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Contents 歴 史 の 延 長 線 上 に 歴 史 を 築 く 3 福 井 俊 彦 社 会 福 祉 法 人 制 度 の 抜 本 的 改 革 に 向 けて 4 ~ 社 会 福 祉 法 人 の 財 務 データ 集 計 推 計 結 果 ~ 松 山 幸 弘 対 中 国 イラン 歴 史 が 語 る 宥

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(1)

 PROLOGUE

歴史の延長線上に歴史を築く

福井俊彦

 OPINION

硫黄島にて-敵を知り己を知らば

~『東京 = ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編』第 56 号より~

栗原潤

減反見直しが抱える問題

山下一仁

「2013 年の対中投資は勢いを回復する」

と予想する根拠

瀬口清之

僅か 5 年で輸出額 10 倍に 

急伸する韓国の防衛産業

伊藤弘太郎

 OPINION

社会福祉法人制度の抜本的改革に向けて

~社会福祉法人の財務データ集計・推計結果~

松山幸弘

対中国、イラン-歴史が語る

「宥和外交」の限界

宮家邦彦

Vol.

08

2014.01

(2)

Contents

歴史の延長線上に歴史を築く………3

福井俊彦

社会福祉法人制度の抜本的改革に向けて………4

~社会福祉法人の財務データ集計・推計結果~

松山幸弘

対中国、イラン―歴史が語る

「宥和外交」の限界… ………8

宮家邦彦

硫黄島にて―敵を知り己を知らば… ………10

~『東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編』第 56 号より~

栗原潤

減反見直しが抱える問題………12

山下一仁

「2013 年の対中投資は勢いを回復する」

と予想する根拠………14

瀬口清之

僅か 5 年で輸出額 10 倍に 

急伸する韓国の防衛産業………17

伊藤弘太郎

(3)

歴史の延長線上に歴史を築く

理事長 ●

福井 俊彦

 第一次世界大戦勃発後 100 年目の新年を迎えた。数多の 戦争は地球上の生存競争の厳 しさを物語っている。今、世 界戦争再発は予見されないも のの、グローバル化と情報通 信革命の進展を軸に世界の潮 流が怒涛の如く変化し、生存 競争自体は益々熾烈化してい る。  わが国は、2020 年の東京オ リンピックを如何なる姿で迎 えるのか。中国経済躍進の蔭 で存在感が著しく後退してい る懸念も無しとしないが、そ の頃、日本、韓国、中国の経 済を併せてみると米国経済をも上回る勢力となって いる可能性が大きい。日本は、この大きな東アジア 経済の中で心臓部分を受け持ち、脈々たる鼓動を送 り出しながら世界をリードし、責任を担うことが可 能なのではあるまいか。そのために何をなすべきか。  第一に求められるのは、先端を切り拓いて前に進 む力を圧倒的に強くすることである。 (イ)とくに民間企業において、内外の知的人材を 活用し、切磋琢磨の中から知識創造をベースとした イノベーションの力を伸ばすことが肝要である。  (ロ)また、農業、林業、漁業を若者が担うことを 可能とし、地域コミュニティーを再興することが望 まれる。 (ハ)更に、女性の社会進出と、子育てを容易にす る条件を整えること。人口動態の変化の中でわが国 として総力戦の体制を整えなければならない。  第二に求められるのは、撃たれても揺るがない頑 健な経済基盤を築くことである。 (イ)信頼の置ける中期財政再建計画を早期に樹立 するとともに、不可分の一体として社会保障制度を 抜本的に改革することを欠かす 訳には行かない。この作業を通 じ、受益と負担の公平性をめぐ る真剣な議論を人々の間で呼び 起こすことに成功すれば、社会 において新たな連帯感を呼び起 こすことも可能となろう。 (ロ)そして、将来の時間軸に 沿って環境政策と整合性の取れ たベストエネルギー・ミックス を想定した上、新しいエネル ギー基本計画を確立することを 急がなければならない。  目を転ずれば、わが国の将来 には、海洋開発の展開という非 常に大きな「夢」がある。  勿論これを標的として外から攻め込む動きが出て くることは想定されよう。相応の自衛力を備えると ともに、妨害の動きを「不当だ」と云ってくれる海 外の仲間を増やすため、戦略的な外交展開が普段か ら必要となる。  これを要するに「日本をどういう国にするか」、 われわれ一人一人が真剣に考え、行動することが大 切である。戦後は、取り敢えず、経済再建を最優先 課題としたが、その先、新しい国作りをどうするか については、必ずしも十分に国民的な議論を経てい ない。この点は、戦後における歴史教育の欠落とも 深く関連しており、「歴史の延長線上に新しい歴史 を築く」という出発点を欠いている。  先ず、日本人自身の歴史認識の土台を確りとさせ、 新しい国家像を描くことから再スタートしなければ ならない。国際社会における日本の位置付けを明確 にして、果たすべき責任を果たす。そうした日本の 姿が海外からも認識されるようになれば、(日本人 が何を考えているか)グローバルな情報発信力も自 ずと強化されて行くこととなろう。

(4)

2013 年 11 月 27 日 CIGS ホームページ掲載 ●

松山 幸弘

 筆者は、2011 年 7 月 7 日付け日本経済新聞「経 済教室」に社会福祉法人全体の年間黒字額推計値を 発表、その利益が社会還元されていないことを指摘 した。それを契機に社会福祉法人制度改革の必要性 が強く認識されるようになり、2013 年 9 月には厚 生労働省が「社会福祉法人の在り方等に関する検討 会」を設置、筆者も委員として参加している。そこ では形骸化したガバナンスなど社会福祉法人を巡る 様々な問題が審議されており、2014 年中に全ての 社会福祉法人の財務諸表を国民に情報提供する仕組 みを構築することが既にコンサンサスとなってい る。そこで情報公開制度に基づき、改めて厚生労働 省所轄 304 法人、都道府県または市所轄で病院も 経営する 56 法人の財務諸表を入手、これに東京都 がホームページで財務主要データを公開している 534 法人を加えて、施設経営している社会福祉法人 全体の年間黒字額推計を行った。その結果を厚労省 の検討会での議論も念頭に置きながら解説すると以 下のとおりである。  社会福祉法人数は 2013 年 3 月末現在 19,407。このうち施設経営している社会福祉法人が 16,981 である。 1951 年の社会福祉法人制度発足以来 60 年以上一度も財務諸表を集めて集計されたことがない。つまり、巨 額の公費が投入され続けていながら、その市場規模を誰も確認したことがないのである。しかも、施設費に関 する国庫補助金負担金が国から地方に税源移譲されたことなどから、年間公費投入額がいくらなのか厚生労働 省が把握することが困難な状況にある。  「経済教室」で筆者が巨額の黒字が内部留保として社会福祉法人に滞留しているのであれば東日本復興のた めに共同拠出すべきと批判したことに対して、想定どおり 2 つの反論があった。第 1 の反論は、「内部留保の 大半は固定資産になっており拠出できる資金がない」である。しかし、毎期実現しているプラスのキャッシュ フローから拠出するのであれば既存の預金が減ることはないので、この反論は的はずれである。第 2 の反論は、 「将来施設を建て替える時のために積み立てている」である。これも後述するように年間事業支出を上回る純 金融資産(金融資産マイナス借入金)を持つほどの社会福祉法人が相当数存在することから、国民を説得でき る理屈になっていない。公金とも言える社会福祉法人の資金が長期間使われることなく積み上がっていくこと は、日本経済全体で資金が効率的に循環していないことを意味する。  ただし、社会福祉法人の内部留保水準に理論的最適値は存在しない。黒字経営を続けている限り、毎年黒字 額の一定割合を社会還元拠出していても内部留保は増え続けるからである。社会福祉法人に救いを求める人々 は増加傾向にあるのであるから、本来内部留保は大きいほどよい。業界関係者も認めているように、問題なの

