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森林の階層構造と環境教育

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Academic year: 2021

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(1)97. 森林の階層構造と環境教育 キーワード:森林の階層構造,樹冠模様,葉面積分布,栗色分布,環境教育 山口修*・畠山真由美‥・米田敬司‥* (平成12年9月20日受理) 要約 極相状態にある30の照葉樹林, 18の夏緑広葉樹林, 8 の針葉樹林および6の代償植生林を対象に,森林生態系 でのエネルギー流および物質循環の環境教育をおこなう にあたり重要項目理解のための環境教材を検討した。森 林では光に向かっての垂直方向にこれらが配列している。 生産・消費・分解のサイクルの中で,これらは地上部・ 地表部・地下部に分布している。特に,分解の概念とそ れを可能にしている実体の把握に問題がある。キノコを 指標にその根元の菌糸束をたどれば生物遺体との繋がり および,生産者の樹木の根との関連も観察されうる。森 林生態系での物質循環にかんする環境教材を提案する。 はじめに 森林は植物が均一に生える単なる集合体ではない。緑 色植物に加え,動物,そして菌・バクテリアの生物群衆 が,太陽光に由来するエネルギー流と物質循環の機能の 基に,時間をかけて最も効率の良い配列に形作られたか つ柔軟性のあるシステムである。生物群衆はそれぞれ生 症,消費,そして分解の機能に対応してゆく。この生産一 消費-分解がエネルギー流と物質循環でオーガナイズさ れたシステムは生態系あるいはエコシステムと呼ばれて いる。食物連鎖はこの目に見える現象である。エネルギー 流的にみると,太陽光に最も近い地上部に生産者の緑色 植物,次いで地表部に消費者の動物が分布し,地中に分 解者である菌とバクテリアが生息し,これらは垂直に配 列をつくっている。これと地中にある植物の根がつながっ て物質循環が完結する。環境教育の場においては,生産 は緑色植物によりおこなわれ大々的に取り扱われるが, 厳密には森林においては基本的には4層構造によりおこ なわれている。この各々の層では,光に関して異なった 適応段階がみられる(中西ら, 1983)。主として動物に よって見られる消費も,生徒の注意を引きやすく教材生 物もこと欠かない。しかし,分解という概念は中学3年 生2学期以後に登場するし,教材も落ち葉を食べる昆虫. とキノコがわずかに取り扱われているに過ぎない。最大 の理由は,分解者の生息域の中心が地中であり目につき にくいことと,観察者である人間がこれを"本能的に避 けている"ことにある。ヒトは生態系の中では緑色植物 からエネルギーをとり,菌・バクテリアに食害されエネ ルギーを奪われる位置にある。ヒトが植物を美しいと称 し植栽し,カビ・キノコを毒々しいや気持ち悪いと称し 生活的に避ける理由がここにある。ケガを除けば,病気 の大部分はカビ・バクテリアの感染が原因になっている。 しかし,生態系を効率よく回転させるにことにおいて分 解者の役割は生産・消費と等しく大きい。 森林は環境教育の場として,川・ため池や海の内湾と ともに最もよく利用される。とくに里山は我々の身近に ある生活の場を支えた森であり,学校教育の実習場であ る野外活動センターや少年自然の家などは使われなくなっ たこれらを有効に利用して造られている。我々が森に入っ 時には,生活習慣的に水平方向を中心に視線が集まる。 草本植物の花やこれに集まる昆虫,あるいは地上に落ち た木の実が教材に選ばれる理由である。しかし生態系の 重要概念である生産一消費一分解は,この視線とは直角 の垂直方向にあると言えよう。頭上の樹冠や足元の落ち 葉の下に目を向け,その構造の異なりとその各々の機能 を考えるところまで発展させる必要がある。ここでは, 森林の垂直構造に生態系の主な機能が配列している点に 主眼を置き,視線をこの垂直方向に向けるような試みを 提案したい。生態系の構成要素とその機能は環境教育の 根幹ともなっている。さらにこの垂直方向の階層構造は 生物間の住み分けに基礎をおいているという理解と共に, 物質循環のカギとなる「分解と生産の繋がり」の教材を 示したい。 材料と方法 極相状態および代償植生の森林での植物・菌の毎木調 査は植物社会学的におこなった(Braun-Blanquet, 1964)。 30の照葉樹林(Yamaguchi and Tsuchida, 1995 ;米田, 1999), 18の夏緑広葉樹林(Yamaguchi. ・兵庫教育大学第5部(総合学習系教育講座) -兵庫教育大学大学院学校教育研究教科・領域教育専攻(総合学習系コース) キ*ネ奈良県立北大和高等学校,奈良県生駒市.

