研究開発投資の決定要因とその生産性効果について
の実証研究
著者
山田 壽一
内容記述
学位記番号:論経第85号, 指導教員:中山 雄司
大 阪 府 立 大 学 博 士 学 位 論 文
研 究 開 発 投 資 の 決 定 要 因 と
そ の 生 産 性 効 果 に つ い て の 実 証 研 究
大 阪 府 立 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科
博 士 後 期 課 程 経 済 学 専 攻
山 田 壽 一
2018 年 9 月
ⅰ 目 次 第 1 章 は じ め に 1 1. 研 究 の 目 的 1 2. 研 究 開 発 費 管 理 会 計 の 重 要 性 2 3. 研 究 開 発 費 管 理 会 計 の 困 難 性 3 4. 研 究 開 発 費 管 理 会 計 の 研 究 の 意 義 5 5. 統 計 的 方 法 に よ る 研 究 開 発 費 管 理 会 計 研 究 の 位 置 付 け (1)会 計 学 研 究 に お け る 位 置 付 け (2)経 営 の 意 思 決 定 に お け る 位 置 付 け (3)研 究 方 法 に お け る 位 置 付 け 6. 管 理 会 計 に お け る 統 計 的 研 究 方 法 の 適 用 課 題 (1)統 計 的 研 究 方 法 の 長 所 と 短 所 (2)管 理 会 計 領 域 に お け る 統 計 的 研 究 方 法 の 適 合 状 況 と 課 題 18 (3)統 計 的 管 理 会 計 研 究 の 実 践 に お け る 課 題 19 7. 本 稿 の 構 成 21 第 2 章 研 究 開 発 投 資 の 決 定 要 因 分 析 24 1. 緒 言 24 2. 分 析 方 法 と 分 析 モ デ ル の 設 定 32 (1)分 析 対 象 業 種 32 (2)被 説 明 変 数 と 説 明 変 数 32 (3)分 析 方 法 39 3. 実 証 結 果 と 考 察 40 4. 結 論 43 5 8 14 15 15 5
ⅱ 第 3 章 研 究 開 発 費 の 生 産 性 分 析 45 1. 緒 言 45 2. 生 産 関 数 に よ る 推 定 に 関 わ る 問 題 と 対 処 法 47 3. 分 析 方 法 と 分 析 モ デ ル の 設 定 49 (1)分 析 対 象 49 (2)技 術 知 識 ス ト ッ ク の 推 定 52 (3)分 析 方 法 56 4. 実 証 結 果 と 考 察 57 5. 結 論 59 第 4 章 繊 維 工 業 に お け る 研 究 開 発 投 資 と 技 術 ス ピ ル オ - バ ー の 効 果 61 1. 緒 言 61 2. 研 究 開 発 投 資 お よ び 技 術 ス ピ ル オ ー バ ー の 生 産 性 モ デ ル の 設 定 64 (1)先 行 研 究 64 (2)分 析 方 法 と 分 析 モ デ ル の 設 定 65 (3)デ ー タ の 構 築 67 (4)繊 維 工 業 と 他 業 種 と の 技 術 距 離 73 3. 実 証 結 果 と 考 察 74 4. 結 論 76
ⅲ 第 5 章 研 究 開 発 の 効 率 性 分 析 79 1. 緒 言 79 2. 分 析 方 法 と モ デ ル の 設 定 82 (1)分 析 対 象 82 (2)分 析 方 法 82 3. 分 析 結 果 と 考 察 83 (1)製 造 業 全 体 の 実 績 推 移 と 研 究 開 発 の 効 率 83 (2)繊 維 工 業 の 実 績 推 移 と 研 究 開 発 の 効 率 85 4. 結 論 88 第 6 章 個 別 企 業 デ ー タ に 基 づ く 研 究 開 発 費 の 効 率 89 1. 緒 言 89 2. 分 析 対 象 90 (1)分 析 対 象 90 (2)デ ー タ ・ セ ッ ト 90 3. 研 究 開 発 の 効 率 性 分 析 91 (1)パ ネ ル ・ デ ー タ 分 析 91 A.デ ー タ ・ セ ッ ト 91 B.モ デ ル の 設 定 91 C.分 析 結 果 と 考 察 93 (2)研 究 開 発 費 の 費 用 収 益 対 応 度 分 析 95 A.分 析 方 法 97 B.分 析 結 果 と 考 察 98 (3)研 究 開 発 効 率 の 測 定 101 A.測 定 方 法 と デ ー タ 101 B.測 定 結 果 と 考 察 102
ⅳ 4. 大 手 繊 維 企 業 の 研 究 開 発 効 率 の 測 定 104 (1)個 別 企 業 の 研 究 開 発 費 と 業 績 推 移 104 (2)測 定 結 果 と 考 察 108 5. 結 論 110 第 7 章 お わ り に 113 1. 本 研 究 の 要 約 113 2. 本 研 究 か ら 得 ら れ た 知 見 118 3. 本 研 究 の 貢 献 119 4. 本 研 究 の 限 界 と 今 後 の 展 望 120 注 124 引 用 ・ 参 考 文 献 125
1 第 1 章 は じ め に 1 . 研 究 の 目 的 企 業 の 研 究 開 発 に 関 わ る 研 究 は 、 種 々 の 学 問 領 域 に お い て 、 様 々 な 視 点 か ら 行 わ れ て い る 。 た と え ば 、 経 営 学 の 領 域 で は 、 研 究 開 発 の 戦 略 、制 度 あ る い は 組 織 に 関 す る 研 究 な ど 数 多 く の 研 究 業 績( た と え ば 、 Leonard-Barton(1995) 、 Kay(1993)、 Grant(1991) 、 藤 本 ・ 武 石 ・ 青 島 (2001)、 中 橋 (2000)) が あ る 。 本 研 究 は 、 研 究 開 発 の 中 で も 、 そ の 活 動 に 伴 う 費 用 に 注 目 し て い る 。 本 研 究 で は 、 会 計 情 報 を ベ ー ス に 研 究 開 発 費 規 模 の 意 思 決 定 と そ の 収 益 に 対 す る 効 果 に つ い て 分 析 す る 。 そ の 分 析 結 果 と 分 析 方 法 を 、 会 計 学 の 研 究 者 お よ び 企 業 の 経 営 管 理 者 に 提 示 し て 、 個 別 企 業 の 研 究 開 発 活 動 の 強 化 に 貢 献 す る こ と を 目 的 と す る 。 こ の 目 的 を 達 成 す る た め に 、 研 究 内 容 は 、 二 つ の 部 分 に 大 別 さ れ る 。 第 1 は 、 研 究 開 発 費 の 投 資 規 模 に 関 す る 意 思 決 定 の 問 題 で あ り 、 第 2 は 、 研 究 開 発 費 の 生 産 性 の 評 価 と そ の 方 法 に 関 す る 問 題 で あ る 。 し た が っ て 、 本 研 究 の 学 問 的 領 域 は 、 研 究 開 発 費 管 理 会 計 で あ る 。 研 究 方 法 は 統 計 的 手 法 に よ る 実 証 的 ア プ ロ ー チ を 採 用 し 、 研 究 に 必 要 な デ ー タ は 誰 も が 入 手 す る こ と が 出 来 る 公 表 デ ー タ で あ る 。 統 計 的 手 法 が 持 つ 問 題 を 意 識 し て 、 複 数 の 統 計 的 手 法 を 用 い て 結 論 の 頑 健 性 を 確 認 し て い る 。 ま た 、 実 務 有 用 性 を 重 視 し て 、 出 来 る だ け 容 易 な 統 計 的 手 法 を 用 い て い る 。 本 研 究 に お い て 研 究 開 発 の 収 益 化 に 焦 点 を あ て る の は 、 い わ ば 先 験 的 な 選 択 で あ る 。 研 究 開 発 の 収 益 化 こ そ が 日 本 企 業 に と っ て 特 に 重 要 な 経 営 課 題 で あ る と い う 判 断 が あ る 。 本 章 で は 、 本 研 究 の 目 的 と 位 置 付 け を お こ な う 。 研 究 開 発 費 管 理 会 計 の 重 要 性 、 研 究 開 発 費 管 理 会 計 の 困 難 性 と 研 究 の 意 義 、 研 究 開 発 費 管 理 会 計 領 域 、 経 営 の 意 思 決 定 、 お よ び 研 究 方 法 に よ る 本 研 究 の 位 置 付 け 、 さ ら に は 、 研 究 開 発 管 理 会 計 、 お よ び 統 計 的 方 法 の 適 用 課 題 に つ い て 、 先 行 文 献 を 紹 介 し つ つ 、 本 研 究 視 角 と 本 研 究 の 構 成 を あ き ら か に す る 。
2 本 研 究 で 用 い る「 研 究 開 発 費 」は 、総 務 省( 注 1 )が 毎 年 編 纂 す る『 科 学 技 術 研 究 調 査 報 告 』 第 1 表 に 記 載 さ れ る 「 社 内 使 用 研 究 費 支 出 額 」 で あ り 、 ま た は 、 企 業 が 公 表 す る 有 価 証 券 報 告 書 に 記 述 の 「 研 究 開 発 費 」 で あ る 。 「 研 究 開 発 」 と は 『 科 学 技 術 研 究 調 査 報 告 』 の 「 用 語 の 説 明 」 に 準 拠 し て 、 「 事 物 ・ 機 能 ・ 現 象 等 に つ い て 新 し い 知 識 を 得 る た め に 、 ま た は 既 存 知 識 の 新 し い 活 用 の 道 を 開 く た め に 行 わ れ る 創 造 的 な 努 力 お よ び 探 求 」 を い う 。 こ こ に は 、 研 究 に 関 す る 庶 務 ・ 会 計 等 の 活 動 も 研 究 業 務 に 含 ま れ て い る 。 生 産 工 程 を 常 時 チ ェ ッ ク す る 品 質 管 理 に 関 す る 業 務 や 、 試 験 研 究 の 域 を 脱 し て 経 済 的 生 産 の た め の 機 器 設 備 等 の 設 計 は 研 究 に 含 ま れ て い な い 。日 本 公 認 会 計 士 協 会 が 1999 年 3 月 31 日 に 公 表 し た 『 研 究 開 発 費 ・ ソ フ ト ウ ェ ア の 会 計 処 理 に 関 す る 実 務 指 針 』 で は 、 研 究 ・ 開 発 の 範 囲 に つ い て は 、 活 動 の 内 容 が 実 質 的 に 研 究 ・ 開 発 活 動 で あ る か 否 か に よ り 判 断 す べ き と し て 、 『 科 学 技 術 研 究 調 査 報 告 』 を 参 考 に し て 、 研 究 、 開 発 の 典 型 例 を 示 し て い る 。 し た が っ て 、 本 研 究 で 使 用 す る 企 業 の 有 価 証 券 報 告 書 に 記 載 の 研 究 開 発 費 も 、 『 科 学 技 術 研 究 調 査 報 告 』 に 準 じ て い る と 判 断 す る 。 な お 、 本 研 究 で 研 究 開 発 投 資 と 研 究 開 発 費 の 二 つ の 語 句 を 使 用 し て い る が 、 ほ ぼ 同 義 語 で あ り 、概 し て 研 究 開 発 費 が 投 資 す る 行 為 の 意 味 を 伴 う 場 合 、 研 究 開 発 投 資 を 使 用 す る 。 2 . 研 究 開 発 費 管 理 会 計 の 重 要 性 研 究 開 発 費 管 理 会 計 の 重 要 性 が 増 し て い る 。 そ の 背 景 は 、 次 の 四 つ を 挙 げ る こ と が で き る 。 第 1 に 、 日 本 経 済 の 低 成 長 が 長 く 続 く こ と に 加 え 、 発 展 途 上 国 の 急 速 な 経 済 発 展 に よ っ て 日 本 の 経 済 的 地 位 が 低 下 し た 。 新 た な 成 長 エ ン ジ ン を 技 術 革 新 に 求 め て い る 。 第 2 に 、 業 績 に お け る 企 業 間 格 差 が 広 が っ て い る 。 第 3 に 、 企 業 評 価 基 準 が 企 業 収 益 か ら 企 業 価 値 へ 傾 斜 し た 。 企 業 が も つ 技 術 力 、 ブ ラ ン ド な ど の 無 形 資 産 が 従 前 よ り 注 目 さ れ る よ う に な っ た 。 第 4 に 、 図 表 1 -1 に 示 す よ う に 、 研 究 開 発 費 が 年 々 増 加 し 、 営 業 利 益 に 匹 敵 す る 額 に 至 っ て い る 。 巨 大 化 し た 研 究 開 発 費 を い か に 計 画 し 統 制 す る か に よ り 、 企 業 の 業 績
