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Ⅰ. 当院の現状 1999 年に日本看護協会が策定したガイドラインより転倒を予測するための転倒リスクアセスメントツールの有用性が示され 当院でも 転倒予防を目的に入院患者の転倒の危険度を予測し 2003 年から転倒アセスメントシートを使用していた しかし 年間転倒事象数は約 500 件あり 骨折等の

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Academic year: 2021

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平成 29 年度 東京都看護協会都民公開講座

医療安全フォーラム

『在宅や施設内で転ばないために

NTT 東日本関東病院の取り組み』

NTT東日本関東病院 中谷速男(医師)  田邉直人(薬剤師)  中尾正寿(看護師) 濱添陽平(理学療法士)  東京都看護協会 医療安全委員 益田 亜佐子(看護師) はじめに  人間は、歩行するためには、片足で立つ能力(バランス力)が必要であるが、高齢者になる と骨や関節軟骨の変化、筋力低下となりバランス力が低下し、転倒を起こしやすい状況にある。  高齢者の転倒は、大高1)によると 3 人に一人は 1 年間に 1 度以上の転倒を経験するとされ、 転倒・骨折は脳血管障害や認知症、高齢による衰弱に続いて主要な要介護の原因となってい る2)。高齢者が健康寿命を延伸させるためには、転倒・骨折を予防することの意義は大きい。また、 転倒の要因は、加齢に伴う運動機能低下を背景に、栄養状態や薬物の服用、痛みなど複数の要 因が重なり(図1)起きることが多く、さらに転倒後外傷がなくても転倒による恐怖や自信の 喪失により歩行障害をきたす転倒後症候群となり、生活機能の低下を余儀なくされ寝たきり状 態に陥りやすく、その予防は大変重要である。 図1転倒の要因

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5 Ⅰ.当院の現状  1999 年に日本看護協会が策定したガイドラインより転倒を予測するための転倒リスクアセ スメントツールの有用性が示され、当院でも、転倒予防を目的に入院患者の転倒の危険度を予 測し、2003 年から転倒アセスメントシートを使用していた。しかし、年間転倒事象数は約 500 件あり、骨折等のよくない転倒事象の発生も年間 10-15 件程度の発生が続き、転倒件数 を減少させることができなかった。  2013 年の転倒の発生件数は 520 件であり、この分析を行った。時間帯でみると夜間と早 朝に多く発生していることが分かった(図2)。2012 年の転倒発生率は、当院は 3.3‰であり 全国平均3)(2.52‰)と比較しても発生率が 3 割程度高い状況であった。 図2)転倒転落の時間帯別の発生状況  転倒発生時間別にみると深夜と起床時に多いことが明らかになった。院内の転倒報告レポー トでは、転倒の原因として睡眠薬を服用している患者・スリッパを履いているが多かったため、 履物と転倒が関係していること睡眠薬と夜間や起床時の転倒に関係があるのではないかと予測 した。  また、転倒アセスメントの結果、高リスク患者が多く転倒しているのではなく、低リスク・ 中リスク患者も多く転倒していることが明らかになり、正しく転倒リスクをアセスメントでき ていない可能性が考えられた。さらにリスク評価に応じた転倒予防対策が標準化されていない ため、転倒予防対策は看護師個人によって異なっていることが考えられた。  そこで、1.転倒リスクアセスメントツール 2.リスク評価に応じたケア 3.入院中に 使用する履物 4.睡眠薬の使用に着目して看護師だけでなく医師・薬剤師・理学療法士とと もに転倒防止対策を考えることにした。

