一― ブラ ンウェルの ア レグザ ンダー・パ ー シ像 を中ッ
と
ヽ
に一―
岩 上 は る 子 (平成 6年6月10日受理) 序 ブランウェルが創作 した初期作 品は,量的にはシャーロ ッ トのそれ に匹敵す る と言われているが, シヤーロッ トの場合 の ように作 品の編集が進 んでいないことか ら,ブ
ランウェルが初期作 品におい て呆た した役割 は軽視 されが ちである。そ もそ も物語の発端 は彼の人形遊 びにあ り,グ
ラス タウン の地理的位置づけ と歴史背景,植
民地建設の経過,新
国家 ア ング リアの建 国,そ
の後の権力闘争 と いつた物語の展開をリー ドしたのはブランウェルであった。 シャーロッ トは弟が描 く荒削 りな骨組 みに肉付 け をし,主
人公 たちの演 じる愛憎劇 を創 り上 げてい った。 ア レグザ ンダー・パーシ,メ
ア リ・ヘ ンリエ ッタ,ヘ
ンリ・ヘ イステ ィングズな どの主要な登場人物がブランウェルの発案であっ たことを考 えれば,彼
が初期作 品世界 の構築 において果 た した役割 の大 きさを認 め ざるを得 ないの である。 ブランウェルが1827年 か ら1833年 までの間に書 いた作 品は,今
日で もかな り残存 している。 だが 1834年以降の手稿 は分断 された リー部が紛失 しているな ど問題 も多い。ブランウェルが手稿 を整理 しな くな り,創
作 の順序 も構 わず積 み重 ねておいたこ とも混乱 の一つの原 因である。 だが もっ とも大 きな原 因は
,1895年
にシャーロ ッ トの夫Arhur Bell NichЫ lsか らブロンテ手稿 を買 い上 げたT
」
Wheの
操作 にあ る。 ワイズ は綴 じられた豆本 を切 り離 して売却 した り,別
々の作 品 をまとめ て 製本するな どの行為 を行 った。 さらに彼が ブランウェルの手稿 をシャーロ ッ トゃエ ミリの手稿 とし て売却 した事実 も報告 されている。その後 シェイクス ピア・ヘ ッ ド版 によるブロンテ全集 において T力ι』海sθ ttιαηιο "dα,,'ι「ψ"うιι d力刀 Иたカチぢηど `2F C力α7′οナナοαη'Pαカウθ″Bη夕ヶνιJチBttη形(vol,1,1936/vol 2,1938)の実質的 な編集 にあたった 」A Symingtonは
,全
体 の半分 はブ ラ ンウェルの作 品 を収録 することで,そ
れ までの彼 に対す る過小評価 を一変す ることを期待 していた。だが編集作業の進行 中に,
もう一人の編集者であった ヮイズが死亡 した り協力者C,W Hatieldが
引退す るな どの困難 も加 わって,最
終 的 には収録 された原稿 のほ とん どが手稿 の ファクシ ミリの ままとい う結果 に終 わった。手稿研究 にはお よそ
5つ
の行程 があ る。 まず オ リジナル原稿 の所在 をつ きとめ,そ
の形態 を記録 した「目録」の作成 である。次 に手書 きの原稿 を「解読Jす
る とい う困難 な作業がある。 とくにブ ロンテ初期作品はかれ らだけを読者 としていたため,拡
大鏡 を必要 とす るような細かい文字で書 か れ,
さらに綴 りの誤 り,句
読点 の癖,段
落の問題 な どがあ り,そ
の判読 は困難 を きわめている。手 稿 を読みやすい形 に「転写」 し,出
版 のための「校訂」 に至 るには,
さらに表記 の問題が加 わる。 こうした資料の整備が済 んでは じめて研究がス ター トす ることになる。内容 の精密 な読み とり,手
稿全体 の中での位置づ けを経 て,言
語 的な分析,文
体比較,主
題 の変遷 とい った個 々のテーマ研 究 が可能 になる。 ブ ラ ンウェルの手稿 につ いて言 えば,現
在 の ところVictor Neufeldtに よる作品 目 録が完成 した段 階で,作
品 については巻末 に示 した数点が出版 されているに過 ぎない。 (―)詩
人ヤング・ スール トとして残存するブランウェルの最 も古 い作 品は
, 9歳
の時 に書かれた`My Battell Book'(3,1827,ス ペルは原文のまま
)お
よび`History of the Rebellion in My Fellows'(9121827)で ある。前者 には30語ほどの断章の他 に,“ Battell of Waslllngton"と 題 された絵やアメリカ大陸の地図が級 じ込 まれて
いる。 これは実際 に1814年9月 に起 こったBatde Of Washingtonを 題材 に した もので
,
ソースは1827年 3月か ら4月 に βJαθttοο
,'sM軽
骸 づ兜 に 連 載 さ れ た “Narrative of the Campaign of the Brit‐ish Army at Washington and New Oneans"である と考 え られてい る。後者 は8ページお よそ900語
か ら成 る物語で
,そ
こには主役 として巨人の島の族長Boasterが登場 し,Goodmanと
い う名 の悪 党の反乱 を鎮圧 し爵位 を授 け られる。 こうした物語が後 の グラス タウ ン物語 とどの ように関わって いたかは不 明だが,そ
こには初期作 品の創作 の基本的パ ター ンが窺 われる。同時期 にシャーロ ッ ト が幼 い ア ンのため に書 い た物 語 が,
まった く内容 の異 な るお と ぎ話 で あ った こ とを考 える と,Young Menに
よる探検物語 はブランウェルの主導で始 め られた可能性が高い ように思われる。 ブ ラ ンウェル は実 際 の『ブ ラ ック ウ ッズ誌』を まね て,1829年
1月 に`Branvell's BIackwood's Magattne'を 創刊 した。現在 で は創刊 号、6月号,7月
号 が残 され てい るのみ だが,8月
に編集 を シャーロッ トに譲 るまで,ブ
ランウェルは詩,劇 ,評
論,旅
行記,広
告 な どを精力的に書 きま くった。1829年 に雑誌 の編集長 を辞 め た後
,ブ
ラ ンウェルは Young Soutt the Rhymerと して グラス タウンを舞台 に詩 人 と しての活動 を始め る。散文用 の筆名 である
John Budが
堅物 で保守的 な中年弁護士であったのに対 して
,ス
ール トは守 り神 や「勇士」たちの「専制政治」を批判す る才気換発 な若者となっている。 シャー ロ ッ トの ウェリン トン公爵 とその息子 たちを中心 に秩序づ け られてい くグラ
ス タウン社会 において
,ブ
ランウェルはそこにおける自分 の立場 を反逆者 として確立 してい くのでこう したブランウェルの位置づ けは
,物
語発生 の時点 にまで遡 ることがで きる。 シャーロ ッ トが自分の人形 をウェ リン トン公爵 と名付 けたの に対 して
,ブ
ランウェルは敵役 のナポ レオ ンを自分 の主人公 に選 んだ。 その後 `The History of the Young Men'(12183051831)に 描 か れた グラス タウ
ン連邦 では
,ナ
ポ レオ ンは4王
の ひ と り Alexander Sneachie(ま たは Sneaky)と 改め られている。やがて シャーロ ッ トが物語 の主 人公 をウェ リン トン公爵か ら息子たちに移行 したのを受けて
,ブ
ランウェルはナポ レオ ンの部下で実在 の フラ ンス軍元帥Marshal Soult(Nicolas」ean de Dieu,Duc de DЛ
made,17691851)の
架空の息子 としてヤ ング・ スール トを創 り出 した。彼 はイベ リア半 島戦争にお いて ウェ リン トンが対 戦 した フラ ンス軍 の指揮 官 であったが
,ウ
ェ リ ン トン公 爵 の前任 者John Mooreが戦死 した際 に弔意 を表 した こ とで イギ リス国民 に も尊敬 された軍 人であった。姉弟
妹 はこ う した出来事 を `A Subaltern― ―A Journal of the Peninsular Compalgn'(『 ブラ ックウ ッズ
誌』1825年 に
7号
にわたって連載)で
読 んでいた。1829年か ら30年 にかけてはブランウェルが詩作 に最 も没頭 した時期であった。彼 はヤ ング・スー