3 が 本 質 的 に 左 右 さ れ る 。 図 表 1 -1 日 本 の 全 製 造 業 の 実 質 売 上 高 、 実 質 営 業 利 益 お よ び 実 質 研 究 開 発 費 の 年 度 推 移 注 : 総 務 省 統 計 局 『 ( 1972〜 2013) 科 学 技 術 研 究 調 査 報 告 』 に 基 づ い て 作 成 。 3 . 研 究 開 発 費 管 理 会 計 の 困 難 性 研 究 開 発 費 管 理 会 計 の 重 要 性 が 増 し て い る に も か か わ ら ず 、 何 故 そ の 理 論 や 実 務 が 立 ち 遅 れ て い る の で あ ろ う か 。 そ の 理 由 は 、 次 の よ う な 困 難 性 が 存 在 す る た め と 考 え る 。 研 究 開 発 は 、 そ の 他 の 費 用 管 理 と は 異 な っ た 管 理 を 必 要 と す る 。 山 本 ( 2010、 p.224)で は 、 「 研 究 開 発 費 ( の 管 理 に ) は 、 能 率 管 理 や コ ス ト コ ン ト ロ ー ル に は 馴 染 ま な い 。 し か し 、 原 価 管 理 が 不 要 と い う こ と は 決 し て な い 。 そ こ で の 原 価 管 理 の 視 点 は 、 戦 略 的 コ ス ト ・ マ ネ ジ メ ン ト と し て 、 利 益 管 理 の 一 環 と し て 利 益 へ の 効 果 を 主 眼 と し た も の で な け れ ば な ら な い 。( 中 略 ) 従 来 の コ ス ト コ ン ト ロ ー ル の よ う に 、 コ ス ト を 低 減 す る こ と が 重 要 な の で な く 、 戦 略 的 に ど こ に コ ス ト を か け る か と い う 視 点 で の マ ネ ジ メ ン ト が 必 要 と な る 」 と し て い る 。
4 研 究 開 発 活 動 の 直 接 的 成 果 は 、 あ く ま で も 技 術 知 識 で あ り 、 企 業 収 益 で は な い 。 企 業 収 益 に 結 び つ く か ど う か は 不 確 実 で あ る 。 ま た 、 研 究 開 発 費 の 支 出 時 期 と そ れ に よ っ て 得 ら れ る 収 益 と の 間 に は タ イ ム ・ ラ グ が 生 じ る 。 研 究 開 発 費 か ら 得 ら れ る 技 術 知 識 は 、 技 術 の 進 歩 に よ っ て 陳 腐 化 す る 。 さ ら に は 、 研 究 開 発 費 が 企 業 の 収 益 に 影 響 を 及 ぼ す 期 間 が 数 年 間 に 渡 る 。 そ の 他 の 費 用 と は 異 な る 研 究 開 発 費 が も つ こ れ ら の 特 性 が 、 単 な る 費 用 と い う よ り 投 資 的 性 格 を 強 く し て い て 、 そ の 管 理 を 困 難 な も の に し て い る 。 さ ら に 、 企 業 収 益 に 責 任 と 義 務 を 持 ち 、 研 究 開 発 費 の 適 正 規 模 を 決 定 す る 経 営 管 理 者 が 、 研 究 開 発 活 動 に よ っ て 得 ら れ る 技 術 知 識 の 実 現 可 能 性 と そ の 未 来 収 益 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 本 質 的 に 事 前 予 測 で き な い も の で あ る が 故 に 、 事 前 の 研 究 開 発 費 の 適 正 規 模 の 決 定 に は 困 難 が 伴 う 。 ま た 、 事 後 に お け る 研 究 開 発 の 成 果 評 価 も 、 経 営 者 及 び 経 営 幹 部 に と っ て は 困 難 で あ る こ と が 多 い 。 な ぜ な ら 、 研 究 開 発 活 動 の 評 価 に は 、 専 門 的 な 技 術 知 識 が 必 須 で あ る か ら で あ る 。 研 究 開 発 活 動 の 直 接 的 な 目 的 は 、 新 製 品 や 新 技 術 を 発 明 ・ 発 見 す る こ と で あ り 、 発 明 ・ 発 見 は 研 究 者 の 創 意 ・ 工 夫 に す べ て が か か っ て い る 。 し た が っ て 、 企 業 に と っ て は 、 そ の 創 意 ・ 工 夫 を 高 揚 す る こ と が 重 要 と な り 、 研 究 者 の モ チ ベ ー シ ョ ン を 低 下 さ せ る 研 究 開 発 費 の 削 減 調 整 に 困 難 さ が 存 在 す る 。 こ れ ら の 困 難 さ は 、 研 究 開 発 活 動 費 の 効 果 を 企 業 の 収 益 に 結 び つ け て 客 観 的 に 査 定 す る 方 法 が 見 い だ せ な い こ と が 主 原 因 で あ る と 考 え ら れ る 。 研 究 開 発 費 は 戦 略 費 用 で あ る が 、 そ の 収 益 へ の 貢 献 を 無 視 し て よ い わ け で は な い 。 「 従 来 、 研 究 開 発 の 成 果 測 度 と し て 、 特 許 の 出 願 件 数 お よ び 取 得 件 数 、 新 製 品 売 上 高 割 合 、 自 社 の 新 製 品 投 入 件 数 対 競 合 他 社 の 新 製 品 投 入 件 数 、 研 究 論 文 数 な ど の 非 財 務 的 測 度 が 用 い ら れ て き た 」 ( 西 村 、 2001、 p.280) が 、 収 益 へ の 貢 献 を 直 接 的 に 示 す も の で な い 。
5 4 . 研 究 開 発 費 管 理 会 計 の 研 究 の 意 義 本 章 3 節 で 述 べ た よ う に 、 他 の 費 用 と は 異 な り 、 研 究 開 発 費 の 管 理 は 、 戦 略 的 コ ス ト ・ マ ネ ジ メ ン ト と し て 、 利 益 管 理 の 一 環 と し て 捉 え な け れ ば な ら な い 。 加 登 ( 2010、 p.347) が 述 べ る よ う に 、 管 理 会 計 を 「 経 営 意 思 決 定 に 関 す る 会 計 情 報 の 提 供 と 定 義 し た こ と が 、 要 求 さ れ た 会 計 情 報 を 準 備 す る こ と が 管 理 会 計 で あ る と い う 限 定 さ れ た 見 方 を 生 み 出 し た 。 そ の 一 方 で 、 管 理 会 計 の も つ 開 放 性 、 多 機 能 性 か ら か 、 管 理 会 計 研 究 者 が 興 味 を 持 つ ト ピ ッ ク ス が 管 理 会 計 で あ る と す る よ う な 研 究 対 象 範 囲 ・ 領 域 の 無 限 定 な 拡 大 現 象 を 生 み 出 し た り し た 」 。 加 登( 2010、p.347)が 提 言 し て い る よ う に 、戦 略 管 理 会 計 の 機 能 を 、 要 求 さ れ る 情 報 の 提 供 と い う 受 動 的 機 能 と 考 え る の で な く 、 戦 略 そ の も の を 創 起 さ せ る と い う 能 動 的 、 主 導 的 機 能 と 考 え る と 、 研 究 開 発 費 管 理 会 計 研 究 の 意 義 も そ こ に 存 在 す る 。 5 . 統 計 的 方 法 に よ る 研 究 開 発 費 管 理 会 計 研 究 の 位 置 付 け ( 1 ) 会 計 学 研 究 に お け る 位 置 付 け 会 計 学 研 究 に お い て 、 本 研 究 が 取 り 扱 う 研 究 開 発 費 管 理 会 計 の 位 置 付 け を 行 う 。 「 会 計 は 、 あ る 特 定 の 経 済 主 体 の 経 済 活 動 を 、 貨 幣 額 な ど を 用 い て 計 数 的 に 測 定 し 、 そ の 結 果 を 報 告 書 に ま と め て 利 害 関 係 者 に 伝 達 す る た め の シ ス テ ム で あ る 」(桜 井 、2015、p.1)。ま た 、「 会 計 学 は 、 経 済 活 動 の 測 定 お よ び 結 果 の 伝 達 か ら な る 会 計 シ ス テ ム と 、 伝 達 に よ っ て 生 じ る 経 済 的 な 影 響 を 、研 究 対 象 と す る 学 問 で あ る 」( 桜 井 、 2015、 pp.1-2) と 定 義 さ れ て い る 。 会 計 で は 、 経 済 主 体 の 営 利 性 に よ り 、 営 利 組 織 を 対 象 と し た も の を 企 業 会 計 、 非 営 利 組 織 を 対 象 と し た も の を 非 営 利 会 計 と 分 類 す る 。 研 究 開 発 費 は 、 国 全 体 の 観 点 か ら も 、 大 学 や 研 究 機 関 な ど の 非 営 利 機 関 や 企 業 の よ う な 営 利 機 関 の 観 点 か ら も 取 り 上 げ る こ と が 出 来 る 。 し か し 、 研 究 開 発 費 会 計 は 、 「 企 業 に お い て 研 究 開 発 活 動 を 実