(2) 図1.照葉樹林の樹冠を地表部から垂直に見上げたシルエット写真。樹冠の間に空白の縁取り模様が見られる。 A:スダジイ林, B:ツプラジイ林, C:タブノキ林, D:ホルトノキ林。.

(3) 森林の階層構造と環境教育. 99. and Tsuchida, 1996;米田, 1999), 8の針葉樹林. による乏しい合成産物を支持組織の形成に使う必要はな. (Yamaguchi et al., 1997),そして6のアカマツ・コ. い。足摺宇和海国立公園にありかつ高知県指定学術参考. ナラを主とする代償植生林(Yamaguchi, 1998)の垂 直構造における各階層の樹木の開花期,花色,果期,莱. 林となっている白皇山の照葉樹林,および富士箱根国立. 色を調査した。樹冠は地上より頭上を見上げ,カメラで. 樹林を対象に高さ別の樹木の分布および相対照度を調査. 撮影し写真を読み取った。各階層での太陽光の照度は,. した。照葉樹林の天蓋部では13-19mの高さで膨大な胸. その階層の最上部にルックスメーター(カスタム社, L. 高断面積をもつスダジイ・アカガシ・イスノキからなる. X-1332型)のリード線を延ばし持ち上げ測定した。各 階層の樹木の葉は5枚づっ採取し, 1枚当たりの平均の. Bl層が存在している(図3 A)。約5-10mの高さに再び ヤブツバキ・サザンカ・サカキがピークを作るBZ層が. 面積および質量を測定した.同時に,葉の右半分の重心. あり,この層は生体量を反映する胸高断面積の値が急激. 近くから中脈を避けて薄切片をを取り,顕微鏡で糞厚を. に増えるところでもある。高さ0.5-5mのところにイヌ. 測りかっ内部構造を調べた。キノコの菌糸の観察は落ち. ビワ・シログモ・イヌガシの多数個体がピークを作る低. 葉をそっと取り除き,菌糸と腐葉の接触および植物の根. 木層のS層がある。高さ0.5m以下には多数のイズセン. との接触を調べると共に,植物の根は顕微鏡で観察した。. リョウ・アリドウシ・コバノカナワラビなどのシダ・草. 公園にあり国指定天然記念物富士山原始林青木が原夏縁. 本・木本実生が草本層のK層を作っている。林内では階. 観察結果. 層に応じて相対照度に著しい差が認められるBi, B2 S, K層での相対照度は100, 4.4, 0.7, 0.4%であった。. 照葉樹林高木における樹冠の住み分け模様. Bl層で90%以上の光が葉に吸収されるか反射され,下. 森林に入り樹冠を下から見上げると,天蓋をっくって. 層にゆくほど減少して, K層に届く光は1%に満たない。. いる樹木の葉は互いに重なり合うことが無くブロックを. この相対照度の低下が階層構造を生じさせる最大の要因. つくり,結果としてジグゾ-パズル状の模様が見られる。. となっている(Whittaker, 1970)c夏縁樹林において. 特に隣り合う樹木どうしの問では空自の帯で包まれ,こ. も, 17-25mの高さにブナ・ミズナラよりなるBl層が存. の部分では空が透けて見ることができる.この縁解りは,. 在している(図3B)。 