専門教育系論文
Ⅰ.はじめに
競技・スポーツにおいて,その能力を高めるために 競技現場では様々なサポート活動が展開されている。 競技能力を高めるために施設・設備などの環境的要素 の改善は今や当然な考え方となり,中でも競技選手の パフォーマンス発揮を狙いとしたトレーニングプログ ラムの確立を初め“怪我の予防・改善プログラム”“栄 養管理プログラム”などを中心としたコンディショニ ングに関してシーズンを通じたコーディネーション・ マネジメントを実施しなければならない時代になって きた。 我々も6年前の平成19年度より大学男子駅伝ブロッ クの競技力向上を目的としたサポート活動を開始すべ【研究資料】
大学男子駅伝チームにおける競技力向上を目的とした
トレーニングサポート活動に関する報告
―2012 年シーズン―
黄 仁官
1),別府 健至
2),原 健介
3),山木 俊彦
4),杉本 昇三
4),水野 増彦
5),
小林 史明
5),福島 裕之
5),向本 敬洋
6),石井 隆士
5) 1) 日本体育大学総合スポーツ科学研究センター 2) 日本体育大学女子短期大学部 3) ハラ鍼治療院 4) 日本体育大学スポーツ局(スポーツ専門職) 5) 日本体育大学運動方法(陸上競技研究室) 6) 日本体育大学体育研究所Report into the training support activity for collegiate male EKIDEN
team on the improvement of athletic performance in 2012 season
Inkwan HWANG, Kenji BEPPU, Kensuke HARA, Toshihiko YAMAKI, Shozo SUGIMOTO,
Masuhiko MIZUNO, Fumiaki KOBAYASHI, Hiroyuki FUKUSHIMA,
Takahiro MUKAIMOTO and Takashi ISHII
Abstract: In this report, summarizes the support activities carried out for the purpose of
improve-ment in athletic performance of the collegiate male EKIDEN block in 2012. Support candidates were 58 collegiate male EKIDEN runners who make a long distance specialty. In addition, the support period was from February, 2012 to December, 2012. The team was provided with the support system in 2012. The contents of support were a check and feedback of development of a warming up drill, offer and es-tablishment of long-distance runner’s fundamental training, basic training, body composition, a blood characteristic and mileage and race, physiological data collection, analysis at the time of practice, etc. The results of the main conventions in 2012 were the 44th all Japan university EKIDEN interschool championship (the 4th place) and the 89th Tokyo-Hakone -collegiate- EKIDEN race conventions (com-prehensive championship).In addition, training scientific support activities aiming at the improvement in game power will be continued by the further contents.
(Received: October 21, 2013 Accepted: January 10, 2014)
Key words: collegiate male EKIDEN runners, support activities
