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327 い. 更にそう多くはないが, 火災に伴う人的被害も発生している. こうした状況を考慮し, 海外と国内の原子力発電所における火災事象の発生傾向などを分析した. INSS では, 継続的に海外の原子力発電所の不具合情報を入手し, その情報で述べられている内容から得られる教訓の中で, 国内の原子力

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Academic year: 2021

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1.

はじめに

原子力発電所では火災によって直接,重大事故や 炉心溶融事故に至る事はないが,間接的には電気 ケーブルの損傷による計測制御の欠落,機器の誤動 作や電源の喪失等により重大な事故に発展する可能 性がある.世界的には 1975 年 3 月の米国 Browns Ferry 発電所 1 号機や 1993 年 3 月のインド Narora 発電所 1 号機で火災が発生し,心配されたが幸い重 大な事故にはならなかった.しかし,こうしたこと も踏まえて,我が国では原子力発電所の火災防護と しての規制が整備され,1980 年に原子力安全委員会 が「発電用軽水型原子炉施設の火災防護に関する審 査指針」を決定し,1986 年には民間指針 JEAG4607 「火災防護指針」が策定された.以後それらに準拠し て原子力発電所の設計が行われており,これまで火 災による大きな事故は発生していない.しかしなが ら,電気設備の発火や作業に伴うボヤなどはかなり の頻度で発生している.また,原子炉格納容器や タービン建家以外の管理区域での火災も無視できな

原子力発電所における火災事象の傾向分析

Trend Analysis of Fire Events at Nuclear Power Plants

島田 宏樹(Hiroki Shimada)* 要約 海外(1995 〜 2005 年)と国内(1966 〜 2006 年)の原子力発電所で発生した火災の不具合に ついて傾向分析を行い,両者の比較を行った.これは原子力安全システム研究所(以下「INSS」と いう)の原子力情報データベースに登録されている海外原子力発電所不具合事象から,1995 〜 2005 年の 11 年間の災害に関する不具合事象(暴風,豪雨,地震,津波,火災等)を抽出したところ,火 災が最も多く発生していることに着目したためである.火災の不具合事象における故障原因別,プ ラントへの影響別,国内の発生件数との比較等の分析を行った.その結果,海外,国内とも電流過 熱,電気アークなどの電気火災が全体の約半分を占めており,電気設備の保守管理が火災防護上最 も重要であることが判った.また,ユニット 1 基当たりの年間火災発生件数から見ると,作業火災 は海外と国内ほぼ同じであるが,設備自体の火災は国内では海外の約 1/4 と少ない.これは,海外, 国内共に火気を使用する作業の管理は同程度であるが,設備については保守方法の違いによる差異 が出ていると推定される. キーワード 原子力発電所,災害,火災,傾向分析,作業火災,火災防護

Abstract We performed trend analyses to compare fire events occurring overseas (1995―2005) and in Japan (1966―2006). We decided to do this after extracting data on incidents (storms, heavy rain, tsunamis, fires, etc.) occurring at overseas nuclear power plants from the Events Occurred at Overseas Nuclear Power Plants recorded in the Nuclear Information Database at the Institute of Nuclear Safety System (INSS) and finding that fires were the most common of the incidents. Analyses compared the number of fires occurring domestically and overseas and analyzed their causes and the effect of the fires on the power plants. As a result, we found that electrical fires caused by such things as current overheating and electric arcing, account for over one half of the domestic and overseas incidents of fire, which indicates that maintenance management of electric facilities is the most important aspect of fire prevention. Also, roughly the same number of operational fires occurred at domestic and overseas plants, judging from the figures for annual occurrences per unit. However, the overall number of fires per unit at domestic facilities is one fourth that of overseas facilities. We surmise that, while management of operations that utilizes fire is comparable for overseas and domestic plants, this disparity results from differences in the way maintenance is carried out at facilities.

