香川県観音寺市におけるアブラコウモリ (Pipistrellus abramus) の出巣開始時刻の7年間の季節的変化-香川大学学術情報リポジトリ

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香川生物(KAGAWA SEIBUTSU),仕ゆ:97−104,1982

香川県観音寺市におけるアブラコウモリ(A妙ね飯沼壷

αあγm8)の出巣開始時刻の7年間の季節的変化

森 井 隆 三 香川県立坂出高等学校

SeasonalChanges of Emergence Timein theJapanese

House Bat,Pipistreuus abra37uS,from1974 to1980in Kan−OnjiCity,Kagawa Pr・efecture,Japan

R両z∂MoRII,ぶαた扇dβぶβ雅彦〝ガ£g九ぶc九00J,劫吻占,ぶα鳥α右舷 762,ノ五pα乃

ABSTRACT:Pipistrellus abγαmW emergeS from their’r−OOStS about 20minutes

before sunsetin the western par・t Of Kagawa Pr・efecturIe“Allthr・Ough the

seven years the time of emergencein each month has been almost constant,

but bats emerge ear・lier on the days after the typhoon than on the days

of the same periods in other years ?Ple time elapsed after emergence to

the sunset was thelongest fromlateJune to ear・ly August・The time of

emergenceis ear・1ier during the periods of prIegnanCy andlactation than

the periods of parturition。It follows that energy demands on females

P abramusis very highin pr・egnanCy andinlactationWeaning young bats

leave their・rOOStS ear・1ier than adult batsin August。When air’temperature

falls to about120c,bats do not emerge。Mor・e than 80 per・Cent bats appear

when air temperIatur・eis over 20℃.Bats emerge from their roosts ear−1ier

On the day after r・ainy day than other■ days

開始時刻についての報告としては,内田(1966), は じ め に 食虫性コウモリの出巣開始時刻の年変化につ ・一∴こ●■・、−:一∴ニノ丁/‥′いJりノー/川バ ハ♪・′伸=′ボ 叩・ 門矧加描における庫本(1972),力布0£壱8 て)¢・一 往佗γにおけるKunz(1974),物β毎ヱ≠β ヱα一 成叩両肌偶における前田(1973),P宜がぶ舌γe£g鵬

p勿istrellusにおけるVenables(1943)

Church(1957)およびSwift(1980),Pipis・・

trellus mimusglaueillusにおけるPrakash

(1962),P壱p宜8孟γβ肋8 αあγα仇礼8における内

田(1966),森井(1976)およびFunakoshi&

Uchida(1978),Miniqpterus sめγeibersi

.舟板前別働における船越・内田(1975)が報 告をしている。 アブラコウモリP.αあγα刑≠8に関しての出巣

Fig.1Map showing theloeation of tbestudy ar・ea(solid circle)in Kan−OniiCity,

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01974 ▲197d ●1975 tl1978 森井(1976)およびFunakoshi&UchidaO978) がある。出巣開始時刻を内田(1966)は日没時 刻と関連させて問題にし,森井(1976)は1年 間の観察結果を報告し,Funakoshi&Uchida (1978)は餌と関連させている。本調査の目的 ∼ま同一−L地域における7年間の出巣開始時刻の変 化を日没時刻・気温・照度・天候と生活史との 関係で扱うことである。 調査地域および方法 今回の調査は香川県観音寺市中新町のみなと 橋付近(北緯3406度,東経13339度,標高7m) でおこなった(Fig.1)。調査は1974年から 1980年の7年間にわたって,3月から11月の 間ほぼ1週間に.1回おこなった。1977年6月 8日から7月19日にかけてはほぼ毎日調査した。 なお,1976年9月8日から13日にかけては大 型の台風(台風17号)が香川県東部を通過し, 平年年間雨量を越す記録的大雨を降らせた。 1975年6月14日と8月22日には香川県高松市 花ノ官町でも調査をおこなった。 調査項目は,天候・気温・出巣開始時の照度 ・出巣開始時刻・日没時刻・出巣個体数につい てである。カウンタ・−で5分間ごとに家屋から 約25000m之の範囲内で−−・定方向に飛んでいく個 体数を出巣開始から約10Lux以下の照度になる まで数え,出巣個体数とした。日没時刻として は,新開発表における高松のデータ、−を用いた。 各月ごとの調査回数は恥blelに示してある。