6 施 す る た め に 、 直 接 又 は 間 接 に 消 費 さ れ る 支 出 ま た は 費 用 を 対 象 と す る 」 ( 西 澤 、 1989、 p.37) と 定 義 さ れ て い る 。 つ ま り 、 研 究 開 発 費 会 計 は 、 企 業 、 特 に 会 社 の 研 究 開 発 費 を 対 象 と す る 。 そ の 意 味 で は 、 研 究 開 発 費 会 計 は 、 企 業 会 計 の 一 領 域 で あ る 。 1998 年 に 企 業 会 計 審 議 会 が 公 表 し た 「 研 究 開 発 等 に 係 る 会 計 基 準 の 設 定 に 関 す る 意 見 書 」 に よ っ て 、 研 究 開 発 費 の 全 て を 発 生 時 に 費 用 処 理 す る よ う に 会 計 基 準 が 変 更 さ れ た 。 米 国 の 会 計 基 準 も 同 様 で あ る 。 他 方 、 国 際 会 計 基 準 は 一 定 の 要 件 を 満 た す 開 発 費 の 資 産 計 上 を 要 請 し て い る 点 で 、 日 米 の 会 計 基 準 と 大 き く 異 な る 。 会 計 基 準 は 国 際 会 計 基 準 を 中 心 と し て 国 際 統 合 が 進 行 し て お り 、 開 発 費 の 会 計 処 理 が 重 要 な 課 題 の 一 つ と な っ て い る 。 小 嶋 ( 2007、 p.97) に お い て 、 「 研 究 開 発 支 出 の 資 産 化 が 禁 止 さ れ た わ が 国 の 基 準 改 正 に お い て も 、 新 基 準 適 用 後 の ア メ リ カ と 同 様 に 経 済 の 停 滞 が 懸 念 さ れ る 。 そ の 原 因 の ひ と つ は 、 ア メ リ カ と 同 様 に 、 ベ ン チ ャ ー 企 業 に 見 ら れ る よ う な 小 規 模 な 企 業 が す す ん で 研 究 開 発 支 出 を 行 え な い こ と で あ る 」 と 指 摘 し て い る 。 会 計 が 財 務 会 計 と 管 理 会 計 に 区 分 さ れ る と 同 様 に 、 研 究 開 発 費 会 計 は 、企 業 外 部 の 利 害 関 係 者( 株 主 、投 資 家 、金 融 機 関 、税 務 当 局 、 取 締 機 関 な ど ) に 、 企 業 に お け る 研 究 開 発 費 の 実 績 情 報 を 提 供 す る こ と を 目 的 と し た 研 究 開 発 費 財 務 会 計 と 、 企 業 内 部 の 利 害 関 係 者 で あ る 経 営 管 理 者 な ど に 情 報 提 供 す る こ と を 目 的 と し た 研 究 開 発 費 管 理 会 計 に 大 別 さ れ る 。 こ れ ら 二 つ の 研 究 開 発 費 会 計 の 相 違 点 を 、 西 澤 ( 1989、 p.39 ) は 、 図 表 1 - 2 の よ う に 纏 め て い る 。 主 な 相 違 点 に つ い て 説 明 す る 。 研 究 開 発 費 財 務 会 計 と 異 な り 、 研 究 開 発 費 管 理 会 計 で は 研 究 開 発 費 管 理 を 行 う 。 研 究 開 発 費 管 理 は 、 「 企 業 の 研 究 開 発 支 出 又 は 研 究 開 発 費 を 計 画 し 、 統 制 し 、 評 価 す る こ と を 対 象 と す る 係 数 管 理 の 一 領 域 で あ る 」 ( 西 澤 、 1989 、 p.207) 。 つ ま り 、 研 究 開 発 費 管 理 は 、 企 業 の 研 究 開 発 管 理 支 出 ま た は 研 究 開 発 費 を 対 象 と し て 、 経 営 方 針 に 基 づ い て 立 案 さ れ た 研 究 開 発 部 門 方 針 に 沿 っ て 、 中 長 期 研 究 開 発 費 計 画 お よ び 短 期 研 究 開 発 費 計 画 を 作 成 し 、 研 究 開
7 図 表 1 -2 二 つ の 研 究 開 発 費 会 計 領 域 内 容 研 究 開 発 費 会 計 研 究 開 発 費 財 務 会 計 研 究 開 発 費 管 理 会 計 行 為 内 容 研 究 開 発 費 の 会 計 研 究 開 発 費 の 管 理 情 報 提 供 先 外 部 の 利 害 関 係 者 内 部 の 経 営 管 理 者 規 範 原 理 一 連 の 会 計 法 規 経 済 性 原 理 情 報 内 容 過 去 の 実 績 数 値 将 来 の 計 画 と 実 績 会 計 概 念 会 計 主 体 企 業 全 体 部 門 、 プ ロ ジ ェ ク ト 貨 幣 測 定 金 額 測 定 の み 物 量 で も 可 原 価 主 義 実 際 原 価 の み 特 殊 原 価 も 使 用 実 現 主 義 社 外 へ の 引 き 渡 し 工 場 へ の 引 き 渡 し 損 益 対 応 全 社 的 に 対 応 部 門 等 別 に 対 応 客 観 性 、 継 続 性 重 要 性 絶 対 的 に 尊 重 必 要 な 限 り で 尊 重 開 示 性 社 外 に も 極 力 開 示 社 内 で は 完 全 開 示 保 守 性 常 に 保 守 的 に で き る 限 り 保 守 的 に 出 所 : 西 澤 脩 (1989、 p.39)の 第 2.1 図 ( 筆 者 加 筆 ) 発 を 実 践 す る 中 で 、 計 画 と 実 績 と の 差 異 分 析 を し て 改 善 措 置 を 講 ず る 、 い わ ゆ る 評 価 ・ 統 制 を 行 う 。 評 価 と し て は 、 実 績 評 価 と 計 画 評 価 の 2 種 類 が あ り 、 実 績 評 価 で は 、 研 究 開 発 費 の 会 計 監 査 や 制 度 監 査 な ど の 業 務 監 査 が 重 視 さ れ る 。 計 画 評 価 に お い て は 、 研 究 開 発 計 画 の 進 捗 、 特 に 研 究 開 発 の 案 件 毎 の 進 捗 度 や 費 用 対 効 果 測 定 が 最 も 重 要 な 課 題 と な る 。 研 究 開 発 費 財 務 会 計 は 、 各 種 会 計 規 範 お よ び 会 計 法 規 に 準 拠 し て 会 計 処 理 す る こ と が 強 制 さ れ る が 、 研 究 開 発 費 管 理 会 計 で は 、 会 計 規 範 や 会 計 法 規 が 問 題 と な る こ と は な く 、 経 済 性 原 理 に 基 づ い て 展 開 さ れ る 。 研 究 開 発 費 財 務 会 計 で は 、 あ る 時 点 で の 資 産 の 状 況 や 一 定 期 間 に
8 獲 得 し た 利 益 の 情 報 な ど 過 去 情 報 を 対 象 と し て い る 一 方 、 研 究 開 発 費 管 理 会 計 で は 、 過 去 情 報 だ け で な く 未 来 情 報 も 対 象 と す る 。 研 究 開 発 費 管 理 に お け る 計 画 お よ び 統 制 を 行 う に は 、 未 来 に お け る 予 測 情 報 が 必 要 で あ る か ら で あ る 。 ま た 、 研 究 開 発 費 財 務 会 計 で は 、 企 業 の 利 害 関 係 者 の 利 益 を 保 護 す る た め 、 研 究 開 発 費 の 絶 対 的 な 客 観 性 や 継 続 性 や 重 要 性 が 強 調 さ れ る が 、 研 究 開 発 費 管 理 会 計 で は 、 研 究 開 発 収 益 や 研 究 開 発 費 を 管 理 す る こ と が 目 的 と さ れ る の で 、 管 理 に 役 立 つ 程 度 の 客 観 性 や 継 続 性 や 重 要 性 が あ れ ば 充 分 で あ る 。 図 表 1 - 2 の 相 違 点 に 加 え て 、 研 究 開 発 費 管 理 会 計 で は 、 当 該 企 業 の 進 む べ き 方 向 を 経 営 管 理 者 が 意 思 決 定 す る た め に 、 独 自 の 目 的 や 基 準 に 沿 っ て 必 要 な 会 計 情 報 を 対 象 と す る 。 し た が っ て 、 企 業 に よ っ て 異 な る 目 的 を も っ て 、異 な る 会 計 情 報 を 異 な る 基 準 で 活 用 す る 。 一 方 、 研 究 開 発 費 財 務 会 計 で は 、 定 め ら れ た 会 計 規 範 や 会 計 法 規 の 基 準 に 沿 わ な け れ ば な ら な い た め 、 目 的 や 基 準 、 お よ び 開 示 さ れ る 情 報 は 企 業 間 に 差 異 は な い 。 以 上 を ま と め る と 、 研 究 開 発 費 管 理 会 計 の 目 的 と 意 義 は 、 研 究 開 発 費 の 計 画 、 統 制 お よ び 評 価 の 際 に 、 経 営 管 理 者 が 意 思 決 定 を 行 う の に 必 要 な 財 務 情 報 お よ び 非 財 務 情 報 、 と り わ け 計 画 評 価 に お け る 費 用 対 効 果 に 関 す る 情 報 を 提 供 し 、 当 該 企 業 独 自 の 研 究 開 発 戦 略 の 創 起 に 役 立 て る こ と に あ る 。本 研 究 は 、こ の 目 的 と 意 義 を 踏 襲 し て 、 研 究 開 発 費 管 理 会 計 を 取 り 扱 う 。 ( 2 ) 経 営 の 意 思 決 定 に お け る 位 置 付 け 本 研 究 で は 、 研 究 開 発 の 費 用 対 効 果 と そ の 統 計 的 分 析 方 法 を 提 示 し 、 個 別 企 業 の 経 営 管 理 者 に 自 社 の 研 究 開 発 の 費 用 対 効 果 を 定 量 的 に 把 握 す る こ と を 促 す 。 そ の こ と に よ っ て 、 個 別 企 業 の 研 究 開 発 活 動 の 強 化 に 貢 献 す る こ と で あ る 。 言 い 換 え る と 、 本 研 究 が 経 営 管 理 者 に 促 す 意 思 決 定 の 内 容 は 、 投 入 し た 研 究 開 発 費 が 企 業 の 収 益 に 結 び つ い て い る の か と い う 定 量 的 情 報 を 得 る こ と 、 そ し て そ の 情 報 に
