井島正博 数量詞と否定文 はじめに 否 定 文 の 研 究 の 中 で は、 数 量 詞 と の 関 わ り を 論 ず る の は、 最 も 常 套 的 な ア プ ロ ー チ で あ る。 し か し な が ら、 従 来 の 研 究 は 論 理 学 的 な 観 点 で 数 量 詞 と 否 定 と の 関 係 を 割 り 切 ろ う と し て、 自 然 言 語 に お け る 数 量 詞 と 否 定 と の 関 係 を 必 ず し も 正 確 に と ら え て い な か っ た よ う に 思 わ れ る。 本 稿 で は、 可 能 な 限 り 自 然 言 語 の 中 に 見 出 さ れ る 数 量 詞と否定との関係を浮かび上がらせることに力を注ぎたい。 1 数量詞 1・1 数量詞の類型 数 量 詞 に 関 し て は 、 井 島 ( 一 九 九 一 ・三 b ) で 論 じ た こ と が あ り 、 そ こ で と り あ え ず の 類 型 を 提 示 し た 。 そ こ で 提 示 し た 類 型 そ の も の に 修 正 を 加 え る 必 要 は 感 じ な い が 、 名 称 に 若 干 変 更 を 加 え て こ こでも用いることにしたい。 ○ 相 対 数 量 詞 : あ ら か じ め 全 体 量 が 定 ま っ て い て、 そ の う ち の ど れだけの割合かを表わす数量詞。 典 型 的 に は 全 部・ す べ て・ み( ん ) な / ほ と ん ど・ た い て い・ お お か た・ * か な り・ * 多 く / * い く ら か・ * 若 干・ * 少 し / *僅か(*を付けたものは次の絶対数量詞と重なる) ○ 絶 対 数 量 詞 : 間 主 観 的 あ る い は 話 し 手 自 身 の、 一 般 的 あ る い は そ の 場 の 状 況 に お け る 基 準 を も と に し て 当 該 対 象 の 多 寡 を は か る数量詞。 たくさん・いっぱい・多く/いくらか・若干・少し/僅か ○ 計 量 数 量 詞 : 数 量 の 単 位 を も と に し て、 基 準 よ り ど れ く ら い の 偏差があるかによって表わす数量詞。 三人・一〇〇本・五〇〇グラム・二五〇メートル・八時間など こ の う ち 、 計 量 数 量 詞 に 関 し て 、 否 定 ( お よ び 肯 定 ) と の 関 係 は 、 井 島 ( 一 九 九 五 ・一 〇 ) で す で に 検 討 を 加 え た 。 そ こ で 本 稿 で は 、 相 対 数 量 詞 ・ 絶 対 数 量 詞 と 否 定 と の 関 わ り に 関 し て 検 討 を 加 え
数量詞と否定文
井
島
正
博
成蹊人文研究 第二十一号(二〇一三) ることにしたい。 1・2 数量詞の特徴 本 稿 は 数 量 詞 そ の も の を 究 明 す る も の で は な い が、 数 量 詞 と 否 定 と の 関 係 を 論 じ る に 先 立 ち、 数 量 詞 相 互 に も い わ ゆ る ス コ ー プ の 原 理が働くことを再確認しておきたい。 (1)a 男の子全員は何人かの女の子を愛している。 b 何人かの女の子は男の子全員に愛されている。 (1)a は 男 の 子 は 必 ず 一 人 以 上 の 女 の 子 を 愛 し て い な け れ ば な ら な い が、 す べ て の 男 の 子 に 愛 さ れ て い る 女 の 子 は 必 ず し も い な く て も よ い し、 ま た 誰 に も 愛 さ れ て い な い 女 の 子 が い て も よ い。 (1)b は 必 ず 一 人 以 の 女 の 子 が 男 の 子 全 員 に 愛 さ れ て い な け れ ば な ら な い が、 誰にも愛されていない女の子はいてもよい(図表一) 。 これを論理記号を用いて書くと以下のようになる。 (2)a ∀ x ∃ y ( x love y ) b ∃ y ∀ x ( x love y ) 場 合 に よ っ て は 以 上 の よ う な 相 違 は あ ま り は っ き り と 了 解 さ れ に く い か も し れ な い が、 一 方 が 唯 一 で あ る 場 合 に は そ の 相 違 は 如 実 に 現われる。 (3)a 男の子全員は(おのおの)一人の女の子を愛している。 b (ある)一人の女の子は男の子全員に愛されている。 す な わ ち、 (3)a の 場 合、 愛 さ れ て い る 女 の 子 と は 特 定 の 女 の 子 で な く て も よ い が、 (3)b の 場 合 は 特 定 の 女 の 子 が 男 の 子 全 員 に 愛 さ れ ていることになる(図表二) 。 図 表 一 図 表 二