9-13mの高さにウラジロモミ・. スダジイ林(Castanopsis sieboldii)およびツプラジイ 柿(C. cuspidata)で最も顕著に見られた(図1Aと. ウリ-ダカェデ・オオイタヤメイゲツなどから成るB2 層があり, l-7mにはシナノキ・ヒロ-ツリバナ・ミヤ. B)。次いでタブノキ林(Machilus thumbergii)とホ. マガマズミなどの多数固体が分布するS層がある。 1m. ルトノキ林{.Elaeocarpus sylvestris)であった(図1 CとD)。ウラジロガシ(Quercus salicina)とアカガ. 以下にはスズタケが密集しているK層がある。これらの 階層での相対照度は各々100, 15.5, 7.1, 1.1 %であっ. シ(Q. acuta)でも見られるが顕著ではなかったOい. た。低木樹ではこの低い光量に対する種々の適応が見ら. ずれも照葉樹林の極相をっくる重要樹種である。図に見 られるとおり,縁取り部の葉は擦り切れたようすは無く,. れる。. 重なりの結果できたものではないことを示していた。ツ. 面積を大きくし,照度の高くなるB2層からBl層へと面. クバネガシ(Q. sessilifolia),シラカシ(Q.. 積を小さくしている(図4A)。スダジイ・イスノキ共. myrsinaefolia)およびアラカシ(Q. glauca)では, 明白なものは確認できなかった。. にBl層で葉面積が最小になっており, S層とK層で大. 夏緑広葉樹林においては,分布の最下部にあるイロ-. 照葉樹林の樹木は相対照度の低いK層からS層で葉の. きくなっている。同様の傾向は,ミミズバイ・バリバリ ノキ・サカキなどのB2層を占める樹木にも見られるが,. モミジ(Acerpalmaturn)では見ることができた(図. その変化の程度には種による違いが見られる。葉の質量. 2 A)。しかし極相状態のブナ林(Fagus crenata)お. についても同様の変化が見られる。スダジイ・イスノキ. よびミズナラ林(Q. crispula)では,少なくとも顕著 なものは見ることはなかった(図2B)。極相状態のシ. 共にBl層で最も軽く, S層とK層で重たくなっている。 しかし, B2層で優先する樹木ではその変化の程度には. ラビソ04bies ueitchif)の針葉樹林においても同様に. 顕著な違いが見らなかった(図4B)c葉の厚みについ. 見ることはできなかった(図2C)。またアカマツ. ては,相対照度の高い上層にゆくほどに厚くなる。この. (Pinus densiflora)コナラ(Q. serrata)を主とする. 傾向はスダジイ・イスノキの天蓋をつくる樹種で非常に. 代償植生林でも見ることはできなかった(図2D)。 光の垂直分布と各階層での菜の特性. 顕著に表れるが,下位の階層を形成する樹種では顕著に は表れていない(図5)。上層にゆくほど葉の厚くなる. 樹林内での光環境は垂直的に著しく変化する。上層の. 傾向は夏緑樹林の天蓋をっくるブナにも顕著に見られる。. 樹木はど多くの光を得られるが,そのためには幹や枝の. 各階層より採取した葉の横断面での葉肉組織の分布と厚. 生長を促さなければならない。林床の草本植物は光合成. さは図6に示されている。.

