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日本の学校経済教育の改革(II) : 2008年カリキュラム改定の実相(投稿原稿(査読付))

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Ⅰ.はじめに

 本稿は,前報に続いて,日本の学校経済教育が 2005 年会議を契機として転換したことについて,カ リキュラムレベルで検討するものである。1)特に, 2005 年会議以後に改定作業に入り 2008 年,2009 年に 改定された学習指導要領を検討することにより,前報 で検討した成果がどのように反映されたか,検討する。  なお,本稿は,韓国人研究者である金景模が,日本 の学校経済教育カリキュラムを分析し,猪瀬との討論 の上で,日本語としての整合性を図ったものであり, 日本の教育文化,カリキュラム構成を国外の視点から 考察した論考として,参照頂ければ幸いである。

Ⅱ.学校教育における経済教育の内容の改定

 前報で述べた 2005 年の二つの会議に続いて,学習 指導要領の改定作業が進んだ。具体的には,新学習指 導要領は小学校と中学校が 2008 年 3 月 28 日,高校が 2009 年 3 月 9 日に改定された。そして実施は,小学校 は 2011 年度,中学校は 2012 年度,高校は 2013 年度と 順次なされていった。  本章では,2008 年から 2009 年にかけて,段階的に 改定された新しい学習指導要領の経済部分の検討を通 じて,2005 年の二つの会議から提起された「新しい」 学校経済教育のための提案が学習指導要領の改定作業 に,どのように反映したかを検討する。 1.「社会科教育課程部会」での経済教育内容へ の提言  学習指導要領の改定にあたり,中央教育審議会の初 等・中等教育分科会の教育課程部会答申がだされた。 これらに盛り込まれた内容は,学習指導要領と大きく 異なるものではない。これらの背景をなすものとして, 答申までの過程での審議状況を確認する必要がある。  中央教育審議会初等・中等教育分科会教育課程部会 社会・地理歴史・公民専門部会(第 6 回)の議事録に ある配布資料から,答申に至る審議の状況をうかがい 知ることができる。初等・中等の社会系の「経済内 容」に関して,提起された意見を,次のようにまとめ ることができる。2) ①(現在の経済教育の課程では)グローバル化され た経済環境で市場経済についての基本的な知識を 基にして経済に関する見方や考え方を習得し,経 済主体として意思決定能力を培うには多くの問題 がある。 ②金融教育にあっては,ミクロとマクロの内容を適 切に区別し,時には総合する必要がある。既存の 学校金融教育ではマクロの金融政策の内容が中心 たったが,生徒がマクロの金融政策を当面は学ぶ 必要性は少ないためである。生徒の関心は,むし ろ個人的な金融教育の内容である(例えば,個人 の資産管理など)。従って,金融教育の内容の編 成にあたって国際社会で生きる日本人として必要 なものと日常生活の場で必要なものをまとめるこ とが重要と思われる。 ③経済教育の一貫性の面で見れば,小学校では経済 教育の位置が明確ではない。中学校の公民的な分 野の学習指導要領では,ミクロの経済内容が中心 である。高校の「現代社会」では(主題や問題中 心の内容編成で)曖昧に扱われているため,中学 との一貫性がもっと必要である。「政治・経済」 ではマクロ経済内容から主に編成されているが, 小学校の段階からマクロの内容を一貫して扱い,

Article

The Journal of

Economic Education No.33, September, 2014

論文

日本の学校経済教育の改革(Ⅱ)

─ 2008 年カリキュラム改定の実相─

The Reform of Economic Education at Japanese Schools (II) : The Actual Facts of the 2008 Curriculum Amendment

金 景模(韓国国立慶尚大学校)

