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早産児の父親としての1年間から1年半の経験

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原  著

北海道大学大学院医学研究科国際保健医学分野博士課程(Dept. of Global Health and Epidemiology Graduate School of Medicine,

Hok-kaido University) 2009年5月18日受付 2009年11月22日採用

早産児の父親としての1年間から1年半の経験

First one to one-and-a-half year experiences of fathers

with a first, preterm child

常 田 美 和(Miwa TSUNETA)

抄  録  本研究は,第1子である早産児の出生より1年から1年半の父親としての経験を明らかにすることを目 的とした。対象者は,第1子である早産児の出生より1年から1年半経過した父親である。データ収集は, 半構成的面接を用いた。分析は,質的帰納的に行った。対象者に研究の趣旨を文書と口頭で説明し,同 意できる場合は同意書に署名を得た。同意をいつでも撤回できること,プライバシーの保護や同意をし ない場合でも不利益を受けないことなどについて説明した。  対象者は6名の父親で,年齢は35歳から44歳,平均38歳であった。子どもの在胎週数は28週から33週, 出生体重は980gから1,740gであった。  分析の結果,【妻子の生命への危惧と願い】,【妻への配慮】,【出生と五体満足の安堵感と感動】,【「普通 の子」と異なるわが子への不安】,【子どもとの絆のはじまり】,【「普通の子」に成長するわが子を実感】の 6カテゴリーが抽出された。  本研究より確認された早産児をもつ父親の特徴は,わが子を「普通の子」と比較し不安が生じた段階 から,「普通の子」に成長し追いついてきたと感じることによって安心感を得ている過程であった。父親 は子どもへの不安が強い段階では子どもを保護することにエネルギーを傾けているが,「普通の子」に追 いついてきたと感じる段階で,子どものしつけを意識し始めるようになっていた。 キーワード:早産児,父親,経験 Abstract

This study was conducted to clarify the first one to one-and-a-half year experiences of fathers whose first child was a preterm baby.

The research subjects were fathers whose first child was born preterm 1-1½ yr. prior to this study. For this inductive qualitative study, the data were collected through semi-structured interviews.

In asking for the fathers' cooperation in this study, the research objective was explained to them verbally and by written document. Additionally, it was explained to the research subjects that they would not be disadvantaged if they decided nor to cooperate in this study, that they would be able to withdraw from the research at any time, and that their privacies would be protected.

Six fathers agreed to participate in this study. The average age of the subjects was 38 (ranged in age from 35 to 44). The gestational age of the subjects' babies ranged from 28 to 33 weeks, and their birth weights ranged from 980 to 1,740 grams.

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their child and wife; 2) concern about their wife; 3) relief and excitement about childbirth and having a child without any physical defect; 4) concern about having a child who is different from a "normal" child; 5) beginning of bonding with their child; and 6) realization of their child growing up to be a "normal" child.

This research illustrated that fathers devoted their energies to protecting their preterm child when they felt strong anxiety about the child. Yet, fathers became more conscious of the need for child upbringing and discipline after they felt that the child was catching up with "normal" full term children.

Key Words: preterm child, father, experience

Ⅰ.は じ め に

 近年,ハイリスク新生児医療のめざましい進歩によ り,早産児や低出生体重児が新生児期を乗り越えて生 存退院する率は増加している(小泉,2001)。このよう なハイリスク児は,親子分離の状態からスタートする ために,親子関係を育んでいくうえで,正常に出生し た児よりも不利な状況におかれやすい。このような背 景は低出生体重児の被虐待児となり得る一因になって いる,という報告もある(天野,2002;小川,2001)。  もちろん,現在においてもNICU(neonatal intensive care unit;以下NICUと略す)では児の救命を第一の 目的とすると同時に,出生後早期から児の発達や母 子関係確立を促進するケアの重要性は認識されてい る。その方法として,カンガルーケア,タッチケア(堀 内,2001)や,面会時間の制限を緩和すること(横尾, 1998)などが積極的に行われてきている。  ただし,このような施策は母親を焦点にしたものが 多く,父親のおかれている状況は看過されがちなので はないかと考える。早産児が出生すると父親は仕事や 日常生活を維持しながら,児の状態に関する説明を受 け,その情報を母親に伝え,様々な手続きの責任を担 うなど多くの役割を期待される。しかし,早産児の出 生は,母親はもちろんのこと父親にとってもストレス や不安を与え,父子関係確立においても危機的状況に 陥り易いことが考えられる。父親と児との関係が父親 としての発達に影響していることから(新谷・松村・ 牧野,1993),父親にとっても早産児の誕生を受け入 れ,関係性を育てていけることは必要である。した がって,父親が早産児との関係性を育むための看護を 考える基礎的データを得る意義があると考えた。  父親の父性発達に関する縦断的研究では,10ケ月頃 になった時点で,父親の自覚や責任を意識し始めてい る様子が見られている(高橋・高野・小宮山他,1992)。 そこで本研究では,初めての子が早産児である父親の, 早産児出生より1年から1年半の経験を明らかにする ことを目的とした。なお,本稿における父親としての 経験とは,早産児の出生時より1年から1年半の父親 としての気持ち・考え・行動をあらわすものとした。

Ⅱ.研 究 方 法

1.研究デザイン  本研究は,質的帰納的研究方法を選択した。質的研 究法は,研究対象の複雑性に対して,その複雑な姿の ままに,自然な日常の文脈の中で研究ができる方法で ある(Strauss & Corbin, 1990/1999)。初めての子が早 産児である父親が親として経験していることは,特別 な状況下で起こっている現象であるといえる。またそ の過程には複雑な人間関係の相互作用が包含されてい る。したがって,本研究においては質的研究法が適切 であると考えた。 2.対象者の条件  NICUを 有 す る 一 施 設 を 訪 問 し, 統 括 責 任 者 と NICUの医師に研究の趣旨を説明し,対象者の紹介を 依頼した。その後,紹介された対象者に電話連絡をと り研究の趣旨を説明し,理解と意思確認を行い,同意 を得たうえで面接日時を決定した。  対象者は,第1子である早産児が,NICUに入院し た経験を有する父親で,下記の条件を満たす者とした。 1 )両親が児の養育に支障をきたすような身体的,精 神的,社会的問題を有していない者 2 )両親は婚姻関係にあり,児は実子であること 3 )児が出生時より1年から1年半を経過していること 4 )児は単胎の早産児であること(在胎週数37週未満) 5 )出生体重2000g以下であること 6 )児に先天性疾患,奇形や神経学的後障害が無いこ と 7 )家庭での育児において医学的処置を要しないこと