社会福祉法人制度の抜本的改革に向けて

~ 社会福祉法人の財務データ集計・推計結果 ~

(5)

は、内部留保を社会還元する意思がないと疑われる社会福祉法人が多数存在することなのである。  その具体例をスライド 1 に示した。  このように経営能力が 高いにもかかわらず積極 的に福祉ニーズに応えて いない社会福祉法人は、 施設種類に関係なく存在 する。そして、施設経営 社 会 福 祉 法 人 16,981 の 年間黒字額は 5 千億円を 超えると推計された(ス ライド 2)。その算出方法 は、財務データを入手し た 894 法人については実 績値を合計(779 億円)、残り 16,391 法人については東京都所轄病院なし 534 法人の 1 法人あたり平 均黒字 3,261 万 8 千円を 8 掛けした 2,609 万 4 千円に法人数を乗じることとした。その理由は、534 法人の財務データを見ながらホームページで各法人の事業内容を確認するうちに、東京都以外の社会 福祉法人の平均的事業規模は人口密度等の影響で東京都より若干小さいのではないかと直感したから である。実際、多数の社会福祉法人の財務諸表を見る立場にある業界関係者によると、東京都以外は 東京都内に比べて事業収入ベースで平均事業規模が 7 割~ 8 割である一方、コストが安いことから平 均経常収支差額率が東京都内の実績 5.1%より高い 6%超、とのコメントを得た。  したがって、16,391 法人の平均黒字を 8 掛けの 2,609 万 4 千円と仮定して算出した施設経営社会福 祉法人全体の年間黒字額 5,056 億円は、妥当性が高いと思われる。また、仮に東京都以外の社会福祉 法人の平均黒字をさらに引き下げて 7 掛けの 2,283 万 3 千円としても年間黒字推計値は 4,521 億円と 依然巨額である。そのい ずれの場合でも施設経営 社会福祉法人の平均経常 収支差額率は毎年 6%近 い水準にあると言える。 これは、過去最高益状態 にある社会医療法人の平 均経常利益率(2010 年度 5.4 %、2011 年 度 4.9 %) や東京証券取引所の株式 公 開 企 業 の 平 均 経 常 利 益 率(2011 年 度 4.5 %、 2012 年度 4.6%)を社会 福祉法人が上回っている 社福財務データ①㻌 財務内容が超優良の社会福祉法人(2011年度:百万円) A法人 病院あり複合体 B法人 病院あり複合体 C法人 病院あり複合体 D法人 病院あり複合体 事業支出① 8,875 2,592 10,793 17,573 経常収支差額率 16.2% 7.0% 17.1% 12.0% 会計上内部留保 31,468 4,973 22,134 27,392 純金融資産② 23,050 4,379 12,717 19,907 倍率㻌②÷① 2.6倍 1.7倍 1.2倍 1.1倍 E法人 高齢者 F法人 保育所 G法人 障害者 H法人 母子その他 事業支出① 866 276 542 182 経常収支差額率 10.9% 6.8% 28.8% 5.0% 会計上内部留保 2,639 356 2,684 1,047 純金融資産② 1,900 452 1,367 897 倍率㻌②÷① 2.2倍 1.6倍 2.5倍 4.9倍 5 (注)純金融資産=[(基本金対応、退職積立対応を除く)金融資産]マイナス[借入金] 社福財務データ②㻌 施設経営社福全体の年間黒字額は5千億円超! 経常支出差額 同率 済生会 2011年度 106億円 1.9% 聖隷福祉事業団 2011年度 31億円 3.4% 厚労省所管病院あり複合体 16法人 2011年度 49億円 4.0% 厚労省所管病院なし社福 286法人 2011年度 332億円 7.2% 自治体所管病院あり複合体 56法人 2011年度 87億円 2.7% 東京都所管病院なし社福 534法人㻌 2012年度 一法人平均黒字32,618千円 174億円 5.1% 上記以外社福 16,391法人 2012年度の推計 平均黒字8掛け㻌(同7掛け㻌22,833千円26,094千円 ) (3,742億円4,277億円 ) 合㻌 計 5,056億円 (4,521億円) <参考データ> 社会医療法人178法人の平均経常利益率㻌 㻌 2010年度5.4%、㻌 2011年度4.9% 東京証券取引所の株式公開企業の平均経常利益率㻌2011年度4.5%、㻌 2012年度4.6% 6 確定値 小計 779億円 (注)多数の社福の財表を見る立場にある業界関係者によると、東京都以外の社福の平均 事業規模は東京都の7掛け~8掛けだが、コストが安い分、黒字率は東京都より高く6%超 スライド 2 スライド 1

