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紙による放射線の遮蔽実験についての一考察 : S霧箱を利用して

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Academic year: 2021

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(1)Title. 紙による放射線の遮蔽実験についての一考察 ― S霧箱を利用して ―. Author(s). 柚木, 朋也. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 69(2): 177-182. Issue Date. 2019-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/10407. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第69巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 69, No.2. 平 成 31 年 2 月 February, 2019. 紙による放射線の遮蔽実験についての一考察 ― S霧箱を利用して ―. 柚 木 朋 也 北海道教育大学札幌校理科教育研究室. A Consideration of the Radioactive Shielding Experiment on Paper ― Using an S Cloud Chamber ―. YUNOKI Tomoya Department of Education, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 この研究の目的は,α線とβ線の透過性を観察するための教材とその結果について考察する ことである。放射線はその種類により,物質の透過性が異なることが知られている。放射線を 直接見ることができないが,その透過性はサーベイメーターなどを使用して測定することに よって確かめることができる。しかし,放射線が実際に遮蔽される様子を観察することができ れば,より具体的に放射線の性質を実感できると思われる。今回は,霧箱の中に紙を入れるこ とによって,放射線の飛跡を観察した。その結果,紙によってα線が遮蔽される様子を明確に とらえることができることが明らかになった。 [キーワード]α線,β線,教材,霧箱,透過. Ⅰ はじめに. 編理数編の物理基礎では,「エネルギーとその利 用」 の中で「放射線の種類と性質にも触れること」. α線やβ線などの放射線は,透過力が異なり,. と記述されている。また,その例として, 「例えば,. 様々な物質によって遮蔽されることがよく知られ. 放射線計測,霧箱を用いた放射線の飛跡の観察な. ている。中学校学習指導要領(平成29年告示)解. どを行うことが考えられる。また,例えば,放射. 説理科編(2018)では, 「放射線について科学的. 線の遮蔽を物質との相互作用と関連付けたり,放. に理解することが重要であり」と記述され,平成. 射性物質の利用法や環境等への影響と半減期や放. 30年に告示された高等学校学習指導要領解説理科. 出される放射線の種類とを関連付けたりするなど. 177.

(3) 柚 木 朋 也. して,これまでに学習したことを活用しながら総 合的に考察させることも考えられる。」とある。 放射線の遮蔽実験として,サーベイメーターなど を使用した実験はこれまでもよく行われてきた (文部科学省(2014))。しかし,測定機器の数値 の減少を調べるだけでは,遮蔽されている実感が あまりもてないのではないかと思われる。放射線 が物質で遮られるようすを観察できればより興 味・関心を高めることが期待できると考える。 霧箱を利用した遮蔽実験は,田原・原・古賀・ 辻(2013)や髙辻・芝原・山口(2018)などでも. 図1 S霧箱の構造図. 触れられており,放射線の実験をより具体的に行 うための工夫がなされている。今回はより簡易で 確実に遮蔽の効果を観察するために,S霧箱内に 線源と紙1枚を取り付け,α線の飛跡が遮蔽され るようすを実際に観察した。 S霧箱は,霧箱本体に熱伝導率が極めて小さい 発泡スチロールの一種であるポリスチレンペー. 図2 線源に1枚の紙を貼り付けたゴム栓. パー(PSP)を使用し,底面にアルミニウムはく を使用した高感度な霧箱である(柚木・尾関・田 口(2015) ) 。また,ドライアイスは不要で,化学 的な寒剤で放射線の飛跡を観察することが可能で ある。S霧箱の特徴は,底面から約1cm以内の 領域に過飽和層があるため,全方向の放射線をと らえるのではなく,主として水平方向の放射線を とらえることができることである。そのため,今 回の遮蔽実験には特に適している。. Ⅱ 方 法. 図3 S霧箱を上部から見た図. 図1は,S霧箱の構造を示したものである。線. いた線源)と② ホコリ(北海道教育大学札幌校. 源は,ゴム栓で差し込むようになっている。. の倉庫で紙製のキッチンタオルに約90分間掃除機. そこで,線源の片面にPPC用紙(コクヨKB-. で吸着して集めたもの)を使用した1)。. KW39 紙厚:64g/m2・0.09mm)を貼り付け(図. その後の方法は以下のとおりである。. 2) ,紙が縦になるように差し込む(図3)。その. a フェルトにC2H5OHを30cm3含ませる。. 結果,紙から上のA領域は,「遮蔽なし」の領域. b 食品包装用ラップフィルムで蓋をする。. となり,下側のB領域は,「遮蔽あり」の領域と. c 線源(ホコリなど)の半分を紙で覆い霧箱. なる。. 内に入れる(図2,図3)。. なお,線源は,① 閃ウラン鉱(霧箱のキット. d 融雪剤MgCl2 ・ 6H2O(直径2mm~6mm. (原子力エンジニアリング株式会社)に付属して. の粒状)85gと氷(かき氷)100gをかき混ぜ. 178.

