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妊娠中期と後期における腰痛と歩行および身体活動量の変化と関連性

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Academic year: 2021

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妊娠中期と後期における腰痛と歩行および身体活動量の変化と関連性

Changes and relationship among low back pain, gait index,

and physical activity during pregnancy

渡 邊 香 織(Kaori WATANABE)

*1

藤 島 和 代(Kazuyo FUJISHIMA)

*2

渡 邊 友美子(Yumiko WATANABE)

*3 抄  録 目 的 本研究の目的は,妊娠中期と後期における,1) 腰痛と歩容指標(人間の歩行動作・歩きぶりを運動学 的データにより可視化された指標),および身体活動量の変化の検討,2) これら3つの変数間の関連性 を検討することである。 対象と方法 対象は正常経過の妊婦35名とした。データ収集は,妊娠中期と妊娠後期の2回,腰痛・歩容指標・身 体活動量の測定を実施した。腰痛の測定には,Visual Analog Scale(VAS)を用い,歩容指標は3軸加速 度センサーを用いて,歩行の変動係数・規則性・円滑性,体幹の動揺性により分析を行った。身体活動 量は生活習慣記録機を3日間以上の装着により計測した。 結 果 妊娠中期と後期の比較では,妊娠前の腰痛無の妊婦18名(51.4%)において,妊娠中期よりも後期の VAS値が高かった(p=0.01)。歩数と身体活動の中高強度活動時間は中期よりも後期に減少していた (p=0.01)。歩容指標では,歩行の変動性は,妊娠中期よりも後期に大きくなり(p=0.03),一定のリズ ムでの歩行が行えていなかった。体幹の動揺性は後期に小さく変化し(p=0.03),体幹の動揺が小さく なっていた。腰痛と歩容指標との相関では,妊娠中期の歩行の円滑性が高いほど後期のVASは低かっ た(r=−.411~−.517,p<0.05)。歩容指標と身体活動量の相関は,妊娠中期の歩数が多いほど,妊娠後 期の体幹の動揺性(r=.436,p<0.05),歩行の規則性(r=.379~460,p<0.05)が高かった。 結 論 妊娠後期の歩行は不安定であり,重心動揺を小さくして歩行能力を維持していることから,転倒予防 のリスク対策が必要である。妊娠後期まで歩行能力を維持するために,転倒リスクや腰痛も考慮した, 安全で簡易な体幹機能トレーニングを含めた運動支援が妊娠中期から必要である。 キーワード:妊娠期,腰痛,歩行,身体活動量,縦断的調査 2019年5月30日受付 2019 年12月16日採用 2020年4月10日早期公開

*1大阪府立大学大学院看護学研究科(Osaka Prefecture University Graduate School of Nursing) *2醍醐渡辺クリニック(Daigo Watanabe Clinic)

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Abstract Purpose

The purpose of this study was to 1) examine changes in low back pain, gait index (visualization index of gait and step according to kinematic data), and physical activity in the second and third trimesters of pregnancy: and 2) de-termine the relationship between these three variables.

Methods

The study participants were 35 Japanese pregnant women. Clinical data on low back pain, gait index, and physical activity were collected twice, once during the second and once during the third trimester. The visual analog scale (VAS) was used to measure low back pain. Gait measurements were recorded using a wireless motion recording sensor unit containing a piezoresistive triaxial accelerometer and a triaxial gyroscope. For gait analyses, we calculated the coefficient of variation (CV), root mean square (RMS), harmonic ratio (HR), and autocorrelation coefficient (AC). RMS, HR, and AC were measured across three physical planes: vertical (VT), mediolateral (ML), and anteroposterior (AP). Physical activity was measured by wearing a life coder GS®for three or more days.

Result

Eighteen pregnant women (51.4%) with no back pain before pregnancy had higher VAS during the third trimes-ter than in the second trimestrimes-ter (p=0.01). Steps (p=0.01) and medium / high intensity activity time (p=0.01) decreased significantly more in the third trimester than in the second trimester. CV was significantly larger during the third trimester than during the second trimester (p=0.03). The third trimester showed a significantly smaller RMS in the mediolateral planes than did the second trimester (p=0.03), which showed trunk stiffness. A moderate negative cor-relation was observed between HR in the second trimester and VAS in the third trimester (r value:−0.411 to −0.517, p<0.05). Moderate positive correlations were observed between number of steps / day in the second trimester and RMS (r value: 0.436,p<0.05) and AC in the third trimester (r value: 0.379 to 0.460, p<0.05).

Conclusions

This study found that gait indices were more unstable in the third trimester than in the second trimester. Pregnant women were able to maintain their gait ability by reducing their body sway due to muscle depression. Unstable gait indices may lead to increased falls, so supported exercise regimes are required to ensure and maintain gait stability from the second trimester until the third trimester.

