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ビジネスゲーム手法の金融教育への応用

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(1)

央・高

概 要 近年,コンピュータを利用したビジネスゲーム手法がコンピュータサイエンスおよび企業における経営実務 教育の分野において関心を集めつつある.本稿においては,ビジネスゲームの金融教育への応用に焦点を当 て,関連研究について紹介する.また,ビジネスゲーム手法を金融教育へ応用した分析において,興味深い結 果が得られたので,ビジネスゲーム手法そのものの紹介とともに分析結果の概略について報告する.

は じ め に

近年,日本の資産運用市場は大きく拡大しており資産運用ビジネスも急速に発展してきている.家

計の金融資産残高は約1,

0兆円といわれ,現状その大部分を現預金が占めている.しかし,団塊世

代の退職を契機とした投資信託をはじめとするリスク性金融商品への資金流入の増加もあり,資産運

用ビジネスの更なる成長が期待されている.また,銀行や保険会社などの金融機関においても,伸び

悩む企業貸出を補完するために,収益性の高い有価証券への投資が増加する傾向にあり資産運用ビジ

ネス成長を促す要因となっている.

資産運用市場拡大を背景に資産運用ビジネスは大きな成長を見込まれているが,その中でも機関投

資家の運用部門などにおいては人材育成が重要な課題となっている.従来より人材育成の重要性につ

いては,広く認識されており,一般に

OJT(On the Job Training)や講義形式による研修などの方法に

より人材育成が行われているが,その重要性からより効果的な金融教育手法が望まれている.

一方,企業経営実務においてはビジネスゲームと呼ばれる手法が企業経営を担う幹部層の経営教育

に利用され,効果を上げてきている.ビジネスゲームは,1

0年代から提唱されてきた主に企業経営

手法を学ばせるための教育技法であり,初期においては,ボードゲームの形態や,紙とペンの手計算

による形式のものが主流であった.コンピュータの機能が進展するに伴いコンピュータを利用したビ

ジネスゲームが実施されるようになってきた.最近においては,Web 技術の発達によりイントラ

ネットやインターネットを利用したビジネスゲームも行われ,より現実に近い状況を体験できるよう

になってきており,教育上の効果も高まっている.ビジネスゲームは,人が意思決定することを通じ

企業経営全般に関して学習していくものであるが,目的に応じ様々なビジネスゲームが考案されてい

る.

ビジネスゲーム手法は,経営実務教育の分野において有効な手法であるものの,一般に広くみられ

る理論的な研究,実証的な研究などと比べると,必ずしも十分な研究があるとは言い難い.とりわけ

ファイナンスに関する研究は限定的であり,その意味で,ビジネスゲーム手法を用いたファイナンス

ビジネスゲーム手法の金融教育への応用

岡山大学経済学会雑誌40(2),2008,61∼72

−6

1−

(2)

に関する研究は,今後進展が見込める分野の一つとして考えられる.

本稿では,ビジネスゲーム手法のファイナンス分野への応用についてのサーベイおよび研究事例の

紹介を行う.次章において,関連研究として,経済・経営分野におけるビジネスゲーム手法の応用例

について説明した後,ファイナンス分野の研究の流れおよびビジネスゲーム手法と関連の深い研究に

ついて紹介を行う.3章において,我々の行った研究の一部について紹介を行う.

関 連 研 究

本章では,まず企業の経営実務教育におけるビジネスゲームの応用について説明した後,ファイナ

ンス分野の研究の潮流とビジネスゲームに関連した研究について紹介する.

2.