9 基 づ い て 研 究 開 発 活 動 の 「 量 」 と 「 質 」 に つ い て の 意 思 決 定 を 促 す こ と に あ る 。 「 量 」 と は 、 研 究 開 発 費 で あ り 、 「 質 」 と は 、 そ の 収 益 性 で あ る 。 戦 略 的 意 思 決 定 に つ い て は 、 様 々 な 研 究 が な さ れ て き た 。 Ansoff (1965)は 、 経 営 の 戦 略 的 意 思 決 定 を 「 企 業 と そ の 環 境 と の 間 の 関 係 に 関 す る 」あ る い は「 企 業 と そ の 環 境 と の 間 の 適 合 関 係 を 構 築 す る 」 意 思 決 定 と 行 動 で あ る と 述 べ 、 経 営 戦 略 は 企 業 と 市 場 に 着 眼 し て 決 定 さ れ る 。 適 合 関 係 に は 、 ど ん な 事 業 を 営 む の か に 関 す る 事 業 範 囲 と 対 象 と す る 顧 客 層 お よ び 顧 客 ニ ー ズ に 対 応 し て ど ん な 技 術 を 用 い る の か の 決 定 が 含 ま れ る 。 つ ま り 、 経 営 戦 略 に は 、 市 場 と 技 術 の 意 思 決 定 が 含 ま れ て お り 、 研 究 開 発 は 経 営 戦 略 の 中 核 を 占 め る 。 そ し て 、研 究 開 発 に お い て 、「 ど こ を 目 指 す の か 」「 何 を す る の か 」「 ど う す る の か 」 「 ど う し た の か 」 、 そ し て 「 ど う な っ た の か 」 の 意 思 決 定 が な さ れ る 。 Atkinson et al. (2012)に よ る と 「 管 理 会 計 の 目 的 は 、 組 織 に お け る マ ネ ジ ャ ー や 従 業 員 に 、 意 思 決 定 、 資 源 配 分 、 モ ニ タ リ ン グ 、 業 績 評 価 、 報 酬 決 定 の た め に 有 用 な 財 務 ・ 非 財 務 情 報 の 双 方 を 提 供 す る こ と 」 で あ る 。 研 究 開 発 方 針 は 、 経 営 理 念 や 方 針 に 対 応 し て 「 ど こ を 目 指 す の か 」 を 明 ら か に し て 、 研 究 領 域 を 規 定 し 、 「 何 を す る の か 」 を 意 思 決 定 す る 。 「 ど う す る か 」 に よ っ て 「 資 源 配 分 」 が 計 画 さ れ る 。 「 モ ニ タ リ ン グ 」 と 「 業 績 評 価 」 を 通 じ て 、 「 ど う し た の か 」と「 ど う な っ た の か 」を 明 ら か に す る 。「 何 を す る の か 」「 ど う す る の か 」 「 ど う し た の か 」 「 ど う な っ た の か 」 は 、 研 究 開 発 方 針 の 目 標 が 達 成 さ れ る ま で 繰 り 返 さ れ る 。 と き に は 、 経 営 方 針 の 変 更 を 余 儀 な く さ れ 、 経 営 理 念 に お け る 事 業 領 域 、 つ ま り 「 ど こ を 目 指 す の か 」の 変 更 も 行 わ れ る 。「 ど こ を 目 指 す の か 、何 を す る の か 、 ど う す る の か 、 ど う し た の か 、 ど う な っ た の か 」 に つ い て の 意 思 決 定 は 、 管 理 会 計 に お け る 「 計 画 ・ 統 制 ・ 評 価 」 の あ ら ゆ る 過 程 、 経 営 管 理 者 の み な ら ず 、 マ ネ ジ ャ ー や 従 業 員 の あ ら ゆ る 階 層 で も 登 場 す る 。
10 経 営 戦 略 の 中 核 で あ る 研 究 開 発 の 中 で 、 本 研 究 は 研 究 開 発 費 の 費 用 対 効 果 に 注 目 し て い る 。 し た が っ て 、 管 理 会 計 に お け る 「 計 画 ・ 統 制 」 、 市 場 や 技 術 の 選 択 に 関 わ る 意 思 決 定 に お け る 、 「 ど こ を 目 指 す の か 」「 何 を す る の か 」「 ど う す る の か 」を 対 象 と し て い な い 。 本 研 究 で は 、 管 理 会 計 に お け る 「 評 価 」 、 意 思 決 定 に お け る 「 ど う な っ た の か 」 が 中 心 と な る 。 本 研 究 は 、 実 務 有 用 性 を 重 要 視 し て い る 。 「 現 場 に お け る 意 思 決 定 」 に 関 す る キ ー ワ ー ド は 、 時 間 的 制 約 、 敵 や ラ イ バ ル の 存 在 、 リ ス ク を 伴 う 大 き な 決 断 、不 十 分 な 情 報( 情 報 の 欠 如 、不 明 確 な 情 報 、 間 違 っ た 情 報 ) 、 不 明 確 な 手 順 、 絶 え ず 変 化 す る 状 況 な ど が あ る 。 ク ラ イ ン (1998、 pp.389-390)は 、 間 違 っ た 意 思 決 定 の 主 原 因 は 、 経 験 不 足 、 情 報 不 足 、 そ し て 過 小 評 価 で あ る と し て い る 。 過 小 評 価 と は 、 意 思 決 定 者 は 問 題 の 兆 候 に 気 付 い て い な か っ た 、 あ る い は 気 付 い て い て も 問 題 視 せ ず に 片 づ け て い た 。 異 常 を 警 告 す る な ど の 証 拠 も 検 討 し な か っ た 。 結 果 と し て 、 異 常 を 突 き 止 め る の が 遅 れ 、 問 題 を 回 避 で き な く な っ た 。 こ の よ う な 現 場 に お け る 意 思 決 定 に 活 用 さ れ る の が 「 直 観 」 で あ る 。 事 業 活 動 に お け る 意 思 決 定 の 概 念 は 、 バ ー ナ ー ド に 始 ま る 。 バ ー ナ ー ド (1 96 8 、 p . 193 ) は 、 「 個 人 の 行 為 を 区 別 す れ ば 、 原 理 的 に は 、 熟 考 、 計 算 、 思 考 の 結 果 で あ る 行 為 と 、 無 意 識 的 、 自 動 的 、 反 応 的 で 、 現 在 あ る い は 過 去 の 内 的 も し く は 外 的 状 況 の 結 果 で あ る 行 為 と に 分 け う る で あ ろ う 」 と し 、 前 者 の 行 為 に 至 る 過 程 を 意 思 決 定 と 定 義 し て い る 。 バ ー ナ ー ド ( 1968 、 pp.314-315) で は 、 そ の 意 思 決 定 の 過 程 に は 、 「 論 理 的 過 程 」 と 「 非 論 理 的 過 程 」 の 2 種 類 が あ る と す る 。 論 理 的 過 程 と は 、 「 言 葉 と か 他 の 記 号 に よ っ て 表 さ れ る 意 識 的 思 考 、 す な わ ち 推 理 を 意 味 す る 」 。 非 論 理 的 過 程 と は 、 「 言 葉 で は 表 せ な い 、 あ る い は 推 理 し て 表 現 で き な い 過 程 で あ っ て 、 判 断 、 決 定 、 あ る い は 行 為 に よ っ て 知 ら れ る に す ぎ ぬ も の を 意 味 す る 」 。 バ ー ナ ー ド ( 1968 、 p.318) は こ の 非 論 理 的 過 程 に つ い て 「 直 観 」 と 呼 ん で い る 。 「 直 観 」 は 、 判 断 や 推 理 な ど の 思 索 の 結 果 で な く 、 精
11 神 が 対 象 を 直 接 に 知 的 に 把 握 す る 作 用 で あ り 、 い わ ゆ る 「 直 知 」 と 同 義 で あ る 。 説 明 や 証 明 を 経 な い で 、 物 事 の 真 相 を 心 で た だ ち に 感 じ る 、い わ ゆ る「 直 感 」と 異 な る 。バ ー ナ ー ド( 1968、pp.335-338) は 、 良 き 意 思 決 定 を 行 う た め の 直 観 の 重 要 性 を 強 調 し て 、 多 く の 場 合 、 論 理 的 過 程 が 目 的 、 情 況 に と っ て は 不 十 分 で あ る こ と か ら 、 精 神 的 熱 意 を 表 す 非 論 理 的 過 程 、 つ ま り 直 観 的 過 程 と 論 理 的 過 程 と を 知 的 に 調 整 し つ つ 発 展 さ せ る こ と が 望 ま し い と し て い る 。 ミ ン ツ バ ー グ ( 1991、 p.105) は 、 バ ー ナ ー ド と 同 様 に 分 析 と 直 観 と を 分 類 し た う え で 、 「 直 観 は 分 析 と 無 関 係 に 働 く 過 程 で な く 、 む し ろ こ れ ら 二 つ の 過 程 は 本 質 的 に 効 果 的 な 意 思 決 定 シ ス テ ム の 補 完 的 な 構 成 要 素 で あ る 」 と し て い る 。 ま た 、 ミ ン ツ バ ー グ (1991、 pp.110-113)で は 、「 分 析 が シ ス テ マ テ ィ ッ ク で 、直 観 が で た ら め に 思 え る が 、 分 析 は 正 し い と き に は 正 し い が 、 間 違 っ た 時 に は と ん で も な い 答 え を 出 す 傾 向 に あ る 」 と し 、 「 組 織 が 直 観 に よ る 推 測 を シ ス テ マ テ ィ ッ ク な 分 析 で 確 認 す る 必 要 が あ る よ う に 、 フ ォ ー マ ル な 分 析 の 結 果 を 常 識 的 な 直 観 で に ら む 必 要 も ま た 存 在 す る 。 厳 密 を 要 す る と き に は 分 析 に 頼 ら ざ る を 得 な い が 、 そ う で な い 時 に は 直 観 に 頼 る ほ う が 、 と き と し て 容 易 で 安 全 で さ え あ る 」 と 主 張 し て い る 。 ま た 、 「 分 析 が ほ ど ほ ど の 変 化 と 限 ら れ た 創 造 力 を 提 供 す る と す れ ば 、 直 観 は 劇 的 な 創 造 力 を 提 供 す る か 、 ま た は 全 く 何 も 提 供 し な い か で あ り 、 時 に は 変 化 へ の 抵 抗 さ え 引 き 起 こ し か ね な い 」 と す る 。 こ の よ う に 分 析 と 直 観 の 補 完 的 機 能 を 明 確 化 し 、 組 織 の 意 思 決 定 に お い て は 、 分 析 と 直 観 を 連 結 さ せ る 必 要 を 提 示 し て い る 。 サ イ モ ン ( 2009、 p.216) は 、 意 思 決 定 過 程 に お け る 「 分 析 的 ア プ ロ ー チ 」 と 「 直 観 的 ア プ ロ ー チ 」 に 言 及 し て い る 。 す べ て の 管 理 者 は 、 状 況 に 素 早 く 反 応 す る 必 要 が あ り 、 そ れ に は 長 年 の 経 験 や 訓 練 に よ る 直 観 と 判 断 を 可 能 に す る ス キ ル が 求 め ら れ る と し 、 バ ー ナ ー ド と 同 様 に 、 管 理 に お い て 分 析 的 ア プ ロ ー チ に 加 え 、 直 観 的 ア プ ロ ー チ の 重 要 性 を 主 張 し て い る 。 ダ ベ ン ポ ー ト ( 2007、 p.197 、 pp.209-212) は 、 分 析 力 が 競 争 力 を