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中学校でもっと深化させるのが良い。 ④生徒の身近な事柄,関心の高い事項で学習の意欲 を高ませるのが重要ではないか。できるだけ早い 段階から「お金」を通じて社会のしくみ,社会で の役割を理解させ,社会的な責任を自覚させ,勤 労観,職業観を身につけることが必要である。 ⑤社会が動いていく血流としての「お金」について, 忌避しないで教育内容として体系化していくべき である。 ⑥金融投資に関する教育を学校で行うことが,1400 兆円の個人資産をどう市場に出していくかという ことなら,そぐわない。長期・短期に分けて何を 教えるのかの整理が必要ではないか。 ⑦金融に関するカリキュラムなどを作成し,学校に 紹介しているが,学習指導要領にない内容はやり にくい。また,パンフレットを作成・配布する場 合でも国のお墨付きがないとなかなか学校現場に 降りていかない。 ⑧学習指導要領には,手がかりとなる概念やツール が不十分である。経済で言えば,コストや機会費 用など,手がかりとなる概念を教える必要がある。 ⑨アメリカでは,子どもたちを人間として自立させ るための経済教育の学習スタンダードを作成して いる。小学校 4 年生で連邦政府の予算,消費者と しての立場,市場原理など,日本では中学生で学 習させていることをやっているが,見習う点があ る。  以上の①〜⑨までの論点を,検討する。  ①は,経済的な意思決定能力の必要性を強調したも のである。②と③はミクロとマクロの経済学習の順序 性を考えた経済教育内容の系列性の再整備の要求であ り,④と⑤は,「お金」(貨幣)についての学習の必要 性,⑥と⑦は,金融学習の体系化や強化の必要性に言 及したものである。⑧は,基礎的経済概念学習の必要 性,⑨は,アメリカの事例をモデルとして,より早い 時期に体系的な経済教育の実施を求めたものである。  こうした意見は,必ずしも答申に盛り込まれたわけ ではない。しかしながら,陰に陽に,学習指導要領の 改定にも影響を与えたと推測される。すなわち,学習 内容として,まず,小学校では経済の基礎となる内容 を強調し,5 年生に価格や費用などの概念を導入した。 中学校では通貨の役割,社会保障と財政問題などの内 容を重視している。高校では経済原理の拡充,金融, 消費者に関する内容を強調しており,その詳細を次節 で説明する。 2.改定学習指導要領での学校段階での経済内 容の分析 1)小学校経済教育内容の変化と特徴  小学校の経済内容は,主に 3-4 年生の地域学習,5 年生の産業学習に設定されている。3-4 年生の経済教 育内容には,大きな変化は無い。5 年生に関して,全 体的な構成や内容に三点の変化がある。それは,販売 活動・販売者の立場の学習強化,情報産業と情報化社 会の学習の強調,価格と費用の導入である。  これらの論点を考察する前に,日本の小学校社会科 のカリキュラムを確認しておこう。  まず,1998 年版の学習指導要領では,(1)食料生 産と国民生活,(2)工業生産と国民生活,(3)通信な どの産業,(4)国土の自然と国民生活の順番であった。 2008 年版の学習指導要領では(1)国土の自然と国民 生活,(2)食料生産と国民生活,(3)工業生産と国民 生活,(4)情報産業と国民生活となり,順番が変わっ ている。(4)が(1)に移動し,「通信などの産業」を 「情報産業と国民生活」と変えたことに着目したい。 順序の変化は,国土の地理的な背景を学習した後に, 産業学習をさせようとしたものである。また,社会の 情報化という状況を映し,通信などの産業から情報産 業と情報化を強調したものである。  全体的に小学校での経済教育は,①経済活動が地域 の人々或いは国民の生活を支えるという事実,②経済 活動に従事している人々の工夫と努力,③他の地域や 外国との関連を理解させることに重点をおいている。 ①は,経済活動が日常生活に与える影響を強調するこ とから,経済活動の重要性を認識させようとしている のである。②は,生産者や消費者としての工夫や努力 を強調することにより,生徒自身も積極的に経済活動 に参加する主体であることを意図しているのである。 ③は,経済活動が他地域や外国と密接な相互依存関係 によって成立している事実を認識させると共に,交通 網や運輸活動などがそれを可能にさせるということを 把握させているのである。  つづいて,小学校社会科の経済教育関連内容の変化 の特徴をまとめる。  第一に,従来に比して,販売活動に関する内容と販 売者の立場を理解させることがいっそう重視されてい る。3-4 年生の場合,地域の生産や販売に従事する人 の仕事の部分では,「内容の扱い」にあった「農家, 工場,商店などの中で選択して扱うこと」から,「『生

