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2008年度日本海洋学会秋季大会シンポジウム

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(1)

2008 年度日本海洋学会秋季大会シンポジウム

ノリ色落ちと内湾域の栄養塩動態

講演要旨集

主 催: 日本海洋学会

コンビーナー: 藤原 建紀

1)

・樽谷 賢治

2)

・渡辺 康憲

2)

1) 京都大学大学院農学研究科

2)(独)水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所

日時:2008 年 9 月 28 日(日) 10:00~16:00

(2)

シンポジウム

「ノリ色落ちと内湾域の栄養塩動態」

主 催 : 日 本 海 洋 学 会

コ ン ビ ー ナ ー : 藤 原 建 紀 ( 京 都 院 農 )

樽 谷 賢 治 ( 水 研 セ 瀬 戸 内 水 研 )

渡 辺 康 憲 ( 水 研 セ 瀬 戸 内 水 研 )

日 時 : 9月 28 日(日) 10:00~16:00

広島国際大学 呉キャンパス

〒737-0112 広島県呉市広古新開 5-1-1

場 所 : 海 洋 学 会 秋 季 大 会 会 場

第 1 会 場 ( 1 号 館 3 F: 1301 教 室 )

入 場 無 料

趣旨

瀬 戸 内 海 を は じ め ,日 本 の 多 く の 内 湾 海 域 で は 養 殖 ノ リ の 色 落 ち

( 栄 養 塩 不 足 に よ る 生 育 不 良 ) が 起 き て い る . ノ リ 養 殖 は 沿 岸 漁 業

の 経 済 的 基 盤 と な っ て い る た め ,ノ リ の 不 作 は 漁 家 経 済 に 深 刻 な 打

撃 を 与 え て い る . ノ リ 色 落 ち の 直 接 の 原 因 は , 大 型 珪 藻 が 増 殖 し ,

栄 養 塩 を 使 い 尽 く し , 海 水 が 見 か け 上 貧 栄 養 化 ( 栄 養 塩 が 枯 渇 し た

状 態 ) す る こ と で あ り , こ れ は 各 海 域 に 共 通 し て い る . し か し な が

ら , 栄 養 塩 が 枯 渇 し て い く ま で の プ ロ セ ス は 海 域 に よ り , あ る い は

年 に よ り 異 な っ て い る .

瀬 戸 内 海 で は 年 ご と に ノ リ 色 落 ち が 深 刻 化 し , H19 年 度 は 特 に 著

し い 不 作 と な っ た の に 対 し ,有 明 海 で は H12 年 度 に 珪 藻 赤 潮 に よ り

大 規 模 な ノ リ 色 落 ち が 起 き た も の の ,そ の 後 は 良 好 な 作 柄 と な っ て

い る . 瀬 戸 内 海 や 三 河 湾 で は DIN( 溶 存 無 機 態 窒 素 ) 不 足 で あ る の

に 対 し , 東 京 湾 で は DIP( 溶 存 無 機 態 リ ン ) 不 足 と な っ て い る . ま

た 瀬 戸 内 海 や 三 河 湾 で は 秋 か ら 冬 に DIN・ DIP 濃 度 の ピ ー ク が あ る

の に 対 し , 伊 勢 湾 や 東 京 湾 に は な い .

本 シ ン ポ ジ ウ ム で は , 日 本 の 各 内 湾 海 域 の 栄 養 塩 濃 度 の 季 節 変

動 ・ 経 年 変 動 と , ノ リ 色 落 ち 状 況 を 示 し , 各 海 域 に 共 通 す る 現 象 と

固 有 の 現 象 を 明 ら か に す る . 次 に , 栄 養 塩 動 態 を 理 解 し , モ デ ル 化

し , 沿 岸 海 域 の 栄 養 塩 動 態 の 科 学 を 作 り 上 げ る ア プ ロ ー チ を 示 す .

本 シ ン ポ ジ ウ ム に よ り , 各 海 域 の 担 当 者 間 の 情 報 交 換 を 図 り , ノ リ

色 落 ち に 対 す る 共 通 の 認 識 を 深 め ,ま た ノ リ 色 落 ち の 原 因 を 明 ら か

に し , そ の 対 策 を と る た め の 一 ス テ ッ プ と し た い .

各 海 域 の 状 況 に つ い て 共 通 フ ォ ー マ ッ ト の ア ン ケ ー ト を 行 っ て

い ま す . こ れ の 結 果 も 示 し ま す .

(3)

プログラム(目次)

10:00 - 10:05 開催あいさつ 藤原建紀(京大院農)

1.各内湾域の実態把握 座長:樽谷賢治(水研セ瀬戸内水研)

10:05 - 10:30

ノリ養殖と珪藻赤潮・栄養塩(背景と趣旨説明を含む) p.3

渡辺康憲・樽 谷 賢 治 ( 水 研 セ 瀬 戸 内 水 研 )

10:30 - 10:45

播磨灘の栄養塩環境とノリ養殖 p.6

原田和弘(兵庫水技)

10:45 - 11:00

三河湾の栄養塩環境とノリ養殖 p.8

大橋昭彦(愛知水試)

11:00 - 11:15

伊勢湾の栄養塩環境とノリ養殖 p.11

坂口研一・岩出将英・藤田弘一(三重水研 鈴鹿水産研究室)

11:15 - 11:25 休 憩

11:25 - 11:40

東京湾の栄養塩環境とノリ養殖 p.13

長谷川健一(千葉水総研セ)

11:40 - 11:55

有明海の栄養塩環境とノリ養殖 p.16

首藤俊雄・久野勝利・松原 賢(佐賀有明水振セ)

11:55 - 12:10

博多湾の栄養塩環境とノリ養殖 p.18

渕上 哲(福岡水海技セ)

12:10 - 13:30 昼 食 休 憩

2.栄養塩動態の理解 座長:藤原建紀 (京大院農)

13:30 - 13:50

河川からの栄養塩供給とダムからの緊急放流 p.19

高木秀蔵(岡山水試)・藤沢節茂(香川赤潮研)

13:50 - 14:10

数値モデルによる栄養塩動態の解明 p.21

筧 茂穂(水研セ東北水研)

14:10 - 14:30

大型珪藻の栄養塩動態における役割 p.23

多田邦尚(香川大農)

14:30 - 14:50

沿岸海域の栄養塩動態(まとめ) p.25

藤原建紀(京大院農)

3.総合討論/情報交換会 座長:渡辺康憲 (水研セ瀬戸内水研)

15:00 - 16:00

アンケートと集約結果 p.35

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ノリ養殖と珪藻赤潮・栄養塩(背景と趣旨説明を含む)

渡邉康憲・樽谷賢治 (水研セ瀬戸内水研) キーワード:ノリ養殖、珪藻赤潮、栄養塩、周防灘 1.はじめに 我 が国 の代 表 的伝 統食 品 であ るノ リ は、戦後 各 地 で 養 殖 技 術 の 発 展 と と も に 生 産 が 増 大 し 、 年 間 100 億枚(1000 億円)に達する産業に成 長 し た。しか し、近年、瀬戸 内海を は じめ とす る 主 要 な 生 産 地 で し ば し ば 栄 養 塩 不 足 に よ る 色 落 ち(品質 の 低下)が 発 生し、沿 岸 域の 漁家 経 営 に深 刻な 打 撃を 与え て いる 。本 日 のシ ンポ ジ ウ ム で は 主 要 な ノ リ 生 産 県 に お け る ノ リ 養 殖 と そ れ を 支 え る 栄 養 塩 環 境 の 変 遷 と 現 状 に つ い て 情 報 交 換 を 行 い 、 ノ リ 色 落 ち に 対 す る 共 通 認 識 を 深 め る と と も に 、 栄 養 塩 動 態 を 理 解 し 、 モ デ ル 化 し 、 沿 岸 海 域 の 栄 養 塩 動 態 の 科 学 を 作 り 上 げ る 筋 道 を 示 す 。 こ の こ と で 各 海 域 の 担 当 者 間 の 相 互 理 解 を 深 め 、 ノ リ 色 落 ち の 原 因 を 明 ら か に す る こ と で そ の 対 策 を 考 え る た め の 第 一 歩 と し た い 。 な お 、 本 発 表 で は ノ リ 養 殖 と 栄 養 塩 と の 関 係 を 示 す 典 型 的 な 事 例 と し て 、 嘗 て 盛 ん だ っ た が 1 9 9 0 年 頃 ま で に ノ リ 養 殖 が 急 速 に 衰 退 し た 瀬 戸 内 海 西 部 海 域 ( 周 防 灘 ) の 状 況 に つ い て も 紹 介 す る 。 2.ノリの生産海域 ノ リ 養 殖 は 適 度 に 富 栄 養 化 し て 静 穏 な 内 湾 域 が 適地 とさ れ る。農林 水 産省 の漁 業・養 殖業 生 産 統計 年報 に よれ ば、 ノ リ生 産県 は 1985 年 に は26 県あったが 1997 年は 21 県となり 2005 年 に は 18 県に減少した。現在、我が国では仙 台 湾( 宮城県 )、東 京湾( 千葉 県 )、三 河 湾(愛 知 県 )、伊勢湾( 三重 県)、瀬 戸内 海東 部(兵 庫 県 ・ 香 川 県 ・ 岡 山 県 )、 有 明 海 ( 佐 賀 県 ・ 福 岡 県 ・ 熊本 県) な どが 主産 地 とな って い る。 3.ノリの生産動向 主 生産 県の ノ リ生 産動 向 を示 す。図 1に 太平 洋 北 区お よび 太 平洋 中区 に 位置 する 宮 城県 、千 葉 県 、 愛 知 県 、 三 重 県 の ノ リ 生 産 枚 数 の 1974 年 から2005 年まで約 30 年間の経年変化を示す。 宮 城 県は 1990 年代以降も順調に生産を伸ばし て い るが 、千 葉 県は 5~10 年周期で豊凶を繰り 返 し て お り 、2000 年以降低迷気味である。愛 知 県は1980 年代には生産枚数がしばしば 10 億 枚 を 越え てい た が 1990 年代中盤以降生産量は 減 少 し、2005 年には 6 億枚程度となった。三 重 県 も 生 産 状 況 の 経 年 変 化 は 愛 知 県 と 類 似 し て お り、1980 年代までは 6 億枚前後で推移し て い たが 1990 年頃から生産量は減少し、2005 年 には 3 億枚以下となった。 図 2 に瀬 戸内 海 東部 海域 の ノリ 生産 枚 数の 太平洋北部および中部海域の ノリ生産枚数の移り変わり(養殖年) 0 3 6 9 12 197 4 197 6 197 8 198 0 198 2 198 4 198 6 198 8 199 0 199 2 199 4 199 6 199 8 200 0 200 2 200 4 生産枚数( 億枚 ) 宮城 千葉 愛知 三重 図 1 太 平 洋 北 部 お よ び 中 部 海 域 の ノ リ 生 産 量 の 経年 変化