12 左 右 す る と し て 、 そ の 源 泉 は 戦 略 と 人 材 で あ る と 主 張 す る 。 し た が っ て 、 ほ と ん ど の 企 業 が 、 分 析 に 基 づ い た 戦 略 を 追 求 す べ き と し な が ら も 、 そ の 転 換 に は 時 間 が か か る と 言 及 し て い る 。 ダ ガ ン ( 2010 、 pp.3-4) は 、 直 観 に は 「 単 な る 直 観 」 と 「 戦 略 的 直 観 」 の 2 種 類 あ る と す る 。 単 な る 直 観 は 「 漠 然 と し た 予 感 や 本 能 的 な 直 観 」 で あ り 、 戦 略 的 直 観 は 「 明 確 で 傑 出 し た 思 考 が も た ら す 突 然 の ひ ら め き 」 で あ る と い う 。 戦 略 的 直 観 は 、 即 断 と も 異 な る 。 即 断 は 、 「 専 門 的 直 観 」 で あ り 、 「 過 去 の 経 験 知 か ら 瞬 時 に 判 断 を 下 す 、 瞬 間 的 な 思 考 の 一 形 態 で あ る 」 。 そ れ に 対 し て 、 「 戦 略 的 直 観 は 常 に ゆ っ く り と 時 間 を 懸 け て 訪 れ る 。 と り わ け 、 斬 新 な ア イ デ ア を 必 要 と す る 未 踏 の 世 界 で 、戦 略 的 直 観 は そ の 威 力 を 発 揮 す る 」。 そ れ で は 、 「 直 観 」 は ど の よ う に し て 得 ら れ る の だ ろ う か 。 ベ ヒ ト ラ ー (1990、 p.26)は 、 「 直 観 は 人 間 だ け に 備 わ っ た 能 力 だ け で な く 、企 業 あ る い は 大 規 模 な 社 会 的 集 団 さ え も も っ て い る 能 力 で あ る 。 企 業 の な か に は 、 他 の ラ イ バ ル 企 業 に 比 べ て 大 き な 成 果 を 継 続 的 に あ げ て い る 企 業 が あ る が 、 こ の こ と は 、 す べ て の 企 業 が 企 業 組 織 の 集 合 的 直 観 力 を 総 動 員 ま た は 解 放 す る こ と に 、 同 じ 程 度 に は 成 功 し て い な い こ と を 明 示 し て い る 」と し 、ま た 、ベ ヒ ト ラ ー( 同 、p.21 ) は 、 「 直 観 は 企 業 経 営 に お い て 、 創 造 性 が 最 も 要 求 さ れ る 部 門 で 特 に 重 要 な 意 義 を も っ て い る 。( 中 略 ) 新 し い ア イ デ ア 、い わ ば「 突 然 の ひ ら め き 」 は 、 計 画 的 に 頭 に 浮 か ば せ た り 、 無 理 や り ひ ね り だ し た り す る こ と が で き る も の で な く 、 数 多 く の 気 分 的 な 要 素 か ら 生 ま れ て く る も の で あ る 。 こ こ で 問 題 な の は 、 ア イ デ ア の 再 検 討 で な く 、 む し ろ 直 観 力 の 生 成 で あ る 」 。 こ の よ う に 直 観 の 重 要 性 を 強 調 し て 、「 直 観 力 は 、経 験 の 積 み 重 ね に よ っ て 育 成 さ れ る と し て い る 」 ( 同 、 p.25) 。 さ ら に 、 「 問 題 解 決 の 典 型 的 な 過 程 と し て 、 普 遍 的 な も の と 特 殊 的 な も の と の 間 、 あ る い は 理 論 と 現 実 と の 間 で 進 行 す る 反 復 過 程 は 、 科 学 的 思 考 と 直 観 と の 間 に も 同 様 に 存 在 す る 。 直 観 の 経 験 領 域 に 問 題 解 決 上 の 重 要 な 合 理 的 ・ 系 統 的 思 考 過 程 が い っ た ん 入 り こ む と 、 直 観 的 決 定 と 合 理 的 決 定 は 不 可 抗 力 的 に 対 立 し た も
13 の で な く な る 」 ( 同 、 p.25) と し て 、 直 観 は 、 結 局 は 科 学 的 思 考 の 領 域 で な さ れ た 情 報 を 創 造 的 に 利 用 す る こ と か ら 得 ら れ る と 主 張 す る 。 ク ラ イ ン ( 1998) は 、 人 は あ ま り 効 率 的 な 問 題 解 決 を 行 っ て い な い と い う 考 え を 前 提 と せ ず 、 困 難 な 状 況 下 で い か に 人 々 が う ま く 対 処 し て い る か に 着 目 し 、 専 門 家 に 限 ら ず と も 、 誰 で も 自 分 の 経 験 に 基 づ い て 、効 率 的 に 素 早 く 決 断 を 下 せ る 得 意 分 野 を 持 っ て い る と し 、 直 観 の 重 要 性 と「 直 観 は 経 験 に よ っ て 養 う こ と が で き る 」( 同 、p.51) こ と を 主 張 し て い る 。 意 思 決 定 に つ い て さ ま ざ ま な 議 論 が あ る が 、 こ れ ら の 先 行 研 究 が 主 張 す る よ う に 、 良 き 意 思 決 定 を す る に は 、 分 析 と 直 観 を 結 合 す る こ と が 必 要 で あ ろ う 。 ベ ヒ ト ラ ー が 言 及 す る よ う に 、 理 論 と 現 実 と の 間 で 進 行 す る 反 復 過 程 は 、 科 学 的 思 考 と 直 観 と の 間 に も 同 様 に 存 在 す る 。 現 場 に お け る 意 思 決 定 に 必 要 な 直 観 力 は 、 科 学 的 思 考 の 領 域 で な さ れ た 情 報 を 活 用 し 、 現 実 と の 反 復 経 験 に よ っ て 養 わ れ る 。 直 観 力 が 養 わ れ た 人 材 を 数 多 く 育 成 し 、 企 業 組 織 の 集 合 的 直 観 力 を 総 動 員 ま た は 解 放 す る こ と に 成 功 し た 戦 略 的 な 企 業 が 、 創 造 性 が 最 も 要 求 さ れ る 部 門 た と え ば 研 究 開 発 部 門 で 、 他 の ラ イ バ ル 企 業 に 比 べ て 大 き な 成 果 を 継 続 的 に あ げ て い る 企 業 と 成 り 得 る 。 ダ ベ ン ポ ー ト ( 2007) が 言 及 す る よ う に 、 科 学 的 思 考 の 強 化 に は 時 間 が か か る し 、 直 観 力 の 強 化 に は 更 に 時 間 を 要 す る だ ろ う 。 本 研 究 は 、 統 計 的 研 究 で あ る が 、 分 析 の み を 重 視 し て 直 観 を 否 定 す る こ と を 主 眼 と し て い な い 。 科 学 的 統 計 的 分 析 に よ っ て 得 ら れ た 管 理 会 計 の 知 識 を 、 現 場 で 容 易 な 分 析 方 法 と と も に 経 営 管 理 者 に 提 示 し 、 よ り 良 い 意 思 決 定 を 促 し 、 個 別 企 業 の 実 務 者 に よ る 具 体 的 行 動 へ と 導 く こ と を 狙 い と し て い る 。 こ う い っ た 研 究 と 実 務 と の 結 合 行 動 の 繰 り 返 し が 、 ダ ガ ン が 言 う 戦 略 的 直 観 を 強 化 す る こ と を 期 待 し て い る と 同 時 に 、管 理 会 計 的 分 析 力 の 強 化 に 繋 が る と 信 じ て い る 。
14 ( 3 ) 研 究 方 法 に お け る 位 置 づ け 本 研 究 は 、 実 証 的 ア プ ロ ー チ の 一 つ で あ る 統 計 的 研 究 方 法 を 採 用 し て い る 。 会 計 学 に お け る 研 究 ア プ ロ ー チ は 様 々 で あ る が 、 主 と し て 規 範 的 ア プ ロ ー チ と 記 述 的 ア プ ロ ー チ に 区 分 さ れ る( 薄 井 、2015、p.27)。 規 範 的 ア プ ロ ー チ に は 、 経 済 学 を 基 礎 と し て 「 真 の 利 益 」 を 演 繹 す る ア プ ロ ー チ や 、 会 計 実 務 で 採 用 さ れ て い る 会 計 基 準 か ら 帰 納 的 に 会 計 理 論 を 導 出 し 、 そ こ か ら 「 あ る べ き 」 会 計 ル ー ル を 演 繹 す る と い っ た ア プ ロ ー チ が あ る 。 「 1966 年 に ア メ リ カ 会 計 学 会 (American Accounting Association 、 1966) が 「 意 思 決 定 有 用 性 ア プ ロ ー チ 」 を 提 唱 し て 以 降 、 会 計 あ る い は 財 務 報 告 を 、 情 報 利 用 者 の 意 思 決 定 に 有 用 な 情 報 を 提 供 す る シ ス テ ム と し て 捉 え る 視 点 が 支 配 的 と な り 」 (伊 藤 、 2016、 p.55)、 会 計 実 務 だ け で な く 、 意 思 決 定 有 用 性 と い う 概 念 規 定 か ら 、 望 ま し い 会 計 基 準 を 演 繹 す る ア プ ロ ー チ が 採 用 さ れ て い る 。 記 述 的 ア プ ロ ー チ は 、 「 あ る べ き 」 会 計 を 考 察 す る 規 範 的 ア プ ロ ー チ と は 対 照 的 に 、 現 実 の 会 計 現 象 に 着 目 し 、 そ れ が ど の よ う に 成 り 立 っ て い る か を 、科 学 的 手 法 に よ っ て 解 明 す る ア プ ロ ー チ で あ る 。 「 実 証 的 ア プ ロ ー チ は 、 記 述 的 ア プ ロ ー チ の 一 つ で あ る 」 ( 薄 井 、 2015、 p.28) 。 市 場 を 研 究 対 象 と し た 実 証 的 ア プ ロ ー チ に よ り 、 会 計 情 報 に 関 す る 有 用 性 評 価 の 基 本 デ ザ イ ン が 構 築 さ れ つ つ あ る 。 記 述 的 ア プ ロ ー チ の 方 法 論 に は 、 主 に ア ー カ イ バ ル 研 究 、 分 析 的 研 究 、 実 験 的 研 究 が あ る 。 ア ー カ イ バ ル 研 究 は 、 学 術 研 究 以 外 の 目 的 で 集 め ら れ た デ ー タ を 、 計 量 経 済 学 的 手 法 を 用 い て 仮 説 検 定 を 行 う 定 量 的 か つ 経 験 的 研 究 で あ る 。 分 析 的 研 究 は 、 数 式 を 用 い て 構 築 さ れ た モ デ ル に 基 づ い て 、 自 ら 示 し た い 命 題 を 証 明 し て い く 研 究 ス タ イ ル で あ り 、 主 に 経 済 理 論 が 基 礎 と な る 。 実 験 的 研 究 は 、 実 験 経 済 学 あ る い は 行 動 科 学 の 手 法 を 会 計 学 に 応 用 し て 実 験 を 行 い 、 変 数 を コ ン ト ロ ー ル し て 因 果 関 係 を 特 定 す る こ と が で き る 。 ア ー カ イ バ ル 研 究 も 分 析 的 研 究 も 、 研 究 対 象 に 関 す る 統 計 的 デ ー タ を 体 系 的 に
