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市民参加に対する行政組織の認識と態度-香川大学学術情報リポジトリ

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市民参加に対する行政組織の認識と態度

.は じ め に

行政国家の成立以降,政治・行政学において主な問いの一つが官僚組 織によって行われる公共政策過程に市民をいかに関与させるかであり (Stivers : ),これは官僚制とデモクラシーの両立可能性に関わる ものである。行政改革を進める際,一般に市民参加⑴は政府の透明性を高め るとともに官僚組織のアカウンタビリティーを向上する,重要な手段とし て認識されてきた(King and Stivers )。さらに,近年ガバナンスへの シフトが深化されている状況の下で公共政策過程での市民参加の拡大は不 可欠となりつつある。これらの現実的な要請はともかく,市民参加は民主 主義の維持・増進に対する民主的な政府のもつ当為的な責務ともいえる (King, Feltey, and Susel ; Nabatchi )。このような現実的な要請と

! 市民参加については「公職を持たない市民が実質的な決定権について公職者と共有 しながら,コミュニティに関連する行為」(Roberts : − ),「市民が地域的公共 的課題の解決に向けて,行政や社会等に対して何らかの影響をあたえようとする行 為」(佐藤 : − ),「政府の意思決定とサービス供給に対する市民の自発的な関 与」(Langton : − )など多岐にわたる定義が行われている。これに対して本 稿の主たる関心が行政組織の認識に置かれていることから,本稿では行政上の目的に 関わる参加活動に限定し,「行政への市民参加」とする。

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当為的な責務を背景とし,市民参加は政府レベルを問わず勧められてお り,関連する多様な制度的な仕組みが工夫されてきた。 しかし,こうした努力にもかかわらず,市民参加の導入・実施に対して 多くの行政職員は,ためらう態度を示しているのが現状でないかと思われ る。たとえば,本稿の調査データによれば(図 ),「市民参加は,できる 限り多くの政策領域や部署で作用されるべきである」という意見に対して は, .%の職員が賛成を示している。また, .%の職員が「どちらと もいえない」と回答し, .%の職員が反対している。すなわち,多数の 職員とまではいえないが,約半数の職員が政策過程における市民参加の導 入について前向きな態度を示していることがわかる。 これに対して「市民参加は仕事の効率性を損なわない範囲で実施される べきである」という意見では,賛成が .%で反対の .%を大きく上 回っていることがわかる。すなわち,市民参加には賛成するものの,行政 の効率性を損なわない範囲でという条件付きという認識が目立つ。 さらに,「市民参加は,できる限り多くの政策領域や部署で作用される べきである」という意見に対して賛成を示した職員としても,そのうち .%の職員が「市民参加は仕事の効率性を損なわない範囲で実施される べきである」に対して賛成している⑵。これらの集計結果からすれば,多く の職員が市民参加の必要性を認めながらも実際の仕事レベルではためらう という,市民参加に対して異なる意見が混在し相反する態度(ambivalent attitude)を示しており,いわば「規範賛成・現実控え目」もしくは「条件 付き賛成」という認識を有しているといえる⑶。 ! 逆に「市民参加は仕事の効率性を損なわない範囲で実施されるべきである」の意見 に対して賛成の職員のうち, .%の職員が「市民参加は,できる限り多くの政策領 域や部署で作用されるべきである」の意見に対して賛成を示した。 " これらの傾向は,NPO との協働に対する職員調査(小田切・新川 )において もみてとれる。すなわち,NPO との協働事業に関して「積極的に進めたい」と回答 した職員が .%にとどまっており,「機会があれば進めたい」( .%),「どちらと もいえない」( .%)など,協働に対してやや消極的な姿勢が示されたのである。

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47.1 37.7 15.3 57.2 27.6 15.2 0 10 20 30 40 50 60 70 賛成 どちらともいえない 反対 市民参加は,できる限り多くの政策領域や 部局で採用されるべきである 市民参加は仕事の効率性を損なわない範囲 で実施されるべきである 54.9 25.9 19.1 賛成 どちらともいえない 反対 「多くの政策領域や部局で採用されるべき」の賛成(N=162) ×「効率性を損なわない範囲で実施」 このような実態の背景にはいかなるものがあるだろうか。一般に市民参 加を進める際,制度設計,推進,評価等のすべての過程において行政職員 の役割は非常に大きく,市民参加に対する行政の理解も行政主導の諸事業 への参加に偏っている(関谷 : )。この現状を鑑みれば,行政組 市民参加に対する自治体職員の態度

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織において市民参加のもつ規範的な価値が認められたとしても,市民参加 に対する行政職員の懐疑的な認識は市民参加の形骸化を促す恐れがある (Kweit and Kweit : ; Kingm, Feltey and Susel : ; Yang : )。しかし,市民参加に対して行政組織がどのような認識をもち, 職員の動機づけとは何かについては十分な検討が行われていないのが現状 である⑷。 そこで本稿では,市民参加に対する行政職員の認識構造を明らかにする ため,自治体職員を分析対象とし,それらを規定するファクターを考察す ることにしたい。具体的には,まず,市民参加に対する行政職員の認識に ついて,官僚制のもつ目的合理性に着目し,データによる抽出を試みる。 次に,行政職員の認識を規定する要因を明らかにする。とりわけ,本稿で は職員の基本属性を含む統制変数に加えて,市民に対する信頼と市民参加 型事業に対する評価を挙げて分析を行うことにする。最後に,これらの分 析結果から得られる示唆点について論じることにしたい。 本稿で用いられる調査データは, 年に香川県の高松市とさぬき市 の職員を対象として行ったものである。調査では各市の局部に調査依頼を 行い,最終の回収率は高松市が .%( 部配布)で,さぬき市が .% ( 部配布)である⑸。