井島正博 数量詞と否定文 2 相対数量詞と否定文 2・1 全称数量詞と存在数量詞 こ こ で は 、 相 対 数 量 詞 の 中 で も 、 論 理 学 と の 関 わ り に お い て 従 来 特 に 注 目 さ れ て き た 、 全 称 数 量 詞 ( ∀ ) と 存 在 数 量 詞 ( ∃ ) に 関 し て 検 討 を 加 え た い 。 と は い う も の の 、 論 理 学 と 日 常 言 語 と は 、 必 ず し も ぴ っ た り と 対 応 す る わ け で は な い 。 全 称 数 量 詞 に 対 し て は 、 日 常 言 語 の 「 す べ て ・ 全 部 ・ み ん な ・ 全 ~ 」 と い っ た 副 詞 ( な い し 名 詞 ) が 対 応 す る と 考 え て 大 過 な い が 、 存 在 数 量 詞 に 対 し て は 、 こ こ で は と り あ え ず 「 い く つ か 」 と い う 副 詞 ( な い し 名 詞 ) を 宛 て て い る も の の 、 次 善 の 対 応 に 過 ぎ な い 。 む し ろ 「 ~ が あ る 」 と い う 表 現 の 方 が 実 情 に 近 く 、 日 常 言 語 の 副 詞 ( な い し 名 詞 ) に は 対 応 物 は な いと言うべきだろう。 さ て、 こ の よ う に ま ず 数 量 詞 に 関 し て、 全 称 数 量 詞 に「 す べ て 」、 存在数量詞に 「いくつか」 を宛て、 関数の直前の否定の有無に対して、 動 詞 の 直 後 の「 な い 」 の 有 無 を 宛 て、 数 量 詞 の 直 前 の 否 定 の 有 無 に 対 し て、 「 わ け だ 」 を 介 し た「 わ け で は な い 」 の 有 無 を 宛 て る と、 以 下のような八つの文を得ることができる。 (4)a すべての矢が的に当たった。 (∀ x f( x )) a ' いくつかの矢が的に当たらなかったわけではない。 (~∃ x ~ f ( x )) b すべての矢が的に当たらなかったわけではない。 (~∀ x ~ f ( x )) b ' いくつかの矢が的に当たった。 (∃ x f ( x )) c すべての矢が的に当たったわけではない。 (~∀ x f ( x )) c ' いくつかの矢が的に当たらなかった。 (∃ x ~ f ( x )) d すべての矢が的に当たらなかった。 (∀ x ~ f ( x )) d ' いくつかの矢が的に当たったわけではない。 (~∃ x f ( x )) こ れ ら を 見 渡 し て ま ず 気 付 く こ と は、 隣 り 合 っ た 二 つ ず つ の 文 の 意 味、 (4)a・ a ' が ほ ぼ 同 義( ∀ x f ( x )≡ ~ ∃ x~ f ( x ))、 (4)b・ b ' が ほぼ同義 (~∀ x ~ f ( x )≡ ∃ x f ( x ))、 (4)c・ c ' がほぼ同義 (~∀ x f ( x )≡ ∃ x ~ f ( x ))、 (4)d・ d ' がほぼ同義 (∀ x ~ f ( x )≡ ~∃ x f ( x )) であることである。 さらに、論理的には次のⅰ~ⅳの関係が成り立つ。 ⅰ① (4)a・ a '(∀ x f ( x )≡ ~∃ x ~ f ( x ) )と、 (4)c・ c '(~∀ x f ( x ) ≡ ∃ x~ f ( x ))とは矛盾 ( con tr adi ct )する。すなわち、前者が真で あ れ ば 常 に 後 者 は 偽 と な り、 前 者 が 偽 で あ れ ば 常 に 後 者 は 真 と な る。要するに前者と後者の真偽は常に逆転している。 ② (4)b ・ b '(~∀ x ~ f ( x )≡ ∃ x f ( x ))と、 (4)d ・ d '(∀ x ~ f ( x ) ≡ ~∃ x f ( x ))とは矛盾する。 ⅱ① (4)a ・ a '(∀ x f ( x )≡ ~∃ x ~ f ( x ))は、 (4)b ・ b '(~∀ x ~ f ( x ) ≡ ∃ x f ( x ))を含立 ( entail )する。すなわち、それぞれ前者が真で あれば後者は常に真であるが、逆は成り立たない。