15 収 集 し た 上 で 、そ れ を 統 計 的 に 分 析 す る 研 究 方 法 で あ る 。 本 研 究 は 、 研 究 ア プ ロ ー チ と し て は 、 実 証 的 ア プ ロ ー チ で あ り 、 そ の 研 究 方 法 は ア ー カ イ バ ル 研 究 か つ 分 析 的 研 究 あ る た め 、 統 計 的 に 分 析 す る 研 究 方 法 を 採 用 す る 。 統 計 的 研 究 方 法 は 、 し ば し ば 事 例 研 究 と 対 比 さ れ る 。 事 例 研 究 と は 、 社 会 現 象 、 特 に 経 済 現 象 の 中 で ひ と ま と ま り を な す と 想 定 さ れ る も の に つ い て 研 究 す る こ と で あ る 。 ト ヨ タ 自 動 車 の 原 価 企 画 ( 田 中 、1994)、松 下 電 器 産 業( 現 パ ナ ソ ニ ッ ク )の 事 業 部 制 会 計 (石 山 、 1967)な ど を 対 象 と し た 研 究 は 、 典 型 的 な 事 例 研 究 で あ る 。 事 例 研 究 の 特 徴 は 、 一 個 の 個 体 に 関 心 を 持 っ て い る こ と で あ る 。 一 方 、 統 計 的 研 究 方 法 の 関 心 は 、 複 数 の 個 体 か ら な る 個 体 群 の 全 体 に あ る 。 こ こ で は 一 個 一 個 の 個 体 に 関 心 が あ る の で な く 、個 体 群 全 体 に お い て 、 ど の よ う な 現 象 が 観 察 さ れ る か に 関 心 が あ る 。 す な わ ち 、 平 均 値 、 標 準 偏 差 、相 関 係 数 、回 帰 係 数 な ど の 統 計 指 標 を 用 い る こ と に よ り 、 個 体 群 全 体 の 特 性 を 明 ら か に し よ う と す る 点 に 統 計 的 研 究 方 法 の 特 徴 が あ る 。 大 規 模 な 個 体 群 全 体 に 見 ら れ る 管 理 会 計 現 象 の 特 性 を 把 握 し た り 、 理 論 に よ っ て 予 測 さ れ る 特 定 の 変 数 間 の 因 果 関 係 が 個 体 群 全 体 に お い て 成 立 し て い る か に つ い て 、 統 計 的 デ ー タ に よ る 経 験 的 な 検 証 を 行 う に は 、統 計 的 研 究 方 法 は 適 し て い る 。梶 原( 2012 、p.318)で は 、 「 統 計 的 方 法 の 最 も 得 意 と す る こ と は 、 多 数 の 変 数 間 の 複 雑 な 相 互 関 係 に つ い て 、 多 様 な 統 計 的 分 析 技 法 を 用 い な が ら 明 ら か に す る と こ ろ に あ る 」 と 論 じ て い る 。 記 述 的 ア プ ロ ー チ は 反 証 可 能 性 を 有 し て お り 、客 観 性 も 高 い た め 、 優 れ た 研 究 ア プ ロ ー チ で あ る と 言 え る が 、 一 方 数 値 デ ー タ が 入 手 で き る も の し か 研 究 対 象 に で き な い と い う 限 界 が あ る 。 6 . 管 理 会 計 に お け る 統 計 的 研 究 方 法 の 適 用 課 題 ( 1 ) 統 計 的 研 究 方 法 の 長 所 と 短 所 統 計 的 研 究 方 法 に 用 い ら れ る ア ー カ イ バ ル デ ー タ は 、 誰 も が 入 手
16 で き る こ と が で き る 公 表 デ ー タ と 特 定 の 個 人 や 団 体 が 所 有 し て い る 機 密 デ ー タ に 区 分 さ れ る 。 管 理 会 計 に 利 用 さ れ る 統 計 的 デ ー タ は 多 様 で あ る 。 財 務 諸 表 に 表 示 さ れ る 売 上 原 価 や 販 売 費 お よ び 一 般 管 理 費 な ど の 公 表 財 務 デ ー タ 、 工 場 の 製 造 原 価 デ ー タ 、 不 良 率 や 顧 客 満 足 度 な ど の 非 財 務 デ ー タ 、 質 問 票 や 実 験 を 通 じ て 定 量 的 に 評 価 さ れ た 予 算 目 標 の 厳 格 度 、 予 算 編 成 へ の 参 加 度 、 予 算 達 成 度 と 報 酬 の リ ン ク の 程 度 、 モ チ ベ ー シ ョ ン 、 組 織 業 績 な ど 、 さ ま ざ ま な タ イ プ の 統 計 的 デ ー タ が 用 い ら れ る 。公 表 デ ー タ と し て は 、公 表 財 務 デ ー タ 、 業 界 団 体 や 公 的 機 関 が 収 集 し て い る デ ー タ が 、機 密 デ ー タ と し て は 、 社 内 業 績 デ ー タ が そ の 典 型 で あ ろ う 。 Moers(2007)は 、統 計 的 研 究 の 長 所 と 短 所 を 次 の よ う に 指 摘 し て い る 。 ま ず 、 長 所 で あ る が 、 第 1 に 、 研 究 に 必 要 な ア ー カ イ バ ル デ ー タ が 既 に 利 用 可 能 な 状 態 で 存 在 し て い る 場 合 が あ る 。 研 究 者 は 、 必 要 な デ ー タ を 新 た に 収 集 す る 煩 雑 な 作 業 や さ ま ざ ま な 困 難 性 を 回 避 す る こ と が 出 来 る 。 第 2 に 、 学 術 研 究 以 外 の 目 的 で 第 三 者 が 行 う サ ー ベ イ 調 査 は 、 内 容 が 包 括 的 で あ り 、 長 期 に 渡 っ て 継 続 的 に 実 施 さ れ る こ と が 多 い 。 ま た 、 回 答 率 が 高 く 、 標 本 サ イ ズ も 大 き い 。 大 規 模 な 標 本 サ イ ズ は 検 定 力 を 高 め 、バ イ ア ス の な い 推 定 が 可 能 と な る 。 第 3 に 、 公 表 財 務 デ ー タ や 社 内 事 業 部 門 業 績 デ ー タ の よ う な ア ー カ イ バ ル デ ー タ の 多 く は 、 イ ン タ ビ ュ ー 研 究 の よ う に 回 答 者 の 影 響 を 受 け る こ と が な く 、回 答 者 の バ イ ア ス を 排 除 す る こ と が 可 能 で あ る 。 第 4 に 、 公 表 財 務 デ ー タ な ど の ア ー カ イ バ ル デ ー タ は 、 時 系 列 デ ー タ や パ ネ ル ・ デ ー タ と し て 利 用 出 来 る こ と が 多 い 。 時 系 列 デ ー タ や パ ネ ル ・ デ ー タ の 利 用 は 、 管 理 会 計 実 践 の 動 的 な 変 動 の 分 析 を 可 能 と す る 。 次 に 短 所 や 限 界 に つ い て で あ る 。 管 理 会 計 研 究 に 利 用 で き る 公 表 デ ー タ は 、 概 ね 公 表 財 務 デ ー タ に 限 定 さ れ て い る 。 ま た 、 公 表 デ ー タ の 大 部 分 は 、企 業 や 組 織 全 体 の レ ベ ル の デ ー タ に 限 ら れ る 。 機 密 デ ー タ を 入 手 し よ う と す る と 、膨 大 な 時 間 と 労 力 が 必 要 で あ り 、 そ れ ら が 無 駄 に な る こ と も 少 な く な い 。 Moers(2007)が 挙 げ る こ れ ら の 長 所 や 欠 点 に 追 加 し て 、統 計 的 研 究
17 に は 、次 の よ う な 懸 念 が 存 在 す る 。第 1 に 、ス ミ ス (2015、pp.184-185) は ,ア ー カ イ バ ル 研 究 に は 妥 当 性 へ の 懸 念 は 残 る と 指 摘 す る 。た と え ば 、 企 業 デ ー タ の 選 定 に お い て 規 模 や 業 種 の マ ッ チ ン グ 手 続 き を 採 用 し た 場 合 、 代 表 的 で な い サ ン プ ル を 選 ぶ 危 険 が あ る 。 そ の 時 の 結 果 は 、 選 択 さ れ た 個 別 企 業 群 に の み 固 有 の も の で あ る と い う 可 能 性 が あ る 。 ま た 、 「 会 計 上 の 変 更 」 を 含 む 財 務 諸 表 デ ー タ や 異 な る 情 報 源 を 用 い る 場 合 、 デ ー タ 間 に 生 じ る 測 定 方 法 の 違 い が 、 結 果 の 妥 当 性 を 脅 か す 恐 れ が あ る 。 こ の よ う に 計 測 区 分 や 情 報 源 の 変 更 、 あ る い は 保 持 す る デ ー タ 採 取 の 対 象 期 間 に お け る 関 連 規 範 や 法 律 ・ 財 務 報 告 要 件 ・ 会 計 方 針 の 変 更 の す べ て が 、 企 業 デ ー タ の ア ー カ イ バ ル 検 索 か ら 得 ら れ た 結 果 に 影 響 を 与 え る 。 こ の よ う な 変 更 の 影 響 を 適 切 に コ ン ト ロ ー ル し な け れ ば 問 題 が 生 じ る 。 ア ー カ イ バ ル 研 究 で は 、 通 常 マ ッ チ ン グ サ ン プ ル を 用 い て 対 応 す る こ と が 多 い が 、 マ ッ チ ン グ の 方 法 の 妥 当 性 や 正 確 性 を 確 か め る 方 法 が な い 。 外 的 に も 内 的 に も 妥 当 性 の 懸 念 は 残 さ れ る 。 本 研 究 が 対 象 と す る 研 究 開 発 費 に つ い て 言 え ば 、 1998 年 3 月 に 企 業 会 計 審 議 会 が 、 「 研 究 開 発 費 等 に 係 る 会 計 基 準 の 設 定 に 関 す る 意 見 書 」 を 公 表 し 、 新 し い 会 計 基 準 が 制 定 さ れ 、 研 究 開 発 費 は 発 生 時 全 額 費 用 処 理 す る こ と と な っ た 。 以 前 は 部 分 的 な 資 産 化 が 認 め ら れ て い た た め 、こ の 会 計 基 準 の 変 更 は 、 財 務 諸 表 に お け る 公 表 研 究 開 発 費 や 公 表 利 益 に 影 響 を 与 え る 。 第 2 に 、 実 証 的 ア プ ロ ー チ は 、 様 々 な 研 究 テ ー マ ・ 課 題 の 下 で 設 定 さ れ た 仮 説 や 自 分 が 示 し た い 命 題 を 、 統 計 的 手 法 を 通 じ て 検 証 す る も の で あ る 。 統 計 的 な 手 法 を 通 じ て 行 う 実 証 研 究 に は 、 仮 説 設 定 に お け る バ イ ア ス 、 変 数 を 特 定 化 す る 際 の 分 析 者 の 主 観 性 、 実 証 モ デ ル の 選 択 、 検 証 結 果 の 解 釈 の 問 題 に 、 分 析 者 の 主 観 性 や 恣 意 性 の 懸 念 が 拭 い き れ な い 。 統 計 的 実 証 研 究 に 限 ら ず 、 研 究 者 バ イ ア ス の 存 在 を 意 識 し て お く こ と は 重 要 で あ る 。 第 3 に 、統 計 的 研 究 の 結 果 が 、実 務 を 反 映 し て い る と は 限 ら な い 。 椎 葉 ( 2012、 p.339 ) は 、 「 管 理 会 計 研 究 に お い て 研 究 内 容 の 「 レ リ バ ン ス 」 と 「 リ ラ イ ア ビ リ テ ィ 」 は 高 い 方 が よ い と 一 般 に 言 え る 」
