古在豊樹 NPO植物工場研究会
人工光型植物工場の進歩と今後の発展方向
日本農学アカデミー・(公財)農学会 公開シンポジウム 2013年11月9日(土) 東京大学農学部弥生講堂 2000年に千葉大学園芸学部に設置された閉鎖型(人工光)植物生産施設• 社会的背景と世界および日本の状況
• 植物工場の基本
6要素と投入資源利用効率
• 植物工場の相対的土地生産性
-土地面積当たりコストから生産能力当たりコストへ
• 植物工場の対象植物と今後の利用分野
• 研究開発課題と開発目標
• おわりに
内 容
1
食料の安全・安心・高品質・安定供給への志向。健康・
環境・生活の質の向上志向。高いトレーサビリティー。
2世界人口の増大と都市人口比率の増大。都市におけ
る高齢者比率の増大
3農業就業者人口の半減および農業就業者の高齢化
4自国・地域における生産量
の増加・輸入量の削減要
求。フードセキュリティ(食料安全保障)向上へ
の需要増
。
寒冷・熱帯・乾燥地域・国における周年安
定植物生産需要の増大。食料生産方式の多様性の
増大。地産地消(フードマイレージの削減)
5遠隔生産地から消費地への輸送・包装・貯蔵中損失
による資源消費量・コストの削減要求。
植物工場への関心が世界的に高まっていることの社会的背景(1)6
近年の光源(
LED)・空調・断熱・情報処理設備に
関するコスト・パーフォーマンスの倍増
7都市内資源循環促進、雇用創出、
6次産業化・地
域活性化、革新的農業への関心。生活・教育改
善のための都市農業の重要性の向上
7かん水用水量の減少により乾燥地帯における
節水栽培需要の急増。都市における節水需要。
8異常気象、気候変動による作物収量の不安定化
9失業者の増大と社会の不安定化。
都市民の家庭園芸、生き物との触れ合いへの
関心
植物工場への関心が世界的に高まっていることの社会的背景(2)• 日本、台湾および韓国で商業的な野菜生産販
売が普及段階。
• 中国で大型研究開発投資が進行中。
• シンガポール、ロシア、モンゴル、サウジアラビ
ア諸国等が導入に意欲。
• 米国、カナダが導入と開発に意欲。
• オランダが研究開発。苗生産では普及開始。
• 光源は蛍光灯から
LEDに移行中。
• 世界的には、垂直農業
(vertical farming)、都市
農業
(urban agriculture)、都市再開発(urban
re-development) の枠組みでの検討が進行中
。人工光型植物工場に関する世界の状況(概要)
•
2013年3月での植物工場数:138。年増加率約
20%。(他に、苗生産専用システムが約150カ
所で普及)
• 単年度経営収支:約
20%が黒字、約20%が赤
字、約
60%が収支およそ均衡。黒字経営比率
は毎年上昇中。
• 最大規模でレタス
20,000株/日程度(黒字化、
主流は
1,000~5,000株/日。
• 生産コストの内訳:
30-35%が減価償却、20-25%が人件費、20-25%が光熱水料費。他は
諸経費。
人工光型植物工場に関する日本の現状(1)
• 高断熱・高密閉な栽培室の消費電力量比率は、
照明約
80%、空調約15%、その他約5%。
• 新設の植物工場の光源は
LEDが主流。
• 生食用葉もの野菜以外の用途の生産が拡大中。
• 日本の企業による植物工場の海外進出案件が増
加中。契約済もある。
• 技術水準的にはまだ相当の改良余地が残されて
いる。
• 農医連携、農医工連携が拡大中(生活習慣病改
善のための食養生、じん臓病患者への低カリウム
野菜、血圧低下野菜。)
人工光型植物工場に関する日本の現状(2)
人工光型植物工場の生産者側にとっての長所(1)
(短所と課題は後述) 1 無農薬、夾雑物ゼロ、殺菌・洗浄不要で加工工程の簡略化可能 2 高機能成分を含む植物の生産が用意(研究開発投資が拡大中) 3 肥料溶液の循環使用により、排液は最小化。肥料使用量節減 4 かん水量は温室の約1/50(蒸散水を冷房時結露水として回収) 5 冬期の夜間でも光源からの発熱により、暖房不要(冷房必要) 6 地産地消による輸送の資源・コスト、野菜傷みの節減。 7 周年快適労働。気温20~25℃の気温。軽作業のみ。安全作業 8 気象によらず、計画生産、安定収量、安定品質、安定生産コスト人工光型植物工場の生産者側にとっての長所(2)
(短所と課題は後述) 8土地面積当たりの
年間生産性は露地の
100倍以上。
9野菜の品質・機能を逐次的環境改善により経年的、体
系的に向上し得る
10栽培と環境管理のノウハウを気候・地域によらず標準
化し得る。
11外見、栄養、味、食感等を変えることで、事実上の新商
品となる。
122013年現在、日本の技術水準、普及数は世界一
13商品化率と歩留まり(植物体利用率)が高い。病虫害や
枯死による損失がほぼ皆無。
14小規模植物工場での実験結果を大型植物工場で再現
できる
• 比較的弱い光強度(
200 μmol/m
2/s前後)と高いCO
2濃度
(
2000ppm程度)で良く成長する。
• 苗の定植から収穫までの日数が短い(
10~30日)(狭いス
ペースで可能な、播種・育苗には数週間必要でも可)。
• 栽植密度が
50~500本/m
2と高くても良く成長する。
• 植物体の
90%前後が商品になる(商品にする)。
• 植物体の生体重量当たりに商品単価が比較的高い(
1000
円
/kg以上)。
• 草丈が
30cm前後で商品になる(刈り取り再生方式でも可)。
• 機能性成分(ビタミン、リコピン、薬効成分等)の濃度を
環境調節(光質、気温、水分、気流速度等)によって高
めることが出来る。
カロリー摂取を主目的とする穀類・豆類の栽培は不適。
人工光型植物工場に適した植物
2.
