ピ ナ コ ー ル 転 位
第
2
報
有機酸と無機酸を用いたピナコーノレ転位
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卓
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上
真
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Rearrangement by means o
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Takuya HORI
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本報は,前報lこ引き続きピナコーノレ転位の反応速度測定について述べたものである. 種々の温度で濃硫酸と囚フッ化ホウ素酸のピナコール転位速度が測定された.測定方法は前報と同様に, 1. Rスペ クトルによるピナコールのカルボニル吸収への定量により行なったものである.溶媒としては,不均一系反応の四塩 化炭素と均一系反応のアセ卜ニトリルを使用した.予期された様に限定された温度範囲(15~250C) では, Arrhenius 則が適用できた. 活性化エネルギーは,均一,不均一反応共に約 15~25kcal/問。le そして頻度因子は,多少のばらつきがみられるが 約2~8 X 1010-15 sec-1と満足なものであった。1
緒 言 ベンズピナコールの有機酸による転位反応につき,そ の反応速度パラメーター(活性化エネルギー,頻度因子 )を測定した.さらにピナコールを使用しピナコール転 位速度について検討を加えた.ピナコール転位について は,これまで多くの研究が報告されているが,それら はいずれも無機酸によるものが多く,以前にも述べた様 に有機自主については極く少数しか報告されていないため この実験を行なった. 前報では,有機酸としてトリフルオJレ酢酸を溶媒とし て均一系の四塩化炭素溶液を使用し活性七エネルギーと 頻度因子を求め,また,補足として無機酸(濃硫酸〉によ る測定をも行なった固そして活性化エネルギー 15~20 kcaljmole , 頻度因子1~3XI09s巴c-1 であることを見出 した.また反応機構は,一応推測的な事は述べたが詳細 には言及していない. 本報では,ピナコールを使用し有機酸として凹フッ化 ホウ素酸を,溶媒として四塩化炭素とアセトニトリルを 選ぴ均一系反応,不均一系反応の転位速度測定を実施 し,活性イ己エネルギー,頻度因子について検討した.2
実 験2
.
1
試 料 使用ピナコールは,アセトンを原料としグリコールイ己 反応を利用し, ピナコール水和物ごを合成2)し, さらに脱 水する事によりピナコーJレを得る表I
の方法で合成し, 1. RスペクトJレで同定したものである固また溶媒(四塩 化炭素,アセ卜ニトリJレ〕は,精製して用いた. 2CHs COCHs 十 Mgー→ (CH 3 )2C← C-(CH3 )2十 H~O[ [
o
0
~/ Mg ↓ Mg(OH)2十(CHS)2ーC-C-(CHS)2・
6H20 1 [ OH OH ↓S
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C - C(
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CHs/TI
~CHs OH HO 表I ピナコールの合成経路2
.
2
測定装置及び測定法 前報と悶様tこ,転位したピナコロンのカjレホ、ニJレに注 目し, 1. RスペクトJレによる定量法を使用した. 2.1で 合成したピナコ-)レを溶媒に溶かし,四塩化炭素,アセ トニトリル共にO
.
03mole/e
.
K
し〔検量から得られた測 定可能濃度) ,次いで無機酸では濃硫酸を各々0.1と0.2 Illt,
有機酸では四フッイ七ホウ素酸を各々0.5meと1
.
0nJt加 え,一定温度で反応開始後一定時間経過毎に定量する. 溶媒アセトニトリルは均一系反応で,触媒自体の吸収が カルボニル吸収を防害するため触媒を除去し(反応停止3
0
掘 卓 也 , 井 上 真 100 CH3_~ ~/ノCH3 ""'--:C-C /~-
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CH3~I I
'CH3 OH OH B. P. 174-175'C。
じ
ニ
3000 2000 1700 1500 1300 1100 900 700 500 cm-t 図I tピナコーJレの B.P. と I.R スペクトJレ 1100 CH3 CH3. - C - C -CH3 1 1 CHa0
B. P. 106-108'C νC=O 3000 2000 1700 1500 1300 1100 900 700 500 cm-t 図E ピナコロンの B.P. と I・
R スペクトル をもかねる) ,測定を行なった.測定装置は,一定温度 を保つために電子低温槽TE-202 (シャープ電気KK) を使用し, I. RI?:は日立赤外分光々度計EPI-S2型で使 用セJレは液体用気密セル (NaCl)層厚0.5拙閣を使用し た.2
.
