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在外教育施設における種々の課題

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Academic year: 2021

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Ⅰ.はじめに

 本稿は,在外教育施設における教育上・運営上の課 題について考察する。筆者は,2012 年から 2014 年に かけて,海外の在外教育施設 6 校を訪問し,聞き取り 調査を行った。特に,海外で社会科・経済教育がどの ように実践されているか,日本人学校や補習授業校が どのように運営されているかなどについて話を聞いた が,その際に判明した種々の課題について検討してい く。  在外教育施設は,日本人学校,補習授業校(以下, 「補習校」とする),私立在外教育施設の 3 つのタイプ に分かれる。平成 26 年度の文部科学省のデータによ れば,日本人学校は88校,補習校は201校(そのうち 文部科学省から教員が派遣されているのは 43 校),私 立在外教育施設は 8 校存在する。日本人学校は,文部 科学省の教育課程に則して主に小・中学校の授業が行 われ,日本人の児童・生徒が全日制カリキュラムで学 習する。補習校は,平日はインターナショナルスクー ル(以下,「国際学校」とする)や現地校に通学して いる児童・生徒が,平日の夕方または週末に日本の教 科書に依拠して学習する。その多くは,土曜のみ週一 日の運営で,小・中学部の運営が多いが,高等部を設 置する場合もある。配当教科は,国語のみの学校から (英語以外の)4 教科を学習する学校までさまざまであ る。私立在外教育施設は,日本に母体として存在する 学校法人が,海外校として運営している。全日制の高 校であることが多く,文部科学省の教育課程に則して 授業が行われる。  筆者が訪問した教育機関は,表 1 の通りである。  A 校は私立在外教育施設であり,母体の学校法人で は日本で幼稚園から大学まで運営している。イギリス では,全日制の高等部を運営している。  B 校は私立在外教育施設であり,母体の学校法人で は日本で小学校から大学まで運営している。イギリス では,小学校 5 学年から高等学校 3 学年までの授業を 全日制で実施している。  C 校はイギリスの補習校であり,小学部から高等部 まである。原則として週一回で土曜日に開校しており, 国語・算数(数学)を配当している。児童・生徒総数 が 100 名を超えており,日本からの派遣教員(校長) が管理・運営をしている。  D 校はオランダの補習校で,小学部・中学部からな り,原則として週一回で土曜日に開校している。小規 模校のため派遣教員は不在で,父兄が中心に運営を 行っている。現地採用講師が国語と算数(数学)の授 業を行っている。  E 校はドイツの日本人学校であり,全日制で小・中 学校が運営されている。児童・生徒総数が 100 名を超

在外教育施設における種々の

課題

The Journal of Economic Education No.34, September, 2015

Problems in Overseas Educational Institutions of Japan Kaneko, Kouichi 金子 浩一(宮城大学) 表 1 聞き取り調査を行った在外教育施設 訪問時期 国 設置形態 設置学年 生徒数 A 校 2012 年 11 月 イギリス 私立在外教育施設 高等部 高校 73 人(2012 年) B 校 2012 年 11 月 イギリス 私立在外教育施設 小学部(5,6 年),中学部,高等部 高校 126 人(2014 年) C 校 2012 年 11 月 イギリス 補習授業校 小学部,中学部,高等部 小中 141 人(2007 年) D 校 2013 年 10 月 オランダ 補習授業校 小学部,中学部 小中 35 人(2013 年) E 校 2013 年 10 月 ドイツ 日本人学校 小学部,中学部 小中 168 人(2014 年) F 校 2014 年 5 月 ポルトガル 補習授業校 幼稚部,小学部,中学部 小中 13 人(2013 年)