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経 年 変化 を示 し た。 兵庫 県 は 1970 年代後半か ら 1990 年頃にかけて順調に生産を伸ばしたが、 2000 年頃から生産量が減少傾向を示し、2007 年 は 著 し い 不 作 と な っ た ( 発 表 で 説 明 )。 香 川 県 も 経年 的傾 向 は兵 庫県 と 類似 して お り 、1970 年 代 後半 から 1980 年代後半にかけて生産を伸 ば し たが 2000 年以降急激に生産量が減少して い る 。岡 山県は 1980 年から 1990 年代前半まで は 年 間 4 億 枚 程 度 の 生 産 量 を 維 持 し て い た が 、 1990 年 代 後 半 以 降 生 産 量 は 徐 々 に 減 少 し 、 2005 年には 2 億枚程度にまで低下した。 瀬戸内海東部海域のノリ生産枚数の移り変わり (養殖年) 0 4 8 12 16 20 197 4 197 6 197 8 198 0 198 2 198 4 198 6 198 8 199 0 199 2 199 4 199 6 199 8 200 0 200 2 200 4 生産枚 数 ( 億枚) 兵庫 香川 岡山 図 2 瀬 戸 内 海 東 部 海 域 の ノ リ 生 産 量 の 経 年 変 化 図 3 に 有 明 海 域 の ノ リ 生 産 枚 数 の 経 年 変 化 を 示 した 。有 明 海域 は全 国 一の ノリ 生 産海 域で 佐 賀 、福 岡、 熊 本3 県と も 1980 年代後半以降 ほ ぼ 毎 年 10 億 枚 以 上 の 生 産 を あ げ て い る 。 2000 年には著しい不作に見舞われたが、その 後 は ほ ぼ 堅 調 に 生 産 を 維 持 或 い は 増 加 さ せ て い る 。 4.ノリ不作の原因 農 作 物 が 土 に 含 ま れ る 栄 養 分 を 吸 収 し て 育 つ の と同 様、ノ リは 海水 中 に含 まれ る 窒素 など の 栄 養塩 類を 吸 収し て生 育 する 。海 で は植 物プ ラ ン クト ンが 主 な栄 養塩 の 消費 者だ が 、水 温が 低 下 す る 冬 季 は 植 物 プ ラ ン ク ト ン の 生 育 に 適 さ な いた め、環 境中 の栄 養 塩を ノリ が 独占 的に 利 用 す る こ と で ノ リ 養 殖 が 営 ま れ て い る 。 し 有明海域のノリ生産枚数の移り変わり (養殖年) 0 5 10 15 20 25 197 4 197 6 197 8 198 0 198 2 198 4 198 6 198 8 199 0 199 2 199 4 199 6 199 8 200 0 200 2 200 4 生産枚 数( 億枚) 佐賀 福岡 熊本 図 3 有 明海 域 のノ リ生 産 量の 経年 変 化 か し 、珪 藻類 の 一部 には 低 水温 条件 下 でも 大増 殖 が 可能 な種 が あり 、養 殖 ノリ と競 合 して 色落 ち を 引き 起こ す 大き な要 因 とな って い る。これ が 瀬 戸 内 海 東 部 海 域 で は コ シ ノ デ ィ ス カ ス ワ イ レ シー やユ ー カン ピア ゾデ ィアカ ス(以 下、 ユ ー カン ピア )とい う大 型 種で ある 。珪藻 類の 中 で も 大 型 種 の 赤 潮 は 小 型 種 よ り 発 生 期 間 が 長 い こと が経 験 的に 知ら れ てお り、近 年、より 低 栄 養 塩 環 境 に 適 応 し て い る 可 能 性 が 指 摘 さ れ て いる 。大 型 種が 勢力 を 増す よう に なっ た要 因 と して 、栄 養 塩濃 度の 低 下と いう 環 境変 化が 懸 念 され てい る 。近 年、千 葉県 や愛 知 県で も大 型 珪 藻 が ノ リ 色 落 ち 被 害 を 引 き 起 こ し て い る こ と が報 告さ れ てい る。 5.瀬戸内海西部海域のノリ生産動向 周 防灘 に面 し た山 口県 、福岡 県、大 分県 のノ リ 生 産 状 況 を 図 4 に 示 し た 。 山 口 県 で は 1970 年 代 には 5 億枚前後の生産があったが 1990 年 頃 に は 3 億枚に減少し、2005 年には約 1 億枚 と な った 。大 分 県は 1970 年代には 3 億枚程度 だ っ た が 1990 年 頃 に は 約 1 億 枚 に 減 少 し 、 2005 年には 0.1~0.2 億枚となった。福岡県で は 1970 年代には約 1 億枚の生産があったが 1990 年代後半から生産は行われなくなった。 図 中 で大 分県 で は 1980 年頃、生産量が一時低 下 し たよ うに み える が、こ れは 統計 デ ータ の欠 落 に よる もの で 、あ る程 度 の生 産は 維 持さ れて い た もの と推 察 され る。

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瀬戸内海西部海域のノリ生産枚数の移り変わり (養殖年) 0 1 2 3 4 5 6 197 4 197 6 197 8 198 0 198 2 198 4 198 6 198 8 199 0 199 2 199 4 199 6 199 8 200 0 200 2 200 4 生産枚 数( 億枚) 山口 福岡 大分 図 4 瀬 戸 内 海 西 部 海 域 の ノ リ 生 産 量 の 経 年 変 化 6.瀬戸内海西部海域の栄養塩環境 周 防 灘の 栄養 塩 環境 を示 す 一例 とし て 、山 口 県 、福岡 県、大 分県 で実 施 され た浅 海 定線 調査 結 果( 全域の 50 定点)から、0m層のDIN(溶 存 態 無機 窒素 ) の 30 年間の経年変化を図5に 示 し た1 )DIN濃度は成層化する夏季に低く鉛 直 混 合 が 活 発 な 秋 か ら 冬 季 に 低 い 大 き な 季 節 変 化 を示 して い るが 、経 年 的に は減 少 する 傾向 が 明 瞭に 認め ら れる 。図 中 に示 した が 、回 帰直 線 か ら求 めたDINの年平均濃度は 1973 年には 3.4μmol/Lであったが、1980 年、1990 年、2000 年 に はそ れぞ れ 3.2、2.9、2.5μmol/Lであった ( 実 測 値 の 年 平 均 値 は 4.8、 2.0、 3.0、 2.5μ mol/L)。 7.おわりに 本 シ ン ポ ジ ウ ム で は 前 半 で 千 葉 県 以 南 の 主 要 な ノ リ 生 産 県 の 担 当 者 に 栄 養 塩 環 境 と ノ リ 養 殖 の実 態を 報 告し て頂 く とと もに 、九州 海域 で 最 も 都 市 化 が 進 ん だ 海 域 の 一 つ で あ る 博 多 湾 に つい ても 報 告を お願 い した 。後 半 では 、栄 養 塩 動 態 の 理 解 を 目 的 と し て モ デ ル を 中 心 と し た 4 件の発表が予定されている。閉鎖性の高 い 沿 岸域 の栄 養 塩環 境は 様 々な 自然 的 、人 為的 要 因 に支 配さ れ るが 、ノ リ 養殖 を糸 口 とし てこ れ を 見た 時、豊 かな 社会 を 目指 す将 来 の方 向性 に つ いて どの よ うな 姿が 見 えて くる の か、様々 な 立 場か ら活 発 な意 見の 交 換を 期待 し たい 。 y = -9E-05x + 5.8109 R2 = 0.1229 0 5 10 '73 '75 '77 '79 '81 '83 '85 '87 '89 '91 '93 '95 '97 '99 '01 '03

0m層

DIN

図 5 瀬 戸内 海 西部 海域 ( 周防 灘) の DIN(溶存態無機窒素)濃度の経年変化(μmol/L) 季 節 変化 が大 き いが 減少 傾 向が 明瞭 に 現れ てい る 〔和 西・ 佐 藤・ 平澤 (2005)1 ) 一 部 改変 〕。細 線 :実 測値 、 太線 :5 項移動平均値。 1) 和西昭仁・佐藤利幸・平澤敬一(2005):周防灘.瀬戸内海ブロック浅海定線調査観測 30 年成 果 集 、独 立行 政 法人 水産 総 合研 究セ ン ター 瀬戸 内 海区 水産 研 究所 発行 、p.114-159.