成蹊人文研究 第二十一号(二〇一三) ② (4)d・ d '(∀ x ~ f ( x )≡ ~∃ x f ( x ) )は、 (4)c・ c '(~∀ x f ( x ) ≡ ∃ x ~ f ( x ))を含立する。 ⅲ (4)a・ a '(∀ x f ( x )≡ ~∃ x ~ f ( x ))と (4)d・ d ' (∀ x ~ f ( x )≡ ~ ∃ x f ( x ))とは反対 ( co nt ra ry )である。すなわち、前者、後者とも に偽であることはあるが、両者ともに真であることはない。 ⅳ (4)b・ b '(~ ∀ x~ f ( x )≡ ∃ x f ( x ))と (4)c・ c '(~ ∀ x f ( x )≡ ∃ x ~ f ( x ))とは会話的に推意 ( conversational implicature )し合う。 す な わ ち、 論 理 的 に は こ の 両 者 は 無 関 係 で あ る が、 日 常 会 話 の 上 で は、 特 に 後 者 を 否 定 す る 文 脈 が な い 場 合 に は、 前 者 が 真 で あ れ ば後者も真であると了解される。 こ れ ら の 関 係 を 図 示 し た も の が 以 下 の 論 理 的 四 角 形( ア リ ス ト テ レ ス の 四 角 形 ) で あ る( 図 表 三 )。 こ こ で、 同 一 世 界 で 共 存 し う る の は、太線で括った四つの領域A ・ B ・ C ・ Dのうち、AとB、BとC、 お よ び C と D だ け で あ り、 他 の 関 係 は 論 理 的 に 両 立 す る こ と は で き な い。 ( た と え ば、 「 す べ て の 矢 が 的 に 当 た っ た 」 の で あ れ ば「 い く つ か の 矢 が 的 に 当 た っ た 」 と 言 っ て も( 論 理 的 に は ) 間 違 い で は な い し、 「 い く つ か の 矢 が 的 に 当 た っ た 」 と「 い く つ か の 矢 が 的 に 当 た ら な か っ た 」 は 日 常 的 に は ほ ぼ 同 じ 意 味 で あ る し、 論 理 的 に も と も に成り立つ場合がありうる。さらに 「すべての矢が的に当たらなかっ た 」 の で あ れ ば「 い く つ か の 矢 が 的 に 当 た ら な か っ た 」 と 言 っ て も (論理的には) 間違いではない。しかし、 「すべての矢が的に当たった」 と「 す べ て の 矢 が 的 に 当 た ら な か っ た 」 と は、 ど う し て も と も に 成 り立つことはできない。同様に、矛盾の関係も両立できない。 た だ、 こ の ま ま で は、 以 上 の よ う な 論 理 関 係 が 成 り 立 つ 理 由 が 直 観 的 に 了 解 で き ず、 ひ た す ら 現 実 世 界 の 中 に は 人 知 を 越 え た 整 合 性 が あ る の だ と い う 不 可 思 議 の 印 象 を 拭 い き れ な い。 し か し な が ら、 こ の こ と も も う 一 歩 踏 み 込 ん で 考 え て み れ ば、 決 し て 人 知 の 及 ば な い 整 合 性 と い う わ け で は な く、 数 量 と い う も の の あ り よ う を 素 直 に 受け止めれば、自然に組み立てられる関係であることが了解できる。 図 表 三 論 理 的 四 角 形 ( ア リ ス ト テ レ ス の 四 角 形 )
井島正博 数量詞と否定文 論 理 的 四 角 形 は、 ま ず、 四 種 の 論 理 的 な あ り 方 を そ れ ぞ れ 独 立 し て 立 て て、 そ れ ら 相 互 に ど の よ う な 関 係 が あ る か を、 矛 盾、 含 立、 反 対、 さ ら に 会 話 的 推 意 と い う 論 理 的 な 関 係 に よ っ て 結 び 付 け た も の で あ っ た。 し か し な が ら、 そ も そ も こ れ ら 四 種 の あ り 方 は 独 立 し て 存 在 す る も の で は あ り え な い。 こ こ で 論 じ て い る 数 量 表 現 は 全 体 数 量 に 対 す る 割 合 を 表 わ す も の に 限 ら れ て い る が、 そ れ は 全 部( 1) か ら 皆 無( 0) ま で の 数 直 線 上 に 位 置 付 け る こ と が で き る。 