ル トと して `A Collection of POems Hlustrated with Notes And Commentarys by Monsieur De La Chateaubriand'(9,1829)お よび`Lausannei A Trttedy'(12.1829,ス ペルは原文の まま)を創作 した。 また1830年 に入 ってか らは,詩劇 `Caractus:A Dramaic Poem'(11830)や`The Revenge:A Tragedy'
(11121830)を
書 き上 げてい る。`Caractus'のタイ トルページには,詩
において最 も重要 なのは情熱である とい う見解 を示す,スール トによる次 の ような一文が掲
'デ
られている。 “In Dramatic Poet_ ry the passions are the chief thing and in ProportiOn as exelence in the depicting of these is obtained so the writer of the poem takes his class among dramatic authors"(SttCBM2,405)ス ール トは詩 に
対 して きわめて真剣で
,シ
ャーロ ッ トの雑誌 に登場す る批評家 たちに対 して,彼
の詩 を正 当に評価するよう訴 えている。
こう したスール トの姿 をシャーロ ッ トは`characters of the Celebrated Men of the Present Time'
(121829)に おいて紹介 している。詩人 と しての評価 は「想像力 には見 るべ きものがあるが
,韻
律 が苦手で調べが滑 らかでない」 とし,
また彼 の容姿 と性格 については「身だ しなみ に無頓着で,髪
は もじゃもじゃで,酒
と賭事 には異常 なほ ど熟狂す る」(Attxander CBl,127)と 記 している。シャー ロ ッ トが雑誌 を引 き継いだ とき編集方針 をめ ぐって意見 の相違があって以来,ふ
た りの間には対抗 意識が生 まれていた。 シャー ロ ッ トはロマ ンテ ィックで 自己陶酔気味なブランウェルを,機
会 を捕 らえて は冷 や か した り風 刺 した りしてい る。 自分 の主人公 に強 い思 い入 れ を もっていた点 で は シヤーロ ッ トもブランウェル も同様 であるが,主人公 との距離 のお き方 には違 いが見 られる。シャー ロ ッ トは ドゥアロウ侯爵 を彼女の理想 にかなったヒーローに仕立 て上げるが,そ
の彼 の描写 は兄 に 対 して劣等感 を抱 く弟チ ャールズ・ ウェルズ リを通 して行われる。それに対 してブランウェルは, 天才詩人 と称す るヤ ング・スール トにな りきって詩作 に没頭 しているのである。 わ き役 ではな く主役 として物語 に登場す るブラ ンウェルはやが てスール トに もの足 りな くな り,よ り強烈 な個性 を も つア レグザ ンダー・パー シを創 り出 していった。
(二
)ア
レグザ ンダー・ パ ーンの造形Alexander Percyは ブラ ンウェルの作 品 において一貫 して悪役 を演 じ続 ける主人公 である。 その
名前 もは じめは「悪 漠」 を意味す る
Rougue(シ
ヤー ロ ッ トの作 品で はRoguc)で
あったが,後
にゼ ノウ ビア と結婚 してエ ル リン トン卿 (Lord Erlingtonシ ヤー ロッ トで はErllington)と 呼 ばれ, さらにア ングリア建国後 は ノーザ ンガーラ ン ド伯 爵 (Earl of NorthangeHand)に 昇格す る。彼 の反
逆者 としての素顔 を示す ときには
,貴
族 の称号 とともにロウグとい う呼 び名が併用 され ることもある。 ア レグザ ンダー・パー シが本名 として定着す るのは
,初
期作 品がかな り進 んだ1833年 になってか らであ る。 また彼 の 出生 や経歴 の詳細 も,ブラ ンウェルの `The Life of Field Marshtt he Right Honourable Alexander Percy'(1835)を もって は じめて完成す る。 シャー ロ ッ トの主人公 たちが は
じめか ら実在の ウェリン トン公爵やその息子 たちをモデル として造形 されたの とは異 な り
,パ
ー シ は初期作 品の展 開の中で徐 々に創 り上 げ られていった悪役 であった。彼 は シャー ロ ッ トの作品 に も 導入 され,彼
女の主人公 であ るザモーナ公爵 に敵対す る重要 な人物 になるが,そ
の造形 にはブラ ン ウェルの影響がかな り見 られる。(1)ロ
ウグの誕生 パー シが通称 ロウグとして最初 に登場す るのは,
シャーロッ トの作 品であ る。`Characters of theCelebrated Men of the Present Time'(121829)に おいて
,彼
の父親が「外見 は紳士 らしいが1生格 は残忍 な47歳 の男」 と して紹介 され てい る。 そ の性 格 を受 け継 い だ同名 の息 子 は,`An lnteresting Passage in the Lives of Some Eminent Men of the Present Time'(61830)に ,「ロ ウグの前途有 望 な
る息子」 として顔 を見せ ている。
ロウグが主要な役割 を演 じるのは
,ブ
ランウェルに よる `Letters from an Englishman'(91830-81832)か
らである。 この作 品 は全8巻
か らな り,イ
ギ リス人の銀行家 James Bellinghamが ロ ン ド ンの友 人 にグラス タウ ンの様子 を報告 す る とい う設定 で,18通
の書 簡で構 成 されてい る。 ブラ ン ウェルは「12人の勇士」が植民地 グラス タウンを建設 し,原
住民のアシャンテ ィ族 とも講和 が成立 し平和 が続 くことには不満 だつた。1830年 9月 に書かれた書簡 1と2は
,医
師 ヒューム・バデ ィの 家 に招待 されたベ リンガムが解吉」されそ うにな り,ウェ リン トン公爵 に救 出 され る とい う話である。 これは1828年 に発生 したバ ー ク とヘ アに よる解剖 の為 の死体盗掘事件 に取材 した もので,シ
ャー書いていたことがわか る。 だが1831年 1月 に姉 が ロウ 。ヘ ッ ドに出発 する と
,ブ
ランウェルは姉 の干渉 を受 けることな く思 いの ままにロウグを活躍 させ る。書簡3と
4で ,
ドゥアロウ侯爵 らとウェリン トン国に向か ったベ リンガムたちは
,
目的地 を目前 に して ロウグの反乱の知 らせ を受 け,グ
ラス タウ ンに引 き返 す。その後 の書簡 はすべ て`Great Rebelllon of March 1831'と名付 け られ たロ ウ グによる革命の記述 にあて られている。 グラス タウン議会で議員資格 を剖奪 されたロウグは
,群
衆 を扇動 して政府軍 と衝突す る。 ウェ リ ン トンやスユーキー らの援軍 にもかかわ らず政府軍 は敗北 し,ロ
ウグはフランス革命 にな らって暫 定政府 を樹 立す る。 だが敗走 した政府軍 が戻 って きて再 び戦争が起 ころうとしていた時,「 勇士」 の長老 クラ ッシーが介入 し,彼
の命令 で平和 が回復す る。 それか ら1年
後,ロ
ウグがふ たたび反乱 を企 てる。 グラス タウン連邦の北 にあ るスニーキー国のフイデ ィーナの街が占領 され,火
を放 たれ た街では群衆が逃 げ まどう。 しか し反乱軍 はスニーキー父子の軍 とパー リー,ス
タンプス,
ウェ リ ン トンの援軍 に敗 れ,捕
らわれたロウグは銃殺刑 に処せ られる。 ここに描 かれたロウグは,グ
ラス タウンの建 国の勇士や ウェ リン トン公爵 な どの既存 の体制 に反 発 し,民 衆 を扇動 しては反乱 を指揮す る反逆者である。シャー ロ ッ トは 自作 `The Bridal'(7-81832) において,こ
の ロウグの反乱 に言及 している。ドゥアロウ侯爵 とマ リアン・ ヒュームの結婚 の準備 が進め られている中で,ヴ