Key words: pregnancy, low back pain, gait, physical activity, longitudinal method

Ⅰ.緒   言

1.研究の背景 妊娠期の運動は,精神的健康の保持,体重コント ロール,妊娠糖尿病,妊娠高血圧症候群のリスクを低 下させることなどの効果から推奨されている(Schmirt, et al. 2016)。関東圏の分娩施設やスポーツ施設の妊婦 364名を対象とした先行研究では,妊娠中に実施され ている運動として,妊婦体操(24.8%)やマタニティヨ ガ(15.0%)などよりも,ウォーキング(88.7%)が多数 を占めていた(村井,2010)。これらのことから,歩行 は妊婦にとって日常生活に取り入れやすい手軽な運動 といえる。歩行は妊婦にとってリスクの少ない有酸素 運動となり得るが,妊娠に伴う腹部増大により,体幹 における身体重心位置は前方に偏位するため歩行動作 に影響する(青山他,2010)。 人間の体幹部分は身体重心が存在し,上部体幹と下 部体幹に分けられる。歩行時に体幹を支える腰部周囲 の筋群は下肢で蹴り出す際に最も強く動き,上部体幹 と下部体幹に生じる慣性力を支えて体幹を安定させて おり,これらが連動して安定した歩行が成立している (Sawa, et al. 2015)。妊娠期では,胎児の成長に伴う 子宮の増大により,体幹における身体重心位置は前上 方に偏移し(Whitcome, et al. 2007),筋骨格系への負 荷量も増大することが指摘されている(Takeda, et al. 2009)。武田他(2008)は,妊娠後期の長時間の歩行で は,股関節前面の軟部組織や体幹前面と大腿前面を連 結する腹直筋等への負荷量が増加し,これら筋群の易 疲労性の疼痛を引き起こす可能性を示唆している。ま た,妊娠経過に伴って下部体幹に生じる力は大きくな り(Jensen, et al. 1996),それに伴い上部体幹への慣 性力は大きくなると考えられ,歩行運動による腰部へ の負担から腰痛が生じることが考えられる。 腰痛を訴える妊婦は約70~78.9%(榊原,2006;安 田他,2017)であり,立位の保持や重量物の挙上・保 持など日常生活動作や姿勢への支障が生じ(安田他,

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2017),妊娠生活の QOL を損なう一因となっている。 妊婦の腰痛の原因は,リラキシンなどのホルモン分泌 の変化により仙腸骨靱帯や恥骨結合が弛緩し骨盤が不 安定になること,増加した体重や増大した子宮を保持 することや,重心の前方移動に対してバランスをとる ために生じる脊柱アライメントの変化に伴い,腰背筋 に過度の負担がかかることによる生理的要因が大きい (榊原,2006)。さらに,ストレスなど心理社会的要因 (長谷川,2015)や,妊娠前の腰痛既往歴,産科歴, 身長,生活習慣,妊娠前の運動習慣なども報告されて いるが異なる議論もあり,一致した見解は得られてい ない(梶原他,2012;小野他,2015;安田他,2017)。 腰痛による歩行への影響について着目すると,腰痛を 有する妊婦では,痛みの部位をかばうために体幹の動 きが硬くなり体幹の回転範囲が低下することで体動時 のスムーズな移行ができず,歩行に影響することが指 摘されている(Tanigawa, et al. 2018)。 妊婦の歩行について,運動学的評価から妊娠後期で は 非 妊 娠 女 性 と 比 較 し て 歩 行 速 度 の 有 意 な 低 下 (Lymbery, et al. 2005;武田他,2008),および歩行の 規 則 性 の 有 意 な 減 少 が 報 告 さ れ て い る(青 山 他, 2010)。また,安定した歩行のために,一側の踵接地 からその同側の母趾離地までの足が地面に接地してい る時間を示す立脚期時間が延長していることが示され ている(Foti, et al. 2000)。このように,妊婦の歩行が 不安定になっていることを示す報告は多い。妊婦の約 7割が日常生活動作上の不安定感を自覚しており(武 田他,2016),妊婦の転倒経験率は約 20~26%(Dun-ning, et al. 2010;武田他,2016)と,高齢者の転倒率 とほぼ同様の割合を示している。妊婦の転倒は,歩行 や階段昇降時など日常生活の中で,夕方の時間帯に起 きやすく,段差などの環境要因や身体精神的な疲労等 の要因,妊娠に伴う腹部突出により段差などが確認で きないという視覚的な問題(武田他,2016)など,運 動学的要因も含めて多様な因子が関与していることが 考えられる。歩行は,転倒機会が多い行動であるが日 常生活で避けることができない動作であり,リスクを 最小限にするには運動学的評価から妊婦の歩行特性を 明らかにして,予防策を検討する必要性は大きい。し かし,妊娠経過に伴いどのように歩行特性が変化し, 歩行の安定性に影響しているのかなど不明な点が多 く,妊娠に伴う変化を縦断的に追跡し定量的に関連性 を評価した報告は見当たらない。 高齢者が対象であるが,身体活動量が多いほど歩行 能力の低下を緩和することが報告されている(Boyer, et al. 2012)。妊娠中期の妊婦を対象にした先行研究で は,日常生活での身体活動量が多いと立脚期時間や1 歩行周期時間の延長が少なく,歩行が安定する可能性 を報告しており(森野他,2013),妊婦の歩行能力の 維持と身体活動量の関連が推測できる。妊娠中の健康 的なライフスタイルの一部として健康運動や有酸素運 動が推奨されており(Melzer, et al. 2010),歩行運動 は日常生活に取り入れられやすいというメリットがあ る。妊娠中に健康的な歩行運動を推奨するには,妊娠 経過に伴う転倒リスクに繋がる歩行特性を明らかにし て腰痛のリスクも考慮した適切な歩行運動の支援を行 うことが不可欠である。しかし,妊娠経過による歩行 特性やそれに伴う腰痛の状況,身体活動量の変化とこ れらの関連性についての検討は行われておらず,不十 分な状況にある。妊婦に対して,腰痛や転倒のリスク を最小限に,歩行特性を考慮した適切な運動支援を行 うために,妊娠経過による歩行と腰痛および身体活動 量の変化とそれらの関連性を検討することは意義があ ると考えられる。 [用語の定義] 歩容指標:人間の歩行動作・歩きぶりを運動学的 データにより可視化された指標であり,本研究では, 1歩行周期時間,ケイデンス,体幹の動揺性,歩行の 変動性,円滑性,規則性による指標とする。 2.研究の目的 本研究の目的は,妊娠中期と後期における,1) 腰 痛と歩容指標,および身体活動量の変化の検討,2) これら3つの変数間の関連性を検討することである。

