るこ と で、生活 をよ り よ く していこ う とする意欲を高めるこ とができたか らだ

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、と考え る。 (H22-2) ②感想や グラ フ な ど を提示 し根拠 と し てい る 8 授業後 の感想か ら、 「実験 を してよ く 分かった / 「自 分 ら しい着方を考え る のが楽 しかった」 「蚕のま ゆ を初めて見 てびっ く り した_/ など生徒が学習に興味をもっ て取 り組んでいたこ とが分かった。 (H21-4) ③教師の工夫に よ る成果 6 0 生徒 の実態把握 を行い、 そこから課題解決にせま る 「見方 ・ 考え 方 ・ 感 じ方」 を明 らかに して題材を 構成 したこ と で、 よ り 確かな実践力につながる授業 を仕組むこ とができた。 (H23-2) ④理解に関す る成 果 5 重曹 ・ 酢 ・ クエン酸 ・ レモン ・ 割 り 箸 ・ 塩 ・ 茶がら ・ 卵のから ・ 新聞紙 ・ 古靴 下等が、 室内環境を整え る上 で活用 でき る こ との 半1 t) _ノ, ・ っ /こ (H21-3) ⑤ 「工夫」 「思考」 に関す る成果 4 内容のま とま り ごとに、 気付いたこ とや学習を深めたいこ となどを記入 し、 活用する欄 と して、 全 ての ワーク シー トに /すま い るコ ーナ ー

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_/ を設けた。 これ らを生徒が積み重ね、 学習の過程を残すこ とで、 主体的に考え るこ とができ、 探求への手がか り と した。 (H23-4) ⑥ 「気づ く 」 こ と がで き た 4 住ま い自 体を変え るこ とは難 しいが、 中学生の視点 で住 ま い方 を工夫 すれば、 よ り快適な住 ま い方が実 現 でき る と気付 く こ とがで きた。 (H25-2) ※この記述の下には、 生徒の感想が 2 点掲載され ている。 ⑦ 「実践」 に関す る成果 4 複数の学習内容について / 家 でも 美践 し7こ」 94 oと て い 0 (H24-3) ⑧ 「実感」 す る こ と がで き た 3 また、 安全に生活 するためには、 段差の解消や手すり の設置などの環境整備だ゛け でなく 、 一緒に行動し て支え るこ との必要性 も感 じ るこ とができた。 (H25-2) 定 を第一に検討 し、 具体的 な目標に裏打 ち さ れた評価方 法の検討 を行 う 必要があ る。 三番目に多 い記述は、 「③教師の工夫 によ る成果」 で あ っ た。 こ の項目は、 教師の教材開発 ・ 授業方法の工夫 に よ り 、 生徒の変容 を促す こ と に成功 し た と 読 み取 れる ものの集ま り であ る。 具体的には、 「評価」 「指導計画」 「 つま づ き への配慮」 な どが確認 さ れた。 こ れら は共通 し て、 教授方法の工夫によ り 生徒の変容 を促 し たと 記 し てい る。 し か し、 教授方法自体の有用性 を確かめる場合 は、 比較実践 (統制群の設定、 事前事後での比較分析な どが考え ら れる) な ど を通 じ て明示す る こ と で研究の妥 当 性や信頼性は担保 さ れる。 その ため、 直接的 に教師 の 教授方法の成果と は解釈 し難い。 教員自身の工夫に関す る成果 を追求す る研究におい ては、 研究方法の検討が必 要であ る こ と が示唆 さ れた。 次 に多 い も のは、 「④理解に関す る成果」 や 「⑤ 「工 夫」 「 思考」 に関す る成果」 な ど高次 な学力 に関す る成 果であ る。 こ の類型につい て も先述の通り 、 評価の基準 が不明確であ る ものが多 く 、 目標設定及び評価方法の検 討が必要で あ る。 続い て、 「⑥ 「気づ く 」 こ と がで き た」 「⑧ 「実感」 す る こ と がで き た」 な どの成果が読 み取 れる箇所 であ る。 「必要に気づ く 」 「必要性 を感 じ る」 と は どのよ う な状態 で あ る かは明記 さ れてい ない ため、 こ の成果 に関 し て も 目標の具体性 を検討す る必要があ る。 7 番目は 「⑦ 「実践」 に関す る成果」 に関す る記述で あ る。 学習 し たこ と を活用 し て家庭で実践す る こ と がで き た生徒の増加 を成果 と し た記述 であ る。 3.2.の 「②生 活に活かす実践力」 に対す る成果 と 読み取 れる。 最後は、 こ れら 「成果」 に関す る記述 を踏ま え て、 研 究内の授業 「目標」 と 「成果」 と の関連につい て検討す る。 ま ず、 情意的側面 に関す る目標は 8 本出現 し てい た も のの、 成果の段階では 9 本確認で き た。 ま た、 実践力 に関す る目標は 5 本で あ っ たが、 研究成果に関す る箇所 か らは 4 本の出現 を確認 し た。 本来は、 目標に対す る評 価 を行い、 どの程度目標 を達成 で き たか を看取 るべ き で あ る。 し か し 、 「 目標」 設定の段階 と 研究 の 「成果」 段 階での出現数に差が生 じ てお り 、 一貫性につい て課題が あ る と 言え よ う 。 目標 を意識 し た授業計画や評価計画 を 練 る ための方策につい て検討 が必要で あ る。