.行政職員の相反する態度と目的合理性

市民参加に関して多くの研究者は公共政策過程に対する市民の関与が規 範的に望ましく,市民と共同体においても重要な教育的効果をもつと考え ! 市民参加と行政職員の関係について従来の研究では,市民参加に対する行政の努力 として採用の水準(Koontz ; Wang ; Yang and Callahan )が代用されて いる。一方,市民参加に対する行政職員の意識を取り上げる研究は少ないが,Yang ( )と中谷( )が行政職員に対するアンケート調査の結果を用いて実証的な 分析を行った。彼らの場合,市民参加に対する行政職員の努力・選好が市民への信頼 に関わっていることを明らかにした。

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る(Neshkova and Guo : )。すなわち,「良きプロセスが良き市民 を作り出す」という指摘(Hart : )のように,市民参加は市民的 能力を向上し積極的な公共志向のモラルを促すので,政府は参加志向の仕 組みを設けなければならないという規範的な側面が強調される。 しかし な が ら,政 策 過 程 に お け る 権 力 の 分 配 及 び 共 有 を 強 調 し た Arnstein( )のいう市民参加の梯子からすれば,現状の市民参加の多く は象徴的もしくは形式的なものといわざるをえないかも知れない。その背 景には市民のもつ能力的な限界(Kathlene and Martin : − ),市民参

加に対する行政組織の懸念,参加ツールの限界などがあるが,そのうち官 僚制的な特徴を有する行政組織の姿勢は,公共政策過程における市民参加 の実効性を大きく左右すると考えられる。なぜならば,もともと参加志向 のデモクラシーと官僚制は異なる軌道をもつからである(Gawthrop : ; Nabatchi : )。すなわち,参加志向の民主的な手続きは,行 政の効率性を犠牲にしながら達成される側面をもつことに対して,官僚制 は行政の目標を達成するため,最も効率的な手段及び方法を求める,いわ ゆる M. ウェーバーの目的合理性によって考案されたものである。 目的合理性に関してウェーバー( : − )は社会的行為の類型 として論じている。ウェーバーによれば,社会的行為には,その動機に ! 調査対象の部局と配布・回収数は,以下のとおりであり,調査期間は 年 月 日− 月 日であり,分析に用いられるデータは 月 日時点で回収されたもの である。 高松市 局 配布 回収 さぬき市 部 配布 回収 市民政策局 総務部 総務局 市民部 財政局 健康福祉部 健康福祉局 建設経済部 環境局 上下水道部 創造都市推進局 教育委員会事務局 都市整備局 教育局 総計 総計

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よって感情的,伝統的,価値合理的,目的合理的という四つの行為がある とした。そのうち,合理的行為となるのは価値合理的行為と目的合理的行 為であるが,倫理,審美,宗教のような固有価値や信念によって規定され る価値合理的行為に対して目的合理的行為は,外界の物事や他の人間の行 動を期待することによって規定されて,その期待を結果として合理的に追 求され考量された自分の目的を達成するための条件や手段として利用する ような行為とした。したがって,目的合理的行為は目的,手段および随伴 結果とのかねあいでその行為が方向づけられるのである。このような目的 合理的行為が典型的に表れるのが官僚制(行政組織)である。 行政組織における意思決定と行為は,それ自体の価値や意義を重視する 価値合理的なものというより,手続きの正当性とともに目的達成度に応じ てその妥当性が問われ,費用と効果の計算によって選択の行為が行われ る,手段としての目的合理的なものである。このことからすれば,行政組 織のもつ目的合理性は,参加志向の行政過程との緊張関係をもち,場合に よっては実質的な市民参加を妨げる可能性を含んでいるのである。 実際,行政組織では,政策過程における市民参加はそれ自体が望ましい から実行するという価値合理的な態度があると同時に,政策(行政)目的 の達成において市民参加がどの程度効率的な手段となるかという目的合理 的な態度が混在される。たとえば,政策過程に対して素人の市民の積極的 な関与を求めるには,関連の手続きを含めて情報提供と教育が必要となる ので行政的コストは増加する。それに対して市民参加の実施によって得ら れる政策的な効果は不確実なものである(関谷 : − )。さらに, 市民参加による意思決定の遅延,参加の低調,参加バイアスなども市民参 加に対する行政の懐疑的な態度をもたらすものとなる。その結果,市民参 加に対して行政職員がその規範的な価値を認めるとしても,実際の業務で は,目的合理性を重んじて市民参加に関わるコストとベネフィットを考慮 する行動がとられがちである。このように相反する態度が混在する現状は 先述したように,一般的な市民参加に対する自治体職員の調査データから