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えており,主要教科は日本からの派遣教員が授業を 行っている。  F 校はポルトガルの補習校であり,小学部・中学部 からなる。筆者が訪問した際には,在籍者がいない学 年もあった。原則として週一回で土曜日に開校してい る。D 校同様に小規模校のため,父兄が中心に運営を 行い,現地採用講師が国語と算数(数学)の授業を 行っている。  筆者は 3 つのすべての設置形態の施設を訪問し,ま た補習校に関しては小規模校と中規模校から話を聞く ことができた。聞き取り調査の中でいくつかの課題が 確認されたが,本稿ではとりわけ以下のコメントに基 づき考察していく。 ・海外事情の取り入れやすさと日本の事例の扱いに くさの両面がある ・副読本の入手が困難で現地を活かせる社会科の資 料も少ない ・教員の募集の方法や周知も含め,採用に至るまで に苦労を伴う ・学年進行に伴い国際学校進学や帰国を選択する児 童・生徒が増え,在籍者の低年齢化が生じている ・クラス内に児童・生徒間の学力(日本語能力)の 差が生じ授業進行に支障が出ることがある ・派遣教員のいない補習校では運営面や財政面で父 母らが担う理事会の負担が大きい  コメントの一部は,複数の学校において話のあった 内容でもある。また,他の研究者の先行研究で同様に 指摘されている点も多い。以下,教育面および運営面 の観点から課題を考察していく。  本稿の構成は,以下の通りである。第Ⅱ節では,社 会科教育・経済教育の観点から海外校特有の課題につ いて検討する。第Ⅲ節では,在外教育施設における教 育上および運営上の課題について考察する。第Ⅳ節は 結びとして,今後の研究の展望についてまとめる。

Ⅱ.在外教育施設における社会科教育・経

済教育

1.海外での経済教育における題材  海外において中学・高校の公民・経済分野を教授す る場合,国際経済に関しては身近な題材で学びやすい 状況が生じる。たとえば,為替レートについては,海 外で生活していればその交換比率(円高・円安の概 念)を実際に体感しやすいというメリットがある。特 に食材や文房具などは日本でも海外でも同様の商品が 多く,日本で買い物の経験があれば比較もしやすい。 さらに貿易についても,当該国と日本の輸出・輸入の 関係や特徴などを考察することが可能である。ただし, 授業時間の関係で,特定の国との関係のみを深く学習 することが難しい面もあり,学校設定科目や総合的学 習の時間で検討することも期待される。  逆に,海外においては,日本で扱えた題材が活用し にくいケースもある。たとえば,缶飲料の価格に関し て,日本であればスーパーマーケットで買うのと自動 販売機やコンビニエンスストアで買うのとどちらが安 いかを問うなど,実体験に基づいて生徒からの回答を 得ることが可能である。しかしながら,海外では自動 販売機やコンビニエンスストアが普及していない国も 多く,日本での生活期間が短かった児童・生徒の場合 は,この事例の意味合いを理解することができなくな る。  先行研究では,補習校幼児部での事例ではあるが, 奥村(2010)にも同様の指摘がある。日本で幼稚園の 教職経験を持つ幼児部講師(ボン日本語補習授業校) へのインタビューに関して,「(前略)ピアノを弾いて 歌を歌うという習慣がドイツの幼稚園にはないみたい で,日本の子どもたちみたいにピアノの周りに普通に 集まってきてくれない。歌い始めても,日本の時の子 どもたちみたいに『これ,聞いたことある!』がな い。」1)とのコメントが紹介されている。日本とドイツ で教育文化の違いがあり,幼児部ということで日本で の生活経験も少ないために発生する問題である。  このように,海外においては,国際貿易など具体的 に教えやすい題材が身の回りにある利点がある。他方, 現地国の経済情勢や慣習の影響で,日本で扱える事例 を活用できない場合もあるので注意が必要である。 2.社会科の副読本の欠如  日本の小・中学校の社会科や公民においては,自治 体ごとに編集された副読本がしばしば活用される。全 国共通の教科書で記載されている事例は,その近辺の 学校を除けば,各自治体の実態とは異なり扱いにくい。 そのため,具体的に見学なども可能なように,自治体 にまつわるトピックは副読本を活用して学ぶことが多 い。ただし,在外教育施設においては,児童・生徒の 出身地も異なるため,日本の特定の地域の副読本を活 用することも難しい。治安の問題もあり,下調べなし に近隣の施設を見学したりする機会を設けることも容 易ではない状況にある。  この課題を解決するには,現地国のトピックを題材 とした資料などがあるとよい。日本人学校においては,