Ⅱ.研 究 方 法

1.研究デザイン 研究デザインは,妊婦を対象に妊娠中期と後期にお いて,腰痛,歩容指標,身体活動量の変化とそれらの 関連性を調査する,縦断的・記述的相関研究デザイン である。 2.対象 対象者は,A ・ B 病院産婦人科において行われる, マタニティ教室に前期(対象時期:妊娠中期)と後期 (対象時期:妊娠後期)の2回とも参加しており,合併 症,早産や妊娠高血圧症候群などの異常妊娠経過を有

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していない妊婦とした。 サンプルサイズは G*power を用いて効果量を 0.5, 検出力を 0.8,有意水準を 0.05 として算出した。妊娠 中期と後期の変化を主要な分析と考えた結果,34 名 が必要となった。先行研究より 20% の脱落率を勘案 し,42名を必要数とした。 前期マタニティ教室の終了後に,リクルートを実施 した。口頭と文書にて研究目的を説明し,44 名の妊 婦から書面による同意を得られた。研究協力の承諾が 得られた 44 名のうち,入院や転院により妊娠後期の 測定ができなかった4名,参加辞退5名(5名とも妊娠 中期の測定後,ライフコーダの測定を辞退)を除外 し,35名を本研究の分析対象とした。 3.調査内容とデータ収集方法・期間 基本情報として,年齢,身長,体重,初経別につい て本人より情報を収集した。測定は,妊娠中期と妊娠 後期の2回実施した。 1)腰痛

腰痛の測定には,Visual Analog Scale(VAS)を用い た。長さ100mmの直線上で,0(疼痛なし)~100(耐 えられない激痛)の間で,測定時の腰痛の程度につい て本人が直線上に矢印を記入した。 2)歩行の測定 歩行の計測機器には,3軸加速度計および角速度計 を内蔵した 3 軸加速度センサー(Micro Stone 社製, MVP-RF-8,サンプリング周波数:200HZ,検出加速度 範囲:60m/sec2,重さ 60g,大きさ:W45.0×R45.0× H23.5mm)を用いた。小型でかつ軽量で妊婦への身体 的負荷が非常に低く安全性も確認されており,これま での姿勢分析システムや3次元動作システムなど大が かりな準備も不用であり,日常生活場面での歩行動作 を妨げず,歩行周期の同定の妥当性や再現性がすでに 明らかになっている(Bautmans, et al. 2011)。3軸加速 度センサーは,妊婦の重心に近く重心移動に近似する, 第 3 腰椎突起部付近に接するように腹帯にマジック テープを貼付してテープで固定した。また,歩行動作 に影響を与えないように配慮しながら右踵骨隆起部に テープで装着した(図1)。これらにより,初期接地お よび足趾離地の時期を測定し,歩行周期,歩行速度を 同定した。また,ヒールの高さなど履物の違いによる 影響を避けるために,各対象者の足のサイズに合わせ たゴムシューズを着用した。加速路と減速路をそれぞ れ2.5mずつ,その中央10mを計測路とした直線歩行路 を設定し,自由歩行条件下にて計測を実施した(図2)。 測定は2回施行し,全例ともに2回目のデータを採用し た。計測中は 2 名以上の検者が対象者のそばにつき, 安全面での配慮を行った。 得 ら れ た デ ー タ か ら 数 値 解 析 ソ フ ト MATLAB (MathWorks Inc.)を用いて,下記の歩容指標を算出し た。歩容指標は,1 歩行周期時間,ケイデンス[歩行 率:(歩/秒)],および以下の 4 指標を用い RMS(root-mean-square)・ HR(harmonic ratio)・AC(auto-corre-lation)は三軸方向(垂直・側方・前後)による分析を 行った。 [用語の説明] 1歩行周期時間:一側の脚が地面に着いて,振り出 図1 MVP-RF-8の装着法 図2 測定時の状況