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Ⅱ.転倒防止対策 1.転倒リスクアセスメントツール 1)現状分析とアセスメント  まず、当院における転倒する患者像を明らかにする必要があったため、転倒した時の患者の 既存の転倒リスクアセスメントシート(表1)の分析を行った。その結果、「歩行時のふらつき」 「目立った行動」「自由意志で動ける」「転倒転落の既往」「視力障害がある」「睡眠安定剤を使用 している」の項目で転倒リスクが高まり、「65 歳以上 9 歳以下」「骨・関節異常がある」「術後 3 日以内」の項目では転倒リスクが低くなっていった。既存の転倒リスクアセスメントシートは、 他病院で使用していた転倒リスクアセスメントシートを当院用に改良したものであり、十分に 転倒リスクを評価できていないと考えられた。また、項目数が多いことと転倒アセスメントと 転倒防止対策がリンクしていなかったこともあり、アセスメントシートは書くことが目的になっ ている可能性があった。  そのため、海外で広く使用されている Morse スケールシート(表2)を導入することにした。 Morse スケールは、1.転倒歴 2.合併症の有無(入院の原因と疾患以外の疾病を持ってい るか否か)3.歩行補助具の種類 4.静脈注入療法の有無 5.歩行 / 移乗の状況 6.精 神状態の 6 項目で評価するようになっている。 表1)旧転倒アセスメントシート

転倒

アセスメントシート

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7 表2)Morse スケールシート 2)アセスメントのタイミング  転落アセスメントは入院時に行っているが、入院当日夜間に精神状態が変化したり、当日夜 間に転倒する患者も多く、患者の歩行状況や精神状態を正しくアセスメントできていない可能 性が示唆された。  また、特に転倒しなければ通常 1 週間毎にアセスメントを行っていたが、検査や手術後では 身体的・精神的な変化が大きく転倒リスクが高くなっていると判断し、アセスメントする機会 を増やす必要があると考え入院日、入院翌日、侵襲的な検査・手術日とその翌日にもアセスメ ントすることをルールとした。 3)アセスメントのばらつきをなくす  Morse スケール項目の 5 の歩行 / 移乗の評価が『損なわれている』と『弱い』との違いが分 かりづらく、看護師個々の判断によってばらつく可能性があった。  看護師が正しく歩行 / 移乗の評価を実施するために、理学療法士による転倒チェックポイン トと歩行について学習会を開催した。足部の役割や、姿勢・立ち上がり動作に支えを必要とす るのか、足を閉じて立つことができるのか、さらに歩行時の立ち上がり⇒方向転換⇒着座時の 目線の位置、姿勢、足の運び方など歩行や移乗のために必要な筋力やバランス能力について、 理学療法士が実際の患者の動画で説明することで理解を深めることができた(図2・図3)。

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図2)足部の重要性について 図3)転倒のチェックポイント 2.リスク評価に応じた対策  部署で行っていた対策は、院内での標準化された対策としては確立されていなかったため、 看護師の判断や経験などで対策が異なっていることも問題であった。また部署でどのような転 倒対策を行っているか明らかになっていないことも課題であった。  Morse スケールを導入し、それぞれのリスクの状況にあった転倒防止対策を標準化し医療安 全管理室と看護部リスクマネジャーが転倒リスク別看護計画を立案し全部署で転倒危険度別対 応策を導入した(表3)。

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9 表3)転倒危険度別対応策について 3.入院中に使用する履物 1)履物について  転倒報告レポートを分析した結果、転倒した患者の多くがスリッパを履いていることが明ら かになった。スリッパでは踵が安定しないため転倒のリスクが高くなるため入院患者に踵のあ る履物を使用することや、病院内での危険な箇所についてパンフレットを作成し患者・家族に も注意を促すような働きかけを行った(図4)。  定期的に入院患者の履物調査を看護部リスクマネジャー(以下RM)が実施し、履物と転倒 件数の推移をグラフ化にして、リスクマネジャー会議で公表した。部署での取り組みを共有す ることで、徐々に患者の踵のある履物の使用率が増加していった(表4)。  履物調査時には、院内で着用している履物の資料を作成してだれでも同じように調査できる ような見本を作成した。(図5)当院では④~⑧までがかかとのある履物であると定め患者に推 奨した。