光源ランプ付き
多段棚
5. 養液供給 装置 4. CO2 施用 装置 6. 環境制御 装置人工光型植物工場の基本6要素と必須投入資源
必須投入資源:電気→光、CO2、水、無機肥料、種苗、冷熱(冷房) 温室では必要だが植物工場では不要な設備: 暖房機、換気設備、保温カーテン、遮光カーテン、防虫ネット、農薬散布機 1. 断熱壁で囲われた 密閉度が高い施設3. エアコンおよび送風ファン
投入資源量
光(電気)、CO2、 水、無機肥料、冷熱生産生物
ー>生産量
ー>価値創出量環境
植物生産
システム
環境汚染物質(残さ・CO
2を含む)
A
B
C
内部残存量
D
投入資源利用効率(Aに対するBの比)を最大化(環境汚染物質排出量 Dと内部残存量Cを最小化)すると、投入資源コストが最小化される。 可能最大なB/A比を実現し得るのが、閉鎖型植物生産システムである。投入資源利用効率
(B/A比)の定義とその意味
13
園芸施設
(太陽光)
植物工場
(人工光閉鎖型
)施
露地、園芸施設、人工光型植物工場の投入資源利用効率
(
A/B比)の相違を示す模式的概念図
土地面積当た り 価値創出量 ま た は 生産性露地
土地面積当たり資源投入量
A
2013/11/11 古在豊樹B
10010
1
1
10 100
土地面積あたりではなく、土地生産性(価値創出量)あたりのコストを重視すべきである。利用効率
理論的 上限値 植物工場 実現最高値 ハウス土耕栽培 における概算値水利用効率
1.00 0.95 0.02以下
C0
2利用効率
1.00 0.90 0.40前後
肥料利用効率
1.00 0.95 0.50前後
光エネルギー
利用効率
0.10 0.05 0.02前後
電気利用効率
0.05 0.02 -
種苗利用効率
1.00 0.95 0.80前後
投入資源利用効率の理論的上限値と最大実現値
除湿回収水量:
2,000
kg
培地と植物の水分
増加量:
42 kg
かん水量:2,100
kg
ヒートポンプ(エアコン)除湿
58 kg
漏出:
温室でかん水した場合、蒸散・蒸発した水蒸気は回収できないので、 水利用効率は0.02(=2100-2058)/2100kg)となり、48倍(=0.97/0.02) 以上の水量を必要とする。 植物からの蒸散水 培地からの蒸発水2058 kg
水利用効率=
(2100-58)/(2100)=
0.97
閉鎖型植物生産システムにおける水利用効率の実測例
(大山・古在、2008)No. 項 目 個別比率(%) 累積比率(%) 1 電気エネルギー
100 100
2 光合成有効放射(蛍光灯)25
25
3 植物体の受光率(栽培期間平均)60 15
4 葉面の受光率85 17.6
5 葉面吸光比率90 15.8
6 化学エネルギー固定比率20 3.2
7 光呼吸・暗呼吸損失率50 1.6
8 商品化率(商品乾物重/植物体乾物重)80
1.3
電気エネルギーが光エネルギに変換され、更に植物体の化学エネ ルギーへ変換される過程における個別比率・累積比率の概算数値例 節電には、各個別比率を高めることが重要。累積比率の理論的最 大可能値は5~6%であるので、今後、数倍の向上が期待される。千葉大学(みらい(株))・人工光型植物工場
リーフ・レタス、全床面積406 m2
、
栽培室338 m2、栽培棚
10段,9列、毎日約3,000株、年間100万株の生産能力
ロメインレタス
198円/袋 みらい畑
露地型野菜生産に対する人工光型植物工場に
よる野菜生産の相対的な土地生産性は
100倍以上
土地生産性増大要因
生産性 倍化係数累積係数
1 栽培棚を10段にすることで10倍 (N段でN倍、N =5~20)10
10
2 環境調節により苗移植から収穫までの日 数を半減2
20 (=10x2)
3 年間栽培日数を倍化。収穫翌日の苗移 植により、年間360日栽培。2
40 (=20x2)