く,当時チームの選抜選手を中心に年間のトレーニン グ状況と,各選手の怪我や疲労状態について調査・分 析を 2 年間にわたって行ったことを最初に,現在に至 るまでそのサポート活動を継続してきた。その内容は, サポート活動により収集された各種データを分析し, 現場のトレーニング環境の改善や選手の自己管理・意 識改善を目的として定期的にフィードバックを行うと 同時に,各種競技現場での参考となれるべく,毎年の サポート内容をまとめて競技現場の活動内容として報 告してきた1–5)。その主な内容は,平成 21 年に“大学 駅伝ランナーの年間における走行距離とクレアチンホ スホキナーゼ(CPK)との関係”を発表し1),駅伝チー ムとして年間のトレーニングを実施する際,チーム内 の優秀な選抜選手の中でも,走行能力の違いによって 年間を通じて疲労状態を示す選手がいる可能性を確認 した。その結果,選抜選手内においても走力の類似し た選手編成を行い,それぞれ必要以上のオーバート レーニングによる慢性的疲労を起こさないような対策 の必要性について報告した。それ以後,現在まで毎年 の選抜選手や育成選手のトレーニングプログラム(練 習量や質)を編成する際,監督による各選手レベルに 見合ったトレーニングメニューの作成や種類も豊富に なってきた。また,平成 21 年度以後においても毎年別 のチームや選手能力を再編しながら,その年の目標や 改善点,持続すべき点について現場(監督・コーチ・ 選手)にフィードバックし,報告として発信してきた (①大学駅伝ランナーにおける 10,000 m 走及びハーフ マラソンレース時の血中乳酸濃度に関する検討2),② 大学駅伝選手の競技力向上を目的とした年間サポート 活動の試み∼ 2010 年サポート活動にて得られたデー タを中心として∼3),③大学長距離ランナーにおける α-アクチニン 3(ACTN3)遺伝子多型と 10,000 m 走 レース時の血中乳酸濃度およびレース記録との関連性 についての検討4),④大学男子駅伝選手の競技力向上 を目的とした年間のサポートシステムにおけるトレー ニングプログラムが競技パフォーマンス改善に及ぼす 影響に関する検討5))。 しかし,毎年改善を重ねてサポート活動をしてきた 結果とは裏腹に,2011 年(平成 23 年)の出雲・全日 本大学駅伝に続き,第 88 回箱根駅伝(平成 24 年)に おいては,大学史上最下位の結果を残してシーズンを 終えることとなった。一方では,トレーニングやコン ディショニングに関するマネジメントのサポート内容 に関しては,シーズン結果の良し悪しに関わらず何故 良かったか悪かったかを検証し,修正点・問題点を見 付けて改善することを前提にしていたことから,昨 シーズンの最悪の結果に関しては責任というよりも何 故かという修正すべき点を見付けることが最重要課題 であった。科学的なサポートを実施することが我々の 使命であり,その“基本をより徹底する”という考え 方をサポート陣として考慮した結果,これまで定期的 に実施・フィードバックしてきた体力,体組成,血液 性状などのコンディショニング・マネジメント活動は これまでと同様に実施しながら,朝練習時の体操やス トレッチングの基本の見直しと,年間を通じ長距離選 手として最も鍛えるべき基礎となるトレーニング内容 の開発と指導が解決すべき点として挙げられた。 そこで本報告では,我々サポート陣が大学男子駅伝 ブロックの競技力向上を目的として 2012 年 1 月から 2013 年 1 月の箱根駅伝までに実施したトレーニング・ コンディショニングに関するサポート活動内容につい て報告する。
Ⅱ.サポート対象・期間・目標
対象者は 2012 年 4 月現在,本学の陸上競技部駅伝ブ ロックに所属する選抜選手(16 名)及び育成選手 (42 名)の合計 58 名(一部サポート項目は選抜選手の みのフィードバックとデータ管理したものである)を 対象とした。2012 年サポート対象の駅伝ブロック選手 の身体的特徴は Table 1 に示す通りである。 本研究・サポート活動における規則,個人情報の 保護及び倫理的配慮に関しては,日本体育大学倫理審 査委員会の承認(承認番号:第 010-H08 号)を得たも のである。 2012 年シーズンサポート期間は,平成 24 年 1 月か ら平成 24 年 12 月までであった。その間のブロックの 目標として,前半シーズンは全日本大学駅伝予選会突 破,後半シーズンにおいては,全日本大学駅伝 5 位以Each value represents mean±S.D. *: p<0.05 vs non-regular
内,第 89 回箱根駅伝予選会トップ通過,第 89 回箱根 駅伝 3 位以内というチーム目標を目指して 2012 年サ ポート活動を開始した。尚,2012 年駅伝チームの強化 計画は Table 2 に示したとおりである。