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ことを意味する。   こ の よ う な 中、 厚 生 労 働 省 は 2013 年 5 月に「特別養護老人ホー ムの内部留保について」と題する 報告書を公表、特養部門財務デー タを集計分析してみたところ、金 融資産として残っている内部留保 は過剰ではないと結論付けた。し かし、この主張には問題がある。 第 1 に、社会福祉法人は特養部 門の黒字を本部会計に繰り入れる ことができ、スライド 1 で見た とおり法人全体で過剰な金融資産 を保有しているところがある。  上記報告書はこの事実を加味していない。社会福祉法人の金融資産保有状況は部門別財務データを集計して も意味がなく、法人全体の財務諸表を使うべきなのである。第 2 に、現状維持志向で新規事業に取り組まな い社会福祉法人と積極経営志向で施設建設を継続している社会福祉法人が混在する中で、金融資産残高の妥当 性を平均値で議論しても問題点と改善策を国民に説明することに至らない。  前述のとおり、厚生労働省検討会では 2014 年に全社会福祉法人の財務諸表を国民に開示する方向で合意し ている。この財務諸表全調査・開示の目的として、次の 4 つが重要である(スライド 3)。第 1 に、社会福祉 法人全体の財務諸表主要勘定項目の金額を算出し、業界全体の市場規模とバランスシートを把握することであ る。第 2 に、都道府県別、主要業務別に分析することで、業績、財務内容格差の有無など業界の構造分析を行い、 今後の社会福祉行政に役立つデータの枠組みを考案することである。第 3 に、模範的法人と非課税優遇に値 しない法人の判別基準を作り、その妥当性を国民に問うことである。第 4 に、データに基づき社会福祉法人 の規模拡大、経営効率化の具体的方法を探求することである。    スライド 4 は、高齢者施設専業 の社会福祉法人の中で、複数の都 道府県で事業展開する厚労省所轄 108 法人、複数市区及び町村で事 業展開する東京都所轄 28 法人、 都内市区所轄 91 法人を比較した ものである。内部留保を金融資産 で積み上げるのではなく追加必要 資金を借り入れ積極的に事業拡大 を図っている厚労省所轄法人ほど 経常収支差額率が高い。直面した 「将来施設を建て替える時のため に積み立てている」という主張は、

社会福祉法人の財務諸表全調査・開示の目的

①社会福祉法人全体の財務諸表主要勘定項目の金額を把握する㻌 㻌 <集計が必要と思われる勘定項目の候補> 事業収入と事業支出(社福、公益、収益など全事業の収支合計) 経常収支差額(同率)、当期活動収支差額(同率)、総資産 純資産とその内訳(基本金、国庫補助金等特別積立金、その他積立金、繰越収支差額) 金融資産合計額(現預金、退職金準備を含む各種積立預金、投資有価証券) 短期借入金、長期借入金、退職給与引当金 ②上記データの全体合計だけでなく、都道府県別、主要業務別に分析 することで業績、財務内容格差の有無など業界の構造分析を行い、 今後の社会福祉行政に役立つデータの枠組みを考案する ③模範的法人と非課税優遇に値しない法人の判別基準を作る ④社会福祉法人の規模拡大、経営効率化の具体的方法を探求する㻌 㻌 8 大㻌←・・・・・・・㻌 事業拡大意欲㻌 ・・・・・・・→㻌 小 厚労省所轄 108法人平均 再掲 東京都所轄 28法人平均 都内市区所轄 91法人平均 事業収入 1,718 1,244 805 事業支出 1,578 1,176 778 経常収支差額(同率) 125(7.3%) 76(6.1%) 32(4.0%) 総資産 4,863 3,635 2,474 純資産(同率) 2,712(55.8%) 2,867(78.9%) 2,029(82.0%) 国庫補助金残高 1,146 1,448 969 金融資産㻌 ① 633 714 流動資産に計上 531 461 固定資産に計上 102 253 借入金㻌 ② 1,708 538 純金融資産㻌 ①-② ▲1,075 176 9 社福財務データ③㻌 高齢者施設専業社福の規模別比較(2011年度:百万円) 借入金で事業拡大した社福ほど効率的経営⇒生産性向上⇒経済成長貢献度が高い スライド 3 スライド 4

(7)

■ 社福財務データ④㻌 事業収入規模別経常収支差額率比較 厚労省所轄を除く東京都内の社福(2012年度) 保育所専業㻌 法人数 183 事業収入:百万円 250未満 250~ 500未満 500~ 750未満 750~ 1,000未満 1,000以上 法人数 89 65 18 8 3 平均事業収入:百万円 174 343 607 839 1,383 平均経常収支差額率 3.8% 7.6% 6.2% 4.6% 11.0% 高齢者施設専業㻌 法人数 116 事業収入:百万円 500未満 500~ 1,000未満 1,000~ 1,500未満 1,500~ 2,000未満 2,000以上 法人数 34 51 15 7 9 平均事業収入:百万円 324 710 1,202 1,716 3,212 平均経常収支差額率 2.4% 4.7% 3.4% 3.5% 3.7% 小規模(1法人1施設)は経常収支差額率が低い 10 *全文については http://www.canon-igs.org/column/macroeconomics/20131127_2228.html からご覧ください。 経営学の観点からも支持されな いのである。スライド 5 に示し たとおり、保育所専業社会福祉 法人と高齢者施設専業社会福祉 法人を規模別に分析してみても、 1 法人 1 施設と言われる小規模法 人の経営収支差額率⇒経営効率 が有意に低いことが確認できる。 スライド 5 12 月 6 日開催 CIGS シンポジウム「社会福祉法人制度の改革を考える」の様子

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対中国、イラン-歴史が語る「宥和外交」の限界

産経新聞【宮家邦彦の World Watch】2013 年 11 月 28 日 掲載 ●

宮家 邦彦

 先週は駆け足で中国の上海・ 蘇州から北京を回ってきた。蘇 州では日本の大手空調メーカー の現地生産工場を見学し、その 見事な人事管理システムに大 いに感銘を受けた。北京では某 有力大学で英語による講義を行 い、世界各国から集まった学生 のレベルの高さに驚かされた。  というわけで、今回の中国出 張については書きたいことが山 ほどあるのだが、11 月 22 日に 帰国後、大きなニュースが立て 続けに飛び込んできた。1 つは 23 日の中国国防部による東シ ナ海防空識別圏の設定。もう 1 つが 24 日のイラン核問題に関する暫定合意だ。蘇州と北京の話は次回以降書くこと とし、今回はこの 2 つのニュースを取り上げる。  まずはイラン核問題から。何とも中途半端な合意だと直感した。イランと米英仏露 中独(P5 + 1)が核問題に関し暫定合意に達し、濃縮度 20%のウラン生産を停止す ることなどを条件に、対イラン経済制裁を一部緩和するのだそうだ。  合意内容は既に報じられているので、ここでは繰り返さないが、同合意をいかに解 釈するかは今後北朝鮮問題を考える上で日本にとっても重要だ。現時点での筆者の見 立てをご紹介しよう。  第 1 はイランの意図だ。この暫定合意により、イランは本気で核兵器開発を断念し たのだろうか。大いに疑問である。インド・パキスタンが既に核武装し、北朝鮮もこ れに続いた。核兵器を持たなかったイラクのフセイン大統領は打倒され、核武装した 金王朝は生き延びている。イスラム共和制の延命を図るイラン政治指導者が簡単に核 兵器開発を断念するとは思えない。  第 2 は米国の慎重さだ。オバマ政権の中東「不介入主義」は既にエジプトとシリア で証明済みである。今回も対イラン軍事介入という選択肢はないだろう。ケリー国務 長官の言動を見ていると、どこか腰が引けている。イランがこうした米国の足元を見 中国・イランの大 きなニュースが立 て続けに飛び込ん できた イランが核兵器開 発を断念したかど うか疑問だ

