1.背 景 日本での医薬品開発は,国民へ最先端の医療を提供する という観点から非常に重要である.全国治験活性化 3 カ年 計画で,大規模治験ネットワークという用語が策定され, 全国的な広がりをもつネットワークとして日本医師会治験 促進センターで医療機関の登録を行っている1) .また,臨 床研究・治験活性化 5 か年計画 2012(平成 24 年 3 月 30 日) においても症例集積性の向上の観点から病床数 400〜500 床の 3〜5 つの医療機関があたかも 1 つの医療機関のよう に機能できる体制を構築する2) よう求められている.さら に日本医師会治験促進センターでは平成 27 年度までに計 8 回の治験ネットワークフォーラムを開催し,各ネット ワークの体制整備の推進を行っている3). 2.学校法人 昭和大学の取組み 昭和大学では,治験・臨床試験の促進を目指して,平成 23 年 10 月に臨床試験用の 44 床のベッドを持つ昭和大学 臨床薬理研究センター(現:昭和大学臨床薬理研究所)を 設 置 し,First in Human 試 験(以 下,FIH 試 験),First in Japanese 試験(以下,FIJ 試験),患者対象臨床薬理試験,生 *1昭和大学医学部薬理学講座臨床薬理学部門 *2 昭和大学臨床薬理研究所 *3 昭和大学病院臨床試験支援センター *4 昭 和大学薬学部病院薬剤学講座 著者連絡先:三邉武彦 昭和大学医学部薬理学講座臨床薬理学部門 〒 142-8555 東京都品川区旗の台 1-5-8 E-mail:[email protected] 投稿受付 2016 年 8 月 8 日,第 2 稿受付 2016 年 9 月 29 日,掲載決定 2016 年 9 月 29 日
ISSN 0388-1601 Copyright:©2017 the Japanese Society of Clinical Pharmacology and Therapeutics(JSCPT)
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真
一
*2,*3*1
Department of Clinical Pharmacology, School of Medicine, Showa University, Japan
*2
Showa University Clinical Research Institute for Clinical Pharmacology and Therapeutics, Japan
*3
Showa University Hospital Clinical Trial Support Center, Japan
*4
Department of Hospital Pharmaceutics, School of Pharmacy, Showa University, Japan
Takehiko SAMBE*1,*2, Takeshi UCHIKURA*3,*4, Taigi YAMAZAKI*2, Noriko HIDA*1,*2, Sachiko TAKENOSHITA*2, Kakei RYU*2, Tatsunori SUZUKI*2, Naoki UCHIDA*1,*2and Shinichi KOBAYASHI*2,*3 Promotion of Clinical Research Including Clinical Trial and Practical Practice in University Hospital―
Construction of a Clinical Trial Network System for Eight Hospitals of Showa University
大学病院における臨床試験
(治験)
の促進と実地教育の促進
―
昭和大学 8 附属病院治験ネットワークの構築
―フォーラム
Drug development in Japan is very important to the nation from the point of view of providing the highest level of medical care in Japan. Grouping multiple medical institutions to form a large clinical trial network is indispensable for drug development with respect to improvement of case recruitment. Showa University has eight affiliated hospitals in Tokyo and Kanagawa with a total of 3,200 beds, and is engaged actively in the promotion of clinical trials and clinical research. From July 2012, the Showa University Hospital Clinical Trial Support Center played a leading role to coordinate with the Clinical Trial Support Offices of the eight affiliated hospitals, holding a clinical trial support joint meeting once every three months. A working system was established for standardization of formats and costs as well as joint operation of the IRB, eventually leading to the establishment of a clinical trial network for the eight hospitals of Showa University. Also, a large number of clinical studies that can only be conducted in the university hospital setting have been conducted. Education on clinical trial and clinical research is important not only for medical staff including physicians, dentists, pharmacists, nurses, and laboratory technicians, together with students of medical sciences, but also for staff outside medical institutions including pharmaceutical companies. In this article, we report the issues encountered and their solutions while constructing the clinical trial network for eight hospitals of Showa University. Furthermore, we propose the future challenges of this network, which we hope will provide a reference for other organizations.