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播磨灘の栄養塩環境とノリ養殖

原田和弘(兵庫水技) E-mail: kazuhiro_harada@pref.hyogo.lg.jp 1 . は じ め に 兵 庫 県 で は 瀬 戸 内 海 側 で ノ リ 養 殖 が 盛 ん で あ り 、 2006 年 度 漁 期 に は約 16 億 枚、125 億 円 の 生産 量 を 上 げ て い る 全 国 有 数 の 産 地 で あ る 。 ま た 、 本 県 瀬 戸 内 海 側 の 漁 業 に お け る 養 殖 ノ リ の 生 産 金 額 は 、 全 漁 業 生 産 金 額 の 約4 割 を占 め る 基 幹漁 業 と な っ てい る 。 し か し 、 近 年 は 大 型 珪 藻 の 大 量 発 生 等 に 起 因 す る 栄 養 塩 濃 度 の 低 下 に よ る 「 色 落 ち 」 が 毎 年 の よ う に 発 生 し 、 ノ リ の 生 産 に 大 き な 影 響 を 与 え て い る 。 本 報 で は 浅 海 定 線 調 査 デ - タ を 用 い て 、 栄 養 塩 濃 度 の 変 遷 を 検 証 す る と と も に 、 近 年 の 播 磨 灘 に お け る 栄 養 塩 環 境 が ノ リ 養 殖 に 与 え て い る 影 響 に つ い て 述 べ る 。 2 . 兵 庫 の ノ リ 養 殖 兵 庫 の ノ リ 養 殖 は 播 磨 灘 北 部 ( 沿 岸 部 、 鹿 ノ 瀬 、 家 島 諸 島 ) 、 淡 路 島 沿 岸 お よ び 大 阪 湾 北 部 で 、 浮 き 流 し 式 養 殖 に よ り 生 産 さ れ て い る 。 1960 年 代 中 頃 まで は 支 柱 式 養殖 が 中 心 で あり 、出 荷 枚 数 も 数 千 万 枚 に 留 ま っ て い た 。 そ の 後 、 浮 き 流 し 式 養 殖 の 普 及 に よ り 、 養 殖 面 積 が 拡 大 す る と と も に 、 多 獲 性 品 種 や 冷 凍 網 保 存 技 術 の 導 入 等 も 加 わ っ て 、 生 産 量 は 十 数 億 枚 ま で 急 激 に 増 加 し た 。 一 方 、 ノ リ の 平 均 単 価 は1980 年 頃 ま では 15 円 / 枚前 後 で あ っ た が 、安 定 的 な 量 産 に よ っ て 長 年 10 円 / 枚 前 後 で 推 移 し て い た 。 し か し 、 こ こ 数 年 は 「 色 落 ち 」 に 図 1 兵 庫 県 の ノ リ 出 荷 量 と 平 均 単 価 の 推 移 よ る 生 産 量 低 下 や 他 産 地 と の 競 合 に よ り 、8 円 /枚 前 後 に 低 下 し て い る ( 図1) 。 兵 庫 県 に お け る ノ リ 養 殖 は9 月 頃 か ら の 採 苗に 始 ま り 、 育 苗 を 経 て 、 水 温 が 19℃ 未 満 に 下 がる 11 月 下 旬 以 降 に 本 格 生 産 ( 本 張 り ) が 開 始 さ れ 、 翌 年 4 ~5 月 に 終 了 す る のが 通 例 で あ る。 3 . 播 磨 灘 の 栄 養 塩 播 磨 灘 15 地 点 の年 間 平 均 表 層 DIN 濃 度 の推 移 を図 2 に示 した。大 局 的 に見 ると 1970 年 代 以 降 DIN 濃 度 は 低 下 傾 向 にあることが明 らかであり、近 年 は 2~4μmol/L 程 度 で推 移 している。DIP も DIN とほぼ同 様 の変 化 を示 すが、DIN ほど急 激 な濃 度 低 下 は認 められず、1980 年 代 以 降 はほぼ横 這 いであった。一 方 、DSi は 1970 年 代 から増 減 はあるものの、顕 著 な変 化 傾 向 は認 められずほ ぼ横 這 いであった。 0  2  4  6  8  10  19 74 19 76 19 78 19 80 19 82 19 84 19 86 19 88 19 90 19 92 19 94 19 96 19 98 20 00 20 02 20 04 20 06 D IN ( μm ol /L ) 年 図 2 播 磨 灘 表 層 の DIN 濃 度 経 年 変 化( 15 地 点 平 均 ) 播 磨 灘 の表 層 における DIN および DIP 濃 度 は毎 年 12 月 頃 にピ-クを示 す周 期 で変 動 する傾 向 が明 瞭 である。 DSi も同 様 に 12 月 に高 い傾 向 を示 すが、梅 雨 時 期 の 7 月 頃 にも高 濃 度 ピ-クを示 す特 徴 がある。底 層 の栄 養 塩 はいずれも成 層 が発 達 する 8 月 頃 にも高 濃 度 を示 し、 DSi では特 に顕 著 である。 5 10 15 20 5 10 15 20 19 80 19 85 19 90 19 95 20 00 20 05 平 均 単 価( 円/ 枚 ) 出 荷 枚数( 億枚 ) 生産年度 出荷枚数 平均単価 4 . 養 殖 ノ リ の 色 落 ち 兵 庫 県 播 磨 灘 のノリ養 殖 漁 場 では 1999 年 以 降 、程 度 の差 はあるものの、毎 年 ノリの色 落 ちが発 生 している。ノリ

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の色 落 ちは栄 養 塩 濃 度 の低 下 、とくに DIN の不 足 による 影 響 が大 きいとされている。近 年 、播 磨 灘 の養 殖 ノリに色 落 ちが発 生 する要 因 について検 討 した結 果 、次 の要 素 の存 在 が明 らかとなった。 1)大 型 珪 藻 類 の 大 量 発 生 播 磨 灘 で ノ リ 漁 期 に 発 生 す る お も な 大 型 珪 藻 は 、Eucampia zodiacus お よ び Coscinodiscus wailesii で あ る 。E.zodiacus は 播 磨 灘 北 西 部 を 発 生 源 と し て 分 布 範 囲 を 拡 大 し 、 ノ リ 漁 期 後 半 に 発 生 量 の ピ - ク を 迎 え る こ と が 多 い 。 本 種 は 栄 養 塩 濃 度 が あ る 程 度 低 下 し た 環 境 で も 増 殖 す る こ と が 可 能 で あ り 、 培 養 実 験 に お い て 、 低 水 温 下 で も 高 い 窒 素 取 り 込 み 能 を 有 す る こ と が 判 明 し た 。 ま た 、 C.wailesii は 細 胞 が 非 常 に 大 き く 、栄 養 塩 の 消 費 量 が 多 い 特 徴 が あ る 。さ ら に 、こ れ ら の 大 型 珪 藻 の ほ か 、 2007 年 度 漁 期 に は 播 磨 灘 全 域 で Thalassiosira diporocyclus が 群 体 を 形 成 し 、DIN の 枯 渇 を 招 い た 事 例 も あ る 。 こ の よ う に 大 型 珪 藻 を は じ め と し た 植 物 プ ラ ン ク ト ン の 大 量 発 生 に よ る 栄 養 塩 の 消 費 が 、 色 落 ち の 一 因 と な っ て い る 。 2)瀬 戸 内 海 東 部 の 冬 季 に お け る 水 塊 移 動 兵 庫 、 岡 山 、 広 島 、 香 川 県 の 共 同 調 査 お よ び 愛 媛 県 の 観 測 デ - タ か ら 、 瀬 戸 内 海 東 部 の ノ リ 漁 期 に お け る 漁 場 環 境 に 関 す る 水 平 分 布 図 を 作 成 し た 。 そ の 結 果 、 瀬 戸 内 海 東 部 で は 、 ノ リ 漁 期 で あ る 冬 季 に 季 節 風 ( 西 風 ) に よ る 水 塊 移 動 が 存 在 す る こ と が 判 明 し た 。 燧 灘 に 存 在 し て い た 貧 栄 養 水 塊 は 、 ノ リ 漁 期 が 進 む に 従 っ て 東 方 海 域 に 移 動 し 、 各 海 域 の 栄 養 塩 濃 度 低 下 に 影 響 し て い る こ と が 明 確 と な っ た ( 図 3)。 図 3 瀬 戸 内 海 東 部 の 冬 季 に お け る 水 塊 移 動 3)播 磨 灘 の 栄 養 塩 濃 度 前 述 の よ う に 播 磨 灘 の 表 層 DIN 濃 度 は 12 月 頃 に ピ - ク を 示 す 周 期 で 変 動 す る 。 ま た 、ノ リ の 生 産 が 本 格 化 す る 12 月 以 降 、ノ リ 漁 期 が 進 む に 従 い 、 漁 場 の 表 層 DIN 濃 度 は 漸 減 傾 向 を 示 す 特 徴 が あ る が 、1990 年 代 後 半 以 降 は 、主 要 ノ リ 生 産 期 で あ る 12~ 3 月 の 表 層 DIN 濃 度 が 、 以 前 に 比 べ さ ら に 低 下 し て い る (図 4)。 0 2 4 6 8 10 12 14 16 19 74 19 76 19 78 19 80 19 82 19 84 19 86 19 88 19 90 19 92 19 94 19 96 19 98 20 00 20 02 20 04 20 06 0 2 4 6 8 10 12 14 16 19 74 19 76 19 78 19 80 19 82 19 84 19 86 19 88 19 90 19 92 19 94 19 96 19 98 20 00 20 02 20 04 20 06 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 2 4 6 8 10 12 14 16 12月 1月 3月 2月 DI N (μ mo l/ L ) 年 図 4 ノ リ 生 産 期 の 播 磨 灘 表 層 の DIN 経 年 変 化 こ の よ う に 播 磨 灘 で は 大 型 珪 藻 の 大 量 発 生 、 西 方 海 域 か ら の 貧 栄 養 水 塊 流 入 お よ び 近 年 の 灘 全 体 の DIN レ ベ ル 低 下 が 互 い に 関 連 し て 、 ノ リ 漁 期 の DIN 濃 度 低 下 が 進 み 、 色 落 ち に 至 っ て い る こ と が 判 明 し た 。 今 後 は そ れ ぞ れ の 現 象 に つ い て の 要 因 を 精 査 し て お く 必 要 が あ る 。 5 . 今 後 の 対 策 ノ リ の 色 落 ち 対 策 と し て 、 色 落 ち 被 害 の 軽 減 お よ び 栄 養 塩 回 復 対 策 が 挙 げ ら れ る 。 被 害 軽 減 対 策 と し て 、 兵 庫 県 で は ノ リ 生 産 期 の 浅 海 定 線 調 査 等 の 観 測 デ - タ や 、 モ デ ル を 用 い た 栄 養 塩 の 動 向 予 想 を ホ - ム ペ - ジ 等 で 毎 旬 提 供 し 、養 殖 管 理 に 役 立 て て い る 。 さ ら に 、 E.zodiacus に つ い て は 、 細 胞 サ イ ズ を 回 復 す る 秋 季 の 細 胞 密 度 と 、 ブ ル - ム を 迎 え る 時 期 ま で の 日 数 に 相 関 関 係 が あ る こ と を 見 出 し 、 ノ リ 漁 期 当 初 に 発 生 予 測 情 報 を 提 供 し て い る 。 一 方 、 栄 養 塩 回 復 対 策 と し て 、 ノ リ 漁 場 へ の 施 肥 や ダ ム か ら の 放 水 な ど が 試 験 的 に 実 施 さ れ て い る が 、 漁 場 の 特 性 な ど か ら 現 在 の と こ ろ 顕 著 な 効 果 は 現 れ て い な い 。今 後 、 水 産 研 究 機 関 と し て は 、 適 切 な 漁 場 環 境 に 関 す る 提 言 を 前 提 に 、 こ れ ま で の 漁 場 観 測 デ - タ 等 と 漁 業 生 産 の 検 証 を 進 め る の が 急 務 と 考 え て い る 。 1月 中旬 1月 下旬 2月 上旬 2月 中旬 低 高 DIN濃度 2006年漁期

