等質開凸錐に付随する多変数ゼータ関数について
名古屋大学 多元数理科学研究科
中島 秀斗
∗Hideto Nakashima
Graduate School of Mathematics, Nagoya University
序文.
1961年に佐藤幹夫氏によって創始された概均質ベクトル空間の理論は,Riemannゼータ関数が 関数等式を満たす理由を明快に説明し,さらに関数等式を満たすゼータ関数を系統的に構成する手 法を与えた.多変数のゼータ関数に関しては,佐藤文広氏により,Q-structureの存在を含むいく つかの仮定の下で,概均質ベクトル空間の広範なクラスに対して有効な一般理論が与えられてい る.本稿では,等質開凸錐に付随する可解な概均質ベクトル空間の多変数ゼータ関数を考察し,その Q-structureや関数等式について最近得られた結果を報告する.1
等質開凸錐
V を有限次元の実ベクトル空間とし,Ω⊂ V を直線を含まない開凸錐とする.Ωを不変にする GL(V )の部分群G(Ω) ={g ∈ GL(V ); gΩ = Ω} はGL(V )の閉部分群になり,したがって線型Lie 群となる.このG(Ω)がΩに推移的に作用するとき,開凸錐Ωは等質であるという.本稿では常に Ωは等質な開凸錐であると仮定する.等質開凸錐の一般論はVinberg [16]で与えられており,特に, G(Ω)はΩに単純推移的に作用する分裂可解な部分Lie群Hを持つ. 等質開凸錐の例を挙げよう.N 次の対称行列のなす空間Sym(N,R)の中で,正定値なもの全体 のなす集合をPN+ とすれば,PN+は開凸錐になる.ここで,g∈ GL(N, R)に対してρ(g)x := gxtg (g ∈ GL(N, R), x ∈ PN+) とすると,この作用によってΩは等質となり,したがって等質開凸錐にな る.さらに,HN を対角成分が正である下三角行列のなすGL(N,R)の部分群とすれば,HN はPN+ に単純推移的に作用する(Gauss–Cholesky分解). Graczyk–Ishi [3, §3.2] に従ってSym(N,R) の部分空間の中において等質開凸錐を構成しよう (cf. [5]).N をN = n1+· · · + nrのようにr個の自然数の和に分割し,次の三条件を満たす行列空 間の族Vkj (1≤ j < k ≤ r)を考える. (V1) A∈ Vkj, B ∈ Vji ⇒ AB ∈ Vki (1≤ i < j < k ≤ r), (V2) A∈ Vki, B∈ Vji ⇒ AtB ∈ Vkj (1≤ i < j < k ≤ r), (V3) A∈ Vkj ⇒ AtA∈ RInk (1≤ j < k ≤ r). ∗日本学術振興会特別研究員(PD); [email protected] 本研究はJSPS科研費18J00379の助成を受けたものです. 2018年度表現論シンポジウム 於:国民宿舎 水明荘(鳥取県)ただし,Imはm次の単位行列である.以上の条件(V1)–(V3)を満たす行列空間の族が存在すると き,これらを用いてSym(N,R)の部分空間ZV を ZV := x = x1In1 tX 21 · · · tXr1 X21 x2In2 . .. tX r2 .. . . .. . .. ... Xr1 Xr2 · · · xrInr ; xj ∈ R (j = 1, . . . , r) Xkj∈ Vkj (1≤ j < k ≤ r) ⊂ Sym(N, R) (1.1) により定義し,さらにPV :=ZV ∩ PN+ とおく.すると,PV はZV の中の直線を含まない開凸錐で ある.ここでHN の部分Lie群HV を HV := h = h1In1 T21 h2In2 .. . . .. . .. Tr1 Tr2 · · · hrInr ; hj ∈ R+ (j = 1, . . . , r) Tkj ∈ Vkj (1≤ j < k ≤ r) ⊂ HN により定義する.すると,条件(V1)–(V3)より,HV は作用ρ(h)x := hxth (h∈ HV, x ∈ ZV) に よってPV に単純推移的に作用し,したがってPV は等質開凸錐になる.実はIshi [5]にあるように, 任意の等質開凸錐Ωは,このように構成されたあるPV と線形同型になり,Ωに単純推移的に作用 する分裂可解Lie群Hは対応するHV と同型になることが知られている.この行列実現は一意的に 定まるわけではないが,どの実現も互いに線形同型である.