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iPS細胞およびそのゲノム編集を利用した腫瘍免疫療法に関する研究

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Academic year: 2021

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論文の内容の要旨 論文題目: iPS 細胞およびそのゲノム編集を利用した腫瘍免疫療法に関する研究 南川 淳隆 腫瘍抗原の概念が提唱されてより、腫瘍免疫療法の発達は、近年著しい。がん 患者体内に存在する、がん細胞特異的なCytotoxic T cell (CTL) を体外で増幅 し、患者体内に戻す治療法については、臨床効果が数多く報告されている。し かし、がん細胞特異的なCTL を患者体外で増殖させると、細胞の老化、疲弊 が起り、結果として抗腫瘍効果が弱くなってしまう事が分かってきている。こ の問題を解決する一つの方法として、iPS 細胞技術を使用する方法が報告され ていた。がん細胞特異的なCTL に山中因子を導入し iPS 細胞を 作成する。こ のがん特異的なT 細胞より作製された iPS 細胞(T-iPSC)は、がん抗原を認識す るT Cell Receptor (TCR) 遺伝子を内在する、TCR トランスジェニック細胞に なっている。T-iPSC を再び T 細胞に分化させることで、がん特異的なしかも テロメア長の長くなったより細胞疲弊の少ない細胞を大量に産生することがで きるという手法である。 T-iPS より CD8 T 細胞を分化させる上で、1 つの問題が考えられた。TCR ト ランスジェニックマウスでの検討では、T 細胞分化過程で、TCR の再構成が起 こる事が知られており、導入TCR 以外の TCR-a 鎖が検出される。これと同様 のことが、T 細胞分化過程の T-iPSC でも起こるとすると、TCR 特異性が変化 してしまうため、がん治療用の細胞として利用が難しくなってしまうという懸 念である。 私は、肝臓癌、卵巣明細胞腺癌に特異的に発現し、正常組織での発現を認めな い癌抗原である、Glypican-3 (GPC3)特異的な CTL を国立がん研究センター中 面哲也博士よりご提供いただき、GPC3 特異的 CTL にセンダイウィルスベク ターにて山中4 因子を導入することで T-iPSC を作製し、実験に使用した。 GPC3 Dextramer の染色にて、GPC3-T-iPSC より分化した細胞は、CD4 CD8 Double positive (DP)細胞の段階で GPC3 特異性を失った細胞が多数検出され ることが判明した。またTCR 鎖のシークエンスにて、TCR-a 鎖の多様な再構 成を認め、TCR 鎖の変化が GPC3 特異性が失われた原因であることが示唆さ れた。分化中に、TCR 配列が変化してしまう事は、治療に使用可能な細胞が産 生できなくなるだけでなく、予想不可能な、自己抗原反応性のTCR が発現す

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る可能性もある。T-iPSC を治療用細胞のソースとするには、TCR 再構成を防 止するための手段が必要であることが明らかになった。

そこで、私はTCR 再構成を起こすことが知られている遺伝子である

Recombination Activating gene2 (RAG2 ) を、CRISPR-Cas9 システムを利 用しノックアウト (KO)した T-iPSC を作製し、T 細胞分化を行った。RAG2 KO T-iPSC は、未分化マーカーの発現、テラトーマ形成能の評価、核型解析の 結果より、多能性を保った正常なiPS 細胞である事が確認された。また、T 細 胞方向に分化し、Dextarmer 解析、TCR 鎖シーケンスにて確認した所、RAG2 KO T-iPSC では TCR 鎖の再構成が起こらない事が確認された。RAG2 KO GPC3 T-iPSC より分化した CD8 T 細胞は、GPC3 抗原特異的に細胞傷害性 を示し、また複数のGPC3 発現癌細胞株、HepG2(肝臓癌株)、Koc7c(卵巣明細 胞腺癌株)を効率的に傷害することを、 in vitro 51Cr リリースアッセイによる 細胞傷害性試験にて示した。またNSG マウスに腫瘍を移植したin vivo 腫瘍実 験において、RAG2 KO GPC3 T-iPSC 細胞由来 CD8T 細胞は、有意に生存期 間を延長させることを示すことができた。 ここまでのT-iPSC を使用した実験で得た知見をもとに、私は TCR 遺伝子を iPS 細胞に導入することで、T-iPSC と同様の事が出来るのではないかと考え た。HLA –A-B-C 鎖をマッチさせた iPS 細胞から分化した細胞は、同種移植に 使用しても拒絶されにくい事が分かってきており、現在HLA 頻度の高い型を 持つ健常人より、同種移植用のHLA typed iPS 細胞が樹立され始めている。私 は、日本人で最も頻度が高いHLA である、HLA-A2402 また、各種の癌細胞 に発現している癌抗原であるWillmus Tumor 1 (WT1) 特異的な TCR をクロ ーニングし、発現ベクターを構築した。このWT1 TCR を、HLA-A2402 陽性 のストックiPS 細胞に導入し、分化を行ったところ、T-iPSC で可能であった のと同様に、HLA-A2402、WT1 抗原特異性を示す CD8細胞を分化させる ことに成功した。 TCR 鎖シーケンスの結果では、TCR 導入 iPS 細胞は、T-iPSC と異なり、DP 細胞では単一のTCRa 鎖と、多様に再構成された TCRb 鎖を認めたが、 CD8abT 細胞では、導入した TCR 鎖以外を検出しなかった。TCR 導入 iPS 細 胞より分化したCD8abT 細胞は、HLA-A2402、WT1 抗原特異的な細胞傷害性 を持つ事を、in vitro 細胞傷害性試験で示した。同様の結果を HLA-A2402 GPC3 特異的な TCR を使用しても得ることができ、TCR 鎖の種類によらない 結果であることが示された。また、NSG マウスに WT1 発現腫瘍株を移植し、 WT1-TCR 導入 iPS 由来の CD8abT 細胞を投与した実験において、有意な腫瘍 進展の抑制と、生存期間の延長、腫瘍重量の減少を確認し、in vivo における TCR 導入 iPS 細胞由来 CD8T 細胞の抗腫瘍効果を示すことに成功した。

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私は、T-iPSC、TCR 導入 iPSC を CD8T 細胞に分化させることで、癌免疫 療法に使用可能な細胞の産出に成功した。TCR 遺伝子を、同種移植可能な iPS 細胞に導入する事で、癌細胞を傷害するCD8T 細胞を産出できた結果は、 iPS 細胞を使った同種移植、細胞免疫療法の可能性を示唆するものであり、今 後の細胞免疫療法の発展につながる結果である。T-iPSC と同様に TCR 導入 iPS 細胞でもRAG2 KO が必要かどうかについては、さらなる議論が必要であ る。私の結果では、TCR 導入 iPS 細胞から産生した CD8 T 細胞は導入 TCR 配列のみを発現しており、この点ではRAG2 KO は必須ではないと考え られるが、DP 段階では多様な TCR鎖を発現していた。TCR 再構成が起こっ ているのが、TCR鎖である点は、T-iPSC の分化細胞と異なっており、分化経 路が異なっている、または細胞としての種類が異なっている可能性が示唆され る。

参照

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