1 ビジネスゲームの先行研究

現在,企業経営の実務教育の分野やビジネススクールなどで実践されているビジネスゲームが行わ

れるようになったのは,1

5年からである

[3

4]

.その年,アメリカ合衆国のランド研究所で空軍の

ロジスティックス・システムを対象としたビジネスゲームが行われた.そのビジネスゲー ム は

“Monopologs”と呼ばれ,現在のビジネスゲームで実践されているものと同様の在庫管理問題を空

軍を対象として行うものであった[5

0]

6年には,初期のビジネスゲームとして広く知られる“Top

Management Decision Simulation”がアメリカ経営管理学会で実施され[6

7]

,その後,1

7年にコン

サルティング会社で あ る マ ッ キ ン ゼ ー の た め に 開 発 さ れ た

Greene と Andlinger による“Business

Management Game”と,ビジネスゲームとして最初に大学において利用された Schreiber による“Top

Management Decision Game”などが実施された[1

4]

[1

3]

.それ以降ビジネスゲームの応用事例は

増加の一途を辿り,1

9年の“The Business Games Handbook”にはすでに1

0近くものビジネスゲー

ムが掲載されている[4

5]

.日本においても,1

7年から1

8年頃に

Andlinger によるビジネスゲー

ムが導入され,それ以来広く行われている[6]

[3]

.このように古くから数多くの実施例があるこ

とをみても,ビジネスゲームの効果の高さが窺える.

ビジネスゲームは,大きくはゲーミングシミュレーションという概念に含まれる

.利用目的によ

り様々なゲーミングシミュレーションが開発・運用されているが,例えば,仮想性の強弱とゲームの

ルールの制約の度合いによって,学習ゲーム・教育ゲーム・政策ゲーム・訓練ゲームと分類される場

合がある[1]

.この分類に従えば,多くのビジネスゲームは,仮想性が強くゲームのルールの制約

が厳しい教育ゲームに分類される[2]

.金融教育にビジネスゲームを利用しようとする試みも,

1 ビジネスゲームの原型は紀元前3,000年頃の中国におけるボードゲームや戦争ゲームにまで遡ることができる[105]. 2 ゲーミングシミュレーションとは簡単には「ゲーム的側面をもったシミュレーション活動」を示す[2].ここでの 「ゲーム」とは「手続き的なアルゴリズムによるシミュレーションではなく,役割と環境を与えられた自律したエー ジェントの相互行為から成り立つシミュレーション」の意味であり[2],「シミュレーション」とは「現実あるいは提 案されたシステム,プロセス,環境がもつ中心的な特徴あるいは要素についての操作的モデル」の意味である[46]. さらにGreenblat[46]は,ゲーミングシミュレーションは「シミュレートされた文脈のなかにゲーム活動を取り込ん だハイブリッドな形式」であるとの主張を行っている. 208 山 下 泰 央・高 橋 大 志

−6

2−

(3)

ゲーミングシミュレーションの中では教育ゲームとして位置付けられる.教育ゲームにおける目的と

しては,例えば,理論や知識を理解・習得させることを目的とするものや,現実に近い状況を発生さ

せ学習の動機付けや心理的気づきを生じさせることを目的とするものなど,いくつかのタイプをあげ

ることができる.

ゲーミングシミュレーションの評価については,大きく,比較的表面的な技術的基準とより本質的

な妥当性基準がある.技術的基準は実用上の基準であり,

「迫真性」

(verisimilitude)

「プレイ可能

性」

(playability)

「操作性」

(operability)

「教育上の健全性」

(pedagogically sound)などで評価され

る[4

6]

.より本質的な「妥当性」

(validity)については,十分な議論がなされているとは言い難い

が[2]

,例えば,兼田らは,訓練ゲームの妥当性評価として,

!ゲーミングが現実の場に近いほ

ど,熟達者と初心者では挙動に差が現れ,

"ゲーミングから学習することで初心者のプレイ内容や挙

動が熟達者のそれに近づく,という基準をあげている.ビジネスゲームにおける評価は,ゲームの利

用目的に即してその都度個別に検討すべき難しい問題ではあるが,訓練ゲームにおけるこうした妥当

性評価をビジネスゲームに援用するというのも一つの選択肢である.