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3.データ収集方法  データ収集は,2005年3月から8月までであった。 対象者,および母親と子どもに関する基本情報(両 親の年齢,妊娠経過,分娩様式,分娩週数,児の性 別,出生時体重,など)については,対象者に面接時 に情報を収集した。データはプライバシーの保持でき る場所で,半構成化面接を実施し収集した。質問内容 は,①子どもの誕生から退院までの気持ち,②退院か ら現在までの気持ちの2点とした。これらの質問内容 を中心に自由に語ってもらい,その中で対象者が語る 出来事に関する状況を確認しつつ,それ以前と以後に 対象者の気持ち・考え・行動にどのような変化がみら れたかを明らかにするように質問を加えた。面接内容 は,対象者の承諾を得た後テープに録音した。 4.分析方法  データ分析はグラウンデッド・セオリー・アプロー チに基づいた質的帰納的研究方法(Chenitz & Swan-son,1986/1992)を参考にして以下の手順で行った。 1 )面接を録音したテープから逐語録を作成してデー タとした。 2 )データからテーマに関係のある父親の経験を気持 ち,考え,行動に着目して,文脈に留意し,類似性 と相違性を考え,比較検討しながらコード化した。 コード化の抽象度のレベルを上げ,その意味を適切 に表現するサブカテゴリーを生成した。 3 )各々のサブカテゴリーのネーミングは適切か,比 較分析してカテゴリー化を行った。コード化とカテ ゴリー化が適切に行われているかどうか検討し,抽 出されたカテゴリー間の関連性を検討した。 4 )本研究対象者は6名であり,カテゴリーが飽和に 達さなかった限界があるが,指導者のスーパービ ジョンを受けて検討を重ねることで信頼性と妥当性 を高めた。 5.倫理的配慮  NICUの医師に研究の趣旨を説明し,対象者の紹介 を依頼した。その後,紹介された対象者に電話連絡を とり研究の趣旨を説明し,理解と意思確認を行い,同 意を得たうえで面接日時を決定した。データ収集にお いては,研究対象者の権利を保護するために,研究目 的と方法を,口頭および文書で説明した。いつでも研 究への参加を断ることが可能であり,断ることによる 不利益がないこと,答えたくない質問には答える必要 がないことを保障した。また,面接によって得られた データは秘密を保持し,研究以外には使用しないこと, 研究の成果は,複数対象者の内容をまとめ,個人を特 定することがないよう配慮すること,録音されたテー プ,データは研究終了後早期に消去することを約束し た。

Ⅲ.結   果

 対象者は同一の施設で出産された早産児の父親6名 である(表1)。3名が妊娠前に不妊治療を受けており, 全員が望んだ妊娠であった。2名は切迫管理のため妊 娠期から入院,4名が胎盤早期剥離,前期破水,妊 娠高血圧症候群と胎児発育遅延による母体搬送とな り,6名とも帝王切開術であった。面接に要した時間 は1回平均約60分であった。面接時の子どもの年齢は 1歳から1歳半であった。対象者は,全員子どもの出 生当日に初回面会し,その後は子どもの状態に応じて, タッチング,抱っこ,カンガルーケア,授乳,沐浴な どの子どもとの接触の機会が提供されていた。  得られたデータを分析した結果,早産児出生より1 年から1年半の父親としての経験において抽出された サブカテゴリーは17であり,さらに意味的なまとま りにおいて6つのカテゴリー【妻子の生命への危惧と 願い】,【妻への配慮】,【出生と五体満足の安堵感と感 動】,【「普通の子」と異なるわが子への不安】,【子ども との絆のはじまり】,【「普通の子」に成長するわが子を 実感】が抽出された(表2)。  以下,導き出されたカテゴリーとそれを構成するサ ブカテゴリーについて説明する。カテゴリーは【 】, カテゴリーを構成するサブカテゴリーは[ ],サブ カテゴリーに含まれるデータの一部は「 」で示した。 1 )第1カテゴリー【妻子の生命への危惧と願い】  このカテゴリーは,3つのサブカテゴリー[突然の 早産への驚き],[妻子の生命への不安],[妻子の生命 を医療者に委ねる気持ち]から構成された。対象者6 名中6名が語った子どもの出生前から初回面会できる までの出生後早期の段階における,早産による妻子の 生命への危機感と安全への願いをもつ経験である。  突然早産という危機的状況に直面した父親の驚きの 気持ち,妻子が死んでしまうのではないかという不安 を表している。対象者は切迫した状況の中で,今帝王 切開したほうが安全という思いと,妻子は大丈夫かと いう不安を語り,1000gを切っている子どもの推定体

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表1 対象者の背景 対象者A 対象者B 対象者C 対象者D 対象者E 対象者F 父親年齢 39歳 37歳 39歳 35歳 35歳 44歳 父親職業 有 有 有 有 有 有 妻年齢 41歳 35歳 35歳 35歳 36歳 37歳 妻職業 主婦 主婦 主婦 主婦 主婦 主婦 妊娠分娩経過 不妊症治療中の 自然妊娠 母 体 搬 送(胎 盤 早期剥離) 緊急帝王切開 不妊症治療によ る妊娠 母 体 搬 送(前 期 破水) 帝王切開 自然妊娠 母 体 搬 送(妊 娠 高血圧症候群) 帝王切開 不妊治療による 妊娠 帝王切開 自然妊娠 母 体 搬 送(前 期 破水) 帝王切開 自然妊娠 妊娠4ヶ月から 入院 帝王切開 家族構成 核家族 核家族 親同居 核家族 核家族 核家族 児性別 女児 男児 女児 女児 男児 男児 在胎週数 31週 28週 31週 33週 28週 32週 出生体重 1,520g 980g 997g 1,520g 1,300g 1,740g 児入院期間 54日 99日 74日 56日 88日 42日 面接時の児の 月齢 1年2ヶ月 1年 1年1ヶ月 1年6ヶ月 1年6ヶ月 1年 表2 各カテゴリーのサブカテゴリーとコード カテゴリー サブカテゴリー コード Ⅰ 妻子の生命への危 惧と願い 1 突然の早産への驚き 1)突然の帝王切開への驚き2)突然の破水にパニック 2 妻子の生命への不安 1)妊娠継続の希望とあきらめの交錯 2)出生への期待と生存への不安 3)妻子の生命に対する複雑な気持ち 4)1000g以下の子どもの出生への恐れ 3 妻子の生命を医療者に委ねる気持ち 1)医療者に任すしかない思い 2)搬送先の病院を探し子どもを助けたい気持ち Ⅱ 妻への配慮 1 妻の心身の苦痛への思いやり 1)妻に伝える子どもの無事 2)妻に子どもを早く見せたい気持ち 3)妻は痛々しい子どもをみても大丈夫という思い 4)妻の頑張る姿への気づかい 5)妻は喜びと心配があったという思い 2 妻の育児負担の軽減と育児参加 1)子どもにとって大事な母親を支えたい思い 2)育児参加は妻の負担の軽減のため 3)夫婦で育んだ育児で協力し合う気持ち 4)妻に任せきりでなく自分も育児に無我夢中 5)両親の協力による育児負担の軽減 Ⅲ 出生と五体満足の 安堵感と感動 1 子どもが無事生まれた安堵感と喜び 1)無事に生まれた安心と喜び2)よく頑張って生まれてきたという思い 3)妻の感動に強化された自分の感動 2 子どもの五体満足への安堵感と感動 1)よく見ると指もあり無事生まれたという思い 2)普通の子であることを見て確認 3)五体満足の安堵感と感動 Ⅳ「普通の子」と異な るわが子への不安 1 子どもらしくない印象 1)子どもの仮死状態による生の実感の希薄2)人間としての印象の希薄 3)細長い顔に不安 2 普通の子のように触れない不安 1)普通の子なら触れるという思い 2)子どもに触るのは怖い 3)普通と違い抱いて子どもの身体を確認できない不安)