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産』については,農家,工場などの中から選択して取 り上げること」,「『販売』については,商店を取り上 げ,販売者の側の工夫を消費者の側の工夫と関連付け て扱うようにすること」3)と詳細化,具体化された。  第二に,情報化社会の進展という時代を反映した情 報産業と情報化社会についての学習を重視している。 5 年生では,日本の情報産業などの様子と国民生活と の関連に関する内容が設定され,従前の「我が国の通 信などの産業」から「我が国の情報産業や情報化した 社会の様子」として,国民生活への影響を強調した。 また,「内容の扱い」では今までの「放送,新聞,電 信」の選択から,「電信」を除き,新たに「情報ネッ トワークを有効に活用し,公共サービスの向上に努力 している教育,福祉,医療,防災の中で選択」を加え ている。4)  第三に,価格と費用などの経済概念を導入した。実 際の経済活動や経済生活の意義を重視してきた従来の 経済教育から,経済概念の基本を確認させるものとし て評価できるものである。  これらの変化した内容の中で注目したいのは,価格 や費用などの経済概念の導入である。これらは極めて 限定的なものであるが,この変化を 2005 年の二つの 会議で論議された経済教育の改善案を一部反映したも のととらえることもできる。 2)中学校の経済教育内容の変化と特徴  中学校の経済教育関連の内容は,主に公民的分野で 学習する。経済教育内容は,従来の「私達の生活と経 済」が「市場の働きと経済」に,「国民生活と福祉」 が「国民の生活と政府の役割」に変わり,市場経済に ついての理解と政府の役割をいっそう重視してい る。5)また,「市場の働きと経済」で,社会の変化に対 応する金融学習を重視するという観点で金融の構造や 機能を扱い,その意義と機能について理解させようと している。6)  新学習指導要領での中学校社会科経済教育内容につ いて,「内容の扱い」を基にその変更点の特徴を次の 通りまとめた。  第一に,金融学習の強化を反映して,「金融の機能」 の理解から,「金融の構造と機能」を理解させること に変化した。具体的には「家計の貯蓄などが企業の生 産活動や人々の生活の資金などとして円滑に循環する ために,金融機関が仲介する間接金融と,株式や債券 などを発行して直接資金を集める直接金融を扱い,金 融の仕組みや働きを理解させること」としている。7)  銀行や株式はこれまでも扱われてきたが,間接金融, 直接金融という概念が今次改定で盛り込まれた。金融 教育としては,資金とその融通過程として銀行の役割 を中心にする一方で,個人と家計の役割を加えること によって,金融的意思決定における個人と家計の役割 を強調したと思われる。  第二に,価格の機能や貨幣の役割に関する内容の重 視である。価格に関しては「市場経済において個々人 や企業は価格を考慮しつつ,何をどれだけ生産・消費 するか選択すること,また,価格には,何をどれだけ 生産・消費するかにかかわって,人的・物質的資源を 効率よく配分する働きがあることなど,市場経済の基 本的な考え方」を理解させることを強調している。8) また,貨幣の役割に関しては「財やサービスの取引は 貨幣を通して行われていることに気付かせるだけでな く,近年では ICT の発達により様々な支払い方法が 用いられるようになってきていることにも気付かせ る」としている。9)すなわち,価格を通じて市場経済 の基本的な性格を理解させることをいっそう重視する と共に,電子貨幣などへの適応についても配慮されて いるのである。  第三に,経済活動における国家レベル地方レベルで の政府の役割と機能が,いっそう重視されている。そ もそも「国民の生活と政府の役割」は「社会資本の整 備,公害の防止など環境の保全,社会保障の充実,消 費者の保護」などの政府の仕事が,「市場の働きにゆ だねることが難しい諸問題」であり,「国や地方公共 団体が果たしている役割」として理解させようという ものである。10)したがって,それらの仕事は,「国や 地方公共団体に任せた方が効率的であったり,公正で あったり,市場の働きだけに任せたままでは解決が難 しかったりする問題」であるとして捉えられているの である。11)  中学校の経済教育内容の改定の特徴と「二つの会 議」からの改善事項を関連させて考察すると,金融学 習の強化や価格機能関連の内容重視という点で,新学 習指導要領にこれらが盛り込まれたと推察される。し かし,具体的な内容の構成要素のレベルでは,市場経 済のメカニズムについての十分な説明と経済的な意思 決定や基本的経済概念である希少性,機会費用などが, 依然として明示的に提示されていない。ミクロ経済学 中心の韓国と比較して,経済教育としては,十全なカ リキュラムとはいえない。  そのため,市場に対するとらえ方が,偏ったものと なっている。すなわち,「社会資本の整備,公害の防 止など環境の保全,社会保障の充実,消費者の保護」