ェル ドポ リスでの反乱の知 らせが もた らされる。 ドゥアロウ侯爵 は民衆 に向か って謀反人の打倒 を呼 びかける。後 にザモーナ公爵対 ノーザ ンガーラン ド伯爵へ と発展す る 対立構造 を,シ
ャーロ ッ トはこの頃か ら構想す る ようになったのであろ う。 ノーザ ンガー ラ ン ド伯 爵 を自作 に導 入 し悪役 と して位置づ ける こ とで,
シャー ロ ッ トの作 品世界 に ヒー ロー とア ンチ・ ヒーローの葛藤が生 まれ物語が活性化することになる。 ブラ ンウェルは次作 `The Pirate'(2.1833)で,処
刑 されたはずの ロウグをふたたび登場 させ て いる。髪 には白い ものが混 じり,顔
に も歳月 を思 わせ る敷が刻 まれている。 ヴェル ドポ リスで部下 スデス (S'deathま たはsりeath)と海運会社 を経営 してい るこ とになってい るが,そ
の実態 は海 賊で,奪
った品物 を売 りさばいている。私 ことベ リンガムはその秘密 を知 ったため,海
賊船 に乗せ られ沖合 い に連 れ去 られる。彼 らは船が通 りかかる とウェリン トン公爵の偽造文書 を示 して油断 さ せ,検
査 と称 して船 を乗 っ取 る とい うや り方 で荒稼 ぎを していた。 あ る時Ean of El ngtonの船 が捕 らえ られ,ロ
ウグは船 に乗 っていた伯 爵 の娘 ZenObiaに求婚 し,船
は港 をめ ざす。帰港 に反 対 なスデスはロウグの暗殺 を図るが,逆
に銃 で頭 を打 ち抜 かれ海 に投 げ捨 て られる。 ところが その 遺体が海面 に達す るや,守
り神Branniが姿 を現 わす。 グラス タウンに帰 ったロウグは ウェ リ ン ト ン公爵 に謝罪 し,賠
償金 を払 って和解す る。 ロウグとゼ ノウビアの結婚 は,ブ
ランウェルの発 案 に よる もの と考 え られる。 シャー ロ ッ トの ヒ ロインであるゼ ノウビアは ドゥアロウ侯爵 に片思いを寄せ,マ
リア ン・ ヒュームヘの嫉妬 に狂 うという役 どころがすでに与えられいた。それをブランウェルがロウグと結婚 させたのは
,こ
れによっ てロウグがエル リン トン卿 としてヴェル ドポリス社交界 に登場する状況を準備するためと考えられる。恋愛物語 にほとんど興味がないブランウェルは
,ロ
ウグとゼノウビアの結婚 について もその必然性を描 く必要は感 じていないようである。
(2)エ
ル リン トン卿の活動ブランウェルは`The MOnthly lntenigencer'(34.1833)に おいて, ロウグとゼノウビアの結婚式
の模様 を伝 えている。そこにはシャーロットの作品で結婚 したばか りの ドゥアロウ侯爵夫妻の姿 も
見 られ
,今
後の二組のカップルの対比 という新 しい題材が加 えられる。 この雑誌はブランウェルが連合王国の首都 グレイ ト・ グラスタウンのために発行 した ものだが
,一
号 しか残存 していない。 クリスマス休暇にロウ・ヘ ッドか ら帰省 したシャーロットは,`The Trumpet Hath Sounded'(12.1831)
と題 された詩 を書 き
,グ
ラスタウンの終焉について考え始めていた。ブランウェルは物語 をやめる ことには反対で,か
つてのように雑誌を発行 し姉や妹たちの参加 を呼びかけたのである。履初の記 事は守 り神たちの怠慢 をなじる文章で始 まっている。だがエ ミリとアンはすでにゴングル物語に熱 中 していた し,シ
ャーロッ トの関心はもはや守 り神の活躍 にはなかった。 雑誌の残 りの記事 はすべて,グ
ラスタウン議会の下院議員 となったエル リントン卿の活動 に当て られている。国会で「12人の勇士」の統治からの独立を訴えた彼は,群
衆の支持 を背景 に四王の退 陣を要求する。身分制度の廃止,四
王国の統合,新
政権の樹立,新
憲法の制定 といった内容 を盛 り 込んだ彼の法案が,
ドゥアロウ侯爵 らの反対 を押 し切 って議会を通過する。議会を舞台にエル リン トン稟Ⅱと ドゥアロウ侯爵の両陣営力戦寸立 し合 う構図が創 り出されてい く。またブランウェルは狡猾 で残忍なロウグを,巧
みな弁舌 と風貌 によって群衆 を意 きつけ熟狂 させるエルリン トン卿へ と変貌 させてい く。 シャーロットはヴェル ドポリスの上流階級の人々の姿 を好んで描いたが,ブ
ランウェ ルはむ しろ社会の裏面や人々の隠された素顔 を暴 くことに興味をもっていた。エルリン トン卿は貴 族の仲間入 りをしなが らも,一
方でロウグとして暗躍 を続ける二つの顔 をもつ人物 として複雑化 してい く。」ohn Flowerを 筆名 とした`Real Life in Verdopolis'(4-91833)は
,ヴ
ェル ドポ リスの名士たちが繰 り広 げる陰謀
,狂
乱,賭
博,決
聞などに明け暮れる生活ぶ りを伝 えている。 第1巻
はロウグによる騒乱である。グラス タウンの公会堂では,政
府 の輸送車 を襲 ったRare Ladsに 対する裁判が開かれている。背後 には大物の首謀者がいるのだが,彼
らはその名前 を白状 しようとしない。その夜,年
獄のまわ りに群衆が集 まり,そ
の数は政府の治安部隊には抑 えきれな いほどに膨れあがる。やがて牢獄が襲撃 され焼け落ち,囚
人たちは逃走する。この騒乱の仕掛人で あるロウグは手下のMontmorencyに
片付 けを命 じて,
自分 は山岳地帯の隠れ家 に身を潜める。翌 日,新
聞 には牢獄 襲撃事件 の詳細が報 じられ,首
謀者 がエル リン トン卿 であ るこ とが弁護 士Tweezyに
よってほのめかされる。彼 は卿のお抱 え弁護士であったが,卿
が秘密 を知る彼の日封 じ を図ったため先手 を打 ったのだ。この事件に揺れるグラスタウンの町に,Philosophers ldeで の学 問を終えたばか りの一人の若者が到着する。Castlereaghである。彼 は勧め られるままに,`Elysy‐ um or Paradhe Of SOuls'と い う会に入会する。それは殺人経験があることを会員資格 とし,ロ
ウグ が会長 を ドゥアロウ侯爵が副会長を洗める秘密結社であった。 第2巻
はカースルレイを中心に展開する。モ ンモレンシーに招待 されたカースル レイは,そ
の娘 Juliaを見初める。議会の見学 に出かけたカースルレイは,グ
ラス タウンの政治勢力が建国の勇士 たちを中心 とするAristocratsと,エ
ル リン トン卿 を指導者 とする Democratsに 三分 されているこ とを知 り,自
分 も国会議員になることを考える。エルリン トン卵Ⅱのパーティでは,カ
ースル レイは ジュリアと踊ることになっていたが,ス
ニーキーの息子Thorntonが
強引 に割 り込んだことか ら喧 嘩にな り,翌
朝,ロ
ウグの立 ち会いの もとで決闘が行われる。軽症 を負ったソーン トンは怖 じ気づ いて敗北 を認める。カースルレイは自分が付 き合っている仲間たちは立派な人間とはいえないこと に気づいているのだが,酒
と賭博の熟狂か ら逃れられない。ジュリアは恋人が賭事で財産をす り減 らしていること,
しか も彼 を誘惑 しているのが自分の父親であることに胸 を痛めている。やがて破 産 したカースル レイはジュリアに別れを告げにい く。彼女がソーン トンにつれ去 られたことを知っ た彼は,故
国へ向か うソーン トンに追いつ き負傷 させジュリアの救出に向かう。街ではロウグとモ ンモ レンシーが牢獄の襲撃犯 として指名手配されていた。 ドゥアロウ侯爵はカースルレイを閣僚に 任命 し,彼
は借金 を返済 してジュリアと結婚する。 シャーロッ トはブランウェル とは別 に, こうしたエル リン トン卿の若 き日の悪事 を`The GreenDwarr(91833)の
中で描いている。ロウグはエ ミリ・チ ャールズワースを自分のものにするため 彼女の許婚者サ ン・クレールを陥れるが,陰
謀が発覚 し16年の国外追放の刑に処せ られる。これに よつてブランウェルの作品で一度は処刑 されたはずのロウグが生 き返るという矛盾が解決される。 またロウグの暗い過去 を書 き力]えることで,悪
役 としての人物像が肉付 けされる。ブランウェルに よるロウグの造形が行動中心であるのに対 して,シャーロッ トは細かな性格描写を積み重ねてい く。 たとえばロゥグの端正な顔立ちの下に腹黒い邪心 を見抜 き,蒼