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し,再び同じ脚が地面に着くまでの時間 ケイデンス(歩行率):単位時間内の歩数 coefficient of variation(CV): 歩行の変動性を示す指 標であり,値が大きいほど歩行の変動が大きく,一定 のリズムを刻む歩行が行えていないことを示す。 RMS:体幹の動揺性を示す指標であり,値が大きい ほど体幹の動揺が大きいことを示す。 HR:歩行の円滑性を示す指標であり,値が大きいほ ど歩行の円滑性(調和性)が高いことを示す。 AC:歩行周期の規則性を示す指標であり,値が 1 に 近いほど歩行の規則性が高いことを示す。 3)身体活動量 身体活動量の計測には,装着が簡便であり,歩数記 録の正確性が明らかになっている生活習慣記録機(ス ズケン社製品/ライフコーダGS® )を用いた。対象者 には,歩行測定を行った翌日から1週間連続して,就 寝時や入浴時を除く日中覚醒時,腰部に装着を依頼 し,歩数,活動強度とその時間を測定した。ライフ コーダでは4秒間ごとの身体活動は,その垂直方向の 加速度と頻度により0~9段階に分類され,2分ごとの 強度を計測し,最大200日間のデータを記録すること ができる。ライフコーダGSの活動強度の低い順から, 運動強度 0(睡眠・臥床),1 未満を微小身体活動,強 度 1~3 を低強度身体活動,4~6 を中強度身体活動, 7~9を高強度身体活動に分類し,低強度身体活動以上 のそれぞれの時間を求めた。分析時には,中強度と高 強度の活動時間を合計して中高強度身体活動とした。 1日の歩数記録が500歩未満であった日は,生活習慣記 録機の装着が継続的に行われなかったとして除外し, 3日以上のデータが得られた場合に対象者とした。 デー タ収集期 間は,A 病院 産婦人科 は 2015 年 7 月~2016年3月,B 病院産婦人科は2017年2月~12月 であった。 4.分析 統計ソフト SPSS ver.23.0 を用いて解析した。記述 統計,正規分布(Shapiro-Wilk)の確認後,妊娠中期と 後期の2群間比較はWilcoxon符号付き順位検定,妊娠 前の腰痛の有無による 2 群間の比較は Mann-Whitney の検定を用いた。相関の検定は Spearman の順位相関 係数(r)の検定を行い有意水準は 5% とした。また, 検出力分析はG*powerを用いて事後分析[効果量(r), 検出力(1−β)]を行った。 5.倫理的配慮 研究参加への同意を得る際には,対象者に本研究の 説明同意書を用いて研究目的・方法,研究への参加は 自由意思によるものであり,同意した後でも辞退でき ること,研究への不参加あるいは参加を取りやめるこ とによって不利益は生じないこと,プライバシーの保 護について口頭と文書で説明を行った。研究参加への 同意は同意書への署名をもって確認した。本研究は, 滋賀県立大学研究に関する倫理審査委員会(承認番号 第 375 号),大阪府立大学大学院看護学研究科研究倫 理委員会(承認番号28-28),および協力施設の倫理委 員会の承認を得て実施した。

Ⅲ.結   果

対象者35名の測定時期は,妊娠中期が16週~25週, 妊娠後期が 29 週~35 週であり,中期と後期の測定イ ンターバルは 7~15 週間,中央値は 11.0(8.0-13.0)週 間であった。平均年齢は,33.3(SD=4.5)歳,初経産 の内訳は,初産婦25名(71.4%),経産婦10名(28.6%) であった。非妊時の平均 BMI は 21.1(SD=2.9),18.5 未満のやせは 5 名(14.3%),18.5 以上 25.0 未満の標準 は 26 名(74.3%),25 以上の肥満 1 度が 4 名(11.4%)で あった。妊娠後期までの平均体重増加量について,全 体では 8.1(SD=3.6)kg であった。体格別では,やせ 妊 婦 の 中 央 値 8.4(IQR: 7.1-14.9)kg, 標 準 妊 婦 7.2 (IQR:5.3-10.5)kg,肥満妊婦6.2(IQR:5.3-11.4)kgで あった(表1)。 1.妊娠中期と後期の腰痛,身体活動量,歩容指標の 比較 妊娠前に腰痛有りと回答した妊婦は17名(48.6%)で あり,妊娠中期と後期のVASに差を認めなかった(p= 0.25)。腰痛無しの妊婦は18名(51.4%)であり,妊娠中 期よりも末期の VAS 値が高かった(p=0.01, r=0.62, 1–β=0.67)(表1)。腰痛の有無による妊娠後期の体重増 加 量 の 比 較 で は, 腰 痛 有 り の 妊 婦 の 中 央 値 は 7.3 (IQR:5.9-11.3)kg,腰痛無しの妊婦は 7.3(IQR:5.8-9.3)kgであり,増加量の差を認めなかった(p=0.49)。 歩数は,妊娠中期の中央値 6599.8(IQR:4636.5-8453.8)歩,後期は5286.9(IQR:3678.1-7204.3)歩であ り,妊娠後期の歩数は中期よりも減少していた(p= 0.01,r=0.45, 1−β=0.71)。身体活動強度は,中高強度 活動時間が妊娠中期16.1(IQR:7.6-24.1)分,後期11.6