Key words : clinical trial, clinical research, clinical trial network, clinical practice, clinical trial system
物学的同等性試験などのさまざまな臨床薬理試験を実施し ている.平成 24 年からは昭和大学病院,昭和大学病院附属 東病院,昭和大学藤が丘病院,昭和大学藤が丘リハビリテー ション病院,昭和大学横浜市北部病院,昭和大学江東豊洲 病院,昭和大学附属烏山病院,昭和大学歯科病院の 8 つの 附属病院計 3200 床を治験ネットワーク化できるように体 制整備を行ってきた.昭和大学病院臨床試験支援センター が中心となり,各附属病院の臨床試験支援室の CRC およ び事務員と連携しながら治験・臨床試験を行えるようにサ ポート体制を構築している.同年 7 月からは 3 カ月ごとに 支援センター,各支援室メンバーが集まり治験支援合同会 議を実施し,それまで 8 病院で統一されていなかった規 程・経費などの統一,各病院 IRB の相互活用体制の構築等 を行い,昭和大学附属病院がネットワークとしての治験実 施体制を整えてきた. 3.昭和大学 8 附属病院の目標 昭和大学 8 附属病院では,3 つの目標を掲げている. ①:早期・探索的臨床試験(第Ⅰ相試験から早期第Ⅱ相 試験:Proof of Concept(POC)試験)を昭和大学臨床薬理研 究所と附属病院間でシームレスに実施する.これは,同一 法人内で早期・探索的臨床試験を実施し,少しでも早く, また効率よく医薬品開発に貢献できるというメリットがあ る.また,第Ⅰ相試験での有害事象など,第Ⅱ相以降の試 験を同一法人内の臨床薬理の医師と臨床現場の医師が情報 共有できるというメリットもある. ②:附属病院の各診療科の特長を活かし,患者対象 PK/ PD 試験,臨床試験を実施する.昭和大学臨床薬理研究所 のスタッフが中心となり,各病院の PK/PD 試験実施のサ ポートを行っている. ③:8 病院が協力して,第Ⅱ/Ⅲ相試験の同一プロトコル の臨床試験を実施し,ALL SHOWA としてより多くの症例 を実施する.3200 床というスケールメリットを活かして, 多くの症例数と均質なデータの確保に繋げる. 4.スタッフについて 平成 28 年 4 月現在,昭和大学病院臨床試験支援センター には CRC 7 名,事務員 3 名の体制を取っている.各病院の 支援室は,藤が丘病院/藤が丘リハビリテーション病院が CRC 3 名,事務員 2 名,横浜市北部病院が CRC 3 名,事務 員 2 名,歯科病院が CRC 2 名,事務員 2 名,平成 27 年 3 月に開院した江東豊洲病院には CRC 1 名,事務員 1 名の 体制になっている.烏山病院にある昭和大学臨床薬理研究 所には,臨床試験を行う医師が 6 名で,そのうち 4 名が臨 床薬理専門医である.烏山病院の支援室とほぼ一体となっ て CRC 6 名,事務員 4 名の体制を取っている(Table 1,8 附属病院の支援スタッフ).22 名の CRC のうち半数の 11 名が日本臨床薬理学会認定 CRC である.また,昭和大学 病院,昭和大学横浜市北部病院に加え,臨床薬理研究所を 有する昭和大学附属烏山病院は,日本臨床薬理学会専門医 の研修施設にも認定されており,医師をはじめ,昭和大学 内の各学部の学生やコメディカルへの治験・臨床試験にか かわる教育を行っている. 昭和大学臨床薬理研究所では,FIH 試験,FIJ 試験,生物 学的同等性試験の実施時に学校法人内の各病院から必要に 応じて看護師・検査技師・医師などスタッフの支援を得て いる.また各附属病院で患者対象 PK/PD 試験を実施する 際には,研究所の医師等スタッフがサポートに行く.つま り,法人内の各附属病院と臨床薬理研究所が連携し,院内 スタッフのみでの対応が難しい場合には,他病院から CRC や医師等のスタッフを相互にサポートできる体制を とっている.この相互の関係により各病院のスタッフの情 報交換(情報の均一化)もでき,さらに経験の少ない部分 に対しては,それを補うことによって質の高い治験を実施 できている. 