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三河湾の栄養塩環境とノリ養殖

○大橋昭彦(愛知水試) 1.はじめに 知多湾 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 Chaetoceros spp. ○ ○ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ◎ ◎ ○ ◎ ○ Detonula pumila ◎ Eucampia zodiacus ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ Nitzschia spp. ○ Rhizosolenia spp. ○ ○ R.setigera ○ ◎ ○ Skeletonema costatum ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ○ Thalassiosira spp. ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ Akashiwo sanguinea ○ Gyrodinium spp. ○ Noctiluca scintillans ○ ○ Prorocentrum micans ○ Eutreptiella spp. ○ small flagellates ◎ Mesodinium rubrm ○ 不明 ◎ ○ ○ ○ ◎ ○ 渥美湾 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 Chaetoceros spp. ◎ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ Detonula pumila ◎ Eucampia zodiacus ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ○ Lauderia spp. ◎ Leptocylindrus danicus ○ Nitzschia spp. ◎ ○ Rhizosolenia spp. R.setigera ○ ○ ○ ○ Skeletonema costatum ○ ◎ ○ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ○ ◎ ○ ○ ○ ◎ ○ ◎ ○ ○ Thalassiosira spp. ◎ ◎ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ Akashiwo sanguinea ○ Ceratium fruca ○ ○ Noctiluca scintillans ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ Dictyocha ○ Distephanus ○ Heterocapsa spp. ○ ○ Prorocentrum spp. ○ ○ ○ Eutreptiella spp. ◎ Small flagellates ○ ◎ ◎ ○ Mesodinium rubrum ○ ○ 不明 ○ ○ ◎ ○ 知多湾 三河湾 三河湾浅海定線調査 72~82 2 7 栄養塩調査(10~2月) 92~96 4 8 栄養塩調査(毎月) 97~ 4 8 伊勢湾総合広域水質調査 78~ 2 6 調査点数 実施年度 表 1 知多湾,渥美湾における冬季(12~2 月)に発生した赤潮の構成種 表 2 今回の解析に用いた調査 三河湾は知多半島と渥美半島に囲まれた閉鎖的な海域 で,豊川が流入する東部の渥美湾,矢作川が流入する西部 の知多湾(衣浦湾とも言う)に分けられる(図1)。三河 湾では,江戸時代末期にノリ養殖が始まり,現在も湾内で 活発にノリ養殖業が営まれている(平成 18 年の愛知県の ノリ生産枚数は 542,988 千枚,全国 6 位である)。三河湾の ノリ漁場は知多半島から渥美半島にかけての沿岸域と湾 口部にある島嶼域(篠島,日間賀島)にある。三河湾内の 区画漁業権は図 1 に実線で示した位置にある。渥美湾北部 の沿岸にも区画漁業権はあるが,現在はノリ養殖が行われ ているところは少ない。主に,沿岸域では支柱柵,浮き流し の両方で養殖が行われ,島嶼域では浮き流しによる養殖が 行われている。 図 1 三河湾の海域区分(点線)及び区画漁業権(実線) 知多湾 渥美湾 伊勢湾 ノリ養殖の生産性向上のためには栄養塩動向の把握が 重要である。愛知水試では,72~82 年度の三河湾浅海定線 調査,92~96 年度栄養塩調査(10~2 月に実施),97 年度か ら現在まで続く毎月の栄養塩調査で,三河湾の栄養塩動向 を継続的に調査している。今回は,これらの結果の他に,伊 勢湾総合広域水質調査の結果を用いて三河湾の栄養塩の 動向について解析を行った(表2)。

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図 2 知多湾,渥美湾における冬季(12~2 月)赤潮発生延べ日数 渥美湾 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 年度 延べ日数 ノクチルカ 不明 繊毛虫類 ノクチルカ以外の鞭毛藻類 珪藻類 知多湾 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 年度 延べ 日数 71 72 2.冬季の赤潮とノリ色落ちについて 図 2 に 71 年度からの知多湾,渥美湾における 12~2 月の 赤潮延べ日数,表 1 に 71 年度からの知多湾,渥美湾での 12 ~2 月に発生した赤潮の構成種を示した。 知多湾で冬季に発生する赤潮は,珪藻類の赤潮が多く

Skeletonema costatum,Chaetoceros spp. Thalassiosira

spp.の赤潮が多い。80 年代後半から Eucampia zodiacus の赤潮が目立つようになっている。珪藻類の赤潮は,70 年 代後半から増加し始め,近年も延べ日数 20 日を越える赤潮 が発生している。渥美湾は,珪藻類だけでなく鞭毛藻類の 赤潮も多く発生している。ただ赤潮となっている鞭毛藻類 の多くはNoctiluca scintillansである。珪藻類は,知多

湾 同 様 に S.costatum,Chaetoceros spp.,Thalassiosira

spp.が多い。E.zodiacus は 80 年代後半から散発するが, 知多湾よりは少ない。発生延べ日数は,知多湾と同様に 70 年代後半から増加し始めている。延べ日数は,知多湾より 多く推移しており,延べ日数が 40 日を越える年も多い。 ノリの色落ちは,E.zodiacus の赤潮が発生したときは, ほとんどの場合発生している。またE.zodiacusだけでな

くS.cosatum,Chaetoceros spp.,Thalassiosira spp.等の

赤潮による場合も多数ある。 3.三河湾の栄養塩濃度の季節変動について 97 年度からの栄養塩調査の結果を用いて三河湾の栄養 塩濃度の季節変動を調べた。この調査は三河湾内の 13 点 で行っており,知多湾,渥美湾の中央部各1点で 3 層(表 層,5m,底上 1m),他は表層のみの調査である。97~07 年度 の各月の値を平均して季節変動をみた。 図 3 に,渥美湾の調査点 A5 における DIN 及び DIP の季節 変動を示した。最初に DIN についてであるが,表層は 4 月 から次第に減少し,7~9 月の夏季が最も低い時期となる。 逆に底層では,春から夏に向けて増加し 8 月にピークとな る。これは底層が貧酸素化し,底泥からアンモニア態窒素 の溶出が進むためと考えられる。夏から冬は,表層の DIN は次第に増加し,12 月にピークとなる。 次に DIP であるが,表層は,DIN とは異なり 3 月から 5 月 が谷で,6 月から次第に増加し,12 月がピークとなっている。 ノリ漁期の 1~3 月は 0.2μg-at/l 未満の低い濃度になる。 底層の変動は DIN と同じく 8 月に大きなピークとなる。こ れも,貧酸素水塊の発達により底泥からの溶出が進むため と考えられる。 三河湾内の他の調査点も概ね似たような傾向を示す。ノ リの色落ちが起こることが多い 2 月の三河湾の表層 DIN 及 び DIP を図 4 に示した。DIN は枯渇することはないが,DIP は矢作川河口域を除き,ほぼ枯渇した状態となることがわ かる。 4.栄養塩濃度の年々変動について 年々変動は 72 年度以降の各調査の結果を用いた(表 2)。 各調査の調査点、各年の 1~3 月の値を知多湾,渥美湾に分 けて平均したものを図 5 に示した。ただし,各調査の調査 点が異なるため単純には比較できないことと,83~96 年度 は調査回数が少なく 1~3 月の 3 ヶ月の平均ではないこと に注意が必要である。 DIN は知多湾が渥美湾より高い濃度で推移している。知 多湾,渥美湾ともに 72 年度から 90 年度にかけて減少傾向 にあったが,91 年度に増加して後,増減を繰り返している が,91 年度以降は概ね知多湾、渥美湾ともに減少傾向にあ る。 DIP も DIN 同様に知多湾が渥美湾より高い濃度で推移し ている。84~90 年度は知多湾,渥美湾ともに 0.2μg-at/l 未満で推移していることが特徴的である。91 年度以降は両 湾とも回復するが,74~83 年度の濃度までは回復していな い。知多湾では減少傾向,渥美湾では 0.2μg-at/l 未満の 濃度で横這いである。 栄養塩濃度の年々変動(図 5)と赤潮発生延べ日数(図 2) を比較すると,赤潮発生延べ日数の多い年度に栄養塩濃度 が少なくなっていることが多い。中でもE.zodiacusの長 期的な赤潮が発生した年度(90,95,03)は,栄養塩濃度が, 特に低い。このことは,E.zodiacusの増殖が三河湾のノリ 養殖期の栄養塩環境に大きな影響を与えていることを示 唆している。

