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管理会計の機能について-香川大学学術情報リポジトリ

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管理会計の機能について

三 浦 和 夫 Ⅰ.はしがきⅠⅠい 管理会計の萌芽一社式鯖記成立期的理解と科学的 管理法成立期的理解−ⅠⅠⅠ財務会計と管理会計一外部・内部報 望全音=l勺アプロ・−チと機髄的アプローチーⅠⅤ.情報システムとして の管理会計¶封野手段の目的への適応プロセス的接近と情報システム的 接近 Ⅴ.管理会計論の構造一経儲意駁決定機憶と会計情報機能との 関係−ⅠⅤ..むすび Ⅰ 管理会計(management accounting,managerialaccounting)は,一L般に 「マネジメントのための会計.として理解される1)が,これのみでは管理会計 の意義は明らかではない。管理会計の意義は,会計の他の側面である財務会計 (丘nancialaccounting)との対立関係において明らかにされるのが常である。 財務会計は,一・般に「経営成績と財政状態を公表財務諸表に要約して報告する ことを目的とする会計.として理解される。この場合に「公表される財務諸 表.の形をとる会計報告書は,企業に利害関係を持つ各種の利書関係集団に企 業の実態を報告する手段である。 ところで,これら2つの会計は,その萌芽において1つであったであろうが, ともに固有の基盤ないし歴史的背景を持っており,歴史的過程を経てきたもの であるから,これら2つの会計を現時点のみでとらえて諭ずることは適当では ない。管理会計の本質は今日においてもなお論者によって異なって解されてお り,またその領域も広狭さまざまに把握されているのであるが,それらの論者 の管理会計本質観は実に企業会計の歴史に関する解釈に根ざしているというこ 1)このほか,管理会討を「会計による管理.すをわち「会封管理.とほほ同義に解す る少数の説もあるが,ここでは管理会計を,「管理のための会計.と解する会計学的 管理会計の立場で考えるのか,あるいは「会計による管理.と解する経営学的管理会 計の立場で考えるのか,についての問題にはふれをい。

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香川大学経済学部 研究年報16 ・− 2 −− ヱ977 とがで車る。 さて,管理会計を「マネジメンl、のための会計.とする場合に,その「マネ ジメント.は「経営者.というよりは経常機能としてのマネジメントすなわち 「経営管理.」とみたほうがよい。また,「経営管理のための会計.という場合 に,これを特定の計算制度ヤ計算技術として把握しようとする考えもあるが, 現段階においてはそれはむしろ誤りというべきである。管理会計の本質を規定 し,これを体系化するためのより正しい接近方法として,港口教授は会計の機 能的側面を中心とし,計算制度や計算技術は会計機能に対する手段的なものと して取り上げられる2)。 すなわち,管理会計の本質がもともとその「手段.としての側面において理 解されることが多かったことは,現段階においても無視しえないものをもって いる。管理会計は今日においても経営管理のために役立てられる計簸技術の体 系であると理解されていることが多いる)。もとより,手段としての会計も経営 管理の実質内容の変化に対応して一発展していくと考え.なければならない。それ にもかかわらず会計の本質をもっぱらそのような「手段.としてとらえること が正しいであろうかという根本的な問いは依然として残るのである。この第1 の立場に対して,管理会計の本質理解における第2の立場は,これを「機能. としてみようとするものである。ものの本質を見究めるための基本的アブロ・− チとして,そのもののはたらきに注目することは有意義である。近代的な経営 管理機能は,会計的数値ときりはなしては考えられないという認識から,より 横棒的に管理会計は経営管理機能そのものであると解するのである。 これら2つの思考は一・見するとまったく対立的なもののようであるが,必ず しもそうとはいえない。会計がその本質において手段ないし用具として意義を もつことはいかなるひとも否定しえないであろう。しかし,たとえ用具として の本質規定をしても,それだけでは意味がない。その適用の側面をなんらかの 形で本質規定のうちにとり入れようとすることもまた当然のことであろう。以 下,本稿においては,管理会計の本質をその機能の側面から明らかにしたい。 2)溝口一・堆「管理会計の本質と体系」会計 第103巻第2号 昭和48年2月。 3)例えば,古くはハゼナックの見解にみられる。W.・Hasenack,DasRechnungswe− ssenderUnternehmung,1934.

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管理会計の機能について − 3 − ⅠⅠ 管理会計の最初の形態をいかなる時期に認めることができるのであろうか。 従来多くの論者がこれを19世紀末ないし20世紀初頭の科学的管理法の成立した 時期からとした。すなわち,19世紀後半以来,アメリカにおける産業および交通 の発達−−一方では新技術や新機械の導入にともなう製造工業の発達,したが って生産力の伸長,他方では全国的市場の成立−が従来まで見られなかった 多くの経営問題をよびおこした。所有の経営からの分離(separationofowner− Ship frommanagement)にともなう投資家および債権者にたいする経営者の 責任問題,競争の激化による利益の減少,特殊専門化した機械作業の調整と監 督の困難性,固定設備の増大とその陳腐化の危険,このような問題が経営者の 関心を強くひきつけ,いやおうなしに経営活動の合理化へ・の道を模索させたの である。ティラ・−(F.W.TayloI・,1856−1915)の科学的管理法も,こうした時 代の環境がうんだ産物であるといって過言ではない。すなわち,多くの経験の 中から生れた管理法が,企業の盈的面における拡大化と質的面における複雑化 にともなって,ますます必要とされ,今世紀初頭以来,経営管理紘一大新紀元 を劃することとなったのである。この科学的管理法は,また管理会許にとって も生みの親であったと解するのである。なお,この科学的管理法が管理会計の 生みの親であったといっても,それは「管理.を「科学的管理.と理解し,科 学的管理法,課業管理法の思想のもとにもっとも強く影響されて生れた標準原 価計穿と予算統制の2つの特定の計算制度をただ管理会計というのではない。 これでは現在における管理会計の理解としては狭きに失するとし,現在の企業 の管理制度は科学的管理思想を吸収して,にわかに進歩をみたが,それはただ 作業管理にのみとどまらず全般的な総合管理にまで発展せしめられたことに着 目して,現段階の管理会計は,この企業の全般的経営管理.に役立ちうる機能を はたす会計として理解するのでなければその真の意義は見出しえないものとす る。 これに対して,会計を近代社会の企業における本源的な要求に基づくものと 解し,近代的会計の最初の形態である複式簿記が成立した段階において,すで にこれが経営管理のための手段としての役割をもっていたと考えられる4)。た