4 . ま と めと 今後の課題

本研究の結果、 中学校家庭分野住生活領域におけ る実 践研究の現状 と 課題 をい く つかの視点 で把握す る こ と が で き た。 以下 で その現状 と 課題 を ま と め、 今後の研究の 余地につい て検討す る。 一点目は、 3.1.での結果よ り 、 住生活領域に対す る実 践論文数の偏 り は確認 さ れなか っ た。 先行研究 では、 住 生活領域の実施率の低 さ が指摘 さ れてい る こ と か ら (小 川 ら , 2015) 、 本研究 と 先行研究 と の間 にあ る差異に関 し ては、 今後検討 を行 う 必要があ る。 二点目は、 授業の目標におけ る抽象度の高 さ であ る。 抽出 し た実践論文では学習指導要領や国立教育政策研究 所の評価に関す る参考資料 を直接的に引用 し てい るこ と が多 く 、 抽象的 な文言 と な っ てい る。 そのため、 研 究の 成果 を論述す る段階におい て も 具体性 を欠 く 考察 と な っ てい る こ と が多 か っ た。 こ の課題は多 く の論文 で確認で き たため、 目標設定に対す る教員 の力量的側面から調査

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が必要 で あ る。 三点目は、 研究におけ る妥当性や信頼性、 一貫性の低 さ で あ る。 3.5.で指摘 し た通り 、 目標 と 成果の段階で出 現数の違う 類型があ っ た。 ま た成果の根拠 を 「生徒の感 想文」 や 「 デー タ を掲載す るのみ」 に留 め てい る論文 が 多 く 、 その資料 か ら どのよ う な成果 と し て判断 し たかに つい ては考察す る こ と がで き てい なか っ た。 つま り 、 実 践研究 と し ての妥当性や信頼性、 一貫性の低 さ を指摘 で き る。 二点目 と 併せて、 「目標」 と 「評価」 の一体化に 関す る課題が明 ら かと な っ た。 四点目は、 住生活領域におけ る学習内容や授業方法の 影響 を受け る要因 につい て明 ら かに し た。 具体的 には、 研究の背景 にあ るのは、 「 社会問題 (例え ば、 物が豊か な社会 ・ 共働 き 世帯の増加 な ど) 」 と 「大き な災害」 で あった。 特に2011年 3 月に発生し た東日本大震災後の実 践研究は、 「安全 ・ 安心」 や 「災害への備え」 に着目 し た実践が多 い こ と から 、 災害の影響 を受け た授業内容 と な っ てい る。 ま た、 授業方法 に関 し ては、 現行学習指導 要領で示 さ れた 「実践的 ・ 体験的 な学習活動」 「言語活 動の充実」 「問題解決的な学習」 が多 く 確認 さ れた。 一 点目同様 に、 方法論 につい て も 、 学習指導要領の影響 を 大 き く 受け てい る こ と が明 ら かと な っ た。 以上で明 ら かと な っ た二点目の 「目標設定」 や三点目 の 「成果の妥当性 と 信頼性、 一貫性の担保」 につい ては 実践研究の質 に関す る具体的課題 と 言え る。 し か し、 本 研究は全国的な住生活領域におけ る実践研究の現状 と 課 題 を明 ら かにす る に留 ま っ てい る、 い わば俯瞰的 な資料 であ る。 そのため、 実践研究の質的向上 を目指す には、 住生活領域 を実践す る教師の授業設計段階におけ る認知 的 な構造 を明 ら かに し 、 どの段階 で、 どのよ う な困 難性 を抱 い てい る のかな ど を探 る必要があ る。

引用文献

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表 1  「 C 衣生活 ・ 住生活と自立」 に関する実践論文

参照

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