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便株式会社苫小牧支店 ( 以下 被申立人支店 という 当時の名称は, 郵便事業株式会社苫小牧支店であった ) は, 毎月 1 回定例的に支部労使委員会の窓口を開催し, 意思疎通を行っている ( 乙第 3 号証, 第 52 条 1 項 ) 平成 23 年 3 月中旬ころに支部労使委員会の窓口が開催され

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- 1 - 事件番号 平成23年道委不第21号 事 件 名 日本郵便・日本郵便苫小牧郵便局不当労働行為事件 申 立 人 郵政産業労働者ユニオン北海道地方本部 外1名 被 申 立 人 日本郵便株式会社 外1名

最終陳述書

平成24年12月25日 北海道労働委員会会長 様 申立人ら代理人弁護士 高 崎 暢 外5名 本書面は,団体交渉の申入れが拒否された経緯を明確にしたうえで,義務的団交 事項を交渉事項から除外する労働協約の条項が無効であること及び苦情処理委員会 が団体交渉を補完する機能を果たしているとは到底いえないことなどを主張し,被 申立人らが団体交渉の申入れを拒否したことに正当な理由がないこと及び労働協約 を根拠に経営専決事項につき団体交渉を拒否することが労働組合の存在意義を奪も のであり,組合運営の支配・介入に当たることから,労働組合法7条2号及び同3 号に違反することを明らかにするものである。 第1 団体交渉の申入れが拒否された経緯 1 支部労使委員会の窓口交渉 ⑴ 申立人郵政産業労働者ユニオン苫小牧支部(以下「申立人支部」という。 当時の名称は,郵政産業労働組合苫小牧支部であった。)及び被申立人日本郵

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- 2 - 便株式会社苫小牧支店(以下「被申立人支店」という。当時の名称は,郵便 事業株式会社苫小牧支店であった。)は,毎月1回定例的に支部労使委員会の 窓口を開催し,意思疎通を行っている(乙第3号証,第52条1項)。 平成23年3月中旬ころに支部労使委員会の窓口が開催され,被申立人支 店は,申立人支部に対し,会社の経営状況が悪化しているため今後期間雇用 社員を雇止めする可能性があることを伝えたところ,申立人支部は被申立人 支店の方針に反対であることを表明した(第1回審問調書3頁)。 申立人支部は,期間雇用社員を雇止めすることで財務内容を改善しようと する被申立人支店の方針を撤回させるために,まずは被申立人支店の方針の 問題点について,機関誌の配布を通じて,被申立人支店に勤務する社員に知 らせた(第1回審問調書37頁)。 ⑵ また,申立人支部は,被申立人日本郵便株式会社(以下「被申立人本社」 という。当時の名称は,郵便事業株式会社であった。)の経営判断によりJP エクスプレス株式会社を設立し,日本通運株式会社から「ペリカン便」に関 わる事業を承継したことにより,結果として被申立人らが多額の債務を抱え るに至ったと判断した。申立人支部は,被申立人ら経営幹部の責任を問うこ となく,労働条件の不安定な期間雇用社員を雇止めして債務超過を解消しよ うという被申立人らの対応が,労働者の権利を著しく踏みにじるものである と考え,被申立人らの方針に反対であることを明確に表明するとともに,被 申立人らに情報提供を求めることにした。 申立人支部は,平成23年7月26日,被申立人支店に対し,「労働条件改 悪・配転・雇い止めに関する要求書」(甲第8号証)を提出した。 その数日後である平成23年8月10日,被申立人支店に勤務する社員は, 申立人支部の執行委員長である三浦敏彦に対し,甲第8号証②記載の最低で も生活できるような労働時間を保障してほしいとの 要望については経営専 決事項である,また,甲第8号証③記載の雇止めはしないでほしいとの要望