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DIN 4 8 16 (μg-at/l) DIP 0.15 0.30 0.60 (μg-at/l) 図 4 2 月の各調査点における DIN,DIP 濃度 5.おわりに 近年,温暖化の影響によりノリ養殖の開始時期が以前に 比べ遅れており,年明けの 1~2 月の生産状況がノリ養殖経 営を大きく左右する状況となっている。しかし,この時期 の三河湾の栄養塩は経年的に減少してきており,さらに E.zodiacusの赤潮が長期間発生した場合,極端に低い濃度 にまで落ちこみ,色落ちが頻発しやすい環境であると言え る。栄養塩の長期的な減少傾向は,総量規制等により陸域 からの負荷が減少したことが一因であると考えられ,これ 以上に流入負荷を削減することは,ノリ養殖にはマイナス であり,バランスの取れた環境施策が求められている。 DIP 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 月 μg -at / l A5-0m A5-5m A5-B DIN 0.0 5.0 10.0 15.0 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 月 μg-at / l A5-0m A5-5m A5-B ・A5 図 3 渥美湾の調査点 A5 におけ る DIN,DIP 濃度の季節変動 1~3月DIP平均の推移 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 年度 μg -at / L chita atsumi 1~3月DIN平均の推移 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 18.0 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 年度 μg-at / L chita atsumi 図 5 知多湾,渥美湾における 1~3 月の栄養塩濃度の推移

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伊勢湾の栄養塩環境とノリ養殖

坂口研一・岩出将英・藤田弘一 (三重水研鈴鹿水産研究室) キーワード:ノリ養殖,珪藻赤潮,DIN,伊勢湾 1.伊勢湾の形状と流入河川 伊 勢 湾 は 面 積 1,738km2, 容 積 33.9km3, 平 均 水 深 19.5m, 最 大 水 深 37mを 持 つ 我 が 国 最 大 級 の 内 湾 で あ る 。海 底 地 形 は 中 央 部 が 最 も 深 く ,水 深 30 数 メ ー ト ル の 海 底 が 広 が っ て お り , 北 側 の 湾 奥 部 や 西 側 の 三 重 県 側 の 海 底 は 緩 や か に な っ て い る 。 ま た , 湾 奥 に は 大 都 市 圏 を 抱 え る と と も に , 揖 斐 川 , 長 良 川 , 木 曽 川 の 大 河 川( 通 称 木 曽 三 川 と よ ぶ ),西 側 に は 鈴 鹿 川 , 雲 出 川 , 櫛 田 川 , 宮 川 が 流 入 し て い る 。 こ の う ち 木 曽 三 川 か ら の 河 川 流 入 量 は 伊 勢 湾 へ の 河 川 流 入 量 の 約 80% を 占め て い る 。 2.三重県のノリ養殖の概要 伊 勢 湾 で は 自 然 海 岸 が 多 く 残 さ れ 遠 浅 の 地 形 に よ り , 湾 内 の 三 重 県 側 に お い て は 四 日 市 市 を 除 く 木 曽 岬 町 か ら 鳥 羽 市 に か け て 広 く ノ リ 養 殖 が 行 わ れ て い る ( 図 1 )。 経 営 体 数 は 1981 年 に は 1,936 経 営 体 で あ っ た が ,2007 年 は 210 経 営 体で あ っ た 。生 産 枚数 は 最 盛 期 に は 7 億 5 千 万 枚 で あっ た が ,2007 年 は 2 億 6 千 万 枚 で あ っ た( 図 2)。 生 産 額 は 最 盛 期に は 89 億 円 で あ っ た が , 2007 年 は 21 億 円 で あ っ た 。 平 均 単 価 は 1981 年 に は 1,282 円 (百枚 )で あ っ たが ,2007 年 は 768 円(百 枚)で あ っ た 。 近年 は 珪 藻 赤 潮の 発 生 に と も な う DIN 不 足 に よ る 色 落ち の 頻 発 化・長 期 化, そ の 他 燃 油 高 騰 , 単 価 安 等 , ノ リ 養 殖 に と っ て 非 常 に 厳 し い 状 況 と な っ て い る 。 図 1 三 重県 の ノリ 養殖 漁 場 0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 700,000 800,000 1981 1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002 2005 生産枚 数( 千枚) 図 2 三 重県 の 黒の り生 産 枚数 の推 移

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3.栄養塩濃度の変動について 毎 月1 回行われている浅海定線観測によるデ ー タ から 表層 のDIN 濃度を期間は 2001 年 1 月 か ら 2008 年 3 月まで,測点はノリ養殖漁場に 近 い 湾奥・鈴 鹿 市沖・津 市 沖・伊勢 市 沖・鳥羽 市 沖の 5 測点で解析を行った。湾奥から湾口部 に む かう ほど DIN 濃度は低下した。いずれの 測 点 にお いて も DIN の季節変動はみられず, 経 年 的な DIN 濃度は低下傾向であった。図 3 に は 湾奥 と鳥 羽 市沖 のデ ー タを 示し た 。 図 3 栄 養塩 濃 度の 変動 に つい て( 湾 奥・鳥羽) 2005-2007 26.1% 22.5% 35.7% 9.7% 近 年 の 低 栄 養 状 態 の 頻 度 及 び 期 間 を ノ リ 養 殖 時 期に 毎週 1 回,伊勢湾の三重県側養殖魚場 内 22 測点で行っている栄養塩分析結果を用い てDIN が 40μg/l 以下の低栄養状態になった割 合 と DIN40μg/l 以下の分析値が連続してみら れ た 回数 につ い て2002 年~2004 年の 3 年間と 2005 年~2007 年の 3 年間を比較した。その結 果 , 低 栄 養 状 態 に な っ た 割 合 は 鈴 鹿 地 区 で は 18.2% か ら 26.1%に , 南 勢 地 区 で 8.6% か ら 22.5%に,二見・鳥羽内湾側地区で 23.6%から 35.7%に大幅に増加した。 DIN40μg/l 以下の分析値が連続してみられ た 回 数を みる と 鈴鹿 地区 ,南 勢地区 ,二 見・鳥 羽 内 湾 側 地 区 で 低 栄 養 状 態 の 長 期 化 が 大 幅 に 増 加 した 。一 方 鳥羽 の外 海 では 低栄 養 状態 の頻 度 と 連 続 期 間 は 特 に 変 化 は み ら れ な か っ た ( 表 )。 こ の 理 由 と し て は こ の 地 域 で は 流 速 が 速 く 赤潮 の滞 留 が少 ない こ と,外洋 水 の流 入も あ り ,湾 内の 長 期間 の赤 潮 によ って DIN が極 端 に 低 下 し た 伊 勢 湾 内 の 海 水 の 影 響 が 少 な く な る こと など が 考え られ る 。 湾奥(ST2) 0 10 20 30 40 表 三 重 県 に お け る 近 年 の 低 栄 養 状 態 の 頻 度 及 び 期間 DIN40 (μg/l)以下の割合 鈴鹿 南勢 二見 ※外海 (17/65) (16/71) (25/70) (7/72) 2002-2004 18.2% 8.6% 23.6% 8.2% (12/66) (6/70) (17/72) (6/73) DIN40 (μg/l)以下の連続回数 鈴鹿 南勢 二見 ※外海 2002-2004 2週×1 2週×1 2週×3 2週×1 4週×1 3週×1 2005-2007 2週×2 2週×3 2週×2 2週×2 3週×1 3週×1 3週×2 4週×1 5週×3 鳥羽伊勢湾側 鳥羽伊勢湾側 DIN40 (μg/l)以下の割合 鈴鹿 南勢 二見 ※外海 (17/65) (16/71) (25/70) (7/72) 2002-2004 18.2% 8.6% 23.6% 8.2% (12/66) (6/70) (17/72) (6/73) 2005-2007 26.1% 22.5% 35.7% 9.7% DIN40 (μg/l)以下の連続回数 鈴鹿 南勢 二見 ※外海 2002-2004 2週×1 2週×1 2週×3 2週×1 4週×1 3週×1 2005-2007 2週×2 2週×3 2週×2 2週×2 3週×1 3週×1 3週×2 4週×1 5週×3 50 60 200 1年 1月 200 2年 1月 20 03年 1月 20 04 年 1月 200 5年 1月 200 6年 1月 20 07 年 1月 20 08 年 1月 N ) DI (μ g-at/ l 鳥羽市沖(ST16) 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 2001 年 1月 20 02 年 1月 20 03年 1月 20 04年 1月 20 05年 1月 2006 年 1月 20 07 年 1月 20 08年 1月 鳥羽伊勢湾側 鳥羽伊勢湾側 DI (μ g-at /l N )