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重に恐れを抱いていた。 E「朝先生に診てもらって,破水してるよっていうこと だったんですよね。とりあえず順調にいっててという 段階だったもんですから,全然もうパニクッちゃたん ですよね。」 C「(体重が)1000の子どもなんて聞いたこと無いから。 自分の子どもにね,1人しかお腹にいないのに,1000 を切って生まれてくるって普通じゃないじゃないです か,ある意味。それに関してはすごく不安でしたね。」 F「赤ちゃんを先に欲しいなと思ってしまったらだめか なって思ってしまったんですよ。自分の気持ちが赤 ちゃんにいって,もし嫁さんに何かあったらどうしよ うと…。」  そして,自分ではどうすることもできない眼前の状 況に考える余地がないという状態となり,医療者に任 せるしかないという現実的選択をしていた。「お願い します」,「お任せします」という神頼みの心境が語ら れ,その緊迫した状況に踏みとどまる努力を要する経 験をしていた。 A「ばたばたしちゃってるから,ね。考える余地がない んですよーもうおまかせします,お願いしますって言 う感じでね。」 2 ) 第2カテゴリー【妻への配慮】  このカテゴリーは,2つのサブカテゴリー[妻の心 身の苦痛への思いやり],[妻の育児負担の軽減と育児 3 子どもの生存を願う気持ち 1)子どもの生存への心配 2)嬉しさより子どもの無事を願う気持ち 3)医療者の説明による子どもへの不安 4)子どもの命が助かることを祈る気持ち 5)面会時子どもの生存を確認し安心 4 退院後の不安 1)病院が遠くなる不安 2)定期受診に同行 3)不安に対してできることをするしかない思い Ⅴ 子どもとの絆のは じまり 1 入院期間は安心して育児の準備 1)妻子が同じ病院に入院している安心感2)子どもの退院までは親になる準備期間 2 面会は親子の感情を喚起 1)面会に行かないと子どもに悪い気もち 2)一緒にいるのが親子だという思い 3)子どもに会いたくてわくわくしながらの面会 4)成長過程を見守る楽しみな面会 5)誰に似ているのかと思いながら毎日面会 6)子どもとの将来を考える幸せな時間 7)身体能力の高い職業につくのは無理かなと考えた時間 3 子どもとの新しい生活への期待 1)3人で眠ることができる嬉しさ 2)子どもとずっと一緒にいられる嬉しさ 3)子どもの退院による親になる実感の高まり 4)子どもの環境を整える嬉しさや期待 Ⅵ 「普通の子」に成長 するわが子を実感 1 問題が解決し人間らしく成長する楽しみ 1)生まれた状況を考えると順調で幸運という思い2)すくすく育っているので順調だという思い 3)不安が減り逆に増すかわいい気持ち 4)退院が決まり段々と心配事がなくなる感じ 5)順調に人間らしくなっていく成長過程が楽しみ 6)子どもの動きを見て感じる力強さや頑張り 2 普通の子に追いつく安心感 1)今は普通の子にほぼ追いつき順調という気持ち 2)普通の子に追いつき心配が軽減してからしつけを意識 3)最近普通の子ども扱いできる感じになり心配が軽減 3 育児や周囲の反応による父親の実感 1)カンガルーケアで得る安心感と嬉しさ 2)子どもは自分達に抱かれるほうが安心するという思い 3)育児を通して増していくわが子という実感 4)自分になついている子どもを本当にかわいいと実感 5)子どもが自分達を親だとわかりかわいい思い 6)娘のことを聞かれ常に娘が存在する強い意識 7)子どもが自分に似ていることによる父親の実感