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(IQR:4.4-13.1)分であり,妊娠後期の中高強度活動 時間は中期よりも減少していた(p=0.01,r=0.42, 1− β=0.65)。低強度活動時間は妊娠時期による差を認め なかった。 歩行速度を示す1歩行周期時間は,妊娠中期の中央 値 1.05(IQR:1.01-1.10)秒,後期は 1.06(IQR:1.03-1.12)秒であり,妊娠後期の1歩行周期時間は中期より も延長し,歩行の速度が低下していることを示してい た(p=0.02,r=0.39, 1−β=0.59)。1 秒間あたりの歩数 (歩行率)を表すケイデンスは妊娠時期による差を認 めなかった(表1)。 歩行の変動性を示すCVの値は,妊娠中期1.5(IQR: 1.2-1.9)%,後期 1.9(IQR:1.5-2.4)% であり,後期は 歩 行 の 変 動 が 大 き く な っ て い た(p=0.03, r=0.37, 1−β=0.54)(図 3)。体幹の動揺性を示す RMS の値は, 側方方向において妊娠中期1.4(IQR:1.3-1.8)m/s2 ,後 期が1.4(IQR:1.2-1.6)m/s2 と減少し,後期では体幹の 左右の回転の動きが小さくなっていた(p=0.03,r= 0.36, 1−β=0.52)。前後と垂直方向は変化を認めな かった(図 4)。歩行の円滑性を示す HR の値は,垂直 ・側方・前後の 3 方向で妊娠時期による差を認めず, 歩行の円滑性は妊娠時期による変化を認めなかった (図5)。歩行の規則性を示すACの値は,垂直・側方・ 前後の3方向で妊娠時期による差を認めず,歩行の規 則性は妊娠時期による変化を認めなかった(図6)。 2.妊娠中期と後期における腰痛,歩容指標,身体活 動量の関連性 妊娠中期の腰痛と歩容指標の関連について,VASの 数 値 が 高 い ほ ど RMS 垂 直(r=−.470, p=0.01, 1−β= 0.41)・前後(r=−.371, p=0.03, 1−β=0.49)の数値が低 く,負の弱い~中程度の相関を認め,腰痛程度が強い ほど体幹の動揺性が減少することを示した(表2)。妊 娠中期の腰痛と後期の歩容指標の関連について,中期 の VAS が高いほど後期の AC 前後(r=−.352, p=0.04, 表1 妊娠中期と後期のVAS,身体活動量,歩容指標の比較 n=35 妊娠中期 妊娠後期 p 値 人(%) median IQR median IQR

非妊時BMI評価 および体重増加(kg) やせ 5 (14.3%) 4.7 2.5-5.0 8.4 7.1-14.9 標準 26 (74.3%) 3 1.9-4.6 7.2 5.3-10.5 肥満 4 (11.4%) 1.7 0-6.1 6.2 5.3-11.4 妊娠前の腰痛の有無 とVAS 有 17 (48.6%) 27 0-46.0 9 0-26.5 0.25 無 18 (51.4%) 0 0-1.0 5.5 0-26.8 0.01 歩数 (歩/日) 6599.8 4636.5-8453.8 5286.9 3678.1-7204.3 0.01 身体活動強度(分) 低強度 44 35.4-60.8 40.6 26.6-56.7 0.13 中髙強度 16.1 7.6-24.1 11.6 4.4-13.1 0.01 計測路歩行の歩数(歩) 8.0 8.0-9.0 8.0 8.0-10.0 0.52 1歩行周期時間(秒)注 1) 1.05 1.01-1.10 1.06 1.03-1.12 0.02 ケイデンス(歩/秒)注 2) 2.16 2.06-2.26 2.11 2.02-2.27 0.18 注1:一側の脚が地面に着いて,振り出し,再び同じ脚が地面に着くまでの時間 注2:単位時間内の歩数 VAS,歩数,身体活動強度,計測路歩行の歩数,1 歩行周期時間,ケイデンスの妊娠中期と後期の 2群の比較はWilcoxon 符号付き順位検定 Wilcoxon符合付き順位検定 図4 妊娠中期と後期におけるRMSの比較 Wilcoxon符合付き順位検定 図3 妊娠中期と後期におけるCVの比較