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- 3 - に対しては客観的な業務量に見合った労働力の提供をお願いしたい,さらに, 甲第8号証⑤記載の希望 者は全員正社員とするとの要望 ついては経営専決 事項である,と回答した(第1回審問調書9頁及び同14頁 )。被申立人支 店は自社の見解を述べるだけで申立人支部の要求を踏まえた交渉は何らせ ず,支部労使委員会の窓口交渉を終了させた。 2 団体交渉の申入れ ⑴ 被申立人支店は,平成23年8月25日,佐藤咲子,田中恵美子及び佐々 木繭に対し,雇用契約を更新せずに同年9月30日に退職となること(いわ ゆる雇止め)を予告通知した。 ⑵ 申立人支部は,平成23年8月29日,被申立人支店に対し,甲第7号証 を提出して,組合員である上記3名の雇止め予告通知の撤回を求めて,同月 31日午後5時00分からの団体交渉の申入れをした。なお,佐藤咲子及び 田中恵美子は,同月25日時点で申立人支部に加入しており,佐々木繭は雇 止め予告通知直後の同月28日に申立人支部に加入した。 被申立人支店は,同月30日,申立人支部に対し,甲第7号証を受け取れ ないとして返却し(第1回審問調書7頁),さらに団体交渉の申入に対して は,経営専決事項であること及び支部交渉事項の範囲に含まれていないこと を理由として拒否した(第1回審問調書11頁)。 申立人支部は,かかる団体交渉拒否が不当労働行為に該当すると判断し, 平成23年9月5日,不当労働行為の救済申立をした。 ⑶ 申立人郵政産業労働者ユニオン北海道地方本部(以下「申立人道本部」と いう。当時の名称は,郵政産業労働組合北海道地方本部であった。) は,平 成24年2月29日,日本郵便株式会社北海道支社(以下「北海道支社」と いう。当時の名称は,郵便事業株式会社北海道支社であった。) に対し,甲 第12号証を提出して,佐藤咲子及び佐々木繭の雇止めの撤回を求めて,同 年3月7日午後6時00分からの団体交渉の申入れをした。

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- 4 - 北海道支社は,同年3月6日,申立人道本部に対し,団体交渉の申入につ いては,個別的人事権の問題であることを理由として拒否した(甲第13号 証及び第1回審問調書19頁)。 申立人道本部は,かかる団体交渉拒否が不当労働行為に該当すると判断し, 平成24年5月30日,不当労働行為の救済追加申立をした。 3 補足 被申立人らは,平成23年8月29日の団体交渉の申入に関し,その窓口担 当者ではない飯田勝則が甲第7号証を被申立人支部側の窓口担当者に渡した ことについて労働協約上の定めるルールに違反すると主張する(第2回審問調 書6頁)。 しかしながら,同日に団交の申入をすることについては申立人側の窓口担当 者の意に沿うものであったこと(第1回審問調書16頁,同38頁),また, 翌日の同月30日に,被申立人側の窓口担当者は,申立人側の窓口担当者に対 し,団体交渉の要求事項については個別的人事権の行使に関わるものであるこ とを理由にその申入を拒否するとの回答をしたのであり(第2回審問調書15 頁及び同16頁),被申立人に団交の申入を拒否したとの認識があることから, 団交の申入とその拒否があった事実に争いはないものといえる。 第2 労使関係に関する協約(以下「本件協約」という。乙第3号証)20条1項 及び「労使関係に関する協約」附属覚書(以下「本件協約覚書」という。乙第 4号証)9条の義務的団交事項を交渉事項から除外する条項は無効であること 1 義務的団交事項の意義 ⑴ 労働組合法7条2号は,使用者が団体交渉を「正当な理由」がなく拒むこ とを不当労働行為として禁止している。これは憲法28条で労働者の団結権, 団体交渉権及び争議権を保障していることを受けて,労働組合が使用者に対 し団体交渉に応ずべきことを請求できる権利を認め,正当な団体交渉の要求

