溶鋼脱硫における溶鋼/スラグ/耐火物間の反応モデル
北村信也
*1Kinetic Model of Desulfurization Considering the Reactions
between Steel, Slag and Refractory
By Shin-ya Kitamura
The process simulation model for ladle refining process was made. In this model, the reactions between slag/metal, inclusion/metal and refractory/slag were considered. For the reactions between slag/metal and in-clusion/metal, the coupled reaction model was applied and the reaction kinetics of Fe,Mn,Si,Ca,Si,Mg,Al,O and S were taken into account. The activities of oxides were calculated by regular solution model and to calculate desulfurization, the relation between sulfide capacity with optical basicity was used. For the reaction between refractory and slag, empirical equation of MgO dissolution rate into slag was used. This model was applied to the operation of 165 ton scale industrial furnace. The desulfurization behavior, changes in concentrations of various elements in metal and slag phases were well simulated by the model calculation. In spite of that, the change in inclusion composition during the treatment cannot be simulated.
(Received on December 10th, 2010)
Keywords: ladle refining, kinetic simulation, desulfurization, inclusion composition
1
緒言
LFに代表される取鍋精錬は溶鋼の組成や清浄度を最終的に決定する重要なプロセスであるが,近 年,介在物組成の正確な制御や10ppm以下までの硫黄濃度の低減など,その要求レベルは非常に難し くなっている.取鍋精錬での反応は平衡を仮定して解析されることが多く,FactSage等の計算熱力学 ソフトを用いた解析例は非常に多い.しかし,スラグ,介在物,耐火物は,いずれも酸化物でありなが ら組成は異なっており,介在物組成であってすら均一ではない.このような系で平衡を仮定するのは 無理があり,正確には反応速度を考慮したプロセス解析が必要である.一方、製鋼精錬プロセスでは, 物質移動律速を仮定した反応モデルによる解析が行われることが多い.特に,溶銑脱リンのように, 系の非平衡度が大きく,かつ,多くの成分が同時進行する場合には,競合反応モデル[1]が広く用いら ている.これを取鍋精錬プロセスのシミュレーションに応用した例も報告されており,硫黄のスラグ /メタル間の分配比がスラグの酸化鉄濃度に大きく依存していることを速度論的に論じている[2].し かし,このモデルはスラグとメタル間の反応に限定されている.そこで,本論文では,溶鋼/スラグ だけでなく,介在物や耐火物との反応までをも考慮したシミュレーションモデルを検討した.Fig.1 Schematic figure of the reaction model for desulfurization by ladle furnace.
2
モデルの概要
モデルの概要をFig.1に示す.本モデルでは,スラ グ/溶鋼,スラグ系介在物/溶鋼,スラグ/耐火物間 の反応速度を考慮し,また,脱酸剤添加による脱酸反 応,脱酸生成物とスラグ系介在物の合体,浮上分離も 組み込んだ.考慮した元素は,Fe,Mn,Si,Ca,Si, Mg,Al,O,Sであり,温度は1823Kで一定とした. *1東北大学多元物質科学研究所2.1
スラグ/メタル間反応
