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肺移植における理学療法の役割

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 816 42 巻第 8 号 816 ∼ 818 頁(2015 年) 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 分科学会シンポジウム 11(日本呼吸理学療法学会). 肺移植における理学療法の役割* 玉 木   彰 1) 大 島 洋 平 2) 長 谷 川 聡 3). となっている 3)。したがって,移植待機中には運動耐容能の低. はじめに. 下,上肢・下肢の筋力低下,胸郭可動性の低下,姿勢の変化に  本邦における肺移植は,1997(平成 9)年に制定された『臓. 対する予防的プログラムの実施が必要である 4)。待機中の理学. 器の移植に関する法律』(2009(平成 21)年に改正)によって. 療法はけっして特別なものではない。具体的には,患者の基礎. 脳死ドナーから提供を受けることが可能となったことではじま. 疾患,重症度,全身状態などによって異なるが,オリエンテー. り,これまでに脳死および生体肺移植を含めると 400 例以上の. ションとして手術までのリハビリテーションの内容,リラク. 患者に実施されている。肺移植とは,機能不全となった肺を取. セーション法,呼吸法,排痰法などを指導し,さらに胸郭およ. りだし,機能する肺に置き換える手術のことであり,重症呼吸. び四肢の関節可動域練習,上・下肢筋力トレーニング,酸素吸. 不全患者にとっては大変意義のある手段である。肺移植実施施. 入下での運動療法や身体活動量の維持などを可能な限り実施する。. 1). と限られているが,実際に肺移植待機患.  このように肺移植前の理学療法は術後の回復に影響するため. 者は全国各地におられ,さらに現在では重症呼吸不全患者の治. 重要であるが,本邦では肺移植待機患者が理学療法を受ける機. 療の選択肢のひとつと考えられているため,けっして特殊な医. 会が少ないという問題が認められる。我々は,肺移植適応判定. 療ではない。. のために入院した重症呼吸不全患者 20 名に対し,理学療法を.  ここでは肺移植における理学療法の役割を移植待機中および. 受けた経験の有無を調査した結果,理学療法を実施できないよ. 移植後に分けて解説する。. うな医学的理由が認められなかったにもかかわらず,実際に経. 設は国内で 10 施設. 肺移植前の理学療法. 験していた患者はわずか 6 名であった. 5). 。さらにこれらの患. 者の運動機能(6 分間歩行距離,下肢筋力など)および健康関.  肺移植前には可能な限り理学療法を実施しておくべきであ. 連 QOL を調査した結果,理学療法を経験していない患者は経. る。その理由として,肺移植待機中の患者は著しい呼吸機能の. 験していた患者に比べ,有意に運動機能や健康関連 QOL が低. 低下によって呼吸困難が強いため,活動性が低下している。ま. かった 5)。さらに我々は,移植前に理学療法を実施した 8 例と. た低栄養状態であることや,ステロイド使用者が多いため,下. 実施しなかった 22 例を対象に,移植後 1 年までの身体機能の. 肢筋を中心に筋萎縮が高度に進行しており,その結果,運動耐. 回復状況を調べた結果,術前の 6 分間歩行距離,膝伸展筋力,. 容能はきわめて低下している。したがって,肺移植待機中は身. ADL スコアには先の研究と同様に差が認められていたが,こ. 体機能を維持するための理学療法が非常に重要となる。他の臓. の差は術後 1 年においても 6 分間歩行距離,膝伸展筋力の間に. 器移植患者と運動耐容能を比較した報告によると,肺移植待機. 認められていた 6)。つまりこれらの結果は,移植待機中に理学. 患者の運動耐容能は腎臓,肝臓,心臓などの移植待機患者に比. 療法を実施しなければ,その影響は術後 1 年にわたって認めら. べて低く,その後,肺移植によって運動耐容能は改善するもの. れることを示唆している。しかし,肺移植待機患者に対する理. の,他臓器の移植後患者と比べて低いことが示されている 2)。. 学療法には様々な問題点が認められる。肺移植待機患者の基礎. また移植前の運動能力が高い症例ほど術後早期に回復し,移植. 疾患は様々であるため,疾患によっては理学療法のエビデンス. 