TablelThe totalnumber・Of obserHVration(A),the nunわer and per cent()of observation When bats emerge before sunset against A(B),the totalnumber of emergence

bats(C),and the number and per cent ()of emergence bats before sunset as against C(D) The totalnumber of bats WaS Calculated by the mean of the ntm−

bers over seven years

3u¢だ告○−のよJ hOむ卓己 ● (B) ● ・ ▲ ▲ ▲▲ 20 0 20 -40 ● 0 0 0 0 中 欧 00 3u爪品﹂心∈むーS﹂芯−0む∈こ ′

M A M J J Å S O N

Fig.2.Seasonalehanges of the time of the fir$t emelgenee bat f【Om the roosts・ A:The time of sunset figuredwith the

Change of seasons.

B:Tbe time elapsed正tel emeI−genee b the sunset pietur■edin al10r卜 sontalline oveIfo11ryeaIS 結 果 1日没時刻との関係 1974年から1980年にかけて全体的にみる と,アブラコウ・モリア.αあγα〝‰さの出巣開始時 刻は日没時刻に相前後していた(Fig。2A)。出 巣開始時刻が1年のうちで一・番早かったのは11 月であった。また,その時刻が−・番遅かったの は6月末から7月初めにかけてであった。3月 から4月にかけての出巣開始時刻は不安定であ った。1976年9月13日以後の出巣開始時刻は 他の年の同時期に比べて早かった。なお,1975 年6月14日と8月22日における高松市での調査 Month MarApr MaylJunJul」AugSep Oct Nov

A 5 15 26 32 30 20 24 23 15 3122332301922113 B (60)(叫(88)000)00q)(95)(92)(47)(20) C 34 446 740 976」73119641528 710 66 2 221 300 ‘737 3751357 483 99 2 (6)(50)(41)(76)(51)(69)(32)(14)(3) −98−

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時の気温が一・番低かったのは,1975年3月30 日の117℃であった(Table2)。117℃以下の 気温の日(5回)には出巣は観察されなかった0 アブラコウモリが冬眠に入るのは,全調査期 間を通じて10月下旬から11月にかけセであった。 冬眠直前にアブラコウモリの出巣が観察された 日の出巣時の気温の−・番低かったのは,1974 年11月19日の12℃であった(Table2)。 3月から7月上旬にかけては,成獣のみの飛 翔が観察されるが,その時の出巣時の気温と出 巣個体数の関係をみると(Table3),出巣時 の気温が200c以上になると80%以上の個体の出 巣がみられた。 3 照度との関係 出巣開始時の照度に対する観察頻度(労)を

Table3 The per cent of emergence bats as

against the totalnumber・Of bats accor− ding to ten air temperature ranges from

March to earlyJuly,1974−・1980‖ The total number of bats(1226)was calculated by

the mean of the five numbers out of

the allar\r・anged numbers;namely,1643,

May1980:1216,lune1976;1122,May1977; 1076,Iune1979 andlO56,May1978 では,出巣開始時刻はともに日没時刻後であっ た。 調査時における日没前と日没後の出巣開始頻 度を各月ごとにみると(Tablel),全体的に は日没時刻前出巣が多い。6月と7月において は,すべて日没時刻前に出巣を開始しており, 8月では調査回数の95ヲちが日没時刻前に出巣を 開始していた。その後11月にいくにしたがって, 日没時刻前に出巣を開始する割合は減少してい った。しかし,1976年9月の台風以後は9月, 10月と11月の調査回数7回いずれも日没時刻前 に出巣を開始していた。 日没時刻を基準にとった時の出巣開始時刻の 年変化では(Fig.2B)6月中旬から下旬にか けては日没時刻より20分∼50分早く出巣を開始 し,6月下旬から7月上旬にかけては10分∼20 分早いだけであった。さらに,7月中旬から8 月中旬にかけては日没時刻よりも出巣開始時刻 は20分∼40分早くなった。 Tablelからみると,全個体数に対す−る日 没時刻前に出巣する個体数の割合は6月に高く, ついで8月となる。一一・番低い値を示したのは11 月であった。 2気温との関係 全調査期間を通じてアブラコウモリが冬眠か らさめ,採餌のため飛翔が観察されたのは3月 からであった。1975年,1977年,1979年 と1980年の出巣が観察された日において出巣

Table2 Air temperature and bats emergence(+) or nonemergence(−)in March and November,from1974 to1980