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もみてとれるのである。そこで,これらの二つの相反する認識構造につい て本稿では,主成分分析を通して確認する上で,それらに関わる規定要因 を検討することにしたい⑹。 表 の主成分分析の結果からすれば,「政策を形成するには専門的な知識 が必要であるため,直接的な住民の参加は望ましくない」,「時間やコスト の制約上,利害関係をもつ特定の集団を中心とする市民参加が望ましい」, 「市民参加は仕事の効率性を損なわない範囲で実施されるべきである」な どが第 成分に関わっており,市民参加に対して市民の専門性や時間・コ ストの制約,効率性等に関わる現実的な考慮を行う上で,限定的な市民参 加が望ましいという姿勢がみてとれる。したがって,本稿ではウェーバー の議論を踏まえて第 成分について目的合理性から導かれる「目的合理的 志向」とする。その志向が強い職員は,行政的コストに比べてその効果に ついて懐疑的であるゆえ,市民参加に対して条件付きもしくは控え目とい ! 本稿の調査項目は,市民参加に対する都道府県職員の意識を分析した中谷( ) の研究において用いられたものである。中谷( )の分析では,市民参加に対する 職員の意識を「効率的側面」と「規範的側面」とし,それに関わる規定要因を考察し た。これに対して本稿では,相反した認識構造を浮き彫りにするため,規範−現実と いう二つの軸を用いることにより分析を試みる。調査項目の集計結果は以下のとおり である。 項 目 そう思う そう思うやや どちらともいえない あまりそう思わない 思わないそう N 市民参加は,できる限り多くの政策領 域や部局で採用されるべきである . . . . . より多くの市民を行政に参加させるこ とに,自分の業務時間を使いたい . . . . . 政策を形成するには専門的な知識が必 要であるため,直接的な住民の参加は 望ましくない . . . . . 市民参加は形式的なものにならざるを えない . . . . . 時間やコストの制約上,利害関係をも つ特定の集団を中心とする市民参加が 望ましい . . . . . 市民参加は仕事の効率性を損なわない 範囲で実施されるべきである . . . . .

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う態度をとるのである。また,第 成分については「市民参加は,できる 限り多くの政策領域や部局で採用されるべきである」と「より多くの市民 を行政に参加させることに,自分の業務時間を使いたい」といったものが 関わっており,市民参加それ自体を重視するという態度であることから, 「価値合理的志向」とする⑺。

.「価値合理的志向」と「目的合理的志向」の規定要因

前述したように,市民参加に対する行政職員は「規範賛成・現実控え目」 の相反する認識を示している。この「現実控え目」という消極的な態度の 背景には,市民のもつ資質と専門性の欠如,無関心といった市民の能力に 対する評価・信頼と,参加過程上で生じうる 藤の増加,参加の公正さ, 実施のコストといった行政プロセス上での懸念等が考えられる。 そこで本稿では,市民に対する信頼と,市民参加型事業に対する評価を ! 回帰分析上では,各主成分の得点を反転した値を用いる。すなわち,各値が高いほ ど,その志向が強い。 項 目 価値合理的志向 目的合理的志向 市民参加はできるかぎり多くの政策領域や部 署で採用されるべきである −. . より多くの市民を行政に参加させることに, 自分の業務時間を使いたい −. . 専門的な知識が必要であるため,市民参加は 政策実施に限定すべきである . −. 市民参加は形式的なものにならざるをえない . −. 時間やコストの制約上,利害関係をもつ特定 の集団を中心とする市民参加が望ましい . . 市民参加は仕事の効率性を損なわない範囲で 実施されるべきである . −. 寄与率(%) . . 市民参加に対する自治体職員の態度(主成分分析,バリマック回転)

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説明変数とし,「価値合理的志向」・「目的合理的志向」との関係を検討 することにしたい。また,それに加えて行政職員の属性と自治体の規模を 統制変数として分析モデルに投入する。 ⑴ 市民に対する行政職員の信頼 多くの行政関係者は,市民参加を通して行政への信頼を高めようとする。 しかし,信頼が互酬的な特徴をもつことからすれば,行政に対する市民の 信頼は,行政のパフォーマンスだけで確保できず,市民に対する行政の 信頼も求められる。すなわち,両者間の信頼は不可分の関係となる(Yang : )。したがって,近年協働型事業においても市民と行政,市民同 士の共通の理解に基づく信頼関係の構築が強調されるのも不思議でなかろ う。その意味で,市民に対する行政職員の否定的なイメージは,市民参加 の効果的な実施を妨げる要因でもある。 従来の研究では,市民参加に対する行政の姿勢を規定する重要な要因 として市民に対する行政職員の信頼が用いられている。市民に対する行政 職員の信頼について Yang( : )は,市民が行政の目標もしくはパ フォーマンスに貢献できるよう行為を行うという確信とした。また,この ような信頼は,市民のもつ能力,誠実さ,慈善等に基づくものである。し たがって,中谷( : )も,市民に対する行政職員の信頼では,市 民が政策過程上で自らの役割を果たせる能力に対する期待と,市民として の責務と責任に対する期待が含まれるとした。中谷の分析では,これらの 期待を「市民の役割遂行能力に対する信頼」と「市民に対する一般信頼」 を合わせて「市民に対する信頼感」とし,市民参加に対する職員の選好と の関係を分析した結果,市民に対する信頼が高い職員ほど,市民参加に対 して積極的という結果が得られた。また,Yang( )の分析によれば, 市民に対する肯定的な評価 ⑻ と一般的な信頼が市民に対する行政職員の信頼 ! 市民に対する評価は,参加プログラムにおける市民の誠実さ,協調性に関わるもの である。