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実際に独自の副読本を作成するケースもある。たとえ ば,瀧田(2010)では,上海日本人学校浦東校におい て,上海市をフィールドとして社会科の副読本(小学 校第 3・4 学年)を作成した過程などについて報告さ れている。そこでは,作成メンバーに各学年の教員が 一人ずつ入り,社会科の副読本を作成している。それ でも,「在外における副読本作成は特殊な環境のため, 全教職員 63 人の協力がないとできないことが改めて 理解することができた。」とあり,2)たいへんな労力を 必要とすることがわかる。  このような副読本は,各学校にあることが理想であ る。ただし,教員数の少ない日本人学校・補習校では 簡単には作成できないかもしれない。特に,補習校で は,現地採用講師が短期間で交代することも多い。こ のような学校では,各講師が作成した教材をファイル 化し,学校で蓄積するのが一つの方法と思われる。学 校所在地は基本的に不変であるため,時間をかければ その環境に適した副読本が作成されていくはずである。 その中で,安全に見学できる近隣施設なども網羅され ていくとよい。

Ⅲ.在外教育施設における管理・運営

1.教員の募集と採用  教育機関において,教員の確保は運営に欠かせない ものである。在外教育施設の場合,教員は日本から派 遣される派遣教員と現地採用の講師から構成される。 日本人学校や大規模な補習校の派遣教員に関しては, 日本の文部科学省や各都道府県の教員組織で毎年選考 されるため大きな問題はない。また,全日制の私立在 外教育施設であれば,日本から応募して現地で生計を 立てていくことも可能であり,担当候補者はそれなり に増える。  ただし,補習校の場合,ほとんどの学校で週末だけ の勤務となるため,日本から応募してその給与収入だ けで生活するのは難しい。結果として,現地にいる日 本人(または日本語で授業が行える者)の中から探さ ざるを得ない。教員免許を保有している人材の採用が 期待されているが,実際にはそうでないケースが多い。 特に,国語や算数(数学)に比べ,理科や社会は専門 が細分化されていくこともあり,適切な候補者が採用 されるのに時間がかかる。  この課題の解決には,まずどのように募集の周知を するかといった問題がある。近年では,各学校のホー ムページが存在し,そこで募集の案内を出している。 もう一つ,海外での教育に関心をもつ人材からいかに 閲覧されるかといった問題がある。特に補習校では, 現地国および近隣地域に住む日本人(留学生や派遣会 社員,その家族)が募集の対象となるため,現地国の 他機関のホームページやコミュニティにおいて周知す る体制が構築されるようにすべきである。  また,採用候補者が増えるためには,日本からの応 募がしやすくなることも重要である。ただし,前述の ように,週一回の補習校の場合はその勤務だけで生計 を立てることは困難である。海外での教育に関心のあ る者が,現地で他にも従事できる仕事と併せて応募で きるようになれば,よりよい講師を採用しやすくなる。 これには,日系企業のほか,現地国の政府や企業の理 解と協力を得ることが重要である。 2.学年進行による児童・生徒数の変化  日本人学校,補習校の共通の特徴として,学年進行 により児童・生徒数が減少する事象が挙げられる。日 本人学校の児童・生徒数に関しては,2006 年に学年 別のデータが公表されていているが,3)これらのこと を裏付ける内容となっている(表 2 参照)。  原因としては,海外赴任家族にとって,子どもが小 学校低学年のうちは一家で海外に赴任しやすいという ことがある。逆に,小学校高学年以上になると日本国 内の受験なども意識するようになるため子どもが国内 に残ることを選択する傾向が高くなる。また,海外に いる場合でも,小学校高学年になると国際学校に通う ことを選択し,日本人学校へ通わなくなることがある。 補習校においても,中学生以上になると国際学校・現 地校の課題や部活動の負担が増え,週末に通学する余 裕がなくなっていくことが多い。土肥(2012)のシン 表 2 日本人学校学年別児童生徒数(2006 年 4 月) 小学部 中学部 合計 1 年 2 年 3 年 4 年 5 年 6 年 特殊 1 年 2 年 3 年 特殊 人数 2,446 2,509 2,519 2,563 2,238 2,161 22 1,637 1,370 1,052 9 18,526 構成比 13.2 13.5 13.6 13.8 12.1 11.7 0.1 8.8 7.4 5.7 0.1 100.0 出所:文部科学省ウェブサイト「海外子女教育の概要」の表 3 をもとに筆者が作成