Air temperaturq‡)er(:ent Of eme躇enCe bats range(Oc) Mean Max・Min・

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 4 6 ︵バ︶ 0 2 4 6 8 0 1 1 1 1 2 2 2 2 2 3 一一一一一一一一一 1 2 4 6 ▲パ︶ 0 9︼ .4 6 8 1 1 1 1 2 2 2 2 2 l 1 0 1 3 7 ︵0 0 4 0 0 4 7 9 9 2 1 2 1 4 5 5 7 2 9 ﹁▲ 4 9 1 0 0 0 0 1 1 4 0 6 0 0 0 0 2 2 9 9 0 0 0 0 0 6 5 8 0 ハ0 1 4 2 1 1▲ 0 6 7 6 0 3 8 4 3 2 1 4 5 只︶ ︿8 8 8 9

Table4 Per cent of number of observation when the first bat appearadin different illuminations as against the number of total observation

Date 竿岩ヲ+or− Date 駕ち・or−

61Jov,1974 19 Nov, 2 Nov,1975 21Nov, 19 Nov,1976 5 Nov.,197、7 14 Nov.,1978 20 Nov., 1Nov・,1979 8 Nov・, 7 Nov・,1980 18 Nov・, + + + + + + + + + + + + 16 Man,1975 110 − 26 Mar:., 80 − 20 MaIこ,1977 110 − 19 MaIl,1979 110 − 26 MaI;,1980 105 − 30 Nolち,1974 115 − 11NoⅥ,1975 160 − 10 Nol乙,1977 100 − 28 MaI;,1975 125 + 30 MaIこ, 117 + 28MaI;,19‘7L7 118 + 7 MaIこ,1979 120 + 27 M加㍉ 155 + 5 0 0 0 0 7 2 7 5 3

Month Mar ADrこ.MayJunJul.Aug・SepOcth Nov

Lux O−10(泊 1001−20(泊 2001−3000 3001−・4000 4001−5000 5001− 91 9 4 1 5 7 2 8 2 6 3 2 3 2 7 6 2 3 2 1 9 6 9 6 2 3 2 6 6 4 4 3 4 1 6 8 6 5 2 1 ︵‖0 6 5 ︵0 5 8 4 1 1 3 6 3 0 0 ∩︶ 5 0 0 0 6 7 5 9 8 7 4

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Table5 The condition of sky,bats emergence(+)or nonemergence(−)and emergence time of the first from 8June to19July,1974−1980

Emergence time of the fir・St bat

Date +or・−

77 1977 Condition of skyin other・yearS 19:0118:41Cloud%1979 18:53 Cloudy,1975 18:45 Cloudy,1976;18:52 Cloudy,1980 + 8Jun.,Clear 9 10 11 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 1 1 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 18:56 Cloudy,1978;18:47 Cloudy,1979 19:07 Alittle cloudy,1974 Rainy Rainy. Rainy Cloudy 18:51Cloud%1975;19:08Cloudy,1979;19:05Cloudy,1980 18:55 Cloudy,1978 19:02 Cloud署1974 18:33 Cloudy,1976 18:45 18:59 19:07 Cloud%1975 19:04 Cloud%1980 18:59 19:00 19:06 Cloudy,1974;19:04 Cloudy;1978 19:02 18:56 Alittle cloudy;1976

18:59 19:12 Alittle r・ainy;1979;19:05 Cloudy,1975

19:07 18:45 Cloud%1980 19:15 19:08 Clear;1978 19:06 18:59 19:01Alittle cloudy Cloudy Cloudy Ralny Cloudy Cloudy A little cloudy A little cloudy A little rainy Alittle ralny 30 Cloudy lJul,Alittle cloudy 2 CleaI 3 A little cloudy 4 A little rainy 5 Cloudy 6 Cloudy A little A little A little Cloudy y y y d d d u u u O O O C C C 18:50 Cloudy,1974:19:07Clear,1979;1903Alittle cloudy, 1978 18:59 Cloudy,1976 18:37 Cloudy,1980 18:36 Alittle cloudy,1975 Alittle cloudy A little cloudy k little cloudy A little cloudy A little cloudy Rainy Rainy Cloudy Cloudy 2 3 4 5 6 7 00 9 1 1 1 1 1 1▲ l l 19:01