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を高めるという。 ただし,市民に対する職員の信頼と評価が,単なる市民に対する職員個 人のものにとどまることには警戒が必要である。なぜならば,現行の市民 参加で生じる問題がまるで市民側による,あるいは職員個人によるものと 置き換えられる恐れがあり,現在の参加制度に関する改善の余地も小さく なるからである。また,市民に対する職員の信頼が職員個人の一般的な信 頼,業務上での経験などから影響を受けることを考えれば,これらの背景 要因を統制する上で,その影響を検討する必要がある。 そこで,まず本稿においても Yang( )と中谷( )の調査項目 を援用することにするが,市民に対する職員の信頼がもつ影響をより明瞭 にするため,社会関係資本の研究で用いられる「社会的信頼」⑼を加えるこ とにしたい。職員の「社会的信頼」は,「市民に対する信頼」と関係しな がら,市民参加に対する肯定的な認識をもたらすと推察される(Yang : )。したがって,「社会的信頼」を統制する上で「市民に対する 信頼」の影響を確かめることにしたい。 上記の信頼に関わる各調査項目の集計結果をみると(表 ),一般住民 に対して多くの自治体の職員がやや否定的な認識を示していることがわか ! 社会的信頼に関してはパットナム( )と稲葉( )の議論を参照。 項 目 そう思う そう思うやや どちらともいえない あまりそう思わない 思わないそう N 一般の住民はあなたがしてい ることを理解していない . . . . . 規則などがあいまいなとき, 住民は自分の都合のよいよう に解釈する . . . . . 住民は必ずしも正直ではない . . . . . たいていの人は信頼できる . . . . . たいていの人は他人の役に立 とうとしている . . . . . 信頼に関わる集計結果 (%)

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る。たとえば,「一般の住民はあなたがしていることを理解していない」と いう意見に対して .%の職員が同意している一方,不同意が .%に とどまっている。なお,「規則などがあいまいなとき,住民は自分の都合 のよいように解釈する」と「住民は必ずしも正直ではない」では, .% と .%の職員がそれぞれ同意していることがわかる。 これに対して「たいていの人は信頼できる」という意見では, .%の 職員が同意しており,不同意が .%である。また,「たいていの人は他 人の役に立とうとしている」においても同意が .%で不同意が .% となり,総じて職員の一般信頼感は高いといえる⑽。 ⑵ 市民参加型事業に対する評価−行政的コストとベネフィット 続き,市民参加型事業に対する職員の評価は,市民参加に対する職員 の動機付けが規範的な価値もしくは温情的な同意というより,道具的ベ ネ フ ィ ッ ト か ら 強 く 影 響 さ れ る 点 で(Moynihan : ; Yang and Callahan : ),主要な説明要因となると同時に制度的な改善につな げる手がかりである。また,先述したように,これは職員の相反する態度 の背景となる目的合理性と深く関わるものであり,その判断材料は市民参 加の実施に伴う行政的コストとベネフィットとなるだろう。 行政組織が市民参加を制約する理由に関して関谷( : − )は, ①参加のバイアス②コストと効率性③議会との関係を取り上げる。そのう ち,市民参加に伴う行政的コストと効率性は行政職員にとって最も重要な 考慮要因であろう。実際,市民参加型事業の推進のため,行政は小さくな い行政的コスト ⑾ を投じることになる。参加制度の設計はともかく,市民に 対する呼びかけ,情報提供ならび説明,参加過程でのマネジメント等のす ! 一般市民に比べて行政職員は社会的信頼が高く利他的であり,市民的活動に積極的 であるという研究もある(Brewer )。 " 市民参加によって生じる行政的コストについて Moynihan( : )は,市民参 加の制度設計・案内・促進(Direct administrative costs)と政策決定過程の遅延(Decision process costs),政策決定の質(Decision outcome costs)などを挙げる。

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べての負担は行政職員が負わなければならない。しかしながら,投じられ る行政的コストに比べて得られる政策的効果は不透明なものといわざるを えない。したがって,市民参加の規範的な側面に対して賛成する職員とし ても,行政的コストとベネフィットの計算により,できる限り市民参加に よる機会費用を抑えようとする姿勢をもつのである。 一方,市民参加を通じて行政が得られるベネフィットはいかなるもので あろうか。これは市民参加の効果に関わるものであり,Nabatchi( ) によれば,参加そのものがもつ規範的なベネフィット以外に,市民,コ ミュニティと公共政策の道具的なベネフィットがあるという。そのうち, 公共政策(行政)に関しては市民の視点が取り入られることにより,政策 の正当性とアウトカムの向上が期待され(Irvin and Stansbury ),これ らを通じて市民満足,コンセンサスの確保,政府への信頼の向上が実現 される(Wang : − )というベネフィットがある。ただし,公 共政策においてこれらのベネフィットが実現されるには,参加過程への アクセスと討議の質が一定の水準で確保されなければならないという (Halvorsen )。 そこで本稿では,上記の議論を踏まえて,表 のように現状の市民参加 型事業に対する職員の評価を回答してもらった。各項目の集計結果をみる 項 目 そう思う やや そう思う どちらとも いえない あまりそう 思わない そう 思わない N 市 民 参 加 型 事 業 の 実 施 の た め,時間・エネルギーのコス トが高い . . . . . 市民参加型事業の場合,意思 決定が遅延されることが多い . . . . . 時間とエネルギーに比して政 策の効果は高くない . . . . . 行政と市民,市民同士の討議 は実際にほとんどみられない . . . . . 参加者は常に限定的であり, 偏っているのが現状である . . . . . 「市民参加型事業に対する評価」 (%)

