• 検索結果がありません。

博士学位論文審査報告書

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "博士学位論文審査報告書"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

17 氏 名 松下 佳世 学 位 の 種 類 博士(異文化コミュニケーション学) 報 告 番 号 甲第431号 学 位 授 与 年 月 日 2016年3月31日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則(昭和28年4月1日文部省令第9号) 第4条第1項該当

学 位 論 文 題 目 Risk Management in the Decision-Making Process of English-Japanese News Translation

(日本のニュース・トランスレーション実践におけるリスク 管理) 審 査 委 員 (主査)武田 珂代子 灘光 洋子 アンソニー・ピム (スペイン・ロビラ・イ・ビルジリ大学 翻訳・ 異文化間研究教授)

(2)

Ⅰ.論文の内容の要旨

Risk Management in the Decision-Making Process of English-Japanese News Translation 目次・本文・付録・参考文献を含め、全237 頁 (1) 論文の構成 第1章 はじめに 研究の背景、目的、論文の構成 第2章 先行文献 ジャーナリズムと翻訳、ジャーナリズムとスピーチ・イベントに関する 先行文献の批判的レビュー 第3章 理論的枠組み 翻訳におけるリスク、Anthony Pym のリスク管理論、ニュース・トラ ンスレーションにおけるリスクの考察 第4章 分析方法 リスク管理 第5章 ケース・スタディー:2012 年米大統領選挙 対象としたスピーチ・イベント、日本のメディアにおけるニュース・ト ランスレーションの実践、テクスト分析 第6章 ニュース・トランスレーションの方略とリスク管理 「非倫理的・非標準的実践」、翻訳者の意思決定にリスクが及ぼす影響、 暫定的な結論 第7章 変化するメディア環境におけるリスク管理 新種のリスクと対応方法 第8章 結論 まとめ、本研究の意義と制約、今後の研究 付録 参考文献 (2)論文の内容要旨 本論文の目的は、国際報道の現場における日常的実践であるにもかかわらず、 これまで学術的研究の対象として取り上げられることが少なかった訳出行為 (ニュース・トランスレーション)を翻訳通訳研究の視座から捉えなおし、国 際ニュースの制作過程において訳出行為を担うジャーナリストらの意思決定プ ロセスに焦点を当てた考察を行うことである。具体的には、日本の主要6新聞

(3)

ュース・トランスレーション実践をテクスト分析と記者インタビューによって 考察し、さらに考察の結果を他の複数の事例に当てはめて検証した。 テクスト分析では、オバマ大統領の発言を新聞紙上で引用符を用いて直接引 用した部分(計 150 箇所)を抽出し、訳出方略を分析した。その結果、全体の 53%において情報の「省略」が見られたほか、節や文レベルの「置き換え」、暗 示されていない情報の明示的な「付加」などの操作が行われていることが明ら かになった。 新聞報道における直接引用は、話し手の発話を極力そのまま再現することが 前提とされており、日本の新聞においても、言語間翻訳を伴わない事例(例え ば安倍首相発言の直接引用)では、上記のような操作は見られなかった。そこ で、本論文では、翻訳通訳研究において Anthony Pym が先導して理論化を進め ている「リスク管理」の概念を理論的枠組みとして用いてさらなる考察を行っ た。 翻訳通訳におけるリスク管理の概念とは、翻訳者・通訳者が訳出を行う際、 起点テクストと目標テクストとの間に何らかのレベルにおける等価性をいかに 保つかといった観点だけではなく、どのような訳出が最もリスクが高いかある いは低いかという判断も踏まえて意思決定を行っているとする考え方である。 先行研究においては、翻訳者・通訳者は特定の訳出行為におけるリスク度合い に応じて省略や明示化などの訳出方略を選択しているのみならず、リスクの高 いものにはより多くの努力を費やすなどのリスク管理を行っていることが指摘 されてきた。 米大統領選報道において、分析事例の半数以上に、努力量の比較的少ない訳 出方略である「省略」が見られたことで、日本の新聞がオバマ大統領の演説を 訳出し、直接引用することを比較的低リスクだと捉えている可能性が浮かび上 がった。そこで、全6紙の米国特派員経験者にインタビューを実施し、分析結 果と照らして検証を行った結果、リスクの度合いと訳出方略、訳出に費やされ る努力の三者の間には、関連性があること、また記者自身もリスクを意識した 訳出を行っていることが明らかになった。訳出に関わる当事者のリスクに対す る意識とそれに対応する訳出方略は、記者会見における通訳者の訳出など、担 い手の異なる複数の事例においても、テクスト分析やインタビューを通して確 認された。 インターネット上で多言語によるニュースの拡散が見られる現在、起点テク ストの特定が容易になったことでニュース・トランスレーションにおける新種 のリスクが登場し、その対応についてもリスク管理の視点から今後研究が可能 である。

(4)