そ こ で、 以 上 の 構 造 を、 数 直 線 上 に 書 き 直 し て み る と、 全 部 の 極 に A が、 そ し て 全 部 を 除 い た 数 直 線 に C が 位 置 し、 逆 に 皆 無 の 極 に D が、 そ し て 皆 無 を 除 い た 数 直 線 に B が 位 置 す る と い う 配 置 を と る こ と に な る。 こ れ を ア リ ス ト テ レ ス の 四 角 形 と 比 べ て み る と、 四 つ の 領 域 は 互 い にねじれの位置をとることがわかる(図表四) 。 こ の 図 の 上 で 見 る と、 数 直 線 上 で は 先 程 の 論 理 関 係 は 次 の よ う に 表わされる。 ⅰ ① 領 域 A は 極 限 値 1、 そ れ を 除 い た 数 直 線 が 領 域 C で あ る( 矛 盾) 。 ② 領 域 D は 極 限 値 0、 そ れ を 除 い た 数 直 線 が 領 域 B で あ る( 矛 盾) 。 ⅱ① 領域Aは領域Bに包含される(含立) 。 (∀は∃を含立するが、数直線上ではBがAを含む) ② 領域Cは領域Dを包含する(含立) 。 (∀ ~は~∀ を含立するが、数直線上ではCがDを含む) ⅲ 領 域 A は 領 域 D と 共 通 領 域 を 持 た ず、 ど ち ら に も 属 さ な い 領 域 がある(反対) 。 ⅳ 領 域 B と 領 域 C と は、 重 な る 部 分 が あ る も の の、 一 方 が 他 方 に 包含される関係ではない(会話的推意) 。 こ の よ う に 置 き 換 え て み る と、 四 種 の 論 理 的 な あ り 方 の 相 互 関 係 は、直観的にもかなり見えやすいものとなってくる。 と こ ろ で、 以 上 の よ う な、 数 量 詞 と 否 定 と の 関 わ り を、 本 稿 で 提 起しようとする期待と対象のモデルで記述するとどうなるだろうか。 ま ず 第 一 に、 同 一 の 事 態 を 見 る 見 方 と し て、 肯 定 的 な 側 面 か ら 見 る か( 「 的 に 当 た っ た 矢 が ど れ く ら い あ る か 」) 、 否 定 的 な 側 面 か ら 見 る か( 「 的 に 当 た ら な か っ た 矢 が ど れ く ら い あ る か 」) と い う、 二 つ の見方ができる。たとえば、 肯定的な側面から、 すべての矢が当たっ 図 表 四
成蹊人文研究 第二十一号(二〇一三) たのなら、 否定的な側面からは、 当たらなかった矢はないことになる。 逆 に、 否 定 的 な 側 面 か ら、 す べ て の 矢 が 当 た ら な か っ た の な ら、 肯 定 的 な 側 面 か ら は、 当 た っ た 矢 は な い こ と に な る。 こ の よ う に こ の 二つの見方は連動し合っている。 ここで、 このような特徴を持つのは、 い わ ゆ る 相 対 数 量 詞 に は 限 ら な い。 計 量 数 量 詞 を 用 い て も、 相 対 的 数 量 を 表 わ す こ と が で き る( (5)b・ b ' 、 (5)c・ c ' )。 ま た、 絶 対 数 量 詞 を 全 体 量 が 決 ま っ た 環 境 で 用 い る と、 臨 時 的 に 相 対 数 量 を 表 わ す のに用いられる( (5)d・ d ' )。 (5)a すべての矢が的に当たった。 a ' 的に当たらなかった矢はなかった。 b 三分の一の矢が的に当たった。 b ' 三分の二の矢が的に当たらなかった。 c (一〇本のうち)三本の矢が的に当たった。 c ' (一〇本のうち)七本の矢が的に当たらなかった。 d (一〇本のうち)多くの矢が的に当たった。 d ' (一〇本のうち)少しの矢が的に当たらなかった。 こ の よ う に 同 一 の 事 態 を 見 る 見 方 と し て 二 つ の あ り 方 が あ る こ と が、 同 一 の 意 味 を 表 わ す 表 現 が 二 つ ず つ 組 に な っ て い る 理 由 で あ る と 考 え ら れ る。 ち な み に、 こ れ は 論 理 式 で は、 f ( x )と ~ f ( x )と い う ように、関数の直前における否定辞の有無に対応している。 