1
東九州新幹線調査の結果概要について
平成28年3月23日
東九州新幹線鉄道建設促進期成会
1 ルート
東九州新幹線は、全国新幹線鉄道整備法に基づく基本計画の一路線であり、昭和 48 年の運
輸省告示により「福岡市を起点、大分市付近、宮崎市付近を経由し、鹿児島市を終点」とする
ルートが示されている。
今回の調査においては、この基本計画を踏まえ、
以下のとおりルートを設定した。
①福岡市からの一部区間では山陽新幹線の線路を共
用する。
②新たな整備が必要となる部分の起点、終点を小倉
駅、鹿児島中央駅とする。
③県庁所在地の既存駅付近を経由する。
④新幹線の線形を考慮した上で、起点・終点・経由
地を最短で接続する。
なお、需要予測等で必要となるゾーン設定につい
ては、福岡・大分・宮崎・鹿児島各県については、
生活圏を基に各県2∼3のゾーンを設定し、それ以
外の都道府県については都道府県単位で設定した。
2 所要時間
設定ルートにおいて主要区間の距離を求め、近年開業した九州新幹線や北陸新幹線等の表定
速度の平均(約 210km/h)を基に、所要時間を推計した。
図表2 設定ルートに基づく所要時間
区 間 現行特急
所要時間
新幹線
キロ程
(想定)
表定速度
(想定)
所要時間
(想定)
短縮時間
(想定)
所要時間
(博多発)
分 km km/時 分 分 分
北九州 ⇔ 大分 83 110 210 31 △52 47
大分 ⇔ 宮崎 189 170 210 48 △141 95
宮崎 ⇔ 鹿児島 129 100 210 29 △100 124
北九州 ⇔ 鹿児島 401 380 210 108 △293 −
図表1 設定ルート
2
3 整備費用
設定ルートの通過区間の標高データ等を基に、整備が想定される高架橋やトンネルといった
施設の構造種別と数量を推計し、近年開業した九州新幹線や北陸新幹線等の事例から推計した
単価を乗じた整備費用の総額は、約 2.7 兆円となる。(図表3参照)
この整備費用は、現行の財源スキームでは、運行事業者が支払う新幹線鉄道施設の貸付料と
公費とで賄われる。そのうち公費は 2/3 が国、1/3 が地方負担となるが、地方には国からの
交付税措置があるため、実質負担額は図表4のとおりと推計される。
図表3 整備費用の推計結果 (億円)
整備費用
構造種別
路盤 橋りょう 高架橋 トンネル
電気等 軌道 駅 車両基地
福岡県内 3,050 440 310 960 720 620 − −
大分県内 9,000 100 770 2,530 3,630 1,540 230 200
宮崎県内 10,430 880 980 2,630 3,550 1,960 230 200
鹿児島県内 4,210 330 400 1,520 1,170 790 − −
合 計 26,730 1,760 2,470 7,650 9,070 4,910 470 400
(注)端数処理により、個々の数値と合計値が突合しない場合がある。
図表4 整備費用の地方負担額(償還期間 30 年) (億円/年)
福岡県内 大分県内 宮崎県内 鹿児島県内 合 計
負担額 30 89 103 42 264
交付税措置
を考慮した
実質負担額
交付税措置 70% 11 33 38 15 98
交付税措置 50% 17 49 57 23 145
(注)運行事業者が支払う貸付料を九州新幹線並の約 100 億円/年とし、残りを国 2/3、地方 1/3 負担で試算。
地方負担分は、地方債(充当率 90%)を充て、その元利償還金の 50∼70%が交付税措置される。
端数処理により、個々の数値と合計値が突合しない場合がある。
(参考:地方負担額の計算イメージ)
宮崎県内の地方負担額 (10,430 億円−1,170 億円(貸付料相当額))×1/3÷30 年間≒103 億円
4 整備期間
図表5 これまでの事例による整備期間
プロセス 九州新幹線
(鹿児島ルート)
北陸新幹線
(金沢まで)
北海道新幹線
(新函館北斗まで)
基本計画決定 1972 年 06 月 1972 年 06 月 1972 年 06 月
整備計画決定 1973 年 11 月 1973 年 11 月 1973 年 11 月
工事実施計画認可・着工 1991 年 1989 年 2005 年
開 業 2011 年 03 月 2015 年 03 月 2016 年 03 月
整備計画決定から
開業までの期間 38 年間 42 年間 43 年間
3
5 需要予測
東九州新幹線が開業した場合の需要予測について、国立社会保障・人口問題研究所による将
来人口予測等を用いたすう勢的将来の予測と、これに大分、宮崎両県が独自に推計した将来人
口予測を加味した予測の結果は次のとおり。
【すう勢的将来の予測】
図表6 対象区間の需要予測結果(断面交通量:2040 年及び 2060 年時点) (人/日)
区 間 予測時点