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香川大学経済学部 研究年報16 J977 ー 4 − しかに,これまで−・般には,近代会計の生成が複式簿記の誕生から説かれてい るにもかかわらず,その企業の会討としての機能あるいは制度的な役割が不明 確なままに,会計学の成立がむしろその後の商法等の法的要因によって説明さ れ財務会計の側面から解釈されることが多いが,このような問題の取扱いにつ いては疑問をもたざるをえない。経口教授は,近代的複式簿記の成立をその経 営管理に即して解釈され,これについての意見を早くから表明されてきた5)が, その要点は次のとおりである。 「複式記入(doubleentry)の方法は,かなり古くから,特に中世末紀のイタ リア商業都市の商人の経営活動記録の手段として用いられていたが,それはま だ個々の活動についての記録であって経営活動全般の統一・記録ではなかった。 これを近代会計のうちに含めて考えるのは正しくない。簿記が経営活動全般を 継続的に記録し,その成果を総合的に表明することを可能にしたとき,それは 近代会計としての意義を持つこととなる。資本勘定および損益勘定の成立とそ れに伴う勘定の体系化すなわち真の意味における複式簿記の完成が一・定の「会 計期間.を前提とする「期間損益計算.を同時にもたらした。. 「この種の複式簿記の典型は,いわゆるヴェニス式簿記に見いだされるので あるが,そ・れは近代資本主義社会の担い手である企業の本質に合致する手段と して生まれたものである。いわば,個別資本の遊動としての企業活動のプロセ スをきわめて具体的な数字によって明らかにするというところに複式簿記の最 初の社会的な役割があったのである。しかし,その頃の企業は個人企業であっ て,企業者と経営者とが一條であった。すなわちこれらがまだ分化していない 状態にあったことが注意されなければならない。したがってまた,経営規模も 小さく経営の管理もまったく企業者の個人的な能力に依存した主観的で非シス テマティックなものであったのはいうまでもない。それにもかかわらず,会計 の最初の形態である複式簿記が企業活動の総合的成果の測定という機能をもっ ていたということは重安である。期間的な成果はいわば企業の総合的『業庶.。 であるから,その測定の機能は明らかに経営管理機能を意味する。現代的な用 4)5)淋口教授は以前からこの見解を示されている。溝口一・雄稿「経営管理会計の構 想.企業会計 第2巻第9号 昭和25年9月。

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管理会計の機能について − 5 −− 諸によれば,『経営菜船の測定ないし管理。ということになる。. 「このような解釈を正しいとすれば,会計はその出発においてむしろ管理会 計としての本質を持っていたと考えられる。他方,近代社会の生成の初期にお いては,企業をめぐる利害関係集団なるものが明確な存在としてはいまだ認め られず,したがって会計の『外部報告。の機能も確認されがたい。少なくとも, このような社会的要請が当時の企業会計の実践を推進するための主導権を持っ ていたとは思われないのである。. この港口教授の注目すべき主張は,その後アメリカ会計学会(AmericanAc− COuntingAssociation)q)1958年度「管理会計委員会報告.においても示され た8)。すなわち「歴史の示すところによると,会計はその発生当時やその初期 の発展過程においては,もっぱら経営管理に志向しており,会計の基本目的は, ほとんどすべて経営者が組合企業の資産および成果を明らかにしようとする必 要性を満たすことに向けられていた。したがって,会計の初期の歴史は,外部 的要求よりも経営者の内部的必要性を満足させることを目的として発展したこ とをあらわしている。.というのがそれである。 かぐて,われわれは第1段階の会計機能を,素朴ではあるが経営管理的な機 能と理解するわけであるが,この時代の歴史的背景は,ヨ一口ノバにおける資 本主義生成期である。その発展過程は国によって−・棟ではないので,画一・的に はいえないわけであるが,一応企業の生産様式として問屋制家内工業からエ場 制手工業にいたるまでの時代であるとすることができる。しかるに,生産様式 が工場制機械工業へと進み,他方に株式会社という資本主義の根幹となす企業 形態が発達するにつれて,産業会社.の様相は大きく変化した。会計に対する社 会的要求も異なったものとなる。これが会計発展の第2段階をもたらすわけで あるが,ここに財務会計をみることができる。経営比較の領域において,経営 6)AAA,“ReportofCommitteeonManagementAccounting”,theAccountingRe− view,Vol.XXXIV,No.2,April,1959,p.207‖ 西沢 情訳「AAA 管理会計委員会 報告昏.,pい71−企業会計 第11巻第8号1959年9月。 7)基本指標は,当初の経済性指標(例えば費用収益率)から収益性指標(自己資本利 益率−→総資本利益率→経常資本営業利益率)へ,そして生産性指標(例えば従業 者1人当り付加価値額)へ・とその内容を変えてきたと筆者は考えている。

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香川大学経済学部 研究年報16 − 6 − J−977 活動の批判用具としての基本指標が,自己資本利益率から総資本利益率へ移っ て−いくことと照応している。7) ⅠⅠⅠ 管理会計の発展過程を考察するにあたって主要な観点とされるのは,財務会 計との対立関係であった。そこで,財務会計と管理会討の関係をわれわれはい かに理解すればよいのであろうか。 ここでわれわれは,まず近代的企業の存立の基礎をもう一度かえりみる必要 がある。それは近代企業が社会的機構として成り立っていることの認識であり, その結果として経営職分の担い手としての専門経営者の存在を−・方に考えると ともに,他方に企業がそれ呑めぐる各種の社会的な利書関係集団の利害を調整 する場であることが理解されなければならない。ここにいう企業の利害関係集 臥こは,まず出資者があげられる8)が,そのほか社債権者,金融機関,得意先, 仕入先,従業員組合,国家,地方自治体などが加わる。これらの利害関係集団 に対して企業の経営成放と財政状態を明らかにするために会計数値による報告 がなされなければならない。そのための主たる手段がいわゆる財務諸表である。 このような意味における財務諸表は,企業外部の利害関係集団に企業の実態を 報告することから「外部報告.であると解され,したがってそのための会計ほ 「外部報告会計.であり,それが財務会計であると説明される場合が多い。 同様の観点から,管理会計は企菜内部者すなわちまず経営者があげられるが, そのほか管理者,現場の従業者など企業内部の者に報告されるものであること から「内部報告.であると解され,したがってそのための会計は「内部報告会 計.であると規定される。 しかし,財務会計と管理会計を「外部報告会討.と「’内部報告会計.とする ことには問題がある。「外部報告.と「内部報告.という基準での区別は,報告 先ないし宛名による区別なので形式的・技術的区別にしかすぎず,その内容・ 機能に立ちいたっての説明ではないから充分ではない。また,外部への報告も 8)出資者を企業そのものと考えないで,企業の利害関係集団の1つと考えるのは,所 有の庭営からの分離がみられる状況をふまえ.1{:,資本主理論(pIOprietarytheory)で はなくて企葉体理論(entitytheory)を採っ17:いるからである。