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- 5 - に対して使用者はこれに応ずべき法的義務(団交応諾義務)を負うことを定 めたことを意味する。 団体交渉の対象事項について,使用者が正当な理由がなく団体交渉を拒む ことが労働組合法7条2号の不当労働行為に当たるとされるそのような交渉 対象事項を「義務的団交事項」という。 ⑵ 何が「義務的団交事項」であるのか,本件に即していえば,3名の組合員 の雇止めの撤回が「義務的団交事項」に該当するか否かは,憲法28条及び 労働組合法が労働者に団体交渉権を保障した目的及び趣旨に基づいて判断す べきことである。 本件では,「組合員3名の雇止め撤回」についての団体交渉要求を拒否する ことが労働組合法7条2号に該当するのである。つまり,個別的な「雇止め」 であっても「義務的団交事項」に該当するのである。したがって,「雇止め」 に関しては,「経営専決事項」との理由で団体交渉を拒んでも,それは労働組 合法7条2号にいう「正当な理由」には当たらない。 ⑶ 憲法28条の労働基本権保障との関わりで「義務的団交事項」については, 以下のとおり考えるべきである。 ア 資本主義社会においては,労働者が自らの労働条件の維持改善その他の 経済的,社会的地位の向上を図るには団結による自主的活動による以外に はない。これは労働者の多年にわたるたたかいを通じて歴史的に確認され た事実である。 国家は,これを積極的に承認し,労働者に団結する権利とともに団体交 渉権及び争議権その他の団体行動権を保障したのである。憲法28条の労 働基本権の保障の意義はここにある。 イ したがって,憲法28条の団体交渉権の保障は,労働組合がその組合員 の経済的,社会的地位の向上という団結の目的に関連する事項であり,使 用者が管理・処分可能な事項であれば,労働組合に団体交渉を要求する権

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- 6 - 利が認められ,使用者はこれを拒むことは許されないことを意味する。 労働組合にとって,組合員の個別的な労働条件その他の処遇に関連する 事項,具体的には,解雇,懲戒,配転,出向,査定などの人事・労務管理 に属する事項の対応も重要な団結目的を達成するための活動である。 つまり,「義務的団交事項」は,狭く賃金や労働時間などの労働条件に限 られず,人事・労務に関する個別事件であっても労働者の待遇に関連する 事項も含むと解される。 ウ また,団体交渉の本来的な意義を労働力の統一的取引の観点から労働条 件をはじめとする労使関係を規律する労働協約の締結にあると解する立場 に立つ学者でも,わが国では,職場における個々の組合員の配転,解雇な どの個別人事,個別権利問題も団体交渉で処理されることも多く,そのこ とが団体交渉の副次的意義であると位置づけている。その上で,労働委員 会でも裁判所でも,個別人事や個別的権利主張も義務的団交事項であると の解釈が確立していることを認めている(菅野和夫・労働法・第9版55 6~557,577頁)。 エ 以上のとおり,組合員3名の雇止めの撤回問題は,本来,「義務的団交事 項」に当たる。 2 本件協約及び本件協約覚書の意味 ⑴ 本件協約20条1項は,本文で1号ないし4号の団体交渉事項を掲げ,た だし書きで経営専決事項を交渉事項から除外している。 この規定は,被申立人が民営化される以前に適用されていた公労法8条を 踏襲したものであることは一目瞭然である。 すなわち,本文の交渉対象事項は,1号に退職手当を加え,2号に先任権 を除いて高齢者再雇用と解雇を加えた以外に変わりはない。ただし書きは, 「管理及び運営事項に関する事項」を経営専決事項に置き換え,「団体交渉 の対象とすることができない」を「対象事項としない」と変更しただけであ