白 くこけた頬 に身持 ちの悪 さを読み とることで,彼
を表裏ある油断ならぬ人物 として造形 してい くのである。ブランウェルは続いて`The Pol■ics of Verdopolis'(1011.1833)に おいて
,パ
ーシの2番
目の妻Mary Henrietta Percyとの間に生 まれた同名の娘 を初めて登場 させ る。ブロンテ博物館所有の
ボンネル・コレクションに収録 された C,W Hatfieldに よる筆写原稿からその概要を紹介する。
ウェリン トン国のグラスタウン郊外の墓地に
,司
直の手 を逃れ疲労の色 を浮かべたパーシが詣でている。墓石には「メアリ・ヘ ンリエ ッタ・パーシ
,1815年
5月 1日死去,享
年21歳」 と刻 まれて娘 に成長 し
,父
が ヴェル ドポ リスの後妻 ゼノウビアの もとか らた まに帰省す るの を楽 しみ に している。父娘が連れだって町 に出る と
,新
聞では議会解散 の見込 みが報 じられ,に
わか に選挙活動が展開 される。パーンの選挙 区か らはSir Robert Pelhamと アシャンテ イ族長
Quashiaが
立候補する。結 果 はConstitutionalか ら出馬 した Morelyと,DemocraЫ
cの
ロバ ー ト卿 が 当選 す る。 落選 したクォーシャはパー シに選挙資金 の返還 を迫 り
,断
られる と代 わ りに娘 メア リを妻 に もらうことを承 諾 させ る。 だが彼女 はすで にロバ ー ト卿 と婚約 していた。議会へ登 院す るため,一
行 はヴェル ドポ リスに向か う。 メア リは初 めて継母 に引 き合 わ され,ヴ
ェル ドポ リスの社交界 に入 った彼女は憧 れ の ドゥアロウ侯爵 に出会 う。 ク ォーシャはロウグの工作 によって,国
会議員暗殺 の罪 を着せ られ逃 亡 を余儀 な くされる。 ブランウェル はメア リ・ヘ ンリエ ッタを,そ
れ までの シャー ロ ッ トの可憐 な ヒロイ ンたち とは 違 って,美
人だが率直で飾 り気 のない父親 ゆず りの芯の強 さを もった女性 に している。彼女は間 も な くシャーロッ トの作 品 に導入 され,ア
ング リア伝説 における重要 な ヒロイ ンに成長 してい く。 ブ ラ ンウェルの作 品ではメア リとロバー ト卿 の結婚 の準備が進め られていることか ら,メ
ア リと ドゥ アロウ侯爵の結婚 はシャー ロ ッ トの発案であった と考 え られる。 なぜ な ら「注意 :『メア リは私が 満足で きる女性 のひ と りである』 とのチ ャールズ・ウェルズ リ卿 の仰せ」 とい うこの原稿 の終 わ り の メモ書 きか ら,シ
ャー ロ ッ トが新 しい ヒロイ ンを気 に入 っていたこ とがわかる。 またシャーロ ット1よ `The Last Will And Testament Of Marian Wellesley Marchioness Of Douro Duches Of Zamorna
And Princess Of The Blood Of The Twelves'(1.1834)を 書 いて
,
ヒロイ ン交代 へ の準備 を整 えて い るのであ る。 いず れ にせ よブ ラ ンウェル に異存 はなかった。 メア リと ドゥアロウ侯爵の結婚 によって
,そ
れ まで敵対 関係 にあった ドゥアロウ侯爵 とエル リン トン卿 が義理の父子 とな り,両
者の関係 は新 たな局面 を迎 えることになる。
(3)ノ
ーザ ンガーラン ド伯爵の深化エル リン トン卿が ノーザ ンガー ラ ン ド伯 爵 (Eari of Northangerland)と して登場 す る作 品は, シヤーロ ッ トの`A Leaf from an Unopened Volume'(11834)が 最初 で あ る。1858年 とい う未来 に 設定 されたこの作 品の著者 はチ ャールズ・ ウェルズ リとい うことになっている。だが彼 は「ある見 知 らぬ人物」 に口述筆記 させ られた もので
,
自分 はこの物語 に「いっ さい責任 はない」 と断ってい る。 この人物 とはおそ ら くブ ランウェルの ことで,そ
こで語 られてい るのはア ングリアの未来であ る。物語ではザモーナ公爵 (Duke of Zamorna)が ア ング リアを統 治 して25年にな り,今
や40歳 を 越 えた彼 は国王 よ りさ らに強大 な力 を もつ皇帝Emperor Adrianと して君 臨 してい る。そ こには義 父 ノーザ ンガーラン ド伯 爵の姿 もある。 アング リアヘの言及が な され るのは この作 品が最初 だが, シャーロ ッ トが本格的 にアングリアを舞台 とした作品を書 きは じめ るのは1834年10月以降である。アングリア建国のシナリオもまたブランウェルの主導によるものであった。彼 は新たな領土をも
たらすことになる戦争について書 き
,凱
旋 したザモーナ公爵にヴェル ドポ リス議会で勲功 を求める次 の よ うな演説 をさせ てい る。lNow,for these services rendered by me to my country,I demand
from it the possession of my fields Of battle,I demand,my Lords,the Provinces of Angria,Calabar,
and Northangerland and Gordon, to be yielded up to me unconditionally and inlmediately , '
(SFrttMと
,326)こ
の要求はノーザ ンガーランド伯爵の助力によって,1834年
2月 18日 に議会で承認 される。アングリアはグラス タウン連邦の東に位置 し, 7地
方で構成 され,そ
れぞれに首都があ り 総督府が置かれている。ブランウェルはかつてのグラスタウン連合 と同じように,面
積や人口など について詳細 な目録を作った。 ところでアングリアという地名は,イ
ン ド南西端のマラバル海岸 に 面 した地域に君臨 していた海賊の王国の名 に由来するものと考えられる。その王 Kanhtti Angria は17世紀末か ら18世紀にかけて強力な海賊軍団を組織 し,東イン ド会社の船舶 を襲い,その名はヨー ロッパ にまで鳴 り響いたという。(なおゴングル もまたイン ド中央高原の地名である。) ブランウェルはアングリア王国の首相 となったノーザ ンガーラン ド伯爵の造形 に,虚
無的で厭世的な無神論者 とい う側面 を加 えてい く。`Death of Mary,Wife of Northangerland'(9,1834)は 時間
を遡 って
,伯
爵が最愛の妻メアリ 。ヘ ンリエ ッタと死別 したときの模様 を描いている。 自分の死が 近いことを悟 ったメアリは,天
国で再会で きるよう夫 に悔い改めを願 う。だが神 を信 じない伯爵に とつて死後の世界は無であ り,死
とは永遠の別れで しかない。彼はこの日か ら「この世になんの喜 びも目的 も見いだせないままに」生 きてい くことになる。 死は絶対的な別れを意味 し,喪
失感 は 癒 されない。その後,虚
無感 と厭世感 とがノーザ ンガーラン ド伯爵の支配的な気分 になってい く。 故郷 を捨てヴェル ドポリスに出た彼は,サ
ン・ クレールを陥れる策謀を巡 らしアシャンティ族に内通する。 これによって
,す
でにシャーロッ トが書いていた `The Green Dwarf'(91833)と 物語が整合する。
ノーザ ンガーランド伯爵は娘 を瘍愛するが
,息
子 たちに対 しては非情な父親である。父 と息子が対立す る状況 は
,シ
ャーロッ トの考案であ ろ う。 メアリが初めて登場 したブラ ンウェルによる`The Poliics of Verdop01is'(1011.1833)に は
,彼
女の兄たちの姿はない。だが 同時期 に書かれたシヤーロッ トの `The Secret'(111833)に は
,マ
リアン・ ヒュームのかつての許婚者 としてパーシの三男 Henry Percyが 登場 している。物語では男児 に対する夫の異常な憎悪か ら息子たちを守る
ため
,パ
ーシ夫人はマリアンの母親 と赤ん坊 を交換することを約束する。これは実行 されなかったのだが