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管理会計の機能について ー 7 − 経営者職分とみることもできるから,この場合には外部報告会計と内部報告会 計とを広義の経営管理機能のもとに統合することも可能となって−,ここでは広 義の管理会計のもとに財務会計と狭義の管理会討との統合がなされたことにな る。例えば,か−チャ、−(P.KiICheI・)は管理会計論の論理的構造として a 目標の選択(choiceofgoals) b 決定(decisionin触enceof董uture) c 予測(prediction) d 記述(description) e 測定(measurement) f システムの検討■(reviewofsystem) を示しうるとし9),このうちc予測,d記述,e測定およびfシステムの検討 を専門スタッフである統計数学者(mathematicians)と管理会計担当者(man− agementaccountants)が担当するのであり,この領域が管理会計の領域とし て考えられるとする。このd記述の機能は,アメリカ公認会計士協会が定義す る会計の4つのステップ,すなわち,記録すること(ⅠeCOIdir唱),分類サーるこ と(classifying),要約すること(summarizing),解釈すること(interpreting) に該当するとカーチャーは述べている10)のである。この様な形で財務会計と管 理会計との統合をはかることには多分の無理がある。 また,管理会計に対して法律的財務会計を説明するのは,ゲェノツとクライ ン(B.E.GoetzandFいR.Klein)である。ゲェッツとクラインは会計には法律 的財務的側面と経営管理的側面が存在するとし,従来の会計においては,主と して法律的財務的な会計面が取り扱われていたという理由からこれを法律的財 務会計(1egaほnancialaccounting)と呼び,これに対して会計の経営管理的 な面を取り扱う会計を管理会計(managerialaccounting)と呼ぶのである11)。 ゲェッツとクラインは,会計の概念について吟味した後,企業活動(enterprise 9)PKircher,“Theor・yandResearchinManagementAccounting”,ihe Accounting Review,Vol小ⅩⅩⅩⅤⅠ,No。.1.January,1961,p.46 10)去−あさd.,pn46. 11)B.E.GoetzandF.RKlein,AccountinginAction− Its脇aningjbr肋na一 都関都か−−− ,1960,p.686

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香川大学経済学部 研究年報16 ヱ.977

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operation)における経営管理者の計画と統制(managerialplanning and con− tI01)に役立つ会計機能を指摘しているのである12)。この目的に沿うため,従 来のままで不充分のところは,これを経営管理の要求に適合しうるように改造 しなければならない。そこでは,経営管理への役立ちということが中心課題に なっているのであり,それに対して,経営管理者は企業の繁栄を増進しうるよ うな新しい方法をとり入れなければならない。そのためには財務会計における 会計原則に立脚するだけでは不充分である。それは,経営管理の原則に基礎を おいて,会計制度の積極的役立ちを考慮することでなければならない。ここに 従来の財務会計と異なるところの管理会計としての新しい,かつ重要な立脚点 があるものと考え.られている。ゲ.ェソツとクラインは,これら2つの会計につ いて,種々の立場から説明するのであるが,これを要約すれば,次のようであ る。 法律的財務会計と管理会討は,2つの共通点をもっている。 その共通点の第1は,両者はともに,企業中心であるということである。企 業中心であるといっても,ゲェッツとクラインは,「企業.(“enterprise”)を 非常に広義に理解しており,企業概念を個人的・家族的・商業的・工業的企 業・政治単位(governmentalunit)・学校・教会・労働組合(1abourunion)の ような制度(institute)にも適用している。1B) ところで,法律的財務会計は,実際に行われた企業の経営活動(busine$SOP− erations)の会計的影(accountingshadows)を報告する資料に自ら限られて いる。14)これに対して,管理会計は企業活動と企業環境の両者を報告する資料に 基づくのである。 その共通点の第2は,両者はともに無形なものを原則的に除いている。15)無形 なものは,測定することができず,したがって,計数に還元し得ないので,法 律的財務会計の仕訳帳,元帳,財務諸表に記入し得ないし,また,管理会討の 標準,記録,報告の制度にもとり入れることができないからである。 〝H 9・636240 5 3 1 2 p p p p d d d ﹂α .t− “−■ 一●‘ ●‘ ムTろ▼ ム﹀ ム .■○ 小一・‘+.一‘ .●○ ヽ−ノ ︶ l−ノ ︶ 2 3 4 5 1 1 1 1

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管理会計の機能について ー.9 − このように,両者は共通点をもっているが,その目的・前提・方法において 異なっている。 その相違点の第1は,目的についてである。 法律的財務会計の目的のうち,主要なるものは,(1)持分の割当,(2)税務, (3)社会的規制,(4)裁判,(5)持分の配分,(6)信用の許与,(7)労務関係 およびバブリ ソク・リレーションズ等の目的に役立つ資料を提供することにあ る。これに対して,管理会計の目的は経営管理者の討画と統制(managerial

planningandcontrol,managementplanningandcontrol)16)に役立つ資料を

提供することにある。 法律的財務会計は,法律とか債権者の権力によって褒づけられた要件を課せ られている。この要件には,例えば次のようなものがある0 (a)その会計は,分類および評価に関する法律的要件に従い,時には,債権 者によって課せられた分類および評価の規制に従わねばならない。(b)その会 計は,期間的にも,企業的にも比較性を求められなければならない。(c)その 会計は,かりに,適正と効果を犠牲にするとしても客観的でなければならない0 客観性は利害関係のない第三膚による独立の検証に役立ち,酸味さと不正を最 少ならしめるのに役立つのである。(d)その会計は,法律においても,信用許 与においても,ともに,流動性の問題が重要であるために,一・般に,当座性 (currentness)すなわち,現金収支の生ずる可儲性の順序にしたがって貸借対 照表項目を分類するようになってきている。 法律的財務会計が,右に述べたような要件をみたさねばならない結果として, 必然的にその会計は慣習的な方法を用い,その最終的結果を損益計算書と貸借 16)B”E。GoetzandFR、Kleinの前掲沓は,3部からなってV,るが,PartIにおいて は managerialplanningandcontrolという用語が使用されている。これに対して, PartIIヤPartIIIにおいては managementplanningandcontrolという譜が使 用されている。この差異は,前者が「経営管理者の計画と統制.,後者が「経営管理 における計画と統制.と別に使い分ける程のものではなく,その内容は同じである ように思われるが,いずれにしてもー応,別種の用語を使用していることを明らか にしておきたい。ゲェッツとクラインの managerialplanning and control,man・ agementplanningandcontrolについては,拙稿「管理会計の性格に関する一考察J 香川大学経済論叢 第34巻第4号 昭和36年11月 に紹介している。