(4) 図2夏緑広葉樹林,針葉樹林およびアカマツ・コナラ代償植生林の樹冠を地表部から垂直に見上げたシ ルエット写真。イロバモミジ林以外には,樹冠の間に空白の縁取り模様が見られなかった。 A:イロバモミジ林, B:プチ林, C:シラビソ林, D:コナラ代償植生林。.

(5) 森林の階層構造と環境教育. 101. 表1.森林の階層構造と構成樹種の開花期・花色・果期・果実型の分布。数字は種類数を表す。 樹林 階層. 画一欝撃K計堪頂. 古iiォ^. 48. 夏 秩 冬. 19. ll 3. 26. 7100. 1915 6. 0. 3. I. 1. 31. 4. 8. 0. 0. 66. 9. 430. 328. 412. 222. 0. 0. 0. 0. 3. 3. 0. 0. 0. 0. 0. 合計. BIB2SK計 19. 4. 13. 0. 7. 10. 1. 0. 3(3232. 0. 22122 221. 0. 0. I. 6. C J. サ. inincsinm. p. 22. 蝣. n. サ ー. t. C. -. J i. c. -. o. ". c. <. o. O O O D O. o. t. m. -. -. o o > o ハ ノ. i. NNt-. -. c. e. '. n. ^. n. o. '. o. l. loCO<0-16 ini-o. o. r. o. 蝣. K. o. o o o o o. サ. c. >. ^. 4. O O ォ c O M. a. サ. r. 8. COOP-CJCM 2 1 1. o. ^. -. r. '. n O > - n m. o. r. i. c. M. 161617 6. O. 蝣. ^. >. 254 12113. O. ^. &. r. j. On}OON. f. ・. 一. o. o. -Nainas 4 2 1. -. _. -. -. oi-mini-. O. y. ・. *. oot-c-r-. *. ・. O. -. 蝣. 蝣. i. o. -. O O I T S O O 蝣 サ. i. 2. t-i-i-i-CO. o. IOVO(OO. ・. 蝣. r-mcorH . L r . I E i E. r-f-IBS. oo^-o>cj 12. ォint-r3. NMIf)<0 3. o o ^ i o n. r. 0.  ̄. I. m m o < m o. *. 0. l/"d-t-OCM. ・. 3. O>O>O"fl"CO 12. *. -. OJCOOCMCS. C. r. r. coinOcmo. O. ー. -. P. O C M O O O. <. サ. t. J. 1. 35. 1. o>-owin 4 4 1. o. a. <Dy-OCO. c. <. C. 4 3 ∧ 3 0 0. -. -. *. ^r^ro^-o. r. y. 蝣. ・. 1311 32. 1. (OU)CMt-. -. V. l. 28 34. 4. *-C-3OOO. i. -. ク. 00^j-com. 自責茶赤紫. 色 莱. ・ 1 7 7 7 4. 春夏秋冬. 期 果 m. 15. 512. 113. 2. 21. i. 21. ^-Oy-cO"* 1 3 1. 自責緑赤紫. 色 花. 果実硬. 16. 550. 針葉樹林 BIB2SK計. ll. 22. 352 46. 10. 98. 12. 31. 14 4 ll 0 29166. 613. 524. 10 8 14 0 32215. 1321. 955. 計. 7. 62. 45. 46. 14167. 22. 27. 39. 12. 24. 1225. 061381. 表2.樹木の階層構造と開花期,花色,栗色,および果肉の硬軟の問の分散分析表。 DF. SS叫S. F. P. 496.80 1 65.60. 4. 79く0.0 I. 3 2055.92 685.31. 1 9.8く0.01. 360.55 1 20.18. 3.47く0.05. 54 1867.59 34.59 63 4780.86. 花色. 397.44 1 32.48. 8.60く0.01. 4 1199.93 299.98. 1 9.48く0.01. 288.44 96.1 5. 6.24く0.0. 69 1062.68 15.40 79 2948.49. 栗色. 397.44 1 32.48. 7.24く0.01. 4 1180.93 295.23. 1 6.1 2く0.01. 288.44 96.1 5. 5.25 <0.01. 69 1263.68 18.31 79 3130.49. 果肉. 993.60 331.20. 7.97く0.01. 75.03 75.03. 1.81 >0.05. 721.10 240.37. 5.79く0.01. 24 996.99 41.54 31 2786.72.