,後
にヘ ンリはマ リアンと婚約 してから航海に出て瘍死する。物語ではこのいきさつを知る長兄エ ドワー ドが,ヘンリになりすましてマリアンを脅す という展開になっている。半年後,シャー
ロ ッ トは IStanzas On The Fate Of Henry Percy'(61834)に お い て
,ヘ
ン リ の 非 業 の 死 を 悼 む 詩 を号 の船上で殺 された ことになっている。 同 じ時期 にブラ ンウェルは`The w001 is Rising'(61834)で
,今
は羊毛業者 と して成功 してい る22歳 のEdwardと
,兄
の使用 人 に甘 ん じてい るWilliamのパー シ兄弟 を登場 させ てい る。彼 ら は生後 間 もな く父 に捨 て られたが,部下のスデスが命令 に背 いてふた りの命 を助 けていたのである。 シャーロ ッ トは `The Spell'(6-7.1834)で ブラ ンウェルの物語 を取 り入れ,エ
ドワー ドとウイリア ムが早 くか ら家庭 を失い,父
の「不 当な裁 き」 によつて追放 され,兄
が弟 を虐待 した ことな どを書 いた。 間 もな くウィリアムは羊毛工場 を飛 び出 して軍隊 に入 り出世するが,兄
弟 の確執 とそれが残 した心の傷 は消 えない。肉親 の愛薄 く独力 で生 き抜 いた ウイリアムの苦悩 を,シ
ャー ロ ッ トは後 に`Captain Henry Hasings'(2-3.1839)で 描 いている。
ブ ラ ン ウ ェ ル は `The HistOry of Angria'(5183591836)を は じ め と す る 一 連 の 原 稿 で ア ン グ リ ア に お け る 政 治 抗 争 を 描 く 一 方 で,`The Life of Field Marshal he Right Honourable Alexander Per‐
cy'(411.1835)に
おいて,こ
れまで欠落 していたアレグザ ンダー・パーシの半生 を書 き加 える。物語は
2巻
か ら成 り,14世
紀 にまで遡るパーシ家の歴史が述べ られ,ア
レグザ ンダーの生い立ち,多感な少年時代
,最
初の妻オーガスタとの結婚,父
親殺 し,妻
との死別などが語 られる。第 ユ巻。パー シ家 は もとは Northumberland一 族 であったが
,14世
紀 に一族 を追 われNorth―umbrian Cheviotsに住み
,貴
族けん盗賊 として一帯に勢力 を広げた。書薇戦争,チ
ャールズ1世
の失脚
,1715年
の`01d Pretender'の乱 などに関与 したが,ア
レグザ ンダーの父Edward Percyの
代に破産 しアイルラン ドに渡った。そこで彼 は賭博で財政 を立て直 し
,貴
族の娘Lady Hden Beres‐fordと 結婚 した。エ ドワー ドの餌食 になっていたMOrnington鼻
,(ウ
ェリン トン公爵の父)が
彼の 企みに気付 き始めたので,卿
を謀殺 した。その後エ ドワー ドはアフリカに建設 された植民地に渡 り, 自分が殺 した男の息子が治めるWellington's Landに住 み着 き,人
間嫌いで無慈悲 な領主 として 人々に恐れ られている。その彼 に長男 アレグザ ンダーが誕生する。家庭教師を していた私 (Bud) は,少
年の頃の彼 については多少知っている。美 しい音楽に感動 して涙を流す ような少年で,母
親 には瘍愛 されていたが,厳
格 な父親には懐かなかった。神や死後の世界への関心 はやがて無神論 に とって代わられ,端
正な顔立ちに冷笑 を浮かべ残忍な性格 を窺わせるところは,や
は リパーシ家の 血筋を思わせるものがある。18歳になった時,
アレグザ ンダーは父 と対立 して家 を出, ヴェル ドポリスで放蕩 な日々を送る。そこで再会 したLady Augusta Romana di Segoviaと の交際が始 ま り,
やがて彼女 との結婚 を決意する。だが父 はそれを許 さず
,息
子 をPhilosophers lsleに送 り大学 に入れて しまう。島でのアレグザ ンダーは恋人への手紙に
,い
つの日かアフリカ全土 を熟狂の渦にたたき込んでみせるという野望 を書 き送 り
,学
問に打 ち込み優秀な成績 を修める。第
2巻
。エ ドワー ド・パーシが落馬 した とい う知 らせがオーガスタのもとへ届 く。その後,一
命アレグザ ンダーが現れる。彼女は彼の耳に
,本
当の自由を手にするには自分たちの結婚 に反対 して いる父を殺す以外 にないのだと囁 く。二人は手 をとりあって地獄への道を歩み始める。父の殺害は, 負傷 したエ ドワー ドに付 き添 っていた夫人が,息
子の帰国を知 り,会
いに行っている間に実行 され る。命令 を受けていたスデスが,医
者の隙を見計 らって主人の首 を絞める。葬儀の 日,夫
人はうな だれ,ア
レグザ ンダーは青白い顔に不安の色 を浮かべてし、る。エ ドヮー ドの死 については多 くの人 が疑問を抱いていたが,あ
えて真相 を問うものはいなかった。夫人 も夫の死を悲 しみなが らも,息
子への愛の方が勝 っていた。その後,オ
ーガス タが毒殺 される。金貸 し業者 Jeremiah Sympsonは 以前か らパーシ家の相続人アレグザンダーに多額の金 を用立てていた。 ところがオーガスタが夫 に 返済の必要はないと入れ知恵 したため,シ
ンプソンがア レグザ ンダーの取 り巻 きたちと図って彼女 を葬ったのである。腹心に裏切 られ最愛の妻を奪われたアレグザンダーは,財
産 を整理 し借金 を清 算 し仲間 と手 を切 る。20歳の時のことであった。この日以来,彼 は厭世的で冷酷無比な無神論者 ノー ザ ンガーラン ド伯爵への道 を歩み始めたのであった。一度はアフリカを離れる決心をした伯爵だが, ウェ リン トン公爵 の長男 (後のザ モーナ公 爵)の
誕生祝 いのパー ティの席 で,Mary HenriettaWhartonを
見初める。 この物語で重要 な意味 を もつ ア レグザ ンダーの父親殺 しは,す
で にシャーロッ トが `A DayAbroad'(61834)で
取 り上げていた事件 を,ブランウェルが書 き変えた もの と思われる。シャーロッ トはノーザ ンガーラン ド伯爵の得体の知れない悪意を説明するために,彼
の過去の殺人事件 を書 き 加えることに した。彼が まだ20代の頃,父
の友人であった老Caversham卿
と決聞にな りその命 を 奪っていたとい うものである。それをブランウェルは息子による実の父親殺 しとすることで,近
親 者の復讐劇 に仕立て上げる。彼 は『ヘ ンリ四世』 に取材 してパーシ家の由来を書 きおこ し,『マ ク ベス』 に基づいて父親殺 しの状況を作 り上げ,ア
レグザ ンダーをサタンに例えることで,悪
役 とし ての人物像 に深みを与える。アレグザンダー・パーシはもはや素性の知れない「ごろつ き」ではな く,イ
ギ リスの旧家の流れを受け継 ぐ貴族である。単なる反逆児,扇
動者,陰
謀家 に過 ぎなかった ロウグが,超
人的な能力 と血の呪いを受け継いだロマ ン主義的なヒーローとして位置づけられるこ とになる。 パー シ家の男 たちは先祖 か ら凶暴 な性格 と反逆者 の血 を受け継 ぎ,そ
の家系 の中で ア レグ ザ ンダー もまた,父
エ ドワー ドに劣 らぬ冷酷な陰謀家 になってい く。アレグザ ンダーの取 り巻 き たちも,そ
の多 くが父親の代か らの付 き合い (S'DeathやCaversham)で
あった り,そ
の息子たち(MontmOrency,Arttur O'Connor,George Gordonな ど
)で
あった りする。同 じまたは類似 した名前をくり返 し使 う傾向はシャーロットにも見 られるが
,そ
うした名前 を与 えられた人物 は先人 と同 じような運命 をたどっている。こうした血の呪いともいうべ きものを
,ブ
ランウェルは自分の主人公それが息子たちに受け継がれてい くことを恐れる気持 ちへ と発展 してい くのである。
シャーロットは`A Peep into a Picture Book'(5-6.1834)において並外 れた美貌 と悪魔的な魅力
を備えたザモーナ公爵 と
,洗
練 された容姿 と計 り知れない英知 を秘めたノーザ ンガーラン ド伯爵の 姿をスケ ッチ した。彼 らの魅力はアングリアの抗争のなかで発揮 されるのだが,戦