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と,まず,「市民参加型事業の実施のため,時間・エネルギーのコストが 高い」に関しては .%(「そう思う」+「やや思う」)の職員が同意し ており,市民参加の実施にかかるコストについて負担が大きいことがみて とれる。また,意思決定の遅延についても懸念している職員が 割を上 回っている。一方,政策的効果や討議の質に関しては,賛成と反対の意見 が拮抗していることがわかる。これに対して「参加者は常に限定的であり, 偏っているのが現状である」の意見では, .%の職員が同意しており, 参加の低調と参加バイアスに関する懸念が多いことが明らかになった。 ⑶ 説明変数の作成 次に,上記の市民に対する信頼と,市民参加型事業に対する評価を用い て主成分分析を行った結果が表 である。分析結果からすれば,第 成分 には,「時間とエネルギーに比して政策の効果は高くない」,「行政と市 民,市民同士の討議は実際にほとんどみられない」,「参加者は常に限定的 であり,偏っているのが現状である」など,先述の道具的ベネフィットに 関わっていることがわかる。これらの結果を踏まえて第 成分を「市民参 加型事業のベネフィット評価」とする。これに対して第 成分では「市民 参加型事業の実施のため,時間・エネルギーのコストが高い」と「市民参 加型事業の場合,意思決定が遅延されることが多い」が関わり,市民参加 型事業の実施過程でのコストを示しているので,第 成分を「市民参加型 事業のコスト評価」⑿としたい。 一方,第 成分には「一般の住民はあなたがしていることを理解してい ない」,「規則などがあいまいなとき,住民は自分の都合のよいように解釈 する」,「住民は必ずしも正直ではない」が関わっており,第 成分には, 「たいていの人は信頼できる」,「たいていの人は他人の役に立とうとして いる」が関わることがわかる。これらの結果を受けて本稿では,第 成分 ! 回帰分析上では,各主成分の得点を反転した値を用いる。すなわち,値が高いほ ど,市民参加型事業の実施にかかる費用が高いと評価する。

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を「市民に対する職員の信頼」とし,第 成分を職員の「社会的信頼」⒀と する。 ⑷ 自治体の規模 最後に,統制変数のうち,自治体の規模について触れておきたい。一般 に市民参加は中央政府よりも,さらに広域自治体よりも規模の小さい自治 体において有効に機能するといわれる(Peters : )。これに対して 規模の大きい自治体ほど,市民参加が生じやすいという分析結果もみられ ており,それは政府からの距離が離れている市民が公共政策過程に参加し ! 回帰分析上では,主成分の得点を反転した値を用いる。すなわち,値が高いほど, 社会的信頼が高い。 項 目 第 成分 第 成分 第 成分 第 成分 市民参加型事業の ベネフィット評価 市民参加型事業 のコスト評価 市民に対する 信頼 社会的信頼 市民参加型事業の実施のため,時間・ エネルギーのコストが高い −. . . . 市民参加型事業の場合,意思決定が遅 延されることが多い . . −. −. 時間とエネルギーに比して政策の効果 は高くない . . . −. 行政と市民,市民同士の討議は実際に ほとんどみられない . −. −. . 参加者は常に限定的であり,偏ってい るのが現状である . . . . 一般の住民はあなたがしていることを 理解していない . −. . −. 規則などがあいまいなとき,住民は自 分の都合のよいように解釈する . . . −. 住民は必ずしも正直ではない . . . −. たいていの人は信頼できる −. . −. . たいていの人は他人の役に立とうとし ている . −. −. . 寄与率(%) . . . . 説明変数(主成分分析,バリマック回転)

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ようとする傾向があるからである(Wang )。しかし,市区町村職員

のガバナンス意識について実証分析を行った山本( b)の分析によれ

ば,人口規模と職員の参加志向との関係は明らかでない。

ただし,規模の大きい自治体の方が多くの市民的リソースを有している 傾向⒁からすれば,自治体の規模は市民的リソースを経由し行政職員の認識 に影響を与えると考えられる。市民的リソースに関して Kweit and Kweit

( )は,豊かな市民的リソースが市民参加に対する行政職員の受容性 (bureaucratic tolerance)を高めると指摘する。すなわち,市民参加に関わ る制度設計を行う際,行政職員は効果的な市民参加に相応しい条件として 市民的リソースを考慮しながら,市民参加を受け入れるのである。 本稿の調査対象となる高松市とさぬき市は,人口規模において大きな違 いがある。高松市は約 万の人口を有している中核市である一方,さぬ き市の場合, 年に 町の合併によって市制となった 万程度の小都 市である。また,両市における人口規模の違いからすれば,さぬき市に比 して高松市の方が多くの市民的リソースを有していると推察できる。実 際,人口 万人あたり NPO 法人数をみると,高松市が . であることに 対してさぬき市は . で少ない⒂。これらの状況を踏まえれば,さぬき市 に比べて高松市の職員が市民参加に対する受容性が高いと推察することが できる。 ⑸ 「価値合理的志向」と「目的合理的志向」に対する回帰分析 上記で述べた市民に対する信頼と,市民参加による行政的コストとベネ フィットの評価は,自治体の職員の相反する認識−「価値合理的志向」と 「目的合理的志向」に対していかなる影響力をもつだろうか。このため, ! 山本( a: )によれば,人口規模と NPO・市民団体は正の関係をもつとされ る。 " 香川県統計情報データベース(http://www.pref.kagawa.lg.jp/kenmin/vnpo/houjin/index. htm)