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香川大学経済学部 研究年報16 J.977 −ヱ∂− 対照表に示すようになっている。 これに対して,管理会計は,先述したように,経営管理者の計画と統制に役 立つ会計資料を提供することを目的としている。これらに役立つ資料の分類と 評価は,その目的と環境の異なるに応じて,異なるのでなければならない0ま た,過去は将来をはかる指数としての意義をもつにすぎないから,取得価額 (historicalvalue$)は現在の市場価額(currentvalues)よりも,その評価方法 としては劣っている。管理会計によって,つくられた資料(data)を使用する のは経営管理者のみである。したがって,利啓開係のない職業的監査人による 検証を可能ならしめるために,慣行について厳格に従う必要がない。それゆえ に,法律的財務会計の場合と異なって,管理会計の場合においては,経営管理 者の判断が,その分類と評価を決定する要素となる。経営管理者は,出資者な どの利害関係集団に,もっとも大なる満足を与えるために,経営能率の増進を はかろうとする。この目的に達するために,経営管理者は,企業の経営活動を 計画し,その後の作業を,この計画に一∴致せしめようと努力する。計画の設定 にあたっては,選択を争ういく個かの計画案を比較し,もっとも有利と思われ る計画案を合理的に選択するためには,資料を必要とする。また,現在の作業 状況を報告し,計画と実繚を比較し,計画からの差異を明らかにし,好、ましか らぎる状態についての調査を速やかになし,そ・の対象を確定するのに役立つ資 料を必要とする。管理会計の目的は,経営管理者にこれらの資料を提供するこ とにある。 その相違点の第2は,前提についてである。 法律的財務会計は,その目的として,検証しうる資料を提供することを重視 するために,その価額について過去を尊重する。この結果,資産および費用を 評価する主要な(甚だしきにいたっては唯一・の)基準として,取得原価を使用 することになる。それゆえに,資料は価格水準が変動したり,経営管理者の判 断の誤りが発見された時でも,殆んど(または決して)修正されないものであ る。歴史的な価格は,これを文書に記載し,後日,判断を含まない事務的なつ き合わせによって検証することができるからである。資料の分類は,資産・負 債・資本・原価といったような対象(object)にもとづいて行われる。会計係 と公共監査人(publicauditor)は対象を検査し,これを見て,何かをさぐり,

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管理会計の機能について −ヱユー これを評価することができる。例えば,現金・棚卸資産・有価証券の実際在高 が記録の残高と一・致しない場合のように,その対象が見当らない場合には,不 正あるいは誤謬が明らかにされるのである。対象は,また,比較的独特な別個 の経歴をもっており,このために,対象分類は,費用ならびに資産の検証にた いする便利な基準となるのである。物的な対象は,しばしば,経営活動の過程 において,分割されるのであるが,法律的財務会計は,この部分にたいしても 客観的な検証しうる価額を求める。そこで対象に結びついている最初の価値が, 一・部の断片が無視されるような極端な場合を除いて,厳格に算術的な比例算 (themerearithmeticalproportionality)によって,これらの部分の間に分割さ れるのである。法律的財務的な原価計算は,すべての生産過程を通じて,この 手続を実行しようとする愚かな企ての劇例である。この結果は(最初の)価値 を比例的に分配する物的な基準を,ひきつづき選択することとなる。このよう な歴史的価額,対象分類,算術的比例算を使用するゆえ.んは,相対立する利害 関係をもつ人々が,これに同意しうる資料を必要とすることから生じていると 考えられる。 これに対して,管理会計にとって重要なのは,「資料が何に使用されるのか」, 「経営管理者は何をしようとしているのか。そして,何かほかのものの代りに, それを行うのか.,「いかにして,それをなすことができるのか.,「どんな資料 が必要とされるのか.ということである。これらの問題にたいする解釈は,目 的と状況を詳細に定めた特定の関係領域の範囲内においてのみ有効と認められ ている。経営管理の主要な問題は未来指向(fowardlooking)であるから,管 理会計の分類と評価も,また,未来指向でなければならない。歴史的な評価や 対象分類は,経営管理者が,軽々な提案の結果を予言するのに役立つかぎりに おいてのみ有効であり,また,算術的比例鈴は非常に注意して使用しなければ ならない危険な用具である。要するに,管理会計においては,分類と評価の問 題は経営管理の問題から生じ,その間題ごとに変ってこそ,その効果を発揮で きるものである。換言すれば,管理会計における分類は,「管理計画のために は.その第一・次分類として,考慮されている競争的計画の性質に依存して決定 されるべきであり,「管理統制のためには.その第一・次分類として,貴任を有 する職制,すなわち管理者の権限および範臥こ依存して決定されるべ垂であろ

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香川大学経済学部 研究年報16 ーエ2・− J.977 う。また,管理会計における評価は,「管理計画のためには.「現在の取替価格 および機会原価.にもとづいて決定された増分と機会の計算.(calculus ofin− CrementSand opportunities)となる。この場合には,「この計画は,その計画 よりも,いかほど原価が多くなるか.,「もし,この日的のためには,もはや必 要でなければ,この資産から,いかほどうることができるか.ということが主 眼である。したがって,重点が現在または未来におかれており,決して,過去 におかれていない。「管理制統のためには」管理会計における評価は企業にとっ ていかほどの重要性をもっているかということと,その項目を責任者による統 制に服せしめるというこの2つの見地から行われるわけである。換言すれば, 分類と評価の問題は,管理会計にあっては,経営管理の目的と方法におかれて いて,法律的財務会計における抽象的で絶対的な一個の価値しかもたない事実 におかれていない。管理会計は,企業の生活に密着している。それは一L定の増 分だけ異なり,そ・して種々な大きさの物的資産集団とその金銭的支払額との間 に比例的な関係のない−・群の資産を想定している。換言すれば,管理.会計の前 提は,一・群の資産を質的にひとしくない部分にわける。その評価額は,景気段 階,季節的段階のいかんにより,極端な場合には,時間的にも変動する。埋没 原価となるところの回収し得ない原価があり,また,価値を高めたり,低めた りする工業的な変化や社会的な変化がある。これらのことから,管理会計にお けるそ・の分類と評価は,経営管理判断にみち,法律的財務会計において重要視 された歴史的,比例的な分類と評価を重視してはいないのである。 その相違点の第3は,方法についてである。 法律的財務会計は取引が生ずると,これを原始記録にとどめ,これを仕訳し, この仕訳を元帳の関係勘定に転記する。この事務の正確性は試算表によって検 査される。管理事項は期間的な比較を可能ならしめるために,仕訳され,元帳 へ転記され,これから財務諸表が作成される。 これに対して管理会計は,経営管理に資するための会計であり,経営管理は その機能として,計画と統制を考えることができるから,管理会計は,計画と 統制の行われる手段となる標準,伝達,記録,報告の制度である。すなわち, まず,物的標準がつくられ,これが予算の通達や,製造指図書(productionor− der)の発行という形で命令される。これに基づいて,工場では,たとえば,