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という項目は,いずれも,市場の失敗として捉えられ る表現ではなく,市場そのものに欠陥があるというと らえ方となり,本来の政府が担う経済的な役割を歪め た表現となる。  市場を機能させるために,政府が市場の失敗に対処 するという考え方に立ったものではない点で,ミクロ 経済学中心のカリキュラムとの相違がある。 3.高校経済教育内容の変化と特徴  高校の場合,経済教育は主に公民科の「現代社会」 と「政治・経済」で行われ,前者が総合的で一般教養 的な性格をもち,「政治・経済」の場合は系統的で専 門的な性格をもっている。 1)「現代社会」内容の特徴  経済教育関連の内容を確認すると,次のとおりであ る。  第一に,「市場経済の機能と限界」が加えられた。 これについての説明が,「有限で希少な資源の効率的 配分をもたらす市場機構について理解させるとともに, 寡占や独占,外部不経済など市場経済の限界などにつ いても理解させる」というものである。12)韓国と同様 の,「希少性」記述が強調されたものとして評価でき る。一方で,上記の枠組みは,中学校と同様に「市場 の失敗」を政府が補正するというのではなく,「市場 の限界」という概念が提示されており,「市場が機能 するようにするために,政府が介入する」という考え 方とは別の観点に立っていることを再度指摘しなくて はならない。  第二に,「金融」に関する内容が,いっそう重視さ れている。「内容の取扱い」で「金融制度や資金の流 れの変化なども触れること」としている。これについ ては「金融の自由化が進展していることや直接金融の 比率が高まっていること,さらに近年の金融制度や資 金の流れ,金融政策の変化などを理解させる。その際, クレジットカードや電子マネーなどの普及による キャッシュレス社会の進行,金融商品の多様化など, 身近で具体的な事例を通して指導の工夫を図ること」 として,現今の金融状況を反映した構成を強調してい る。13)  第三に,「経済成長や景気変動と国民福祉向上の関 連について考察」させる内容が強調された。それは 「経済成長がどのような要因によって決まるかを理解 させるとともに,国民福祉の向上にとって重要な経済 成長について,労働力投入や資本蓄積,あるいは技術 進歩などその原動力となる諸要因を理解させる」とし て,経済成長が,国民の幸せの源泉となることが明示 されているのである。14)  第四に,「社会保障」の内容が,現在の課題ととも に拡充された。すなわち,「現状や課題などを医療, 介護,年金などの保険制度においてのみ諸課題を通じ て理解」させ,同時に「少子高齢化の進行や財政との 関係,保険料の負担との関係についても考察」させる として,喫緊の課題として少子高齢社会での医療,介 護,年金と負担と給付の課題として提示しているので ある。15)  第五に,「消費者問題」のさらなる重視である。こ れについては「契約に関する基本的な考え方」「契約 により生ずる様々な責任」について理解させること, 消費者問題については,「『情報の非対称性』の観点か ら消費者保護の重要性を扱うだけではなく,消費者基 本法や消費者契約法などを踏まえ,消費者の権利の尊 重と消費者の自立支援の観点から指導することに留 意」16)とあるように,「情報の非対称性」が新たな項 目として捉えられたことは経済教育として評価できる が,依然として,いな,むしろ「法」を強調すること により,政府の「裁量的側面」を打ち出していること に課題がある。  日本の高校「現代社会」は政治,法,社会,経済関 連を扱うため,基本的に主題中心的なアプローチを持 つことに大きな特徴があった。今回の改定を通じても 総合志向的な社会問題中心のアプローチである点では 異同はなく,「市場経済の機能と限界」,「経済成長や 景気変動と国民福祉」,「社会保障」などのテーマが強 化・拡充されたといえる。  これらは 2005 年の二つの報告書以降,基本経済概 念と原理の強調という提案が一部実現されたとはいえ, 金融経済教育が,依然として金融制度と金融政策中心 であり,若干ながら個人の金融生活に関したマクロ的 な金融問題を扱っている点で,漸進的な変化を示した ものといえるだろう。 2)高校「政治・経済」内容の変化と特徴  編成された「政治・経済」の経済内容に大きな変化 はない。  従前と同様,現代経済について学習した後,現代社 会の諸課題を政治と経済を関連させながら考察するこ とによって,科目のまとめをするようになっている。 大項目(2)が「経済社会の変容と現代社会の構造」 から「現代社会の構造と特質」に変わったのみである。 このように大きな変化がないのは「従前の構成を継承 して一層充実をはかる」という改定方針の結果だとい