こ こ に は、 若 干 特 殊 な 形 で は あ る が、 事 態 間 対 比 の 構 造 が 組 み 込 ま れ て い る と 考 え ら れ る。 す な わ ち、 実 際 に は 同 一 事 態 の 描 写 な の で は あ る が、 そ れ を 肯 定 的 側 面 か ら 描 写 す る か、 否 定 的 側 面 か ら 描 写するかという対立がここに見られるのである(図表五) 。 第 二 に、 同 一 の 事 態 を 表 現 す る た め に、 肯 定 的・ 否 定 的 両 側 面 か ら の 二 つ の 見 方 が あ る の で あ れ ば、 そ れ に 組 み 合 わ さ れ る 数 量 表 現 は 肯 定 的 な 方 向 か ら 見 た 場 合 と、 否 定 的 な 方 向 か ら 見 た 場 合 と が 対 称 的 に な っ て い る 必 要 が あ る。 こ れ を 1( 全 称 ) と 0( 皆 無 ) と の ス ケ ー ル 上 で 見 る と、 そ の 左 右 が 反 転 し た も の が 組 に な る こ と に な る。 す な わ ち、 全 称( ∀ ) と 存 在 の 否 定( す な わ ち 皆 無、 ~ ∃ ) と、 図 表 五
井島正博 数量詞と否定文 ま た 存 在( ∃ ) と 全 称 の 否 定(~ ∀ ) と が そ れ ぞ れ 組 に な る こ と に なる(図表六) 。 ち な み に、 存 在 数 量 詞 の 否 定 は、 そ も そ も そ の よ う な 事 態 が 存 在 す る か ど う か を 問 題 に し、 そ の よ う な 事 態 が あ る と い う 期 待 を、 現 実 に は な い と 打 ち 消 す も の で あ り、 対 期 待 対 比 に 相 当 す る。 ま た、 全 称 数 量 詞 の 否 定 は、 事 態 の 存 在 を 事 実 と し て 認 め た 上 で( 前 提 )、 そ れ に 関 与 す る の が 対 象 の す べ て で あ る と い う 期 待 を、 現 実 に は そ う で は な い と 打 ち 消 す も の で あ り、 要 素 独 立 対 比 に 相 当 す る( 図 表 七) 。 さ て、 こ れ に 先 ほ ど の 肯 定 的・ 否 定 的 の 二 つ の 見 方 を 組 み 合 わ せ れば、 四種類、 八通りの意味の表現が成り立つことになる。要するに、 こ こ に 先 に 見 た A ~ D の グ ル ー プ が 見 出 さ れ る こ と に な る。 具 体 的 には、 全称 (∀) と存在の否定 (すなわち皆無、 ~∃ )とおよび存在 (∃) と 全 称 の 否 定(~ ∀ )と が、 関 数( f ( x ) )と 関 数 の 否 定(~ f ( x ))と に 対 してそれぞれすべての組み合わせを作ることになる (図表八) 。 図 表 六 図 表 七
成蹊人文研究 第二十一号(二〇一三) 先 ほ ど の 二 つ の 観 点 を 組 み 合 わ せ て、 こ の 八 通 り の 日 本 語 の 表 現 に 即 し て、 そ れ ぞ れ の 意 味 を 日 本 語 の 表 現 手 段 を 通 し て ど の よ う に 表わしているのかを確認していきたい。 ま ず A 群 は 以 下 の よ う な 論 理 的 な 意 味 お よ び 日 本 語 の 表 現 に あ た る。 A ∀ x f ( x )≡ ~∃ x ~ f ( x ) (6)a すべての矢が的に当たった。 (∀ x f ( x )) a ' い く つ か の 矢 が 的 に 当 た ら な か っ た わ け で は な い。 (~ ∃ x ~ f ( x )) こ の 二 つ の 例 文 は、 (6)a が 肯 定 的 な 側 面 を 表 わ し、 「 数 量 Q の 矢 が 的 に 当 た っ た 」 こ と を 前 提 と し て、 そ の 数 量 が「 す べ て 」 で あ る こ と を 表 わ す 要 素 独 立 対 比 の 表 現 で あ る の に 対 し て、 (6)a ' は 否 定 的 な 側 面 を 表 わ し、 「 的 に 当 た ら な か っ た 矢 が あ る 」 か ど う か を 問 題 に す る対期待対比の構造をもとに、 そのような矢はない、 と述べることで、 結果的に 「すべての矢が的に当たった」 と同義であるものである (図 表九) 。 次にB群は以下のような論理的意味および日本語の表現にあたる。 B ~∀ x ~ f ( x )≡ ∃ x f ( x ) (7)b す べ て の 矢 が 的 に 当 た ら な か っ た わ け で は な い 。(~∀ x ~ f ( x )) 図 表 九 図 表 八