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図4)患者教育パンフレットの 1 例 図5)履物調査時の履物の見本 2014.5 患者安全委員会 患者さまへ ~転倒転落にご注意ください~ 年齢の変化とともに、私たちの身体の機能は徐々に低下します。 特に高齢者は筋力・平衡感覚・視力の低下により 転倒や転落といった事故につながる危険性が高まります。 便器に座る時 注意しましょう! 便器から立ち上がる時 注意しましょう! スリッパは大変滑りやすい ので、シューズを履きましょう トイレは大変危険な場所です。 少しの段差でも つまづいたり、 何もないところで も転びやすくなっ たりします すり足歩行 も転倒の大きな 原因です 視力や視覚が低下することで、 身体のバランスが崩れやすくなります 睡眠薬の影響で、 歩行の際ふらつくことがあります

患者教育

安全な履物の推奨

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1 1 表4)かかとのある履物資料率の推移 4.薬剤について 1)睡眠薬について  転倒リスクアセスメントシートの分析結果から睡眠安定剤の使用が転倒リスクに関与してい ることが明確となった。睡眠安定剤は各科の医師の判断に委ねられており、各科バラバラの指 示であった。また不眠とせん妄についてよく理解していないまま睡眠薬を投薬している状況も あったため専門家による「せん妄」について講演会を開催した。  看護師も不眠の原因をよくチェックしないまま薬剤投与していたこともあり不眠の原因を チェックした上で、不眠による患者の苦痛がある場合に使用する薬剤を選定し院内統一指示を 作成した(表5)。その結果、睡眠薬が定時処方される人数が減少していった(表6)。 表5)不眠時対象指示

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表6)睡眠薬定時処方延べ人数の推移 6.転倒件数の減少  2014 年から転倒転落に対して色々な対策に取り組んできた結果、対策実施前の 2013 年 と 2016 年の比較では、入院患者総数転倒件数が 520 件から 343 件に減少し(図6)、夜間 と明け方の転倒数が大幅に減少し(図7)転倒発生率も 2012 年 3.3‰から 2015 年 2.27‰ まで低下し全国平均4)(2014 年度 2.81‰)と比較しても低い水準となった。 図6)入院患者における転倒発生数の推移

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1 3 図7)2013 年と 2016 年の時間帯別転倒数の比較 Ⅲ.まとめ  転倒防止対策に取り組んだ結果、3 年目から転倒件数が減少してきた。転倒の原因を細かく 分析したことで、漠然としていた問題点が明らかとなり、何から解決すべきなのかがわかり、 多職種で協力して転倒防止対策に取り組んだ結果が転倒数の減少につながったと考えられる。  当院での転倒を減らすことができたポイントは、医師が先導してコメディカルと一緒に転倒 予防対策を考え、各職種に浸透させることができたこと、看護師だけでは決して解決できなかっ た不眠時の指示の問題も医師と一緒に取り組んだことで、統一化ができたと考える。  看護師全員が転倒予防に対する意識改革を行うために、医師・理学療法士からも転倒が起き るメカニズムを医学的に学び、転倒アセスメントの変更、標準転倒防止対策について理解を深 めたことも影響したと考える。また、退院後も転倒しないために、転倒予防対策が継続できる ように患者・家族に指導を行い転倒予防の意識を高める努力を行っている。  今後、さらに患者の高齢化が進み転倒リスクはますます高くなり、転倒件数を0にすること は難しい。しかし、骨折など有害な転倒をいかに少なくし患者のQOLを低下させないためには、 患者像、転倒の要因などを分析・把握することが大切であり、だれでも転倒する可能性がある ことを認識したうえで転倒予防策を常に考えていく必要がある。 引用文献 1)大高洋平 高齢者の転倒予防の現状と課題 日本転倒予防学会誌 Vol.1:11-20 2015 2)平成 25 年度国民生活基礎調査の概要 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/05.pdf__ 3)日本病院会 QI プロジェクト結果報告書 2012 年度 4)日本病院会 QI プロジェクト結果報告書 2014 年度

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