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ている可能性は十分あるだろう。  最後は、サウジアラビアを中心とする湾岸アラブ諸国とイスラエルの懸念だ。両者 間の対立が容易に払拭されるとは思わないが、イラン核武装に対する懸念と米国の及 び腰外交に対する不信だけは両者に共通している。  この暫定合意なるものを読んで、筆者は 1994 年を思い出した。当時は北朝鮮が IAEA(国際原子力機関)の特別査察を拒否し NPT(核拡散防止条約)脱退を表明する など、朝鮮半島は戦争の瀬戸際にあった。ワシントンの日本大使館で勤務していた筆 者は一時、第二次朝鮮戦争を覚悟したほどだ。しかし、同年 10 月、枠組み合意が一 転成立した。対北朝鮮攻撃という選択肢は回避され、北朝鮮は重油などを獲得した。 だが、肝心の核兵器開発自体は結局放棄しなかった。  もちろん当時の北朝鮮と現在のイランが同じだとは言わない。今回の暫定合意が成 功することを心から祈っている。しかし戦略的な意見の相違が戦術的な暫定合意では 解消されないという点で両者は不気味なほど似通っている。  東シナ海における中国の防空識別圏に関する対応も同様だ。海上保安庁と海警とい う、海軍ではない、海上警察組織がある海上とは異なり、空中に「航空保安庁」はない。 今回の中国側措置に安易な妥協は無用だ。米国などとともにハイレベルで中国最高政 治指導部にこの危険性を伝え、理解させる必要がある。  もちろん、宥和外交にも利点はある。相手に一定の善意があれば、こちら側の宥和 的態度により相手方の譲歩を引き出すことも可能だろう。しかし、万一先方に善意が ない場合、宥和外交は致命的な失敗につながる。1938 年のミュンヘン会議当時、欧 州の人々は平和を確信し、対独宥和策が失敗することなど考えもしなかった。私たち はこれと同じ過ちを繰り返してはならない。 ■ 1994 年 の 北 朝 鮮 の瀬戸際外交と突 然の枠組み合意を 思い出す 1938 年 の ミ ュ ン ヘン会議当時、対 独宥和策が失敗す ることなど考えも しなかった

(10)

硫黄島にて-敵を知り己を知らば

~ 『東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編』第 56 号より ~

2013 年 12 月 3 日 CIGS ホームページ 掲載 ●

栗原 潤

 2013 年 11 月中旬に硫黄島を訪れた。東京帝国 大学出身の学徒兵で、この島で 23 歳で斃れた蜂谷 博史が遺した和歌「爆音を壕中にして歌つくる あ はれ吾が春今つきんとす」や「硫黄島 雨にけぶり て静かなり 昨日の砲爆夢にあるらし」を口遊 ( くち ずさ ) みつつ擂鉢山 ( すりばちやま ) で平和への想 いを一段と強めた次第である。同じく学徒兵で慶應 義塾大学出身の特攻隊員、上原良司も 22 歳で沖縄 戦に参加したが、彼は戦死直前の日記の中で「敵を 知り己を知らば百戦危からずと孫子はいえり。現在 の日本において、敵アメリカを真に知れる者ありや」 と疑問を記している。彼等を襲った悲劇から約 70 年経た現在、幸いにして米中両国は日本の敵ではな い。が、良司が憂慮した事 -- 両国を真に知れる者 の存在 -- については、今も注意すべきであろう。  内外にかかわらず情勢や世論を判断する事は本当 に難しい。自衛艦隊司令官を務めた香田洋二元海将 は、2013 年 6 月に北京で開かれた中国の専門家と の会合 (东北亚安全论坛)で、歴史の教訓として 山本五十六提督の誤断に言及された -- 同提督は「真 珠湾攻撃を行ったが、狙いは米海軍太平洋艦隊では なく、米国民の心であった。しかしながら、結果的 に山本大将の狙いは大きくはずれ、米国人の心をま とめてしまい、以後 3 年間日本は米軍に徹底的に やられた。国と国との関係で重要なのは人の心を掴 むことである」、と。  戦前の知米派のひとり、近衛文麿は秀作『欧米 見聞録』を著したにもかかわらず、日米戦を阻止 出来なかった。在米経験の長い松岡洋右だが、外 務省の顧問を戦前 14 年務めたフレデリック・ムー アは、回想録 (With Japan's Leaders) の中で "How Matsuoka, with his long experience in the United States and continued association with Americans, could have so misjudged our temperament was inexplicable" と、松岡の鈍い対米感覚を指摘した。 東條英機は、寺本熊市や山内正文等の優れた " 知米 派 "、また世界情勢を俯瞰する " 国際派 "( 本間雅晴 や辰巳栄一等 ) に頼らず、米国滞在時は邦字新聞を 読んでいただけの佐藤賢了を帝国陸軍 " 知米派 " と して頼りにしていた。 硫黄島にて 著者撮影

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 中国に関しても自称 " 知中派 " に過度に頼ること は注意を要する。国際日本文化研究センターの戸部 良一教授は、国際情勢を俯瞰せず、視野狭窄的な判 断をした戦前の中国専門家 (Sinologists) に関して次 のように記しておられる --「軍閥や地方の動向に密 着しすぎて、中国全体の動きを見失いがちで ...『満 蒙通』や『山西通』あるいは『広東通』といった、 中国の特定地域に精通したスペシャリストは出た が、中国全体を見渡してその動向を的確に分析」出 来なかった、と (『日本陸軍と中国』)。こうした批 判は、戦前もなされていた -- 関東軍参謀長の斎藤 恒少将は、陸軍が「袁 ( 世凱 ) は諾せり、段 ( 祺瑞 ) は語れり、張 ( 作霖 ) は誓へりと片言 ( ヘンゲン ) 隻句 ( セック ) を信頼し」、また「斯く申す小生も 孫黄の偽せ真剣振りに惚れ込」んだと、自嘲気味に 記している。  英国 The Times 紙は、嘗て満洲事変こそが世界大 戦の淵源 (fons et orio) と記したが、これに関し北 岡伸一東大名誉教授は次のように述べておられる --「第二次大戦後、... 日本は、好むと好まざるとにか かわらず、対米協調路線の再構築に迫られた。... 首 相の条件は、... 英米から受けがよく、外交に強いも のであった。まず幣原が思い出され、次いで吉田が 浮上した ... 2 人は浜口内閣の外務大臣と外務次官で あった。戦争が終わってみると、戻るべきは満州事 変以前の時代であった」(『官僚制としての日本陸 軍』)。  硫黄島では、航空自衛隊の布村吉英司令と海上自 衛隊の土田孝行司令に出迎えて頂き、基地の方々 には中国が持つ “perception and misperception” を 11 月 13 日に中国で放送された同島を題材にした映 像 (“日本复活硫磺岛打造第二岛链桥头堡”) を御 覧頂くことにより実感して頂いた。また栗林忠道大 将が指揮していた兵団司令部壕等を空自の粟屋亨副 司令に案内して頂いた。時々刻々と変化する国際情 勢判断には、歴史を含む基礎知識と共に最新情報に よるフィードバックが不可欠だ。先の 11 月 10 日、 ネット上で「中国の本質は何か」と題し、オックス フォード大学のラナ・ミッター教授の著書『五四運 動の残響』 ( 岩波書店 2012 年 7 月 ) が紹介されてい た。原書は 2004 年 7 月に出版されて、同年秋には Foreign Affairs 誌に書評が載った良書だ。ただ、同 教授はそれ以後も中国に関する良書を次々と発表 し、最新作は ( 小誌 10 月号に掲載した ) Forgotten Ally: China's World War II, 1937-1945 だ。筆者は 10 月 27 日、ハーバード大学出身のファリード・ザカ リア氏が、この新刊書は中国の世界観や米中関係を 考える上で不可欠だとして米国 CNN を通じ推薦し ていたが故に、情報を認知するタイミングにおける 日米の差を痛感した次第である。 ■ 硫黄島にて 著者撮影