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える。17)  修正に止まった変化の具体的な内容と意義は次の通 りである。  第一に,「資本主義経済や社会主義経済の変容」が 削除された。1999 年版の場合,生産手段(私有か共 有か)と資源配分(市場か計画か)の違いによって資 本主義経済と社会主義経済が理念的に区別されること と,社会主義経済体制の原則などを理解させる項目が あったが,それが削除されたのである。代わりに, 「現代経済の特質」の項目に,「現代経済が完全な市場 経済でも計画経済でもなく,両者の特色をあわせもっ た混合経済」であることが強調された。18)  こうした記述の枠組みは,ソビエトと東欧社会主義 体制が崩壊してから相当の時間が過ぎ,世界全体が市 場経済の下に活動している状況で,資本主義経済と社 会主義経済を比較する学習に大きな比重を置く必要が なくなった現状に対応したというべきだろう。  なお,そうした「特質を経済体制の国際比較を通し て気付かせた上で,同じ市場経済に基づく経済でも国 や地域によって独自の歴史や文化の背景をもち,タイ プが異なっていることを理解させ」るよう指示するこ とによって,比較制度分析などの近年の動向も導入し ていることにも注目すべきだろう。  第二に,「消費者問題と消費者保護」,「公害防止と 環境保全」に関した内容の扱い方が変わっている。  1999 年版では,「(3)現代社会の諸問題」で現代日 本の経済問題を学習することとなっていた。しかし, 新学習指導要領では「市場経済の機能と限界」部分で 市場経済の限界についての具体的な事例として,公害 防止と環境保全,消費者問題を学習するようになって いる。公害防止と環境保全については外部不経済とし て扱い,消費者問題については家計,企業,政府間の 情報格差という情報の非対称性の観点から扱う点で, 評価できるが,政府の裁量的な側面である「消費者保 護の重要性」,「消費者の自立支援」の強調19)が,経 済教育としての偏りとなることは既に指摘した。  第三に,「経済活動の意義」の内容の増補拡充であ る。すなわち,「経済活動は分業と交換に基づき人間 生活の維持・向上のために行われるものであり,いず れの社会でも,『何をどれだけ』,『どのような方法で』, 『誰のために』生産すべきか,生産された財やサービ スをどのように社会の構成員に分配し,いかに消費す るかという経済的選択の問題を解決」するために, 「希少性の制約の下では,個人も社会も何かを選択す ると別の何かをあきらめなければならない事実に着目 させ,費用と便益との比較を通して理解させる」20) して希少性と機会費用に言及したものとして評価され よう。まさに,経済活動の意義と本質について理解さ せる内容で,経済学習の導入部分に適切なものといえ る。  第四に,「金融の仕組みと働き」の学習が強化拡充 された。内容の扱いで「金融に関する環境の変化にも 触れること」とし,「金融業務の自由化や金利の自由 化に伴う金融に関する経済環境の変化による国民経済 や,家計,企業への影響」を扱うこと,「金融機関の 倒産などにより金融市場の信頼性が著しく損なわれる と,大規模な信用収縮が起き,資金の流れが滞ってし まい,経済活動に大きな影響を与えること」などの現 在の社会の現象面記述が詳細化している。また,「ク レジットやローンなど日常生活の中での金融の役割, 貸し手及び借り手の自己責任の原則や契約の重要性」, 「多重債務問題」21)なども現象面への対応であると同 時に,「私法」の強調も指摘しなくてはならない。  第五に,「持続可能な社会」が,随所に提示された ことである。「地球環境と資源・エネルギー問題」に おいて,「持続可能な社会の構築」が提示され,「現代 日本の政治や経済の諸課題」における「少子高齢社会 と社会保障,地域社会の変貌と住民生活,雇用と労働 を巡る問題,産業構造の変化と中小企業,農業と食料 問題」において,「持続可能な社会の形成」が,さら に「現代社会に関する諸課題」の探究でも「持続可能 な社会の形成」が,キー概念として提示されている。  以上の検討の中で,特に第三の「経済活動の意義」 の内容の増補拡充に注目したい。すなわち分業,交換, 三つの基本的経済問題,経済的な選択,希少性の制約, 費用と便益の比較などの概念が明示的に言及されたこ とである。  背景となる学問の系統性を相対的には重視している 「政治・経済」の性格を勘案すれば,この内容の追加 は当然であり,むしろ遅すぎるというべきである。一 方,これ以外の他の事項は,日本経済社会の変化に対 応した新項目の追加と内容の再解釈による再配置に止 まっているといえる。  つまり,2005 年会議を経た日本の学習指導要領な どのカリキュラムは,「変化はあるが,内容構成や系 統性の大胆な変更からは,ほど遠い」という結論を下 すことができる。