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参加]から構成され,子どもの出生前から約1年から1 年半の間継続していた。6名中6名が語った自分以上に 心身の苦痛や負担を感じているであろう妻への配慮を 表している。妻を安心させ,傷つけない配慮や子ども の退院後も妻の育児負担を軽減する意識をもち,妻が 母親になっていくプロセスをサポートしていた。妻を 安心させたい気持ちから,自分の不安は表さずに妻の 心身の苦痛や早産児を産んだ罪責感への配慮をしてい た。 A「看護婦さんが大丈夫だって言ったから大丈夫だよっ て,元気だよって言った。自分の心配は言わなかった です。じゃないと家内が不安がるじゃないですか…。」 D「やっぱり連れて帰りたいですよね。皆連れて帰って るのに。あんまり今度そうやって言っちゃうと…家内 が,実際に妊娠中毒症とかかかりまして,健康管理が 悪かったんだなとか思うので」 E「あんまりちっちゃいちっちゃいって言うと,まあ見 ればわかる話ですけど,やっぱり生まれてすぐにそん な話するっていうのは,あんまりするべきじゃないの かなって思ったんですね。それでなくても大変だった のに,その話はまずいなって思ったのかな。」  子どもの退院後,父親は,家事や育児への協力によ る妻の育児負担の軽減を意識して行動化しており,そ れにより妻と子どもとの関係性をサポートしていた。 B「とにかく妻の負担を軽減さしてやるっていう。それ が一番ですね。家に帰ったら抱っこして妻の少しフ リーな時間作ってやるとか…。」 3 ) 第3カテゴリー:【出生と五体満足の安堵感と感動】  このカテゴリーは,2つのサブカテゴリー[子ども が無事生まれた安堵感と喜び],[子どもの五体満足へ の安堵感と感動]から構成された。出生後早期におけ る6名中4名が語った早産という危機を乗り越えて出 生した子どもへの,よく無事に生まれてきたという思 いと五体満足であることへの安堵感と感動を表してい る。安堵感と感動から,泣くという経験をしていた父 親もいた。  対象者は,自分しか子どもを見ることができない状 況で,抱いて間近に見ることのできない子どもが五体 満足であるかどうかを注意深く観察し,感動を覚えて いた。 A「とりあえずまず無事に生まれてきたなーっていう。 ちょっとね,そのあとやっぱり,あらためてこうやっ ぱりね嬉しかったですよ…。」 D「もう感動しましたよ。変なんですけど,ちゃんと手 もあって,足もあって,ちゃんと指も5本あるし,ちゃ んと目鼻口もあって,五体満足でよかったなーって。」 4 ) 第4カテゴリー【「普通の子」と異なるわが子への不 安】  このカテゴリーは,4つのサブカテゴリー[子ども らしくない印象],[普通の子のように触れない不安], [子どもの生存を願う気持ち],[退院後の不安]から構 成された。6名中6名の語った出生後「普通の子」とは 違うという意識と,退院後においても子どもの健康へ の不安を抱える経験を表したものである。  対象者は出生直後に子どもの外観から,生きている 実感の乏しい子ども,虫のように見えた子どものイ メージを語り,入院中も早産児特有の細長い顔に不安 をもつなど,自分のもつ「普通の子」のイメージと異 なる印象を受けていた。 F「管はついてるし。もう目も開いてるのか開いてない のかわかんないような感じで,生きてんのかなって感 じだったですね。なんか虫みたい感じでしたね。」 E「普通赤ちゃんってまんまるくてぶくぶくしててって いうのが,イメージだったんで,ほんとにもうガリガ リで,まあ未熟児ですから,ガリガリはわかるんです けど。顔ってこんなに細長いのかなって,頭がこうほ そーくて長くて,ビヨーンって。ええ。看護婦さんに ほっそくて大丈夫なんですかねって,(笑い)…。」  出生後の子どもを抱くことができず,触ることも 怖いと感じ,「普通だったら抱けるはず」という思いは 「普通の子」の場合と異なるという意識につながって いた。 A「普通だったらすぐね,正常分娩で生まれてぎゃーっ て入って行って生まれたねって言って,こうやるはず なんですけどね(赤ちゃんを抱く仕草)」  子どもの命が助かるかどうかという不安と無事に生 きて欲しいという願いは出生直後から子どもの入院中 も続き,1日1日を乗り越えて生きることを願う気持ち であった。退院に伴う子どもの健康や幸福を守ってい く責任感から生じる子どもの健康面の不安は,退院後, 入院中見たことのなかった子どもの泣く姿や,無呼吸 発作への不安など,医療から離れる不安の経験となっ ていた。 C「生まれてからすぐやっぱりかわいいとか言うよりも, 大丈夫かなって思ったんですよね…。最初は。今日も 大丈夫,今日も1日乗り越えた,また明日ちょっとず

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つ大きくなってくれてるのかな。」 A「もし帰ってきて何かあったら病院遠いしね。そうい う不安あったんだけども,逆に病院にあずけとけば大 丈夫だっていうのがもう頭にあったから…。」 5 ) 第5カテゴリー【子どもとの絆のはじまり】  このカテゴリーは,3つのサブカテゴリー[入院期 間は安心して育児の準備],[面会は親子の感情を喚 起],[子どもとの新しい生活への期待]から構成され た。6名中6名が語った病院や家庭という場と時間の経 過の中で父親と子どもの繋がりができてくる経験を表 しており,子どもとの面会で親子の感情が喚起されて いくことにより,本来親子として一緒にいられるはず なのに,子どもは入院しているという状況の中で拮抗 するような感情の揺れを経験していた。  子どもと離れて生活している事態の肯定的側面を受 けとめ,入院している状況に意味づけし,父親は,子 どもの入院期間を安心して育児の準備をするゆとりの 期間と捉えていた。 E「病院行ってる間にいろいろと学習期間があったんで, 逆に言うと,そのお風呂の入れ方にしても,オムツの かえ方にしても,ミルクの飲ませ方にしても,まだ何 もない状態から始めるよりは,それはそれでよかった のかなー。」  子どもとの面会を続けることで子どもとの繋がりを 感じ,面会という限られた時間を楽しみ,似ていると ころを探したり,将来を思い描いたりする経験をして いた一方で,家族での生活という本来あるべき姿が実 現していない欠落感をもつ経験となっていた。 B「毎日行きました。それはもう毎日行きました。2 ヶ月 ちょっとですけど,1回だけ2人で行かなかったこと あったんですけどやっぱりすごいなんか,なんとなく 子どもに悪いなって気がして,それでやっぱり行きま したけどね。」 C「やっぱり本来,生まれてやっぱり一緒にいるのが親 子だっていうのがなんかどっかにそういう思いを持っ てた…。会いたくて。とにかく自分が見たかった。」  退院の見通しがついてからは,子どもとの生活が始 まる喜びや期待を表し,退院して面会時間の制限から 解放され,親になったことを実感していた。 A「退院したら,あーなんかやっと3人で寝れるのかって …。」 F「退院は,やっぱり嬉しかったは嬉しかった。不安は ずっとつきものなんですよ,でもそれよりも期待のほ うが大きかった。その期待って言うのは,自分らがこ れから幸せになるっていう期待ですよね。」 6 ) 第6カテゴリー【「普通の子」に成長するわが子を 実感】  このカテゴリーは,3つのサブカテゴリー[問題が 解決し人間らしく成長する楽しみ],[普通の子に追い つく安心感],[育児や周囲の反応による父親の実感] から構成された。6名中6名が語った父親が子どもとの 関係性を認知する段階から,子どもとの相互作用へと 発展していく過程で高まっていく父親の実感である。 子どもが父親の思っている「普通の子」に到達してい く経過を幸運なことと捉え,4名の父親は動物のよう だった子どもが人間らしくなったと語り,育児を通し て自分の子どもという実感の高まりを経験していた。 3名の父親は,わが子が父親の思っている「普通」「標 準」の範囲に入ることを気にかけており,それが達成 されることにより安心感を強め,保護するという意識 から,子どものしつけを意識するようになっていた。 A「すごいラッキー,生まれた状況考えるとすごい順調 にきてるんだなーって。やっぱり生まれたばっかりの 時ってねーもうちっちゃくて,普通の状態じゃないか ら,なんか娘っていう感じじゃないんですよ。なんか ねー普通の生き物が生まれたようなね,動物が生まれ たようなね。そんなイメージから段々ね,人間らしく なってったなー。」 F「何をしても,超過保護でいいから,よしよしよしだっ たんですけども,それがなんか普通の子と一緒になっ てきたというか,その体の大きさとかそういうのはま だ小さいんですけども,あのーおむつとかパンってた たけるようになって,それでやっと超過保護から普通 の過保護になってもいいかなっていう感じになってき ましたね。」 B「命の危険とかそういうのはもうほとんど無い感じな んで,障害も今のところ幸い,なんかそっちのほうの 心配なくなってきているから,そうすると今度あとは あのーおかしな人間にならないように,しっかり育て ていかないと,甘やかすとかそういうのはしないよう にしなきゃいけないのかなと…。」  子どもの健康面での不安が減り,人間らしく成長す ることで,かわいいという思いが強くなっていき,子 どもとの間に人間対人間の愛情が生じ,わが子という 実感を得ていく経験をしていた。3名の父親は,カン ガルーケアで父親の実感がわいたことを語っていた。