Keywords nuclear power plant, incident, fire, trend analysis, utilize fire, fire prevention

(2)

い.更にそう多くはないが,火災に伴う人的被害も 発生している.こうした状況を考慮し,海外と国内 の原子力発電所における火災事象の発生傾向などを 分析した. INSS では,継続的に海外の原子力発電所の不具 合情報を入手し,その情報で述べられている内容か ら得られる教訓の中で,国内の原子力発電所(主に 加圧水型炉(PWR))で対策を必要とする項目がな いか分析し,必要により提言まで行っている. 本研究では海外と国内の原子力発電所における火 災事象について傾向分析を行い,今後の火災防護上, 教訓となることはないかについて検討した.特に, (1)火災発生個所(設備自身と作業火災),(2)プラ ント運転状況とプラントへの影響,(3)人的被害, (4)火種と燃焼した可燃物,(5)火災原因,(6)消 火活動について詳細に分析し,海外と国内の比較を 行った.また,特に米国原子力規制委員会の報告書 (1)については別に調査し,国内の火災事象との比較 も行った.

2.

傾向分析

2.1

原子力発電所の火災事象分析

2.1.1 分析対象とその抽出 海外の原子力発電所について,INSS の原子力情 報データベースに登録されている 1995 〜 2005 年 (11 年間)の事象のうち,災害対策基本法に明記さ れている災害(暴風,豪雨,豪雪,洪水,高潮,地 震,噴火,火災,爆発,津波,落雷)をキーワード として不具合事象を抽出した.不具合発生件数の結 果を図 1 に示す.その中では火災が全体の 65%を占 め,最も多い.海外原子力発電所における火災事象 の不具合件数は合計 167 件でその内訳は,米国 125 件,英国 10 件,ウクライナ 6 件,仏 5 件,カナダ 3 件,ハンガリー 3 件,ベルギー 3 件,その他 12 件で あり,これを分析した. また,国内の原子力発電所について「火災,爆発, 火傷」のキーワードで,原子力施設情報公開ライブ ラリー(NUCIA)(2)に掲載されている国内トラブル 情報検索を行った結果,1966 年から 2006 年までに 51 件の報告が抽出された.このうち原子力発電所に おける火災事象の不具合は 43 件であり,これについ て分析した. 2.1.2 火災発生個所 海外の原子力発電所で,実際に火災が発生した不 具合(167 件)の火災発生個所の分類を図 2 に示す. この図から見て設備自体の火災が約 76%,作業火災 (溶接,切断等)が約 16%を占めている.設備自体 の火災では,変圧器火災が最も多く,内部故障等に より破裂して絶縁油火災に至るケースがほとんど全 てあり,国内原子力発電所では経験がない事象であ る.全体として主に電気設備で発生している.また 2 番目に多く保温材火災が発生しており,これは含 油設備からの油漏れにより周辺保温に油がしみこん で配管熱等により自然発火したものである.作業火 災は,火気を使用する溶接,切断等で発生する火種 により,周辺の可燃物に引火したものである. 国内の原子力発電所で発生した火災(43 件)の火 災発生個所分類を図 3 に示す.設備自体の火災は約 40%を占め,電源盤,制御盤に最も多く(7 件)発 生しており,次に保温材火災となっているが,これ は変圧器,モータを除けば海外と同じ傾向にある. 盤火災は海外,国内共に外部要因による影響で電気 部品(コイル,コンデンサ等)が発火したものが多 く,経年劣化だけではないことが特徴である.作業 火災は約 48%を占め,海外と同じくほとんど全てが 溶接,切断等による火災である. 火災発生個所において,海外(主に米国)が国内 に比べて作業火災割合が少ない理由は,保守方法の 見直しにより信頼性重視保全手法が導入(3)され,状 図 1 災害に関する海外原子力発電所不具合事象の発生 割合 高潮, 2件, 1% 豪雪, 2件, 1% 津波, 3件, 1% 落雷, 4件, 2% 地震, 11件, 4% 洪水, 12件, 5% 豪雨, 14件, 5% 爆発, 42件, 16% 噴火, 0件, 0% 火災, 167件, 65%