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1−β=0.47)方向の数値が低く,負の弱い相関を認め, 中期の腰痛程度が強いほど歩行の規則性が減少するこ とを示した。妊娠中期の歩容指標と後期の腰痛との 関連について,中期の HR 垂直(r=−.542, p=0.001, 1−β=0.55)・ 前 後(r=−.411, p=0.000, 1−β=0.55)の 数値が高いほど後期の VAS は低く,低い負の中程度 の相関を認め,歩行の円滑性が高いと後期の腰痛程度 が軽度であることを示した。妊娠後期において,VAS と歩容指標に相関は認めなかった。VASと身体活動量 は妊娠中期と後期ともに相関を認めなかった。 妊 娠 中 期 と 後 期 の 身 体 活 動 量 は, 中 期 の 歩 数 (r=.611, p=0.000, 1−β=0.55),低強度活動時間(r= .383, p=0.03, 1−β=0.48),中高強度活動時間(r=.607, p=0.000, 1−β=0.55)が多いほど,後期も多くなってい Wilcoxon符合付き順位検定 図5 妊娠中期と後期におけるHRの比較 Wilcoxon符合付き順位検定 図6 妊娠中期と後期におけるACの比較 表2 妊娠中期と後期におけるVASと歩容指標,身体活動量との相関関係 n=35 妊娠中期 妊娠後期 方向 VAS 歩数 低強度 中髙強度 VAS 歩数 低強度 中髙強度 妊 娠 中 期 VAS 身体活動量 歩数低強度 −.172−.049 中髙強度 −.093 CV −.154 −.225 −.022 −.198 −.203 −.129 .109 −.120 RMS 垂直 −.470** .255 −.033 .252 −.127 .111 .064 .184 側方 −.145 .085 −.041 .190 −.138 .217 .123 .273 前後 −.371* −.062 −.261 .119 −.107 −.014 .042 .053 HR 垂直 −.291 .103 −.261 −.016 −.542** −.078 −.114 −.051 側方 −.129 −.002 −.000 −.230 −.166 .165 .053 −.023 前後 −.263 .062 −.078 −.053 −.486** −.059 −.034 .008 AC 垂直 −.139 .257 −.066 .242 .093 .292 .038 .254 側方 .153 .005 −.105 .026 .272 .294 .055 .290 前後 −.261 .074 −.060 .061 −.122 .085 .064 −.014 妊 娠 後 期 VAS .304 .133 .054 .275 身体活動量 歩数 −.002 .611** .115 低強度 −.114 .383* −.054 中髙強度 −.006 .607** .266 CV −.102 .024 .282 .134 −.053 −.040 .232 −.008 RMS 垂直 −.287 .341 −.067 .114 −.252 .398* .143 −.252 側方 −.216 .436* −.078 .156 −.067 .580** .380* −.067 前後 −.313 .231 −.177 .220 −.261 .321 .222 −.261 HR 垂直 −.058 .040 −.252 −.020 −.051 .033 −.191 −.051 側方 −.106 .246 −.135 .042 .130 .282 −.036 .130 前後 −.302 .321 .008 .113 −.230 .250 −.230 .033 AC 垂直 −.183 .379* .048 .312 −.282 .382* −.282 .174 側方 −.192 .319 .057 .218 −.116 .477** −.116 .271 前後 −.352* .460* .249 .288 −.248 .273 −.248 .036 Spearmanの順位相関係数検定 *:p<0.05,**:p<0.01

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た。妊娠中期の身体活動量と後期の歩容指標は,中期 の歩数が多いほど,後期のRMS側方(r=.436, p=0.01, 1−β=0.53),AC垂直(r=.379, p=0.03, 1−β=0.48)・前 後(r=.460, p=0.01, 1−β=0.54)の 数 値 が 高 く, 弱 い~中程度の相関を認め,歩数が多いと体幹の動揺性, 歩行の規則性が高いことが示された。 妊娠後期では,歩数が多いほど RMS 垂直(r=.398, p=0.02, 1−β=0.51)・ 側 方(r=.580, p=0.000, 1−β= 0.55), AC 垂 直(r=.382, p=0.03, 1−β=0.49)・ 側 方 (r=.477, p=0.00, 1−β=0.547)の数値が高く,弱い~中 程度の相関を認め,歩数が多いと体幹の動揺性,歩行 の規則性が高いことが示された。低強度活動時間が多 いほど,RMS 側方の数値が高く,弱い相関を認め (r=.380, p=0.03, 1−β=0.48),低強度活動時間が多い と体幹の動揺性が高いことが示された。(表2)

Ⅳ.考   察

1.妊娠中期と後期の腰痛,歩容指標,身体活動量の 変化の検討 妊娠後期には,子宮の増大による重心の前方移動を 生じることによる腰部への負荷などから,痛みが増強 しやすいことが報告されている(安田他,2017)。腰 痛の程度は妊娠前の腰痛既往歴,日常生活動作,体重 増加,日内変動などによる要因が報告されている一方 で,これらの要因は関与していないとの異議もあり, 一致した見解は得られていない(梶原他,2012;村井 他,2005;安田他,2017)。本研究では,妊娠前の腰 痛が無い妊婦において妊婦後期の腰痛が増強してお り,腰痛がある妊婦では後期に軽減しており,腰痛の 既往歴は関与しないとの結果と一致していた。平均体 重増加量は妊娠前の腰痛の有無に関わらず7.3kgと推 奨増加量の範囲であり,体重増加の影響よりも脊柱ア ライメントの変化などの生理学的要因や他の要因が関 与していることが考えられた。また,VASによる腰痛 の評価から自覚的な腰痛の程度は妊娠中期と後期では 変化しない(榊原,2006)という報告もある。本研究 では,測定時の腰痛の程度を VAS により評価してい ることから,日内変動や妊娠期間中の最も強かった疼 痛が反映されなかった可能性が考えられた。 妊娠後期の1歩行周期時間は延長しており,バラン スが崩れる恐れがあるとより遅い速度で歩くこと (Blaszczyk, et al. 2016)が指摘されていることから, 従来の報告と一致していた。さらに,歩行だけではな く妊娠前には問題なく行うことができていた動作が困 難となり,動作を行うことに転倒などの恐怖心を抱き 動作に要する時間が延長する(森野他,2013)可能性 が推察された。 歩容指標は,歩行の安定性を示すCVの数値が妊娠 後期に大きくなっており,体幹の動揺性を示す RMS の数値が小さくなっていた。CVの指標は,この値が 大きいと歩行のばらつきが大きく,一定のリズムを刻 む 歩 行 が 行 え て い な い こ と を 示 す と さ れ て い る (Hausrorff, et al. 2005)。先行研究において,妊婦は歩 行が不安定になったと感じていることや(Ponnapula, et al. 2010),就労妊婦を対象とした米国の調査結果で は,約 26% に転倒経験があり,歩行時や荷物運搬時 に多く起こっており,そのうち約 60% が妊娠後半の 時期 である ことが 報告さ れてい る(Dunning, et al. 2010)。これらのことから,妊娠後期では,妊婦の歩 行に対する不安定な感覚を裏付けるように,歩行のば らつきが大きく不安定な歩行となっていることが明ら かとなり,転倒リスクへの予防策が必要であることが 示唆された。 RMSの数値が大きいと歩行時の体幹の動揺が大き いことを示すとされており,高齢者に関する先行研究 において,若年者と比較して歩行時の動揺性が3方向 で小さいこと(Menz, et al. 2003)が指摘されている。 下肢筋力など身体機能が低下する場合,身体動揺量を 小さくして転倒リスクを軽減できる可能性(高橋他, 2012)など,高齢者では筋力低下などの要因から重心 動揺を小さくして転倒リスクを軽減していることが報 告されている。妊婦は胎児の成長に伴う腹部増大によ り,腹部筋の過剰伸長から(遠藤他,2018),体幹の 筋力低下が指摘されており(武田他,2016),さらに, 短期間で生じる腹部増大を支えるだけの下肢筋力を維 持できず筋力の低下が生じていることが推測できる。 これらのことから,妊婦の歩行は,筋力低下などによ り重心動揺を小さくして歩行能力を維持していること が推測された。 妊娠中期の歩数は平成 29 年国民健康・栄養調査に よる 30~39 歳の女性の 1 日平均歩数 6543 歩,妊婦の 歩行に関する先行研究の 5135~7200 歩/日(土居他, 2015;渡邊他,2013)の範囲にあり,同程度である一 方で,妊娠後期の歩数は中期よりも減少していた。妊 娠期の身体活動量は妊娠経過とともに屋内活動が増加 すること,就労妊婦では産前休暇などの生活の変化や マイナートラブルの出現,転倒への不安などから妊娠