前の呼吸機能が重症であっても,移植待機中の理学療法は身体. が十分ではなく,またリスクを伴う場合がある。また地域の“か. 機能や健康関連 QOL の維持・改善に有効であることが明らか. かりつけ医”が理学療法に対して積極的ではなく,さらにこの. *. The Role of Physical Therapy for Lung Transplantation 1)兵庫医療大学大学院医療科学研究科リハビリテーション科学領域  研究科長・教授 (〒 650‒8530 神戸市中央区港島 1‒3‒6) Akira Tamaki, PhD, PT: Department of Rehabilitation Science, Graduate School of Health Science, Hyogo University of Health Sciences 2)京都大学医学部附属病院リハビリテーション部 理学療法士 Yohei Oshima, MS, PT: Rehabilitation Unit, Kyoto University Hospital 3)京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 助教 Satoshi Hasegawa, PhD, PT: Human Health Science, Graduate School of Medicine, Kyoto University キーワード:肺移植,理学療法,身体活動. ような重症呼吸不全患者に対応できる理学療法士も少ないのが 現状である。したがって,今後は肺移植待機患者に対する安全 で効果的な理学療法プログラムを明らかにし,さらに移植前の 理学療法の重要性を広く認識させる必要があるとともに,呼吸 理学療法を専門とする理学療法士の育成も重要であると考える。. 肺移植後の理学療法  肺移植によって,著しく障害されていた肺機能は劇的に改善 するが,肺の機能を活かすための身体機能(骨格筋機能)はな にも変化しない。したがって肺移植後の理学療法では,移植前.

(2) 肺移植における理学療法の役割. 817. の低肺機能の影響により低下した身体機能(骨格筋機能)の向. こっているためである。肺移植患者の最大運動能力は,正常値. 上を図り,ADL 能力を高めることで,早期社会復帰をめざす. の約 50%程度であると報告されており. ことが目標となる。. の問題ではなく,四肢筋力および筋持久力の低下によるもので.  肺移植は非常に大きな手術侵襲であり,迷走神経切断による. あると考えられる。実際に肺移植早期の 6 分間歩行距離の回. 咳嗽反射喪失による喀痰排出障害などを含め,移植直後には. 復には換気能力よりも膝伸展筋力の回復が関連していること. 様々な問題が生じる。. も示されており 17),肺移植後には呼吸機能の劇的な回復に対.  肺移植後の急性期に発生する呼吸器に関する問題として,①. し,下肢筋力の改善が追いつかないということが発生する。し. ガス交換障害,②肺内シャント,③線毛運動低下による気道ク. たがって,下肢を中心とした四肢筋力の強化や運動耐容能の向. リアランスの障害,④肺内水分バランスの崩れ. 7). などがあり,. 13‒16). ,これは換気能力. 上を目的とした自転車エルゴメーター駆動,さらに連続歩行練. これらに加え,①挿管や人工呼吸器の使用,②手術中の長時間. 習などを積極的に行い,身体機能の向上を図ることが大切であ. 同肢位,③免疫抑制剤の使用,④創部痛,⑤術後一定期間の臥. る。さらに退院後を想定し,床からの立ち上がり,階段昇降,. 床,⑥体位制限などによって,さらに容態を悪化させることが. 坂道の上り下り,長時間歩行など,社会復帰に向けたプログラ. ある. 8)9). 。また他人の臓器を移植しているため,急性や慢性の拒. ムを進めていく。そしてすべての ADL 動作を自立させたうえ. 絶反応が出現する場合もある。したがって,肺移植後の理学療法. で退院となり,その後は外来にて定期的な身体機能の評価や運. では,これらのことを十分理解したうえで介入する必要がある。. 動指導を継続していく。.  術後理学療法を開始する時期は,基本的に心肺機能や血行動. 肺移植前後における身体機能に関する最近の研究. 態が安定していれば手術翌日から開始し,排痰,深呼吸練習, 早期離床を進め,人工呼吸器からの早期離脱と骨格筋機能低下.  