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Ⅲ.おわりに

 以上,日本の学校経済教育が 2005 年会議を契機と して転換したことについて,学習指導要領の改定過程 とそのカリキュラムレベルで検討した。  2005 年に開催された会議は,日本の学校経済教育 を改革するひとつの契機となり,以後の学習指導要領 の改定など経済教育内容に一定の反映をしたことが確 認できた。22)  2005 年にあった二つの会議での提案は,次のよう に具現化した。そのひとつは経済関連内容の改定方向 を提示した日本中央教育審議会の教育課程部会社会科 部会の審議過程への意見反映であった。もうひとつは, 小学校社会科と中学校社会科公民的分野,そして,高 校の「現代社会」と「政治・経済」の学習指導要領上 の内容の変化である。  審議過程での改善方向の意見は,経済教育の目標と して現在の日本経済についての理解と共に,経済的な 意思決定能力の強調,経済の学習順序性の考慮,経済 教育内容の系列性の再整備,金融学習を体系化及び強 化することだった。  しかし,次なる段階としての具体的な学習指導要領 では,必ずしも十全なる改善とはならなかった。すな わち,全体としては,従前の構成を継承し,さらなる 充実をはかる文部科学省の基本方針により,大きな変 化は行われなかったといえる。つまり,2005 年の日 本経済教育の改革のための政府主導の二つの会議から 出た提言は 2007 年以後の学習指導要領の改定過程の 審議過程では,相当の反映を確認できるが,実際に学 校での経済教育を規定する学校段階別の学習指導要領 の内容には,制限された範囲でしか反映しなかったと いえよう。  結論として,本稿の表題にある「改革」は 2005 年 の二つの会議の提案事項と学習指導要領改定の審議過 程では,確かめられたといえるが,実際の改定学習指 導要領では極めて限定されたものであり,仮説として は検証されなかった。  ちなみに,本稿では,何故そのような結果がもたら されたのかについての説明はできていない。その意味 で,本研究は問題の設定とそれを解くための方法と資 料面で多くの限界を持っている。とはいえ,この韓国 研究者の視点を通した日本人研究者との共同研究が, 日本の研究者や実践者にとって常識的な事実や結論で あると思われていたことに対して,再考させる契機と なれば幸いである。  残された課題は,次の通りである。  第一に,日本の学校で行われている経済教育の授業 観察を韓国人研究者と日本の研究者との共同で行うこ とである。質的調査にせよ,量的調査にせよ,その観 点,指標が他国の研究者との共同設定,共同協議に よって,相乗作用を産み出すはずであり,それによっ て,実相を明らかにすることができるはずである。  第二に,学習指導要領などのカリキュラム策定者や 教科書執筆者など,日本の学校経済教育現象の構造を 規定している中心的なインフォーマントへのインタ ビューを通じて,検証し得なかった「改革」の深層を 明らかにすることである。 註 1) 猪瀬は,小中学校の新学習指導要領に関する経済教育カ リキュラムについて,複数の文献で考察している(猪瀬  2008,2009a,2009b)。しかし,本稿においては,韓国人 研究者の金の視点を重視した。そのため本稿では,先に 示した猪瀬の論考と同一のものではないことを付記して おく。 2) 中央教育審議会初等・中等教育分科会教育課程部会社会・ 地理歴史・公民専門部会(第 6 回)議事録・配布資料〔資 料 9〕を基に抽出。出所 http://www.mext.go.jp/b_menu/ shingi/chukyo/chukyo3/020/gijiroku/05113001/009.pdf (2014 年 3 月ダウンロード) 3) 文部科学省,『小学校学習指導要領解説社会編』,2008 年 8 月,pp.7-8. 4) 上掲書,p.8. 5) 日本も韓国と同様,ミクロ経済(市場の機能と経済)を 学び,マクロ経済(国民の生活と政府の役割)を学ぶよ うに構成されているが,市場の役割が強調される韓国に 比べ,日本では政府の役割が強調される。また,韓国の 場合,主に経済学の概念を中心に内容を構成しているが, 日本では経済生活の理解に重点が置かれている。 6) 文部科学省,『中学校学習指導要領解説社会編』,2008 年 7 月,p.16. 7) 上掲書,p.105. 8) 上掲書,p.104. 9) 上掲書,p.105. 10) 上掲書,p.106. 11) 上掲書,p.107. 12) 文部科学省,『高等学校学習指導要領解説公民編』,2009 年 12 月,p.15. 13) 上掲書,p.15. 14) 上掲書,p.15. 15) 上掲書,p.16. 16) 上掲書,p.16. 17) 上掲書,p.3. 18) 上掲書,p.49. 19) 上掲書,p.49. 20) 上掲書,p.49. 21) 上掲書,p.50. 22) 金は,本研究を目的とした日本における在外研究から帰 国して,2005 年度の二つの会議と新学習指導要領の改定 の間に存在する関連性を解明した論文を発表した(クォ ン・オヒョン,キム・ギョンモ,2012)。しかし,序論を はじめ結論に至るまで,本稿では全面的に修正加筆がな された。特に,韓国同論文では,断定的に論断した結論