Ⅲ.サポート活動内容について
2012 年の男子駅伝チームの競技力向上を目的とし たサポート活動は,Fig. 1 に示した通りのサポートシ ステムを作成し,どのような内容を,どのように管理 してコーチングスタッフや選手へフィードバックする ことが競技パフォーマンス向上に繋がるかの計画を立 て示した。なお,本年のサポート活動の特徴の一つと して,学生スタッフによる運営管理の確立のため,学 生スタッフを怪我やトレーニング指示・管理等を中心 にサポートする学生トレーナーと,練習時の選手サ ポートを中心に活動する学生現場マネージャーそし て,現場から収集される全てのデータに関する分析・ 管理を中心にサポートする学生情報管理マネージャー の三つに分類して学生スタッフの指導を実施した。さ らに,競技力向上を目的としたサポート活動は,“体力 とトレーニング”と“コンディショニング”そして“競 技力向上”の三つのサポート項目に分けてデータの収Fig. 1 A schematic diagram of the project for NSSU in 2012 (a proposal)
●10,000 m 走を 28 分台を目指す選手の変速走の種類:1,000 m (600 m; 115 sec - 400 m; 67 sec×6~8 set - rest 2 min), 2,000 m (500 m; 93 sec - 1,000 m; 176 sec - 500 m; 93 sec×3~4 set - rest 2 min 30 sec)
◎ 本年度は,通常時・強化合宿時を問わず,EKIDEN Base Control Training(EBCT)を週 3 回以上,改善・修正した W-up ド リルを実施。
集と分析,そしてフィードバックを行った。
体力とトレーニングの項目には,①長距離選手の走 行能力向上を狙いとした 24 種類のベースコントロー ルトレーニング(Base Control Training 通称・以下: BCT と省略)の構成・指導,②定期的な基礎体力 5 項 目(背筋力・上体起こし・立ち幅跳び・座位体前屈・ 左右保持バランステスト)の測定・評価に分けて指導・ 管理した。コンディショニングの項目としては,①体 組成のチェック・管理(体重・筋量・脂肪率など),② 血液生化学的分析によるチェック・管理(主に貧血や 筋疲労の関連項目),③走行距離のチェック・管理(本 練習と自主練習),及び競技力向上の項目には,各時期 別の重要レース時やポイント練習時(強化合宿含む) において血中の血糖・乳酸濃度の測定(BIOSEN C-line/ EKF-diagnostic 社製)と,GPS 機能付きの心拍測定器 (ハートレイトモニター RS800CX・POLAR 社製)をそ れぞれ用いて生理学的なチェック(血糖,乳酸濃度, 走行時の心拍数・ピッチ数・ストライド値など)と分 析データのフィードバックを実施した。 1. 体力とトレーニングの項目について 昨年度(2011 年度)まで駅伝選手全員は,週 2 ∼ 3 回のペースで補強という位置づけで腹部,背部,上 腕部などを中心とした主働筋の筋力トレーニングを実 施していた。しかし,その内容を詳細に検討すると, 殆どが主働筋の肥大に繋がってしまうメニューで構成 されていた。その結果,上肢筋群の増大が著しくなっ たことによって全身の上下のアンバランスが生じ,体 幹部の前後左右方向への振られた走行になってしまい 必要以上の無駄なエネルギー消耗が起因とみられる レース後半の失速の目立つ選手が多くみられた。 そこで,経済的且つ無駄の無い走行を求めるために 身体移動動作の柱となる体幹部の安定と可動の連動 性,上肢と体幹部の接続部である肩甲部周囲(帯)及 び下肢の接続部である股関節筋群の柔軟・可動・コン トロールが三位一体となることにより,上肢・下肢・ 体幹部の連動が走行時にバランスよく保たれることが 大切であることを確認した。そこで,長距離ランナー の競技特性を生かしたものとして駅伝選手が年間を通 じて走行時の基礎作りのために“補強”という考え方 ではなく,“トレーニング”として 24 種類の基本動作 を柱とした体幹部の Inner-Muscle からアプローチし て Outer-Muscle に連係するトレーニング BCT を考 案・指導した。なお,24 種類の BCT の動作に関して は Fig. 2 に示すとおりである。 2ヶ月毎に等尺性最大筋力(背筋力),筋持久力(30秒 間上体起こし),下肢のパワー(立ち幅跳),柔軟性(座 位体前屈)をそれぞれ計測,各時期別に基礎体力の状 態についてフォードバックし,以後の改善・維持すべ き点について指導を行った。