肺移植における理学療法の役割
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(2) 肺移植における理学療法の役割. 817. の低肺機能の影響により低下した身体機能(骨格筋機能)の向. こっているためである。肺移植患者の最大運動能力は,正常値. 上を図り,ADL 能力を高めることで,早期社会復帰をめざす. の約 50%程度であると報告されており. ことが目標となる。. の問題ではなく,四肢筋力および筋持久力の低下によるもので. 肺移植は非常に大きな手術侵襲であり,迷走神経切断による. あると考えられる。実際に肺移植早期の 6 分間歩行距離の回. 咳嗽反射喪失による喀痰排出障害などを含め,移植直後には. 復には換気能力よりも膝伸展筋力の回復が関連していること. 様々な問題が生じる。. も示されており 17),肺移植後には呼吸機能の劇的な回復に対. 肺移植後の急性期に発生する呼吸器に関する問題として,①. し,下肢筋力の改善が追いつかないということが発生する。し. ガス交換障害,②肺内シャント,③線毛運動低下による気道ク. たがって,下肢を中心とした四肢筋力の強化や運動耐容能の向. リアランスの障害,④肺内水分バランスの崩れ. 7). などがあり,. 13‒16). ,これは換気能力. 上を目的とした自転車エルゴメーター駆動,さらに連続歩行練. これらに加え,①挿管や人工呼吸器の使用,②手術中の長時間. 習などを積極的に行い,身体機能の向上を図ることが大切であ. 同肢位,③免疫抑制剤の使用,④創部痛,⑤術後一定期間の臥. る。さらに退院後を想定し,床からの立ち上がり,階段昇降,. 床,⑥体位制限などによって,さらに容態を悪化させることが. 坂道の上り下り,長時間歩行など,社会復帰に向けたプログラ. ある. 8)9). 。また他人の臓器を移植しているため,急性や慢性の拒. ムを進めていく。そしてすべての ADL 動作を自立させたうえ. 絶反応が出現する場合もある。したがって,肺移植後の理学療法. で退院となり,その後は外来にて定期的な身体機能の評価や運. では,これらのことを十分理解したうえで介入する必要がある。. 動指導を継続していく。. 術後理学療法を開始する時期は,基本的に心肺機能や血行動. 肺移植前後における身体機能に関する最近の研究. 態が安定していれば手術翌日から開始し,排痰,深呼吸練習, 早期離床を進め,人工呼吸器からの早期離脱と骨格筋機能低下. 肺移植前後の骨格筋筋力と運動耐容能に関する研究 18)では,. の予防を図っていく。ただしこの時期は様々なリスクも認めら. 肺移植後 1.2 ヵ月で骨格筋筋力は約 32%低下し,また術後の. れるため,医師の立ち会いのもと慎重に進めていくべきである。. ICU 滞在期間と大. この時期の理学療法において呼吸循環系のリスク以外に気を. たと報告されている。この結果より,ICU に長期滞在するほど. つけなければならないのは骨格筋の喪失である。我々は生体肺. 大. 移植を受けた 19 例の患者の胸部 CT 画像から脊柱起立筋断面. ら退出できるよう急性期の介入が重要となる。. 積(CSA)を算出し,術後急性期における変化を観察した結果,. 一方我々は,肺移植後 3 ヵ月の時点における 6 分間歩行距離. 術後平均 19.2 日において CSA は約 12.1%減少し,これは 1 日. に関連する因子を検討した結果,肺活量および膝伸展筋力との. 10). 