5.企業から昭和大学への要望 企業(平成 28 年 4 月現在:39 社)とのミーティング時 に,昭和大学のネットワークを活かした取組み・臨床薬理 研究所について以下のような要望が挙がっている(Figure 1,治験依頼者からの要望).要望・質問で挙げられたのは, 16 臨床薬理 Vol. 48 No. 1�2017� フォーラム Table 1 昭和大学の治験支援スタッフ 薬剤師 9名 臨床検査技師 4名 看護師 8名 歯科衛生士 1名 薬剤師 3名 臨床検査技師 1名事務員 11名 CRC:22名 治験事務局:15名 (一部兼務を含む) 江東豊洲病院 CRC 事務局 昭和大学病院/東病院 藤が丘病院/ 藤が丘リハビリテーション病院 横浜市北部病院 烏山病院/臨床薬理研究所 歯科病院 1名 7名 3名 3名 6名 2名 1名 3名 2名 2名 4名 2名 パネル・特殊疾患 診療科との連携 IRB・契約手続き関連 モニタリング効率化 モニター研修 コスト プロトコル相談 データの品質 内資系 外資系 (社) 30 25 20 15 10 5 0 Figure 1 治験依頼者からの要望
健康成人を対象にした被験者パネルに加え,腎疾患や肝疾 患などの特殊疾患パネルの有無,治験体制を整えている臨 床薬理研究所・臨床試験支援センターと各病院の診療科と の連携体制,また病院をまたいだ同一診療科の連携体制, モニタリング効率化に関する昭和大学の取組み,企業向け モニター研修の具体的な研修内容や一度に実施可能な人 数,これまでの実施実績・費用等に関すること,IRB の手 続き,各病院の IRB の日程や窓口に関することであった. このような依頼者の要望をもとに,大学病院での治験実 施に関するあり方等を検討し 8 附属病院の体制整備に役立 てている. 6.体制整備の具体的な内容 これまでに 8 附属病院内で整備した項目は,以下の項目 である. 治験関係 1 .臨床研究(治験/臨床試験等)標準業務手順書の統一 2 .臨床試験審査委員会標準業務手順書の統一 3 .臨床試験実施契約書/費用の統一 4 .疾患名ベース・プロトコルベースでの症例数把握 5 .法人内全部署に対し,3 カ月ごとの「治験ニュース」の 発行 6 .治験実施率向上のためのワークショップの開催 7 .症例の詳細な進�管理 8 .治験実施計画書からの逸脱の情報共有 9 .『昭和大学 8 病院臨床試験(治験)ネットワーク』ホー ムページの作成(URL:http: //showa-u-chiken.com/) 臨床研究・その他 1 .研究倫理等の講習会受講の義務化(3 年ごとの更新制) 2 .研究倫理等講習会を各附属病院で開催 3 .研究倫理等講習会の出席証明書の統一 4 .各学部・各病院の臨床研究審査申請書の統一 5 .モニタリング・監査の規定および手順書の作成 6 .臨床研究実施計画書の作成サンプルの作成と公開 ネットワークとしての体制整備を行う際に,8 病院の支 援センター,支援室メンバーが 3 カ月に 1 回集まる治験支 援合同会議を立ち上げ,現場の意見を集約する機会を設け た.その後,各附属病院間の標準業務手順書,臨床試験審 査委員会の手順書などの現状を把握し統一した.また複数 の附属病院間で同一治験を受託した場合,治験を実施する 1 つの病院の IRB で審査を行えるよう IRB 相互活用体制 の運用を開始した.その後合同会議メンバーで『治験実施 率の向上』というテーマでワークショップを行い,現在で はプロトコルベースでの実施可能症例数把握を行ってい る.プロトコルベースの症例数把握は,依頼者と 8 病院を 含む学校法人とで秘密保持契約を締結し,治験依頼者より プロトコルの概要(選択・除外基準等)を提示してもらい それに則って行っている.原則 2 週間以内に 8 病院のプロ トコルベースの症例数を依頼者へ回答し,契約症例数を決 定し,治験実施率の向上を図っている.治験ニュースは, 2 カ月に 1 度持ち回りで発行している.各施設としては, 年に 1 回程度の作成になり,そこまでの負担はなく昭和大 学の治験・臨床試験に関する情報を案内できている.