井島正博 数量詞と否定文 b ' いくつかの矢が的に当たった。 (∃ x f ( x )) こ れ ら の 例 文 は、 (7)b ' は 肯 定 的 な 側 面 を 表 わ し、 「 的 に 当 た っ た 矢 が あ る 」 か ど う か を 問 題 に す る 対 期 待 対 比 の 構 造 を も と に、 そ の よ う な 矢 が あ る こ と を 表 わ す 表 現 で あ る の に 対 し て、 (7)b は 否 定 的 な 側面を表わし、 「数量Rの矢が的に当たらなかった」ことを前提とし、 そ れ が「 す べ て 」 で あ る と い う 期 待 を 打 ち 消 す 要 素 独 立 対 比 の 構 造 を 持 つ 表 現 で あ り、 す べ て 外 れ た わ け で は な い と 述 べ る こ と で、 結 果的に「いくつかの矢が的に当たった」と同義となる(図表十) 。 さ ら に C 群 は 以 下 の よ う な 論 理 的 意 味 お よ び 日 本 語 の 表 現 に あ た る。 ~∀ x f ( x )≡ ∃ x ~ f ( x ) (8)c すべての矢が的に当たったわけではない。 (~∀ x f ( x )) c ' いくつかの矢が的に当たらなかった。 (∃ x ~ f ( x )) c " すべての矢は的に当たらなかった。 (~∀ xf( x )= (8)c) こ れ ら の 例 文 は、 (8)c は 肯 定 的 な 側 面 を 表 わ し、 「 数 量 Q の 矢 が 的 に 当 た っ た 」 こ と を 前 提 と し、 そ れ が「 す べ て 」 で あ る と い う 期 待 を 打 ち 消 す 要 素 独 立 対 比 の 構 造 で あ る の に 対 し て、 (8)c ' は 否 定 的 な 側 面 を 表 わ し、 「 的 に 当 た ら な か っ た 矢 が あ る 」 か ど う か を 問 題 と す る 対 期 待 対 比 の 構 造 を も と に、 的 に 当 た ら な か っ た 矢 が あ る と 述 べ て い る。 ち な み に、 対 比 の ハ を 用 い た (8)c " は、 ワ ケ デ ハ ナ イ を 用 い た (8)c と 同 じ こ と を 表 わ し て い る が、 こ れ は「 す べ て 」 か ど う か に つ い て、 期 待 と 現 実 と が 対 比 関 係 に あ る こ と を 意 味 し て い る( 図 表 十一) 。 図 表 十 図 表 十 一
成蹊人文研究 第二十一号(二〇一三) 最 後 に D 群 は 以 下 の よ う な 論 理 的 意 味 お よ び 日 本 語 の 表 現 に あ た る。 ∀ x ~ f ( x )≡ ~∃ x f ( x ) (9)d すべての矢が的に当たらなかった。 (∀ x ~ f ( x )) d ' いくつかの矢が的に当たったわけではない。 (~∃ x f ( x )) こ れ ら の 例 文 は、 (9)d ' は 肯 定 的 な 側 面 を 表 わ し、 「 的 に 当 た っ た 矢 が あ る 」 か ど う か を 問 題 に す る 対 期 待 対 比 の 構 造 を も と に、 そ の よ う な 矢 が あ る と い う 期 待 を 打 ち 消 し て、 そ の よ う な 矢 は な い こ と を 表 わ す 表 現 で あ る の に 対 し て、 (9)d は 否 定 的 な 側 面 を 表 わ し、 「 数 量 R の 矢 が 的 に 当 た ら な か っ た 」 こ と を 前 提 と す る 要 素 独 立 対 比 の 構 造 を も と に、 そ れ が「 す べ て 」 で あ る こ と を 表 わ す 表 現 で あ り、 結 局「一本も当たらなかった」という意味になる(図表十二) 。 以 上、 論 理 学 的 観 点 か ら 論 じ ら れ る 数 量 詞 と 否 定 と の 関 係 は、 決 し て 不 可 思 議 な も の で は な く、 極 め て 自 明 な も の で あ る こ と を 確 認 し、 そ の 上 で、 そ れ が 期 待 と 対 照 モ デ ル で 記 述 で き る こ と を 示 し た。 