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建設労務安全 2014.6月号

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Academic year: 2021

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法律実務シリーズ

vol.374

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問われる労働災害の刑事責任(その

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一連の偽装問題を見ても分かるよう に、企業が果たす社会的責任に対する社 会の眼は厳しい。企業の生命線はここに あるといっても過言ではないだろう。と りわけ建設業の場合は、労働災害の防止 が強く求められており、災害が起きた際 に重大な法違反が認められると、事業者 には刑事責任が問われることもある。 そこで当コーナーでは、労働災害が起 きた場合に事業者に問われる刑事責任に ついて安西愈弁護士に解説していただ く。      (編集部)

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衛法違反のすべてに通ずる原則となって いるのである。 この場合、この「労働者に危険を及ぼ すおそれ」というのは、現実的蓋然性を 有するものでなければならないのか、そ れとも法令条文を充足する事実そのもの が「労働者に危険を及ぼすおそれ」とし て規定されているため、現実的蓋然性を 要しないのかが問題となる。 この点についての例としては、「ベル トの切断による危険の防止」を定めた安 衛則第102条について考えてみると、同 条は「事業者は、通路又は作業箇所の上 にあるベルトで、プーリー間の距離が3 メートル以上、幅が15センチメートル以 上及び速度が毎秒10メートル以上である ものには、その下方に囲いを設けなけれ ばならない」と定めている。 この場合、「このベルトは真新しいも のでベルトの切断のおそれがないので労 働者に危険を及ぼすおそれがない」とい う場合には、たとえそのような通路や作 業個所の下に囲いを設けなくても同法令 違反の構成要件には該当しないとする考 え方がある。すなわち、「本件車軸等は、 通常の業務の過程においては、特段の注 意をしなくとも、接触等による事故の発 生する危険性はない」として無罪を言い 渡した福知山簡裁(昭45・9・28判決、 西田工業事件)の考え方である。 それは同規定の前提となっている「労 働者に危険を及ぼすおそれ」というのは 現実的蓋然性を有するものでなければな らず、そのようなおそれのないものにつ

問われる労働災害の刑事責任

20.安衛法違反の構成要件とし

ての「労働者に危険を及ぼす

おそれ」は、現実的蓋然性を

必要とするか

安衛法違反の刑事責任の成立とは、刑 事責任の原則に従って法令違反という犯 罪事実(「罪となるべき事実」)を構成す る要件に該当することである。それは、 同法令に定められている措置義務に違反 するということであり、定められた「(犯 罪)構成要件」に該当する行為を事業者 が犯したということである。例えば、「× ×の危険を及ぼすおそれのあるときは○ ○の措置を講じなければならない」と か、「××の危険を防止するため次に掲 げる措置を講じなければならない」とい ったような同法令に定められた違反を構 成する事実に該当することをいう。 この安衛法違反の構成要件のすべてに 通ずるのが「労働者に危険を及ぼすおそ れ」という履行条件であり、この履行条 件を充足した場合に「○○を講じなけれ ばならない」という具体的履行内容が要 件となり、その措置を講じないことが同 法違反となるのである。この「労働者に 危険を及ぼすおそれ」というのが条文上 に明白に定められている法令の規定の場 合は当然のこととして、法令の規定上そ のような定めがなされていない場合で も、安衛則の上部の規範としての安衛法 で「労働者に危険を及ぼすおそれのある 場合」とされているため、この原則が安