3
転位生成物の確認 転位生成物(ピナコロン〉は,標準物及び文献と比較 しB.P.とI
.R
スペクトルで確認した.3
実験結果及び考察3
.
1
無機酸(濃硫酸〉によあ転位反応の活性エネルギ ーと頻度因子 ベンズピナコール転位速度の際予期された様に,活性 イじエネルギー 15~20kcal/mole ぞ示したが,ピナコール 転位速度においてもまた活性化エネルギー 15~25kcal/ mole及び頻度因子共に満足なものである.また Arrhe-nius式3)4)の成立条件も前報と同様に温度範囲が大きく なるとぱらつきが目立ち一次式にあてはまらなくなり Arrhenius式の成立は不可能で, 温度範囲としては15 ~200Cがやはり最適な範囲と言えよう.カルボニウムイ オン生成の際に,置換基の違い(〆, CHa) による効果 が表われるかと期待したが,結果からほぼ効果は関係し ていないようである.他の諸要因(溶媒,温度,解媒濃 度)が考えられるがその測定条件が最適であれば, ,まぼ 予期した値(理論値) !ζ近似した値が得られる. 0.05/
戸
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0.01 ... 1O''C:・
15'C ~ 20'C 0.04 ト〈訣
0.03 bD .Q.
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[ 制 0.02 @ 0.00 0 5 10 15 時間 (min) 図E
酸触媒O.lmtにおけるl
T
log a/a-x対 ReactionTime 200.05 0.04 A 30.03
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bD'
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o A 晶 10'C. 4Il15'C ~ 20'C 0.01 島 0.00 0 5 10 時間 (minl 図N 酸触媒0.211lt
におけるlim log a/a-x対 ReactionTime t→0 15 20
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0 kXlO-2 I 0.57 I 0.78ゅ(叫
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3.8 Q i!l¥機酸 Q.1ml 3.7+
ム無機i般 0.2叫 3.6 n CF〉→ ×〉
ミ
3.5 : 3.4 3.3 ー1.0 -1.5 ー2.0 -2.5 3.0 log k 図V I/T対 logk Th 凶 Temp吋m叫p川
10 1日5 却20 川[川土二竺一
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6一:土
3 1h 附0 表E 無機磁における1T
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KとlogK 一系反応) ,アセトニトリル(均一系反応)を用いて転託
位速度を検討した 0.05 有機酸(四フッ化ホウ素酸)の転位速度lこ際し,その 酸強度と{也の要因からその条件を設定し,触媒量は 0.5 と1
.0
1llt
,
溶媒は四塩化炭素(不均一系反応) ,アセト 酸 触 媒 IEa(k叫 /1叫 e)I A(sec-1) I concH2S04(却
の
0.1 I16.88 ]7.
4
1X1010 0.2 20 43 ]8.0肝 似 …7似× 表E
無機酸における活性イ化七エオネ、Jルレギ一と頻度因子3
.
2
有機酸(四フッ化ホウ素酸〉による転位反応の活 性化エネルギーと頻度因子 有機酸でもやはり無機酸と同様に(5 ~20'C) の温度 範囲が最適である.また今回は溶媒に四塩イ七炭素(不均 ニトリル(均一系反応)を使用した. 不均一系反応,均一系反応共にその活性化エネルギー は,無機酸よりも大きい事から酸強度の影響が考えら れ,不均一系反応では触媒濃度に対しその活性七エネル ギーの大きさは逆比例しp 均一系反応は正比例している 事は,反応の溶媒効果(カルボニウムイオン生成に影響 )によると考えられる。また頻度因子からも同様な事が いえる. 0,20 0',15 ID60'C A 65'C 圏 70'C 画 トぜな
ミ
0.10 国 0 日 5 10 15 20 時 間 (hr,l
図VI 溶媒 CC14で酸触媒 0.511di乙おける lim log a/a-x対 R巴旦ctionTime3
2
掘 卓 也 , 井 上 真 0.20 A 650C 圏 700C 国 O H J M 日圏/翻
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4J
〆
図1
直 5 10 時 間 (hr.) 溶媒 CC14で、酸触媒1.o
7
1
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t
I乙おける lim log a/a-x対 ReactionTimet->O 15 3.2 0.5ml 3.1 ム有機酸 1. Oml
/
A〆
〆
log k 図wl 溶媒 CC14の 1/T対 logk 0.05 0.04 〉て,
,
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tO03。
E
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0.00 0 図IX 5 10 時 間 (hι) 溶媒 CHsCNで酸触媒0.5111[1乙おける lim log a/a-χ 対 ReactionTimet-~o 15 20 0.05 0.04
/
手ミ ,aj 吋'-0.03 切 o -ワ ム ハU ハ U O 令 ﹄ ペ ザ E Z 圏 700C ~ 750C 5 時 間 (hr.) 図X 溶媒 CHsCNで、酸触媒1.0Jl!tIこおける lim log a/a-x対 Re且ctionTimet-.o 3.2 @有機酸 0.5ml 3.1 A有機酸 1. Oml
.,
3.0 Cコ r→ × ,F-< 同'--2.9//
/ /
】3.0 -3. 5 -4. 0 log k 図XI 溶媒CHsCNのI
j
T
対 logk -4.5r-;emp('c) I 6
ぺ
J
三
70lhXl七一一づ----=~~一三915と
kx一一一一1.