内容 としては,治験責任医師へのインタビュー,施設担当 CRC の共同治験での取組み・工夫など,施設の治験実施件数, 学会発表報告,倫理講習会の開催報告などで治験ニュース を執筆することで,施設以外の取組みを知ることができ, 大学内の治験に関する情報を共有することができると考え ている. 臨床試験に関しても,倫理講習会の各附属病院での開催, 出席証明書の統一,モニタリング・監査の手順書の作成, 臨床研究実施計画書の作成サンプルの公開など 8 病院全体 での統一を図ってきた. 上記の体制作りを行ううえで,2 つの問題が段階的に生 じた.まずはじめに「ネットワークとしての新しい業務を 始める段階」,そして業務の大まかな統一が進み,「実際に 共同実施の治験が動き出した段階」である. ネットワークとして動き出すためには,各施設の標準業 務手順書,臨床試験審査委員会手順書,契約書の統一など が必要となった.現状把握と統一案の作成が必要になり, 通常業務に加えた業務が発生した.また各施設でこれまで に交流が少なかった点も問題点として挙げられた.昭和大 学病院臨床試験支援センターの事務局が,各支援室の事務 担当から情報を集め現状把握を行い,手順書等の類似点や 相違点をまとめた資料を作成することにより各病院の業務 の負担がなるべく少なくなるように進めた.一度の会議で は決まらない課題もあったが,現場の意見もできるだけ盛 り込みながら 8 病院治験支援合同会議で統一案を作成し た.また 8 病院治験支援合同会議を継続的に 3 カ月に 1 回 行うことで,各施設のコミュニケーションを保つようにし た.大まかに統一が進んだ段階でも,細かな病院内の規程 との相違があった.例えば被験者への負担軽減費の請求時 期など.そのため,各病院の事務担当が,8 病院治験支援合 同会議で議論を重ね解決策を探った.実際に共同実施の依 頼があった場合には,IRB をどこで行うか,依頼者はどこ を窓口として医師の面談等のやりとりをすればよいのかな どの問題が生じてきた.そのためネットワークを取り仕切 る昭和大学病院臨床試験支援センターが,どの病院で治験 を実施するか,IRB をどこで開催するか依頼者と協議の窓 口となり,各施設におけるプロトコルベースの症例数調査 の取りまとめも行った.また各附属病院の責任医師との打 ち合わせの日程調整などについては,各施設の事務担当者 と依頼者が連絡をとりあうことで対応した.今後も 8 病院 治験支援合同会議を実施し,よりよい形のネットワーク構 築を進めていきたいと考えている.
7.治験・臨床試験実施状況 臨床薬理研究所開所時から現在まで過去 4 年間のデータ を示した(Table 2,臨床薬理研究所 臨床試験受託実績). 白人を対象にした FIH 試験を含めて第Ⅰ相試験を 8 件実 施し,生物学的同等性試験を 7 件,第Ⅲ相試験を 1 件,昭 和大学内の医学部・薬学部と連携した医師主導臨床研究を 9 件実施した,そのうち学術論文として 5 編が報告されて いる.学内の診療科,他学部,他研究所との共同での臨床 研究の相談や実施も増えてきている.独立行政法人 医薬 品医療機器総合機構(PMDA)による GCP 実地調査も受け, 多岐にわたる経験を培ってきている.8 病院での年間新規 治験契約数は,臨床薬理研究センターが開所した平成 23 年度で 25 件,8 病院治験支援合同会議を開始した平成 24 年度が 29 件,8 病院連携実施体制を確立した平成 25 年度 が 34 件,平成 26 年度 41 件,平成 27 年度 49 件と年々増加 している.特に平成 25 年度に 8 病院でのネットワーク体 制を確立した後は,治験受託数が増加している(Figure 2, 8 病院全体での治験受託実績). 8.昭和大学における新たな実地教育の取組み 本分野の人材育成に関する教育は,大学の使命でもある. 臨床試験(治験)においては,学部生での教育はもちろん のこと,卒後教育も重要になってくる.またアカデミアだ けでは医薬品開発は行えないので,医療機関外の人々,製 薬企業の開発担当者等との協力による人材育成も必要であ る.