ゲーミングシミュレーションの一分野であるビジネスゲームにおいては,マネジメント教育への応

用が多くみられる[1

6]

[1

2]

[9

9]

[9

7]

.これはビジネスゲーム活用によるマネジメント教育への

効果が高いことの証拠といえよう.一方,ファイナンス教育への応用についてみると,Association to

Advance Collegiate Schools of Business(AACSB)のメンバースクールのうち3

9%しかファイナンス教

育にビジネスゲームを利用していなかった.ファイナンス教育でのビジネスゲームの利用は,マネジ

メ ン ト(4

5%)

,マ ー ケ テ ィ ン グ(6

3%)

,経 営 方 針(6

6%)に 比 べ 低 い 数 字 に と ど ま っ て い る

[3

4]

.金融教育においてビジネスゲームの利用が限定的である理由の一つとして,他の分野と比較

して効果的なビジネスゲームの開発がなされていないことなどがあげられる

.今後,効果的なビジ

ネスゲームの開発に伴い,金融教育においてビジネスゲームが盛んに活用されることが期待される.

ここまで,ビジネスゲームに関する研究について説明したが,次節において,ファイナンス分野の

議論を紹介しよう.

2.

2 ファイナンス分野における議論

伝統的なファイナンス理論においては,理想的な市場や合理的な投資家を前提とし,これまで数多

くの議論が行われてきた[8

5]

.ところが,近年,伝統的ファイナンスの置く前提条件に対し疑問を

投げかける報告が数多く行われるようになってきており[2

9]

[8

9]

,そのような議論の一つに行動

ファイナンスと呼ばれる分野があげられる[4

7]

[4

8]

次節において,行動ファイナンスの議論について紹介を行った後,ファイナンスにおける実験的手

法について概観する.更に,ビジネスゲームによる金融教育の必要性についても議論を行う.

3 ファイナンス理論の急速な進展や,伝統的理論が合理的な投資家を前提とした理論であることも理由としてあげられ る. 209 ビジネスゲーム手法の金融教育への応用

−6

3−

(4)

2.

2.

1 行動ファイナンス

効率的市場は,伝統的ファイナンスにおける中心的な仮説でありこれまで数多くの議論が行われて

きた.それに対し,近年,市場の効率性に疑問を投げかける報告が行われるようになってきており,

行動ファイナンスにおいては,

!裁定取引

の限界,

"システマティックなバイアスの存在などか

ら,市場の効率性は必ずしも達成されていないとの議論が行われている

裁定取引に限界が生じる理由についてはいくつかの要因があげられるが,例えば,

!ノイズ・ト

レーダー・リスク[2

9]

[8

9]や

"執行コストの存在[68][87][93]があげられる.現実の市場に

おいて裁定取引の限界が生じていることを示す証拠については,株式のミスプライシングが長期間残

り続けていたことを示す報告

や[3

9]

,株式インデックスに追加採用された株式の株価の上昇が残り

続けることを示す報告[4

9]

[8

8]

[5

9]

[1

7]

,買収時の執行コストについて分析した報告[6

1]

[6

9]

[7

2]など数多くの報告が行われている.

意思決定における「システマティックなバイアスの存在」についても数多くの議論が行われている

[7

7]

[5

5]

[4

1]

[9

5]

.例えば,Barberis and Thaler[4

7]は,心理学における知見から以下のような

指摘を行っている

1.人は自分の判断に関して自信過剰である(Overconfidence)

[5

8]

[3

5]

2.人は楽観的に考える傾向がある(Optimism and wishful thinking)

[1

4]

[2

3]

3.人は代表的な特徴を基に判断する(Representativeness)

[5

6]

[4

0]

[4

2]

4.人は保守的な判断をする傾向がある(Conservatism)

[3

1]

5.人は一度判断したらその判断に固執する傾向がある(Belief perseverance)

[6

3]

6.人ははじめの判断をもとに考える傾向がある(Anchoring)

[5

6]

7.人は全ての記憶ではなくそのとき利用可能な記憶を基に判断する傾向がある(Availability

biases)

[5

6]

期待効用理論に反する結果を説明するために,これまで数多くの「非期待効用理論(non−expected

utility theory)

」が提唱されてきた.その中でも,最も広く知られた理論として「プロスペクト理論」

があげられる

[5

7]

[9

8]

.このような議論を背景とし,近年,ニューロエコノミクスという分野が

関心を集めている[4

3]

[8

4]

[2

4]

[2

5]