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図 2 海外原子力発電所の火災発生個所の分類 火災発生箇所の内訳 N=167件 そ の他, 14件, 8% 作業火災, 27件, 16% 設備自体, 126件 , 76% 火災発生箇所内訳(設備自体) N=126件 27 17 17 9 9 7 7 5 5 4 4 2 2 2 1 1 1 1 5 0 5 10 15 20 25 30 変圧器 保温材 モー タ ケ ー ブ ル 制御盤 発電機 遮断器 励磁器 ポン プ 電源盤 バ ス ダ ク ト 空調 蓄電池 E D G 塗装 ク レ ー ン ボ ン ベ 室 消火用 D G そ の 他設備 件数 火災発生箇所内訳(作業火災) N=27件 8 7 5 3 2 2 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 切断 溶接 研削 仮設 ケ ー ブ ル 仮設電気 ヒ ー タ 点検作業 件 数 図 3 国内原子力発電所の火災発生個所の分類 火災発生箇所の内訳 N=43件 その他, 5件, 12% 作業火災, 21件, 48% 設備自体, 17件, 40% 火災発生箇所件数内訳(設備自体) N=17件 4 3 2 2 1 1 1 1 1 1 0 1 2 3 4 5 電源盤 制御盤 保温材 バ ス ダ ク ト 配管 クト 潤滑油 ィル タ 空気予熱器 その 他設備 件数 火災発生箇所件数内訳(作業火災) N=21件 9 3 2 2 5 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 溶接 仮設ケーブル 仮設分電盤 研削 その他作業 件数

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態基準保全を優先し,時間計画保全の作業量を減少 させることにより作業による故障率を減らしてきた 経緯があり,以前に比べると作業量自体減ったこと が関与していると推定できる.また,海外で設備火 災が多く,特に変圧器火災が多発している一因には 状態基準保全の導入により,変圧器,回転機(モー タ,ポンプ)に点検周期を定めない発電所が有るこ と等から保守不良が推定できる.逆に国内では,主 に時間計画保全により定期的に点検が実行されるた めに,経年劣化による火災が非常に少ないことが影 響していると推定できる. 図 4 にユニット 1 基当たりの年間火災発生件数 (国内は 54 基,海外は全体の 75%が米国のため 103 基 と し,期 間 は 1995 〜 2005 年(11 年 間)の デ ー タ)を示す.国内の発生件数は海外の約 1/2 であり, 作業火災についてはほぼ同じであることが分かる. これは,海外,国内共に火気を使用する作業管理が 同程度であることが伺える.また,設備自体の火災 は海外の約 1/4 であり,時間計画保全の良さを示し ていると考えられる. 2.1.3 火災発生時のプラント運転状況およびプラ ントへの影響 海外の原子力発電所において火災発生時のプラン トへの影響を図 5 に示す.海外では運転中の火災が 約 51%を占め,設備の火災が多いことが特徴であ る.運転中に保守を実施しているが,運転中の作業 火災は非常に少ないと言える.火災による運転中プ ラントへの影響については,変圧器等の主電源が喪 失することなどにより約 44%が原子炉トリップに 図 5 火災発生時のプラントへの影響(海外) 火災発生時のプラント状態 記載なし, 50件, 30% 停止中, 31件, 19% 運転中, 86件, 51% プラントへの影響内訳  N=86件 影響なし, 36件, 42% 発電停止, 1件, 1% EDG始動, 1件, 1% タービント リップ, 3件, 3% 出力低下, 8件, 9% 原子炉ト リッ プ , 37 件, 44% 火災発生個所内訳 設備自体 16 件 設備自体 77 件 作業, 9 件 作業, 15件 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 運転中 停止中 図 4 ユニット(1 基・年)の火災発生件数 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 国内 米国 件 数 /基 ・ 年 その 他 作業 設備自体