学部教育であるが,昭和大学には,医学部・薬学部・ 歯学部・保健医療学部がある.それぞれの学部では臨床研 究・治験に関する講義形式での教育を行っている.加えて, 18 臨床薬理 Vol. 48 No. 1�2017� フォーラム 平成23年度:25件(すべて医薬品) 平成24年度:29件(うち医薬品26件、医療機器3件) 平成25年度:34件(うち医薬品31件、医療機器3件) 平成26年度:41件(うち医薬品37件、医療機器4件) 平成27年度:49件(すべて医薬品) 平成23年度 平成24年度 平成25年度 平成26年度 平成27年度 平成24年7月 8病院合同会議スタート 平成25年6月 8病院連携 実施体制の確立 平成23年10月 臨床薬理研究センター開所 (現 臨床薬理研究所) 0 10 20 30 40 50(件) Figure 2 昭和大学における新規治験受託実績 Table 2 昭和大学臨床薬理研究所における臨床試験受託実績 試験の種類 受託件数 受託症例数 患者例数 投与経路 内服 外用 注射 合計 第Ⅰ相臨床試験(※) 生物学的同等性試験 第Ⅱ相臨床試験 第Ⅲ相臨床試験 8 7 0 1 9 25 169 249 0 30 157 605 8 0 0 15 0 23 その他 (医師主導臨床研究等) 合計 15 5 3 23 299 97 116 512 受託件数 症例数 (5.3件/年) (※)白人を対象とした試験(3 試験)、FIH、臨床薬理試験を含む (平成28年6月現在)
臨床薬理研究所での見学形式の実地教育も行っている.具 体的には,薬学部・医学部・歯学部の 5・6 年生の治験業務 (スクリーニング検査,投薬,PK 採血など)の見学,薬学 部 5 年生のインターンシップの受け入れ,海外の薬学部学 生・薬剤師の研究所見学などである.大学全体で臨床薬理 学に精通し,臨床試験(治験)も実施できる専門の教員が 10 名おり,医師 6 名(歯科医師 1 名),薬剤師 4 名である. それぞれの職種のスタッフが現場での経験から,講義形式 では学べない実地での教育を行っている.現在,薬学部の 卒後教育として,薬学部病院薬剤学講座に所属する教育職 員を対象にした実地教育を実施し,各病院でも治験業務を 均質に行えるように取り組んでいる.一方,製薬企業等の 人材育成としては,医療現場を理解してもらうという観点 から,企業等のスタッフを対象に,ニーズに合わせた研修 内容を検討し実施している.医薬品開発を製薬企業と医療 機関で同一の考え方を共有するために,現場の問題点等に ついてディスカッションを行っている.また平成 27 年か らこのような取組みを始めて半年で 2 件の研修を行ってお り,今後も製薬企業の要望を加味しつつ,必要に応じてこ のような研修を行っていきたいと考えている. 9.昭和大学における臨床研究の現状 8 附属病院では,臨床現場におけるクリニカルクエス チョンを解決するために各診療科において多くの臨床研究 が行われている.臨床薬理研究所では,呼吸器領域におけ る呼気中一酸化窒素濃度に関する臨床試験,薬学部の教室 と剤型変更に関する薬物動態試験,さらに眼科領域での抗 炎症薬の涙液移行に関する臨床試験(法医学講座との共同 研究),漢方薬との薬物相互作用に関する薬物動態試験を 行った.また既出であるが,平成 27 年 4 月に倫理指針の改 定に伴い平成 26 年度に各附属病院を巡回し合計 8 回研究 倫理等に関する講習会を実施した.特に平成 27 年 3 月に 行われた改定直前の講習会では 500 名の参加者があり,そ れ以降も 2 カ月に 1 回のペースで各病院を巡回する形にて 倫理講習会を実施している. 10.考察と今後の課題 昭和大学として附属 8 病院で連携した新しいネットワー ク体制を整えてきたが,体制作りを行う中で,いくつもの 問題点があった.これまで 8 つの病院のスタッフは,同一 法人内でありながらそれぞれの施設だけで治験を行ってお り,交流は少なかった.またネットワーク体制を構築する ことで,当初どのような利点があるのかを理解し,受け入 れられるスタッフは少なかった. 