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- 7 - る。 ⑵ 公労法8条の団体交渉事項と管理運営事項との関係については,以下のよ うに解釈されている。 何が管理運営事項であるかを抽象的に決定することは困難であるが,それ が職員の労働条件に関連する限りは,その関係において団体交渉の対象にな るといわなければならない。管理運営事項は団体交渉の対象外というのが文 理に即した解釈との考え方もあり得るが,管理運営事項の処理によって労働 条件に密接な関連を生ずる場合に,その影響を受ける労働条件について団体 交渉ができないのは,憲法28条が保障する団体交渉権の実質的制限にほか ならず,その制限を認める合理的な理由を見出すことはできない。その立法 経過に照らしても,労働条件に関連する事項は団体交渉事項であるのが原則 で,労働条件に関連しない管理運営事項は団体交渉事項とはしないとの例外 との関係を明確にしたのである。団体交渉の対象とすることができないとは, 管理運営事項は法定されているので,労使対等の立場で団体交渉によって決 定すべき性質のものではないとするものである(外尾健一・労働団体法37 7頁以下,峯村光郞・公労法・地公労法68頁以下) なお,公労法8条4号の「前各号に掲げるもののほか,労働条件に関連す る事項」については,労働条件に関する事項一般が団体交渉の対象になるこ とを定めたもので,この労働条件とは賃金,労働時間などの狭義の労働条件 だけでなく,転職,免職及び懲戒などの広義の労働条件をも意味するとされ る(峯村前掲85頁)。 ⑶ 公労法8条の解釈に準じて考えれば,本件協約20条1項は,たとえ経営 専決事項であろうと,それが組合員の広義の労働条件に関連する限りは団体 交渉の対象になることを定めたものであり,ただし書きは,労働条件に関連 しない経営専決事項にまで交渉応諾義務を負うものではないことを定めた に過ぎない。

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- 8 - これを,本件協約の文言とおり形式的に解釈して経営専決事項に当たる事 項は,たとえ労働条件に密接に関連する事項であっても団体交渉事項から除 外され,結果として,使用者が団体交渉を拒否しても不当労働行為に当たら ないとすると,憲法28条の団体交渉権保障の趣旨は没却されてしまう。 ⑷ 本件協約覚書9条は,本件協約20条1項ただし書きの「経営専決事項」 とは,人事異動(出向,転籍,配転),社員区分間の異動,再採用,休職・ 復職,降職,退職,懲戒,解雇等の個別的人事権の行使に関する事項,個別 的労務指揮権の発動に関する事項及び企業財産の管理処分,企業計画の立案 実施等の経営に関する事項をいうと定め,この列挙した事項を交渉対象事項 から除外するとしている。 ⑸ この個別的人事権及び労務管理権の発動に関する事項についてすべて交 渉対象から除外するということは,使用者が発令した懲戒,解雇等について は,それが恣意的,不公正,事実誤認ないし不当労働行為に当たるものであ っても,労働組合からの主張・異議は一切受け付けないことである。現に本 件でも,被申立人はそのように主張し,頑なな態度を押し通している(第2 回審問調書13頁,同14頁,同16頁,同17頁,同22頁, 同28頁, 同29頁及び同30頁)。 このことは,単に使用者が発令した人事労務の決定に対して労働組合は無 条件で承認することを意味するに止まらない。仮に,労使間で懲戒,解雇等 に関する「基準」を協定していたとしても,その「基準」が特定の社員に適 用された場合に,労働組合は使用者が恣意的な「基準」の解釈や運用をして も交渉要求してその非を追及できないのである。これでは,労使間で「基準」 を決めた意味もないことになる。また,労使間で合意がなく,就業規則等に よって懲戒,解雇等の発令がされている場合であっても,使用者が自ら定め た就業規則等を公平適正に適用しているか否かを労働組合が取り上げるこ とができないことになる。このことは,労働組合から憲法28条で保障され