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各 内 湾 域 の 実 態 把 握

- 東京湾の栄養塩環境とノリ養殖 -

○ 長谷川健一 ・ 林 俊裕(千葉県水産総合研究センター) 1.はじめに 近年,本県のノリ養殖業を取り巻く環境は大きく 変化しており,1990 年代以降,東京湾では冬季ケイ 藻赤潮が多発し,これによる栄養塩不足によってノ リの色落ちが発生し,ノリ養殖業に大きな被害を与 えている. ノリの色落ち原因は通常 DIN 不足によるが,東京 湾では DIP 不足によって起きている. これらのケイ藻赤潮は湾全域でほぼ同時に発生し, それによる栄養塩濃度の低下とともに出現種が遷移 し,最も低栄養時に増殖するケイ藻種(今のところ Eucampia zodiacus)がノリの色落ち被害に影響して いると考えられる. 本シンポジウムにおいて、日本の各内湾海域の栄 養塩濃度の季節変動・経年変動とノリ色落ち状況を 示し,各海域に共通する現象などを明らかにするこ とから,当センターが長年定期的に観測した水質観 測資料などから東京湾の現状を紹介する. 2.栄養塩環境の挙動 東京湾の水質観測は 1947 年 9 月から開始し,1967 年 1 月からは月 1 回の頻度で行なっている。定期的 に長期間観測した 1967 年からの無機栄養塩データ (内湾中央部 st.8:盤洲地先)を用いて,この季節 変動と長期的変動傾向の解析を試みた. 2.1 無機栄養塩濃度の季節変動 2000 年代における各無機栄養塩濃度の季節変動 を 3 ケ月移動平均で解析した. 0 10 20 30 40 DI N (μM ) 表層 底層 0 1 2 3 2 000 2001 2002 2003 0042 2005 2006 2007 2008 DIP (μM) NH4-Nは季節的な年周期の変動がほとんどみられ ないが,DINとDIPは比較的明瞭な年周期を繰返し, 表・底層ともほぼ同調的な規則性が認められた. DIN は表・底層ともほぼ 12~1 月に大きな山が認 められ,7~8 月にかけては顕著な谷がみられる. DIP は DIN に比べて表層が 1 ケ月,底層では 4~5 ケ 月ほど早く,大きな山と顕著な谷がみられる(図 1). 2.2 無機栄養塩濃度の長期的変動傾向 1967 年以降の各無機栄養塩濃度の経年変動およ び月別変動をそれぞれ 36 ケ月移動平均・3 ケ年移動平 均で解析した. 0 10 20 30 NH 4-N (μ M) 表層 底層 0 10 20 30 40 DIN (μM ) 0 1 2 3 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 DI P (μM) 図 2 無機栄養塩濃度の長期的経年変動 (st.8:盤洲地先) 経年変動では,NH4-NとDINが比較的同調的な増減 を示しており,両者とも 70 年代前半ごろピークに達 した後,急激に減少した.その後,80 年代からは増 加傾向を示し,90 年代後半ごろから再び急減してい る.DIPもほぼ 70 年代前半ごろピークに達した後, NH4-N(DIN)よりもやや遅れて 70 年代末ごろから 急減した.その後,80 年代半ばごろからはほぼ横ば い状態を示し,90 年代半ばごろより再び急減してい る.しかし,底層では 2000 年前後から再び増加傾向 を示している(図 2). 図 1 無機栄養塩濃度の季節変動(st.8:盤洲地先)

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次に,月別変動では,NH4-Nは 5 月から 11 月にか けては明瞭な傾向がみられないものの,12 月から 4 月において 70 年代前半をピークとした変動傾向が みられ,特に 2 月が顕著に現れている(図 3). 2月 0 20 40 60 1 965 1 970 1 975 1 980 1 985 1 990 1 995 2 000 2 005 2 010 NH4-N ( μM) 表層 底層 この傾向は前項で述べた経年変動と類似しており, この変動傾向は冬季から春季のNH4-Nの変動が反映 されているものと考えられる. 2月 0 1 2 DIP (μM) 表層 底層 3月 0 1 2 DIP (μM ) 4月 0 1 2 1 975 1 980 1 985 1 990 1 995 2 000 2 005 2 010 DIP (μM) DIN と DIP は季節的に特徴のある変動傾向は認め られなかったが,後者では 90 年代後半の 2 月から 4 月にかけてノリの色落ちを引起こすとされる濃度を 下回り,その頻度も 3 月,4 月に多くなっている(図 4). 3.ノリ色落ち 3.1 ノリ養殖の現状 東京湾の千葉県側では,千葉北部地区(市川市・ 船橋市),木更津地区(木更津市),富津地区(富津 市)の 3 地区でのり養殖が行われ(図 5),平成 20 年度の従事者は 369 経営体である. 平成 19 年度の生産枚数は約 4 億 2 千万枚で,東京 湾全体の 97%を占め,全国の 5%に相当する. 養殖方式は支柱柵と浮き流し式が併用されている が,主漁場である富津地区ではすべて浮き流し式で 行われている. 3.2 ノリの色落ちと作柄 色調が低下した乾のりは出荷されずに廃棄された り,著しい色調低下時には生産が休止または終了し てしまうため被害状況の算定が難しいが,千葉県漁 連による共販において,色調が浅いと判断されて出 荷される製品(A 印)の枚数は 90 年代終わりから一 部の年を除いて著しい増加傾向にある(図 6). 0 1000 2000 1 989 1994 1999 2004 ノ リ 色落ち 枚数( 万枚) また,近年の生産状況を年内,年明け(1~2 月), 漁期末(3~4 月)に分類すると,年内は水温低下時 期の変動によって不安定,年明けについては比較的 安定しているのに対して,漁期末の生産は 2000 年以 降年々減少傾向にあり(図 7),この原因が色調低下 による無札品の増加や早期の生産終了によるものと 考えられる. 図 3 NH4-N 濃度の長期的経年変動 (st.8:盤洲地先) 図 4 DIP 濃度の長期的経年変動 (st.8:盤洲地先) 図 5 千葉県ののり養殖漁場 図 6 色素が浅い製品の出荷枚数経年変化 (千葉県漁連共販) 千葉北部地区 木更津地区 富津地区

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0 5 10 15 20 25 30 枚 数( 千 万 枚) 0 5 10 15 20 25 30 金 額( 億 円) 枚数 金額 年内(11~12月) 0 5 10 15 20 25 30 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 枚 数( 千 万 枚 0 5 10 15 20 25 30 金 額 億 円 枚数 金額 漁期末(3~4月) 0 5 10 15 20 25 30 枚 数 千 万 枚 0 5 10 15 20 25 30 金 額 億 円 枚数 金額 年明け(1~2月) 図 8 DIP 及びケイ藻赤潮優占種の推移(st.8:盤洲地先) 4.ケイ藻プランクトン 4.1 ケイ藻赤潮優占種の出現変化 1990 年代に入って,多発している冬季ケイ藻赤潮 の優占種は主に Skeletonema costatum ・Thalassiosiria spp.・Cheatoceros didymum,Eucampia zodiacus およ び Rhizosolenia setigera の 5 種である. これらの優占種は東京湾に普通に出現する種類で, Skeletonema costatum は通年卓越する種類である. しかし,養殖ノリにとって,栄養塩を大量に消費 したことにより,ノリ葉体の過度の色素低下をもた らす原因とされる生物でもある.東京湾では,いま のところ Eucampia zodiacus がこれに大きく関与し ている生物と推測している. これら優占種の 1990 年からの出現推移をみると, Skeletonema costatum が最も高い頻度で出現し,次い

で 大 型 ケ イ 藻 の Rhizosolenia setigera , Eucampia

zodiacus の順に出現している.しかし,2000 年代に 入って前者の出現が少なくなり,後者が比較的多く 出現する傾向に変わってきている. 4.2 大型ケイ藻 Eucampia zodiacus の発生要因 前節で述べたように,2000 年代に入って多発して いる Eucampia zodiacus の発生要因を 2005-06 年漁 期に実施した調査結果を用いて,この発生前後の海 況変動から解析を行なった. この漁期に発生したケイ藻赤潮は年明後の 1 月に

Skeletonema costatum 赤潮,2 月に Eucampia zodiacus

及び Cheatoceros didymum による複合赤潮が形成さ れた. 前者は短期間にとどまり,後者では 2 種が同時に 増殖したものの,Cheatoceros didymum は早期に減少 し, Eucampia zodiacus だけがその後も比較的長期 間増殖し続けた. 0 5000 Sk . c o st at um (c ell s/mL ) 1/16 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 12/ 11 1/ 10 2/ 9 3/ 11 DIP (μ M) DIP Sk. costatum 0 1000 優 占 種 (cell s/mL) 2/24 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 12/11 1/10 2/9 3/11 DIP (μM) E. zodiacus Thalassiosiria sp. 図 7 時期別の共販出荷状況経年変化 これは本種が多種類の DOP を増殖に利用すること が知られており,年明け後の栄養塩は貧栄養で,DIP が最も低濃度時にあったので,リンの利用源として DOP を利用して増殖したものと考えられる。 参考文献 海老原天生(1977):東京湾の水質について,水産海洋研究 会報,Vol.25,116-122 長谷川健一・石井光廣:冬季の東京湾における珪藻プランクト ンの出現状況.千葉県水産総合研究センター研究報告, No.2,25-32, 2007 石井光廣・長谷川健一・松山幸彦:東京湾のノリ生産に影響を 及ぼす環境要因:栄養塩の長期変動および最近の珪藻 赤潮発生.水産海洋研究,72,22-29,2008. 山口峰生・板倉茂・長井敏(2003):生活史特性からみた珪藻 赤潮の発生機構.海苔と海藻,(65),18-22. 板倉茂(2005):有明海におけるノリ色落ちの原因となる珪藻 赤潮について.瀬戸内通信,(2),6-7. 西 川 哲 也 ・ 堀 豊 ( 2004 ) : ノ リ の 色 落 ち 原 因 藻 Eucampia zodiacce の増殖に及ぼす窒素,リンおよび珪素の影響. 日水誌,70(1),31-38 .

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0 5 10 15 20 25 30 35 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 年 度 DI N ( μ g -at / L ) 10月 1月 2月 3月 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 198 9 199 0 199 1 199 2 199 3 199 4 199 5 199 6 199 7 199 8 199 9 200 0 200 1 200 2 200 3 200 4 200 5 200 6 200 7 年 度 生産枚 数( 百 万枚) お よ び 金額( 千万円 ) 0 3 6 9 12 15 18 平 均単価 ( 円/ 枚) 生産枚数 生産金額 平均単価 0 10 20 30 40 50 60 70 80 200 3/1 200 3/4 199 6/4 199 6/7 1996 /10 199 7/1 199 7/4 199 7/7 1997 /10 199 8/1 199 8/4 199 8/7 1998 /10 199 9/1 199 9/4 199 9/7 1999 /10 200 0/1 200 0/4 200 0/7 2000 /10 200 1/1 200 1/4 200 1/7 2001 /10 200 2/1 200 2/4 200 2/7 2002 /10 DI N (μ g -a t/ L ) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 1989/4 1989/7 1989/10 1990/1 1990/4 1990/7 1990/10 1991/1 1991/4 1991/7 1991/10 1992/1 1992/4 1992/7 1992/10 1993/1 1993/4 1993/7 1993/10 1994/1 1994/4 1994/7 1994/10 1995/1 1995/4 1995/7 1995/10 1996/1 1996/4 DI N (μ g -at /L) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 2003/4 2003/7 2003/10 2004/1 2004/4 2004/7 2004/10 2005/1 2005/4 2005/7 2005/10 2006/1 2006/4 2006/7 2006/10 2007/1 2007/4 2007/7 2007/10 2008/1 2008/4 2008/7 2008/10 2009/1 2009/4 2009/7 2009/10 2010/1 2010/4 DI N (μ g -at/ L )