肺移植前後の骨格筋筋力と運動耐容能に関する研究 18)では,. の予防を図っていく。ただしこの時期は様々なリスクも認めら. 肺移植後 1.2 ヵ月で骨格筋筋力は約 32%低下し,また術後の. れるため,医師の立ち会いのもと慎重に進めていくべきである。. ICU 滞在期間と大.  この時期の理学療法において呼吸循環系のリスク以外に気を. たと報告されている。この結果より,ICU に長期滞在するほど. つけなければならないのは骨格筋の喪失である。我々は生体肺. 大. 移植を受けた 19 例の患者の胸部 CT 画像から脊柱起立筋断面. ら退出できるよう急性期の介入が重要となる。. 積(CSA)を算出し,術後急性期における変化を観察した結果,.  一方我々は,肺移植後 3 ヵ月の時点における 6 分間歩行距離. 術後平均 19.2 日において CSA は約 12.1%減少し,これは 1 日. に関連する因子を検討した結果,肺活量および膝伸展筋力との. 10). 関連が強く,特に膝伸展筋力は大きく影響していることを明ら. あたり 0.68%ずつ減少していくことになることを示した. 。. 四頭筋力の変化に負の相関関係が認められ. 四頭筋力の低下が著しいことになるため,早期に ICU か. 19). しかしながら,現行の介入ではこの筋萎縮を止めることが難し. かにした. いため,骨格筋電気刺激療法などの新たな戦略が必要となって. る 6 分間歩行距離の変化に関する研究 20)では,移植後 6 ヵ月. くる。. までは 6 分間歩行距離は伸びるが,6 ∼ 12 ヵ月の間はあまり.  ICU を退室し,一般病棟の個室に移った時期からは,本格. 伸びず,さらに大. 的な運動療法を進めていく前段階として,離床の促進や病棟内. ると報告している。したがって,移植後早期およびその後の身. での活動範囲の拡大を図っていく。具体的には,離床前の排痰. 体機能を高めるには,大. や適宜呼吸練習などを実施し,座位,立位,歩行練習へと進め. 実施することが重要であると考えられる。. ていく。また可能な限り,下肢を中心とした筋力トレーニング.  このように,肺移植後患者に対する下肢筋力トレーニングの. を追加する。ただしこれらの介入時,患者は免疫抑制剤を服用. 重要性が強調されているが,近年では肺移植患者の身体活動レ. しているため感染には十分注意し,さらに動脈血酸素飽和度. ベルも注目されている。肺移植後患者の早期の身体活動レベル. (SpO2)や心拍数(HR)のモニターや患者の自覚症状(呼吸. を調査した研究 21)では,肺移植後 3 ヵ月までは身体活動性は. 困難,疲労感)などに注意しながら過負荷とならないように実. 大きく改善するが,そのレベルは一般成人の約 55%程度であ. 施する。. り,肺移植前から術後 3 ヵ月までの 1 日の歩数変化は,術前 6.  リハビリテーション室への来室が可能となったら,運動療法. 分間歩行距離,1 日の歩数,SF-36 による身体機能との間に負. を中心としたプログラムにより身体機能の向上を図り,早期退. の相関関係が認められたと報告している。つまり術前の身体機. 院,早期社会復帰に向け日常生活における応用動作や運動耐容. 能が低い患者ほど身体活動レベルは向上するが,ほとんどの肺. 能の向上をめざす。この時期には,コンディショニングとして. 移植患者は身体機能が向上しているにもかかわらず,術後 3 ∼. 胸郭可動性の改善,深呼吸練習,そして運動療法として筋力ト. 6 ヵ月の活動性は低いということである。したがって,肺移植. レーニング,全身持久力トレーニングを積極的に実施し,退院. 後患者に対しては,下肢筋力トレーニングなどによる身体機能. に向けた ADL 練習を実施する。. の改善だけでなく,身体活動性を高めるための継続的な介入が.  この時期になると肺移植患者は,酸素吸入なしでも動作時. 重要であると思われる。. における SpO2 の低下はほとんどなくなってくるが,呼吸困難 や疲労感を訴えることが多い。これは移植待機中のディコン ディショニングによって,骨格筋における筋組織中の酵素の減 少. 11). や筋線維の萎縮,さらには毛細血管の減少. 12). などが起. 。また肺移植患者 108 名を対象とした長期にわた. 四頭筋力が 6 分間歩行距離の予測因子であ 四頭筋を含めた身体トレーニングを. おわりに  肺移植によって重症呼吸不全患者の ADL 能力や健康関連 QOL は劇的に改善することは明らかである。しかしそのため.