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至っており,その影響が非常に大きいことが分かる. 国内の火災発生時のプラントへの影響を図 6 に示す. 海外とは逆に停止中の火災が約 70%を占め,海外に 比べ作業火災割合が非常に多いことが特徴である. また,運転中の火災は 30%で,主に電気盤内の部品 損傷やケーブル損傷による小火災であり,プラント に影響するような重要設備の火災は 1 件(1967 年, 東海 2 号,ガス循環機室潤滑油フィルター油噴出火 災)のみである. 2.1.4 火災による人的被害 原子力発電所における火災による人的被害の分類 を図 7 に示す.海外では 15 件(全体の 9%)の人的 図 6 火災発生時のプラントへの影響(国内) プラントへの影響内訳  N=13件 影響なし, 12件, 92% 自動停止 1件, 8% 火災発生時のプラント状態 N=43件 停止中, 30件, 70% 運転中, 13件, 30% 火災発生個所内訳 設備自体 11件 設備自体 6件 作業, 15件 作業, 6件 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 運転中 停止中 図 7 火災による人的被害の分類 海外の人的被害の内訳 N=15件 火傷, 8 死亡, 1 熱による疲 れ, 1 裂傷, 1 墜落, 1 軽傷, 1 打撲傷, 1 煙吸入, 1 国内の人的被害の内訳 N= 8 件 火傷, 6 煙吸入, 1 死亡, 1

(6)

被害が発生し,約半分が火傷である.死亡 1 件(切 断火花が作業服に引火)を含んでいる. 国内では 8 件(全体の 19%)の人的被害が発生 し,その多くが火傷で,死亡事故は 1 件(熱油によ る全身火傷)であるが,発生割合を考慮すると国内 の方が人的被害に関して注意し,対策を立てる必要 があると考える.また,海外の人的被害は作業およ び消火活動時に発生しており,作業による火災発生 原因は保守不良(計画不良又は作業者過誤)による もので,作業管理が非常に重要であり,更に,後述 する消火活動に関する分析から,自衛消防隊の十分 な消火訓練実施が肝要であることが分かる. 2.1.5 火種および燃焼した可燃物 原子力発電所の火災事象について火種の分類を図 8 に示す.海外では電流過熱(短絡,地絡等による 大電流,回路の接触抵抗増加),電気アークなどの電 気に起因する火種が全体の 53%を占め,国内もこれ によく似ていることから,作業工具を含めた電気設 備の保守管理が火災防護上,重要であることが分か る.また,作業で使用する溶接機等の作業工具に起 因 す る 火 種 の 種 類 は 同 じ で あ る が,割 合 は 海 外 (6%),国内(20%)と国内の方が多いことが特徴で ある.これは火気を使用する作業では,海外(米国) においては火災に関する教育・訓練を受けた者を選 任し監視させている事に対し,国内では請負仕様書 図 9 火災の可燃物分類 海外火災の可燃物の内訳 N=167件 記載な し , 14 件, 8% そ の 他, 44件, 26% 燃料油, 2件, 1% 絶縁材, 3件, 2% 塗装, 3件, 2% 水素ガ ス , 8 件, 5% 潤滑油, 11件, 7% コ イ ル, 14件, 8% ケー ブ ル , 15 件, 9% 含油保温材, 16件, 10% 絶縁油, 17件, 10% 電気部品, 20 件, 12% 国内火災の可燃物の内訳 N=42件 記載な し , 5件, 12% そ の他, 8件, 18% 水素ガ ス , 1 件, 2% コイル, 1件, 2% ガス, 2件, 5% 絶縁材, 2件, 5% 潤滑油, 2件, 5% 塗装, 3件, 7% 電気部品, 3 件, 7% 養生シート類, 4件, 10% 溶剤, 4件, 10% ケー ブ ル , 7 件, 17% 図 8 火災の火種分類 海外火災の火種内訳 N=142件 その他作業, 12件, 8% 溶接スラグ, 2件, 1% 切断スラグ, 2件, 1% 溶接火花, 2件, 1% 研削アーク, 2件, 1% 切断火花, 3件, 2% 電気アーク, 2件, 1% 電流過熱, 6件, 4% その他設備, 8件, 6% エンジン過熱, 2件, 1% ポンプ過熱, 4件, 3% 静電気, 4件, 3% 摩擦熱, 5件, 4% その他過熱, 8件, 6% 配管過熱, 12件, 8% 電気アーク, 18件, 13% 電流過熱, 50件, 35% 設備自 体火災 作業火 災 国内火災の火種内訳 N=41件 そ の 他作業, 3 件, 7% 切断火花, 2件, 5% 溶接ス ラ グ, 2 件, 5% 過熱, 2件, 5% 化学反応熱, 2 件, 5% 高温ガ ス , 2件, 5% 電気ア ー ク , 2 件, 5% 溶接火花, 4件, 10% 電流過熱, 5件, 12% そ の 他設備, 3 件, 7% 化学反応熱, 1 件, 3% 静電気, 1件, 2% 高温ガ ス , 2件, 5% 電気ア ー ク , 3 件, 7% 電流過熱, 7件, 18% 作業 火災 設備 自体 火災