総数 在来特急
からの転移
転換需要
航空から バスから 自動車から
北九州 ⇔ 大分
2040 年 21,300 14,060 7,240 3,430 2,380 1,430
2060 年 21,020 13,910 7,110 3,350 2,340 1,420
大分 ⇔ 宮崎
2040 年 7,460 3,260 4,200 2,300 1,210 690
2060 年 7,180 3,110 4,070 2,240 1,170 660
宮崎 ⇔ 鹿児島
2040 年 2,840 2,090 750 160 430 160
2060 年 2,710 1,990 720 160 410 150
全区間平均
2040 年 10,190 6,050 4,140 2,040 1,340 760
2060 年 9,950 5,920 4,030 1,990 1,300 740
【上記に大分、宮崎両県の独自推計の将来人口予測を加味した場合】
図表7 対象区間の需要予測結果(断面交通量:2040 年及び 2060 年時点) (人/日)
区 間 予測時点
総数 在来特急
からの転移
転換需要
航空から バスから 自動車から
北九州 ⇔ 大分
2040 年 22,820 15,200 7,620 3,560 2,510 1,550
2060 年 24,230 16,390 7,840 3,640 2,570 1,630
大分 ⇔ 宮崎
2040 年 7,740 3,380 4,360 2,360 1,250 750
2060 年 7,900 3,510 4,390 2,360 1,250 780
宮崎 ⇔ 鹿児島
2040 年 2,900 2,130 770 160 440 170
2060 年 2,900 2,130 770 160 440 170
全区間平均
2040 年 10,770 6,450 4,320 2,110 1,390 820
2060 年 11,240 6,840 4,400 2,130 1,410 860
(注)需要予測の考え方と前提条件
(1)需要予測モデル
対象地域を発着する公共交通機関として、鉄道、航空、高速バスの3つの機関に自家用車を合わせた4つの交通機
関による旅客(総流動)を対象とし、四段階推計法を適用。
四段階推計法は、①発生・集中交通量(各ゾーン発着の総流動)、②分布交通量(ゾーン間の発着旅客数)、③分担
交通量(機関別旅客数)、④配分交通量(新幹線の区間別旅客数)の順に予測を行う手法であり、交通需要予測で一
般的に用いられる代表的な手法。
(2)前提条件
発生・集中交通量の予測には、人口と経済に関する変数を用いるが、本調査では、すう勢的将来の予測として、国
立社会保障・人口問題研究所による将来人口予測、内閣府・日本経済研究センターによる GDP 予測値を用い、大分、
宮崎両県独自の将来推計人口を考慮したケースでは両県の推計値を用いた。
4
6 費用対効果・経済効果等
(1)費用対効果の推計
整備費用と需要予測を基に、東九州新幹線整備による費用対効果(B/C)を推計した
結果は図表 8 及び 9 のとおり。
【すう勢的予測ケースを基にした場合】
図表 8 東九州新幹線整備による費用対効果(B/C) (億円)
2040∼
70 年
(30 年)
2060∼
90 年
(30 年)
2040∼
90 年
(50 年)
2060∼
2110 年
(50 年)
備 考
B:便益 23,820 23,390 29,880 28,470
利用者便益 10,510 10,250 17,080 16,230 他機 関 か ら転 換 、特 急 か ら転 移 し た 旅客 の
時間・コスト便益
供給者便益 6,490 6,320 10,520 9,960 運賃 ・ 料 金収 入 に運 行 事 業の 利 益 率 を設 定
して推計
事業資産の残存価値 6,820 6,820 2,280 2,280 残存比率を設定して推計
C:整備費用 26,730 26,730 26,730 26,730
B/C 推計 0.89 0.88 1.12 1.07
【大分、宮崎両県独自推計の将来人口予測を加味した場合】
図表9 東九州新幹線整備による費用対効果(B/C) (億円)
2040∼
70 年
(30 年)
2060∼
90 年
(30 年)
2040∼
90 年
(50 年)
2060∼
2110 年
(50 年)
備 考
B:便益 26,100 26,510 35,090 36,440
利用者便益 11,990 12,270 20,440 21,370 他機 関 か ら転 換 、特 急 か ら転 移 し た 旅客 の
時間・コスト便益
供給者便益 7,290 7,420 12,370 12,790 運賃 ・ 料 金収 入 に運 行 事 業の 利 益 率 を設 定
して推計
事業資産の残存価値 6,820 6,820 2,280 2,280 残存比率を設定して推計