4 栽培棚面積当たりの植物本数を、収量低 下を伴わずに、1.5倍にする1.5 60 (=40x1.5)
5 病虫害、高低温、強風、豪雨、乾燥などに よる収量低下が無いので、1.5倍1.5 90 (=60x1.5)
6 収穫時および収穫後のロスが少なく、また、 高品質である1.3 117 (=90x1.3)
No. 用 途
1 生野菜、カット野菜 (小型根野菜を含む) 2 冷凍野菜、冷凍食品、乾燥野菜の材料 3 ペースト、ソース材料、ドリンク剤の材料 4 漬け物・キムチの材料 5 鍋物野菜・中華料理用野菜の食材 6 香草、香料、香辛料、染料、化粧品 7 薬用植物(生薬原料) 8 薬草・機能性野菜・粉末材料, 医薬品(ワクチン、抗がん、歯周病) 9 露地野菜・農作物・植林用の苗、採種 10 ベリー類(ジャム、ジュース等)人工光型植物工場で生産される植物の今後の用途
人工光型植物工場で栽培された結球葉もの野菜
今後、結球前に収穫して、カット野菜を含む多様な利用が進む結球性レタス品種を
結球前に収穫
(約
150グラム)
ハクサイ(結球性品種)
を結球前に収穫
(約
200グラム)
日清紡
人工光型植物工場によるイチゴ生産
http://innoplex.org/archives/9425
閉鎖型システムによるカンゾウ(甘草)苗の生産
写真提供:三菱樹脂(株) (株)グリーンイノベーション
閉鎖型苗生産システムで育苗された発芽後32日目
のカンゾウ(甘草)苗
2013/11/11 25 出展:東京デリカフーズ 有井雅幸氏
露地栽培ホウレンソウのビタミンC(アスコルビン
酸)、抗酸化力、および糖度の月別変化例
機能性成分濃度を高めるための環境調節
に関す研究開発は急速に進展しつつある
• リーフレタス葉内の硝酸濃度低減(豊橋科技大、
2013)
• 光質
:レタス、コマツナのポリフェノール類、アスコルビン
酸濃度(電力中央研究所、
2013)
• 根圏低温処理
:ホウレンソウのアスコルビン酸濃度(京都
大学、
2013)
• 光強度・気温
:ホウレンソウのルティンと
βーカロテン(千葉
大学、
2013)
• 品種
:ニホンハッカの精油成分(千葉大学、
2013)
• 明暗周期と光強度
:白花蛇舌草のイリドイド濃度(神戸大
学)
• 品種
:ニホンハッカの精油成分(千葉大学)
• 光質
:ニチニチソウも抗ガン剤成分(玉川大学)
高機能野菜・薬用植物に関する研究発表
(日本生物環境工学会高松大会、
2013年9月)
榊原記念病院ロビー(東京都府中市)
家庭用植物工場、パナソニック㈱
ショッピングセンター
ららぽーと柏の葉(千葉県柏市)
Aさん Bさん Cさん ららぽーと柏の葉 (中規模タイプ) 千葉大学 (大規模タイプ) 千葉大学 ㈱みらい みらい畑クラブ ●収穫交換会 ●試食交流会 ●生育セミナー 研究 栽培法 サポート みらい畑スマートネットワーク 公式WEB 三井不動産(株) パナソニック㈱
千葉県柏市の家庭用植物工場ネットワーク
光
温度
CO
2
養分
湿度
培地水分
光合成
呼吸
乾物生産
2次代謝
物質生産
物理環境
ストレス
養分・化学
ストレス
生物
ストレス
蒸散
2次代謝物質の生産性は環境制御により変動する
栽培 システム空気の流れ
養水分 吸収 転流
定植後の日数
薬効成分の
濃度(
g
/kg
)
二次代謝 成分濃度)乾物重
収穫時における薬効成分の収量=乾物収量x収穫指数x薬効成分濃度 収穫指数:薬効成分を抽出し得る植物体部分の割合面積当た
り
乾物重
物理環境ストレス付加 かん水抑制 急な低温・高温 紫外線照射 照明時間調整 養分ストレス 生物ストレス 生育の初期・中期までは光合成成長を促進し、生育後期に二次 代謝成分の濃度を高める環調節(環境ストレス付加)を行うPnに価値創出の単価、Scにコストの単価を乗じて、両者の比を最 大にする室内 CO2 濃度 (Cin) が、CO2施用のコスト・パフォーマンス を最大にする。
正味光合成速度
P
n
CO
2施用速度