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育児という子どもとの直接的な関わりや周囲の関心か ら父親の実感が高まっていき,父親の側からの子ども の表情などに関心を持つ段階から,抱っこ,沐浴など 子どもとの直接的関わりができるようになる過程で父 親の実感を経験していた。 C「先生からの説明を受けて,問題点が一つ一つこう解 決されてって,徐々に徐々に安心感を取り戻してきて, 初めてかわいいと思ったの…。」 D「ミルクやってる時に段々やっぱり,自分の子なんだ なーと思いました…。うちの子どもけっこう甘えんぼ なんで,抱っこしてくれって,両手でアピールする時, 父親の実感わきますよね。あと,お父さんに似ている とか言われると,顔とか,(携帯の写真を取り出す)親 ばかなんですけどー…。」 7 ) 各カテゴリーの関連性(図1)  本研究対象者6名の語りより得られたデータの文脈 に基づき,各カテゴリー間の関連性を検討した。  早産児をもつ父親の経験は,予測外の早産という危 機的状況に直面し,自分ではどうすることもできない 眼前の状況に妻子の生命への危機感と安全への願いを もつ【妻子の生命への危惧と願い】から始まっていた。  この出生前の段階から【妻への配慮】は,身体的精 神的に一番つらそうな妻への思いやりとして続き,妻 の負担軽減や妻が母親になるプロセスをサポートする という経験から,全てのカテゴリーと関連していた。  【妻子の生命への危惧と願い】は子どもの出生後, 緊迫していた状況が落ち着いていく中で,無事出生し 五体満足であったことを喜ぶ次の段階の【出生と五体 満足の安堵感と感動】となる。この【出生と五体満足 の安堵感と感動】は,6名中4名の父親が,一連の危機 的状況下におかれながらも経験している点で重要と考 え,カテゴリーと位置付けた。しかし一方で子どもの 仮死状態などの外観から子どもらしくない印象をもち, 人間としての実感は希薄であり,普通の子のように触 れないという経験から「普通の子」とは違うという意 識が生じ【「普通の子」と異なるわが子への不安】を経 験する。そして,子どもの生存を願う気持ちを感じて いたこの段階では,出生の喜びと生存の不安という感 情が父親の内面に存在していた。  【出生と五体満足の安堵感と感動】は,その後病院 や家庭という場で父親と子どもが繋がっていく【子ど もとの絆のはじまり】に関連していた。五体満足で出 生した子どもの成長発達過程を通じて,出生時のよう な子どもの生命の危機を感じる強い不安は軽減し,子 どもの入院中の面会は親子の感情を喚起していき【子 どもとの絆のはじまり】へ進み,退院を迎え子どもと の新しい生活への期待を感じていた。このプロセスに おいて,本来親子として一緒にいられるはずの時期な のに,子どもは入院しており【「普通の子」と異なるわ が子への不安】は引き続き存在し,喜びと不安が併存 している状態が続いていた。  【子どもとの絆のはじまり】は,父親が子どもとの 関係性を認知する段階から,子どもとの相互作用へ と発展していく過程で高まっていく父親の実感であ る【「普通の子」に成長するわが子を実感】と関連して いた。【「普通の子」と異なるわが子への不安】は,出 生した時には動物の子どものように感じた子どもの人 間らしく成長する楽しみや「普通の子」に追いつく安 心感を得て,育児や周囲の反応により父親の実感を高 めていく【「普通の子」に成長するわが子を実感】へと 進んでいた。父親は,わが子が父親の思っている「普 通」,「標準」の範囲に入ることを気にかけており,そ れが達成されることにより安心感を強め,子どもを保 護するという意識から,子どものしつけを意識するよ うになっていた。【「普通の子」と異なるわが子への不 安】,【「普通の子」に成長するわが子を実感】は,子ど もの状態の変化に伴い喜びと不安が併存する揺れ動く 経験としてラセンを用いて図式化している。

Ⅳ.考   察

 本研究結果について,早産児の出生に直面した父親, 「普通の子」になること,妻への配慮が父親にもたら 1年∼1年半 (時間の流れ) 出生 初回面会 Ⅱ.妻への配慮 Ⅳ.「普通の子」と異なる我が子への不安 Ⅵ.「普通の子」に成長するわが子の実感 Ⅰ.妻子の 生命への 危惧と願い Ⅲ.出生と 五体満足の 安堵感と感動 Ⅴ.こどもとの絆のはじまり 父親 の 実感 の 高 ま り 他のカテゴリーへの関連性 カテゴリー相互の関連性 図1 カテゴリー間の関連図