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経過に伴い減少することが指摘されており(森野他, 2013;渡邊他,2013),従来の報告と一致していた。 妊娠中の適度な運動は体重管理や血糖コントロールに 対する効果や,健康維持や増進に寄与する可能性が報 告されており(Schmirt, et al. 2016),特に歩行は妊婦 にとってもリスクが少ない手軽な有酸素運動として奨 められている。禁忌のない妊婦の運動強度は,1回に 30分以上,心拍数が 140 回/分程度の中強度活動を 3~4 回/週,実施することが適切であると推奨されて いる(Melzer, et al. 2010)。本研究結果では,中強度 活動時間が妊娠中期・後期それぞれ約16 分と12 分で あり,推奨される中強度活動時間である 30 分よりも 少ないことが明らかとなった。本研究の対象者では, 妊娠後期の歩数と中強度活動時間が減少していること から,推奨されている運動強度や時間を目指すより は,妊娠後期の歩数と活動強度を妊娠中期と同程度に 維持できるよう,日常生活行動に歩行を取り入れて, 積極的に体を動かすような支援が望まれる。 2.歩容指標,腰痛,および身体活動量の関連性 妊婦の腰痛の発症は約70~78.9%と高率であり,妊 娠後期ほど発症率が高く痛みの程度も大きいことが報 告されている(安田他,2017)。妊婦の腰痛の原因は リラキシンなどのホルモン分泌変化や,胎児の成長に 伴う脊柱アライメントの変化に伴う筋膜性腰痛症によ る生理的要因が大部分とされている。しかし,心理社 会的要因(長谷川,2015),生活習慣や体重増加(安田 他,2017),妊娠前の運動習慣(小野他,2015)など複 合要素もあり決定的な1つの要因を見つけることは難 しいと考えられる。妊娠中期では,腰痛の程度が大き いほど,体幹の垂直と前後方向の動揺性が低下してい ることから,腰痛により,体幹の動揺を小さくして疼 痛部位を動かさないようにしていることが推測され た。妊娠後期では妊娠中期のHR垂直・前後方向の数 値が低下するほど後期のVASの数値が高いことから, 新たな示唆として円滑に歩行する能力の低下が腰痛に 関連していると考えられた。妊娠後期の体重増加や腹 部増大に伴う姿勢変化から,歩隔(歩行中の両足の 幅)の拡大,歩幅の低下,歩行速度が低下し,「よたよ た歩き」という特徴的な歩行を行うことが指摘されて いる(Foti, et al. 2000)。歩行中に前方への歩行の円滑 性が低下することで生じる「よたよた歩き」は,姿勢 の変化が大きな要因とされており,さらにホルモンの 作用による仙腸骨靱帯や恥骨結合の弛緩による骨盤輪 へ の 負 担 も 関 与 し て い る こ と が 指 摘 さ れ て い る (Branco, et al. 2014)。これらのことから,妊娠による 姿勢の変化や筋力低下(武田他,2016)とともに,歩 行の円滑性の低下が生じており腰部への負担が生じて いることが推測された。 身体活動量と歩容指標との関連では,妊娠中期の歩 数が多いほど,妊娠後期の体幹の動揺性と歩行の規則 性が高いことが明らかにされた。妊娠中期の妊婦を対 象とした調査では,身体活動量が低い妊婦は,歩行が 不安定であることが報告されている(森野他,2013)。 これらから,妊娠中期から積極的に歩行などの身体活 動を推奨し,妊娠後期まで維持することが,歩行の安 定性の維持には重要な要素であることが考えられた。 妊娠期の歩行能力の維持には身体活動量が関与してい るが,運動習慣がある20~39歳の女性は,11.6~14.3 %(厚生労働省,2017)であり,多くの妊婦は運動習 慣がないと考えられる。また,妊娠中に実施されてい る運動は,ウォーキング(88.7%)が多数を占めている (村井,2010)が,歩行能力が低下する妊娠後期では, 不安定な歩行に不安を抱く可能性もある。したがって, 妊娠中期の安定期より,身体活動量の維持・増加への 支援として,座位の姿勢で安全に実施可能でかつ簡易 な体幹機能トレーニングなど取り入れ,体幹や下肢の 筋力の維持を含む運動支援への介入が今後必要である。 3.本研究の限界と課題 本研究では,対象者が限られた施設における妊婦 35名であり,得られた結果の検出力は小さかったこ とから,信頼性の限界が考えられる。マタニティ教室 の参加時期に合わせて測定を行ったことから,妊娠後 期の測定時期が 29 週~35 週,中期と後期の測定イン ターバルが7~15週の範囲であり,体重増加や歩容指 標に影響していた可能性が考えられる。肥満が妊娠経 過に伴う歩行特性にどのような影響を及ぼすかなどの 先行研究は見当たらないが,歩行速度が遅く,立脚期 時間が長いことなどの肥満の特性が報告されている (Lai, et al. 2008)。本研究対象者は非妊時 BMI 評価に おいて,肥満(1度)が4名(11.4%)含まれていた。先 行研究では BMI が 30 以上の男女の肥満(2 度)を対象 としており,本研究では肥満度の違いや肥満妊婦の割 合が少ないことから限定的であるが,肥満妊婦を含め たことが今回の結果に影響をしていた可能性がある。 また,測定条件を統一するためにゴムシューズを用い たが,普段から履いている靴のヒールの高さなどとの