.従来,経済学の研究の多くが,人間の脳の働きはブラック

4 伝統的ファイナンスにおいては,ノイズ・トレーダーが発生させた裁定機会を「アービトラージャー」が即座に解消 するとされている[37]. 5 例えば,広く知られたものとして,モメンタム効果[30][17][51],長期リバーサル効果[28],株価倍率等の予測 効果[18][81][33]などの議論が行われている.また,企業の経営者に焦点を当てた報告も行われており,自社株買 いのタイミングに関する議論[92],自社株買いと株式リターンに関する議論[15],自社株買いと時価簿価比率に関す る議論[60][52][64][74][16],自社株買いのサーベイ[44],経営者の自信過剰に関する議論[32][66]などが 広く知られたものとしてあげられる. 6 とりわけ,ロイヤルダッチとシェルの株価に関する研究は広く知られた例である. 7 Camerer[26]は,信念に関するバイアスはインセンティブを高めることによって減少させることはできるが,完全 に消すことはできないとの議論を行っている. 8 小数サンプルが母集団の特性をあらわしているとする「小数の法則」などもこの一種である[76]. 9 プロスペクト理論においては,! 利得と損失では受け取り方が異なる,"微小な確率を大きく見積もる傾向がある などの指摘が行われている. 210 山 下 泰 央・高 橋 大 志

−6

4−

(5)

ボックスとして単に脳への情報のインプットとアウトプットの関係について分析しているのに対し,

ニューロエコノミクスでは

fMRI(機能的磁気共鳴画像法)や PET(陽電子断層撮影法)といった手

法を用いて,個々の人間が意思決定する際の脳の働きを分析することにより新たな経済学的知見の獲

得を試みている.このように,より現実的な意思決定を考慮した分析がファイナンス分野においても

急速に関心を集めつつある

10

ビジネスゲームを利用する分析では,現実の人間が参加することから,行動ファイナンスにおいて

指摘されている現象を再現できる可能性がある

11

.ビジネスゲームの参加者は,そのような現実に近

い環境の中で学習をすることが可能となり,その意味でビジネスゲームを通じより効果的な教育を行

えることが期待される.

2.

2.

2 ファイナンスにおける実験的手法

経済学の分野において実験的手法を利用する分野に実験経済学があげられる[3

8]

[5

3]

[7]

.実

験経済学の初期の研究においては,個人選択実験・ゲーム理論実験・産業組織論における実験の3分

野で重要な貢献

12

がなされてきた[5

3]

.更に,Vernon

Smith[1

0]

[1

1]は,経済学における実験

の方法論的基礎を価値誘発理論としてとりまとめ,統制された実験の遂行に大きな貢献を行ってい

る.このような優れた研究の貢献により,現在,実験経済学はゲーム理論を中心として,産業組織

論,公共経済学,ファイナンス,オークション,政治学など,経済学をはじめとする社会科学の様々

な分野に応用されている[8]

[1

0]

実験的手法を用いるなかで実験経済学を特徴付けているのは,利得に比例した金銭報酬を支払うこ

とによって被験者の選好を統制する点である[1

0]

[1

1]

.実験経済学において選好を統制するため

には2つの方法があげられる.

第一の方法は,何らかの心理テストによって被験者の選好を測定し好ましい被験者のみを採用する

方法である

13

.もう一方の方法は,Vernon Smith が定式化した価値誘発理論である.価値誘発理論に

おいては,被験者の選好にかかわらず,実験者が望む選好を被験者がもつように,何らかの手段で被

験者の選好を実験的に誘導・統制

14

する.価値誘発理論は,当初,確実性下の意思決定を対象とした

ものであったが,その後,不確実性下における危険に対する態度の統制手段に一般化されていった

15

[8

2]

[2

0]