(4) 紙による放射線の遮蔽実験についての一考察. た冷却槽の上に置き,光を当て観察するとと もにビデオカメラ(SONY FDR-AX100)で 撮影する。 e 撮影した動画を調べることにより,α線と β線の遮蔽の様子を調べる。. Ⅲ 結 果 図4は,閃ウラン鉱による放射線の遮蔽のよう すを示した写真とそれを白黒反転させた写真を配 置したものである。 α線によると思われる飛跡が紙の上側のA領域 「遮蔽なし」に多く写っている。しかし,下側の B領域「遮蔽あり」には,α線と思われる飛跡が 認められない。また,β線によるものと思われる 飛跡は,上側のA領域「遮蔽なし」にはほとんど 写っていないが,下側のB領域「遮蔽あり」では 数多く認めることができる。 図5は,ホコリを線源に用いた場合の放射線の 遮蔽のようすを示した写真である。図4とよく似 た様子を示している。上側のA領域「遮蔽なし」 にはα線と思われる飛跡が数多く,下側のB領域 「遮蔽あり」には, β 線と思われる飛跡が多く 写っている。 このように,多くのα線が紙1枚で遮蔽される ことが明らかになった。しかし,観察していると 下側のB領域「遮蔽あり」にも,α線と思われる 飛跡が認められる場合があった。その現象は,ホ コリを線源に用いた場合に多く見られた。図6 は,図5と同じホコリを線源に使用し,冷却槽に 置いて2m32s後の写真である。上側のA領域「遮 蔽なし」には,図4,図5と同様,α線と思われ. 図4 紙による遮蔽効果(閃ウラン鉱). る飛跡が認められる。しかし,下側のB領域「遮. 線源には閃ウラン鉱を用いた。線源の横(写真では 線源の下)に紙1枚を付けている。 (冷却槽に置い て1m8s後,室温24.2℃,寒剤の温度−29.7℃). 蔽あり」にも,β線の飛跡とともに,α線と思わ れる飛跡が明確に認められる。. 179.

(5) 柚 木 朋 也. Ⅳ 考 察 α線については,紙1枚で遮蔽されるという事 実を概ね示すことができた。α線は,比較的明瞭 な飛跡を残すため,撮影した動画を用いて,一つ 一つ確認することが可能である。そこで,紙で遮 蔽された領域と遮蔽されていない領域の数を比較 するために,α線の紙1枚に対する透過率を調べ た。 表1は,実験開始後の時刻からそれぞれ30秒間 に観察されたそれぞれの線源から出るα線と思わ れる飛跡の数をA領域「遮蔽なし」とB領域「遮 蔽あり」とに分けて調べた結果である。なお,線 源は,① 閃ウラン鉱と② ホコリ(キッチンタオ ルに吸着させたもの)であり,ホコリは観察開始 図5 紙による遮蔽効果(ホコリ) 線源にはホコリを用いた。線源の横(写真では線源 の下)に紙1枚を付けている。 (冷却槽に置いて 5m43s後,室温24.2℃,寒剤の温度−28.1℃). 時に採取後11m53sのものを使用した。 表1 1枚の紙に対するα線の透過率 ① 閃ウラン鉱 開始後 [分] 遮蔽 遮蔽 透過率 なし あり [%]. ② ホコリ 遮蔽 なし. 遮蔽 あり. 透過率 [%]. 正確確率検定 によるp値. 1. 115. 0. 0. 96. 14. 14.6. 0.001<0.05. 2. 108. 2. 1.9. 100. 9. 9.0. 0.033<0.05. 3. 98. 1. 1.0. 104. 13. 12.5. 0.002<0.05. 4. 106. 1. 0.9. 102. 12. 11.8. 0.003<0.05. 5. 105. 2. 1.9. 93. 6. 6.5. 0.157>0.05. 6. 100. 0. 0. 94. 3. 3.2. 0.117>0.05. 7. 93. 0. 0. 91. 2. 2.2. 0.155>0.05. 8. 100. 0. 0. 91. 2. 2.2. 0.231>0.05. 9. 97. 1. 1.0. 89. 4. 4.5. 0.202>0.05. 10. 103. 1. 1.0. 81. 1. 1.2. 1 >0.05. α線の透過率は,紙より上側と下側には同じ数 の放射線がでているものと仮定し,算出した。閃 ウラン鉱の場合,透過率は2%以下と低く,時間 が経過しても透過率に大きな差は見られなかっ 図6 紙を透過するα線(ホコリ). た。一方,ホコリの場合,開始後4分間では透過. 線源の横(写真では線源の下)に紙1枚を付けてい る。(冷却槽に置いて2m32s後,室温24.0℃,寒剤 の温度−28.6℃). 率が約10%であったが,その後透過率は低下し, 10分後では約1%になった。時間とともに変化し たのは,紙がエタノールで湿ったために,遮蔽効 果が高くなったためと考えられる。. 180.