91 4.00 L ! ? [ - 3附 I-3.7190 I -3.3979 *酸触媒 0.5J/lt
Temp('C)I
60 lhxIO-3 3.0036 kXlO-4.
1
45 1.46 logk 1-383田 -3蹴三
4841 I ホ酸触媒1
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0
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表 町 溶 媒 CC14の有機酸における 1/r, K とlogK酸 触 媒 ( 却 の
I
I
V~(lT~~l /~~lA\ Ea(kcal/mole)I
I
A(sec1)HBF4 05 I 26.47 : 3
…
5 1o I 18.64 I 2.74X108 表V 溶 媒CC14の有機酸における活性化 エネルギーと頻度因子 65 70 2.9586 2.9155 I 2.8736 1.07.
1
39I
.
1
70I
logk [-3附 I-3.8570 *酸触媒 0.5J/lt
Temp川
65 I7~O
L
75 r ll川
B l 2 9回6 I2.9155 I2.8736I
i~10ーペ
1ペ
- f
I 5.71 1ogk -3招44 [-3.4766 I -3.2必41 表VI 溶 媒CH3CNの有機酸における 1/r, K とlogK酸 触 媒 ( 甜
e
)
1
I
VA(lT~Al /~~lA\ Ea(kcal/mole)I
I
A(sec-1)HBF4
1
I 10.71 I 1…
表 四 溶 媒 CH3CNの有機酸における活性化 エネルギーと頻度因子4
ま と め ピナコール転位反応速度について無機酸,有機酸共に 前報と同様l乙限られた温度範囲では Arrhenius式が適 用でき一次反応であると考えられる.そしてその反応速 度定数,活性化エネルギー,頻度因子が求められた結 果,ピナコール転位反応における活性化エネルギーは 15~25kcal/mole が得られたし,頻度因子として 2~8x 1010-15sec-]が得られた. 無機酸(濃硫酸)では一様な結果が得られたが,有機 酸については均一系反応,不均一系反応についてやはり 相違が生じる.3.2で述べた様にその酸強度の影響 (25 kcal/moleと増大〕と溶媒効果によるものが考えられ る. よく知られている様にピナコール転位は, 1)水素イ オンが付加したグリコールからえjくがJlY~離して,カルボニ ウムイオンを生成 2)カJレボニウムイオンが1.2ー移動 で転位して水素イオンが付加しケトンを生成する 2段階 で進行する. 従って活性化エネルギーの増大について考えられるの は,カルボニウムイオン生成時であるから,均一系反応 と不均一系反応で溶媒と使用酸が独自に作用するのでは とEく,お互いに影響し合い協奏的に作用することもあろ う.この点は,均一系反応の逆比例,不均一系反応の正 比例関係から暗示されている.また頻度因子の値からは 未知の件も残されているのでつぎの研究に侯たねばなら真 上 井 也, ない. 最後に,本研究に協力された山田俊朗君に謝意を表し ます. 卓 堀
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2) 咽 表 献 真一,愛知工大研報, 文 卓 也 , 井 上7
,
67 (1972) .Organic Syntheses,Coll, Vol 1, 459. 反応速度計算法,大岩正芳著(朝倉書庖) . 絶対反応速度論(上) ,アイリング著 (吉問委后) . 堀 1) 、 i ノ 、 B ノ 、 E ノ q b η ο a n宮