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管理会計の機能について −ヱ3− 材料については犀出高・手許在高。仕損高・受入高に関する報告書,労務費に ついては,作業時間票・出勤票などの報告書が定められ,そして,実際の記録 が行われ,さらに,これに基づいて,差異分析報告書のごとき経営管理者にた いする種々な報告書がつくられるのである。このように,法律的財務会計と管 理会計は,その方法においても異なるのである。 以上において,ゲェッツとクラインの所説にもとづいて,企業会計は2つの 側面を有していることを明らかにした。すなわち,その1つは,法律的財務会 計であり,その2つは管理会計であった。そして,その両者の間にはかなりの 相異を見出しうるのであり,それを明らかならしめるために,目的・前提・方 法の三つの立場から,これを考察したのである。 このゲェッツとクラインの所説は,企業会計が有する2つの側面を,理論的 に把握した点について大いにその功績を認めなければならない。しかし同一・の 計算方法なり,報告制度が,その用いられる目的にしたがって,1つは法律的 財務会計となり,さらにまたそれは管理会計として役立てられる場合もありう るのであるから,管理会計を具体的な計算方法ヤ報告制度として,固定的に把 握することを避け,むしろ管理会計は管理機能を賦与された会計としてこれを とらえるべきであろう。この点がゲェッツとクラインの管理会計把握にあたっ ての第1の問題点であろう。 第2の問題点は,管理会計の主体について関説するところがないのは,その 立論をやや抽象化し,具体性・実践性に欠ける傾きのあることを思わせる。も とより,ゲェッツとクラインが,管理会計の「方法.を論ずるにあたって,こ れを経営管理の基本構造としての計画と統制の考慮に基づき,さらに,それを 経営管理.の諸段階における個人的な責任と結びつけて説いているあたりには, 経営管理組織と会計の問題がとらえられているわけであるが,それがより具体 的に活かされる必要があると思われる。このことなくしては,管理会計が,は じめに意図した経営管理に役立つ会計という目的を有効にはたすことができな いように思われる。すなわち,その1つは,管理会計の実践主体としてのコン トローラー制度の問題であり,その2つは,管理会計における会計情報(ac・ countinginformation)の活用の問題である。 この点について,ゲェッツとクラインの所説を,より進めたものは,ポイドと

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香川大学経済学部 研究年報16 J977 −J4一− テイラー(Ⅴ.BoydandD叶Taylor)である。彼等もまた,会計は2つの側面を 有していることを,まず,指摘する。ポイドとテイラーは,これを慣行的アブロ1− チ(conventionalapproach)と経営管理的アプローチ(managerialapproach)と して示し,これを,準拠標(frameofreference)の方法を用いて,展開すると いう新しい試みが,ポイドとテイラーによってなされた○ ポイドとティラ・−は,まず,アメリカにおけるテキスト・ブックを取り上げ て,それを,五種のタイプに分類し,管理会劇の意義を追及する。17)この結果 「ェ‥コノミストのいう準拠標(fr・ameOfreference).を用いて,管理会計の意義 を明らかにしようとする。 ポイドとテイラー・は,エコノミストがいう準拠標の方法論が,会計の方法論 として安当するか否か,会計の慣行般的アプロpチ(conventionalapproach) が,この方法論で明らかにしうるものであるか否か,会計の経営管理的アブ ロー・チ(managerialappr・OaCh)がこの方法論で明らかにしうるものであるか 否か,そして,両者のこの準拠標に基づく方法論を対比することによって,両 者の差異を,はたして明らかにしうるものであるか否か,について疑問をいだ きながらも,1つの新しい試みとして−,その展開をなす0 ポイドとティラ・−の準拠標において,枠(血ame)となっているものは,3 つである。その第1は,合理的なアクター(rationalactor)であり,その第2 は,手段(means)であり,その第3は,秩序ある選択尺度(well−Orderedpref− erence scale)である。この3つの枠で,会計の慣行的アプローチと会計の経 営管理的アブロー・チの対比をなし,ひいては管理会封の意味する性格を明瞭に 示そうとする。 まず第1の枠である「合理的なアクター.について示そう。「会計の慣行的 アブロ1−チを担当する合理的なアクタ1−は会計部長(thechiefaccountingex− ecutives)であるのにたいして,会計の経営管理的アプローチを担当する合理 的なアクター・は,積極的な経営管理者(activenumberofmanagernent)ある

いは,意思決定を行うグループ(groupinvoIvedinmakinga decision)であ

17)V、BoydandDTaylor,“TheMagicWords−

ManagerialAccounting”,the Accounti7智Review,Voll・ⅩⅩⅩVIl・No・1・January,1961,pp…105−6l

(15)

管理会計の機能について −ヱ∂一 り,彼等の任務は,他の人々によって−利用される資料の記録を蒐集することで はなぐて彼等が意識して,資料を記録し,収集するものは,彼等が,みずから なさなければならない特別の意思決定に関するためのものである。ここに意思 決定とは,たんに計画プロセスにおける決定のみではなくて−,縫営の直接執行 活動を統制すること,企業の投資を可■能ならしめるために財政状態を評価する こと,あるいは,会計情報に照して,会計制度(accountingsystem)の適否 を評価すること,の意思決定をも含めたものである0」とポイドとテイラーは いう。18) 第2の「手段.の枠については,ポイドとティラ・−・は「会計の慣行的方法を 担当する会計部長は,そ・の手段として,認められた会計技術(accepted ac・ countingteChniques)を採用しなければならないのにたいして,会計の経営管 理アプローチを担当する,積極的経営管理者,あるいは,意思決定を行うグ ルー・プは,その手段としてより多くの方法(moremethods)を採用してさしつ かえないし,また,採用すべきである0」という0 第3の「秩序ある選択尺度」の枠については,ポイドとテイラーは,「前者は, 認められた会計原理および実務(accepted accounting principles and prac− tices)にかぎられるのにたいして,後者は,より広い選択尺度(broderpref− erencescale)において考慮してよいし,また,考慮するべきである。Jという。 以上の3つの枠のほかに,ポイドとティラ、−は,いま1つ,状況の考慮が必 要か否かという枠を設けなければ,両者の会計の差異が明確にならないことを 見出した。ゲェッツとクラインが既に指摘したように,両者の会計の相違は, 実に,状況の考慮をなすべきであるか,ないかについてであった。ポイドとテ イラーが,新しい試みとして,エコノミストのいう準拠標の方法によって,両 者の会計の差異を明らかにしようとしたのに,いま1つの枠を設けなければ, その差異を正確に指摘することができないということとなった。これが,ポイ ドとテイラーの新しい試みを不完全のま■ま終らせる結果となった。しかし,こ の新しい展開は,今まで誰によっても,なされなかったのであり,1つの欠陥 のためにその理解を完成することが挫折されたとしても,その試みは高く評価 18)よ一朗d.,p・.107.