(6) 紙による放射線の遮蔽実験についての一考察. 以上のように,閃ウラン鉱に比べるとホコリの. 運 動 エ ネ ル ギ ー が 大 き く, 特 に,214Po→210Pb. 方が,透過率が高いことが明らかになった。これ. (7.687MeV)は,運動エネルギーが大きいため,. は,前述の観察時の印象とも一致する。閃ウラン. 遮蔽が難しいことが考えられる3)。. 鉱とホコリによるα線の遮蔽の差をフィッシャー. ただし,紙を2枚重ね合わせた場合は,閃ウラ. の正確確率検定(両側検定)5%水準で調べた。. ン鉱もホコリの場合もB領域「遮蔽あり」では,. その結果,開始後約4分までは,閃ウラン鉱とホ. α線と思われる飛跡はほとんど見られず(2本以. コリでは,有意な差が見られた。しかし,5分以. 内で透過率は3%以下),有意な差は認められな. 後は有意な差が見られないことが明らかになった。. かった4)。紙を2枚重ね合わせた場合は,遮蔽効. 閃ウラン鉱とホコリで有意な差が見られたの. 果が高くなるため,差が生じなくなったと考えら. は,線源から出てくるα線のエネルギーの違いに. れる。. よるものと考えることができる。ただし,閃ウラ. また,ホコリでは,時間が経過するとともに放. ン鉱と北海道教育大学のホコリはどちらもウラン. 射線量が減少する。それは,閃ウラン鉱に含まれ. 2). 壊変系列によるものと考えられている 。表2は,. る放射性物質は半減期が長く(238Uは約44億6800. ウラン壊変系列における主な α 線の運動エネル. 万年,234Uは約24万6千年,230Thは約7万5千. ギーを表したものである。. 年,226Raは約1600年など)安定して放射線を出 すのに対して,採取したホコリの放射線量は約40. 表2 ウラン壊変系列における主なα線の運動エネ ルギー 壊変核種 238 234 230 226 222. 234 230. U → U → . B領域「遮蔽あり」でも多数見えたことから,紙. Th. 4.202. を透過することが考えられる。紙を2枚重ね合わ. Th. 4.775. せた場合も,多数観察できた。しかし,β線は下. 4.687. 側のB領域「遮蔽あり」でより多く観察され,A. Rn. 4.784. 領域「遮蔽なし」ではわずかしか観察されなかっ. Po. 5.490. た。例えば,図5のA領域「遮蔽なし」のように. Ra. 222. Ra → . 218. Rn → . 218. Po → . Pb. 6.002. α線が多い場合はβ線がほとんど目立たない。こ. 214. Po → 210Pb. 7.687. れは,A領域「遮蔽なし」ではα線が多いために. 5.304. 過飽和エタノール蒸気がα線に多く消費され,β. 210. 214. 次に,β線については,紙で遮蔽された下側の. 運動エネルギー[MeV]. 226. Th → . 分で半減するからである5)。. 206. Po → . Pb. (日本アイソトープ協会(編) ,2011から作成). 線が消費する蒸気が不足するためと考えられる。 また,α線が多すぎると細いβ線が目立たないこ. 閃ウラン鉱は,ほぼ放射平衡に達していると考. とも考えられる。そのため,β線の紙による遮蔽. えられるため,表中のすべてのα線が同程度放出. の影響は,この実験からは明確な比較はできない。. されると考えられる。しかし,空気中から採取し. 霧箱で放射線をはじめて観察させる場合,α線. たホコリでは,気体となって空気中に放出された. と β 線の区別がつかない場合が見受けられるの. 222. Rnまでのα線. で,今回のように紙で遮蔽することによって,そ. はないと考えることができる。つまり,222Rnか. の違いを明確にし,観察させることも一方法であ. Rn以下の放射線のみとなり,. 222. ら半減期が比較的長い(22.20年). 210. Pbまでの崩. ると考える。. 壊 が 中 心 に な る と 考 え れ ば,222Rn→218Po (5.490MeV),218Po→214Pb(6.002MeV),214Po →210Pb(7.687MeV)等の割合が高くなる。これ らは,222Rnまでの5MeV以下のものに比べて,. Ⅴ まとめ 今回の実験から,紙1枚で,上側のA領域「遮. 181.

