C州 C E R 17 (2008), p. 9-11
サ ミダ レヒ メホンヤドカリの本州からの初記録
奥野淳児 ・横田雅臣・村井智臣
はじめに ホンヤドカ リ科ヒメホンヤドカリ属 Pagurixus Melin,1939のヤドカ リ類は,これま でに日本か ら16種が知られている (Osawa&
Komai, 2007) .そのうちの 1 種,サ ミダレヒメホンヤドカリ
Pagurixus pseliophorus Komai & Osawa, 2006 は, 琉球列島の久米島,四国の高知県沿岸,伊豆諸
島の伊豆大島から採集された9個体に基づき ,新
種として記載され,第1 触角柄部末端節の腹面に
剛毛の列を備えることを標徴とするオガサワラヒ メホンヤドカリ種群Pagurixus boninensis species group に属する (Komai
&
Osawa, 2006) . 本種の 歩脚は,地色が淡青色で,長節,腕節,前節それ ぞれに幅広い黒褐色のバンドを備える特徴的な色 彩を呈している . 2007年9月,著者のひとり村井 は,静岡県伊東市富戸( 図 1 ) 地先のダイビング ポイントにサミダ レヒメホンヤドカリが生息して いることを発見した. 後日 ,著者のひとり横田に よって ,同地点で標本の採集が試みられ,抱卵雌1
個体を採集することができた本種の本州、│から 宮戸( 採集地点)。
相撲灘Q
伊 豆 大 島 太平洋 図1 調査標本の採集地点 35・
NJunji 0即 N O
,
Masaomi Y O K O TA & Tomoomi M URAI:First record of a hermit crab, Pagurixus pselioPho-rus Komai & Osawa, 2006 from Izu Peninsula, Honshu の記録はこれが初めてとなるため,こ こに報告す る.
材料および方法
調査した標本は水中でデジタル写真 を撮影し たのちに宿貝を指でつまみあげ,採集された. 標 本の大きさは,前甲長で示した . 標本は,以下の とおり千葉県立中央博物館 分館海の博物館甲殻 類資料 (C M N H-Z C) として登録 ・保管されてい る. サミダレヒメホンヤドカリ Pagurixuspseliophorus Komai & Osawa, 2006. C M NH -ZC 02220,抱卵雌1
個体,前甲 長3.6mm,静岡県伊東市富戸ヨ コパ マ地先,水深2m , 2007年9月13日,横田雅臣採 集. 結果と考察 今回調査した標本は,以下に 挙げた形態的特徴 において,Pagurixus pseliophorus に同定される: 前甲 長は 縦長で,帽の 1.2倍; 第 1 触角柄部末端 節の腹 面には隙聞なく密生する2 つの剛毛列を 有す る ; 第8胸節腹面中央のまるい葉状突起は 左右同大である; 左甜脚の腕節には,背面の 内 縁と外縁に沿ってそれぞれ1 つの鈍赫列があり , 列を構成する赫は,内側のほう が外側よりも大き い ; 同節側面には突起や隆起はない; 第2 歩脚は 左右 同大 で,指節の長さは高さの3.8倍. また , 調査標本の生時の色彩( 図2) について は,これ までに図示された P pseliophorus の色彩 (Komai & Osawa, 2006; 奥野 ・有馬,2006) との問に差異 は見られなかった. Komai & Osawa (2006) は,本種の歩脚指節の長さが高さに対して3.9 - 4.1倍
であるとし,阿部位の比率が3.0-3.7倍を示す類
似種の Pagurixus brachydac
か
lus Komai&
Osawa,10 サミダレヒメホンヤドカリの本州からの初記録
図 2 サミダレヒメホンヤドカリ Pagurixus pseliophorus
Komai
&
Osawa
, 2 0 0 6 静岡県伊東市富戸産,抱卵雌,C M N H - Z C 0 2 2 2 0. A,採集場所における生態写真 (撮影 横田雅臣) ; s,標本写真,背面 (撮影 :奥野淳見). かしながら,富戸産の襟本では ,第2歩) 闘の指節 の比率は P pseliophorus であるが,第 1歩脚の右側の指節は短く,右側は 3.2倍であった . このことから,本種の歩脚指節 の長さは,原記載で指摘されたものよりも種内変 異の幅が広いことが示唆された . なお,左側の同 節は爪の先端が欠損していたため,長さは高さの 2.8倍であった . 日本産ヒメホンヤドカリ属16種は, それら の 分布パターンから主に3つのグループに分けられ
ることが
Osawa
&
Komai