いが終わ り平和 が回復 されると,彼
らの行 き場は失われてい く。ノーザ ンガーラン ド伯爵はその暗い過去 を背負 っ て,虚
無的な反逆者 としてアングリアの平和 を脅かす内戦の首謀者であ り続けた。ザモーナ公爵が 代表する権威,体
制,秩
序 を覆す ことがノーザ ンガーラン ド伯爵の生 を意味づけていたのであ り, そのため彼 はつねに現状打破 を訴 えては民衆 を扇動 し,革
命・反革命 をリー ドし続けたのである。 だが戦火が収 まり,ア
ングリアに日常生活が戻 って くるとノーザ ンガーラン ド伯爵の存在意義は急 速に失われてい く。 (三)ブ
ランウェルのペルソナについて ブランウェルの作品は構成,物
語性,心
理描写 といつた面か ら見れば,シ
ャーロッ トに比べて低 い評価に留 まるであろう。筋書 きといえば戦争や政争の模様 を延々と書 き連ねただけで劇的な盛 り 上が りに欠け,人
物の内面的な掘 り下げも見 られない。だがブランウェルを捉えていた ものは,劇
的な物語の展開で もなければ愛憎絡み合 う人間関係で もなかった。ほとんどパ ターン化 した陰謀 と 反乱の繰 り返 しの物語か ら浮かび上がるのは,一
人の人間の強烈な個性である。既成の権威,秩
序, 価値観 を否定 し,宗
教道徳 にも縛 られず 自分の欲望のままに行動するアレグザ ンダー・パーシを通 して,ブ
ランウェルは望 ましい自分の姿 を演出 したのである。 13歳のブランウェルが生みだ したパーシは,31歳
の死の ときまで彼 と共にあった。パーシはその 強 さゆえにブランウェルのペルソナであ り続けたのだが,や
がて虚勢 を張 ることが耐 え難 くなって くる。ほとんど人間的な感情 とは無縁であったパーシが,夫
として父 として苦悩する姿が見 られる ようになる。彼のなかに人間的な弱 さ卑劣 さ寂 しさを描 くことによって,ブ
ランウェルはあるが ま まの人間の姿 を受け入れることへ と近づいてい く。そうした変化のひとつ を,作
品における死の描 き方やベルソナの多様生のなかに見 ることがで きる。(1)パ
ーンをめぐる死 ブランウェルの作品では多 くの死が描かれる。初期のグラスタウン物語において戦闘で無数の兵士が死ぬのは ともか く
,主
人公パー シの まわ りには常 に死 の影がある。`Letters from an Englishman'(918308.1832)で
は,反
乱 を起 こしたロウグ自身が銃殺刑 に処せ られる。その記述 は`TheFIRE'す . The s01diers fired l sa、 v a bright flash and a loud crash He fell dead Alexander Rogue
was no more'(SHCB″
1:158)と いった簡単なものである。 ここで死んだはずのロウグがなぜ生 き返ったか とい う説明 もない ままに
,再
び `The Pirate'(21833)に 登場 している。そこでは自分の命を狙 った部下スデスの頭 を銃で打 ち抜 き
,脳
みそがあた りに飛び散る様子が描かれる。すなわち`Rogue then snatching up a pistol froni the table clapt it to his head and fired The skull was blollln
to pttces and the brains scattered round the room.'(SHCBν
l:181)と
い う具合 であ る。状況 はグラフイ ックに描 かれ るが
,死
の恐怖や悲 しみは描かれていない。 ブラ ンウェルが死 を内面化 していない とい う意味ではない。1825年 の姉マ ライアの死 をひとり目 撃 したブランウェルに とって (シャーロ ッ トとエ ミリはまだカウワン・ ブ リッジで,ア
ンは当時 ま だ5歳
だった),死
は衝撃 的 な ものであ った。 それか ら10年余 り後 の1835年12月 に『ブ ラ ックウッ ズ誌』 の編集者 に宛 てた手紙 の中で,彼
は姉 が死 んだ頃 に読 んだ同誌 の一節 を引用 してい る。「ず いぶん昔 のことの ように思われる。金髪の美 しい姉,見
る人すべ て を虜 に した姉 と手 を取 り合 って 踊 ったのは①姉の死 んだ遠い遠いあの 日。この世のいかなる時 よ りも暗 く閉 ざされたあの時。ビロー ドの覆い を掛 け られた姉 の棺 は一―静かにゆっ くりと一一忌 まわ しい泥上の中へ と降ろされ,わ
た したちは教会墓地か ら,二
度 と再 びそ こには戻 れない と感 じなが ら,そ
して死 を分 かちあいたい と 願 いなが ら,死
者 の ようにそ こか ら連 れ出 され たのであった。」(L分ナ第1:133)こ
の死 の体験が彼の作品 に投影 されて くるのは,`The PЫincs of verdopolis'(101833)において
,パ
ー シが最愛の妻 メア リ・ヘ ンリエ ッタの墓 を訪 れる場面であ る。 この時パ ーンは約40歳 で
,メ
ア リは18年前 に死亡 した ことになっている。 しか し彼 は今で も亡 き妻 を偲 び墓参 りを欠か さず
,彼
の変 わ らぬ愛 を示す ように墓石は歳月のなかで苔生す こともないのである。それは木漏れ日を浴び
,森
の静けさに包まれて平安に憩 っているように見える。
だが こう した美化 された死 は
,1年
後 に書 かれた`Death of Mary,Wife of Northangerland'(91834)で
は虚無感に取って代わられている。妻がこの世にいない という事実は,何
をもって しても変わ らない。パーンはい う。 `However long l hve,however mighty l may be,there shall be no look
or voice of thine to lighten me, but the great certainty that this stone in this West of Africa here covers and presses over there'そ して彼 が到達 す る結論 は`And I,whle memOry is fading and the past is sinking into nothing,shall k■
ow,as l dO know,thatI SHALL NEVER SEE THEE“
[ORE '(FrT 4132)な のである。パ ー シに とって死 とは無 であ り,そ の喪失感 は決 して癒 されることがない。
15歳頃か ら教会 に行 かな くなっていたブランウェルは
,
自分の中にわだか まっていた神へ の不信感をパ ーシに投影 させてい る と見 ることがで きる。
先 の 『ブラックウ ッズ誌』 への手紙 は
,同
誌 の主要 な執筆者James Hogg(1770-1835)が
死亡 しクの羊飼い」(Ettrick Sheperd)の愛称 で親 しまれたホ ッグは『ブラ ックウ ッズ誌』では「 ア ンブロー
ズ館夜話」 (Noctes Ambrosianae)と い う架空のホテルを舞台に した対談集 に,愚か しい気取 り屋で
大酒飲 みの道化者 として登場 す る。 ブロ ンテ姉弟妹 はこの連載記事 を愛読 し,自分 た ちの雑誌 で も
これ にな らって Bravy's lnaを 舞 台 に Military Conversaionsを 連 載 したほ どである。 ホ ッグには 今 日で もその名 を忘 れ えぬ もの に してい る 『悪 の誘惑』(T力ο P7/iυαtt Иηοづ容 α,1'働物修ss,伽sげα 力Sケ
"刀
罰%ηθЪ 1824)と い う小説がある。 そこには当時人々の関心 の的 になっていた「道徳律廃棄 論J―
― キ リス ト教 を信 じる者 は福音 に示 された神 の恵み を受 け,あ
らゆる道徳律 の束縛 か ら自由 である とい う思想―― を信奉 す る主人公が登場す る。神 か ら義人 とされた と確信 した彼 は,神
の敵 と思 われる人間たちを何 の躊躇 もな く減 ぼ してい く。だが彼 を支配 していたの は じつ は悪魔 であっ た。 ここに描かれた悪魔 に と りつかれた男の物語 はブロンテたちを魅 了 し,