以下,本稿で扱う等質開凸錐は全てこの ように実現されているとする.ここで現れる分割の個数rは分割の仕方によらずに定まり,これを等 質開凸錐Ωの階数という.また,Yamasaki–Nomura [17] にはある意味での最小実現が与えられて いる. ここで,本稿で用いる基本的な記号を用意しておこう.まずIr:={±1}rとする.各k = 1, . . . , r に対して(k, k)-ブロックのみ単位行列Ink で,それ以外は全て0であるN 次の正方行列をckとし, cε := ε1c1+· · · + εrcr (ε∈ Ir)とおく.また,nkj = dimVkj (1≤ j < k ≤ r)とおき, p = (p1, . . . , pr), pk := ∑ j<k nkj; q = (q1, . . . , qr), qj := ∑ k>j nkj とする.さらに,1 = (1, . . . , 1)としてd := 1 + 12(p + q)とおく. Ω上の関数f が,あるベクトルν = (ν1, . . . , νr)∈ Rrに対して f (ρ(h)x) = (h2ν1 1 · · · h 2νr r ) f (x) (h∈ H, x ∈ Ω) をみたすとき,f はH-相対不変関数であるといい,ν ∈ Rrをf のmultiplierという.定義より, x =∑jxjcj ∈ Ω (xj > 0)とすれば,f (x) = x1ν1· · · xνrr が成り立つ.等質開凸錐Ω上のH-相対不 変な既約多項式は定数倍を除いて丁度r個存在する.この既約多項式たちを等質開凸錐Ωの基本相 対不変式と呼び,∆1(x), . . . , ∆r(x)と表す.ただし,∆j(IN) = 1 (j = 1, . . . , r)と正規化しておく. 任意のH-相対不変な有理関数f (x)は f (x) = (const.) ∆1(x)m1· · · ∆r(x)mr (x∈ Ω; m1, . . . , mr ∈ Z) と表すことができ(cf. Ishi [4]),さらにΩは Ω ={x ∈ V ; ∆1(x) > 0, . . . , ∆r(x) > 0}
と ∆1(x), . . . , ∆r(x)に関する正値集合として記述できる(cf. Ishi–Nomura [6]).各基本相対不変
式 ∆j(x) の multiplier を (σj1, . . . , σjr) としたとき,それらを並べて構成される正方行列 σ =
(σjk)1≤j,k≤r を,multiplier matrix と呼ぶ.Ishi [4]で与えられている基本相対不変式の構成法か
ら,その基本相対不変式の順番を適切に定めれば,σ は対角成分がすべて1である下三角行列とす ることができるので,以後Ωの基本相対不変式はこの順番で並んでいるとする.[8]にあるように, nkjの情報のみからσを具体的に計算することができる.また,S := ∪ j{x ∈ V ; ∆j(x) = 0}とお くと,V \ Sは V \ S = ⊔ ε∈Ir Oε, where Oε:= ρ(H)cε (ε∈ Ir) と有限個の軌道に分解されるので(cf. Gindikin [2, p. 77]),(H, ρ, V )は実概均質ベクトル空間の構 造を持つ. V の内積は,次で定義されるものとする. ⟨x|y ⟩ := r ∑ i=1 xiyi+ 2 ∑ j<k ⟨Xkj|Ykj⟩kj, XkjtYkj =⟨Xkj|Ykj⟩kjInk. この内積を通してV とその双対ベクトル空間V∗とを同一視し,さらに
Ω∗ ={y∈ V ; ⟨x|y ⟩ > 0 for all x ∈ Ω \ {0}}
により Ω∗ を定義する.すると,Ω∗は開凸錐となり,さらにH がρの反傾表現ρ∗により単純推 移的に作用しており,したがって等質開凸錐になる.Ω∗ の基本相対不変式を∆∗1(y), . . . , ∆∗r(y)で 表す.Ω∗ のmultiplier matrix σ∗は,対角成分が全て 1 である上三角行列である.また,S∗ = ∪ k{y ∈ V ; ∆∗k(y) = 0}とすれば,V \ S∗は V \ S∗= ⊔ δ∈Ir O∗ δ, where O∗δ:= ρ∗(H)cδ (δ∈ Ir) と有限個の軌道に分解されるので,(H, ρ∗, V )は実概均質ベクトル空間の構造を持ち,特に(H, ρ, V ) と双対の関係にある.