(16)

香川大学経済学部 研究年報16 ヱ.977 −ヱ6−・ されてよい。 ともかく,以上の欠陥を認めつつ,ポイドとティラ・−は,両者の会計の要約 として,つぎのように述べている。 その第1は,経営管理的アプローチ(managerialapproach)の担当者は,意 思決定における財務資料の利用者(user・Of丘nancialdecisionmaking)の任務 を有するのにたいして,慣行的アプローチ(conventionalapproach)の担当者 は,他の人々によって利用されるための財務諸表作成の任務を有する。 その第2は,経営管理的アプローチの担当者は,会計資料にもとづいて, 経 営意思決定を行うにあたって,経営知識を利用することが要求されるのにたい して,慣行的アプローチの担当者は,それ自ら,認められた会計の技術,原理 および実務に制約されている。 その第3は,管理会計(managerialaccounting)は,それが充分に機能する ためには,つねに,外部および内部の経営環境を考慮しなければならないのに たいして,慣行的会計(.conventionalaccounting)にあっては,つねに,これ らの条件に無関心であってさしつかえない。 その第4は,上述の3つの相違から両者の会計における分類とその強調の程 度を異にする。 その第5は,管理会計の目的は,経営の諸問題についての意思決定を助ける ことにある。これに対して,慣行的会計の最終目的は,財務諸表を作成し,報 告することである。 以上がポイドとテイラーの所説の要約であるが,この所説は,エコノミスト がいう準拠標にもとづいて展開されたが,これはポイドとテイラーも彼等自ら が認めたように,前述のような欠点を有していた。このエコノミストのいう準 拠標の理論の欠点をカバーして,彼等なりに,2つの会計の相違点を明らかに し,それを以上の五点に要約したわけである0 ここで注意しなければならないことは,先述のゲェ.ッツとクラインの所説の 考察において,少し触れたところであるが,管理会計の経営管理への積極的役 立ということをポイドとテイラーが主張したことである。ゲェッツとクライン にあっては,2つの会計は,その目的を異にしているとしても,いずれも, それは報告することであった。しかし,ポイドとティラ・一にあっては,慣行的

(17)

管理会計の機能について ーヱ7− 会計(ゲ,エツツとクラインのいう法律的財務会計)は財務諸表の作成とその報 告が最終目的として認められたのに対して,管理会計の目的は経営管理の重要 な機能である意思決定に積極的に役立ち,利用されることであった。このこと こそが,管理会計にとって重要なのであり,管理会計は,ただその情報を報告 するということだけでは,経営管理の積極的な役立ちとはならず,この意味に おける管理会計であるならば,ことさらに,管理会計を区分して−把握すること 自体が無意味であろう。管理会計の真の意義は,会計情報が経営管理に積極的 に役立つという利用の点に求めなければならない。この点の示唆を行ったのが, ポイドとテイラーであり,ここに,ポイドとティラ・−の所説とゲェッツとクラ インの所説の大きな差異を認めることができる。 ゲェッツとクラインがいう法律的財務会計と管理会計,あるいはポイドとテ イラ1−がいう慣行的アブロ・−チと経営管理的アブロ・−チいずれもが,外部報告 会計と内部報告会計におけるほどには形式的・技術的区分ではないにせよ,2 つの会計の機能を充分に理解して対比されたものとは思え.ない。特に,財務会 計の其の意味がそこなわれて把握されることになりかねないであろう。 財務会計の真の意儀は,それが個別的な企業の立場をはなれた社会的・−・般 的な立場に基づくというところにある。それは一・般に承認された社会的基準と しての役割を持ち,個々の企業の行動を規制するものである。換言すれば,財 務会計は個別企業の立場から超越した社会的制度としての本質を有する。それ は−・面において会計実務を規制するとともに,また他方ではそれ自体が,会計 実践のうちから現実的に形成されるものである。制度会計としての財務会計が, 個別企業の会計実践とこのような相互連関的な深いかかわりを持ったために, その本質が論者によって異なって解釈されるという結果をもたらせたと考えら れる。 これに対して,管理会計はあくまでも企業の個別的立場に基礎をおくもので ある。換言すれば,社会的形成体としての企業がその持続と存立という本来の 目的に根ざすところの行動のあり方を明らかにするとともにその担い手である 経営管理者等に必要な情報を提供するのである。 したがって,財務会計と管理会計とは基本的には「一・般.と「個別.の関係 として理.解されなければならない。そこでは,社会一・般に普遍安当な「客観性.

(18)

香川大学経済学部 研究年報16 ーJβ− ヱ977 と個別特定の目的に充分役立つ「有用性.がそれぞれの基本理念でなければな らない0また,そのような対立関係のもとにあって2つの会計は,ともに高贋 化してきたともいえる。 ⅠⅤ 上述において,管理会計を会計による管理ではなくでマネジメントのための 会計として把握し,マネジメントの内容としては経営者というのではなくて経 営機能としてのマネジメントすなわち経営管理と解して管理会計を経営管理の ための会計とした。つぎに,経営管理のための用具すなわち手段として会計と する理解には問題が多く管理会計の役立ち機能に焦点を合わせ,より積極的に ・管理会計はマネジメント機能そのものであると解した。この手段と機能論とは, まったく対立的なもののようであるが必ずしもそうとはいえない。たとえ管理

会計を手段としての本質規定してもそれだけでは意味がない。その手段の適用

の側面をなんらかの形で本質規定のうちにとり入れる必要がある。 このような観点をもっともよく表明しているのは,アメリカ会計学会1958年 度「管理会計委員会報告」における定義である。すなわち,「管理会計とは, 合理的な経済目的について計画を設定したり,その目的を達成するために安当 な意思決定を行うにあたって,経営管理者を援助するために,企業の歴史的お よび予測される経済的デ・−・タを処理する際に適切な諸技術や概念を適用するこ とである。.19)と述べている。 このような見解を第1の手段的見解と第2の機能的見解とを結びつけようと する第3の立場をあらわすものといえないことはない。これと似た考え方は, アメリカ会計学会の『基礎的会計理論。(以下Aぶ0βA7’という)にもみられ る。それは計算手段ないし技法の目的への適応のプロセスとして会計の本質を 把握しようとするものである。Aぶ0且47「は,「会計とは,情報の利用者が事情 に精通して判断や意思決定ができるように,経済的情報を識別し,測定し,伝 達するプロセスである。.20)とまず定義する。これは会計一・般についての本質規 19)AAA,少Cit.,p。210 20)AAA,AStatemeniQrBasieAccounting77woT.y,1966,p一1飯野利夫訳P基礎 会計理論。1969年 2ページ。

(19)