18:50 Alittle cloud鵠1974;18:39 Alittle cloudy,1979

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各月ごとにみると(Table4),出巣開始のピ −・クが1000Luxを越えていたのは4月,6月, 7月と8月であり,1000Lux以下は3月,5 月,9月,10月と11月であった。そのうちで, 3000Luxを越える明るい照度で出巣す−る割合 の多かったのは3月,4月と8月であった。し かし,1976年9月13日以後では,9月に3000 Luxを越えた明るさで出巣を開始したのが1回, 10月では3000Lux以上(2回),4000Lux 以上(1回)と5000Lux以上(1回)という 他の調査年に比べて明るい照度で出巣が開始さ れていた。 4 天候との関係 1977年6月8日から7月19日の約1カ月間 と,1974年から1980年の同時期の出巣開始 時刻と天候の記録をみると(Table5),この間 の平均出巣開始時刻より早い時刻で出巣した観 察が18回,遅い時刻で出巣したのが27回であっ た。小雨の日の出巣開始時刻はすべて平均出巣 開始時刻より後であった。くもりの日では出巣 を開始した時刻が平均出巣開始時刻より後にな ったのは12回で,前になったのは14回であった。 出巣開始がこの間の平均出巣開始時刻より特に 早い計10回の観察例では,そのうち9回までが 前日が雨天であった。1976年9月13日には, わずかな個体(個体数不明)ではあるが雨の中 を飛翔す−る個体が観察された。 考 察 今回のアブラコウモリP五pゐ古γβgヱ≠8 αあγα− 仇≠β の調査では,出巣開始時刻は日没時刻の 年変化に相前後して変わっていた。同様の現象 は,今までに内甲(1966),森井(1976)および Funakoshi&Uchida(1978)によって報告さ れている。食虫性コウモリのこのような現象に ついて∼ま,すでに屈九壱耽OgOp7搬さ C〝循虎≠さ co門㍑血8(庫本,1972),頻押領い頑卑■¢γ (Kunz,1974),〟yc吉αわ躇 払さ五op£βγ礼β (前田,1973),P・如画如抽加(Venables, 1943;Church,1957;Swift,1980), Fninusglaucillus(Prakash,1962)およ び〟抜旬画椚躇 8商邦鵡抑如」伽塙両独抽 (船越・内田,1975)の調査でそれぞれ報告さ れている。以上のことから,食虫性コウモリに おいては,出巣開始時刻は日没時刻と強い相関 を持っているといえる。 今回のアブラコウモリの3月から9月に.かけ ての出巣開始時刻は日没時刻前の観察例が多く みられた(Tablel)。しかし,内田(1966, 福岡)およびFunakoshi&Uchida(1978, Fukuoka)によれば,春と秋を除いて,アブラ コウ1モリの出巣開始時刻は日の入りより10分か ら30分遅れるという。また,高松市では筆者の 2回の調査や,野口(未発表)によると,出巣 開始時刻は日没時刻後であるd このように出巣 開始時刻∼ま,同■一一県内でわずか直線距離にして 50k血しか離れていない場所においても異なって いた。このような出巣時刻に差がみられる原因 の1つとして,今回の観音寺市での調査が海岸 に近く,夜間の照明も少ないのに対して,高松 市では市街地であり,夜間の照明も観音寺市に 比べて多いというような周囲の状況が異なって いることがあげられよう。今後詳細な調査が待 たれる。また,風脚卸料れ沼爾 でもイギリ スのBir wick(Church,1957)および Aberdeen(Swift,1980)では出巣開始時刻 が日没時刻後であるのに対して,0Ⅹfor・d(Ve− nables,1943)では,5月と8月には日没時 刻前に出巣が開始されることが観察されている。 このように観察場所によって日没前,日没後の 出巣がみられることから,今回の事例は例外と はいえないと思われる。 気温とアブラコウモリの出典についてみると, 今回の調査では,冬眠からさめ一一・部の個体にお いて出巣が開始されたのが出典開始時の気温が 117℃以上であり,冬眠前に出巣を開始した時 の一−・番低かった気温が12℃であった。このよう な現象については,ヤマコウモリル払さ宜op舌¢γ鵬 (前田,1973)においてもみられている。また, P・Pipistrellus(Venables,1943)では, 通常の出巣は約400F(4−4℃)以上の時に観察 されている。Shimoizumi(1959)は,ユビナ ガコウモリ」はβ¢如・β宜あβγさ宜 朋宜g壱ク∽さ朋子ま67 ∼12℃の温度下で冬眠に入るとしている。これ