ミル トンやバ イロンと ともにかれ らの ヒーロー像 の造形 に貢献 した と考 え られる。 とくにブラ ンウェルのノーザ ンガーラ ン ド伯爵の抑制 を知 らない肥大 したエ ゴには,ホ
ッグの描 く自己 を絶対化 した狂信家 の影響 を見 る ことがで きる。(なお,S崩
″物 (1849)に も道徳律廃棄論者の織工が登場 す る。) 悪魔 的な傾 向 を強めるパー シは,近
親者の死 に関わるようになる。 だがいず れの場合 も彼 は直接 その死 に手 を貸す ことはない。パ ー シは死 の命令 を下 して も,そ
の結果 を自分 で見 ることはな く, 後悔 に襲 われた り罪悪感 に苦 しむ ようなことはない。多 くの場合,殺
人 を実行す るのはスデスであ る。すでに見 た ように彼 は父親の代 か らパ ーシ家 に仕 える年齢不詳 の召使 いで,パ
ー シに影の よう につ きまとい,悪
事 に手 を貸す。守 り神 Branniの庇護 を受 ける彼 は不死 身で醜悪 な姿 を し,ほ
と んど人間的な感情 を もっていない。 ブラ ンウェルは責任 を問 われ る こ とな く登場 人物 の生死 を自由 に操 つてい るわけだが,や
がて`The History of Angria'(5,1835-91836)に おい て
,初
めて死 と直面 す る こ とになる。 第8巻
(91836)で
は,第
2次
ア ングリア大戦 に乗 じて反乱 を起 こ したノーザ ンガー ラン ド伯爵が,ザ
モーナ 公爵の政府 を打倒 し革命政府 を樹 立 している。義父の裏切 りに対 す る復 讐 として,ザ
モーナ公爵 は 妻 メア リを捨 てる決心 をす る。夫 の愛 を失 ったメアリは絶望のあ ま り憔悴 し,明
日を も知 れない容 態 になる。娘の危篤 を知 ったノーザ ンガーラン ド伯爵 は,
自分 の暗殺計 画があることを知 りなが ら も,娘
の死の床 に駆 けつける。そ こにはかつてはザモーナ公爵夫人・ ア ングリア国工妃 として昇 り ゆ く太陽の ように輝 いていたメア リが,い
まは影の ように痩せ衰 えた身体 を横 たえ,迫
りくる死 に 脅 えている。`Speak,father,I am■ liserable,and l canaot bear to die1 0h,if you kne、v、vhat l have sufferedi if you could feel、vhat l feel,you would have come to me sooner,you would not have left me so ,,O Father, they have talked to me about Heaveni they have been either trying to fit me for it, or to
pacify me with it But they know nothing,or else they would think their very souls、 ven spent tO buy back what l am going to lose for ever.'(SHCBν 2:220)
この世 (ザモーナ公爵
)に
未練 を残す メア リに平安 な死 は訪 れ ない。それは彼女 の母つ ま リノー ザ ンガーラン ド伯 爵夫人 メア リの死 の ように天上 の世界への旅立 ちではな く,あ
くまで も地上 の愛 への執着 を捨て きれないキャサ リン・ ア ンシ ョウの死 を思わせ るようなもの となっている。ノーザ ンガーラン ド伯 爵 は娘 の死 に打 ちのめ される。「H音く沈 んだ 日と額,髭
が伸 び落 ち くばんだ頼」が, 彼 の苦悩 を物語 つている。 ブラ ンウェルはこの作 品 によって,こ
れ まで彼 を呪縛 して きた死 に初め て正面か ら向かいあ った とい うことがで きよう。死 の現実 を直視 し,そ
れが 自分 に与 えた精神 的打 撃 を認 めることで,
ようや く死 の喪失感 を克服す ることがで きたのである。(2)ブ
ランウェルの 自画像 をめ ぐって 1835年 秋,ブ
ランウェルはロン ドンに向か った ものの,憧
れの王立美術 院へ の入学 を果 たせ ない まま帰郷 した。彼が味 わった初めての挫折 だが,姉
の死 とお な じように,ブ
ラ ンウェルがそれ を認 め るまで には時 間が かか る。その後 も以前 と変 わ らず詩や散文 を書 き続 け,『ブラ ック ウ ッズ誌』 へ投稿 の希望 を伝 えるなど,一
見 この事件 は彼 に とってそれほ ど大 きなシ ョックであ った ようには見 えない。 しか し半 年 余 りを経 て書 か れ た `The HistOry of Angha'第
5巻
'Charels Wentworth's Vttit to Verdopolis'(51836)を 読 む と,そ
こか らはブランウェルの味 わつた 自信 喪失 と無力感 の 大 きさが伝 わって くる。物語では憧 れの ヴェル ドポ リス に出たチ ャールズだが,華
麗 な町並 み に圧 倒 され名士 たちに会い に行 く勇気 も湧かず,ぼ
んや りと欄干 に もたれて故郷 を思 いだ し涙 ぐんでい る。気が滅入 り当て もな く通 りを歩 くうちに,エ
ル リン トン邸の前 に出る。そ こに出入 りす る名士 たちの姿 を想像 し,い
つかは自分 もその仲 間になろうと勇気 を奮い立たせ るのだが,そ
の一方で, そんな夢が仮 にかなった として,人
はほん とうに幸せ になれるのだろうか と疑間が湧 いて くる。物 語 のチ ャールズ は戦乱 の行方 を見届 け ようと行 に残 るのだが,ブ
ランウェルは無言 の まま帰宅 し, 将来の方針 も定 まらない ままに38年初頭 までハ ワースの村 に留 まっていた。 絵描 きの夢が破 れた後,ブ
ランウェルは作家 をめ ざ して『ブラ ックウッズ誌』 の編集者 あてに 4 回 (1835年11月21日,同
年12月 7日,1836年
4月 8日,1837年
1月 9日)にわたって手紙 を出 した ほか,ワ
ーズ ヮースに も手紙 (1837年 1月19日)と
詩の一部 を送 っている。 だが どこか らも返事 は な く,挫
折感 は増す ばか りだった。 こう した背景 の中で アング リアにおけるノーザ ンガー ラン ド伯 爵 を見 てみれば,そ
の動機が不 明であった破壊活動や反社会的態度 に も多少 の理解が及 ぶ ように思 われる。 自分の創造 した王国ア ング リアを舞台 に,超
人 ノーザ ンガーラン ド伯 爵 をペ ル ソナ として 生 きる1夫感 はブランウ■ルに現実の苦悩 を忘 れ させ て くれる ものであっただろ う。1836年 か ら38年にかけては
,彼
の創作意欲が もっとも旺盛な時期である。この頃か らブランウェルの別 な一面 を投影 したHeary Hastingsが 登場する。彼 は1834年のア ン
グリア建国時には
,国
歌や国王の戴冠式の祝典 曲,議
会開催 を祝 う唱歌 を作 った詩人 として華々 しいデビューをしたことになっている。その後
,第
29師団の大佐 として執筆だけでな く戦聞にも参加する。だが
`A New Year Story'(11836)第 1巻
に現れた彼は,本
格的な戦いが始 まる前 に負傷 して後退 し
,後
に戦線 に復帰するのだが,蟻
の群れのような両軍の兵士たちを丘の上か ら見て虚 しさを覚 える。 その後1837年 1月 と7月 の断章
(Tragment Of a Prose MS',SHCBM2)に
お け るヘ イステ ィングズ は
,
自分 のオ 能が認 め られ ないの は周 囲の人 々の嫉妬 のためで あ る と不 満 をか こち,酒
や賭事 に憂 さ晴 らしをする`a debauched and reckless desperado'へ と変貌 している。 さ らに`Per‐
cy'(1012,1837)で
は,酒
場で仲間 と騒 ぎなが らも気持 ちは酔 えず,ひ
とり冷めた 目を している' ヘイステ イングズの姿がある。名声 を求め野心 を脹 らせてアングリア戦争に赴いたのはほんの数年 前である。それが今では望みはついえ去 り,軍
籍 を孝」奪 され司直に追われる身になっている。酒の ために体力は衰え,顔
色はどす黒 く淀み,気