(6) 102. 樹木の階層構造とその花期,花色,果期,果色,果肉 の分布. び菌生菌. 4つのタイプの森林において,各階層を形成する樹木 間の花期,花色,果期,異色,果肉の分布を合計381種 について調査した(表1)。同一種につき複数の階層に またがって生育する場合は,その最高の高さの階層種と した。形質の記載は原則的に佐竹ら(1989a ; 1989b) に従った。階層構造と開花期の間には有意なズレが見ら れ,高木層(Bi)では春に開花する種が多く,亜高木. は菌類・バクテリアからなる分解者層すなわち分解ゾンが分布する。前者が地上部および地表部であったのに. 層(B,)から低木層(S)さらに草本層(K)にかけて 夏から秋にかけて開花する種の割合が増えている。分散 分析で,相互作用が無いとすると,階層間には5%レベ ルで有意な差が検出される(表2)。階層構造と花色の 問にも同様なズレが見られる。 B.層の樹木のはぼ半数 は黄色の花色に対し,下層に行くにつれ黄色以外の特に 白色の花をっける樹木の割合が増えているのが窺える (P<0.01)c階層構造と巣期の間の関係は照葉樹林での み解析されたが,秋に果期を迎える種の割合はBl層か ら下方のK層に向かうにつれて, 0.76 (47/62), 0.78 (35/45), 0.67 (31/46), 0.36 (5/14)へと減少してお り,下層に行くにつれ果期の広がりが見られる。階層構 造と栗色の間には独特の対応関係が見られ, Bl層の栗 色モードは茶色であり, B!層ではこれが紫色で, Sおよ びK層ではこれが赤色になっている。下層に行くにつれ て,異色モードの推移と共にその多様性も増大している. 光に向かって,生産ゾーンおよび消費ゾーンに続いて. 対し,分解ゾーンは地下部に主力がありそのままでは観 察しにくい。落ち葉や腐葉を取り除くと,その下に菌糸 や菌糸が絡み合った菌糸束を観察することができる。ど のタイプの森林でも腐葉の堆積した層の中には菌糸ネッ トを見ることができる。しかし,その菌糸がどの生物種 のものであるかは特定のキノコなどの子実体を見つけ, その根元より腐葉を取り除いてゆく方法が優っている。 里山林の落ち葉の中のサンコタケ(Pseudocolus schellenbergiae)の子実体付近の腐葉を除くと,根状菌 糸束がネットを張り巡らし落ち葉を腐葉に分解してゆく 様子を見ることができる(図A)。この菌をはじめ, 腹菌類は一般的に太い根状菌糸束が発達しており分解者 の観察に適している。岩山や稜線付近および海岸の砂地 のような有機物の無い土壌には,大型のキノコが見られ, 根元を掘っていっても腐葉などは無く樹木の根に繋がっ ていることがある。海岸のクロマツ(Pir thunbergii)林の砂地に出るショウロ(Rhizopogon rubescens)などであり(図B),分類的には菌類では あるがクロマツと外生菌根を形成して共生し,実質的に は生産者の一部の側面をもっている。針葉樹林のコケの 中から小型のキノコが単生することがある。根元を掘り. ことが見られる(P<0.01)e階層構造と熟巣の果肉の硬 軟との間にも顕著な対応が見られる(P<0.01)。 Bi層で は半数以上の種で硬い果実を結ぶのに対し,下方の層に 行くにつれて軟らかな果肉をもつ果実を結ぶ割合が有意 に増大している。 落莫中の昆虫を主とする動物群集 森林生態系においては,光の当たる地上部は緑色植物 を主とする生産ゾーンを形成しているoこれらの生産者 は常に新陳代謝しており,春の新芽,夏の緑葉,秋の紅 葉に続く落葉,冬の風雪による倒木・立ち枯れ・落枝な. 下げてゆくと,昆虫の遺体などに行き着く。アリタケ. どの代謝産物が地表部に降り注ぐ。このエネルギー源を 利用する動物を主とする消費者が地表部を占め消費ゾー ンを形成している。兵庫県社町にある極相状態にあるシ. を掘り下げることにより,菌糸による倒木・枯れ枝・落. ラカシ林の落葉層25x25xlOcmのブロックを10月下旬 に採取して,その中に生息している動物全てを双眼実体 顕微鏡下でエタノール中に集め直接観察した。 220個体 の幼虫を含む昆虫と少なくとも62個体の線虫を確認する ことができた(図7)。必ずしも実体顕微鏡は必要では ない。手軽な方法で多数の動物群集を採集・観察するこ とは可能である。しかし,ゆわゆる少年たちの好む甲虫. (Cordyceps japonensis)などの冬虫夏草と呼ばれるキ ノコの一群は動物の分解菌として,容易に動物遺体の分 解の様子を見ることができる(図8C)。菌糸が細いた め,菌糸の観察には顕微鏡が必要となるのが難点になる。 照葉樹林の地上部には見つけるのには少々熟練を要する が,小型の複眼状頭部をもっ菌生菌のタンポタケ (Cordyceps capitata)などが地中のツチダンゴなどの 他の菌類を分解して生活する様が見られる(図8D)。 地下部に生息する分解者はキノコを指標としてその根元 ち葉・動物遺体・菌遺体の分解の実態と,そこに分布す る樹木の根との繋がりをとうして,生産-消費一分解の サイクルがうかがえる。. 考察 森林生態系での垂直構造の重要性 生態系の3つの機能っまり,生産,消費,分解はエネ ルギー源である太陽光に向かってこの川副こ配列するとエ. 類・蝶類を主とした大型昆虫ではないが,動物の多様性 は認めることはできる。. ネルギー流として効率の良い配列になる。実際に森林生 態系では,生産者は地上部に,消費者は地表部に,そし. 分解者としての木材腐生菌,菌根菌,冬虫夏草,およ. て分解者は地下部にその分布の中心がある。この3つの.