ノリ色落ちと内湾域の栄養塩動態

- 有明海の栄養塩環境とノリ養殖 - ○首藤俊雄・久野勝利・松原 賢(佐賀有明水振セ) 1.はじめに 有明海は全国でも有数のノリ養殖漁場であり、その生産 力を支えている主な要因は栄養塩環境にある。一方、栄養 塩不足によるノリ色落ち被害も発生しており、有明海のみ ならず、各地のノリ養殖漁場でもノリの色落ちは大きな問 題となっている。そこで、ノリ色落ち発生状況と栄養塩動 態等の関連性について検討を行った。 なお、栄養塩等のデータは、1989 年度から 2007 年度ま での全ての海況調査に共通する 8 定点の表層データで、そ の 8 点の平均値を解析に用いた。      6月~7月にDINのピークが 認められた月     ノリ養殖期(10月~2月)に     DINピークが認められた月 2.栄養塩濃度の変動 2.1 季節変動 有明海の DIN の季節変動については、6~7 月の梅雨時 とノリ養殖期間の両方に DIN のピークが出現する2峰型 と、ノリ養殖期間のみにピークが出現する1峰型の2つの パターンを示す傾向が認められる(図1)。しかし、近年 においては、ノリ養殖期のピークが不明瞭になっているよ うである。なお、夏季の DIN ピークの出現には、降水量(河 川水の流入量)が関係しており、降水量が多いと DIN 濃度 が高くなる傾向が認められる。 DIN の最大値の出現時期については、2 峰型と 1 峰型と では異なり、2 峰型の年は 6 月~7 月に最大値を示す場合 が殆どであるが、1峰型の年の多くは 9 月~11 月に最大 値の出現が認められる。一方、最小値はノリ養殖期後半の 2 月、3 月に出現する傾向が強いが、2004 年度以降は、2 月、3 月の DIN が極小まで減少することはなく、最小値が 5 月や 8 月に出現している。 2.2 長期変動 DIN の月平均値による長期変動については、年により DIN の変動は認められるものの、明確な傾向は認められな かった。しかし、月別の変動においては、2000 年前後を 境にして、10 月が微増傾向から減少傾向、1 月~3 月は減 少傾向から増加傾向に転じている(図2)。 図2 DIN の月別の年変動 3.ノリ色落ちに関して 3.1 有明海のノリ漁場と生産状況 佐賀県のノリ漁場を図3に示す。佐賀県のノリ張り込み 枚数は約 31.5 万枚で、有明海の各県(佐賀、福岡、熊本、 長崎)の総和は約 73 万枚、支柱式と浮き流しの割合はお およそ 9:1 である。 図3 佐賀県のノリ養殖漁場 佐賀県のノリ養殖生産金額(共販実績)は、1998 年以 降は豊作と不作を繰り返しながら推移しており、豊作の時 は 200 億を超える生産金額となっている。近年の生産につ いては、2003、2004 は 200 億に僅かに届かなかったもの の、2005 年以降は 3 年連続で 200 億を超えており、生産 金額は高水準で安定している(図4)。 図4 佐賀県のノリの生産状況 図1 DIN の季節変動

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東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 東部 中部 西部 南部 + :ノリ漁期 :ノリ漁期中に確認された色落ち期間 1 0 9 199 199 199 199 199 199 199 200 200 200 200 200 200 上旬 中旬 下旬 10月 上旬 中旬 下旬 11月 上旬 中旬 下旬 年度 2月 上旬 中旬 下旬 1月 上旬 中旬 下旬 12月 199 199 198 5 4 3 2 9 8 7 199 200 2000 6 3 2 1 7 6 5 4 /地区 2003年度 0 1,000 2,000 2003/10/1 2003/11/1 2003/12/1 2004/1/1 2004/2/1 Eucampia Rhizosolenia Rhizosolenia Eucampia 細 胞 数 2002年度 0 1,000 2,000 2002/10/1 2002/11/1 2002/12/1 2003/1/1 2003/2/1 Eucampia

Rhizosolenia Eucampia Rhizosolenia

細胞 数 2001年度 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 2001/10/1 2001/11/1 2001/12/1 2002/1/1 2002/2/1 Eucampia Rhizosolenia Eucampia 細胞 数 2000年度 0 1,000 2,000 3,000 2000/10/1 2000/11/1 2000/12/1 2001/1/1 2001/2/1 Eucampia Rhizosolenia 細胞 数 1999年度 0 1,000 2,000 3,000 4,000 1999/10/1 1999/11/1 1999/12/1 2000/1/1 2000/2/1 Eucampia 細 胞 数 1998年度 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 1998/10/1 1998/11/1 1998/12/1 1999/1/1 1999/2/1 Eucampia Eucampia Eucampia Rhizosolenia 細胞 数 1996年度 0 1,000 2,000 1996/10/1 1996/11/1 1996/12/1 1997/1/1 1997/2/1 Eucampia Rhizosolenia 細胞 数 1994年度 0 1,000 2,000 3,000 1994/10/1 1994/11/1 1994/12/1 1995/1/1 1995/2/1 Rhizosolenia 細胞 数 1992年度 0 1,000 2,000 3,000 4,000 1992/10/1 1992/11/1 1992/12/1 1993/1/1 1993/2/1 Rhizosolenia 細胞数 1990年度 0 1,000 2,000 1990/10/1 1990/11/1 1990/12/1 1991/1/1 1991/2/1 Eucampia Rhizosolenia 1 1 , 7 0 0 細 胞数 東部 中部 西部 南部 2000 0 10 20 30 40 2000/10/1 2000/11/1 2000/12/1 2001/1/1 2001/2/1 2001/3/1 DI N (μ g -at /L ) 0 1 2 3 2000/10 2000/11 2000/12 2001/1 2001/2 2001/3 (μ g -a t/L ) PO 4 -P 0 10 20 30 40 2002/10/1 2002/11/1 2002/12/1 2003/1/1 2003/2/1 2003/3/1 DI N (μ g -at /L ) 0 1 2 3 2002/10/1 2002/11/1 2002/12/1 2003/1/1 2003/2/1 2003/3/1 (μ g -a t/L ) PO 4 -P 東部 中部 西部 南部 2002 3.2 佐賀県のノリ色落ち 1989 年度以降のノリ色落ち被害年は、1996、2000、2002 年度である。2004 年度以降は、短期的な色落ちが発生し ているが、大きな被害には至っていない(図5)。 図6に示す色落ち発生時のDINとPO4-Pの推移を見ると、 DINとPO4-Pが共に必要なレベルを下回っている例と、DIN は必要なレベルを下回っているが、PO4-Pは最低レベルを 維持している例の2通りに分類される。このことから、有 明海においては、DIN不足による色落ちが主体であると考 えられる。 3.3 冬季の大型珪藻の発生状況 佐賀県海域でノリ養殖期に発生する主な大型珪藻はユ ーカンピア、リーゾソレニアであり、1989 年度以降の大 型珪藻の発生年は、1990、1992、1994、1996、1998~2003 年度である。また、その主な発生月は 1 月~2 月である(図 7)。 図5 佐賀県のノリ色落ち出現状況(1989~2007) 図7 大型珪藻の増殖の推移(西部地区:発生年のみ) 4. まとめ ノリの色落ち発生年と大型珪藻プランクトンの発生年 が一致していることから、珪藻の増殖による栄養塩類の減 少がノリの色落ちの主な要因と考えられ、栄養塩類のなか で、DIN 不足がノリの色落ちに大きく関与しているものと 考えられる。 図6 色落ち発生時のDINとPO4-Pの推移

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博多湾の栄養塩環境とノリ養殖

○渕上 哲(福岡県水産海洋技術センター研究部) 1.博多湾の概要 博多湾(正式名称:福岡湾)は九州最大の都市である福 岡市の北部に位置し、東西約 20km、南北約 10km、面積約 133km2の半閉鎖的な湾である(図1)。平均水深は約 10m と浅く、底質は泥~砂泥質がほとんどである。近年では 特に東部海域で埋め立てにより人工海岸化が進む一方で、 湾奥には和白干潟や今津干潟などの自然海岸も残り、野 鳥など多くの生物が生息している。 また、博多港は特定重要港湾の指定を受け東部海域の 広い範囲が港湾区域となっており、コンテナ船や大型貨 物船が頻繁に往来している。一方で、湾内はクルマエビ やシャコの好漁場でもあり、小型底びき網や刺網漁業、 冬期にはノリやワカメの養殖が営まれている。 2.博多湾のノリ養殖の概要 博多湾内ではかつて数百の経営体がノリ養殖を営んで いたが、埋め立てによる漁場の消失や後継者不足等によ り、現在は 2 経営体(うち 1 経営体は協業方式)が残る のみとなっている。養殖形態はごく一部で支柱式、大半 は浮き流し式となっており、張り込み網数は約 1,300 枚 である。生産の大半を占める浮き流し漁場は、博多湾沿 岸部中央の姪浜地先に位置しており、平成 18 年の生産枚 数は約 600 万枚であった。生産は比較的順調に推移して きたが、平成 16 年以降は不安定な状況となっている(図 2)。特に平成 16 年度漁期は、11 月に発生したKarenia mikimotoiによる赤潮が翌年の 3 月まで継続し、栄養塩不 足による色落ちの発生で記録的な不作となった。それ以 降も色落ちの発生は毎年みられている。 3.博多湾の栄養塩環境 半閉鎖的内湾である博多湾には、大小数十本の河川に 加え、約 200 万人が利用する下水道の処理水が流入して おり、これらが主な栄養塩負荷源であると考えられる。 当センターでは湾内に 10 の調査点を設け、赤潮監視の ための調査を基本的に月 1 回行っている。このうち、ノ リ養殖漁場に近い 5 調査点の表層栄養塩平均値を図3に 0 1 2 3 4 5 6 7 8 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 示した。全体的な傾向としては、DIN・DIP 共に夏期に減 少し、冬期に増加する傾向がみられる。また、ノリ漁期 中に DIN は常に 10μM/L 以上であるのに対し、DIP は多い 時で 0.7μM/L、少ないときには 0.1μM/L を割り込むよう な状況がみられる。一般的にノリ養殖において必要な DIN は 5~10μM/L 程度であることから、DIN については十分 量であるといえる。一方、DIP についてはこれまでほとん どノリ養殖における指標が示されていないが、東京湾の 例では 0.5μM/L 以下になると色落ちが発生している(石 井ら,2008)。このことから考えると博多湾で発生するノ リの色落ちは DIP の不足が原因となっている可能性が高 い。 現在はデータの蓄積が少なく、DIP 濃度と色落ちの関連 や、湾内における DIP の挙動については不明な部分が多 い。これらについては今後さらに調査を行っていく予定 である。 参考文献 石井光廣・長谷川健一・松山幸彦:東京湾のノリ生産に影響を及ぼす 環境要因:栄養塩の長期変動および最近の珪藻赤潮発生.水産 海洋研究,72(1),22-29,2008. 図1 博多湾の位置とノリ漁場 図2 博多湾におけるノリ生産枚数の推移 図3 ノリ漁場周辺海域における栄養塩の推移 0.0  0.2  0.4  0.6  0.8  0  5  10  15  20  25  30  35  40  DI P( μ M/ L) DI N M/ L) 生 産 枚 数 ( 万 ) 年 百 枚 DIN DIP