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減反見直しが抱える問題

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 2013 年 11 月 26 日放送原稿 ●

山下 一仁

 一部の報道では減反の廃止と言われていますが、それは間違っています。農水省も 自民党も減反廃止を否定しています。  1970 年から実施されてきた減反政策の基本は、農家が水田でコメを作らないで他 の作物を植えるという転作、コメ生産の側から見るとコメの生産が減少するので減反 になりますが、それをすれば、減反面積に対していくらという補助金を交付するとい うものです。これに加えて、2010 年から民主党は、これ以上コメを作らないという 生産目標数量を守った農家に対して、コメを作付した面積に対していくらという補助 金、戸別所得補償を支払うことにしました。今回の見直しは、後者の部分の、コメの 生産目標数量と戸別所得補償を廃止するというものです。戸別所得補償が減反交付金 とか減反補助金とかという名前で報道されていますが、これは 2010 年から始まった もので、しかもコメの作付面積に対するもので、減反の補助金と呼ぶのは適当ではあ りません。  実は、2007 年に自民党政府はコメの生産目標数量をいったん廃止しました。その とき戸別所得補償はなかったわけですから、今回の見直しは 2007 年の姿に戻すだけ です。しかも、1970 年から続いている本来の減反面積に対する補助金は、戸別所得 補償を廃止したお金を使って、さらに拡充されます。つまり、農家に補助金を与える ことでコメの生産、供給を減らして、コメの価格を高くして、農家の所得を維持する という、長年続いている農政の根本的な政策に、いささかの変更もないのです。  コメ農家にとって、最も作りやすい作物はコメです。前回の自民党政権末期の 2009 年から、作りにくい麦や大豆に代えて、米粉やエサ用などの非主食用にコメを 作付させ、これを減反(転作)と見なして、減反補助金を交付してきました。今回、 自民党・農水省はこの補助金を増額しようとしています。  おおまかに説明しますと、本来 8,000 円の主食用米価を減反で 14,000 円に引き上 げたうえで、その主食用価格 14,000 円と 3,000 円の米粉用の米や 2,000 円のエサ用の 米との大幅な価格差を減反補助金という税金で補てんします。こうして、安いエサ米 などを作っても高い主食用のコメを作ったと同じ農家手取りが確保できるようにして います。それでもエサ用の需要先が少ないので、今回補助金をさらに増額して、エサ 用の米価をさらに引き下げて需要・生産を増やそうとしています。ちなみに、世界的 にみると、エサとして使われることの多いトウモロコシや小麦などの他の穀物と違い、 コメがエサとして使われることはあまりありません。 1. 減 反 が 見 直 さ れていますが、ど の よ う な 内 容 で しょうか? 2.減反政策はど のように見直しさ れ る の で し ょ う か?

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 食管制度があった時代、政府は抱えた過剰米在庫を、3 兆円の税金を投入して、エ サ用などに処分しました。今回の対策は、エサ用などへの減反という形で事前に過剰 米処理を行おうとしているものだと言えます。  まず、財政負担、税金の投入の問題です。農家が米粉・エサ用の生産をした場合でも、 主食用に販売した場合の 10 アール当たりの収入 10.5 万円と同じ収入を確保できるよ う、8 万円を交付しています。現在米粉・エサ用のコメ作付面積は 6.8 万ヘクタールで、 減反面積 100 万ヘクタールの 1 割にもなりませんが、補助単価が大きいので、トータ ル 2,500 億円の減反補助金のうち 544 億円がこれだけに支払われています。  農水省はエサ用に最大 450 万トンの需要があるとしています。面積で 65 万ヘクター ルです。もし自民党が 10 アール当たり補助金単価を 10.5 万円に増やすと、これだけ で 7,000 億円かかります。残りの減反面積を合わせると、減反補助金は 8,000 億円に も達します。減反補助金については、5,500 億円もの税金投入の増加となります。エ サ用のコメ生産が増えると、戸別所得補償廃止によって浮いた財源を上回るおそれが あります。  これまで減反補助金と戸別所得補償を合わせて 5,000 億円ほどの税金を使って米価 を上げ、消費者に 6,000 億円もの負担をさせてきました。今回の見直しで、補助金が 効きすぎて、エサ用のコメの収益の方がよくなれば、主食用のコメの作付けが減少し、 主食用の米価がさらに上がってしまうかもしれません。そうなると、税金投入の増加 とあわせて、国民負担はさらに高まります。消費税を上げるときには、貧しい人の食 料品価格が上がるという逆進性の問題が指摘され、食料品の税率を低くするという軽 減税率が検討されているのに、主食であるコメの価格については、取り上げる政治家 の人がほとんどいないのは奇妙なことです。  次に、新たな貿易摩擦を生むということです。日本は、家畜のエサとして 1,100 万 トンのトウモロコシを輸入していますが、そのうち異常な年を除いて、アメリカから の輸入は 1,000 万トン近くあります。過去の過剰米処理の時には、エサ用にコメを処 分したのは、最大で 1971 年の 147 万トン、7 年間のトータルは 511 万トンです。過 去の過剰米処理は一過性でしたが、今回は毎年エサ米を生産するのですから、アメリ カからのトウモロコシ輸入は大きく減少します。米粉が増産されれば、小麦の輸入が 減少します。アメリカが WTO に提訴すれば、アメリカは報復措置として、日本から 輸入される自動車に高い関税をかけることも可能になります。そうなると日本経済に 大きな影響が生じます。  国民は、納税者として、消費者として、また他の産業の従事者として、もっと農業 問題に目をむけるべきだと思います。 3. ど の よ う な 問 題があるのでしょ うか? ■