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により作業工具や材料により有資格者を専任して管 理しており,火災専任の監視者がいない事が影響し ていると考えられる. 次に火災で燃焼した可燃物の分類を図 9 に示す. 海外では,火災発生個所に電気設備が多いことから, 可燃物のうち電気部品(ケーブル,コイルを含む) が全体の約 29%で最も多く,また変圧器の絶縁油, 油配管の含油保温材などの油関連設備で多発してい ることが特徴である.国内では,作業用材料(溶剤, 養生シート,塗料)が全体の約 27%を占め,次に電 気部品に多い.これは前出のように,作業火災が設 備自体の火災よりも多いことと符号している. 2.1.6 発生個所(設備自体および作業火災)の火 災原因 原子力発電所火災発生個所(設備自体,作業火災) 別の原因分類(4)を図 10 に示す.設備自体の原因内 訳 で は,運 用(保 守 不 良,運 転 不 良)お よ び 設 備 (設計,製造,施工不良,経年劣化)に関する原因が ほぼ半分ずつを占めており,差異として海外では 「運用>設備」に対して国内では「運用<設備」に なっている.作業火災の原因内訳では,運用に関す る原因が海外,国内共に約 90%以上を占め,よく似 ている.次に設備自体別の原因分類を図 11 に示す. 設備に関する原因については海外が「経年劣化」が 全体の約 53%を占め,これに対して国内では「設計 不良」が約 55%を占め,経年劣化は 9%しかない. これは国内では時間計画保全により劣化するまでに 修理又は取替が実施されているためと推定できる. また,運用に関する原因については海外で運転不良 が 8%を占めているがそれ以外は全て海外,国内共 に保守不良(計画不良と作業員過誤)が原因になっ ている. 次に作業火災別の原因分類を図 12 に示す.運用に 関する原因内訳は全て保守不良であり,海外,国内 共に全体の約 90%を計画不良と作業員過誤で占め, 酷以しており,作業管理が非常に重要であることが 分かる. 図 10 海外と国内火災の原因分類(設備自体と作業火災) 海外火災の原因(設備自体) N=106件 設備, 45件, 42% 運用, 61件, 58% 国内火災の原因(設備自体) N=19件 設備, 11件, 58% 運用, 8件, 42% 海外火災の原因(作業火災) N=22件 運用, 22件, 100% 設備, 0件, 0% 国内火災の原因(作業火災) N=19件 設備, 1件, 5% 運用, 18件, 95%