(7) 森林の階層構造と環境教育. 103. A鵬. ■=個体数,ロ=胸宗断面積和/1 00[cm`]. JL=個体数. D:胸高断面穏和/100〔cm2]. B. 1. 0. 20. 30. 40. 50. 60. 帆. 図3.極相林における高さ別の樹木の分布と相対照度。 A :高知県指定学術参考林の白皇山のスダジイ・アカガシ・イ スノ寺よりなる照葉樹林, B :国指定天然記念物富士山原始林青木が原夏緑広葉樹林。. 図4.白皇山の照葉樹林における階層構造とその構成樹種の葉の適応。 A:葉面積, B:葉の質量。. outturn* F3; [y;:(:コ絹山 王rrauran. naanua 蝣Ill. X*♂0、.㌦ら約s ♂.㌔‥♂ノウ♂s*s-s∴〆. 図5.白皇山の照葉樹林における階層構造とその構成樹種の葉肉組織に見られる適応。.

(8) 図6富士山原始林青木が原夏緑広葉樹林における階層構造別にみたブナの葉の厚さと葉肉組織の構成。 階層ごとに薫の厚さは顕著に減少する。 A:高木層B,, B:亜高木層B2, C:低木層S, D:草本層K。.

(9) 森林の階層構造と環境教育. 図7 10月下旬の兵庫県社町のシラカシ社寺林における25x25xlOcmブロック中に生息する全節足動物と線虫類。 A : 220個体の節足動物, B : 62個体の線虫類。. 階層も良く見るとさらに亜階層として,生産層は高木層一. 落ちた葉や木の実に興味が行きやすい。しかし,生態系. 亜高木層一低木層π草本層として明確に区別され,この 各層に届く光の量には非常に大きな差が存在する(図3)0 この各光量に適応して植物自体にも葉の厚さ・面積・質 量が変わり,高木層では小型の厚い葉をっけ,草本層で は大型の薄い葉をっける(図4)。高木層では春に黄色 の花を咲かせ秋に茶色の硬い果実は実らせる。天蓋をつ くるものとして他の生物にあまり依存しない繁殖様式を とっている。亜高木層では黄色以外の花も咲かせ紫色の 柔らかい液巣を結ぶ。低木層や草本層では夏に白色の花. の機能の主たる軸はこれとは反対の垂直方向にあり,環. を咲かせ秋から冬に赤い液巣をっける(表1)。高木の 天蓋が風雪の外環境を遮断して,その内側には消費者・ 分解者を含めた生物の多様性の高い生物群集の生息が可 能となる。低木の植物ほど他の生物との相互作用を余儀 なくされると共にそれと有効に共生関係をもっようになっ ている。低木の植物ほど多様性も高く,より進化した形 質がうかがえる。草本の花が大きく目立って人目を引き やすいのもここに源がある。森林での野外教育あるいは 環境教育では,我々にとっての慣れた有効な視線っまり 水平方向が中心になり,どうしても低木や草本や地上に. 境教育の場としてはこの垂直方向に視線がゆき易い立体 構造の顕著な森林が理想の実習場といえよう。 環境学習をとおしてみる分解者 この生態系の3大機能の各々とは別に,これらの繋が りを観察・理解する必要がある。生産から消費は,動物 が植物の糞などを採食することから容易に理解される。 しかし,消費から分解へ,また分解から生産への連係は 分解者そのものを知らずしては難しい。しかもこの分解 者の生息域が地下部にあり,かつ心理的に人間はこれを 避けている。さらに加え分解者の大部分がバクテリアと 菌の微生物であり,特に前者は観察に顕微鏡などの器具 を必要とする。キノコを指標にその根元の菌糸束あるい は菌糸ネットをさかのぼることにより,生物遺体と繋がっ ていることが観察される。キヌガサタケ,スッポンタケ, ホコリタケやサンコタケなどの腹菌類は太い根状菌糸束 をもち,生物遺体とキノコの繋がりを観察しやすい(山 口・今村2001)。分解と生産の繋がりには,菌類の菌 糸の分布域に樹木の根が入り込んでいること,および樹.

(10) 図8落ち葉などを分解して,分解産物の無機塩を樹木の根や菌根菌糸分布域に出す分解菌の菌糸束と子実体。 A :里山林の落ち葉中に菌子束を伸ばすサ ンコタケ, B:海岸のクロマツ林の地表に現れたショウロの子実体。菌糸はクロマツの根に外生菌根を形成してマツの根と共生している。 C :パテを 分解してその遺体から現れたアリタケの子実体, D :地中菌のツチダンゴを分解して子実体をだす菌生菌のタンポタケ。.