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「2014 年の対中投資は勢いを回復する」と予想する根拠

JBPress 2013 年 11 月 20 日 掲載 ●

瀬口 清之

大人は誰も尖閣問題を心配していない  西安を 10 月下旬に訪問した時のことである。朝 9 時、宿泊先のホテルから午前中の面談相手の場所 に向かおうとした。しかし、15 分待ってもタクシー がつかまりそうな気配がなく、あいにくホテルの車 も全て別の予約が入っていて借りることができな かった。  そこで急遽、現地の旅行業者の車を手配したとこ ろ、真新しいホンダのアコードが現れた。その旅行 業者兼運転手によれば、2 カ月前に新車を購入した ばかりとのこと。  そこで、「2012 年 9 月の尖閣問題以降、反日感情 を持つ人たちによって多くの日本車が傷つけられた が、今はそういう心配はないのか」と質問すると、「い まだにそんなことを心配しているのは毎日ネットば かり見ている大学生くらいで、大人は誰もそんなこ とは心配していない」との答えが返ってきた。  朝からいきなりタクシーがつかまらずに焦った が、そのおかげでいい話が聞けた。  上海以南の沿海部にある都市では元々政経分離の 考え方が染み付いていて、日中関係の悪化が経済活 動に及ぼす影響は小さい。しかし、内陸部の地方都 市は政治を重視する北京の影響を比較的受けやすい 傾向がある。   西 安 は 青 島、 長 沙 ほ ど で は な か っ た に せ よ、 2012 年 9 月の反日暴動をコントロールできずに破 壊行為による被害が生じた、いくつかの都市の 1 つ でもある。その西安でもここまで回復したのかと実 感させられた出来事だった。 経済面の交流はますます加速している  しかし、日中関係を見ると、政治・外交面では今 も膠着状態が続いている。一方、経済面は、2012 年 12 月頃以降、多くの業種において、日本企業の 業績が尖閣問題発生前の状態にまで回復していた。  その後もなお深刻な影響が残ったのは、土木・重 電・大型医療機器など中央・地方の官公需に関係す る業種、自動車、観光産業など、ごく限られた一部 の業種だけだった。  3 月に習近平政権が発足すると、さらに状況が改 善した。自動車販売は 4 月以降、ほぼ前年並みの 水準を回復。6 月末以降、日本企業の官公需関係の 入札への参加が可能となった。7 月になると、中国 地場の旅行会社の日本ツアーが復活し、京都、富士 山、東京等では昨秋以降途絶えていた中国人団体観 光客が戻ってきた。  それらの動きと並行して、多くの地方政府が日本

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企業に対する誘致活動を強化し始めた。特に 10 月 以降は夏場に比べて一段と積極化しており、中国各 地の地方政府の投資誘致ミッションが日本の主要都 市を続々と訪問している。  9 月下旬には、中国中信集団(CITIC)、中国投資 (CIC)、三一重工集団など中国の代表的国有企業の トップが訪日団として来日し、菅義偉官房長官にも 表敬訪問した。加えて近々省長クラスの日本訪問も 予定されているなど、政府関係者を含む日中間の相 互訪問はますますハイレベルな交流となってきてい る。  11 月 18 日から日中経済協会の訪中団が北京等を 訪問する予定であるが、中国政府との面談に際して 李克強総理が登場すれば、いよいよ政治・外交面の 正常化に向かうサインであると期待がかけられてい る。 日本からの対中直接投資は再び増加へ  この間、日本の対中直接投資のデータ(中国側統 計、実行ベース)がやや心配な動きを見せている。  尖閣問題でこれほど日中関係が悪化しているにも かかわらず、2013 年の上半期の直接投資額は前年 を 15%も上回った。ところが、1 ~ 9 月累計では 前年比 6%増と伸びが鈍化しており、このまま鈍化 し続けると、前年を下回る可能性も出てきた。  そこで、西安に次いで訪問した上海で、日本の大 手金融機関の頼りになる幹部に面会し、今後の投資 動向に対する見方を聞かせてもらった。  すると、最近の直接投資金額の減速は今年の年初 に一時的に投資案件が殆どストップした時期の影響 がタイムラグを伴って表れているものである。夏場 以降は、日中経済関係の回復を背景に金融機関に対 する相談件数が再び増加傾向に転じているため、今 後は投資金額が再び増大に向かうと予想していると の見方を紹介してくれた。  そうした流れを加速する新しい材料もある。上海 自由貿易試験区である。これは上海に特区を設けて 免税・減税、規制緩和を認め、金融自由化・貿易の 利便性向上・行政の簡素化といった構造改革の実験 場として活用するものである。  これは中国全体に適用する構造改革の実験場であ り、李克強総理自身の肝いりプロジェクトである。 これを上海で実施することによって、万博終了後や や元気のなかった上海を再び活性化する効果も期待 されている。  それに加えて、上海市自身にとってもう 1 つの 重要な目的は外資企業の誘致である。今年の夏場以 降、中国各地が競って日本企業の誘致姿勢を積極化 している中、上海が黙って見ているはずがない。こ の試験区の魅力を誘い水に日本企業をはじめとする 外資企業誘致の強化を狙っている。  中国の GDP は 2014 年後半には日本の 2 倍に達 する可能性が高い。2020 年には 2.5 ~ 3 倍に達す るはずである。この巨大市場は日本企業にとって チャンスの山である。しかも、日本企業にとって の顧客層となる、1 人当たり GDP が 1 万ドルに達 する都市の人口は 2010 年 1 億人、2013 年 3 億人、 2020 年 7 億~ 8 億人と、GDP 成長率を上回るスピー ドで増加する。  こうした中国国内市場の急拡大を考慮すれば、こ れまでの対中投資ブームは長くて 5 年だったが、今 回はそれ以上の長期にわたって持続する可能性が高 いと見るべきであろう。  ただし、これはおそらく最後の対中投資ブームと なる。2020 年前後に中国経済が安定成長期に移行 すると予想されるため、その後は対中直接投資が増 加したとしてもブームと呼べるような大幅な伸びの 長期的な持続はなく、緩やかな増加に留まることに なろう。