18 と し 、 「 レ リ バ ン ス 」 と は 、 実 際 の 企 業 行 動 や 管 理 会 計 の 実 務 を ど の 程 度 把 握 反 映 し て い る か 、 あ る い は 説 明 し て い る か と い う 観 点 か ら の 評 価 基 準 で あ り 、 「 リ ラ イ ア ビ リ テ ィ 」 と は そ の 研 究 が ど の く ら い 信 頼 で き る 研 究 手 法 に よ っ て 検 証 ・ 分 析 さ れ て い る か と い っ た 観 点 か ら の 筆 者 独 自 の 評 価 基 準 で あ る 。椎 葉( 2012 、p.340)は 、「 ア ー カ イ ル バ ル デ ー タ に 基 づ く 実 証 研 究 は 、 比 較 的 リ ラ イ ア ビ リ テ ィ は 高 い が 、 レ リ バ ン ス は 低 い と さ れ る 。 ア ー カ イ ル バ ル 研 究 や 分 析 的 研 究 は 、 個 体 群 全 体 に お い て 、 ど の よ う な 現 象 が 観 察 さ れ る か に 関 心 が あ る 。 観 察 さ れ た 個 体 群 全 体 の 現 象 が 、 個 別 企 業 の 行 動 や 実 務 を 強 く 反 映 し て い る と は か ぎ ら な い か ら で あ る 。 レ リ バ ン ス と リ ラ イ ア ビ リ テ ィ の 基 準 が と も に 高 く な る よ う な 最 善 の 研 究 手 法 は 存 在 せ ず 、 管 理 会 計 研 究 が 対 象 と す る よ う な 複 雑 な 現 象 の 解 明 に は さ ま ざ ま な 研 究 手 法 に 基 づ い て 多 方 面 か ら 検 討 し て い か な け れ ば な ら な い 」 と し て い る 本 研 究 が 採 用 す る ア ー カ イ バ ル デ ー タ に 基 づ く 統 計 的 研 究 に は 、 上 記 懸 念 を 最 小 化 す る た め に は 、 分 析 範 囲 を 産 業 レ ベ ル か ら 個 別 企 業 に ま で 広 げ 、 理 論 的 研 究 に 沿 っ た 検 証 手 続 き の 精 微 化 、 適 切 な 統 計 手 法 の 適 用 と と も に 、 実 用 性 に 富 む 複 数 の 分 析 方 法 を 用 い た 研 究 結 果 と の 照 合 が 重 要 に な る 。 ( 2 ) 管 理 会 計 領 域 に お け る 統 計 的 研 究 方 法 の 適 用 状 況 と 課 題 本 研 究 で は 、 ア ー カ イ バ ル デ ー タ を 統 計 的 に 処 理 し て 、 研 究 開 発 費 の 規 模 の 決 定 要 因 と 費 用 対 効 果 を 明 ら か に す る と と も に 、 そ の 分 析 方 法 を 提 示 す る 。 本 項 で は 、 管 理 会 計 学 問 的 領 域 に お け る 統 計 的 研 究 方 法 の 適 用 状 況 の 視 点 か ら 、 管 理 会 計 研 究 の 課 題 を 提 示 す る 。 梶 原 ( 2012、 p.332) で は 、「 今 後 、 ア ー カ イ バ ル リ サ ー チ を 採 用 す る 管 理 会 計 研 究 が 増 加 す る こ と が 望 ま れ る 。 た だ し 現 状 で は 、 ど の よ う な ト ピ ッ ク ス に つ い て 、 ど の よ う な ア ー カ イ バ ル デ ー タ を 利 用 す る こ と が で き る の か 、 ま た そ の デ ー タ は ど こ に 存 在 す る の か に つ い て 十 分 な 知 識 や 経 験 の 蓄 積 が な い 。 し た が っ て 、 当 面 は 、 多 様
19 な ア ー カ イ バ ル デ ー タ を 開 拓 し な が ら 、 そ れ ら の デ ー タ が ど の よ う な 管 理 会 計 現 象 を 明 ら か に す る 上 で 有 益 で あ る の か に つ い て 、 さ ま ざ ま な 試 行 を 行 う と と も に 、 研 究 成 果 の 妥 当 性 に つ い て 研 究 者 間 で の 批 判 的 な 検 証 作 業 を 繰 り 返 す こ と が 必 要 で あ ろ う 」と す る 。更 に 、 梶 原 ( 2012、 p.334 ) で は 、 「 残 念 な が ら 、 日 本 的 管 理 会 計 に 関 し て は 、 こ う し た 統 計 的 方 法 に よ る 経 験 的 妥 当 性 の 検 証 の 努 力 が 十 分 に 行 わ れ て き た と は 言 え な い 。 ( 中 略 ) 統 計 的 方 法 を 適 切 に 適 用 す る こ と は 、 日 本 的 管 理 会 計 研 究 を 飛 躍 的 に 進 展 さ せ る 上 で 強 力 な 原 動 力 に な り う る 」 と 言 明 し て い る 。 こ の よ う に 、 日 本 の 管 理 会 計 研 究 に お い て 、 統 計 的 方 法 の 適 用 の 有 用 性 を 認 め な が ら も 、 そ の 適 用 状 況 は 限 定 的 で あ る と 言 わ ざ る を 得 な い 。 そ の 原 因 を 梶 原 ( 2012 ) は 日 本 の 管 理 会 計 研 究 の 歴 史 的 経 緯 に 求 め て い る 。 つ ま り 、 「 日 本 の 管 理 会 計 研 究 で は 、 会 計 技 術 的 立 場 か ら 特 定 の 管 理 会 計 技 法 の 技 術 的 特 徴 を 検 討 す る タ イ プ の 研 究 や 特 定 企 業 に お け る 管 理 会 計 実 践 の 事 例 研 究 に 力 が 注 が れ 、 統 計 的 方 法 を 必 要 と す る 実 証 研 究 そ の も の が 少 な い 」 ( 同 、 p.32) と し て い る 。 ( 3 ) 統 計 的 管 理 会 計 研 究 の 実 践 に お け る 課 題 伊 藤 (1992、 p.377)は 、「 科 学 的 方 法 に 徹 す れ ば 徹 す る ほ ど 、 管 理 会 計 に お け る 理 論 と 実 務 の 乖 離 は 、か え っ て 増 幅 さ れ て し ま っ た 」。 ま た 、 「 科 学 的 な い し 合 理 主 義 的 方 法 が 、 い か に 精 微 な 理 論 体 系 を 作 り 上 げ た と し て も 、 そ れ だ け で は 現 実 は 動 か な い 」 と 言 及 し て い る 。 加 登 ( 2010、 p.351) は 、 「 ト ッ プ レ ベ ル の 学 術 雑 誌 に 掲 載 さ れ る ( 管 理 会 計 の ) 論 文 に は 、 実 務 に 対 す る イ ン プ リ ケ ー シ ョ ン が ほ と ん ど な い 。 特 定 の 学 術 雑 誌 で は 事 実 上 研 究 方 法 論 が 限 定 さ れ て い る 、 限 ら れ た 研 究 者 し か 読 み こ な せ な い な ど と い っ た 問 題 が あ る 」 と 指 摘 し て い る 。 研 究 の 高 い 価 値 を 求 め て 、 イ ン プ リ ケ ー シ ョ ン を 導 き 出 す た め に 、 比 較 的 「 リ ラ イ ア ビ リ テ ィ 」 の 高 い 手 法 で あ る 統
20 計 的 手 法 を 講 ず れ ば 講 ず る ほ ど 、 そ れ を 理 解 す る に 専 門 的 知 識 が 必 要 と な り 、 特 定 の 専 門 家 の 範 囲 に 限 定 さ れ た 研 究 と な る 。 実 践 家 の 経 営 上 の 関 心 は 、 管 理 会 計 研 究 よ り 提 示 さ れ た 知 識 の 現 時 点 に お け る 自 社 へ の 適 用 性 で あ り 、 適 用 し た 時 の 結 果 で あ る 。 し か し 、 福 井 ( 2014a、 2014b) 、 新 井 ( 2016) が 指 摘 す る よ う に 、 統 計 的 管 理 会 計 研 究 で 開 発 さ れ た 分 析 モ デ ル を 実 務 者 が 自 社 の 限 ら れ た デ ー タ に 応 用 し よ う と 試 み る と き 、 小 量 サ ン プ ル に お け る 調 査 と な り 、 管 理 会 計 研 究 と 共 通 の 分 析 方 法 を 適 用 す る こ と が 困 難 で あ る こ と が 多 く あ る 。ア メ リ カ 経 営 学 会 会 長 の 就 任 報 告( Rousseau、2006) に お い て も、管 理 会 計 研 究 が 提 示 す る 原 理 ・ 原 則 の 確 認 が 、 観 測 数 の 制 限 か ら そ の 実 践 に お い て 限 界 が あ る と 指 摘 し て い る 。 統 計 的 研 究 手 法 な ど の 科 学 的 方 法 に は 、 そ れ に よ っ て 構 築 さ れ る 理 論 的 世 界 の み が 真 実 で 、 本 来 の 実 務 社 会 を 軽 視 す る 考 え 方 を 生 み だ す 危 険 性 を 、 も と も と 孕 ん で い る こ と に 注 意 が 必 要 で あ る 。 つ ま り 、 統 計 的 管 理 会 計 の 貢 献 に つ い て は 、 原 理 ・ 原 則 を 「 リ ラ イ ア ビ リ テ ィ 」 の 高 い 統 計 的 手 法 に よ っ て 明 ら か に す る 貢 献 だ け で な く 、 実 践 に お け る 適 用 を 可 能 に す る 方 法 論 を 開 発 す る と い う 方 法 論 的 貢 献 も 必 要 で あ る 。 