10 日本においても実験手法を利用した行動ファイナンス研究が行われている[4][5].これらの多くは,理論の検証 が中心であり,経営実務教育に焦点をあてるビジネスゲームとは異なる観点からのアプローチとなっている. 11 その意味で,副次的な効果ではあるが,ビジネスゲームを通じ行動ファイナンスで指摘されているような現象解明に 貢献することも期待される. 12 個人的選択実験の分野においては無差別曲線に関するものや期待効用理論に関するものがある[96][83][70]. ゲーム理論実験における実験では,囚人のジレンマ・ゲームに関する実験,協力ゲームに関する実験,ゼロ和ゲームに 関する実験がある[36][78][94].産業組織論の分野に関する実験は,市場実験や,双方独占や複占に関するものが ある[27][90]. 13 この方法では実験に必要な人数確保が困難であるという問題および被験者の選好が課題によって変化する可能性があ るとの問題がある[75]. 14 価値誘発理論においてはその十分条件として,非飽和性・感応性・優越性・情報の秘匿・類似性が要請されている. 211 ビジネスゲーム手法の金融教育への応用

−6

5−

(6)

実験経済学においては,被験者の選好を統制する手法以外にも独自の実験統制手法が存在する.例

えば,効用関数の形状に依存しないノンパラメトリックなゲーム理論実験法[7

3]

[2

2]

[7

9]

[7

1]

報酬の優越性を実現するために物価水準や貨幣価値の低い国で実験を行うという方法[9

1]や人間以

外の被験体(ラットやハト)を利用する方法[5

4]がある.

実験経済学は経済学の発展に多くの貢献をしてきたが,同時にその問題についても指摘が行われて

いる.例えば,Lowenstein[6

5]は,実験経済学は,抽象的・中立的・匿名の状況を設定することで

実験統制を徹底しているようにみえるが,実は人が状況をどのように判断しているかわからなくして

しまっているとの指摘を行っている.また,不確かで首尾一貫していない人間行動の多様性を認め,

それを解明するために,思考プロセスや認知プロセスを調べる様々な認知科学的手法を応用すべきで

あるとの指摘も行われている[6

2]

一方,ビジネスゲーム手法においては,現実世界の再現性ある多様性を重視しており,そのような

多様性をビジネスゲームに取り込むことで設計者ですら想定していなかった創発的現象が現れるとい

う指摘がある[2]

.その意味で,ビジネスゲーム手法は,人間が参加する実験的手法を採用しては

いるものの,実験経済学とは異なる観点で分析を行うものであり,創発的現象などを端緒に経済学に

おける新たな知見が得られる可能性がある

16

.特に,多様な市場参加者(投資家,企業など)が,相

互作用を及ぼし合っている金融市場を対象としているファイナンス分野の研究,教育において,ビジ

ネスゲーム手法を採用する意義は大きいと考えられる.

次章において,実際に我々が行ったビジネスゲーム手法を利用した金融教育への応用事例について

簡単な紹介を行う.

ビジネスゲーム手法の金融教育への応用事例

本章では,ビジネスゲーム手法を金融教育に応用した実験を紹介する[1

3]

.はじめに,実験のた

めに構築したシステムの概略について説明を行った後,主要な分析結果について紹介する.

3.

1 システムの概略

本事例では,コンピュータを利用したビジネスゲームを実施している.図1は,実験の開発・実行

環境を示したものである.参加者は,WWW ブラウザを通じ各ステージにおける意思決定の入力を

行い,ファシリテータも

WWW ブラウザを通じてゲームの進行ができるようになっている

17

15 例えば,不確実な対象に対する被験者の確実性等価を引き出す誘引両立的メカニズムであるBDM(Becker−DeGroot− Marshak)メカニズム[19]や,被験者の主観確率を引き出す誘引両立的メカニズムであるプロパー・スコアリング・ ルール[86]がある. 16 実験経済学における被験者実験の結果を受けて,それをコンピュータ・シミュレーションで再現するマルチエージェ ント・シミュレーションという手法もある.そうした手法によって経済システムや実験結果の理解が深まることがあ り,マルチエージェント・シミュレーションをファイナンス分野の分析に応用した研究もみられる[12].また,U−mart プロジェクトにおいては,株式の先物市場に焦点をあてた研究が意欲的に行われている[9]. 212 山 下 泰 央・高 橋 大 志

−6

6−

(7)

3.