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図 11 海外と国内火災(設備自体)の原因分類 海外火災設備原因(設備自体)の 内訳 N= 45 件 施工不良, 4件, 9% 製造不良, 5件, 11% 設計不良, 12件, 27% 経年劣化, 24件, 53% 国内火災設備原因(設備自体)の 内訳 N= 11 件 施工不良, 1件, 9% 製造不良, 3件, 27% 設計不良, 6件, 55% 経年劣化, 1件, 9% 国内火災運用原因(設備自体)の 内訳 N= 8 件 計画不良, 6件,75% 作業員過誤, 2件, 25% 海外火災運用原因(設備自体)の 内訳 N= 61 件 操作者過誤, 3件, 5% 計画不良, 2件, 3% その他, 1件, 2% 軽微想定外 不良, 4件,7% 周辺状況不 良, 3件, 5% 作業員過誤, 22件, 36% 計画不良, 26件, 42% 運転不 良 保守不良 保守不良 図 12 海外と国内火災(作業火災)の原因分類 海外火災運用原因(作業火災)の内訳 N=22件 周辺状況不良, 1件, 5% 作業員過誤, 7件,32% 計画不良, 14件, 63% 保守 不良 保守 不良 国内火災運用原因(作業火災)の内訳 N=16件 作業員過誤, 5件,31% 計画不良, 9件, 56% 軽微想定 外不良, 2件, 13%

(9)

図 13 海外の消火活動に関する要員,時間,方法の分類 消火要員の内訳 N=130件 発見者 21% 運転員 20% 自衛消防隊 45% 消防署 14% 消火方法の内訳 N=49件 自然鎮火, 3件, 6% 消火装置, 7件, 14% 水, 10件, 20% 隔離, 停止, 13件, 27% 消火器, 16件, 33% 消火時間の内訳 N=29件 3分以内 17% 10分以内 10% 30分以内 39% 1時間以内 14% 10時間 以内 17% 24時間 以内 0% 24時間 超過 3% 図 14 国内の消火活動に関する要員,方法の分類 消火要員の内訳 N=41件 発見者 44% 運転員 32% 自衛消防隊 12% 消防署 12% 消火方法の内訳 N=20件 消火器, 13件, 65% 隔離, 停止, 2件,10% 水, 1件, 5% 消火装置, 2件,10% 自然鎮火, 2件,10%

(10)

2.1.7 消火活動に関する要員,時間および方法 海外の原子力発電所における火災消火活動に関す る要員,時間および方法の分類を図 13 に示す.自衛 消防隊による消火活動の割合が 45%を占めており, 変圧器火災等の比較的大きな火災でも対応している. また,30 分以内に消火した事例が 66%を占めてお り,自衛消防隊の消火能力が優れていることが分か る.消火方法では水(放水)が 20%を占めており, 最終的に消火材として水が効果的であることを示し ている.火災時には,早期に放水可能かどうかの判 断が問われるため,自衛消防隊はかなりよく訓練さ れていると考えられる.また,隔離,停止が 27%を 占め,運転員の初期対応の重要性が分かる.海外 (米国)の自衛消防隊は運転直とは別に消防専任直員 5 名による 24 時間体制で対応(5)していることがこの データに現れていると考える. 国内の火災消火活動に関する要員,方法の分類を 図 14 に示す.消火時間に関するデータはなかったの で海外と比較しにくいが,消火要員の約 76%を発見 者と運転員が占め,また消火器による消火が全体の 約 65%を占めており,比較的小規模な火災が多かっ たことが分かる.水を使用した事象は 1 件だけで, 消防署の指示により実施されたものである.自衛消 防隊による消火が約 12%(5 件)と少ないことも国 内の特徴である.これは,規制文書の差異により, 米国の方が自衛消防組織(消防専任直員 5 名による 24 時間体制)や訓練(4 回/年以上)に関する遵守 事項が厳しい内容になっているためで,結果として 米国に比べ国内の自衛消防隊の能力が低いと考える.