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いてまで罰則をもって履行措置を強制す るものではないという考えに基づく、危 険の現実の蓋然性を要するという説であ る(図1参照)。一方、安衛法上の「労 働者に危険を及ぼすおそれのあるもの」 とは現実的蓋然性を有することは要せ ず、当該規定そのもの、すなわち、高所 に設置されているプーリー間の距離が3 メートル以上、幅が15センチメートルで 速度が毎秒10メートル以上の状態のベル トが過誤または作業個所の上方にあると いうことそのものが「労働者に危険を及 ぼすおそれのあるもの」として、その下 に囲いを設けるように規定されているも のであるから、ベルトが新しいとか古い とか、常にベルトの損傷の有無を点検し ているから切断のおそれはないといった ベルト切断の現実的蓋然性の観点からの 危険性の具体的状況は一切問わず、この ような法令の定めに該当する個所がそも そも労働者に危険を及ぼすおそれがある との定型的理由から措置を講じなければ ならないとしたものであるとの危険性の 定型説の考え方がある。 これは前記簡裁の判決を破棄した大阪 高裁(昭46・12・13判決)の考え方であ る。安衛法違反の構成要件としてみた場 合は、後者の考え方が妥当であり、同法 はその考え方に立っていると解される。 これについて安衛法違反の刑事責任と しての構成要件としてみた場合には、こ のような労働者に危険を及ぼすおそれの ある定型的なものとして、「事業者は、 通路又は作業箇所にあるベルトで、プー リー間の距離が3メートル以上、幅が15 センチメートル以上及び速度が毎秒10メ ートル以上であるものには、その下方に 囲いを設けなければならない」という条 文を定めた以上、これが違反(刑事責任) の構成要件となるものであって、これに 該当しない、例えばプーリー間の距離が 3メートル未満であったり、ベルトの幅 が15センチメートル未満であったり、ベ ルトの速度が毎秒10メートル未満であっ た場合(どれか1つの要件でも欠如して いる場合)には、たとえ何らかの切断の おそれのある場合でも安衛法違反として 刑事責任は、同規定違反としては追及さ れない。 しかしながら、このような安衛法違反 としての構成要件を欠く場合において も、通路や作業個所の高所においてプー 通路、作業個所上 のベルト 危険の現実的蓋然性を 要するとの説 法令の規定そのものが 労働者に危険を及ぼす 定型規定とする説 ベルトが真新しいものであっても規定に該 当する通路、作業個所の上にあることが「労 働者に危険を及ぼす」との要件にあたる ベルトが真新しいので切断のおそれがない ので「労働者に危険を及ぼすおそれ」がない

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リー間にベルトが張られており、それが 回転しているわけであるから、万一切断 しないとも限らない。 そこで、万一の労働災害の防止を考え れば安衛法上の刑事責任としての義務は なくとも、このような危険の生ずること がゼロではない以上、ゼロ災害の防止目 的より、行政指導上の措置として囲いを 設ける必要があり(これがまさに安衛法 第3条第1項の「事業者は、単にこの法 律で定める労働災害の防止のための最低 基準を守るだけでなく、快適な職場環境 の実現と労働条件の改善を通じて職場に おける労働者の安全と健康を確保するよ うにしなければならない」との行政指導 上の責務である)、これに対応してこの ような作業個所等には囲いを設ける等の 災害防止措置を図らなければならない。 さらに、安衛法の構成要件に該当せず 同法違反を構成しない場合でも、このよ うなプーリー間のベルト切断の危険の現 実的な蓋然性があったり、万一の場合の 労働者の危険が予見されるため、労働者 の生命、身体の侵害防止という安全配慮 義務の見地(民事上の労働者の保護義務) から、災害防止措置としての囲いを設け なければならない(図2参照)。 このような措置義務についての法的区 分があることを企業の安全衛生担当者は 十分理解しなければならない。

21.安衛法令上の具体的措置義

務の定めは、それ自体が「労

働者に危険を及ぼすおそれ」

の定型的規定

安衛法令の刑事責任の立場からみた構

問われる労働災害の刑事責任

行政的指導…災害防止(法令の定めに準じた危険防止) 安全配慮義務…労働者保護…損害賠償(民事責任) A B プーリー間の距離3メートル以上幅15センチ以上、 速度毎秒10メートル以上 (それぞれの要件の欠如) プーリー間の距離3メートル未満幅15センチ未満、 速度毎秒10メートル未満 (法令上の要件の欠如) 囲いを設けないと 安衛法違反 (刑事責任) 囲いがなくても 安衛法違反には ならない 現実的危険の蓋 然性(危険の予 見)があれば囲 を設けること  図2 安衛法違反の刑事責任と民事責任