なお,2012 年 2 月から定 期的(2 ヶ月毎の測定)に実施した男子駅伝選手にお ける年間の基礎体力測定結果については Fig. 3 の A ∼ D に示した。Fig. 3-A は全身筋力(背筋力),B は筋持 久力(上体起こし),C は下肢のパワー(立ち幅跳び), D は柔軟性(長座体前屈)をそれぞれ示している。 本年から効率の良い走りの為の姿勢づくりを目標と して“Stabilization”及び動的な走姿勢の“Drill”を 混合した BCT を開発・実施してきた。さらに,各基礎 体力測定において各 Position の Stabilization Test を 実施し,選手ら左右の保持バランスの現状につい
てフィードバックした。その結果の変化を Fig. 4-A (Stabilization Side Raise Position)と B(Stabilization
Leg Raise Position)に示した。
年間を通じて体力測定を実施してきた結果,全ての 項目にシーズンを通して向上や維持の傾向をみられ た。これらの結果は様々な要因が考えられるが,その 一つに本年実施した BCT が挙げられる。体力テスト項 目中の Stabilization Test の結果からも窺えるように, 姿勢維持能力の向上が顕著に改善されたこと,シーズ ン終盤では姿勢維持バランス(左右差)も殆ど差が無 くなるレベルまで改善されたことなどから BCT によ る貢献度は高いものと推測される。 駅伝ランナー(長距離を含む)の年間のトレーニン グやコンディショニングにおいて,特に股関節の働き は長距離ランナーとって重要と言える。また,違和感 や痛みのある部位が股関節だったとしても先ずは体幹
Fig. 4 Change of Stabilization Side Raise Position (A) and Stabilization Leg Raise Position (B) in February, May, July, September,
November during the year of 2012 Right and Left *: p<0.05 vs February
Fig. 3 Change of back extension strength per body weight (A), sit-up test (B), standing long jump (C) sit and reach (D) in
February, May, July, September and November during the year of 2012 *: p<0.05 vs February
部のトレーニングや間違ったフォームを修正し,それ から股関節にアプローチしていくことが最も重要であ る。解剖学的にみると,股関節を動かす筋群は骨盤や 腰椎に付着しているものが多いので,股関節だけにア プローチしても改善効果はあまり望めない。従って, 各パーツを一つのユニットとしてみていくことが重要 である6)。特に,コア(体幹・腹部中心)においても Inner unit を構成する腹横筋,多裂筋,骨盤底筋の 3 つ は重要である。この 3 つの筋は上肢・下肢ともに運動 するときは最初に働き,次に運動を起こす大きな筋群 が働くことがわかっており,それぞれの筋がタイミン グの異なったままトレーニングを続けたり,負荷を高 めていくことにより,異常が生じる可能性がある。従っ て,各動作時(走行時)において力を入れるタイミン グを先ずリセットさせ,正しい筋収縮のタイミングを 身に付けてから,負荷をかけていくことによる改善を 目指すことがポイントと考えられる。現在,BCT 効果 に伴うパフォーマンス向上との関連に関しては,明確 に判明することは難しいのが現状である。従って,今 後は BCT のより詳細な理論化と,その効果をより具体 化できる測定方法を考案し,体力や体組成,怪我,記 録等とどのような関連があるかを検討することによ り,その重要性や必要性が選手の競技パフォーマンス 向上に対する意識をさらに高めるものになると考えて いる。 2. コンディショニングの項目について 身体組成は,InBody430(Biospace 社製)を用いて 毎月 1 回の計測を実施し,各項目(体重,骨格筋量, 体脂肪量,体水分量,% Fat,BMI)の結果を各選手に フィードバックし,計測した時点での改善・維持すべ き内容について指導を行った。なお,年間における主 な項目別の変化については Fig. 5 に示した。 