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- 9 - ている団体交渉権を奪うことであるし,ひいては労働組合それ自体の存在, 目的を無意味にするものである。 ⑹ ア 以上のとおり,本件協約覚書9条は,憲法28条で労働基本権を保障 している趣旨に真っ向から反するので無効である。 イ 本件協約20条1項は,⑶で述べたとおり,たとえ経営専決事項であ ろうと,それが組合員の広義の労働条件に関連する限りは団体交渉事項 である,労働条件に関連しない経営専決事項にまで交渉応諾義務を負う 者ではない,このことを定めた条項と解すべきである。それを超えて, 組合員の広義の労働条件に関連する事項であっても経営専決事項は団体 交渉事項ではないとの定めであるとすると,ただし書きの部分は,憲法 28条に違反して無効といわざるを得ない。 3 労働協約自治の原則について ⑴ 本件協約20条1項及び本件協約覚書9条の義務的団交事項を交渉対象事 項から除外する条項は,被申立人らが主張する労働協約自治の原則に照らし ても無効であることを述べる。 ⑵ 本件協約20条1項ただし書きの「経営専決事項」を本件協約覚書9条の 文言どおりに解するとすれば,既に述べたように,労働組合は,特定の組合 員に対して使用者が恣意的な,不公正な,又は不当労働行為に当たる懲戒, 解雇等の人事労務関係の発令をした場合であっても,それに関して団体交渉 を要求する権利を一切放棄することを認めることになる。それは,労使間で 懲戒や解雇等に関する「基準」を協定しても,特定の組合員に適用するに当 たって使用者の恣意に委ねる結果になり,「基準」を合意したことを無意味に する。ひいては,労働組合の存在意義が大きく失われることになる。 また,本件協約覚書9条に掲げる人事労務に関する事項を団体交渉の対象 外とすることに何らの利益も合理的な理由も全くない。 ⑶ 憲法28条は,労働者が自らの労働条件の維持改善その他の経済的,社会

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- 10 - 的地位の向上を図るには団結による自主的活動による以外にはないことを積 極的に承認し,労働者に団結権,団体交渉権及び争議権を保障し,団体交渉 権として,労働者の団体に団体交渉を請求する権利を,使用者にはそれに応 じる義務を認めたのである。この憲法28条で保障される労働基本権は「侵 すことのできない永久の権利」(憲法11条)としてすべての労働者に保障さ れたものである。 憲法28条は,このような基本的人権としての本質から,使用者に対して, 労働者の団結権,団体交渉権及び争議権を尊重すべき「公の秩序」を設定し たものと認められる。したがって,団結権等の尊重の理念に反する行為は「公 の秩序」に反するものとして無効とされる(菅野和夫・労働法第9版21~ 22頁)。 ⑷ 本件協約20条1項ただし書きの「経営専決事項」を本件協約覚書9条の 文言どおりに解するとすれば,申立人組合の団体交渉権が実質的に否定され, ひいては労働組合の存在意義が失われかねないことは上記で述べたとおりで ある。 これは,たとえ労働協約によるものとはいえ,団結権等の尊重の理念に反 する行為である。 したがって,本件協約20条1項ただし書きの「経営専決事項」を本件協 約覚書9条の文言どおりに解することは,申立人組合にとって義務的団交事 項を制限するだけの特段の合理的な理由でもない限り,「公の秩序」に反する ものであって無効である。 ⑸ 西谷敏教授も,団体交渉と労使協議の対象事項を区分する労使間の合意の 効力について,「重要な労働条件にかかわる事項についての交渉権の放棄は, 労働組合にとって自殺行為であり,そのかぎりで協定は公序良俗違反として 無効というほかない。」という(西谷・労働組合法第2版302頁)。 この西谷説は,団体交渉とは別に労使協議の対象にすることが協約で合意

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- 11 - されている場合であっても,なお団体交渉権の放棄は無効というのである。 ⑹ また,平成24年1月31日付被申立人準備書面⑴4頁において引用の東 京高裁昭和49年12月28日判決(判例時報769号92頁)は,団体交 渉事項を交渉対象外事項とするためには,当事者間の協約でその旨の明文を もってすることを要するというのであって,協約によっていかなる義務的団 交事項でも対象外とすることができることまで肯定した趣旨ではない。 第3 苦情処理委員会について 1 はじめに ⑴ 被申立人らは,平成24年1月31日付準備書面⑴11頁において,本件 雇止めの撤回について,苦情処理制度において協議の対象する途が開かれて いるとする。 しかしながら,以下のとおり,他の事例における苦情処理制度での被申立 人の対応を考えると,本件において苦情処理制度において協議することがで きないことは明らかである。 ⑵ また,平成24年4月27日付申立人準備書面⑶において引用したJR西 日本(組合脱退慫慂)事件(東京地判平成17年12月26日判時1939 号161頁)は,「確かに,労働者の待遇に関する不満やその他労使関係の 運営を巡る諸問題を労使が自主的に交渉して解決する手続は団体交渉のほ かいわゆる労使協議制や苦情処理手続があり,これらの制度が団体交渉を補 完する機能を果たしている場合には,同制度によるべきことを主張して団体 交渉を拒否することが許されないものではない」と判示している。 立場によっては,この判示は苦情処理委員会が団体交渉を補完する機能を 果たしているという前提条件があれば,義務的団交事項を団交事項から除外 することができる場合があることについて言及していると解釈するのかもし れない(なお,申立人らは,上記第2に記載したとおり,かかる解釈をとる