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務を定めた規定は、その規定に定める履 行条件自体が「労働者に危険を及ぼすお それ」を定型化したものであり、それに 加えて現実的危険発生の蓋然性は要しな いものと解される。たとえその規定に定 める履行条件を充足した場合でも、全く 労働者に危険を及ぼすおそれのない状況 であったという特殊な事情があるならば、 それは「構成要件該当性」の問題でなく 「違法性」の問題として、「違法の阻却事 由」として論ずべき事項と解される。 すなわち、「例えば、『事業者は、プレ ス機械及びシャーについては、スライド 及び刃物の作業中に危険限界に身体の一 部が入らないような措置を講じなければ ならない』(安衛則第131条第1項)など の規定は、労働災害発生の危険を防止す ることを目的とした規定とはいえ、その 規定自体としては、このプレス機械等に ついての規定は、その機械を取り扱う労 働者が熟練工であるか否か、注意深い者 であるかどうかなど、危険限界に労働者 の身体の一部が入る具体的な状況は一切 問わず、危険限界に労働者の身体の一部 が入り得る可能性があるという状況があ れば、それを防ぐ措置を講じなければな らないとしているのである。 このことは、「危険の存在そのものを 取り除いて、安全を確保しようとする労 安法の根本理念を如実に示すものであ り、このことから労安法における危険の 概念は、具体的な状況から結果発生の危 ば、結果が発生しうる状況があることを 危険があると考えているものであると解 されるのである。 結局、『労働者に危険を及ぼすおそれ がある』というのは、それぞれの規定が 具体的に定めている客観的な事実(例え ば、明り掘削の作業をする場合、その作 業を行う地山)について、その規定で定 めている労働災害の原因となるべき事実 (地山が崩壊すること)から、因果関係 (崩壊した土砂で労働者が埋まるなど) をたどって労働災害が発生する(労働者 の身体、生命が侵害される)可能性があ るということになるのである。 すなわち、この場合の措置の履行条件 とは、法律が労働者に危害を及ぼす可能 性があると定めた事実が存在することと いうことになるのである」(寺西輝泰著 『労働安全衛生法違反事件の研究』60頁) とされているのである。 この「労働者に危険を及ぼすおそれを 防止するため」という要件を、「危険が あるときには、その危険を防止するた め」という意味に解釈すると、措置の規 定に該当してもこの場合には「労働者に 危険を及ぼすおそれがなかったから措置 しなかったのだ」という措置を講ずるべ き義務の発生条件、すなわち履行条件に 「労働者の危険を及ぼすおそれ」という 状況の要件を含むことになる。そこで、 「危険があるから、その危険を防止する ため」の措置をすべきとの構成要件の定

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めとなり、「危険があった」「危険はなか った」ということが構成要件上の措置義 務の前提となるため、すべての規定でそ れを論ずる必要性が生ずることになって しまう。 例えば、「保護帽の着用」に関し、安 衛則第539条は「事業者は、船台の附近、 高層建築場等の場所で、その上方におい て他の労働者が作業を行なっているとこ ろにおいて作業を行なうときは、物体の 飛来又は落下による労働者の危険を防止 するため、当該作業に従事する労働者に 保護帽を着用させなければならない。 2 前項の作業に従事する労働者は、 同項の保護帽を着用しなければならな い」と定めている。 ところが、このような個所で労働者が 保護帽を着用しないで作業をしていると きや、その着用義務違反を摘発されたと き、この規定は「物体の飛来または落下 による危険を防止するための規定であ る。今は風もなく、作業の状況から見て この個所には物体の飛来、落下のおそれ がないから作業帽を着用しなかったの だ」という主張が通ることになり、それ を違反として立検するならば、「飛来、 落下のおそれがあった」事実を立証しな ければならなくなる。 しかし、本条に定める「物体の飛来又 は落下による労働者の危険を防止するた め」というのは、具体的な状況下におい て、当該個所において現実的に飛来、落 下のおそれがあったかなかったかの問題 ではなく、そのような法令の規定に該当 する個所には、労働者に危険を及ぼすお それがあるという構成要件の定型に該当 するので、いちいちその場に臨んで具体 的に危険のおそれがあったか否かの蓋然 性を問題にする趣旨ではないのである (図3)。 ここに安衛法違反の構成要件としての 「労働者に危険を及ぼすおそれ」という 規定の意義があるのである。

問われる労働災害の刑事責任

ネット 高層建築工事 現場責任者 (これは正当か) 飛来・落下のおそれ がないから着用しな くても違反でない 安全帽を 着用しな いと違反 だよ! 図3 安衛法違反の構成要件の意義は

参照

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