し か し、 他 方 で は こ の 立 場 で の 数 量 詞 と 否 定 と の 関 係 は、 自 然 言 語 におけるそれとは実はかなり乖離していることも痛感させられる。 2・2 全称数量詞と非全称数量詞 以 上 見 て き た よ う に、 ア リ ス ト テ レ ス の 四 角 形 に 典 型 的 に 示 さ れ る 数 量 詞 と 否 定 に 関 わ る 論 理 的 意 味 が、 ど の よ う に 日 本 語 に よ っ て 表 現 さ れ る か を 確 認 し て き た。 た だ、 と り あ え ず は 論 理( 学 ) 的 意 味 が 日 本 語 に よ っ て 表 現 で き る と し て も、 こ こ ま で 見 て き た よ う な 表 現 の う ち に は、 ま ず 用 例 を 探 す こ と の で き な い 用 法 も 少 な か ら ず 含まれている。 そ れ は 第 一 に は 、 そ の 否 定 の あ り 方 が ホ ー ン ( 一 九 七 二 ・八 九 ) の い わ ゆ る メ タ 言 語 的 否 定 に あ た る も の ( ワ ケ デ ハ ナ イ に よ る 否 定 の 多 く ) で あ る も の が 少 な く な い た め で も あ る が 、 第 二 に は 、 最 初 に 注 記 し た よ う に 、 全 称 数 量 詞 「 す べ て 」 は 日 常 言 語 に も 対 応 物 が 見 ら れ る が 、 存 在 数 量 詞 は と り あ え ず 「 い く つ か 」 と い う 形 を 宛 て る に は 宛 て た が 、 実 際 に は 当 該 事 態 に 関 わ る 対 象 が 存 在 す る こ と を 表わすような数量詞は、自然言語には見出しがたい。 そ こ で 以 下 で は、 自 然 言 語 の 数 量 詞 に 焦 点 を 当 て た 相 対 数 量 詞 の 図 表 十 二
井島正博 数量詞と否定文 分析に歩を進めたい。 こ こ で 全 称 数 量 詞 と の 対 概 念 を、 存 在 数 量 詞 で は な く「 非 全 称 数 量詞」 と呼ぶことにしたい。これらの数量は適当と思われる数量 (「適 当 数 量 」 と 呼 ぶ こ と に す る ) か ら の 偏 差 を 表 わ す も の と 考 え ら れ、 適 当 数 量 を 超 え る も の を「 大 量 性 非 全 称 数 量 詞 」、 適 当 数 量 に 満 た な い も の を「 少 量 性 非 全 称 数 量 詞 」 と 呼 ぶ こ と に し た い。 こ れ ら の 数 量詞カテゴリーには、実際には以下のような数量詞が含まれる。 ・大量性非全称数量詞……ほとんど・かなり・たくさん・多く ・少量性非全称数量詞……少し・若干・わずか 以 上 に 挙 げ た も の の 多 く は、 絶 対 数 量 詞 と 重 複 し て お り、 純 粋 な 相対数量詞は決して多くはない。 さ て 、 相 対 数 量 詞 お よ び 絶 対 数 量 詞 に 関 し て は 、 加 賀 ( 一 九 九 七 ・ 七 ) に 興 味 深 い 議 論 が 展 開 さ れ て い る の で 、 以 下 し ば ら く 加 賀 ( 一 九 九 七 ・七 ) の 議 論 を た ど り 、 そ の 後 で 批 判 的 に 検 討 を 加 え た い。最初は相対数量詞と絶対数量詞とを区別せずに議論を始める。 ま ず、 肯 定 文 に つ い て、 数 量 詞 に ハ を 付 加 す る 場 合 と 付 加 し な い 場 合 と を 考 え て み る と、 「 全 部 」 と「 た く さ ん 」 は、 ハ を 付 加 す る と 不自然となる。 (10)a 彼はビートルズの曲を全部演奏した。 b ?*彼はビートルズの曲を全部は演奏した。 c 彼はビートルズの曲を大部分演奏した。 d 彼はビートルズの曲を大部分は演奏した。 e 彼はビートルズの曲をたくさん演奏した。 f ?*彼はビートルズの曲をたくさんは演奏した。 g 彼はビートルズの曲をいくつか演奏した。 h 彼はビートルズの曲をいくつかは演奏した。 