体組成の結果から,年間を通じて運動の量・質とも にレベルが最も高い時期においても骨格筋量の上昇傾 向と体脂肪率の適切なレベルの維持ができたことを考 慮すると,トレーニングレベルや食事及び栄養・吸収 レベルのバランスが良好であったことが推測され,少 なからず疲労骨折を引き起こすリスクや骨格筋の疲労 回復レベルの改善に貢献し,トレーニング実施に伴う スポーツ障害(怪我・故障者)を引き起こす選手の抑 制に繋がり,年間を通じて各選手やチームの競技力向 上を目的としたトレーニングとコンディショニングの マネジメントは有効的であったもの思われる。従って, 今シーズンの結果を踏まえ,来季以後の選手管理の基 礎データとして活かすとともに改良を加えたい。 年間における各時期別の血液生化学検査について は,各時期別(トラックシーズン開始時期の 4 月,前 半シーズン終了時の 6 月,夏季強化合宿終了時期の 9 月,箱根駅伝前の 12 月)に血液検査を行い,各選手 の検査項目「主な項目:赤血球数(Red blood cell count: RBC),ヘモグロビン(Hemoglobin: Hb),鉄(Iron: Fe),平均赤血球容積(Mena corpuscular volume: MCV),平均赤血球血色素量(Mena corpuscular hemo-globin: MCH),平均赤血球血色素濃度(Mena corpus-cular hemoglobin concentration: MCHC)クレアチン リン酸キナーゼ(Creatine phosphokinase: CPK),GOT (Glutamic oxaloacetic transaminase),GPT(Glutamic
Fig. 5 Change of weight (A), muscle mass (B) and % fat (C) in February, March, April, May, June, July, August, September,
pyruvic transaminase), 乳 酸 脱 水 素 酵 素(Lactate dehydrogenase: LDH)」のレベルを分析・検討し,各 時期別に選手の栄養状態,練習量などコンディショニ ングをフィードバックするとともに改善方法など指 導・管理を行った。 年間における各時期別の血液生化学検査結果の変化 についてみると,トレーニングの質や量が著しく高ま る時期においては通常の食事を通して鉄分摂取レベル をより改善するとともに,各強化時期においてもこれ までよりさらに調整された積極的休養のバランスを考 慮する必要性があるものと思われる。なお,年間にお ける主な血液生化学検査項目の結果の変化を Fig. 6 ∼ 8 に示した。 年間における月間走行距離は,監督による本練習時 の走行距離を Mine,本練習以外の自主練習による走 行距離を Voluntary,そして Mine と Voluntary を合 計した走行距離を Total の 3 つに分類して示して毎月 別に収集し,フィードバックと管理を行った。 2012 年シーズン中の練習・トレーニング時の走行距 離の特徴についてみると,育成選手である非レギュ ラー選手は年間を通じて各時期別に大きな走行距離の 差違はみられないのに対して,選抜選手であるレギュ ラー選手は 7 月までは大きな差はみられないものの, 8 月と 9 月は最も走行距離が長い時期でその後は 10 月,11 月と 7 月までの走行距離に戻り,12 月に再 度走行距離が顕著に長いという変化がみられた。 年間における各時期別の走行距離の変化は,基本的 に毎年のシーズン別にその特徴がみられることが予想 される。2012 年シーズンにおける本学駅伝チームの主 な試合出場時期を中心に検討してみると,前半シーズ ン(4 月∼ 6 月)はトラックシーズンとして位置づけ, 10,000 m を中心とした自己走力の向上を狙いとしてト レーニングの量や質を若干抑えながら幾つかのトラッ クレースを中心に,トラックシーズンパフォーマンス 向上を目標にトレーニングを行う傾向が高く,例年と 比較すると,走行距離は 3 月や 4 月をピークに 5 月, 6 月,7 月と減少する傾向が予想されるが,2012 年前 半シーズンにおけるもっと重要な試合は全日本大学駅 伝の予選会(6 月)があったため,スピードは勿論, 10,000 m 走を中心に走りきれるスタミナも備える必 要があり,シーズン前半の走行距離を中心とした練習 構成が例年に比べると逆に 3 月や 4 月から 6 月までに 少しずつ走行量が増えたことが要因として考えられ る。