膵β細胞におけるグルコース応答性転写因子ChREBP
の転写制御因子の探索および機能解析
著者
野呂 英理香
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第19168号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00129309
(書式18) 1
学
位
論
文
要
約
(
A b s t r a c t )
博士論文題目Title of dissertation膵
β 細胞におけるグルコース応答性転写因子 ChREBP の転写制御因子の探索および機能解析
東北大学大学院医学系研究科保健学専攻 臨床検査医科学講座分子内分泌学分野 学籍番号(*論文博士は受付番号)Student Number B7MD4003 氏名 Name 野呂 英理香2 型糖尿病はインスリン抵抗性とインスリン分泌不全による慢性高血糖を特徴とする代謝疾患である。イ ンスリン抵抗性はインスリン分泌増加によって代償されるが、次第に膵β 細胞の機能不全を来してインスリ ン分泌不全を生じ、高血糖を引き起こす。膵β 細胞量はインスリン分泌量を規定する重要な要素であり、そ の機能的質量を変化させることによりインスリン需要に適応する能力を持っている。様々な刺激が膵β 細胞 の増殖を促進するが、その中でもグルコース代謝はインスリン分泌を誘発するだけでなく、膵β 細胞増殖シ グナルとしても機能することが知られている。その一方、高濃度のグルコースへの長期間の曝露は膵β 細胞 の増殖能を抑制し、細胞量減少によるインスリン分泌の代償不全は糖尿病を引き起こす。この原因の一つと して、高血糖誘導性の慢性炎症によるβ 細胞量調節機構破綻のメカニズムの存在が示唆されており、その詳 細なメカニズムの解明は糖尿病の新たな治療戦略の分子基盤となり得ることが期待される。
グルコース応答性転写因子 Carbohydrate response element-binding protein(ChREBP)は、膵 β 細胞の機能や 増殖における重要な制御因子であることが報告されており、糖尿病の病態との関連が注目されている。 ChREBP の転写活性化に重要な機序として核内移行が知られており、グルコース代謝産物により活性化した
ChREBP は核内で Max-like protein X(Mlx)とヘテロダイマーを形成して炭水化物応答配列(ChoRE)に結 合し、標的遺伝子の発現を調節する。しかしながら、核内において ChREBP の転写を制御する因子はほとん ど知られておらず、転写調節の詳細な分子メカニズムについては不明な点が多くある。そこで、膵β 細胞に おける ChREBP の転写制御因子を同定し、β 細胞機能における ChREBP を介した転写制御の分子メカニズム を解明することを目的として本研究を行った。
まず、内因性タンパク質複合体精製・同定の手法である RIME(Rapid immunoprecipitation mass spectrometry of endogenous proteins)法により、膵 β 細胞由来の INS-1 832/13 細胞から ChREBP 結合因子群を網羅的に精 製・同定した。同定された因子には、既知の転写共役因子に加えて、炎症シグナル関連因子群が複数含まれ ており、その転写制御への関与が予想された。免疫沈降法により ChREBP との相互作用を検討したところ、 NF-κB サブユニットの p65(RelA)が、IL-1β シグナル依存的に ChREBP と相互作用することが明らかとな
(書式18)
2
った。IL-1β 刺激により活性化された p65 は、ChREBP 標的遺伝子プロモーター上に Histone deacetylase 3 (HDAC3)をリクルートして ChREBP と三者複合体を形成し、グルコース依存的な遺伝子発現を有意に抑 制した。さらに、p65 による ChREBP の転写反応の抑制はグルコース誘導性の膵 β 細胞増殖を阻害すること が明らかになった。これらの結果から、グルコース代謝と炎症シグナルのクロストークメカニズムが ChREBP と p65 の相互作用を介して膵 β 細胞増殖を制御している可能性が示唆された。