昭和大学の場合は,第Ⅰ相試験実施施設を設立しⅡ・Ⅲ 相以降の治験に関してもネットワークとして活動したほう が医薬品開発の促進にはメリットがあると考え,取り組み 始めた.まず現場の意見を聞き,そこから統一を図った. 具体的には,3 カ月に一度,8 病院治験支援合同会議という 会議を行い,現場の意見を集約し各病院の標準業務手順書 の統一,臨床研究審査委員会の手順書の統一など方向性を 決めて行った.さらに会議で決まった現場の意見を各病院 長・病院担当理事の出席する病院担当理事連絡協議会に提 出して承認を得ることで昭和大学としての運用を決定し た.このようにトップダウンとボトムアップでの体制作り を行ってきた.体制が構築されつつある今も継続して 8 病 院治験支援合同会議は 3 カ月に 1 回実施し,共同治験にお ける問題点などの共有・議論を行っている.この会議を通 して,これまで交流のなかったスタッフ間にも交流が生ま れ,通常業務での情報共有や問題点の解決でも相互に取り 組めるようになっている.会議を定期的に行っていること, また病院担当理事連絡協議会などの 8 病院の病院長が共有 し方向性を決定できる仕組みがあったこともネットワーク 体制作りには有用であった. 今後さらに治験・臨床研究を促進させていくためには課 題もいくつかある.まずは,治験実施の効率化について電 子化の課題が大きいと思われる.現在,昭和大学 8 附属病 院において電子カルテを導入しているのは,藤が丘病院/ 藤が丘リハビリテーション病院,横浜市北部病院,江東豊 洲病院の 4 病院である.電子カルテを導入した場合に,臨 床検査値や画像データや被験者情報の入手が迅速になり治 験実施のスピードアップにつながるが,被験者のみのデー タを閲覧できる ID を多数作成しても,病院内の限られた スペースで設置できる電子カルテの端末台数や場所が限ら れているため,同時に閲覧できる人数が限られるモニター が数名で閲覧を行うことが困難であるなどの問題が生じ る4)との報告もある.昭和大学として電子化と直接閲覧に 関して,製薬企業の要望なども加味し,より効率的で個人 情報等の保護を踏まえた安全な使用方法を検討していく必 要がある.また治験における症例数の事前把握に関しても, 今後さらに積極的に行っていきたいと考えている.他医療 機関では,一括管理している本部で症例数調査を取りまと めている施設もある5) .昭和大学病院臨床試験支援セン ターが中心になって,各病院の治験実施可能性をプロトコ ルベースで調査し,2 週間以内に回答している.今後も患 者数調査を正確に行い,実施可能症例数を把握して円滑な 治験実施を行っていきたい. 日本全体での医薬品開発,臨床研究の促進のためには, 今後昭和大学 8 病院だけではなく地域の病院や提携病院と の治験・臨床試験領域での協力も欠かせない.臨床試験審 査委員会の統合や地域の病院からの研究協力への対応など が必要になってくるであろう. 治験(臨床研究)に関する教育は,体制構築の中でも必 要不可欠な部分である.治験の受託が増えれば,治験にか かわる院内のスタッフも増える.製薬企業のニーズに応え, 患者対象の PK/PD 試験など大学ならではの臨床試験を実
施するためには病院内各部署との協力,関係スタッフの理 解と協力が必須である.責任医師・分担医師のみならず, 看護師・薬剤師・臨床検査技師・診療放射線技師・事務等 のコメディカルの教育も重要である.実施前の治験検討会 だけではなく,試験実施計画書・同意説明文書の作成等ワー クショップ形式による臨床現場に即した実地教育が望まし い.加えて,病院スタッフのみならず,学部における卒前・ 卒後教育も必要である.昭和大学は,医学部・歯学部・薬 学部・保健医療学部(看護学科,作業療法学科・理学療法 学科)の 4 学部を備える医系総合大学であり,チーム医療 教育を行っている.治験は,多職種の医療従事者が協力し て実施することからこれらの学生に病院と連携した実地教 育,臨床試験・治験に関する基礎的な講義を行っていきた い.一方,製薬企業においては,CRO などを活用すること によって,製薬企業の開発スタッフが医療現場に直接触れ る経験が少なくなってきている印象がある.