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ガポールの補習校の事例では,現地校の制度として試 験の成績により学校やコースが決まることもあり, 「小学部 6 年生以上の児童生徒の退学者が増加傾向に あること」が報告されている。4)  学年進行による少人数化は,教師の目が細かく行き 届くといった教育効果の増大も期待され,それ自体が 必ずしも問題とは言えないものである。ただし,ディ スカッションなどグループ学習が実践できなくなると いう問題は必ず生じる。この解決法の一つに,学年が 近い他学年との共同学習が考えられる。それでも,複 式学級で運営される小規模校などでは,高学年同士の 組み合わせにはやはり限界がある。他の方法としては, 安価に海外とテレビ電話ができるようになっている環 境を活用することも考えられる。時差の少ない近隣諸 国の日本人学校の生徒と討議を行うなども,物理的に は可能になっている。補習校であっても,土曜日に開 校しているケースが多いので,事前に時間を合わせれ ば小規模校同士での共同学習などが可能になる。今後, このようなネットワークを構築していくことが期待さ れる。 3.クラス内での日本語能力の格差  補習校では,一時的な在留でいずれ日本に帰国する 予定の生徒だけが学習しているわけではない。日本に 帰国する意思のない現地永住予定の生徒も勉学に励ん でいることがある。さらには,両親とも日本人ではな いが,日本語を学習したいという動機で在籍している 生徒もいる。5)そのため,同じ学年のクラス内におい て,生徒間の日本語能力の水準が異なる場合がある。  その際,大規模校では,短期的な在留で日本に帰国 予定の生徒が学習指導要領に則して学習するコースと, 永住予定の生徒がやや平易な内容を学習するコースと に分けて効率化を図ることが多い。ただし,クラス分 けが不可能な小規模校では,すべての生徒が同一のク ラスになる。副担任などがいる複数指導の場合は個別 フォローが可能であるが,そうでない場合は授業運営 に遅れが生じうる。  なお,補習校には留年制度が定められていることも あり,一定の学力に到達しない場合には,次年度も同 じ学年のクラスに配属となる。特に,永住予定の生徒 が留年となりやすいが,留年がそのまま受け入れられ ないことも多い。留年を宣告されると補習校退学を選 択するケースがある。これは,授業料の収入減に直結 するため,財政上の課題ともなりうる。  なお,青木・萩野(2010)は,家庭が永住予定か非 永住予定かにより,日本語教育に対する意識がどの程 度異なるかを調査している。対象はメルボルン日本語 補習校の保護者(207 家族回答)と小学 4 年生以上の 児童・生徒(111 名回答)で,2007 年 10 ~ 12 月に実 施された。たとえば,保護者に対する質問6)で,日本 語の「話す・聞く」能力の重要性に関し(5 段階で回 答),「非常に大切」と回答したのは,非永住者が 98% であったのに対し,永住者は 69% であった。同様に, 「書く・読む」の能力の重要性に関しては,「非常に大 切」と回答したのは,非永住者が 92% であったのに 対し,永住者が 49% で,さらに乖離していた。  生徒に対する質問では,7)生徒の日本語を「話す」 能力の自己評価(5 段階で回答,出生地別)に対して, 日本出生の生徒の「とてもいい」41%・「わりといい」 23% という回答分布に対し,オーストラリア出生の生 徒は「とてもいい」12%・「わりといい」36% という回 答分布であった。同様に,生徒の日本語を「読む」能 力の自己評価(5 段階で回答,出生地別)に対しては, 日本出生の生徒の「とてもいい」36%・「わりといい」 19% に対し,オーストラリア出生の生徒は「とてもい い」12%・「わりといい」38% であった。  このように,保護者の日本語能力の重要性に対する 意識には,永住か非永住かで乖離が生じる。同様に, 生徒自身の日本語能力の自己評価にも,日本生まれで あるか否かで差がある。当該校は,2007 年には,通 学生のうち約 7 割の家族が永住予定であり,日本に帰 国する予定のない生徒のほうが多い状況にあった。非 永住の生徒が少ない補習校では,とりわけこの格差に 悩まされることがわかる。 4.補習校の収入と支出  補習校の運営に関して,会計面では独立採算制に近 い状況にある。主な収入源は,授業料や日本関係省庁 (主に外務省)からの補助,地元日系企業などからの 寄付であり,現地国の自治体などからの補助が得られ る場合もある。主な支出は講師に関わる人件費や校舎 などの賃料8)である。補習校の現地採用講師の賃金支 払については外務省より補助があるが,5 割程度であ り(補助割合は規模などにより多少異なる),残りは 現地校が賄うことになる。特に児童・生徒数が少ない 学校では授業料収入が少なく,運営に苦労することに なる。  日本からの派遣教員がいる大規模校の場合は,校 長・教頭などが,授業のない平日にこれらの経理や施 設管理を行うことが可能である。しかし,派遣教員の