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河川からの栄養塩供給とダムからの緊急放流

○高木秀蔵(岡山水試) 藤沢節茂(香川赤潮研) 1.はじめに 備讃瀬戸は瀬戸内海のほぼ中央部に位置し,岡 山・香川両県に挟まれた閉鎖性の強い場所である. 備讃瀬戸には旭川・吉井川・高梁川の 3 つの 1 級河川が流入し,河川から豊富な栄養塩が供給さ れる.そのため,浮き流し方式によるノリの養殖 が行なわれている.しかし近年,ノリ漁場におけ る DIN 不足によりノリの色落ちが発生し,大きな 被害を受けている.平成 13 年度に 30 億円程度あ った岡山県のノリの生産額は,平成 19 年度には 11.3 億円まで減少した.ノリ漁場への栄養塩の 供給を目的としたダムからの緊急放流が行なわ れたこともあり,近年の DIN 減少の原因究明と河 川から供給される DIN のノリ漁場への影響を明 らかにすることが求められている. 2.栄養塩の季節変動 岡山県海域 33 定点で月に 1 回行なっている浅 海定線調査の 1989 年から 1998 年までの 10 年間 と 1999 年から 2008 年までの 10 年間について, 月ごとの表層の DIN と塩分の平均値を図 1 に示す. 最近 10 年では,過去 10 年と比較すると一年を通 じて,DIN の減少と塩分の上昇が見られる.陸域 からの河川水の流入量が減少したために,河川か らの DIN の供給量も減少し,海域の DIN も減少し た可能性も考えられるが,年変動が非常に大きい ために,はっきりしたことは分かっていない. また,DIN は規則的な変動を示し,7 月と 11 月にピークを示す.その理由については,次のよ うに考えられている.6~7 月の降雨により陸域 から栄養塩が供給され,DIN も増加するが,8~9 月には植物プランクトンが大量に発生して,DIN は取り込まれ減少する.一方,植物プランクトン はその後,底層に沈降,分解され底層に DIN がス トックされる.10 月頃に海水の上下交換がおこ り,底層から DIN が表層に供給され,11 月にピ ークを示す.その後は,降雨の減少と共に,徐々 に DIN の量は減少する.これらのことは,7 月に 河川水の流入により塩分が最も低下し,2 月に塩 分が最も高くなることからも支持される. 3.河川からの栄養塩供給 2007 年 12 月 6 日から 2008 年 2 月 20 日まで, の児島湾口から備讃瀬戸北部の 19 測点に塩分自 動観測計を水深 0.5m に設置し,10 分に 1 回塩分 を測定した(図 2).10 日に 1 回程度の間隔で測 器のメンテナンスと共に,採水を行い,塩分と DIN の関係を調べた. 図1 調査海域.●は塩分自動観測計設置位置,陰 影部はノリ漁場を示す.KJ:京ノ上﨟島 9 KJ 児島湾 吉井川 ↓ 旭川 ↓ 2 k m 図2 調査海域 ●は塩分自動観測計の設置 位置,陰影部はノリ漁場を示す KJ;京ノ上﨟島 図2 (a) 測点9 および京ノ上﨟島の塩分記 録,宇野港潮位(細線),(b) 塩分から算定 したDIN の時系列記録. 28 29 30 31 32 33 34 12/7 12/8 12/9 12/10 12/11 12/12 Sa lin it y -150 -50 50 150 250 350 450 Ti de a t U no ( c m ) Stn 9 京ノ上﨟島 宇野港潮位 0 2 4 6 8 10 12/7 12/8 12/9 12/10 12/11 12/12 DI N ( μ M ) Stn 9 京ノ上﨟島 (a) (b) 2007 図 3 (a) 測点 9 および京ノ上﨟島の塩分 記録,宇野港潮位(細線),(b) 塩分から算 定したDIN の時系列記録. 8 8 4 図1 DIN と塩分の季節変動 図 3(a) に測点 9(湾口から 4 km)およびKJ(同 10 km)の塩分記録および宇野港の潮位を示す.

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図に示した 12 月中旬は,当該海域に流入する旭 川+吉井川の日平均流量が 30 m3/s程度であり, 年間最少であった.河川水は下げ潮時にのみ児島 湾口から海域に出てくることが分かった.測点9 には,河川系水はきわめて間欠的に届き,その時 間は干潮後1時間である.測点KJには,河川系水 は干潮後4時間に届く.海域のどの測点において も,河川系水は間欠的に届き,その潮時はほぼ一 定していた. 海域の塩分と DIN 濃度の間には高い負の相関 が見られたr = 0.96(p <0.01).y=-1.79x+62.13 (y:DIN,x:塩分)この関係式を用いて測点 9 と KJ の DIN 濃度の時系列を推定した(図 3(b)). 図 に示した期間は海域の DIN 濃度は約 1μM と DIN が枯渇した状態であるが,測点 9 のノリは間欠的 に 6μM を超える河川水由来の DIN に曝露されて おり,測点 KJ でも 2μM の濃度に曝露されている と考えられる. 4.河川流量と海域での河川水の拡散範囲 図 4(a)に 2007 年 12 月 22 日から 25 日までの宇 野港の潮位と測点 8 の塩分の変化を示し,同期間 の干潮時の塩分の水平分布を図 4(b)に示す.12 月 22,23 日の旭川+吉井川の日平均河川流量は 31.0m3/s・35.6m3/sであったが,24 日は 86.9m3/s となり前日と比べて 51.3m3/s増加した.23 日の 干潮時の塩分は 30.8 であったが,24 日の干潮時 には 22.1 となり,河川流量の増加に伴って,干 潮時の塩分の低下は大きくなった.塩分の分布範 囲についても流量の増加した 24 日では 22,23 日 と比べると広い範囲で塩分の低下がみられた.こ れらのことから,河川流量の増加に伴い河川水の 拡散範囲は拡がり,影響も大きくなることが分か った.また,流量が増加した 24 日でも下げ潮時に のみ塩分は低下したことから,河川流量が増加し ても,河川水は下げ潮時においてのみ海域に流出 することが考えられた. 5.ダムの上乗せ放流の影響 2008 年 1 月 16 日の午前 9 時から吉井川水系で 合計 4m3/sの緊急の上乗せ放流が行なわれた.16 日の旭川+吉井川の日平均流量は 37.2m3/sであ ったが,17 日には 40.8 m3/sへと増加した.図 5 に 2008 年 1 月 16 日から 18 日までの測点 9,4 の 塩分の記録と宇野港の潮位を示す.16 日の干潮 時の測点 9,4 の干潮時の塩分は 32.3,33.5 となり, 測点 4 では塩分の変化は見られず,河川水は測点 4 まで届いていなかった.しかし,流量の増加し た 17 日の干潮時の測点 9,4 の塩分は 29.2,30.7 となり,測点 4 でも塩分が低下し,河川水は測点 4 まで届いていた.また,測点 9 では前日より大 きく塩分は低下した.これらのことから,10%程度 大きくなった可能性が考えられた. まとめ 備讃瀬戸のDIN は季節毎にも潮汐毎にも河川 水の影響を受けて変化することを紹介した.特に, ノリ養殖においては,間欠的にではあるものの河 川水からDIN が供給されることが考えられた. また,河川流量の増加に伴って,河川水の広がる 範囲が変わることも分かった.このことから,河 川流量の増加により,短時間でも河川水による DIN 供給の範囲が広がれば,ノリの色調が維持 される範囲も広がると推定できる.しかし,河川 流量の変化と河川水の広がりについては不明な 点も残る.特に,小さな流量の変化に対しては,風 などの影響も受けるために,正確に把握すること ができない.河川流量と拡散範囲の関係を定量的 化するためには,注意が必要である. 今後は冬場だけでなく,一年を通じて河川から 海域への供給される栄養塩の量と動態を調べる 予定である.これにより,河川水が海域の DIN 変動に与える影響を明らかにすることが出来れ ば備讃瀬戸の近年のDIN の減少について明らか にできると考える. 図4 (a) 測点 8 の塩分と潮位の変化 図4 (b) 干潮時の塩分の水平分布図 (b) (a) 図5 上乗せ放流中の測点 9,4 の 塩分と河川流量・潮位の変化 37.2m3/s 40.8m3/s

図 2  知多湾,渥美湾における冬季(12~2 月)赤潮発生延べ日数 渥美湾0102030405060708090 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07年度延べ日数ノクチルカ不明繊毛虫類ノクチルカ以外の鞭毛藻類珪藻類知多湾010203040506070809073 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 8

参照

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