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本稿では職員の属性(性別,年齢,在職期間,職位)と自治体規模⒃,市民 参加型事業の経験⒄を統制変数とし,「価値合理的志向」と「目的合理的志 向」に対する回帰分析を行った。 まず,「価値合理的志向」に対する回帰分析の結果(表 )をみると,「社 ! 自治体規模は,高松市を「 」とするダミー変数として分析モデルに投入した。 " 過去 年間で自身が関わった市民参加型事業の数である。具体的には,次の つ の事業に対する複数回答から得られたものの合計を用いる。①住民の意向,ニーズ, 満足度等に関するアンケート調査②手紙,はがき,FAX,E メールなどによる意見・ アイディア等の募集(パブリック・コメントを含む)③市民による市政モニター④住 民意見聴取のための公聴会・住民説明会⑤住民との意見交換のため,地区ごとに行わ れる地域別の懇談会⑥行政への諮問を目的とする,学識経験者や利害関係者等による 審議会⑦公募住民を中心とする,地域の課題解決にむけた市民会議・市民委員会⑧地 域コミュニティ協議会(連合自治会などの地域委員会)との協働事業(支援事業を含 む)⑨地域団体・NPO 団体との協働事業(支援事業を含む)⑩その他 価値合理的志向 目的合理的志向 変数 B S. E. β t p B S. E. β t p 性別 −. . −. −. . −. . −. − . . 年齢 . . . . . . . . . . 在職期間 −. . −. − . . −. . −. −. . 職位 −. . −. −. . −. . −. −. . 高松市 −. . −. −. . −. . −. − . . 市民参加型事業の 経験(事業数) . . . . . . . . . . 社会的信頼 . . . . . . . . . . 市民に対する信頼 . . . . . −. . −. − . . 市民参加型事業の ベネフィット評価 . . . . . −. . −. − . . 市民参加型事業の コスト評価 −. . −. −. . . . . . . 定数 . . . . . . . . R . . 調整済みR . . N 「規範的志向」と「現実限定的志向」に対する回帰分析

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会的信頼」と「市民参加型事業の経験」のみが有意な結果を示しているこ とがわかる。すなわち,社会的信頼感が高い職員ほど,また市民参加型事 業に関わった経験が多い職員ほど,市民参加に対して規範的賛成の認識を 示しているのである。これに対して「市民参加型事業のベネフィット評価」 と「市民参加型事業のコスト評価」は有意な結果が得られず,市民参加型 事業の評価と関係なく,市民参加に対する価値規範的な同意を示す職員が 多いといえる。 これに対して「目的合理的志向」に対する回帰分析では異なる結果が得 られた。まず,説明変数のうち,最も影響力が強いのは「市民参加型事業 のベネフィット評価」であり,負の影響を与えていることが明らかになっ た。さらに,「市民参加型事業のコスト評価」が正の影響をもつことが示 された。すなわち,市民参加型事業によるベネフィットを高く評価してい る職員ほど,現実的な制約を考慮しても市民参加に対して肯定的な態度を 示しているのである。一方,市民参加型事業による実施コストが高いと評 価している職員は「目的合理的志向」が強いのである。したがって,「目 的合理的志向」は実際の市民参加型事業によるベネフィットと,それにか かるコストの評価によって変わっていくといえる。ただし,市民参加型事 業にかかるコストに比べてベネフィットに対する評価が大きく関わってい る。 次に,自治体の規模に関してはさぬき市の職員の方が高松市の職員に比 して「目的合理的志向」が強いことが明らかになった。この結果は先述の 当該自治体のもつ市民的リソースの差によるものと推察される。また,「住 民に対する信頼」が「目的合理的志向」に対して負の影響を与えているこ とが明らかになった。つまり,市民のもつ能力と責任を評価している職員 ほど,市民参加に対する「目的合理的志向」が弱いのである。 その他の変数においては有意な結果が得られないものの,注目すべき点 は「目的合理的志向」に対して「市民参加型事業の経験」の影響が検出さ れなかったことである。従来の研究では,職員意識に対して市民参加型事

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業の経験が正の影響を与え,市民参加に多く接することが市民参加に対す る職員の姿勢を改善するにあたって効果的という指摘がある(Kathleen ;中谷 ;小田切・新川 )。しかし,このような指摘は,前述 の「価値合理的志向」の分析結果においては確認されたものの,「目的合 理的志向」に対しては当てはまらない結果となったのである。つまり,市 民参加やその事業に関わる機会が多く設けられるとしても,これらの機 会・経験が職員の態度に対して直接に結びつくわけでなく,それによるコ ストもしくはベネフィットに対する評価によって異なる可能性があるので ある。 以上のように,市民参加に対する職員の態度,とりわけ「目的合理的志 向」(現実控え目の態度)は行政的コスト・ベネフィットの評価によって 大きく影響されていることが明らかになったが,これらの結果が示唆する ものは何だろうか。以下では,それに関する補足説明を行いながら,示唆 点を導くことにしたい。

.目的合理性は抑制されるべきか

市民参加に対して行政組織がもつ目的合理性をどのように捉えるべきか である。すなわち,目的合理性は抑制されるべきであろうか。 行政組織における目的合理性の基準は法の執行及び遂行上での効率性と もいえ,その効率性は,ウェーバーの理念型官僚制でみられるように,一 般規則による予測可能性と非人格化を通して確保される。しかし,これに 対してはR. K. マートン( )の官僚制の逆機能論のように,官僚制が 「形式合理性」を重視しすぎて「実質合理性」を犠牲にするという目的の 転移が生じるという批判も根強い。したがって,官僚制が形式合理性に行 き過ぎないように,国民の自由と福利の増進という「実質合理性」を追求 する政治機関は官僚制に対する民主的統制を行うことが求められる。ただ し,官僚制における「実質合理性」は,フォーマルな政治機関のみで確保