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- 12 - ことはできないものと思料する。)。 しかしながら,仮にかかる解釈によったとしても,以下のとおり,被申立 人らにおける苦情処理委員会は団体交渉を補完する機能を果たしていると は到底いえないことから,いずれにしても,本件協約によって義務的団交事 項を団交事項から除外することはできないといえる。 2 他の事例についての被申立人の対応 ⑴ 苦情処理委員会の開催に当たっては,「形式審査」を行う必要があり,そ の審査の結果により,要件を満たさないとして苦情処理委員会が開催されな いことがある。 社員が苦情処理委員会の開催を求めるためには,本件協約84条1項によ り,支部会議に申告を行い,支部会議は「形式審査」により申告に係わる苦 情が「団体交渉事項」(本件協約85条3項1号),「個別的人事権の行使,個 別的労務指揮権の発動等に関する事項」(同項2号),「その他特に苦情として 取り扱うことが適当でないと認められる事項」(同3号)に当たる場合には, 苦情の申告を却下する。「個別的人事権の行使,個別的労務指揮権の発動等に 関する事項」(同項2号)の意義に関しては,本件協約覚書70条2項2号は 「人事権の運用など,人事権者等の裁量行為に属する事項」と定める。なお, 同項は「ただし,労使協約,就業規則等の基準の運用に当たって,不当に利 害を侵害されたと客観的に認められる場合は,苦情処理で取り扱う。」と定め ている。 しかしながら,かかる条項がいかなる場合に適用されるのかについては判 然としない。上記のとおり,平成24年1月31日付被申立人準備書面⑴1 1頁にも,「・・苦情処理の対象とする途が開かれているのである。」と論じ るのみで,上記3名の期間雇用社員の雇止めに関しての苦情が同項の適用対 象になるのかその結論を明示しておらず,苦情処理の対象とするか否かにつ いては被申立人の裁量行為であるとの印象が拭えない。

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- 13 - ⑵ 他の事例であるが,組合員が勤務中に交通事故を起こしたことで懲戒処分 を受けたことに関し,事故態様及び結果が軽微であるにも係わらず処分によ る不利益の程度が重すぎるとして,苦情処理委員会の開催を請求した。 支部会議で形式審査が行われ,要件を満たすかにつき労使の意見が不一致 となり,支部からの上移により地方会議に上がったが(本件協約95条1項), その会議でも,使用者側は個別的人事権の行使に関する事項であり開催の要 件を満たさない,労働者側は本件協約覚書70条2項2号但書の「不当に利 害を侵害されたと客観的に認められる場合」に該当し開催の要件を満たすと したので,労使の意見が不一致となった。結局,本件協約95条5項により 中央会議に指示請求をしたが,事態は一向に進まず,指示待ちの状態で既に 2年以上が経過している(第1回審問調書21頁及び第2回審問調書36頁)。 このように,形式審査の判断を巡って苦情処理制度が機能していない事例 があり,それに加えて,被申立人は本件雇止めの撤回事項についても個別的 人事権の行使,すなわち経営専決事項であると主張している以上,本件につ いて苦情処理の申立をしても他の事例と同様の事態となることは明らかであ る。 3 苦情処理委員会は団体交渉を補完する機能を果たしていないこと ⑴ 申立の主体 ア 苦情処理の申立は,原則として,苦情を有する社員自らがする必要があ り(本件協約83条2項),例外として,共通の内容を有する苦情の解決が 同時に複数の社員から請求される場合に組合が一括して請求することがで きる。すなわち,苦情処理の申立の当事者は,組合ではなく個々の社員で ある。 イ 他方,団体交渉の当事者は組合であり,その趣旨は資本主義経済におい て個々人としては使用者に対して弱い立場にたたざるをえない労働者が団 結して集団の力で使用者との交渉を通じて労働条件の引き上げを図ること