(7) 柚 木 朋 也. 蔽なし」と下側のB領域「遮蔽あり」で大きな違. 簡易な霧箱の教材化と授業実践-放射線の透過性につ. いが観察された。また,閃ウラン鉱とホコリの違. いて理解するための授業展開の提案-,京都教育大学. いによって,放射線の飛跡の見え方や遮蔽の様子 の違いについても明らかにすることができた。S 霧箱では,時間とともに寒剤の温度が上がること やエタノールの影響などで,放射線の飛跡の見え 方が変化する。それでも,S霧箱を利用した今回 の実験は,α線の遮蔽の様子を容易に観察するこ とが可能であり,放射線の理解を進める上で有効. 教育実践研究紀要,18,pp.21-28,2018. 田原譲・原慎二・古賀一男・辻建二:放射線をより深く 理解するための霧箱の活用法,日本原子力学会年会・ 大会予稿集2013s0,p.18,2013. 日本アイソトープ協会(編):アイソトープ手帳,丸善, p.11,2011. 文部科学省:全ベータ放射能測定法(昭和51年改訂) , p.14,1977. 文部科学省:中学生・高校生のための放射線副読本, p.11,2014.. であると思われる。. 文部科学省:中学校学習指導要領解説理科編,学校図書, 2018.. 謝 辞. 文部科学省:高等学校学習指導要領解説理科編理数編,. なお,本研究の一部はJSPS科研費26381248の. 柚木朋也,尾関俊浩,田口哲:融雪剤を用いた簡易霧箱. 助成を受けたものである。. 2018. の開発,物理教育,63⑴,35-38,2015. 柚木朋也,伊藤雄一,浜田康司:S霧箱を使用した放射 線の観察に関する研究-中学校における取組-,理科. 註 1)今回は,北海道教育大学札幌校の研究棟にある3階 の倉庫で,家庭用掃除機の先に紙製のキッチンタオル を取り付け,約90分間ホコリを吸着した。ホコリを吸 着したキッチンタオルを10mm×10mmの大きさに切り 取り,ホコリの付いた面を外側に折り,5mm×10mm としたものを線源として利用した。 2) 「北海道教育大学で採取したホコリは,ガンマスペク トロメーター (LB-2045)を用いてスペクトルを分析し た結果,ホコリのγ線スペクトルから300keV,600keV 付近にピークが見られた。これらはウラン系列に属す る214Pb及び214Biから放出されるγ線のエネルギーに類 似していることから,ホコリに付着している核種は, 主にウラン系列の222Rnやその娘核種であると思われ る。」(柚木・伊藤・浜田(2016))。 3)ホコリに含まれる放射線源は,218Poとその娘核種で ある214Pb,214Bi,214Poが主要因であると思われる(柚 木,2018)。 4)α 線と思われる飛跡には,線源以外から出る放射線 (自然放射線)も少ないながら含まれている。 5)ホコリの放射性物質が約40分で減少することについ ての詳細は柚木(2018)を参照のこと。. 引用・参考文献 国立天文台:『理科年表』,丸善,pp.482-483,2015. 髙辻舞華・芝原寬泰・山口道明:ペルチェ素子を用いた. 182. 教育学研究,57⑵,pp.155-168,2016. 柚木朋也:大気中の放射性塵埃の半減期についての一考 察,北海道教育大学紀要,68⑵,pp.51-59,2018.. (札幌校教授).

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