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とは,コウモリの空腹度にもとづくものと考え られる。これらの事実は,気温が十分であるな らば,天候と出巣時刻との関係については,雨 天の日を除いて当日の天候よりも,前日に十分 な採餌活動ができたかどうかというコウモリの 空腹度によって,その日の出巣開始時刻に変化 が出てくるのではないかと思われる。 今回のアブラコウモリの調査において,3月 から4月にかけては,出巣開始時刻が一層せず, 日没前あるいは日没後が観察された(Fig.2)。 また,全個体数に対して509ち以下の個体数しか 出巣がみられなかった。このような冬眠からさ めた直後の出巣開始時刻の不安定な現象は,ヤマ コウモリ(前田,1973)およびユ・ビナガコウモリ (船越・内乱1975)においてもみられている。 このことについて前田(1973)は,4月中の寒 い日は活動しないとしており,船越・内田(19 75)は,食物の希薄時におけるコウモリの空腹 感と密接に閑適しているとしているがその理由 は述べていない。今回のアブラコウモリのこの ような現象を示す要因も同様に空腹感にもとづ いていると考えられる。すなわち,4月の出巣 時の気温(平均175℃)は冬眠からさめる約12 ℃より高いが,809ら以上の個体数が活動できる 約20℃よりは低い。そのため,−−・部の個体の出 巣はみられるが,出巣しない個体も存在するこ とになると考えられる。また,この時期は長い 冬眠期間中に,蓄積されていた脂肪が消費され, 体内のエネルギ・一源が減少している時期でもあ る。それゆえ,出巣しなかった個体は空腹度が 増してくると思われる。そのため,出巣可能な 気温の日には早い時刻での出巣が開始される。 このことにもとづいて,出巣開始時刻が山定し ない傾向が出てくるものと推測される。 6月,7月および8月においては特に日没時 刻より早い時刻での出巣がみられた(Fig.2)。 このような現象はヤマコウ・モリ(前田,1973) においてもみられている。このことについて前 田(1973)は,この時期が出産,授乳の時期で あるので,より多くのカPリ・−を必要とし,雌 では採食時間を長くする方向へ適応していった と思われる,と述べている。アブラコウモリに らのことは,コウ・モリの種によっても異なるが, 気温とコウモリの覚せい,冬眠の間に大きな相 関があることを示している。そして,アブラコ ウモリにおいては,12℃前後の気温が体内の物 質交代に重要な意味を持っているものと思われ る。しかし,120c前後の気温の時にはわずかな 個体の出巣しかみられなかったり(Table3), 出巣開始時の気温が200c以下となる10月以後に は,出巣する個体数がだんだん減少したり,秋 には150c以下では出巣しないで冬眠を始め,20 ℃以上で大部分の個体の出巣がみられたり (Funakoshi&Uchida,1978),さらに20℃ 以上の気温の時に809ち以上の個体が出巣する (Table3)ことから考えて,20℃以上の気温 に.なると体内の物質交代が高まり,コウモリの 活動も活発になってくるものと思われる。 天候とコウモリの出巣については,今までに 2,3の種についての報告がある。P・如如か relhL,S の観察においては,Venables(1943) は,空の状態は出巣に重要でないとしており, Church(1957)は,曇った日に早く出巣を開 始することもあるが,早く出巣を開始したうち のいくらかは雲のない状態であったとしており, Swift(1980)は,曇天,月光および風速は出 巣開始に明らかな影響は持たないとしている。 PI・akash(1962)は∴㌣血加嘲両肘∽那の 調査で,曇天時にはいつもより早く出巣を開始 し,雨の日を除いて,霧雨の日にはいつものよ うに出巣す−るという。アブラコウモリの調査に おいては,内田(1966)とFunakoshi& Uchida(1978)は,曇天時にはいつもより早 く出巣を開始し,内田(1966)は小雨の時には 出巣しないとしている。また,森井(1981)は, 雨の中を出巣する個体もあることを指摘してい る。今回の調査では,小雨の日の出巣はみられ た。また,特に早く出巣を開始したのは雨天の 次の日であった。このような現象はコキクガシ ラコウモリ兄coγ循虎≠β cOγ竹払ねぷ(庫本, 1972)においてもみられている。また,今回の 調査では,雨天の日が長く続くほど,次の出巣 時には早く出巣を開始することがみられた。こ のように雨の次の日に早く出巣が開始されるこ ー102−