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いない小規模校ではこの運営が大きな負担となる。一 般に,生徒総数 100 人未満の学校では日本からの派遣 教員がいないため,これら運営は父母会(学校ごとに 呼称は異なり,理事会,運営委員会などと呼ばれる) が担うことになる。多くの手間と時間がかかるが,平 日は仕事があるため週末などに従事することになる。 また,派遣教員がいる補習校に関しては日本に戻った 際に現地の事情が伝えられていく。たとえば,山下 (2009)では,「研修で指導技術を高めても 2,3 年で 辞める講師もいるので,運営委員より,研修に関して 費用対効果が得にくいのではないかとの声が出る。研 修の大切さを説明しつつも,講師の安定的な確保が望 まれる。」と課題を挙げており,9)教育上必要な支出で あっても,運営委員会が躊躇する状況が報告されてい る。これに対し,派遣教員がいない場合には,現場の 実情や課題が日本に伝わりにくいという課題がある。  財政上の課題の改善としては,日本の関係省庁から のフォローを手厚くすることが得策である。ただし, 給付の増額は,明確な理由もなく実施できるものでは ない。現状では,補習校と関係省庁間で公式な文書の やり取りはあるが,個別の細かい情報交換まではなか なかできない状況にある。まずは,小規模な各補習校 でどのようなことに費用がかかるのか情報を交換し, 双方で検討する機会が必要である。近隣地域の補習校 間で情報共有を行ったり,日本の関係省庁と連絡を取 り合ったり,容易に協議し合える場の形成があるとよ い。