管理会計の機能について −J.9− 定であるが,当然に管理会計についてもあてはまる。ただ,情報利用者の性格 によって管理会計が特質づけられるにすぎない。

しかし,これについては,管理会計を企業目的に対する手段適用のプロセス

とみるだけではなお足りないものがあるのではないかという疑問がある。

それは会計を手段適用のプロセスとすることだけでは,なお会計の主体的側

面が充分に表現されないということである。会計にはもともと経営行動それ自 体としての意味があったという認識がその基礎をなす。経常行動を経営者行動 によって代表させるならば,管理会計は経営者行動と−・体的に解されなければ ならないこととなる。また,経営者行動の中心は経営意思決定にあることが−・ 段と明確化されてきた情況のもとにおいて,会計の情報機能と経営者機能とし ての意思決定機能とを単純に区別することが困難となって重た。例えば,在庫管 理における最適在庫量の決定に際して,送り出される会計の情報によって決定 されることから会計の情報機能と意思決定機能との結合がみられるのである。 このように,Aぶ0且4了’は,前単では会計とは経済的情報を識別し,測定し, 伝達するプロセスであるとまず定義づけるわけではあるが,■またそ・の後半にい たって情報システムとして説明している。 すなわち,Aぶ0βA7’は,会計とは経済的情報を識別し,測定し,伝達する プロセスであると示した後,「このような会計の定義は,他の会計理論の報告 書にみられるものより広い。会計情報が必らず取引資料に基づかなければなら ないということはない。.21)それのみならず,「取引には関係のない種々な型の 資料が会計情報の基準紬に適合することも可能である。.2き)と主張している。 特に,Aぶ0艮A7’第4章「内部経営管理者のための会計情報.において,伝 21)∠あ∠d′,p′′1′′ 前掲訳 2ページ。 22)この基準として,目的適合性(Standar・dofRelevance),検証可儲性(Standardof Veri丘ability),不偏性(StandardofFreedomfromBias),計農可能性(Standard ofQuanti丘ability)の4つをあげている。 ついで,1969年,アメリカ会計学金管理会計委員会は,補足的報告啓を出してぃ るが,:.の報告番でほ,先述の4つの基準のほかに経済的実行可儲性(Standardof EconomicFeasibility)をあげている。AAA,“ReportofCommitteeonManageri−

alDecision Models”,theAccounting Review,SuPplement to VollⅩLIV,1969,

(20)

香川大学経済学部 研究年報16 ー2β−− J.977 統的モデルからの会計情報.とは別に,「伝統的モデルから分離して提供され る会計情報.について−取り上げ,「会計は範囲を拡大し,重要性を増大しつづ けるのであろうことを認識したうえで.24)「この研究で示された基準に合致す る経済資料を収集し,処理するこ.とは会計の本質的部分と考えるべきであり, またこれらのアウトプットは,その性質が目論まれたものであれ,実際のもの であれ,またそれが単一・評価によるものであれ,さらにそれが貨幣単位によっ て表現されたものであれ,それ以外で表現されたものであれ,それらはすべて一 会討職能の所産として考えるべきである。.25)と提案している。 そして,Aぶ0艮AT第5章「会計理論の拡張.において,会計の基礎的概念 に閲し,つぎのような結論をあたえている。「会計は,本質的には1つの情報 システムである。もっと正確にいえば,会計は,情報の一・般理論を効果的な経済 活動に関する問題に適用したものである。会計はまた,盈的に表現された意思 決定のための情報を提供する一般情報システムのうちで大部分を占めている。 このような情況のもとでは,会計は活動主体の−・般情報システムの1部分であ るとともに情報概念と墳を接している基本的領域の1部分である。.26)(力点 は筆者)この立場から,会計の目的は,「1.限りある資源を利用することにつ いて,意思決定を行うこと,これはもっとも重要な意思決定の領域を確定し, また目的ヤ目標を決定することを含む,2.組織内にある人的資源および物的 資源を効率的に指揮統制すること。3.資源を保全し,その管理について報告 すること,4‖ 社会的機能および統制を容易にすること,のために情報を提供 することである。」27)とした。 このように,Aぶ0βA7’は活動主体に対して,有用な会計情報を提供すると いう情報提供機能として会計,ないし情報システムとしての会計の成立を主張 した。 この情報的視点からすれば,管理会計は財務会計と並んで,会計情報システ 23)AAA,ASOβA7:p.1”前掲訳 2ペ・−ジ。 24)∠ろよd,pい59.前掲訳 59ペ・−ジ。 25)去ろ∠d.,p‖59‖ 前掲訳 59ペ・一ジ。 26)よあよd,p.85= 前掲訳 64ペ・−・ジ。 27)∠あよd,p小4‖ 前掲訳 5ペ、−ジ。

(21)

管理会計の機鰭について −・2ユー ムのサブシステムとして一位置づけられることになろう。かくて財務会計と管理 会計の統合の論理の基盤を形成して統合の方向を−・歩進めたのである。もとよ 、り,これのみで統合しうるというものではない。なお詳細な,例えば会計情報 の範囲の明確化等の吟味を必要とする。 また,Aぶ0β4r における2つの会計の統合的把握の主張はもう1つの重要 な論点を持っている。それはコンビェ.一夕技法の発達による会計情報の収集・ 処理・伝達が−・元的になされうるという認識に基づい て会計の統合を手続的側 面において確保できるという主張である。すなわち,収集されたすべての情報 が目的に応じて任意に取り出され,組み替えられて情報利用者に伝達されるの である。 会釘担当者が手作業で収集・処理していた段階では,収集される情報ははじ めからかなり意図的にしたがって合成的・複合的な性質を持っており,またそ のために会計機能別に方向づけられ,手続過程そのものが財務会計と管理会計 とにある程度区分されて−いた。これに対して,会計担当者がコンビ.ユ、一夕をフ ルに活用レうる段階では,会計情報の多くがもはゃ複合的性質を持つ必要がな く,より原始的な形の数値に分解して収集されればよい。多様な情報要求に応 じて,収集された情報を処理し,再構成したうえ.で情報アウトプットを伝達す るには,そのほうが一層弾力性に富んでいるからである。この場合にば組みこ まれるプログラムが情報アウトプットの価値を決めることとなろう。 Ⅴ 前節において−,管理会計の本質を機能約側面からとらえ,なお若干の問題が 残されていることを承知したうえ,情報機能したがって情報システムとして考 察した。この情報システムとして管理会計の本質を把握する場合にもなおいく つかの論点を明らかにする必要がある。本節では,問題点の1つである意思決 定機儲と会計情報機能の関係についてふれてみたい。 意思決定の理論は,これを管理会計論の論理的構造(logicalstructure)の中 に含ましめるのが先述のか−チャーである。カーチャ・−は,まず経営管理者は 意思決定を容易にかつ正確に行うため専門スタッフすなわち統計数学者と管理 会計担当者を採用する。この専門スタッフが担当する領域が管理会計の領域と

(22)

ー22− 香川大学経済学部 研究年報16 ヱ.977

して考え,そして先述管理会計諭の論理的構造を示すのである。すなわち,

か−チャーは,C予測,d記述,e測定およびfシステムの検討を専門スタッフ

である統計数学者と管理会計担当者が担当するのであり,この領域を管理会計

の領域として考え.る。a 目標の選択とb 決定を担当する者は経営管理者であ

り,この領域は管理会計の領域としては考えられないが,目標の選択と決定は,

管理会計と密接につながっており,しかも管理会計が送り出す会討情報によっ

て判断されるものであるから,管理会計論の論理的構造の中に包摂されねばな らないというのである28)。

すなわち,「経営管理者は,意思決定を行い,目標により完全に到達する方

策に基づいて実施しなければならない。そのためには,次の4つが重要である。

(1)環境を見きわめ,質的・盈的相互関係についての正確な知識をもち,

(2)彼が目標を達成するのに最善であると信じた行動を,これらの相互関係に

対応するプロセスで論理的に把握し,(3)活動を遂行し,統制し,(4)結果を

評価し,そしてこのサイクルを繰り返し続けなければならない。.