スラグ/メタル間は競合反応モデルで解いた.このモデルでは,界面平衡を仮定して二重境膜説で 反応を記述している.例えばM元素の酸化反応を(1)式で表した場合,その反応速度は(2)式とな り,また界面平衡は(3)式となる. [M] + n[O] = (MOn) (1) JM= (km· ρm/(100MM)){[%M]b− [%M]∗} = (ks· ρs/(100MMOn)){(%MOn) ∗ L− (%MOn) b L} (2) EM= (%MOn)∗L/{[%M]∗· ao∗n} = 100 · C · NMOn· fM· KM/(ρs· γMOn) (3) ここで,JMはM元素のモル流束(mol/(m2· s)),km, ksはメタル側,スラグ側の物質移動係数 (m/s),ρm, ρsはメタル,スラグの密度(kg/m3), MM, MMOnはMの原子量,MOnの分子量,aoは 酸素活量,Cは液相スラグ中の全モル数,fMはMの活量係数,KMは反応(1)式の平衡定数,γMOn はMOnの活量係数であり,上添えのbはバルク濃度,∗は界面濃度を示す.また,下添えのLはス ラグ液相を示すが,ここではスラグ側の濃度はスラグ全体平均濃度ではなく液相中濃度を用いる.[S] に関する反応は(4)式で表されるが,モル流束や界面平衡は同様に記述される. (CaO) + [S] = (CaS) + [0] (4) (2),(3)式を各元素で記述し,(5)式の電気的中性条件を入れることで全体のマスバランスを合わせ ることができる.(2),(3)式から各元素のモル流束を,界面酸素活量を唯一の変数として書き,それ を(5)式に代入すれば界面酸素活量が求められる.界面酸素活量が求められれば各元素のモル流束が 計算できるため,スラグ,メタルの全成分の変化が計算できることになる. ∑ JM= 0 (5) スラグ/メタル間反応を計算する場合には,スラグ中各成分の活量は正則溶液モデル[3]で計算し, メタル側,スラグ側の物質移動係数は,溶銑脱リンプロセスの解析で導出された,撹拌エネルギー密 度との関係式[4]を用いた.反応界面積は炉の幾何学的断面積を用いた.また,(4)式の平衡関係は光 学的塩基度とサルファイドキャパシティーの関係式で計算した[5].2.2
スラグ系介在物/溶鋼間の反応
基本的には上記の方法で計算したが,メタル側,スラグ側の物質移動係数は,溶銑脱リンプロセス の解析時にインジェクションされたフラックス粒子の反応を解析する場合の取り扱い[6]を適用した. 反応界面積は介在物直径を10µmの球と仮定して計算した.2.3
スラグ/耐火物間の反応
耐火物のスラグへの溶解速度は,(6)∼(7)式で表される焼結MgOの溶融スラグへの溶解速度を表 す実験式[7]で計算した. −drmdt =kMgO 100 ρs ρr{(%MgO) ∗− (%MgO)} (6) St× Sc0.644= 0.0791× Re−0.30 (7) ここで,rmは耐火物厚み(m),kMgOはスラグ中MgOの物質移動係数(m/s), ρs, ρrはスラグ,耐はスタントン数(= km/u),Reはレイノルズ数(= d× u/ν),Scはシュミット数(= ν/D)で,dは代 表長さ(m),Dは相互拡散係数(m2/s) ,uは代表速度(m/s),νは動粘性係数(m2/s) である.代表 長さはスラグと耐火物の接触面積(静止時)の1/2乗とし,相対速度はガス撹拌時の溶鋼上昇速度を 既存の実験式で求め[8],それと等しいと仮定した.
2.4
介在物の生成・合体・浮上
介在物はスラグ系介在物と脱酸生成物を想定した.スラグ系介在物はスラグの一部が巻き込まれて 生成するとし,脱酸生成物は脱酸剤添加時に平衡関係で生成されるとした.脱酸時には物質収支を計 算しながら微量ずつ酸素を低下させ,その度に∆G(= ∆G0+ RT ln K) を計算して,熱力学的に最も 安定な脱酸反応のみが進むとし,すべての反応の∆Gが正になる時点まで繰り返し計算をした.考慮した脱酸生成物は,MnO-SiO2, CaO-Al2O3, MgO-Al2O3, Al2O3で複合酸化物中の各成分活量は一定 とした.生成した脱酸生成物は,一体の割合でスラグ系介在物と合体し,一定の割合で浮上分離され るとし,スラグ系介在物も一定の割合で浮上分離されるとした.
2.5
固相の晶出
スラグやスラグ系介在物は反応により固相が晶出する場合があるため,状態図の情報をプログラムに 組み入れる必要がある.ここでは,すでにAl2O3濃度毎に描かれているCaO-SiO2-MgO系状態図の
Fig.2 Imaginary laboratory scale experiment which used to calculate the model.
Fig.3 Confirmation of mass balance for each element during the model calculation.
1823Kでの液相線組成を数式化して組み込んだ. 尚,将来的にはFactSageとのカップリングを考え る必要がある.
3
計算結果
3.1
マスバランス
プログラムに瑕疵が無いことを確認するための 計算は,Fig.2のように100kg溶鋼に1kgのスラ グが存在し,1NL/minでArガスが底吹きされた 仮想的実験炉で行った.また,スラグ,メタルとも 反応槽とバルク槽の2槽に分け,一定速度で還流す るとした.脱酸剤を添加する場合,Fe-MnやFe-Si は鉄基合金で密度がスラグより大きいため溶鋼バ ルク槽に添加されるが,アルミ二ウムは軽いため 溶鋼反応槽に添加されるとした.微量の成分を対 象にするため各元素のマスバランスに瑕疵が無い ことは重要である.そこで,まず反応を考慮しない 計算を行った.計算に際しての各パラメータの詳 細は省略するが,120s時点でFe-Mn,Fe-SiとAl を添加して脱酸した.その結果,全元素とも完全に マスバランスが合っている事を確認した.次いで, 反応を考慮した計算を行ったが,一例をFig.3に示 すように,この場合でもマスバランスには瑕疵は なかった.3.2
仮想計算
計算条件を以下に記す.