Ⅳ.まとめ

 本稿では,在外教育施設での聞き取り調査から得ら れた内容に基づき,海外での教育における課題などに ついて考察した。これらは,先行研究でも指摘されて おり,海外の多くの教育機関で普遍的にありうる課題 と思われる。   経済教育については,対日貿易など身近に感じなが ら国際経済について学習する利点がある。授業時間の 制約もあるが,種々の資料を用いて調査学習などへも 応用しやすい。ただし,諸外国の文化や経済事情によ り,日本で学習するような事例を用いられない懸念も ある。副読本の欠如も,社会科教育での具体的な実地 学習を困難にしている。これは,大規模校であれば, 共同作業で資料を作成することにより解決できる。小 規模校であれば,利用しやすい事例などについて年数 をかけ蓄積していければ,現地ならではの適切な資料 が作成されるであろう。  また,運営面からは,教育とはまったく別の問題が あることがわかった。とりわけ補習校における課題の 一つに,教員確保の苦悩などが挙げられる。これは, 小規模校の場合には各学校だけで解決することは難し く,関係機関を中心としたネットワークの拡大が必要 である。  その他,日本からの派遣教員がいない小規模の補習 校においては,父母会の運営に関わる負担は非常に大 きい。また,現地採用講師の給与は部分的にしか補助 されない状況にあり,各学校における収入確保への自 助努力も相当必要である。今後,国際化が進む中で, 補習校の増設も予想されるが,いずれ小規模校から始 まるため,これらの課題改善の重要性は高い。  なお,本稿においては,聞き取り調査の対象が欧州 の教育機関だけであったが,他の地域ではまた異なる 課題や利点を有していると思われる。アジア地域では 言語の関係で現地校に通学することが難しいため日本 人学校が多く,英語圏で国際学校の多い北米では補習 校が多く,それぞれ別の課題があると思われる。10) た,世界各校の所在地の都市の規模や治安の状況によ り,本稿では言及していない他の問題も存在している だろう。近年はインターネットを活用して安価にテレ ビ電話を活用できるようになってきており,各学校を 結んで生徒間,教員間の討議などを行えば,課題の解 決も進みやすくなると思われる。今後も他の地域の在 外教育施設を訪問調査し,また訪問できない地域にも テレビ電話やアンケートによる調査を実施するなどし て,在外教育施設の教育改善につながる研究を深めて いきたい。  謝辞:本研究は,公益財団法人電気通信普及財団の 「情報通信に関する法律,経済,社会,文化的研究調 査への助成(平成 26 年度)」による成果の一部である。 記して謝意を表したい。 註 1) 奥村(2010)の p.83 より引用 2) 瀧田(2010)の p.136 より引用。 3) 文部科学省ウェブサイト「海外子女教育の概要」http:// www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/004/001/001/ 001.pdf を参照(2015 年 3 月 18 日にアクセス)。 4) 土肥(2012)の p.202 より引用。 5) 前述のボン,後述のコロンバスやメルボルンなど,(日本 人ではなく)日本語補習授業校と称するケースがあるの はこのためである。 6) 青木・萩野(2010)の図 7,図 8 参照(pp.12-13)。 7) 同上,図 13,図 14 参照(pp.16-17)。

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8) 小中高の生徒総数が 500 名を超えるコロンバス日本語補 習校の事例では,1995 年に年間 1,000 万円以上の借用料 を支払っている。佐々木(2002)の p.14 参照。 9) 山下(2009)の p.246 より引用。 10) これらの地域ごとの現状と課題の相違に関しては,経済 教育学会第 30 回大会の発表の際にも指摘を受けた。 参考文献 [1] 青木麻衣子・萩野祥子「オーストラリアにおける日本人 居住者の母語教育に対する意識─日本語補習校でのアン ケート調査結果からわかること」『北海道大学大学院教育 学研究院紀要』110 巻,2010 年,pp.1-22. [2] 奥村三菜子「ドイツの日本語補習校幼児部における現 状・実践・考察」『母語・継承語・バイリンガル教育 (MHB)研究』6 巻,2010 年,pp.80-95. [3] 佐々木豊『コロンバスの夢風船─北米・コロンバス日本 語補習校の子どもたち』,創友社,2002 年. [4] 瀧田透「上海日本人学校浦東校社会科副読本の作成」『在 外教育施設における指導実践記録』第 33 集,2010 年, pp.134-136. [5] 多田孝志『光の中の子どもたち─ベロオリゾンテ補習授 業校から』,毎日新聞社,1983 年. [6] 土肥豊「シンガポールの日本人学校の現状と課題」『大阪 総合保育大学紀要』6 号,2012 年,pp.195-217. [7] 村田茂太郎『寺子屋的教育志向の中から─ロサンジェルス 日本語補習校あさひ学園での 15 年─』,壱生舎,2011 年. [8] 山下久一「補習授業校における教育と経営の在り方」『在 外教育施設における指導実践記録集』第 31 集,2009 年, pp.243-246. [9] 弓削淳一「中学校社会科における「タイ王国」の教材化 に関する実践─タイ王国憲法と北タイ山岳少数民族の人 権保障問題の教材化を中心にして─」『在外教育施設にお ける指導実践記録集』第 32 集,2009 年,pp.41-44. [10]吉田紫紗『カリフォルニアのサンディエゴに「日本人学 校ができたよ!」─初代校長奮戦記(第 2 版)』,せせら ぎ出版,2003 年.

参照

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