2.2

米国原子力発電所の火災事象件数

米国原子力規制委員会原子炉規制局リスク分析部 門 が 2002 年 に 発 行 し た「火 災 事 象:1986 年 か ら 1999 年にかけての米国運転経験」(1)に示された火災 事象件数を図 15 に示す.このデータは異常事象報告 書の他に,米国電力研究所(EPRI),原子力保険会 社のデータが含まれており,14 年間全体で 342 件 (運転中 156 件,停止中 186 件)が発生し,年間当た りの事象数は約 24 件 / 年で,INSS の海外情報デー タベースによる火災事象数,約 15 件 / 年(11 年間 で 167 件)より多くなっている. NUCIA に掲載されている国内トラブル情報数, 約 1 件 / 年の火災事象数から考えると,発電所数 (米国 103 基,国内 55 基)を考慮しても,米国で原 子力発電所の火災が多く発生しており,火災防護が 重要であるかが認識できる.なお,1985 年以前の デ ー タ を 除 外 し て い る 理 由 は,1975 年 3 月 に Browns Ferry1 号 機 大 火 災 を 経 験 し,1985 年 に 「10CFR50 Appendix R」1979.1.1 以前に運転開始の 原子力発電施設に対する火災防護計画が履行されて, これ以降,設備設計,運用方法に厳しい規制が適用 され,産業界のプラント設計が大きく変更されたた 図 15 1986 〜 1999 年の米国原子力発電所の火災事象件数(文献(1) 合計 342件 11 18 29 13 8 9 10 8 13 5 7 8 8 9 11 28 27 6 4 3 4 20 26 13 18 7 9 10 0 10 20 30 40 50 60 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 西暦(年) 件 数 停止中 運転中 米国電力研究所データが 反映されていない期間 1988年に比べると94 年以降は減少している

(11)

めである.また,1989 〜 1992 年は EPRI のデータ が入手できなかったため,少なくなっている. 全体として新規制適用以降,一時的に発生件数が 増加しているが,1988 年のピーク時に比べると 1995 年から発生件数が減少しており,規制の効果が現れ ていると考える. 国内の発生件数傾向はデータが非常に少ないため 傾向をつかむことはできない.

3.

まとめ

(1) 海外の原子力発電所では設備自体の火災が約 76%,作業火災(溶接,切断等)が約 16%を 占める.設備自体の火災では,変圧器火災が最 も多く,国内原子力発電所では経験がない事象 である.全体として主に電気設備で発生してい る.国内の原子力発電所では,設備自体の火災 は約 40%を占め,電源盤,制御盤に最も多く 発生しており,次に保温材火災となっている. これは変圧器,モータを除けば海外と同じ傾向 にある.作業火災は約 48%を占め,海外と同 じくほとんど全てが溶接,切断等による火災で ある. (2) 海外では運転中の火災が約 51%を占める.こ れとは逆に国内では停止中の火災が約 70%を 占め,作業火災割合が非常に多いことから,保 守方法の差異が影響していると推定できる.し かしながら,ユニット 1 基当たりの年間火災発 生件数における作業火災件数はほぼ同じである ことから,海外,国内共に火気を使用する作業 管理レベルが同程度であることが分かった.ま た,設備自体の火災は海外の約 1/4 であり,時 間計画保全により経年劣化による火災が少ない ことを示していると考えられる. (3) 海外では 15 件(全体の 9%)の人的被害が発 生し,約半分が火傷である.国内では 8 件(全 体の 19%)の人的被害が発生し,その多くが 火傷であるが,発生割合を考慮すると国内の方 が人的被害に関して注意し,対策を立てる必要 があると考える. (4) 海外では,火災発生個所に電気設備が多いこと から,可燃物のうち電気部品(ケーブル,コイ ルを含む)が全体の約 29%で最も多く,また 変圧器の絶縁油,油配管の含油保温材などの油 関連設備で多発していることが特徴である.国 内では,作業用材料(溶剤,養生シート,塗 料)が全体の約 27%を占め,次に電気部品に 多い.これは,作業火災が設備自体の火災より も多いことと符号している. (5) 設備に関する原因については海外では「経年劣 化」が全体の約 53%を占め,これに対して国 内では「設計不良」が約 55%を占め,経年劣 化は 9%しかない.これは国内では時間計画保 全により劣化するまでに修理又は取替が実施さ れているためと推定できる.また,運用に関す る原因については海外,国内共に保守不良(計 画不良と作業員過誤)が原因になっている. (6) 海外の原子力発電所における火災消火活動に関 しては,自衛消防隊による消火活動の割合が 45%を占め,変圧器火災等の比較的大きな火災 でも対応している.また,30 分以内に消火し た事例が 66%を占めており,自衛消防隊の消 火能力が優れていることが分かる.国内では, 消火要員の約 76%を発見者と運転員が占め, また消火器による消火が全体の約 65%を占め ており,比較的小規模な火災が多く,自衛消防 隊による消火が約 12%と少ない. 以上