関連が強く,特に膝伸展筋力は大きく影響していることを明ら. あたり 0.68%ずつ減少していくことになることを示した. 。. 四頭筋力の変化に負の相関関係が認められ. 四頭筋力の低下が著しいことになるため,早期に ICU か. 19). しかしながら,現行の介入ではこの筋萎縮を止めることが難し. かにした. いため,骨格筋電気刺激療法などの新たな戦略が必要となって. る 6 分間歩行距離の変化に関する研究 20)では,移植後 6 ヵ月. くる。. までは 6 分間歩行距離は伸びるが,6 ∼ 12 ヵ月の間はあまり. ICU を退室し,一般病棟の個室に移った時期からは,本格. 伸びず,さらに大. 的な運動療法を進めていく前段階として,離床の促進や病棟内. ると報告している。したがって,移植後早期およびその後の身. での活動範囲の拡大を図っていく。具体的には,離床前の排痰. 体機能を高めるには,大. や適宜呼吸練習などを実施し,座位,立位,歩行練習へと進め. 実施することが重要であると考えられる。. ていく。また可能な限り,下肢を中心とした筋力トレーニング. このように,肺移植後患者に対する下肢筋力トレーニングの. を追加する。ただしこれらの介入時,患者は免疫抑制剤を服用. 重要性が強調されているが,近年では肺移植患者の身体活動レ. しているため感染には十分注意し,さらに動脈血酸素飽和度. ベルも注目されている。肺移植後患者の早期の身体活動レベル. (SpO2)や心拍数(HR)のモニターや患者の自覚症状(呼吸. を調査した研究 21)では,肺移植後 3 ヵ月までは身体活動性は. 困難,疲労感)などに注意しながら過負荷とならないように実. 大きく改善するが,そのレベルは一般成人の約 55%程度であ. 施する。. り,肺移植前から術後 3 ヵ月までの 1 日の歩数変化は,術前 6. リハビリテーション室への来室が可能となったら,運動療法. 分間歩行距離,1 日の歩数,SF-36 による身体機能との間に負. を中心としたプログラムにより身体機能の向上を図り,早期退. の相関関係が認められたと報告している。つまり術前の身体機. 院,早期社会復帰に向け日常生活における応用動作や運動耐容. 能が低い患者ほど身体活動レベルは向上するが,ほとんどの肺. 能の向上をめざす。この時期には,コンディショニングとして. 移植患者は身体機能が向上しているにもかかわらず,術後 3 ∼. 胸郭可動性の改善,深呼吸練習,そして運動療法として筋力ト. 6 ヵ月の活動性は低いということである。したがって,肺移植. レーニング,全身持久力トレーニングを積極的に実施し,退院. 後患者に対しては,下肢筋力トレーニングなどによる身体機能. に向けた ADL 練習を実施する。. の改善だけでなく,身体活動性を高めるための継続的な介入が. この時期になると肺移植患者は,酸素吸入なしでも動作時. 重要であると思われる。. における SpO2 の低下はほとんどなくなってくるが,呼吸困難 や疲労感を訴えることが多い。これは移植待機中のディコン ディショニングによって,骨格筋における筋組織中の酵素の減 少. 11). や筋線維の萎縮,さらには毛細血管の減少. 12). などが起. 。また肺移植患者 108 名を対象とした長期にわた. 四頭筋力が 6 分間歩行距離の予測因子であ 四頭筋を含めた身体トレーニングを. おわりに 肺移植によって重症呼吸不全患者の ADL 能力や健康関連 QOL は劇的に改善することは明らかである。しかしそのため.