また,後半シーズンである 8 月以後についてみる と,8 月及び 9 月は年間を通じて最も走行距離が長く なる時期であることはこれまでの大学駅伝サポート報 告により確認されており2),その後は 10 月から 12 月 までの駅伝シーズン(ロードレース期)であるため, 各駅伝レースが 1 ヶ月に一度のペースで開かれるた め,レースのためのコンディショニングに配慮した練 習が中心となり,10 月以後は走行距離として減少する 傾向であることについても確認している2)。しかし, 2012 年シーズンは 11 月上旬に開催される全日本大学 駅伝レースと2013年1月の箱根駅伝が中心となってい たため,11 月のレースまでに走行距離は徐々にコン ディショニング管理を行いながら調整したことによ り,11 月までは走行距離の低下が続いたものと考えら れる。なお,例年と 2012 年との走行距離の明確な違い は 12 月であり,例年であれば怪我のリスクを抑えるな どのコンディショニング中心の考え方が先行され,走 行距離を含む練習・トレーニング量を抑えてきたこと が主流であったが,本年はコンディショニング管理や 予防の側面でのトレーニングをさらに加え,より実戦 的なロード練習が加わったことにより,結果的に走行 距離が長くなったものと推測される。 一方,最も重要な時期における練習量の増加はオー バートレーニングも懸念されることも否定できず,こ れまでの理論(ピーキングやテーパリング)1,7–9)とは異 なる考え方でもあり,現状での明確な分析は困難であ るが,年間を通じてトレーニング量・質を強化期や試 合期のみならず予防・改善トレーニングを加えること によって場合によっては実戦的な練習をしながらも レース本番に向けてのコンディショニング調整の可能 性についての明確化は現状で答えを出すことは難し い。従って,今後はこれまでチームの実施した全ての 項目との関連性をさらに分析を続け,チームの年間ト レーニングプログラムの構成にリスクの少ないプログ ラムの確立を目指したい。なお,年間におけるレギュ ラーと非レギュラーの月間走行距離(Total 距離)の変 化については Fig. 9 に,Mine と Voluntary 距離の変化 は Fig. 10 に示した。 3. 競技力向上サポート項目について 年間を通してトラックレース(5,000 m 走,10,000 m 走・主に公認記録会)やロードレース(ハーフマラソ ン公認大会)及び各ポイント練習時(強化合宿のロー ド練習時)での 1,000 m 又は 5 km 毎のラップタイム やレース記録,レース前とレース直後,そしてレース 終了後の回復期において血糖や血中乳酸濃度を計測 (BIOSEN C-line/EKF-diagnostic 社製)し,練習・レー ス後直ちに分析を行い,各選手別の練習時やレース時 のタイム及びラップタイムと血糖・血中乳酸濃度との 関係を解析して各選手のレース時のスピードと血中乳 酸との関係からレース時の競技力向上を目指すための 耐乳酸レベルやそのための練習時走行スピードの維持 レベルなどに関してフィードバックを実施した。尚,
Fig. 8 Change of CPK (A), LDH (B), GOT (C), GPT (D) in April, June, September and December during the year of 2012
*: p<0.05 vs April
Fig. 6 Change of RBC (A), MCV (B), MCH (C), MCHC (D) in April, June, September and December during the year of 2012
Fig. 7 Change of Hemoglobin (A) and Iron (C) in April, June, September and December during the year of 2012
フィードバックの実施時のデータの例として Fig. 11 に示した。 選抜選手の強化合宿などのポイント練習時には,そ れぞれ GPS 機能付きの心拍測定器(ハートレイトモニ ター RS800CX・POLAR 社製)を着用させ,各練習時 でのコースの高低差,心拍数変化,走行時ピッチ数及 びストライドなどを計測,分析・解析を行い,各練習 (コース)時での各選手の生理的(心拍数)及び実践的 (走行時ピッチ数とストライド)な面において各選手に は自分自身の走行時の生理的な変化と,コース変化(高 低差)による実践的能力の変化についてフィードバッ クし,改善点に対して意識するよう選手個々の指導資 料として活用するとともに,指導陣に報告を行った。 なお,フィードバックの実施時のデータの例として Table 3 に示した。 また,過去 3 年間(2010 年∼ 2012 年:各年度 11 月 現在のデータである)における駅伝ブロック選抜選手 (箱根駅伝を中心としたエントリ選手 16 名)の走力の 比較として 5,000 m 走及び 10,000 m 走のベスト記録の 平均タイムを Fig. 12 に示した。 