2
等質開凸錐の
Q-structure
について
引き続き,前節と同じ記号を用いる.等質開凸錐ΩがQ上定義されているとは,対応する実概均 質ベクトル空間(H, ρ, V )において,分裂可解Lie群Hが代数群としてQ上定義されており,V が ベクトル空間としてQ-structureを持っていて,その基底に関するρの表現行列の各成分が,Hの 成分に関してQ-rationalであることである. 概均質ベクトル空間のゼータ関数を考える上で,Q-structureの存在は基本的である.対称錐(自 己双対な等質開凸錐)は自然なQ-structureを持ち,それらに付随するゼータ関数は広く研究がなさ れている(cf. [15], [11], [10]).しかし,一般の等質開凸錐においてはQ-structureの存在は決して明 らかではない.実際,本節の例2.2で見るように,いかなるQ-structureも許容しない等質開凸錐も 存在する.命題 2.1([9, Proposition 2.1]) 等質開凸錐ΩがQ上定義されることの必要十分条件は,各非対角 成分Vkj (1≤ j < k ≤ r)の基底{eαkj} nkj α=1で,次を満たすものが存在することである. (A1) eαkje β ji= nki ∑ γ=1 aαβγ e γ ki (a αβ γ ∈ Q; 1 ≤ i < j < k ≤ r; α = 1, . . . , nkj, β = 1, . . . , nji) (A2) eγkiteβji= nkj ∑ γ=1 bβγα eαkj (bβγ α ∈ Q; 1 ≤ i < j < k ≤ r; γ = 1, . . . , nki, β = 1, . . . , nji) (A3) ⟨eα kjeα ′ kj ⟩ ∈ Q (1 ≤ j < k ≤ r; α, α′= 1, . . . , n kj). 略証. (i) h = Lie(H) とおく.H の V 上の表現 ρ があれば,その H の単位元における微分 dρ : h → V はV 上のhの表現になる.ρはQ-rationalな作用なので,dρはhQの任意の基底{ei} とVQの任意の基底{fj}に対して, dρ(ei)fj = n ∑ k=1 Qkijfk (Qkij ∈ Q; n = dim V ) を 満 た す .こ の 式 は ,hQ お よ び VQ を 同 時 に h0 ∈ H で う つ し て も 変 わ ら な い .す な わ ち , h′Q := Ad(h0)hQおよびVQ′ := ρ(h0)VQとし,これらの新しい基底をそれぞれ{e′i} := {Ad(h0)ei} および{f′j} := {ρ(h0)fj}とすれば,次を満たす. dρ(e′i)f′j = dρ ( Ad(h0)ei )( ρ(h0)fj ) = ρ(h0) ( dρ(ei)fj ) = n ∑ k=1 Qkijf′k. (2.1) (ii) 可解代数群の一般論より,HQ はある極大トーラスTQと交換子群 [HQ, HQ]を用いて,HQ = TQ· [HQ, HQ]と半直積で書けるので,hQはTQのLie代数tQを用いてhQ= tQn [hQ, hQ]と書ける. aQ:={a1c1+· · · + arcr; aj ∈ Q}とおく.tQとaQに対応するLie群はどちらも極大トーラスであ るので,あるh0∈ H が存在して,aQ= Ad(h0)tQとなる.ここでh′Q:= Ad(h0)hQ, VQ′ := ρ(h0)VQ とおけば,式(2.1)よりdρはh′QのVQ′ の表現である.さて,aQ ⊂ h′Qであるので,aQ に関してh′Q をルート空間分解,VQ′ をウェイト空間分解する.e1, . . . , er をc1, . . . , cr の双対基底とすると,h′Q のルートはαkj = ek− ej (j < k)の形であり,VQ′ のウェイトはβkj = ej + ek (1≤ j ≤ k ≤ r)で ある.今,aQは対角行列としているので,各ルート空間(h′Q)αkj はh′のVkj部分に含まれており, 各ウェイト空間(VQ′)βkj はV のVkj部分に含まれている.ただし,Vkk =Rckである.各ルートベ クトルX∈ (h′Q)αおよび各ウェイトベクトルv∈ (VQ′)β に対して
dρ(A)(dρ(X)v)=(dρ([A, X])+ dρ(X)dρ(A))v = (α(A) + β(A))(dρ(X)v) (A∈ aQ)
より,dρ(X)v∈ (VQ′)α+β.ただし,α + βがウェイトでないときは(VQ′)α+β ={0}とする. (iii) ウェイト空間分解よりγ =∑jγjcj ∈ VQ′ ∩ Ω (γj > 0)を取れるが,h1 := ∑ j √γ jcj ∈ Hと すればρ(h1)IN = γとなるので,必要ならばh0をh0h−11 に取り替えることにより,IN ∈ VQ′ と仮 定してよい.H がΩ上単純推移的に作用することから,軌道写像h∋ T 7→ dρ(T )IN ∈ V は線形同 型写像になる.これをh′Qに制限したものをιで表せば,ιはh′QからVQ′ への線形同型写像になる ので,このιを通して(h′Q)αkj と(VQ′)βkj を同一視する(j < k).(h′Q)αkj の元はVkjの元とみなせ ることに注意すると,ルートとウェイトの組(αkj, βji), (αki, βji), (αkj, βkj)に関する積がそれぞれ (A1)-(A3)と対応することがわかる.