持 ちは荒んでいる。その顔 に輝 きが戻 るのは,か
つて の武勲 を思いだす時だけである。 こうしたヘイスティングズをシャーロットは自作 に導入 した。`」ulia'(61837)で
は,女
性 たち を相手に得意げに戦いの手柄話 をしているが,か
らかわれていることに気づいてむっとするといっ た滑稽 な,だ
が 自意識過剰 で傷 つ きやすい繊細 な青年 として描 かれている。その後 の`CaptainHenry Hasings'(231839)に
登場す る彼 は上官殺 しの脱走兵で,妹
エ リザベスのもとに逃げ込む が,け
っきょく逮捕 され命惜 しさに仲間を裏切る卑劣漢である。1838年か ら39年にかけて創作 され た`The wanderer'と 題 された詩が,
この頃のブランウェルの心情 をよく表 している。彼はこれを後 に`Sir Henry Tunsta11'と 改題 し
,完
成 して1840年4月 15日 に De Quinceyに 送 つた。(なお この 詩は後 にDι o%力θυ ttηοttα
,s(1891)お
よび Mrs oliphantが 『ブラックウッズ誌』 についてまと めた4η%αιdげ,P9tb力 S励ばrFo%sヮ(1897)に
収録 された。)こ
こでブランウェルは16年にわたるイ ン ドでの勤務を終えて,両
親や妹たちの待つ故国に帰還 した傷ついた兵士を登場 させている。家族 と再会 した喜びのなかにも,歳
月の中で生 じた微妙 な変化に気づか される。野望 を果 た し騎士の称 号 を与 えられたものの,彼
の心の虚 しさは癒 されない。ここで描かれるのは英雄的な兵士の姿では な く,過
ぎ去 った時間を苦い思いでぶ り返る一人の人間である。 1839年 5月 にはブラッ ドフオー ドのスタジオを閉めハ ワースに戻っていたブランウェルは,す
で に22歳になっていたが,依
然 として将来 は見 えてこなかった。その年の暮れ,Postlewaite家 に家 庭教師 と して赴 くが,職
務怠慢 か ら半年後 に解雇 され た。その間に彼 はST,COleridgeの
息子 Hartley CЫeridgeに手紙 を書 き,湖
水地方に彼 を訪ねるなどして,再
び文学への夢 を育んでいた。 1840年10月 にマ ンチェスター・ リーズ鉄道の駅員になり,42年
4月 に解雇 されるまでの間に,ブ
ランウェルは地元紙 打α,拗″G"あ刀 'α
ηやL″,s励 チιJttιηθι7 1こ数篇の詩 を発表 している。 これ らの詩
のなかにはノーザ ンガーラン ドと署名 された作品もあ り
,ブ
ランウェルの再起への願いが読み取れる。
`And the Weary Are at Rest'は ア レグザ ンダー・パーシを主人公 とした最後の散文作品である。
執筆時は記入 されていないが, ロビンソン家での事件が反映 されていることや
,友
人 Leyland宛 の1845年 9月10日付 けの手紙で,小
説 に行 き詰 まっていることを伝 えているなどの状況か ら,
この 作品は1845年秋頃に創作 されたもの と推定 されている。 肉体の衰 えに老いの兆 しを感 じているパーシは,か
つての酒を飲み女性 を誘惑 し生を燃焼 させて いた日々を取 り戻 したいと焦っている。猟のシーズンで仲間たちとThurstOn家 に滞在 しているが, 彼の関心は獲物ではな く,夫
に顧 み られないサース トン夫人Mariaに
向け られる。パーンは妻 に 死なれた寂 しさを訴 え,孤
独 を癒すには愛が必要であると説 く。だが彼女は喜びも悲 しみ もあるが ままに黙って受け入れるのが人生であると答え,彼
に自制 を求める。パーシは彼女 に自分の雄姿 を 見せ ようと教会で熱弁 をふるう。その博識で格調高い演説は人々を感動 させ,か
つての扇動者の姿 をほうふつ させるものがある。翌朝,パ
ーンはふたたびマライアを訪ねる。彼になかれなが らも夫 を恐れる彼女 を繁みに誘い込む。髪の乱れがふた りの関係 を暗示する。物語 はマライアが神 に詐 し を乞いなが ら,そ
の一方,パ
ーシに恋することが罪であろうか と反問 しなが ら揺れる姿を描いて, 物語は未完のままに終わっている。 この作品はおそらくブランウェルによる最初で最後の恋愛物語であろう。パーシはこれまで多 く の女性 を妻あるいは情婦 としているが,そ
の関係が描かれたことはなかった。パーシとゼノウビア の関係はシャーロットの分野で,ブ
ランウェルの関心はいつ もパーシひとりに向けられていた。 こ こでの初老のパーシは,か つての放縦なパーシとは異なっている。人妻マライアに対 して,妻 を失 っ た心の空虚 さと孤独 を訴 え,彼
女の愛 に慰めを求めるのである。だが彼の本心はマライアを誘惑す ることにあ り,そ
の 目的のためには手段 を選ばない。「不幸 な人妻のために今 まで神に祈ったこと のない男が初めて祈る」のも,教
会で熟弁 をふるって宣教師支援のための募金を募るのも,彼
女 を 振 り向かせるためのポーズに過 ぎない。物語にはパーシと共 に悪事 を働いて きたモ ンモ レンシー, オコンナー,ク
ォーシャなども変わ りばえしない姿で登場 しているように,パ
ーシもまたその誘惑 者,扇
動者 としての本質は変わらない。 というより変わ りえないのである。 ブランウェルはパ ー シを悪役 として,そ
の造形 に自分 の否定的要素 を盛 り込 んだ。パ ーシが暗い 天に向かって李 を振 りあげ侮蔑 の言葉 を吐 くのは,ブ
ランウェルの反逆精神 の反映であった。彼 は び 結つねに現状 に不満で
,革
命 によってそれを破壊 し無 に帰 そ うとす るが,代
わって何 か を創造す るこ とはない。彼 にあ るのは現状否定 と破壊本能 だけであ る。 それ らはやがて厭世感 と自己憐憫 に変 わってい く。すべ てが彼 を中心 に動 き,彼
の肥大 したエ ゴを抑制す る ものが ない。そ して最後 はそ のエ ゴゆえに自減 してい くのであ る。 ブランウェルの作 品には戦いはあって も葛藤が見 られ ない。それは価値観の対立がないためであ る。海賊 としてデ ビュー したパ ーンは,海
上 ばか りでな く陸上 において も絶対 的な権威 をもち,
自 分 自身が法律 である ような世界 に生 きている。彼 は 自己 を絶対化 し,自
分 いがいの誰 に も従 わず神 にも仕 えない。 ブラ ンウェルは こう した悪魔 的 ヒーローに陶酔 したのだが,つ
いにその夢か ら醒 め ることが なかった。同 じようにザモーナ公爵 に魅せ られ恋愛物語 を紡いでいたシャーロッ トが,愛
に苦 しむ ヒロインの姿か ら女 の現実 に目覚めていったの に対 し,ブ
ランウェルは肥大 した 自我 ゆえ に孤立 に沈 んでいった主人公 に 自己 を重ね合 わせ ることか ら脱す ることが なか った。 ブランウェルのいわば破滅型の主人公 は,シ
ャーロ ッ トの ヒーロー造形 に大 きな影響 を与 えた。 彼女の初期 の ヒーローはウェ リン トン公爵 に代表 されるような完全無欠 な英雄 であ り,そ
れが彼 の 虐、子 ドゥアロウ侯 爵 に移行 し,
さ らに侯爵が悪魔 的 なザ モーナ公爵へ と変貌す るにはパ ー シこ と ノーザ ンガーラ ン ド伯爵の存在 は欠かせ ない ものである。伯爵の暗 さは,シ
ャーロ ッ トの場合バ イ ロンな どか ら想像するに留 ま り,描
写 もレ トリックを駆使 す るだけで,彼
女の内なる暗黒の投影 と は感 じられない。姉 の ような上昇志 向 をもたず,心
に死 の暗い記憶 をとどめ挫折感 を引 きず ってい たブランウ■ルは,ノ
ーザ ンガー ラン ド伯爵 にあるべ き理想 の姿 を求めるよ りも,自
分 の内に潜 む 否定的な部分 を体現 させ た。 それが シャーロ ッ トの描 くノーザ ンガーラン ド伯 爵 には見 られない本 質的な悪の要素 を形成 しているのである。 Alexander CB HT Letters SHCBM Abbreviations A″E′│ケぢ",Orサカ9 Ea7ゅ 1771ttPtFS 9/C力α″Jο打ヮBf鶴ル,ed ,Christine Alexanderi Oxford:Basil Blackweil,
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