S
c
CO
2損失速度
L
c
植物
CO2損失速度L
=kxNxVx(Cin-Cout)、正味光合成速度Pn=Sc-Lc 施用CO2利用効率=Pn/Sc=(Sc-Lc)/Sc k:変換係数、 N:換気回数(=時間当たり換気量/空気容積)、 V:空気容積、 Cin:室内CO2濃度、Cout:室外CO2濃度。Sc, Pn, Lcの単位は、kg h-1 。C
inC
out 人工光型植物工場における正味光合成速度Pn、蒸散速度、CO2施 用速度Scなどの連続計測と制御および資源利用効率の見える化植物工場の技術的現状と当面の研究開発課題
(1)
研究開発項目と目標 現状(2013年) 2020年までの目標 1 土地面積当たりの 年間生産性の倍増 露地栽培の約100倍 露地栽培の200倍以上 2 生産物重量当たりの消費電力量の 半減 照明システムの不備等によ り、1 kWh/生体重100g 消費電力量を半減 (0.5 kWh/生体重100g) 3 播種・育苗・栽培・収穫作業の自動 化推進 全作業の5%以下 大規模植物工場では、 全作業の50%以上 4 機能性成分収量の向上と生理障害 (チップバーン等)の抑制 研究開発は進んでいて、実 用化が近づいている 成分品質保証を付けた 商品の販売開始。 5 植物工場の建物と内部設備のコス ト削減と工期の短縮 建物と内部設備のコストを 合わせて40-50万円/m2。 大規模植物工場の建 物、設備、工賃の各コス トを30~50% 削減。 6 状態変数の制御に速度変数の制 御を加える。 研究開発が開始された 10%の植物工場で実現 7 人工光型植物工場専用 品種の開発(選抜育種)と利用 耐病性・環境ストレス耐性 不要品種の育成未着手 数品種で実用化。薬用 植物の育種。 8 家庭用植物工場の家電製品化と ネットワーク化 プロトタイプの開発が終了し、 普及検討段階 価格5~10万円。維持 費1万円/月で普及。No. 大項目 解決すべき小項目 1 照明 LED利用、受光率・照明率、分布、反射板、照射方向、電力消費平 準化、照射角度可変照明、発光効率、明暗サイクル、光質 2 空調 空気分布、気温・葉温、CO2濃度、水蒸気飽差、気流速度、ヒート ポンプCOP、結露液回収利用、殺菌・浄化 3 建屋・棚の構造 栽培棚と建屋の一体構造化、モジュール化、軽量化 4 サービス・デザイン 家庭、学校、ホテル、病院、各種店舗、公共施設、集合住宅 5 衛生・品質 病原菌・昆虫の侵入阻止、生菌数、機能性成分、食味、質感 6 断熱性・気密性 熱貫流係数と換気回数の最適化 7 養液(肥料液) 肥料組成、液温、電気伝導度(EC)、pH、病原菌、根の残差処理 8 作業(半)自動化 種子処理、播種、スペーシング、定植、収穫、調整、搬送、袋・箱 詰、予備冷蔵、出荷、計数・計量、サンプリング 9 計測・制御 メンテナンス 状態変数と速度変数の見える化、統合環境制御、時・日・週・月・ 4半期・年の自動報告、警報、画像解析、ネットワーク化 10 品種・商品開発 生理病、食味、機能性成分、成長速度、環境反応性、小型化 11 人材養成、認証 管理者・作業者・経営者研修、安全性認証制度、品質管理、広報 12 商品開発 生鮮・漬物、ペースト・粉末加工、生薬・化粧品・香料素材、苗
人工光型植物工場の技術開発課題(2)
• 銀行・投資機関・監査法人 • 不動産 • 商社 • 鉄道・運輸 • 専門学校・大学・学校 • 医療・保健・福祉・製薬 • 建設・住宅・設計・インテリア • 流通・コンビニ・スーパー • 農協・自治体・農業生産法人 • 冠婚葬祭 • 電力・エネルギー・ガス • 文具・事務用品・紙工業 • 繊維・化学・鉄鋼 • 照明・空調 • 計測・制御・電気 • 種苗・園芸 • 精密工業・半導体・機械 • IT・ソフトウェア • 法律事務所・行政 • 食品 • メディア • 安全認証 • 中食・外食 • 製菓・製パン・ • 機能性フィルム • ホテル • その他