最後に 2012 年シーズンにおける主な駅伝レースの 結果について述べると,①第 44 回全日本大学駅伝関東 予選会(2012 年 6 月 30 日・国立競技場):4 組の合計 記録で全体の 2 位として本戦出場決定。②第 89 回東京 箱根間往復大学駅伝競走予選会(2012 年 10 月 20 日・ 立川市国営昭和記念公園):トップ通過で本戦の出場決 定。③第 44 回全日本大学駅伝対校選手権大会(2012 年 11 月 4 日・名古屋市熱田神宮→伊勢市伊勢神宮): 1 位駒澤大学(5 時間 12 分 43 秒),2 位東洋大学(5 時 間 13 分 32 秒),3 位早稲田大学(5 時間 15 分 08 秒) に次いで 4 位(5 時間 15 分 21 秒)で来季のシード権 得。④第 89 回東京箱根間往復大学駅伝競走(2013 年 1 月 2 日∼ 3 日・東京大手町⇔箱根芦ノ湖):26 年ぶり の往路優勝と復路は2位で30年ぶりの総合優勝を果た
Fig. 10 Changes in the running distance of main and voluntary training of regular and non-regular through the target period
**: p<0.01, *: p<0.05 vs Non-regular
Fig. 9 Changes in the total running distance of regular and non-regular through the target period
しシーズンを終えた。 上記のような競技現場(レース,重要練習,強化合 宿時)のサポート活動から得られたデータを,その日 の内にフィードバックすることによって各選手はレー スや練習に対する意識が改善されていくことについて サポート活動を通じてつぶさに目にしてきた。しかし, 一昨年の第 88 回箱根駅伝のように 19 位で終わった シーズンも,今シーズンの第 89 回箱根駅伝の総合優勝
Fig. 11 Feedback data at the time of blood lactate concentration measurement is an example a part Table 3 Feedback data at the time of heart rate monitor use with GPS function is an example a part
で終わったシーズンにおいても少しの改良はあったも のの,劇的に異なるサポート体制やトレーニングを実 施したからではない。チームや組織にとって重要な競 技レースでの勝敗は避けることのできないことであ り,重要な意味を持つということは承知している。し かしながら,現場の競技力向上を高め,さらにそのレ ベルを維持するためには,勝敗で全てを承認・否定す ることではなく,チームをトップへと成長・保持する ための長期間にわたる環境や時間的な投資,そのサ ポート体制のマネジメントを含む様々な調整は必要不 可欠であるものと考えられる。これまで実施してきた 我々サポート陣の活動はチームの競技力向上の一要素 に過ぎず,その内容も改良の余地が大いにある。従っ て,今後はさらなるサポート体制と内容を提供する必 要性を強く認識するとともに,本報告が今後の強い チームづくりの起因となることを期待する。 謝辞 2012 年における男子駅伝ブロックの競技力向 上のためのサポート活動において事務的援助やサポー ト環境づくりに多大なご理解を頂きました理事長及び 学長に深く感謝申し上げます。さらに,事務局長をは じめ,大学の各部署(特にスポーツ課)の皆様にはご 迷惑をお掛けしながらもご支援頂き,この場をお借り して感謝の意を表します。
参考文献
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関節.Sports medicine, No. 108, 14–17, 2009. 7) 川原 貴:オーバートレーニングに対する予防と対 策.臨床スポーツ医学,9, 489–495, 1992. 8) 白山正人:オーバートレーニング症候群.体力科学, 45, 395–398, 1996. 9) 石井直方:ピーキングの生理.体育の科学,52(7), 515–521, 2002. 〈連絡先〉 著者名:黄 仁官 住 所:〒 158-8508 東京都世田谷区深沢 7-1-1 所 属:日本体育大学総合スポーツ科学研究センター E-mail アドレス:[email protected]