理 論 と 実 務 を 連 結 す る に は 、 学 問 に お け る 研 究 者 と 企 業 に お け る 実 務 者 の 双 方 の 歩 み よ り が 必 要 で あ る 。 た と え 実 務 に お い て 含 意 を 持 つ 管 理 会 計 理 論 と 方 法 で あ っ て も 、 実 務 に 広 く 展 開 す る に は 困 難 を 伴 う 。 ジ ョ ン ソ ン ・ キ ャ プ ラ ン ( 1992、 pp.240-241) は 、 「 会 計 担 当 者 は 、 管 理 会 計 シ ス テ ム を 設 計 す る こ と に 独 占 的 な 特 権 を 持 つ べ き で な い 。 ( 中 略 ) 新 た な 管 理 シ ス テ ム を 設 計 す る と き 、 エ ン ジ ニ ア や 現 場 管 理 者 の 意 欲 的 な 関 わ り 合 い は 必 須 な の で あ る 」 と 、 特 定 の 企 業 の 会 計 担 当 者 が 理 論 の 含 意 を 企 業 内 に 発 見 し た と し て も 、 企 業 内 で そ の 拡 大 展 開 を 行 う 困 難 さ を 指 摘 す る 。 こ の 困 難 さ は 、 管 理 会 計 が 持 つ 特 色 に 関 係 し て い る 。 「 大 部 分 の 経 営 学 分 野 は 、 そ れ に 対 応 す る 固 有 の 機 能 部 門 が 企 業 内 に 存 在 す る 。 研 究 領 域 に 1 対 1 で 対 応 す る 機 能 部 門 を 企 業 内 に 持 た な い の は 管 理 会 計 の み で あ る 」
21 ( 加 登 、 2010 、 p.3 4 5 ) 。 た と え ば 、 経 営 戦 略 領 域 で は 経 営 企 画 室 、 フ ァ イ ナ ン ス で あ れ ば 財 務 部 、 オ ペ レ ー シ ョ ン ・ マ ネ ジ メ ン ト な ら 製 造 部 、 財 務 会 計 な ら 経 理 部 な ど 、 管 理 会 計 以 外 の 研 究 領 域 に は 、 そ れ と 対 応 す る 単 一 機 能 部 門 を 企 業 内 に も つ 。 「 管 理 会 計 研 究 は 、 多 く の 経 営 機 能 と の 関 連 性 を 有 す る た め に 存 在 価 値 を も ち 、 経 営 現 象 を 鳥 瞰 し 解 明 で き る と い う 特 色 が あ る が 、 一 方 、 複 数 の 経 営 機 能 と の ネ ッ ト ワ ー ク か ら 生 ま れ る 管 理 会 計 の 複 合 性 が 管 理 会 計 研 究 の 企 業 内 展 開 を 困 難 に し て い る」( 加 登 、2010、p.345)と 考 え ら れ る 。 管 理 会 計 研 究 者 が 提 示 す る 方 法 論 は 容 易 な ほ ど よ い で あ ろ う 。 Rousseau( 2006)に お い て 、 Pfeffer & Sutton (2006)の 「 事 実 に 基 づ く 経 営 」 を 参 照 し て ,「 最 良 の 証 拠 に 基 づ い た 原 理 を 組 織 の 実 践 に 向 け て 翻 訳 す る こ と 」 を 提 言 し た 。 統 計 的 ・ 定 量 的 管 理 会 計 研 究 者 が 提 供 す る 理 論 と 方 法 論 は 、 実 務 者 が そ れ ら の 実 践 に よ っ て 獲 得 す る 自 社 の 管 理 会 計 的 知 識 と セ ッ ト に な っ て は じ め て 、 そ の 研 究 に 有 用 性 を も た ら す 。 7. 本 稿 の 構 成 本 章 に 続 く 、 第 2 章 で は 、 企 業 は 研 究 開 発 費 の 規 模 を ど の よ う に 決 定 し て い る の か に つ い て 、 1989 年 か ら 2012 年 の 24 年 間 の 日 本 の 産 業 別 パ ネ ル ・ デ ー タ を 用 い て 分 析 す る 。 研 究 開 発 費 規 模 を 決 定 す る 企 業 内 外 要 因 を 仮 説 と し て 抽 出 し 、 さ ら に 日 本 製 造 業 に お け る 研 究 開 発 費 の 予 算 編 成 法 の 現 状 を 明 ら か に す る 。 第 3 章 で は 、 日 本 の 主 要 な 産 業 を 対 象 に 、 27 年 間 の 産 業 別 財 務 測 度 の パ ネ ル ・ デ ー タ を 使 用 す る 。 そ れ ら を 生 産 関 数 に 適 用 し 、 我 が 国 の 研 究 開 発 費 の 生 産 性 を 推 定 し て 、 現 状 を 把 握 す る 。 研 究 開 発 費 の 定 量 的 生 産 性 分 析 の 実 証 研 究 は 、生 産 関 数 を 用 い て 数 多 く 行 わ れ て き た が 、 提 示 さ れ た モ デ ル の 理 論 的 妥 当 性 と 統 計 的 検 証 に お い て 計 量 経 済 学 的 問 題 も 散 見 さ れ て い る 。 生 産 関 数 を 用 い た 推 計 方 法 に お け る 問 題 の 所 在 と そ の 対 処 方 法 を 明 ら か す る 。 第 4 章 で は 、 研 究 開 発 の 生 産 性 ・ 収 益 性 の 上 昇 に 貢 献 す る 要 因 に 、
22 自 ら 行 う 研 究 開 発 努 力 の 他 に 、 他 の 産 業 や 企 業 が 行 う 研 究 開 発 に 注 目 す る 。 こ れ が も た ら す 生 産 性 ・ 収 益 性 効 果 は 、 技 術 ス ピ ル オ ー バ ー と 呼 ば れ て い る 。 た と え ば 、 他 の 企 業 で 、 設 備 や 機 械 あ る い は 原 材 料 に つ い て 優 れ た 製 品 が 開 発 さ れ 、 そ れ を 当 該 企 業 が 生 産 過 程 で 使 用 す れ ば 、 当 該 企 業 の 生 産 性 が 上 昇 す る 。 ま た 、 既 存 の 文 献 や 特 許 、 人 的 交 流 を 通 じ て 他 企 業 が 獲 得 し た 技 術 知 識 や ア イ デ ア が 伝 播 し て 当 該 企 業 の 生 産 性 に 寄 与 す る 。 脱 成 熟 化 の 過 程 を 長 く 歩 ん で い る 繊 維 工 業 の 時 系 列 デ ー タ を 分 析 対 象 と し て 、 繊 維 工 業 に お け る 研 究 開 発 の 収 益 性 に 、 他 業 種 が 行 う 繊 維 分 野 の 研 究 投 資 が 及 ぼ す 影 響 、 す な わ ち 技 術 ス ピ ル オ ー バ ー の 影 響 を 加 え て 考 察 す る 。 第 5 章 で は 、 日 本 の 製 造 業 お よ び 繊 維 工 業 を 対 象 に 産 業 レ ベ ル の デ ー タ を 用 い て 、 研 究 開 発 費 の 効 率 に つ い て 分 析 す る 。 第 3 章 お よ び 第 4 章 で は 、 研 究 開 発 費 の 生 産 性 ・ 収 益 性 を 分 析 す る が 、 第 5 章 で は 、 研 究 開 発 の 効 率 に 注 目 す る 。 研 究 開 発 の 効 率 を 、 研 究 開 発 費 が 財 務 的 成 果 に 結 び つ く 程 度 と 解 釈 す る 。 し た が っ て 、 研 究 開 発 の 効 率 を 、 費 用 と 収 益 と の 対 応 と し て 捉 え 、 村 上 ( 1999) に 依 拠 し て 、 過 去 5 年 間 の 研 究 開 発 費 の 成 果 と し て 、 過 去 5 年 間 営 業 利 益 が ど の く ら い 獲 得 さ れ て い る か を 計 測 ( 以 下 、 研 究 開 発 効 率 の 測 定 と 称 す ) す る 。 分 析 対 象 は 製 造 業 全 体 あ る い は 繊 維 工 業 で 、 デ ー タ 取 得 期 間 は 、 1971 年 度 か ら 2012 年 度 の 42 年 間 で あ る 。 第 6 章 で は 、 繊 維 工 業 に お け る 大 手 企 業 9 社 な い し 10 社 の 2001 年 度 か ら 2017 年 度 ま で の 有 価 証 券 報 告 書 の デ ー タ を 統 合 し た パ ネ ル・デ ー タ に 、 変 量 効 果 ・ 固 定 効 果 モ デ ル 、 費 用 収 益 対 応 度 分 析 、 お よ び 研 究 開 発 効 率 の 測 定 を 適 用 す る 。 費 用 収 益 対 応 度 の 分 析 、 研 究 開 発 効 率 の 測 定 の 二 つ の 分 析 方 法 に つ い て 、 研 究 開 発 の 利 益 創 出 力 の 代 理 指 標 と し て の 実 務 適 用 性 を 検 証 す る 。 費 用 収 益 対 応 度 の 分 析 は 、 Dichev & Tang (2008)、 新 井 ( 2016) が 提 示 す る 方 法 で あ る 。 収 益 と 研 究 開 発 費 の 対 応 度 の 高 低 は 、 収 益 と 研 究 開 発 費 の 相 関 度 を 表 す と い う 仮 定 に 基 づ い て 、 そ の 対 応 度 の 経 年 推 移 を 分 析 す る 方 法 で 、 研 究 開 発 費 の 効 率
23 の 変 化 を 感 知 す る 方 法 で あ る 。 ま た 、 企 業 別 に 、 実 績 推 移 を 観 察 し 、 そ の 後 研 究 開 発 効 率 の 測 定 を 適 用 し 、 大 手 繊 維 企 業 の 研 究 開 発 効 率 の 現 状 を 把 握 す る 。 費 用 収 益 対 応 度 の 分 析 、 お よ び 研 究 開 発 効 率 の 測 定 に つ い て 実 務 適 用 性 を 検 証 す る が 、 特 に 研 究 開 発 効 率 に つ い て は 、 小 量 デ ー タ で 測 定 が 可 能 で 、 業 種 全 体 の マ ク ロ 分 析 に も 、 ま た 、 自 社 の 研 究 開 発 費 の 生 産 性 を 、 競 合 あ る い は ベ ン チ マ ー ク 企 業 と 比 較 検 討 す る な ど の ミ ク ロ 分 析 に も 使 用 す る こ と が 出 来 る 分 析 方 法 で あ る 。 そ し て 戦 略 的 に 目 標 設 定 す る こ と に よ っ て 、 研 究 開 発 費 の 収 益 創 出 力 を 向 上 に 役 立 た せ る こ と が 出 来 る こ と か ら 、 実 務 適 用 性 に 優 れ る と 考 え ら れ る 。 第 7 章 で は 、 本 研 究 の 要 約 と 明 ら か に さ れ た 知 見 を 述 べ た 上 で 、 将 来 研 究 へ の 展 望 を 述 べ て い る 。