(2007) によって示唆 された. 第1 のグループは,岡村( 1992) によっ て区分された熱帯区に属する琉球列島に主に分 布し,黒潮の影響を受ける本州沿岸や伊豆 ・小笠 原諸島にも産する種類によ って構成されており, サミダ レヒメホンヤドカリはこれに含まれる . 第2
のグループは,伊豆 小笠原島弧に分布する種 からなる. 第3のグループは,伊豆諸島と本州太 平洋岸のl援温帯域からのみ知られているカシワジ マヒメホンヤドカリ Pagurixus jasciataKomai
&Myorin
, 2005だけで構成されている これまでに 伊豆半島東岸から記録されていた本属ヤドカリ類 はカシワジマヒメホンヤドカリのみであり (奥野 ら,2006),本報告によって,サミダレヒメホンヤ ドカリが2 種類目となった. このたび標本を採集した富戸と同じ城ヶ崎海 岸にある伊豆海洋公園地先では ,浅海性のヤドカ リ類相が調べられており ,ヤドカリ科21種,ホン ヤドカリ科21種の計42種が記録されている (奥野 ら,2006). また ,伊豆半島東岸から地理的に近い 伊豆大島においても同様の調査がなされており, これまでに記録されているヤドカリ類は,ヤドカ リ科32l盈,ホンヤドカリ科34干重の計66種にのぼる (奥野 ・有馬,2004,2006). 伊豆大島から記録のあ るヤドカリ類のうち, 24種は伊豆半島東岸での分 布が確認されておらず,サミダレヒメホンヤドカ リもそのひとつであった . 伊豆大島では,パラタ イプを含む複数個体のサミダレヒメホンヤドカリ が採集されているが,すべての個体が向島で最も 有名なダイビングポイン トである ,I
秋の浜」に 設置されている堤防の水面直下にあるやや大きな 亀裂内で、見つか っている . この亀裂内は,極めて 浅い水深にありながら, 日中でも水中ライトを点 灯しないと生物の存在が確認で、きないほどの暗所奥野淳児- 横田雅臣・村井智臣 11 とな っている . また,これま でにサミダ レヒメホ ンヤドカリが採集された水深帯は
i
朝間帯から水 深 2 m まで、のゆl下帯で、あるように,極めて浅い (K o m a i&
O s a w a, 2006). このたび調査した富戸 産 の 個 体 は , 水 深 2 m の海底に形成され,ダイ パーの間で「富戸ホ ールj と呼ばれる,一度に複 数のダイパーが入ることができる水中 トンネルの 壁面に走る亀裂で採集さ れた. 奥野ら (2006) に よる伊豆海洋公園における調査では i朝間帯ーから 暗所を好むヤドカリ類 が生息する場所での十分な収集活動が行われてい なかったため,サミダレヒメホンヤドカ リの発見 に至らなかったものと推察される . 謝 辞 標本の採集に対し , ご理解とご協力を賜った伊 東市漁業協同組合 ・富戸支所に深謝する. 原稿を 査読して下さった琉球大学の大津正幸博士に記し て謝意を表する .文 献
Komai, T . & O s a w a, M . 2006. A revie w of Pagurixus boninensis species group, with descriptions of six new species (Crustacea: D ecapoda: A nomura: Paguridae) zοotaxa, 1214: 1-107. 西村三郎, 1992.概説.1,日本近海における動物分布 In:西村三郎, (編著),原色検索日本海岸動物図鑑 I. pp. xi-凶X,保育社,大阪. 奥野i享児 ・有馬啓人, 2004. 伊豆諸島 - 伊豆大島にお ける浅海性ヤドカリ類相( 甲殻上綱,十脚目,異尾 下目) 日本生物地理学会会報, 59: 49-69. 奥野淳児- 有馬啓人, 2006. 伊 豆 諸 島 ・伊豆大島 から新たに採集された浅海性ヤドカリ類 ( 甲殻上 綱,十脚 目,異尾下目) . 日本生物地理学会会報,61: 29-43 奥野淳児武田正倫横田雅臣, 2006. 伊豆海洋公園 産浅海性ヤドカリ類 (甲殻上綱十脚目・異尾下目 ) 国立科学博物館専報 (41)・145-171.
O sawa, M . & Komai, T目2007. A ne w hermit crab species
。
f the Pagurixus anceps group (Crustacea: D ecapoda Anomura: Paguridae) from southernJ
apan, and supplemental notes on P. patiae K o mai, 2006. Zootaxa, 1627:41-51( 奥野淳児 : 千葉県立 中央博物館分館海の博物館 横田雅臣: ゴー トゥーザシー