C:整備費用 26,730 26,730 26,730 26,730
B/C 推計 0.98 0.99 1.31 1.36
5
(2)経済効果の推計
東九州新幹線整備による経済波及効果を推計した結果は図表 10 のとおり。
図表 10 東九州新幹線整備による九州域内への経済効果
効 果 内 容 金 額
直 接 効 果 東九州新幹線の施設整備総投資額(用地費等を除く) 2.27 兆円
一次波及効果 東九州新幹線の施設整備に伴う原材料等の購入によって誘発され
る生産額 2.28 兆円
二次波及効果 上記を通じて発生した雇用者所得のうち、新たに消費として支出さ
れた分(雇用者消費支出)によって誘発される生産額 1.66 兆円
経 済 効 果 合 計 6.21 兆円
(3)開業後に見込まれる経済効果
過去の整備新幹線開業前後における利用者数の推移を見ると、いずれも、開業直後に
20%を超え、その後も順調に旅客数を伸ばしている。
また、近年開業した、東北新幹線(八戸∼新青森)、九州新幹線(博多∼新八代)では、
観光入込客数や観光消費額で大きな効果が顕在化している。とくに九州新幹線では、先行開
業した鹿児島への入込客も大きく増加しており、開業前の平成 22 年と比較して、鹿児島県
内の月別の延べ宿泊客数が前年比平均 19.6%増、主要観光施設来場者数が前年比平均
27.3%増となるなど、ネットワークの接続により遠隔地との往来による利便性向上の効果
が発揮されている。
一方で、既存開業区間では、大都市との時間短縮が、人口の少ない地方から大都市への
流動や流出を促すストロー現象により、地方居住者の消費やお出かけが大都市に集中すると
いう弊害も指摘されている。また、ビジネス旅客の日帰り圏が拡大する結果、宿泊施設や支
社・支店の立地等へのマイナスの影響にも留意する必要がある。
(4)防災等への効果
東九州新幹線の開業により、九州域内は、既設の九州新幹線(博多∼鹿児島中央)と合
わせて、ループ状に接続された新幹線ネットワークが完成する。ループ状のネットワークは、
九州域内を移動する旅客に対して、同一の目的地への最適ルートとして機能するだけでなく、
代替ルートとしても機能する。
このため、九州域内を周遊する観光等に対して有効であると同時に、例えば、南海トラ
フ地震の発生等により東九州域内が被災した場合には、東九州新幹線の一部が開通していれ
ば、ループ状のネットワークにより九州域内のいずれの地点からも代替ルートを通じて往来
をすることが可能となる。同様に西九州エリアが被災した場合には、東九州新幹線がその代
替ルートとして九州域内での移動を補完することが期待できる。
6
7 並行在来線の事例研究結果
(1)新幹線の並行在来線に係る課題
並行在来線とは、整備新幹線区間を並行する形で運行する在来線鉄道のことであり、整
備新幹線に加えて並行在来線を経営することは営業主体であるJRにとって過大な負担と
なる場合があるため、先行する路線では、沿線全ての道府県及び市町村から同意を得た上で、
整備新幹線の開業時に経営分離されてきた。
学生や高齢者等の交通弱者にとって在来線も地域の足として不可欠な存在のため、地方
自治体が出資する鉄道会社(第三セクター)を設立し、並行在来線の経営を引き継ぐことが
一般的である。JR からの経営分離に伴って、利用者視点では JR との乗継運賃の発生や、
中距離移動の利便性低下、ダイヤの間引き等、サービス水準が低下する可能性がある。加え
て、経営視点では、上記によって利用者数の減少が加速することや、沿線自治体における並
行在来線維持のための財政負担が増加することも考えられる。
(2)今後想定される検討プロセス等
全国新幹線鉄道整備法によると、まず新幹線の建設時には、第一に基本計画決定、次い
で整備計画決定、最後に工事実施計画認可という三段階を踏むことが必要とされている。
次に、上記を踏まえた新幹線の着工後には、沿線自治体によって設立された並行在来線
対策協議会等において、並行在来線の分離区間、運営単位・交通モード等に係る基礎的検討
を経て、開業 3∼4 年前には運営組織設立・開業に向けた費用負担等の具体的検討へと移行
するのが一般的である。
(3)並行在来線に係る沿線自治体の財政負担事例
例えば鹿児島県では、開業前には、熊本県と共同による第三セクター設立時の出資金拠
出、開業後には、肥薩おれんじ鉄道経営安定基金を設立し、県内の非沿線市町と民間団体等
からの寄付により約 5 億円を積立てたほか、肥薩おれんじ鉄道経営安定対策事業補助金等
により、県及び沿線市において継続的な支援を実施している。加えて、2014 年には今後
10 年間で見込まれる約 33 億円の資金不足を踏まえ、熊本県と鹿児島県及び沿線市町等に
よる計 27 億円の追加支援が決定された。
図表 11 沿線自治体による財政支援の全体像