2 分析事例

本事例では,投資の意思決定において最も重要なプロセスの一つである,アセットアロケーション

(資産配分)

18

を対象としてビジネスゲームを実施した.参加者は,運用会社におけるファンドマネー

ジャーになったとの想定で,経済,市場に関する情報を基に主要4資産(国内債券,国内株式,外国

債券,外国株式)の資産配分の意思決定を行い,9ラウンド継続したところで実験を終了する(図

2)

.参加者は,最終的にシャープレシオをできるだけ高めることがビジネスゲームの目的として与

えられており,各ラウンドの終わりに当指標を基にした自らの順位を知ることができる

19

.こうした

内容のビジネスゲームを3回実施した.

図3,図4は,実験1から実験3におけるラウンド毎のグループ2とグループ4のリスク推移を示

したものである

20

.これらの図から,最初の実験においては,極端に大きなリスクをとる意思決定を

している場合があるのに対し

21

,全体的に実験を経るに従い極端なリスクをとる投資行動が少なくな

る傾向にあることを確認できる

22

.これらの結果は,ビジネスゲームを通じて,参加者が,リスクコ

ントロールをしながら投資をする重要性を理解していることを示唆するものと考えられる.

また,図3,図4より,実験の終盤において,リスクが極端に上昇していることを確認できる.と

17 当開発ツールは,ビジネスモデル記述言語(Business Model Description Language : BMDL)とビジネスモデル開発シ ステム(Business Model Development System : BMDS)により構成されている[11].簡易型のプログラミング記述言語 であるBMDL のソースコードを記述することにより,BMDS にてゲーム管理者(ファシリテータ)用とゲーム利用者 (プレーヤー)用のHTML ファイル,CGI ファイル等を作成することができる. 18 アセットアロケーションは,その成否により運用パフォーマンスの9割程度が決まるといわれているほど資産運用に おいて重要な意思決定プロセスである[21]. 19 シャープレシオは,投資のパフォーマンス評価において金融実務においても広く用いられている指標である. 20 本事例においては,実験1,2はグループによる意思決定,実験3は個人による意思決定としている. 21 例えば,図3では実験1において,グループ2がラウンド6およびラウンド9で極端に高いリスクをとっている.こ れは,ラウンド6では国内株式60%,ラウンド9では外国株式100%という,リスクの高い資産の比率を高めた配分を 行ったため,このような極端に高いリスク量となっている. 22 例えば,図3では,参加者は,実験1においてラウンド6やラウンド9で極端に高いリスクをとっていたが,実験2 ではそのような極端に高いリスクをとっていない. 図1:実験の開発・実行環境の概念図 213 ビジネスゲーム手法の金融教育への応用

−6

7−

(8)

くに,このような現象は,全体のプレーヤーの中で順位が低い参加者においてみられる傾向にある

23

,このような現象は現実の市場においても見られる現象であり,そうした現象がビジネスゲーム

において再現したことは興味深い.

本事例において,参加者がビジネスゲームを通じリスク管理の重要性を学習していること,現実の

市場においてみられる現象がビジネスゲームにおいて再現していることなどを確認することができ

た.これらの結果は,ビジネスゲーム手法の金融教育への応用の有効性を示すものであり興味深い結

果である.本事例においては,簡略化した条件のもとでの分析事例であったが,より現実的な条件を

考慮した環境下での実験等は今後の課題である.

23 このような現象は,パフォーマンスの悪い投資家が,実験の終盤にいちかばちかの大勝負をかけるために生じている と考えられるものであり,その意味でモラルハザードともいえる行動である[80]. 図2:ビジネスゲームのモデル 図3:グループ2のリスク推移 図4:グループ4のリスク推移 214 山 下 泰 央・高 橋 大 志

−6

8−

(9)

本稿においては,ビジネスゲームそのものの紹介とともに,ビジネスゲーム手法の金融教育への応

用事例について紹介を行った.ビジネスゲーム手法は,より効果的な金融教育,研究に貢献できる可

能性があり,今後発展が望まれる分野と考えられる.ビジネスゲームを活用する研究,教育が行われ

ることで,ファイナンス分野の議論が活発になることが期待される.

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