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は,和らげ修正されたことを明記しておく。 参考文献 [1] クォン・オヒョン,キム・ギョンモ(2012)「日本の学校 経済教育改革の研究─2005 年の二つの会議と学習指導要 領の改定を中心に」韓国経済教育学会『経済教育研究』 第 18 冊 2 号,pp.91-127. [2] クォン・オヒョン,キム・ギョンモ(2007),「日本中学 校社会科系の学習指導要領の『経済教育』関連内容の分 析」韓国経済教育学会『経済教育研究』第 14 冊 2 号, pp.57-87. [3] キム・ギョンモ(2007),「韓・中・日学校経済教育課程 の比較研究」,韓国経済教育学会『経済教育研究』第 14 冊 2 号,pp.89-115. [4] 猪瀬武則(2008)「新学習指導要領に基づく公民的分野の 指導上の課題」,『新しい学習指導要領を読む』日本文教 出版,pp.18-26. [5] 猪瀬武則(2009a)「小学校社会科における経済教育内容 の検討─改訂学習指導要領の核心と革新」,『クロスロー ド:弘前大学教育学部研究紀要』13 号,pp.1-7. [6] 猪瀬武則(2009b)「中学校社会科における金融教育・金 銭教育」『金融教育ビューイング』日本文教出版,pp.4-8. [7] Kyungmo,KimandHahnKyungdong(2010).Issuesand ChallengesforSecondarySchoolEconomicsEducationin SouthKorea;Implicationsfromfiveeventssince2004. Citizenship, Social and Economics Education.Vol.9No.1. pp.60-68.

[8] Walstad,B.William(2005).Economic Education in U.S. High Schools.presentedinAgendaforEconomicEduca-tionSummitinJapan.

参照

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