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すものという3つの観点から考察する。 1.早産児の出生に直面した父親  予測外に起こった早産という子どもの生命のみなら ず,妻の生命をも脅かすような緊迫した状況において 最初に生じる経験は【妻子の生命への危惧と願い】で あった。父親は緊急性の認識をせざるを得ない状況下 に置かれ,驚きや狼狽とともに,妻子の生命への不安 を強く感じ,今後の展開については神頼みするしかな いという気持ちになっていた。この経験は大原(2002) の早産児の父親が緊急帝王切開前に異常の認知段階に あるときに「驚き」「不安」を経験していたという結果 と一致している。本調査においては,妊娠期から入院 しており,早産になるかもしれないという事前の認識 がある場合においても,早産が眼前の事態となった時 には驚き,考える余地がないという不十分な認識の状 態となることが明らかになった。そこにはやむを得な い状況に巻き込まれている父親の存在があり,早産に ならないことへの一縷の望みや早産を否定したいとい う気持ちが交錯する。その緊迫した状況に踏みとどま る努力が,医療者から言われたことを理解し頑張る姿 となって表現されていた。この段階において一縷の望 みがあるものの,現実的選択肢は妻子の生命を医療者 に任せるということしかなく,状況認識の深度の差に より父親の心の中に様々な葛藤が生じていた。この ような【妻子の生命への危惧と願い】は子どもの出生 後【出生と五体満足の安堵感と感動】となり和らいで いく。その一方で,出産後の妻の身体状況への心配や 【「普通の子」と異なるわが子への不安】が生じていた。 父親になる実感と喜びは,出生後は出生前より有意に 高く,子どもへの不安・心配は出生後に有意な低下を 示している(佐々木・高橋,2004)。しかし,早産児の 父親は出生後も子どもの今後への強い不安が続いてお り,父親になる実感と喜びが出産を境に高まるという 一般的な分娩の結果とは異なった経験となっていた。  この段階で感じる【出生と五体満足の安堵感と感動】 は,小さいながらも五体満足で無事に出生できたとい う,父親と子どもとの関係の始まりにおけるプラスの 要素となっていた。そして,子どもを受け入れていく 準備段階として,次の段階である【子どもとの絆のは じまり】に関連していた。本研究対象者は,妻子の生 命を脅かされていた状況に引き続き子どもの生存や今 後の不安を抱えてはいたが,対象者6名中4名は不安 のみに支配されているのではなく,早産という危機的 状況を乗り越えた【出生と五体満足の安堵感と感動】 を経験していた。これには,対象者が子どもを授かる ことを望んでいたという背景も関連している可能性が ある。  早産したわが子との初回面会では,【出生と五体満 足の安堵感と感動】を覚える一方で,父親は実感のわ かない気持ちを経験していた。思い描いていた子ども のイメージと異なり,人形のように見えたり,仮死状 態で生きている実感が乏しかったり,管がたくさん付 いていてどこを触ってよいかわからない子どもからは, 生命感が感じられず,その親近感の欠如から人間とい うよりまるで動物の赤ちゃんをみているような印象を 受けていた。子どもに対するこのような感情によって, ようやく現在の状況認識が可能となった父親のなかに 新たな不安,すなわち【「普通の子」と異なるわが子へ の不安】が生じていた。初回面会時および面会後の父 親は高不安状態にあり,父親の不安は,子どもらしく 見えない子どもの外観,「普通の子」のように触れない こと,そして子どもの生存の不確かさと関連していた。  早産児の父親が最初の子どもとの接触体験で,「普 通の子」のように触れない子どもとの距離感を感じ, 不全感をもっていることは,父親の実感に影響を及 ぼしていることが考えられる。「普通の子なら触れる はず」「普通の子なら抱けるはず」という父親の思いは, 早産児であるわが子が「普通の子」と異なるという意 識を生じさせている。Sammons & Lewis(1985/1990) は,当然来たるべき妊娠後期の日々への期待や抱い ていた夢想が失われたことを嘆き悲しむ「喪失感」を 感じるこの段階を「危機の段階」・「混乱の段階」とし, 子どもがNICUに入院となった最初の頃,親たちが怒 り,逃避,否認を味わうことは,親たちにとって建設 的過渡期となると位置付けている。しかし,本調査対 象者のわが子との対面は怒り,逃避,否認という経 験よりも,実感が伴わない子どもとの距離感がある 経験として表現される傾向があった。「虫のように見 えるのは自分の子どもではない。」という表現ではな く,「自分の子どもは虫のようにみえる。」という表現 である。つまり,父親として子どもとの関係性は前提 としているが,子どもの存在自体を受け入れるに至ら ない経験と考える。これは,対象者の半数が不妊治療 を受けており,全員が子どもをもつことを希望してい たという背景も関係していると考える。この段階での 子どもとの心理的距離感は,父親の不安を強める要因 となっていた一方で,父親のもっていたイメージと異