他 方、 否 定 文 に つ い て は、 数 量 詞 に ハ を 付 加 す る 場 合 も 付 加 し な い 場 合 も い ず れ も 自 然 な 文 と な る が、 (11)b・ f の よ う に、 「 全 部・ た く さ ん 」 に ハ が 付 加 し た も の は( 「 た く さ ん 」 の 場 合 や や 拡 張 し た 意 味での)部分否定となる。 (11)a 彼はビートルズの曲を全部演奏しなかった。 b 彼はビートルズの曲を全部は演奏しなかった。 c 彼はビートルズの曲を大部分演奏しなかった。 d 彼はビートルズの曲を大部分は演奏しなかった。 e 彼はビートルズの曲をたくさん演奏しなかった。 f 彼はビートルズの曲をたくさんは演奏しなかった。 g 彼はビートルズの曲をいくつか演奏しなかった。 h 彼はビートルズの曲をいくつかは演奏しなかった。 同 様 の 現 象 は、 音 調 の 問 題 を 勘 案 す れ ば 英 語 に も 共 通 に 見 ら れ る と い う。 す な わ ち、 以 下 の 肯 定 文 の (12)a ~ d を 下 降 型 音 調 で 読 む と い ず れ も 自 然 と な る が、 対 比 を 含 意 す る 下 降‐ 上 昇 型 音 調 で 読 む と、 (12)aのみ不自然となりそれ以外は自然となるという。 (12)a
I sang ALL of the songs.
b
成蹊人文研究 第二十一号(二〇一三) c
I sang MANY of the songs.
d
I sang SOME of the songs.
そ れ に 対 し て 否 定 文 の 場 合、 (13)a を 下 降‐ 上 昇 型 音 調 で 読 む 場 合、 あ る い は (13)c ' の よ う に many に 卓 越 的 強 勢 が 置 か れ な い 場 合 に は、 部 分 否 定 の 解 釈 が 得 ら れ る が、 many に 卓 越 的 強 勢 が 置 か れ る (13)c の 場 合 に は 否 定 の 作 用 域 外 の 解 釈 が 優 勢 と な る。 ま た most, some が 用 い ら れ る (13)b・ d の 場 合 に は、 下 降 型 音 調、 下 降‐ 上 昇 型 音 調 い ず れ の場合でも否定の作用域外に解釈されるという。 (13)a
I didn't sing ALL of the songs.
b
I didn't sing MOST of the songs.
c
I didn't sing MANY of the songs.
d
I didn't sing SOME of the songs.
c '
I didn't sing many of the SONGS.
こ の よ う に 、 数 量 詞 と 否 定 と に 関 す る 言 語 普 遍 的 な 特 性 が 背 後 に 存 在 す る も の と 推 測 さ れ る 。 加 賀 ( 一 九 九 七 ・七 ) の 最 も 主 要 な 論 点 は 、 こ の 問 題 を 整 合 的 に 解 決 す る こ と に あ る と 言 っ て も よ い だ ろ う。 ち な み に 、 数 量 詞 に 関 し て は 、 従 来 ホ ー ン ( 一 九 七 二 、八 九 ) の よ う な 一 元 的 な ス ケ ー ル 上 で 議 論 さ れ て き た 。 す な わ ち 、 以 下 の よ う な ス ケ ー ル で あ る 。 見 て わ か る よ う に 、 こ こ で は 、 相 対 数 量 詞 ・ 絶 対 数 量 詞 の 区 別 な く 、 同 一 の ス ケ ー ル 上 に 個 々 の 数 量 詞 が 位 置 付 け ら れ て い る 。 さ ら に 言 え ば 、 こ の ス ケ ー ル は 全 体 量 の 中 で の 割 合 を 表 わ す も の な の か 、 直 感 的 に と ら え ら れ る 数 量 の 多 寡 を 表 わ す も のなのかも不明確である(図表十三)。 し か る に、 こ こ に は many の 位 置 付 け な ど に 関 し て、 こ の よ う な ス ケ ー ル に は 収 ま り き ら な い 構 文 的 事 実 も 見 出 さ れ る こ と か ら、 む し ろ 二 つ の 異 質 な ス ケ ー ル が 重 な っ て い る と 考 え る 方 が 妥 当 で あ
some several many half most all
y r e v e y ti r o j a m a w e f a 図 表 十 三