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できず,世論という一般市民の意見の受け入れが求められており,それが 行政組織における市民参加の意義でもある。

また過去,官僚組織の専門技術的な優位性に基づき行政活動の膨張が 容認される中で,市民に関わる余地が少ない時代があった(Fischer ; King, Feltey, and Susel )。しかし,今日では不確実な行政環境や市民 ニーズの多様化・複雑化の中,行政組織が自らの行政システムだけで対応 しきれず,むしろ市民の視点と力が不可欠となると実感しており,これを 通して政策決定ならび執行の正当性をいかに確保するかが政策の成否を左 右するようになりつつある。このような変化は,近代民主主義以降,政 治・行政分野において常に試されてきた市民参加という「社会的実験」 (Roberts : )がガバナンスへのシフトと連動して改めて注目される 背景となる。 このことからすれば,常に市民参加が行政組織の目的合理性と矛盾ない し対立した関係にあるわけでもない。すると,市民参加に対する行政組織 の目的合理性は,否定ないし抑制という問題でなく,市民参加の実施に関 して行政組織が払うコストとは何か,また市民参加によって得られるベネ フィットとは何かということに関心を促すものと捉えるべきであろう。す なわち,目的合理性による計算上で(+)の結果はどのように得られるか という市民参加制度に対する道具的なアプローチが求められるのである⒅。 本稿の分析結果によれば,「目的合理的志向」は行政的コスト・ベネフィッ ! 市民参加に対する職員認識において目的合理性の重要性が確認されたとしても,依 然として市民参加のもつ規範的側面は看過してはならぬ価値である。したがって「目 的合理的志向」と「価値合理的志向」の関係は独立したものでなく,相関関係をもち ながら,職員の態度に影響を与えるのが望ましい。そこで,主成分分析の値による相 関関係を把握することができないことから,それぞれの調査項目を用いて相関関係分 析を行った結果,「目的合理的志向」のうち,「時間やコストの制約上,利害関係をも つ特定の集団を中心とする市民参加が望ましい」を除いて三つの項目が,「価値合理 的志向」の各項目に対して有意水準で負の相関関係を示した。すなわち,「目的合理 的志向」と「価値合理的志向」は独立した関係でなく,「目的合理的志向」の方向に より,市民参加に対する職員の「価値合理的志向」を促すことができるといえる。

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トの計算の結果によってそのベクトルが異なっていくといえる。しかし, 市民参加に関する従来研究では,規範的な見解に基づいた市民参加の本質 や実施が主たる関心であり,公共行政の機能(効果・効率的なサービス提 供)に関わる市民参加の効果についてはそれほど触れない(Neshkova and Guo : )。このような現状は実際,行政組織が市民参加の手法を採 用する際,何を求めるか,どのようなメカニズムによりいかなる効果を期 待するかなどに関する明確な検討を妨げるといえる(Moynihan )。し たがって,市民参加がもたらす効果とは何かについては,規範的視点に加 えて道具的視点に基づく検討が求められる。 ただし,本稿の分析結果からすれば,「目的合理的志向」に対して市民 参加型事業にかかるコストに比べてベネフィットの評価が大きく関わって いる。また,市民参加に関わる行政的コストの場合は,民主主義のコスト として不可欠な側面をもつことからすれば,我々の関心が引かれるのは, ベネフィットに関わる市民参加の現実的な効果であろう。

.道具的ベネフィットとしての市民参加の効果

現状の市民参加に対して行政職員が求めている道具的ベネフィットとし ての現実的な効果とは何であろうか。市民参加の効果については前章, 「目的合理的志向」に対する回帰分析の際,市民参加型事業に対する評価 からも少し触れたが,ここでは,それに加えて現状の市民参加がもつ効果 について職員がどのようにとらえているかを取り上げて検討することにす る。 先述の Nabatchi( )の主張によれば,市民参加のベネフィットには 規範的なもの以外にも市民・コミュニティ・公共政策(行政)の道具的ベ ネフィットがあり,公共政策ではアウトカムの向上が挙げられた。それに 加えて Moynihan( : )は,市民選好の反映,民主的正当性の強化, 政策決定の受容性,協働による公共サービスの提供,市民への権限移譲を

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取り上げる。その他,利害関係者に対する説得による政策の正当性の確保, 行政への関心・信頼などが考えられる(Wang ; Irvin and Stansbury