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なる子どもへの適応のための意欲と義務感を生み出し ていたのではないかと考える。言いかえると,父親の 内面で生じている【「普通の子」と異なるわが子への不 安】が「普通の子」であることを見いだそうとするエネ ルギーとなっているのである。それは,【「普通の子」 と異なるわが子への不安】を抱えながら,【子どもとの 絆のはじまり】のエネルギーを生み出しているその後 のプロセスからみても,重要な過渡期と考えることが できる。しかし,子どもとの関係性の前提がなく,か つ子どもの存在を受け入れられない場合に,この子ど もとの距離感のありようは,【子どもとの絆のはじま り】のエネルギーを生み出すことを疎外する要因とな り,過渡期における弱点となる可能性もある。  【「普通の子」と異なるわが子への不安】は,子ども が退院できる状態になっても子どもの健康への不安 として存在していた。神谷(2001)は低出生体重児を もつ親の心配事として,①身体発育,②精神運動機能 発達,③健康状態をあげ,これらの心配が長期間続く ことによる育児不安の増強,あるいは子どもの心身が 正常な状態になっていても必要以上に神経質になり過 保護な育児を行う場合も少なくないと述べている。早 産児であるが故に,父親は子どもの退院を喜びつつも, 病院から離れ家庭で育児することの不安をかかえてい ることがわかる。反面,医療から離れることによる不 安は,退院後は自分が子どもの健康を守っていく責任 感につながる思いであると考える。家庭での育児のな かで発生する心配事は「よくあること」として処理さ れず,懸念として認識され,医療者への相談や受診行 動から解決されていく傾向にある。父親にとって子ど もの健康や幸福を守っていくことは自分の責任を果た すことであり,【「普通の子」と異なるわが子への不安】 から,子どもを保護し守ることにエネルギーを注いで いることがわかる。  【出生と五体満足の安堵感と感動】は子どもの入院 中から退院して家庭生活に入っていく時間の経過の中 で,病院や家庭という場で父親と子どもが繋がってい く【子どもとの絆のはじまり】という段階に進んでい く。五体満足で出生した子どもの成長発達過程を通し て,出生時のような子どもの生命の危機を感じる強い 不安は軽減してゆき,退院を迎え子どもとの新しい生 活への期待を感じていた。子どもが入院すること自体 は決して望ましいことではなく,本来一緒にいるのが 家族という思いがあり,「本来あるべき姿が実現して いない」という欠落感がある。毎日面会に通っていた 対象者のひとりが,1日面会に行かないだけでも罪悪 感を感じていたのは,自分が仮想している家族のある べき姿を実現していくための努力を放棄したと感じて しまうからかもしれないと考える。同時に面会は子ど もの成長過程を見守り,子どもとの将来を思い描く時 間となっており,親子の感情を喚起されながら,仕事 の合間をぬい面会に通う努力が続けられている期間で あった。子どもが入院していた期間を6名中2名の父 親は,安心して育児の準備をするゆとりの期間と捉え ていた。子どもと離れて生活している事態を肯定的に 捉えるべく,入院している状況を受けとめていたので はないかと考える。 2.「普通の子」になること  出生後より続いていた【「普通の子」と異なるわが子 への不安】は,子どもが予想された問題を一つずつ乗 り越えて解決していく過程を通して順調に経過してい るという確信から徐々に軽減していく。また抱っこ, おむつ交換や沐浴などの直接的関わりから,子どもを 本当にかわいいと思うプラスの感情に変化していた。 【子どもとの絆のはじまり】過程を通じて,父親は子 どもの外見がより人間らしくなり,泣いたり笑ったり 表情がでてくる日々の変化を印象深く感じとって,か わいいという感情をより強くもち,【「普通の子」に成 長するわが子を実感】していた。このような感情の動 きは,本当の意味でわが子という実感を得て,引き受 けることにつながるのではないかと考える。  1歳6ヶ月児の父親・母親の子どもイメージの研究 (矢野・佐藤・宮崎他,2003)で,母親は子どもに対す る時に自分の中に発生する感情が基盤となるが,父親 は子どもから受ける印象が基盤となることが示唆され ている。対象者6人中4人が語った子どもが人間らし くなるという印象は,父親にとって子どものプラスイ メージを強化し,子どもが人間対人間の愛情をもつ対 象となってくることを意味し,わが子であるという実 感を高める要因となっているのではないかと考える。 生後1ヶ月から1年の父子関係と父性の発達について の縦断的研究(高橋・高野・小宮山他,1992)では,子 どもの成長とともに子どもと遊ぶのが楽しくなり10 カ月頃には,父親の自覚,父親の責任などの言葉が出 現し自分を父親として意識している姿がクローズアッ プされている。早産児の父親がわが子の実感を得てい く過程も,入院中の子どもの成長過程を通して高まっ ていた。本研究対象者においては1年から1年半経過

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する中で,だんだんとわが子への心配が軽減し,安心 感を得ていく一方で,子どもとの関わりをもつことに より父親の実感が強くなっていた。一般的な1歳児を もつ父親の調査(竹中,2004)では,育児を「楽しい」 かつ「大変」と答えた者が半数以上であったことが報 告されている。早産児の父親は育児を通して子どもが 順調に育っている安心感を得ながら,子どもとの関わ りを楽しむ余裕がうまれている姿がみられる。つまり, 子どもをかわいいと思うよりも心配の方が先立つとい う経験に特徴があり,大丈夫と思えることの積み重ね が育児を楽しむ余裕となってくると考える。  オーストラリアの早産児の父親の愛着(永続的絆, 人間間の愛情関係と定義)の感情は,父親が初めて 児を抱いた時と関連していることが報告されている (Sullivan, 1999)ように,対象者の3名がカンガルーケ アで父親の実感がわいたことを語っており「抱けるよ うになる」ことが大きな意味をもっていることが示唆 される。  対象者6名中3名の父親はわが子が「普通の子」に追 いつくことを気にかけており,父親にとっての「普通」 とは,子どもの体重という客観的指標のほかに,おむ つをパンとたたけるようになったというような父親自 身の感覚も指標となっていた。対象者のひとりは「普 通の子」に追いつきつつあることや追いついたことを 当然と考えるのではなく,幸運なことと感じていた。 【「普通の子」と異なるわが子への不安】が強い段階で は,子どもを保護し守ることにエネルギーを傾けてい たが,「普通の子」に追いついてきたと思うようになっ てからは「しっかり育てていかなくては」というしつ けに対する意識をもちはじめ,子どもの社会化に向け て役割責任を果たそうとする意識に変化していた。対 象者のひとりが語っていたように,入院中は保育器の 子どもが自分を一生懸命見つめる姿がかわいく,親だ とわかっていると思ったように,最初は父親の側から の子どもとの関係性の認知段階がみられる。そして子 どもが自分を見て笑うようになることや両手で抱っこ を要求する姿などから,子どもとの相互作用へと発展 していく経験をし,子どもが相互作用できる対象とな ることが,子どもの社会化を意識していく前提となっ ていたと考える。そして,【「普通の子」に成長するわ が子を実感】していくことで,父親も「普通の子の親」 になり,育児における子どもの社会化への意識をもち はじめるように変化しているといえるのではないか。 この「普通の子の親」になること自体が早産児の父親 にとっては意味のあることであり,育児面における意 識の切り替わりは,早産児の父親の特徴といえるので はないかと考える。以上のことから,父親の子どもに 対する考えの背景にあるものを理解して父親と子ども の関係を捉えることが必要と考える。 3.妻への配慮が父親にもたらすもの  早産児出生より1年から1年半継続して表出されて いた父親の経験は【妻への配慮】であった。父親は大 変な状況を乗り切った妻,早産した子どもに自責の念 をもっているであろう【妻への配慮】から,【「普通の 子」と異なるわが子への不安】である子どもへの実感 のわかない感情を抑制していた。妻への感情がプラス であればこそ,父親としてマイナスと思う情緒反応を 表明することができなくなっていたのではないかと考 える。子どもをかわいいと思えないのは妻に申し訳な いことであり,親としての役割意識から受け入れられ ない心情を語ることができずに自分の心にとどめ,わ が子でありながら本当にかわいいと思えることすら時 間がかかるという経験をしていた。出産後妻がまだ子 どもに面会できない状況で,父親が面会した子どもの 様子を妻に伝える時,自分の不安は伝えずに「子ども は元気に動いていたよ」「かわいかったよ」と伝えてい ることは,対象者が,自分より妻のほうが大変である と思い,妻を支えるという意識を強くもつことで自 己の感情を抑制している経験であると考える。子ども がNICUに入院した時,ショックや子どもに対する心 配や不安は両親間で殆ど差はなかったという結果(宮 中・長谷川・土井他,1993)が報告されているが,父 親は不安な自分以上に妻は心身の苦痛を経験している という思いがあり,妻が安心できるように子どもの様 子を伝え,妻が罪責感を持たないような配慮をしてい た。  早産児の父親になるスウェーデン人男性への記述的 研究(Lundqvist & Jakobsson, 2003)においても,父親 は新しい出来事(早産児の出産)に対処する母親を助 けることに多くのエネルギーを使い,妻が母親になっ ていくことへの責任を感じていると述べられている。 本研究対象者も出産後の妻に「子どもが小さい話はあ まりするべきじゃない」と思ったり,子どもの入院中 も「子どもを連れて帰りたいと言うと妻が責任を感じ るのではないか」と思ったりしていたように,妻の罪 責感への配慮も意識的・継続的になされ,妻が母親に なるプロセスをサポートしていた。このように,妻へ