文献

(1) Division of Risk Analysis and Applications Office of Nuclear Regulatory Research U. S NRC, 「Fire Events-Update of U.S. Operat-ing Experience, 1986-1999」, 2002 年 1 月 (2) 国内原子力技術協会,原子力施設情報公開ライ ブラリー,http://www.nucia.jp/(2005 年 12 月 7 日現在). (3) 電力中央研究所,「米国原子力発電所における 保守方式の特徴」,2001 年 8 月 (4) 宮崎 孝正,「経年劣化と人的過誤を取り入れ た原子力発電所不具合事象の新しい原因分類 法」,INSS JOURNAL Vol.13, p261 (2006). (5) Sequoyah Nuclear Plant (SQN) Fire

Protec-tion Report Part2-Fire Protection Plan (Rev11), 2001 年 2 月

図 2 海外原子力発電所の火災発生個所の分類火災発生箇所の内訳 N=167件 そ の他,14件, 8%作業火災,27件, 16%設備自体,126件 ,76% 火災発生箇所内訳(設備自体) N=126件 2717 179 97 75 54 4 2 2 2 1 1 1 1 5051015202530変圧器 保温材 モータケーブル制御盤 発電機 遮断器 励磁器 ポンプ電源盤 バスダクト空調 蓄電池 EDG塗装 クレーンボンベ室 消火用DGその他設備 件数 火災発生箇所内訳(作業火災) N=27件 87532201
図 11 海外と国内火災(設備自体)の原因分類海外火災設備原因(設備自体)の 内訳 N= 45 件 施工不良,  4件, 製造不良, 9% 5件, 11%設計不良,  12件,  27%経年劣化,  24件,  53% 国内火災設備原因(設備自体)の 内訳 N= 11 件 施工不良,  1件, 9%製造不良,  3件, 27% 設計不良,  6件, 55%経年劣化,  1件, 9%国内火災運用原因(設備自体)の 内訳 N= 8 件  計画不良,  6件,75%作業員過誤,  2件, 25%海外火災運用原因(
図 13 海外の消火活動に関する要員,時間,方法の分類消火要員の内訳 N=130件 発見者 21%運転員 20%自衛消防隊 45%消防署 14%消火方法の内訳 N=49件 自然鎮火,  3件, 消火装置,  6%7件, 14%水, 10件, 20%隔離, 停止,  13件, 27%消火器, 16件, 33% 消火時間の内訳 N=29件 3分以内 17% 10分以内 10%30分以内 39%1時間以内 14%10時間 以内 17%24時間 以内 0%24時間 超過 3% 図 14 国内の消火活動に関する要員,

参照

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