(3) 818. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. には,まず肺移植待機中における理学療法を実施するための移 植施設と地域の病院との協力体制の構築が重要である。さらに肺 移植前・後を通じて骨格筋は身体機能に影響するもっとも重要 な因子であり,また肺移植患者の長期にわたる身体機能の維持に は,身体活動レベルを高めるための新たな介入が必要であろう。. 文  献 1) 肺・ 心 肺 移 植 関 連 学 会 協 議 会.http://www2.idac.tohoku.ac.jp/ dep/surg/shinpai/pg164.html(2015 年 7 月 20 日引用) 2) Williams TJ, McKenna MJ: Exercise limitation following transplantation. Compr Physiol. 2012; 2: 1937‒1979. 3) Li M, Mathur S, et al.: Pulmonary rehabilitation in lung transplant candidates. J Heart Lung Transplant. 2013; 32: 626‒632. 4) Connors G, Hilling L (eds): AACVPR Guidelines for pulmonary Rehabilitation programs. Champaign, III: Human Kinetics Inc, 1993, p. 1‒10. 5) 玉木 彰,大島洋平,他:呼吸リハビリテーションの経験の有無 は肺移植待機患者の身体機能および健康関連 QOL に影響する.日 呼ケアリハ学誌.2014; 24: 38s. 6) 玉木 彰,大島洋平,他:肺移植患者に対する術前呼吸リハビリ テーションは術後 1 年までの身体機能に影響するのか? 日呼ケア リハ学誌.2010; 20: 136s. 7) Egan TM, Cooper JD: The lung following transplantation. In: Crystal RG, West JD (eds): The Lung: Scientific Foundations. Raven Press, New York, 1991, pp. 2205‒2215. 8) Butler BB: Physical Therapy in heart and lung transplantation. In: Hillegas E, et al. (eds): Cardiopulmonary Physical Therapy. 3rd ed. Mosby-Year Book Inc, St Louis, 1995, pp. 404‒422. 9) Biggar DG, Malen JF, et al.: Pulmonary rehabilitation before and after lung transplantation. In: Kasaburi R, et al. (eds): Principles and Practice of Pulmonary rehabilitation. WB Saunders Co, Philadelphia, 1993, pp. 459‒467.. 10)大島洋平,長谷川聡,他:生体肺移植術後急性期における脊柱起 立筋横断面積の減少について― CT 画像による検討―.理学療法 学.2014; 41 (suppl.2): 57. 11)Jakobsson P, Jorfeldt L, et al.: Metabolic enzyme activity in the quadriceps femoris muscle in patients with severe chronic obstructive pulmonary disease. Am J Respir Crit Care Med. 1995; 151: 374‒377. 12)Jobin J, Maltais F, et al.: Chronic obstructive pulmonary disease: capillarity and fiber-type characteristics of skeletal muscle. J Cardiopulm Rehabil. 1998; 18: 432‒437. 13)Murciano D, Ferretti A, et al.: Flow limitation and dynamic hyperinflation during exercise in COPD patients after single lung transplantation. Chest. 2000; 118: 1248‒1254. 14)Pantoja JG, Andrade FH, et al.: Respiratory and limb muscle function in lung allograft recipients. Am J Respir Crit Care Med. 1999; 160: 1205‒1211. 15)Wang XN, Williams TJ, et al.: Skeletal Muscle oxidative capacity, fiber type, and metabolites after lung transplantation. Am J Respir Crit Care Med. 1999; 160: 57‒63. 16)Mathur S, Reid WD, et al.: Exercise limitation in recipients of lung transplants. Phys Ther. 2004; 84: 1178‒1187. 17)Walsh JR, Chambers DC, et al.: Impaired exercise capacity after lung transplantation is related to delayed recovery of muscle strength. Clin Transplant. 2013; 27(4): E504‒E511. 18)Maury G, Langer D, et al.: Skeletal muscle Force and Functional exercise tolerance before and after lung transplantation: A Cohort Study. Am J Transplant. 2008; 8: 1275‒1281 19)大島洋平,長谷川聡,他:肺移植患者の術後経過を予測する栄養 評価項目の検討.日呼ケアリハ学誌.2013; 23: 156s. 20)van Adrichem EJ, Reinsma GD, et al.: Predicting 6-minutes walking distance in recipients of lung transplantation; longitudinal study of 108 patients. Phys Ther. 2015; 95: 720‒729. 21)Wickerson L, Mathur S, et al.: Physical activity levels early after lung transplantation. Phys Ther. 2015; 95: 720‒729..

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参照

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