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計画の起草作業の中で徐々に明らかになってくるも のと思われる。そうした作業と並行して、金融自由 化など比較的手を付けやすい部分から徐々に改革の 実行に着手していくと考えられる。  構造改革に反対する抵抗勢力は強い。日本でも構 造改革は難航した。改革の実行は容易なことではな いが、習近平国家主席のリーダーシップと新たに設 立される改革領導小組の機能強化と改革断行に期待 したい。  市場メカニズムの拡大・強化を目指す経済構造改 革の推進は中国市場の魅力を高め、日本企業の対中 投資拡大を促す効果を持つ。それが日中両国の経済 関係の緊密化を通じて中国の国際競争力を高め、将 来の中国経済のファンダメンタルズを良好な状態に 保つ支えとなる。 ■ 構造改革の推進が日本企業の対中投資を促す  11 月 12 日に三中全会コミュニケが公表された。 その内容は予想以上に曖昧だった。改革の強調を期 待していたにもかかわらず、公有制を主とすると 謳っていることから失望した人もいる。  しかし、文面をよく見ると、公有制と並んで非公 有制の発展を促すことを繰り返すとともに、市場メ カニズムを通じた資源配分を重視するとしている。 これは国有企業の改革、外資を含む民間企業の参入 拡大を意味するものと思われる。  表現は曖昧であるが、政治的な抵抗を配慮しなが ら、国有企業改革に取り組む決意を表明したものと 受け止められる。  現時点では構造改革の具体的な中身が見えていな い。12 月の中央経済工作会議、来年 3 月の全国人 民代表大会、そして 4 月以降に始まる 13 次 5 カ年

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僅か 5 年で輸出額 10 倍に 急伸する韓国の防衛産業

WEDGE Infinity 2013 年 11 月 21 日 掲載 ●

伊藤 弘太郎

 2013 年 9 月 10 日、 韓 国・ 慶 尚 南 道(キョンサンナ ムド)にある空軍 基地から、尾翼に インドネシア国旗 が 付 い た 2 機 の ジェット機が離陸 した。同国初の国 産ジェット超音速 練習機である T − 50 が、発注元のイ ンドネシアへの引 き渡しのため飛び 立つ瞬間であった。 同 機 に つ い て は、 2011 年 5 月に韓国航空宇宙産業とインドネシア国防省との間で 16 機の購入契約が成 立しており、発注額は 1 機当たり約 2500 万ドル、総額約 4 億ドルと言われている。 中国も警戒する 韓国の動き  T − 50 のフライトから約 1 カ月後の 10 月 12 日、韓国の朴槿恵(パククネ)大統 領は国賓としてインドネシアを訪問し、ユドヨノ大統領との首脳会談を行った。この 会談で防衛産業など両国間の産業協力関係が発展していることを確認し、さらなる発 展のため包括的経済連携協定(CEPA)を年内に締結することに合意した。すでに両 国間では、11 年末に韓国の大宇造船海洋が製造する潜水艦 3 隻の購入契約が結ばれ るなど、インドネシアは韓国防衛産業の重要な輸出先となっている。  同月 17 日に朴大統領はフィリピンのアキノ大統領を国賓としてソウルに招待し、 フィリピン空軍が韓国の FA − 50 軽戦闘機を採用したことに謝意を表明し、両国の国 防分野における協力のための覚書(MOU: Memorandum of Understanding)も締結 された。韓国メディアの報道によれば、両国間では現在韓国製艦艇の導入についても 議論が行われているようである。  こうした両国の動きに対して、フィリピンと南シナ海で領土問題を抱える中国は韓 国に対し、フィリピンに FA − 50 を輸出しないよう牽制する動きがあったと報じられ 東南アジアは韓国 防衛産業の重要な 輸出先となってい る

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ている。  朴大統領は就任後 2 番目の訪問国として中国を選び、良好な韓中関係を世界にア ピールした。その一方で韓国は、近年中国の影響力が拡大してきた東南アジアにおい て積極的に防衛装備品のセールス活動を展開してきたのである。  韓国の防衛産業による輸出額は近年急増しており、06 年は年間約 2.5 億ドルであっ たものが、12 年には約 10 倍の約 23.5 億ドルとなった。11 年には輸出額が輸入額を 超えている。10 年 3 月の哨戒艦「天安」撃沈事件、同年 11 月の延坪島砲撃事件など 北朝鮮による軍事挑発に対抗するため、韓国軍はハイテク兵器を中心とする装備を海 外から積極的に導入している。それにもかかわらず、自国で生産された装備品の輸出 額が輸入額を超えたことは特筆すべきことである。 韓国の防衛産業に よる輸出額は近年 急 増 し、 約 10 倍 に拡大した (出典)表①:輸出額については「2012 年防衛事業庁の成果はこの通りです」(韓国語著書表題の和訳) 韓国防衛事業庁ホームページ、p.15 表②:「2013 年版防衛事業統計年報」韓国国防事業庁ホームページ、p.141 表①: 表②:

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 輸出相手国も過去 10 年間で急増し、05 年には 42 カ国であったのが 11 年には 84 カ国となった。また、07 年には 1 件だった装備品の国際共同開発は 12 年には 6 件と なり、防衛産業協力協定の締結国も 06 年に 22 カ国、12 年には 32 カ国となっている。 防衛産業の企業数は 01 年には 78 社だったが、12 年には 96 社にまで増加した。特に、 航空機製造が 01 年の 7 社から 12 社に、艦艇製造も 7 社から 12 社にそれぞれ増加し ていることは特記に値するだろう。  それを象徴するかのように、輸出主要品目も当初は米国等へ納入する弾薬など小火 器関連の装備が中心だったが、時代を経るごとに大型化、ハイテク化が進み、現在で は最先端技術を生かした無人偵察機等の装備品開発にも力を注いでいる。代表的な企 業は、サムスン・グループのサムスン・テックウィン、LG グループの LIG Nex1 等を 挙げることができる。  韓国防衛産業の起源は、朴大統領の父親である朴正熙 ( パクチョンヒ ) 元大統領の 時代に遡る。当時は、68 年 1 月に北朝鮮のゲリラ部隊が朴正煕大統領の暗殺を目的 に韓国内に侵入した事件等、北朝鮮による軍事挑発が度々発生していた。朴正煕大統 領は米国に北への軍事報復を行うよう要求したが、当時ベトナム戦争で疲弊していた 米国はこれを退けている。これに失望した朴正煕大統領は、外国からの援助に依存せ ず、自ら防衛装備品を調達する生産基盤を構築して、自国の防衛力を高める「自主国 防」政策を推進した。74 年には防衛産業を育成し軍の戦力強化を図る「栗谷 ( ユルゴク ) 事業」が開始され、翌 75 年にはその開発資金を調達するために防衛税が導入された(90 年 12 月末に廃止)。  ところが 93 年に金泳三 ( キムヨンサム ) 政権が発足すると、約 20 年近くに渡る防 衛力整備を巡る軍と防衛産業との癒着が明らかにされ、両者に対する国民意識は著し く悪化した。一方、90 年代に入ると韓国防衛産業は「自国の装備を自らの手で生産 する」という当初の目的を達成し、国内調達だけでは国内市場が飽和してしまう。そ こで防衛産業の稼働率向上が重要課題となり、海外輸出の重要性が叫ばれるように なったのである。  防衛産業に対する国民の視線が厳しい中、当初、政府・軍は防衛装備品の海外セー ルスに必ずしも積極的ではなかった。しかし、世界では各国の大統領が積極的に自国 の装備品を売り込んでいる現実を目の当たりにし、韓国でも意識改革が進んでいった。  防衛装備品輸出拡大体制の整備は盧武鉉 ( ノムヒョン ) 政権発足後に具体化した。 同政権は政府と防衛産業の関係を根本から改革し、防衛調達業務の透明性と公平性を 確保するため、06 年に国防部傘下に防衛事業庁を創設、防衛事業法を施行した。同 法では、防衛産業の投資促進と輸出市場拡大のため同庁が必要な措置を取ることが定 められている。 韓国防衛産業の起 源は朴正煕元大統 領 の「 自 主 国 防 」 政策に遡る 防衛産業にとって 国 内 市 場 は 飽 和、 海外輸出へ