)。 そこで,行政職員が評価している市民参加の現実的な効果を把握するた め,本稿では「過去 年間において,あなたが関わった市民参加型の事業 のうち,最も成功的だったと評価できる事業は何か」という質問を設ける 上で,どのような側面を考慮し高く評価しているかについて尋ねてみた。 ⑴ 成功的な市民参加とその考慮要因 まず,高松市とさぬき市の職員が最も成功的と評価できる市民参加型事 業についてみると,「地域コミュニティ協議会(地域委員会)との協働事 業」( .%)と「住民の意向,ニーズ,満足度等に関するアンケート調 査」( .)が最も多く,「地域団体・NPO 団体との協働事業(支援事業 を含む)」( .),「行政への諮問を目的とする,学識経験者や利害関係者 による審議会」( .%),「住民意見聴取のための公聴会・住民説明会」 ( .%)などが続く(図 )⒆。これに対して「市民会議・市民委員会」 ( .%)と「市政モニター」( .%)に関してはそれほど評価していない ことが明らかになった。 続き,これらの事業に関してどのような側面を考慮して「最も」高く評 価しているかについてみると,表 のとおりである。両市の職員が最も多 く挙げたのは,「行政のみならず地域社会に対する住民の関心が高まった」 ( .%)であり,市民参加を通じて住民の関心を高めようとする行政側 の意図がみてとれる。その他,主な評価の理由としては,協働・連携事業 への貢献( .%),市民の日常的な経験や特殊な知識の提供( .%), 政 策 の 正 当 性 の 向 上( .%),行 政 へ の 信 頼( .%),政 策 の 効 果 ! 高松市では「地域コミュニティ協議会(地域委員会)との協働事業」を挙げる職員 が %で最も多く,さぬき市では,「住民の意向,ニーズ,満足度等に関するアンケ ート調査」( .%)が最も多い。

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19.4 6.9 0.5 12.0 6.9 13.9 3.7 20.4 16.2 0 5 10 15 20 25 アンケート事業 意見・アイディア募集 市政モニター 公聴会・住民説明会 地域別の懇談会 審議会 市民会議・市民委員会 ︵地域委員会︶ 地域コミュニティ協議会 地域団体・ NP O 団体 との協働 (%) ( .%)などが挙げられる。それに対して市民教育や市民間の信頼関係 などについてはやや少ない。 考慮要因 % 市民教育 . 住民の関心 . 行政への信頼 . 市民間の信頼関係 . 政策の正当性 . 政策の効果(アウトカム) . 革新的なアイディア . 日常的な経験や特殊な知識 . 協働・連携事業 . コミュニティの形成 . N 最も成功的と評価できる市民参加型事業(N= 最も成功的とした市民参加型事業の考慮要因 (%)

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⑵ 成功的な市民参加の考慮要因と道具的ベネフィット 上記の成功的な市民参加の考慮要因は,「市民参加型事業のベネフィッ ト評価」に対していかなる関係をもつだろうか。つまり,市民参加の道具 的ベネフィットを構成する主な考慮要因とは何か。このため,以下では相 関関係分析を通じて探索的な考察を行うことにしたい。表 はこれらの相 関関係分析の結果を示したものである。まず,「市民教育」の場合,ベネ フィットの評価に対して(−)の相関関係をもつことが明らかになった。 つまり,「市民教育」の側面を考慮している職員は,ベネフィットに対し ては評価していない。これに対して「市民参加型事業のベネフィット評価」 においては,「政策の正当性」,「政策の効果(アウトカム)」,「革新的なア イディア」,「日常的な経験や特殊な知識」が(+)の相関関係を示した。 以上の結果からすれば,行政職員が考慮している道具的ベネフィットと しての市民参加の効果は,政策の正当性および政策的効果だけでなく,行 政の意思決定において生まれにくいアイディアや市民の日常的な経験や特 殊な知識が得られることであろう。行政組織においてこれらの効果は,目 的合理性による計算上で(+)に結びつき,「目的合理的志向」を弱めて 市民参加型事業の ベネフィット評価 市民教育 −. * 住民の関心 −. 行政への信頼 . 市民間の信頼関係 . 政策の正当性 . * 政策の効果(アウトカム) . ** 革新的なアイディア . * 日常的な経験や特殊な知識 . * 協働・連携事業 . コミュニティの形成 . 相関関係分析(N= Pearson の相関係数,*p< . **p< . ***p< .

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市民参加に対する認識と態度の変化をもたらすと考えられる。

.お わ り に

本稿では,自治体職員を分析対象とし,市民参加に対する行政職員の相 反する態度を,ウェーバーの議論に基づき「価値合理的志向」と「目的合 理的志向」という二つの側面から検討を行った。そのうち,「目的合理的 志向」では,市民参加に関わる行政的コストとベネフィットの計算上で損 (−)となるから,市民参加に対して条件付きもしくは控え目となること を明らかにした。また,これらの結果を通して市民参加制度に対する道具 的アプローチの必要性を強調した。 市民参加に関して多くの行政関係者が関心と努力を払っているものの, その成果もしくは効果については疑問符がつけられている。これに対して 本稿の分析結果からすれば,現状の行政職員が市民参加に求めている道具 的ベネフィットは,単なる住民ニーズの把握にとどまらず,職員自身のも つ「専門家知識」に加えられる,「普通の知識」(ordinary knowledge)や 「現場の知識」(local knowledge)のような「非専門家知識」であり(秋吉 ),それらを吸収できるような参加プロセスによる政策の正当性・ア ウトカムの向上である。ただし,これらの道具的なベネフィットは諸参加 制度がもつ目的及びプロセスによって異なり,その具体的な中身と程度は 一概にいえない。さらに,規範的な議論においてみられるように,政策過 程における市民の意見反映と実質的な影響力は重要であるが,それらがす べての参加において可能であるという幻想を行政と市民に抱かせないため には,諸参加制度の目的と期待される効果を明らかにし,両者が共有して いくのが大事であろう(Bryson etc. : )。これに関しては参加制度 別の検討が必要であり,各参加制度の目的と効果に関してより体系的かつ 具体的な検討が求められる。

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参 考 文 献

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参照

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