(3) 818. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. には,まず肺移植待機中における理学療法を実施するための移 植施設と地域の病院との協力体制の構築が重要である。さらに肺 移植前・後を通じて骨格筋は身体機能に影響するもっとも重要 な因子であり,また肺移植患者の長期にわたる身体機能の維持に は,身体活動レベルを高めるための新たな介入が必要であろう。. 文 献 1) 肺・ 心 肺 移 植 関 連 学 会 協 議 会.http://www2.idac.tohoku.ac.jp/ dep/surg/shinpai/pg164.html(2015 年 7 月 20 日引用) 2) Williams TJ, McKenna MJ: Exercise limitation following transplantation. Compr Physiol. 2012; 2: 1937‒1979. 3) Li M, Mathur S, et al.: Pulmonary rehabilitation in lung transplant candidates. J Heart Lung Transplant. 2013; 32: 626‒632. 4) Connors G, Hilling L (eds): AACVPR Guidelines for pulmonary Rehabilitation programs. Champaign, III: Human Kinetics Inc, 1993, p. 1‒10. 5) 玉木 彰,大島洋平,他:呼吸リハビリテーションの経験の有無 は肺移植待機患者の身体機能および健康関連 QOL に影響する.日 呼ケアリハ学誌.2014; 24: 38s. 6) 玉木 彰,大島洋平,他:肺移植患者に対する術前呼吸リハビリ テーションは術後 1 年までの身体機能に影響するのか? 日呼ケア リハ学誌.2010; 20: 136s. 7) Egan TM, Cooper JD: The lung following transplantation. In: Crystal RG, West JD (eds): The Lung: Scientific Foundations. Raven Press, New York, 1991, pp. 2205‒2215. 8) Butler BB: Physical Therapy in heart and lung transplantation. In: Hillegas E, et al. (eds): Cardiopulmonary Physical Therapy. 3rd ed. Mosby-Year Book Inc, St Louis, 1995, pp. 404‒422. 9) Biggar DG, Malen JF, et al.: Pulmonary rehabilitation before and after lung transplantation. In: Kasaburi R, et al. (eds): Principles and Practice of Pulmonary rehabilitation. WB Saunders Co, Philadelphia, 1993, pp. 459‒467.. 10)大島洋平,長谷川聡,他:生体肺移植術後急性期における脊柱起 立筋横断面積の減少について― CT 画像による検討―.理学療法 学.2014; 41 (suppl.2): 57. 11)Jakobsson P, Jorfeldt L, et al.: Metabolic enzyme activity in the quadriceps femoris muscle in patients with severe chronic obstructive pulmonary disease. Am J Respir Crit Care Med. 1995; 151: 374‒377. 12)Jobin J, Maltais F, et al.: Chronic obstructive pulmonary disease: capillarity and fiber-type characteristics of skeletal muscle. J Cardiopulm Rehabil. 1998; 18: 432‒437. 13)Murciano D, Ferretti A, et al.: Flow limitation and dynamic hyperinflation during exercise in COPD patients after single lung transplantation. Chest. 2000; 118: 1248‒1254. 14)Pantoja JG, Andrade FH, et al.: Respiratory and limb muscle function in lung allograft recipients. Am J Respir Crit Care Med. 1999; 160: 1205‒1211. 15)Wang XN, Williams TJ, et al.: Skeletal Muscle oxidative capacity, fiber type, and metabolites after lung transplantation. Am J Respir Crit Care Med. 1999; 160: 57‒63. 16)Mathur S, Reid WD, et al.: Exercise limitation in recipients of lung transplants. Phys Ther. 2004; 84: 1178‒1187. 17)Walsh JR, Chambers DC, et al.: Impaired exercise capacity after lung transplantation is related to delayed recovery of muscle strength. Clin Transplant. 2013; 27(4): E504‒E511. 18)Maury G, Langer D, et al.: Skeletal muscle Force and Functional exercise tolerance before and after lung transplantation: A Cohort Study. Am J Transplant. 2008; 8: 1275‒1281 19)大島洋平,長谷川聡,他:肺移植患者の術後経過を予測する栄養 評価項目の検討.日呼ケアリハ学誌.2013; 23: 156s. 20)van Adrichem EJ, Reinsma GD, et al.: Predicting 6-minutes walking distance in recipients of lung transplantation; longitudinal study of 108 patients. Phys Ther. 2015; 95: 720‒729. 21)Wickerson L, Mathur S, et al.: Physical activity levels early after lung transplantation. Phys Ther. 2015; 95: 720‒729..
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URL http://hdl.handle.net/2297/15431.. 医博甲第1324号 平成10年6月30日
学位授与番号 学位授与年月日 氏名 学位論文題目. 医博甲第1367号
金沢大学学際科学実験センター アイソトープ総合研究施設 千葉大学大学院医学研究院
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