医薬品開発は, 製薬企業と医療機関が共同して行っていくことが重要であ ることから,医療現場を理解してもらうための企業研修を 開始した.前述したとおり,研修は,平成 27 年に 2 件実施 した.研修プログラムは,製薬企業のニーズに合わせた内 容で構成し,現場の問題点等についてのディスカッション も取り入れている.研修会を通して製薬企業と医療機関の 関係スタッフが優れた医薬品を迅速に患者のもとに届ける という明確な意識を醸成し,治験に取り組めるものと考え る.研修会参加者の感想にも,現場の医師・CRC の話が聞 けてよかった,医療機関側の考えを知ることができたなど 研修に好意的な感想もいただいた. また,研究においては臨床薬理研究所を中心として,医 学部などの学内各学部や 8 附属病院の診療科と連携した臨 床研究の実施,また学外との共同研究の実施を促進してい きたい.多くの診療科で,日常診療から生まれたクリニカ ルクエスチョンを解決するための臨床研究が実施されてい る.研究の立案にあたり試験実施計画書のひな形の提供や, 過去に審査された良質の実施計画書を基に研究企画のオリ ジナリティーを侵害しないように加工した試験実施計画書 サンプルを複数作成し学内専用ホームページ内に提示する などにより,各研究者がより立案しやすいようなサポート 体制を構築し,より質の高い臨床試験の実施を目指してい る.今般「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」 でその施行が義務づけられた臨床試験のモニタリング・監 査についても 8 病院で共通の規程,手順書を作成し,平成 28 年 10 月から実施している.今後,モニタリング・監査に ついては,より効率的で試験の質を担保できるような実施 方法の検討が必要であるが,これらの業務を担当するス タッフの十分な確保も課題として挙げられる.また,薬学 部病院薬剤学講座等の薬学部の各講座と連携し,製剤学, 薬物動態学(薬物代謝・薬物相互作用)に関する臨床試験 を実施してきているが,今後さらに卒後教育の一環として 臨床研究を増やし薬学部のみならず,他学部における人材 育成にも協力していきたい. 昭和大学では,さらに病院間のネットワーク体制の強化 を進め臨床試験・治験の実施体制を改善し,臨床研究の法 制化も考慮し,依頼者と共通の理念に立った臨床試験・治 験実施体制の構築を推進していく.また,アカデミアにお ける教育体制を充実させることで,医療機関のみならず, 製薬企業等における人材育成にも努力し,もってわが国の 医療の発展に貢献していきたい. Conflict of Interest 著者全員は本稿作成に関して,開示すべき利益相反関係は ない. 文 献 1� 公益社団法人日本医師会治験促進センター.大規模治験ネット ワーク.[http: //www.jmacct.med.or.jp/network/various.html(ac-cessed 2016-7-2)] 2� 文部科学省・厚生労働省.臨床研究・治験活性化 5 か年計画 2012. 平成 24 年 3 月 30 日.[http: //www.jmacct.med.or.jp/plan/files/ chiken5_2012.pdf(accessed 2016-7-2)] 3� 公益社団法人日本医師会治験促進センター.平成 27 年度 治験 ネットワークフォーラム.平成 28 年 2 月 4 日.[http: //www. jmacct.med.or.jp/about/h27/actNWF2016.html(accessed 2016-7-2)] 4� 水山奈央子,高橋浩二郎,玉利一也,神谷文子,竹内綾子,中村 利孝.産業医科大学病院における治験業務の展開について.産業 医科大学雑誌.2007;29�4�:457-67. 5� 山岸美奈子.日本の国際競争力を高めるためにできること―治 験を取り巻く国際動向の変化を踏まえて.国際競争力強化に向 けたネットワークの取り組み.薬理と治療.2014;42�5�:334-6. 20 臨床薬理 Vol. 48 No. 1�2017� フォーラム