Ⅱ.論文審査の結果の要旨

(1)論文の特徴 研究対象、理論的枠組み、研究方法、分析結果と今後の研究課題、論文の形 式の視点から、本論文の主な特徴を以下にまとめる。 【研究対象】これまで学術的研究の対象とされることが少なかった日本のメ ディアによる翻訳行為(ニュース・トランスレーション)に焦点を当てている。 とりわけ、訳出行為に携わるジャーナリストへのインタビューや自らの記者経 験などを通して、訳出プロセスを可視化した点は特記すべきである。 【理論的枠組み】翻訳研究で Anthony Pym が探索的に論じてきたリスク管理 の概念を批判的に適用している。リスク管理を枠組みとした実証的翻訳研究が これまでほとんどなかった中で、他学術領域でのリスク管理の議論もふまえ、 翻訳、とくにニュース・トランスレーションにおけるリスクの特徴を検討した。 結果、Pym が提案してきたリスク概念(risk aversion, risk retention, and risk transfer)に新カテゴリー(risk mitigation)を加えて、データ分析の枠組み とした。 【研究方法】事例研究として日本の主要 6 紙におけるオバマ大統領発言の直 接引用をとりあげ、さまざまな仮説を検証する形式で質的分析をした。複数の 起点テクストから目標テクストが生成される実践が少なくないニュース・トラ ンスレーションで、起点テクストと目標テクストを 1 対1で比較検討すること を可能とする直接引用に焦点を当てている。リスクと翻訳方略と努力の関係を 示すために、安倍首相発言の直接引用(言語内翻訳)も検討するとともに、政 治家の記者会見の通訳にも考察を加え、論証に厚みを持たせた。 【分析結果と今後の研究課題】オバマ大統領発言の直接引用における翻訳や 政治家の記者会見の通訳において、「省略」「追加」「置き換え」「多重的訳出」 など、「非倫理的あるいは非標準的」とされる訳出があったことを明らかにした。 安倍首相発言の直接引用にはそうした事例がないこと、また、翻訳者(ジャー ナリスト)や通訳者へのインタビューを通して、リスク、翻訳方略、努力量と の間に関連性があるという結論を導いている。今後の研究課題の一つとして、 ニュース・トランスレーションにおける現代的リスク(インターネット上で読 者が起点テクストを特定できることなど)に注目している。 【論文の形式】用語の定義、研究の対象範囲が明確に示され、一貫性と結束 性のある議論が展開される構成となっている。明快な英語で書かれており、日

(5)

(2)論文の評価 本論文は研究対象、事例分析に用いた理論的枠組みなどにおいてオリジナリテ ィーと先進性に富むものであり、特に以下の点で高く評価できる。 まず、これまで十分な研究がされてきたとは言い難い日本の報道現場における 訳出行為のプロセスを明快に提示していることである。ニュース・トランスレー ション研究分野でこれまで乏しかった日本の報道現場における実践の情報を国 際的な学術コミュニティーに提供できることは重要だ。著者自身のジャーナリス トとしての経験だけでなく、特派員へのインタビューなどの質的証拠を積み上げ て、報道における複雑な訳出行為のプロセスを外部者にもわかるように丁寧に説 明している。 また、翻訳通訳研究で主に Anthony Pym が探索的に論じてきたリスク管理の概 念を理論的枠組みとして注意深く適用したことも注目に値する。Pym によるリス ク管理の概念を適用した翻訳通訳の先行研究が限定的な中で、経済学や社会学な どさまざまな学問領域におけるリスクの議論を参照しつつ、ピムの提案を批判的 に検討し、新たなリスクのカテゴリー(risk mitigation)を加えて、事例分析 をしている点は革新的である。 さらに、研究方法に関しても、直接引用に焦点を置いた点は特記すべきだ。ニ ュース・トランスレーション研究で厄介な「編集(trans-editing)」や起点テク ストの不安定さなどの問題を避け、ジャーナリズムと翻訳のディスコースが重な り合うと想定される直接引用に焦点を当てたのは鋭い洞察力と言える。また、数 多くの事例を扱いながらも、明確に定義された理論的枠組みの中で、焦点がぶれ ない、厳密な質的研究がされていると言える。 「説明」「理解」という言葉をやや直感的に、あるいは無批判的に使用してい るという認識論的課題がないわけではないが、「意味」の不安定さや「解釈」の 複数性については、今後の研究で取り組んでもらいたい。インターネット上の情 報が爆発的に増加したことで、読者がニュースのソースを容易に検索できる時代 にあり、ジャーナリズムの機能とニュース・トランスレーションにおけるリスク 管理の方略に新たな進展が観察される点に言及したことは有意義である。本論文 は共時的な研究にとどまったが、今後、テクノロジーの発展に照らした通時的研 究を含め、発展的な研究が期待できる。 国際的な翻訳通訳研究における注目分野であるニュース・トランスレーショ ンに日本から新たな情報を提供しただけでなく、革新的なアプローチでリスク 管理による翻訳事象の分析が実行可能であることを示した点で、本論文は翻訳 通訳研究に大きな貢献をするだけでなく、翻訳とジャーナリズムとの相互作用 に関する理解を深めるための一助となるものだと言える。

参照

関連したドキュメント

1 Introduction and overview 1.1 Introduction 1.2 Model of the public goods game 2 Expectation of non-strategic sanctioning 2.1 Introduction 2.2 The game and experimental design

[r]

査を実施し、その調査結果を分析した。キャンディ市の家庭ごみ発生量に関しては、所得に

(Approximately 4,000 characters in Japanese, or 1,500 words in English. The Doctoral Thesis title, however, must be written in both Japanese and English.).. 博士論文審査委員会

[r]

ている。本論文では、彼らの実践内容と方法を検討することで、これまでの生活指導を重視し

我々博士論文審査委員会は2007年5月12日 Sarinthorn Sosukpaibul に対し面接試

[r]