この論理的結果(logicalsequence)に基づき,管理会計は,一腰に会計にお

けるよりも,他の領域をも加え.1た拡張された枠(expandedframework)で考

えられなければならないことをか−チャーは強調する29)。

この結果,カーチャー・は,先述の提案をなす。これを再言すると80),次のと

おりである。

(a)人間の欲求と希望,そして環境の認甜1)から導き出された基準に基づ

いて目標の選択を行う。

(b)目標に到達するためには,経営活動のコースについての択一・的選択が

必要である。この行為を一般に意思決定と呼ぶ。

(c)択・一・的コースの選択決定のためには,期待される目標に到達するその

各々の方法ないしコー・スについての予測が必要である。 28)P・Kircher,掛Cit.,p.47い 29)去鋸dりp.47u 30)よ−あZdりp‖47小 31)カーチャーが,ここにいう「人間の要求と希望.とは内部的要因を,また「環境 の認識.とは外部的要因を示しているものと思われる。

(23)

管理会計の機能について −23・−・ (d)そして実施された経営活動を明確にならしめるために記述されなけれ ばならない。 (e)そして実施結果を測定しなければならない。ここにいう測定とは,測 定単位として何を選択するか,いかにして測定するか,測定記録はいかなる方 法により実施するか,そして測定記録・その分析と結果などを・含んでいる0 (f)以上が制度として相互に関係を有しながらサイクルするが,この制度 の検討もまた欠くべからざるものである。 このようにカ・−チャ、−は,決定の行為は管理会計の領域では考え.られないが, 決定の理論は管理会計論の論理的構造のうちに包摂することが適切であるとい う。 カーチャーの主張のうち興味あるものの第1は,先述のとおり,一・般会計に いう記録・分類・要約・解釈の4つのステップは管理会計の機能の「記述.に 相当するものであり,管理会計においては従来の会計よりも予測,測定および システムの検討の3つの領域が加えられるべきであるとしたことである。 その第2は,本節で述べたとおり,管理会計は,予測,記述,測定およびシ ステムの検討の4つの領域を担当するが,管理会計論の論理的構造は,これら にさらに目標の選択と決定の領域を加えてはじめてその全貌を明らかにするこ とができる。それらは密接に結びついており,それらを離しては効果的な管理 会計が考えられないから,前述の4つの領域にさらに2つの領域を加えて解明 されなければならないとしたことである。 このカーチャーの主張は注目に値すべきものであろう。ただ4つの領域にさ らに2つの領域を加えるという点では問題ないとしても,決定理論を加味する ということは具体的には決定モデルを構築することを意味することが考えられ るが,会計モデルが本質的に測定モデルであるだけに決定モデルになりうるの かという問題が残る。伝統的な会計モデルの中心におかれているのは,発生 主義に基づく連続的な期間損益計算のモデルであるから,それは経営行動に関 連があるとしても非完結的な評価機能しかもちえない。各個別の行動の成果を 完結的に評価することができないのである。各行動の成果を個別的,完結的 に評価するためには,例えば次期以降に与える影響や他のサブシステムないし 当該システムが環境に与える影響などを考慮することが是非必要なのである。

(24)

香川大学経済学部 研究年報16 −24− ∫.977 会計モデルがはたしてこのような決定モデルになりうるのであろうか。 ⅤⅠ 管理会計が管理会計として\存立するためには,管理会計が有用なものとして 存在しなければならない。そして,それが有用かどうかは,いうまでもなく, 経営管理に実際に役立つか否かによって決定される。したがって,それがいか なる意味で経営管理に役立つべきかが明らかでなければならない。 この立場にたって,本稿は,管理会計とは何かについて考えてみようとした ものである。ここでは管理会計の本質を明らかにする1つの方途として,その 機能を考察しようとした。 まず,第ⅠⅠ節においては,管理会計の機能がいずれの時代から認識されて きたかについて,−・般に科学的管理法を契機として生れた標準原価計算や予算 統制の計算手段にその誕生をみることとする説が多いが,これに対して,われ われは近代会計の生成すなわち複式簿記にその誕生をみる必要があることを主 張した。近代的複式簿記の成立を経営管理機能に即して解釈するのである。 つぎに,第ⅠⅠⅠ節においては,管理会計を理解するために,会計の他の側面 すなわち財務会計と対比することが多いが,この場合,2つの会計の特徴とし て,財務会計を外部報告会計,管理会計を内部報告会計と定義し説明すること が−・般である。しかし,このアプローチは形式的・技術的にすぎ,内容・機能 に立ちいっての説明とは解し難く説明としては正しくない。この点では,前者 を少くとも1つの社会体系換言すれば制度の側面から把握することが重要であ り,このためには,矢張り法律的財務会計ないし慣行アプローチとして把握す ることが必要である。したがって,管理会計は経営者のための管理会計という よりも経営機能としての経営管理のための会計ないし経営管理的アブロ・−チと して把握することが必要である。この場合でも財務会計と管理会計の関係は, 基本的には一・般と個別の関係として理解されなければならない。 つ引こ,第ⅠⅤ節においては,財務会計の機能と管理会計の機能を深く考察 したとき,相互に共通のものを見出すことができる。管理会計の萌芽を科学的 管理法にではなく,近代的複式簿記のうちに見出し,また管理会計の特徴を内 部報告会計にではなく,その機能に見出しえたことも,まさに2つの会計に共

(25)

管理会計の機能について ー25− 通の何かがあるからである。仮に,その萌芽を科学的管理法に見出し,その特 徴を内部報告会計に求めるのであれば,2つの会計はますます分化の程度を深 めることになろう。ともあれ,2つの会計に共通のものとして,外部への報告 も経営者職分であることを強調することによって管理会計との類似性を求めよ うとするものではなく,また,計算手段の目的へ・の適応プロセスを強調するこ とによって財務会計との類似性を求めようとするものでもない。われわれはそ・ の共通の基盤を情報システムに求めようとしたのである。このことは,会計の 本質を情報システムとしてとらえることを通じて−,2つの会計の統合をはかり うることを示唆するものでもある。また,このことば,会計の機能する領域の 拡大の基礎を築くことともなろう。反面,このことは会計情報機能と意思決定 機能との関係の明確化をも求めることとなる。 つぎに,第Ⅴ節においては,会計情報が意思決定にはたす役割の大きさを 知り,両者の密接な関係を考察したうえで,管理会計が決定することはないが, 管理会計論の論理的構造のうちに意思決定の理論を包摂することの意味を考え たのである。 しかし,なお会計モデルが測定モデルの域を脱して決定モデルとなりうるの か,あるいはそこでの管理会計情報の範囲をいかに考えるべきか等の課題が残 されている。管理会計の本質をその機能に求めたとしても,その機能の理解に はまず管理会計に対するアブロ、−・チの仕方が問題となろう。これはまた,管理 会計論の論理的構造が同時に問われているということでもあろう。

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