(11) 森林の階層構造と環境教育. 木と共生して外生菌根を形成する菌根菌の根元の観察が 適している。さらに進めば,腐菓分解と外生菌根の中間 体の任意的菌根菌と呼ばれるキツネタケなどの観察が分 解と生産の物質循環を直接実感できると考えられる。 環境学習における里山林 今日,環境教育のための野外活動場として,各市町村 で野外活動センターあるいは少年自然の家などの名称で よばれる施設が利用されている。これらの施設は放棄さ れた里山林の有効利用も兼ねて市街地に隣接する代償植 生林すなわち里山林を整備しておこなわれている。代償 植生林は樹木の伐採の後に一斉に生える樹林であり樹高 が揃っており,また林令が若いため階層構造はじめ倒木・ 落ち葉・枯れ枝・腐葉が少ない。加えて下刈りなどの人 手が入りこれらを一層少なくなっている。エネルギー源 が少なく,分解者は少ない環境になっている。管理・運 営の面でいたしかたは無いが,これを補うためにも,何 回かに一度は国立公園あるいは各地にある社寺林などの 極相林での野外実習を望むものである。. 107. 中西哲・大場達之・武田義明・服部保, 1983,日本 の植生図鑑I森林,保育社,大阪e LLLロ修・今村彰, 2001 (印刷中),タケ林のキノコをと おしてみる環境教育,学校教育学研究。 Yamaguchi, O. and Y. Tsuchida,. 1995, Analysis. of forest ecosystems : Vertical. structure of. woody plants and mushrooms. in evergreen. broad-leaved forests. Hyogo Univ. Ed. Jour. 15, Ser. 3: 23-31. Yamaguchi, 0. and Y. Tsuchida, of forest ecosystems : Vertical. 1996, Analysis structure of. woody plants and mushrooms in summer green forests. Hyogo Univ. Ed. Jour.. 16, Ser. 3:27-. 39.. Yamaguchi, 0., Y. Tsuchida, and H. Yamamoto, 1997, Analysis of forest ecosystems : Vertical structure of woody plants and mushrooms in coniferous forests. Hyogo Umv.Ed. Jour. 17, Ser. 3: 15-24.. 引用文献 米田敬司, 1999,極相林における空間的住み分けの生態 学的研究,兵庫教育大学修士論文。 佐竹義輔・原寛・亘理俊次・吉成忠夫, 1989a,日本の 野生植物木本I,平凡社,東京。 佐竹義輔・原寛・亘理俊次・富成忠夫, 1989b,日本の 野生植物木本Ⅱ,平凡社,東京。. Yamaguchi, 0. , 1998, Analysis of forest ecosystems : Vertical structure of woody plants and mushrooms in substitutional forests. Hyogo Univ. Ed. Jour. 18, Ser. 3:1-4. Whittaker, R. H., 1970, Communities and ecosys tems, 2nd. Ed. Macmillan, New York..

(12) 108. Stratification in forest ecosystems and environmental education. Key words : Forest stratification, Crown pattern, Leaf area distribution, Fruit color distribution, Environmental education. Osamu Yamaguchi, Mayumi Hatakeyama, and Takashi Komeda Vertical structures in forest ecosystems were analyzed in a view of environmental education. Forests carrying climax vegetation were chosen in this study I 30 0f evergreen broad-leaved forests, 18 0f summer green forests, 8 0f coniferous forests, and 6 0f substitutional vegetation forests dominating with deciduous oaks. Production layer, consumption layer, and decomposition layer are arranged toward the sunlight m this order. Energy flow and material circulation runs in this direction, and finally determines the arrangement of biotic communities in the same mode. Light intensity changes drastically from the canopy layer to the herb layer ; 100, 4.4, 0.7, and 0.4 percentages in Bi, B2, S, and K, respectively in an evergreen forest. Area and thickness of leave corresponds to this intensity. Small and thick leaves are observed in Bi layers, whereas large and thin leaves are seen in K layers. Flowering season, flower color, fruiting season, and fruit color has also the parallel regularities. Yellow flowers bloom in spring, and brownish hard nuts fruit in autumn in Bi layers. White flowers bloom in summer, and reddish juicy fruits fruit in winter in S layers. Arthropods and nematodes are easily collected among dead leaves. These animals and leaves are also decomposed by fungi and bacteria living the forest soil. The decomposers are easily recognized by their fruit bodies or mushrooms. Stmkhorns have bundles of myceria, and supply the best teaching material to this subject..

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