• 溶鋼初期組成;Si=0.2%, Mn=0.5%, Ca=Mg=Al=0.0001%, free O=0.01%でTotal Oで
0.001%相当のスラグ系介在物が存在
• スラグ初期組成;CaO=40%, Al2O3=40%, SiO2=10%, FeO=1%, MnO=1%、MgO=10%
• 120s∼130sの間でAl=100g,Fe-Si=100g,Fe-Mn=100gを添加
Fig.4 Change in each composition in molten steel after the addition of deoxidizing materials.
Fig.5 Change in each component in slag phase after the addition of deoxidizing materials.
Fig.4はメタル組成変化を示すが,合金 添加後に,Al,Si,Mnが増加し,時間経過 とともにCa,Mgが増加してきている. Fig.5はスラグの組成変化であるが,低級 酸化物であるSiO2が低下し,相対的に他 成分濃度が大きくなっている.しかし,ス ラグから供給されるCaやMgの量はか なり多く,スラグ中の各成分活量の正確 な見積もりが必要である.
3.3
溶鋼脱硫への適用
溶鋼脱硫で詳細な操業条件や実験結果 が開示されているものは極めて少ないが, 最近,Ironsらが報告している165トンLFでの操業結果[2]への適用を試みる.この操業では,操業 開始時に生石灰とAlを,18分後に生石灰,Al,炭素とFe-Mnを,36分後にFe-Ti(本計算では考慮 せず)を添加し,添加後約6分間は50Nm3/h,その他の時間は10Nm3/hの流量でArガスを底吹き している.サンプリングは45分の処理中で5回行っており,メタル組成,スラグ組成と溶解酸素,温 度を測定している.計算では,メタル側物質移動係数をIronsらが示した撹拌エネルギー密度との関 係[2]で与えたが,他のファクターは仮想計算と同じロジックで規定した.Fig.6 Comparison of the calculated desulfuriza-tion behavior with the experimental result.
Fig.7 Comparison of the calculated change in metal composition with the experimental re-sult.
Fig.8 Comparison of the calculated change in slag composition with the experimental result.
Fig.9 Change in the composition of slag originated in-clusion. 結果を脱硫挙動についてFig.6,他のメ タル成分変化についてFig.7,スラグ成分 についてFig.8に示すが,非常に良い対 応が得られた.Fig.9はスラグ系介在物の 組成変化を示すが,Al添加直後はAl2O3 が増え,次第にSiO2濃度が減って行くも のの,CaOやMgOの濃度は大きくは変 化していない.また,脱酸生成物として もAl2O3以外は生成されなかった.実験 ではAl2O3系からMgO-Al2O3系へと変 化するとされており,この点は一致しな かった.FactSageなどによるスラグ中の 各成分活量の正確な見積もりが必要であ ると思われる.
4
結論
LFに代表される取鍋精錬プロセスのシミュレーションに競合反応モデルを応用し,溶鋼/スラグだ けでなく,介在物や耐火物との反応までをも考慮したシミュレーションモデルを検討した.その結果, 165トンLFでの溶鋼脱硫操業に対して,脱硫挙動だけでなく,メタル,スラグ各成分の組成変化を良 くシミュレートできた.しかし,介在物の組成変化は報告されている挙動と異なり,さらなる改善が 必要であった.文 献
[1] S. Ohguchi, D.G.C. Robertson, B. Deo, P. Grieveson and J.H.E. Jeffes: Ironmaking and Steelmaking, 11 (1984), 202
[2] K.J.Graham and G.A.Irons:Proc. of SCANMETIII, MEFOS, Lulea, vol.1 (2008), 385. [3] S.Ban-ya: ISIJ International, 33 (1993), 2.
[4] S.Kitamura, T.Kitamura, K.Shibata, Y.Mizukami, S.Mukawa and J.Nakagawa: ISIJ Inter-national, 31 (1991), 1322.
[5] D.J.Sosinsky and I.D.Sommerville: Meta. Trans., 17B (1980), 331.
[6] T.Kitamura, K.Shibata, I.Sawada and S.Kitamura: Proceedings of the 6th International Iron and Steel Congress, (1990), Nagoya, ISIJ, vol.3, 50.
[7] 馬越幹男、森克巳、川合保治: 鉄と鋼, 67 (1981), 1726. [8] 沢田郁夫、大橋徹郎: 鉄と鋼, 73 (1987), 669.