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韓国防衛産業 躍進の裏側  韓国防衛産業が躍進した要因としてまず挙げられるのは技術力と生産力の向上であ る。韓国は 70 年代に「漢江の奇跡」と呼ばれる高度経済成長を実現し、重工業を中 心に発展を遂げた。これにより戦車など大型装備品の生産基盤が確立された。近年に おいてはサムスンや LG など電子・IT 産業が成長し、韓国ブランドが世界的に認知さ れるようになった。現在は現代戦に必要不可欠な IT など最先端技術を駆使した装備品 の開発・生産により付加価値を高める戦略を取っている。  第 2 は、政官民軍が一体となって装備品輸出プロジェクトを進めている点である。 防衛事業庁、防衛産業振興会、防衛産業各社が一体となって、市場開拓団を組織し、 世界各国、特に新興国や発展途上国に対する市場調査を行った上で海外セールスを 行っている。

韓国と MOU(国防分野における協力覚書)締結国

締結済 米国、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、インドネシア、イス ラエル、マレーシア、タイ、フィリピン、ルーマニア、カナダ、ロシア、 ドイツ、ニュージーランド、オランダ、トルコ、ベネズエラ、オースト ラリア、ベトナム、バングラディッシュ、インド、パキスタン、ウクラ イナ、コロンビア、ウズベキスタン、エジプト、ノルウェー、UAE、ペ ルー、エクアドル、デンマーク 推進中 チリ、南アフリカ など (出典)「2013 年版防衛事業統計年報」韓国国防事業庁ホームページ、p.145  具体的には、各国が置かれている安全保障環境や国防予算、財政状況、装備品の状 況を精査した上で、外交部の支援を受けつつ関係者が合同で各国に出向き、相手国が 必要とする装備品や財政状況について親身に意見聴取した後、自国の装備品を紹介し ている。  相手国が受注に関心を示して具体的契約の可能性が見えてくれば、最後の一押しは 大統領訪問による直談判となる。近年の防衛装備品輸出額増加は李明博 ( イミョンパ ク ) 前大統領自身のトップ・セールスによるものが大きいと考えられる。  一方で水面下では情報機関の関与も垣間見える。前述のインドネシアへの T − 50 売却交渉の最終段階であった 11 年 2 月、ソウルを訪問したインドネシア特使団が宿 泊するホテルの一室に、韓国の情報機関である国家情報院の要員 3 人が侵入したとこ ろを、同特使団に発見される事案が発生している。 政 官 民 軍 一 体 と なって海外市場を 開拓 最後の一押しは大 統領訪問による直 談判

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複雑な韓国の本音  韓国は防衛装備品を積極的に外国へ売り込んで利益を上げる一方、日本の武器輸出 緩和の動きに対しては警戒感を隠そうとしない。こうした韓国の姿勢に違和感を覚え る読者も少なくないだろう。現在日韓関係は歴史問題等によりギクシャクしているが、 将来の日本の防衛産業育成を考える上では日韓関係の視点を欠くことはできない。  2013 年夏、筆者がインタビューした韓国のある安全保障専門家は、「公の場では絶 対に発言できないが、私は韓国が日本と防衛装備品の共同開発を行うことが韓日関係 の発展に資すると思う」と述べていた。  防衛装備品開発で韓国が日本と協力するというアイデアが韓国側にあること自体驚 きであった。10 年 2 月には韓国防衛産業振興会代表団が日本経団連を訪問し以下の 通り発言している。  (日本経団連側からの)「日本と装備品を共同開発したいか」との質問に対しては、 同会の権副会長が「将来、日本の武器輸出三原則等が緩和されることを望んでいる。 韓国の武器輸出のネットワークの経験を活かせば、良い協力ができると思う」と期待 を示した。(『日本経団連タイムス No.2985』より抜粋)  改めて後日、前述の韓国の安全保障専門家に話を聞くと、「日本が武器輸出をこれ まで以上に緩和した場合、韓国の防衛産業と競合する部分があることは事実だ。他方、 1 国が防衛装備品の生産に関してすべての技術をカバーすることは難しい。各国とも 財政的制限を抱えているので、世界の趨勢は他国と協力しながら自国の防衛産業に効 率的に投資することである」と指摘し、この分野で日韓が協力することの意義を強調 していた。  韓国メディアは表向き、安倍政権が進める武器輸出制限緩和の動きに警戒感を隠さ ない。他方、韓国内では、日本の防衛産業が国際市場に本格的に参入することを見越 して、日本との競争や技術協力など様々な選択肢につき強かに戦略を練っている可能 性がある。  日本は韓国防衛産業の躍進に単に目を奪われるのではなく、中長期的な防衛産業育 成戦略を構築する必要がある。日本の安全保障戦略の中で防衛産業育成を如何に位置 づけるかを考えた上で、他国との共同開発等あらゆる選択肢の中から、国益の増大を 図るための最適解を見つける努力を始めるべきである。 韓国は日本の武器 輸出緩和の動きを 警戒 他方で日本との競 争や技術協力など 様々な選択肢を戦 略的に検討 日本は安全保障戦 略の中で防衛産業 育成をどう位置づ けるか ■

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CIGS Highlight Vol.8 発行日:2014 年1月 9 日 編集・発行:一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 … 〒 100-6511 東京都千代田区丸の内 1-5-1 新丸ビル 11F … TEL:03-6213-0550 FAX:03-3217-1251  … URL:http://www.canon-igs.org/ … E-mail:[email protected] ※ CIGS Highlight に掲載された記事の内容や意見は執筆者個人の見解であり、 当研究所またはそのスポンサーの見解を示すものではありません。 なお、各記事は原則として、2013 年 12 月現在入手できる情報に基づいて書かれて います。

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