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おいては,6月は雌においては出産直前であり, 胎児の成長のためにも栄養源を多くとる必要が ある。さらに,この時期は雨の日が多いので毎 日の出巣ができない。そのため,コウモリiま空 腹庶も増し,出巣可能な日には早い時刻に出巣 を開始する。これらの理由によって,6月には 早い時刻での出巣がみられるのであろう。とこ ろが,7月から8月上旬にかけては,アブラコ ウモリは授乳の時期であり,幼獣の離乳直前期 に相当している。Kunz(1974)によると,雌に とってのエ・ネルギ・−の最大要求は離乳前の授乳 期にみられるという。また,授乳期には妊娠期 間よりより多くのエネルギ・一 源が要求される (Studier・et al,1973;Anthony&Kunz, 1977)。アブラコウモリにおいても同様の原因 でこの期間にはより多くのエネルギ・一源を必要 とす−ると思われる。そのため,より多くのエネ ルギ1一源を得る目的で7月中旬から8月上旬に かけては早い時刻に出巣を開始するものと思わ れる。さらに,8月中旬以後の早い時刻での出

巣開始の理由を考えてみる。1976年8月21日

の調査では比較的早く出巣する個体はほとんど が幼獣であった(森井,未発表)このことから 考えると,この時期の出巣の早い個体は幼獣で はないかと推定される。同様の現象はFunako−・ shi&Uchida(1978)も観察している。幼獣 はこの期間にほとんどの外部形態が成獣の域に 達する(森井,1981)ので,より多くの、エネル ギ・一源を必要とすることから早い時刻で出巣を 開始するものと推測される。 早い時刻での出典が開始される6月から8月 にかけての間でも,6月下旬から7月上旬にか けては,7年間ともその前後の時期より出巣開 始時刻は約平均20分遅れていた(Fig.2B)。 この時期は香川県内のアブラコウモリの出産期 (森井,1978)と完全に対応しているので,出 産という現象が出巣開始を遅らせるように影響 しているのではないかと考えられる。 1976年9月の台風後に例年になく早い時刻 に出巣が開始された。これは,コウモリが冬眠 にそなえて脂肪を蓄積する時期である(Funa− koshi&Uchida,1978)にもかかわらず,台 凰のために出巣できず,エネルギ・一源が十分に とれなかったので,それを補うために,早い時 刻で出巣を開始したと考えられる。 このように全体的にみると,今回の調査結果 は内田(1966)およびFunakoshi&Uchida (1978)と異なり,早い時刻で出巣を開始して いた。日没時刻前に出巣を開始する割合は,6 月,7月と8月には509ら以上の個体である(職− blel)ことからみて,早く出巣する個体が特別の 個体ではないといえる。天候の項でも述べたよ うに今回の調査では,早い時刻での出巣はェネ ルギ・一源を多く必要と推定される時期に観察さ れた。したがって,出巣現象を単に気温・天候・ 照度等の無機的環境だけで説明するのではなく, コウ・モリの側の状態(生活史の中での位置づけ) とあわせて考えていかなければならないと思わ れる。 要 約 香川県観音寺市において1974年から1980 年にかけてアブラコウ・モリアすpゐ£γβ〃≠さ αあγα彿≠8 の出巣について調査し,以下の点が 明らかとなった。 1香川県観音寺市でのアブラコウモリの出 巣開始時刻は日没時刻前が多かった。 2 冬眠あけのアブラコウモリの出巣の観察 は出巣時の気温が117℃以上の時であり,20℃ 以上になると809ら以上の個体の出巣が観察され たことは,コウモリの体内の物質交代には20℃ という気温が重要な意味を持っているものと思 われる。 3雨天の翌日,雨さえ降らなければ出巣は 早い時刻でおこなわれることが観察された。こ のことは,出巣開始時刻は当日の天候よりも空 腹度と関連を持っているものと思われる。 4 強い台風によって,それ以後の出巣開始 時刻は,例年になく早くなった。これは,コウ モリの空腹歴と関連を持っているものと思われ る。 562回の調査すべてにおいて,6月と7月 の出巣開始時刻は日没時刻20分∼50分前である。 この時期雌は胎児の生育や授乳に多くのエネル

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庫本正.1972一 秋書台産コウモリ類の生態およ び系統動物学的研究.秋吉台科学博物館報告

8:7−119

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雑 7:219−223

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参照

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