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の配慮から生じる父親の表出できない不安の存在を理 解することが看護の役割として必要だと考える。  早産した【妻への配慮】は,大変な育児に取り組ん でいる妻を支え,育児参加し協力する意識につながっ ていた。必然的に関わらざるを得なかった早産から子 どもが入院中の父親の経験は,父親としての自覚を促 される契機となり,家庭での育児に影響を及ぼしてい るといえる。宮中・松岡・山口(1998)は,子どもの 世話が多い父親と父性意識が高いことは関連すると考 えられ,育児,精神的支援,家事協力を行うことが母 性意識を向上させると述べている。早産児の父親が育 児参加への自覚と責任感をもつことは,母親の子ども への感情に影響を及ぼすと同時に父親自身の子ども への感情にも影響しているといえる。つまり,抱っこ, おむつ交換や沐浴など子どもとの直接的関わりを通 して,子どもをかわいいと思う感情が高まる【子ども との絆のはじまり】となり,父親の実感を高めていく 【「普通の子」に成長するわが子を実感】することとなっ ていくのである。

Ⅴ.研究の限界

 本研究の対象は,一施設から抽出しており,6名と 少数例である。また,半数が不妊治療の結果,子ども を授かり,全員が望んだ妊娠であったため,妊娠の受 け入れ状態によっては結果が異なることが予測される。 しかし,早産児をもつ父親を支援するうえでの基礎的 データとなると考える。

Ⅵ.看護への示唆

 本研究結果より,早産児の父親への看護において以 下の2点が示唆された。 1 )父親の表出できない不安の存在を理解すること  父親にとって早産児の出生は,自分ではどうするこ ともできない状況下で,妻子の生命への危機感をもつ 不安の強い経験であった。しかし,自分以上に大変な 思いをしている妻への配慮から,妻をサポートする役 割を果たしていた。このような状況にある父親に関心 をよせ,父親の不安を共有しながらエンパワーメント していく姿勢が大切である。更に,子どもの出生後も 妻への配慮から,父親は子どもへの不安や,自分のも つ「普通の子」と異なる印象など父親自身マイナスと 思っている気持ちや考えを表出できないでいた。この ような父親の表出できない,あるいは表出してはい けないと思っていることは,すべて当然の反応である ことを理解し支援することが必要と考える。看護者が, 父親の語りやそこに込められている思いを傾聴し,妻 に表出できない感情を表出できる対象として存在する ことは,父親と妻子の相互関係を育てていくうえでも 重要であると考える。 2 )父親の子どもに対する考えの背景にあるものを理 解すること  早産児の出生後,父親が子どもとの心理的距離感を もつ背景には,子どもを抱けない経験など普通と異 なるという不安があった。また,子どもが退院した 後にも,小児科のfollow up外来の受診に同行するな ど,子どもの成長発達を気にかけていた。その背景に は,早産児であるわが子が自分の考える「普通」,「標 準」に到達することを気にかけており,「普通の子」に 追いつくまでは子どもを保護することにエネルギーを 傾けている父親の姿があった。そして,父親はわが 子が「普通の子」に追いついてきたと思うようになっ てから,しつけへの意識をもち始めていた。このよう な,父親の子どもに対する考えの背景にあるものを理 解して父親と子どもの関係を捉えることが必要と考え る。看護者は,「おむつをパンとたたけるようになり, 普通の子になってきた」というような,子どもとの相 互関係から生まれる父親の実感や意識の変化を捉えな がら,子どもの成長発達を共に見守る存在であること が,父親と子どもの相互関係を育てていくうえで大切 であると考える。

Ⅶ.結   論

 本研究において,早産児の出生より1年から1年半 の父親としての経験を分析し,以下のことが明らかに なった。 1 .早産児の父親としての経験は,【妻子の生命への 危惧と願い】【妻への配慮】【出生と五体満足の安堵 感と感動】【「普通の子」と異なるわが子への不安】 【子どもとの絆のはじまり】【「普通の子」に成長する わが子を実感】という6カテゴリーから構成されて いた。 2 .父親は子どもへの不安が強い段階では,子どもを 保護し守ることにエネルギーを傾けているが,「普 通の子」に追いついてきたと思うようになってから

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はしつけを意識し始め,子どもの社会化に向けて役 割責任を果たそうとするようになっていた。 謝 辞  本研究にあたり,お忙しい中面接を受け入れ,ご自 身の経験をお話下さいましたお父様方に心より感謝致 します。研究にご理解とご協力下さいました長和俊先 生,医療機関の皆様に感謝と共に,お礼申し上げます。  また本研究をすすめるにあたりご指導下さいました 札幌医科大学大学院保健医療学研究科の今野美紀准教 授に感謝致します。そして,研究全般にわたり細やか にご指導下さいました丸山知子教授に感謝申し上げま す。  本研究は,札幌医科大学大学院保健医療学研究科に 提出した修士論文の一部を修正・加筆をしたもので, 第21回助産学会で結果の一部を発表した。 引用文献 天野智子(2002).虐待・育児不安の背景にあるもの̶電 話相談の現場から.周産期医学,32(10),1369-1372. 新谷由里子,松村幹子,牧野暢男(1993).親の変化とそ の規定因に関する一研究.家庭教育研究所紀要,15, 129-140.

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参照

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