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差異が,今回得られた歩容指標や腰痛の結果に与える 影響を検討できていないという限界がある。身体活動 量の測定は 1 週間を依頼し,3 日以上の測定をもって データとして検定を行った。このため,曜日による生 活行動の違いによる影響が反映されていない可能性は あるが,妊婦の歩行に関する先行研究と一致している ことから,得られた身体活動量の結果は一定の信頼性 は得られていると考えられた。腰痛の発症因子は,本 研究で調査した歩行や身体活動量を含む生理学的要因 以外に,心理的要因,妊娠前の運動習慣,生活習慣な どの交絡因子が関与していた可能性があり,これらを 含めて今後の検証が必要である。しかし,妊娠中期と 後期の縦断的調査により,妊娠中期の身体活動量が歩 行能力の安定性に関与することが明らかになったこと は,妊婦の転倒予防や腰痛リスクを考慮した身体活動 量の維持・増進に対する支援を行う上でも意義が あったと考えられる。今後は,縦断的調査の対象者数 を増やして,分析を重ねるとともに,歩行能力を安定 させるために,座位などの姿勢で安全を確保しなが ら,実施可能な簡易トレーニングを含めたプログラム 介入が必要である。

Ⅴ.結   論

今回の調査において,以下のことが明らかとなった。 1) 妊娠前の腰痛を有する妊婦は妊娠時期による腰 痛程度に変化はなく,無い妊婦は妊娠後期の腰 痛が強くなっており,妊娠前の腰痛既往に関連 はなかった。身体活動量は妊娠後期に歩数・中 高度活動時間が減少しており,妊娠中期からの 身体活動量を維持できるような支援が必要であ る。妊娠後期の歩行は,ばらつきが大きく不安 定な歩行となっていること,筋力低下などによ り重心動揺を小さくして歩行能力を維持してい ることが推測され,転倒リスクへの予防策が必 要である。 2) 妊娠後期では妊娠中期の歩行の円滑性が低下す るほど後期の腰痛が強いことから,妊娠中期か らの円滑な歩行能力の低下が腰部への負担に影 響していることが推測された。 3) 身体活動量と歩容指標との関連では,妊娠中期の 歩数が多いほど,妊娠後期の歩行が安定している ことが明らかにされ,妊娠後期まで活動量を維持 することが,歩行の安定性の維持には重要な要素 であることが考えられた。妊娠中期の安定期よ り,筋力低下を予防し,歩行能力を維持して転 倒リスクを軽減するために,身体活動量の維持へ の支援として,安全で簡易な体幹機能トレーニン グを含む運動支援が今後必要である。 謝 辞 本研究にご協力くださった妊婦の皆様,研究対象施 設 の 皆 様 に 心 よ り 感 謝 申 し 上 げ ま す。本 研 究 は, JSPS科研費JP26463423の助成を受けたものです。 利益相反 本論文内容に関連する利益相反事項はない。 文 献 青山宏樹,山田陽介,進矢正宏,楠本秀忠,小田伸午 (2010).下腹部への重錘負荷時の歩行動作と妊婦の 歩行動作の比較.体力科学,59,375-388.

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