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- 14 - にある。 ウ そのため,集団ではなく個人を当事者と捉えている苦情処理委員会にお いては,集団である組合を当事者とする団体交渉と比較して,労働者は弱 い立場に立たざるを得ないのである。 ⑵ 期間制限 ア 本件協約84条2項は,「社員の身分を失った者が,その身分を失ったこ とについての苦情,あるいは身分を失う以前の事項に係る苦情の解決を請 求しようとするときは,身分を失った旨の通知があった日から30日以内 に限り申告することができる。」と規定し,苦情処理の申立に期間制限を設 けている。 イ 他方,団体交渉の申入れに期間制限はないと一般的に解されているので, 団体交渉と対比して,苦情処理の申立に期間制限を設けていることは,社 員の権利救済に対する大きな制約であるといえる。 ⑶ 形式審査 ア 上記のとおり,苦情処理制度においては,形式審査により開催の要件を 満たすか検討する必要があり,2年以上が経過しても結論がでないことが ある。 イ 他方,団体交渉については一般的にその開催に当たり使用者側において 形式審査を行うことは想定されていないことからすると,苦情処理委員会 について対象事項を限定し,かつ,要件を満たすかについて「形式審査」 をすることで時間を要することは,労働者の権利救済への途を後退させる ことになる。 ⑷ 裁定について ア 苦情処理機関の委員の数は,中央会議及び地方会議においては労使双方 5名,支部会議においては労使双方3名であり(本件協約70条1項),そ れぞれ会社側委員から議長を1名選任する(同条2項)。

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- 15 - そして,裁定については,「労使委員の一致による。」(本件協約96条3 項)とされており,いかなる場合であっても常に被申立人らの使用者委員 全員が同意しない限り,労働者の権利救済が図られることは決してないの である。 イ 他方,団体交渉で解決が得られない場合については,後記のとおり,争 議行為が控えている以上,被申立人は苦情処理委員会の場合よりも,より 慎重に判断せざるを得ないといえる。すなわち,被申立人らは,団体交渉 において解決が得られない場合に申立人らが争議行為をすることを念頭に おいて対応しなければならないことから,争議行為を念頭に置くことは想 定されていない苦情処理委員会の対応と比較して,交渉に対する誠実さに 違いが如実に表れることは想像に難くないものといえる。 ⑸ 団体行動権との関係について 上記第2記載のとおり,労働組合の特徴は,その主たる目的・機能が労働 条件の維持・改善など経済的地位の向上にあり,そして団体交渉は労働条件 改善のための中心的な手段であることから,労働組合の存在意義は団体交渉 にあるといっても過言ではない。その際,労働組合の交渉力を支えるのは, ストライキを中心とする争議行為であり,その意味で団体交渉と争議行為は 不可分の関係にあるといえる。 そして,本件協約34条は,「会社と組合は,団体交渉を経なければ争議行 為は行わない。」として,いわゆる平和条項について規定する。そのため,い くら苦情処理制度を利用したとしても争議行為をすることはできないのであ り,苦情処理委員会は,かかる観点から,背後に争議行為が控えている団体 交渉を代替するものとは到底いえない。 ⑹ 小括 以上のとおり,申立の主体,期間制限,形式審査,裁定,団体行動権との 関係という各観点から,被申立人における苦情処理制度は,団体交渉を補完

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する機能を果たしているとは到底いえない。そうであれば,いずれにしても 前提条件を満たしていない以上,本件協約によって義務的団交事項を団交事 項から除外することはできないといえる。

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