例 2.2 この例では,Vinberg [16, p. 397]で言及された11次元の等質開凸錐の族{Ωλ}λ∈[0,1]を扱 う.この等質開凸錐の族はKaneyuki–Tsuji [7], Yamasaki–Nomura [17] で詳しく研究がなされて おり,以下のように定義される.まず,λ∈ [0, 1]に対して線形写像Xλ:R2→ Mat(4, 2; R)を Xλ(x) := x1 λx2 x2 −λx1 0 √1− λ2x 2 0 √1− λ2x 1 where x = ( x1 x2 ) , と定義し,Vλを Vλ:= x = tXx11I4 Xλ(x21) x31 λ(x21) x22I2 x32 tx 31 tx32 x33 ; xx1121, x, x2232, x∈ R332∈ R x31∈ R4 とする.このとき,各Ωλは以下のように定義される: Ωλ:={x ∈ Vλ; x is positive definite} . 各Ωλはパラメータλが異なれば互いに線形非同値になる.各非対角成分Vkj (1≤ j < k ≤ 3)の任 意の正規直交基底を{uαkj}nkj α=1とするとき,[17, Lemma 6.1]にあるように,正規直交基底の取り方 によらずに,次が成立する: ⟨u132u121|u232u221⟩ = λ. (2.2) さて,ΩλがQ上定義されていると仮定する.このとき命題2.1より,(A1)–(A3)を満たすVkjの 基底{eαkj} nkj α=1が存在する.そこで,この基底にGram–Schmidtの直交化法を適用して得られる正 規直交基底を{uαkj}nkj α=1とすれば,式(2.2)の値は高々代数的数であることがわかる.したがって, もしλが超越数ならば,ΩλがQ上定義されることはない.
3
等質開凸錐に付随するゼータ関数
本節でもこれまでの記号をそのまま踏襲する.ΩはQ上定義されていると仮定し,各Vkjの基底 {eα kj}αは(A1)–(A3)を満たすものとする.必要ならば定数倍することにより,a αβ γ 等の各係数がZ に含まれると仮定してよい.これら{eαkj}αおよびc1, . . . , cr を基底とするQ上のベクトル空間を VQとし,ΓをHの離散部分群で,対角成分はすべて1であって非対角成分TkjがTkj ∈ ∑ αZ e α kj であるものとする.また,ρ(Γ)の作用で不変な格子L⊂ VQをとる.そしてL∗を内積⟨·|·⟩に関す るLの双対格子とし,さらにLε:= L∩ Oε, L∗δ := L∗∩ O∗δとおく.このとき,ΩおよびΩ∗に付 随する多変数ゼータ関数ζε(s)およびζδ∗(t)をそれぞれ ζε(s) := 1 2r ∑ x∈Γ\Lε r ∏ j=1 1 |∆j(x)|sj , ζδ∗(t) := 1 2r ∑ y∈Γ\L∗δ r ∏ k=1 1 |∆∗ k(y)|tk (s, t∈ Cr) により定義する.ただし,Γ\Lεはρ(Γ)に関するLεの代表元の集合であり,Γ\L∗δはρ∗(Γ)に関す るL∗δの代表元の集合である.さて,2つの実ベクトルα, βが任意のjについてαj > βj を満たす ときα > βと書くことにして,Cr の領域BおよびB∗を次で定義する. B :={s∈ Cr; Re s > (q + 1)σ−1}, B∗:={t∈ Cr; Re t > (p + 1)σ−1∗ }.命題 3.1(Nakashima [9]; cf. Sato [12]) 等質開凸錐Ωに付随するゼータ関数ζε(s)はBにおいて, 双対錐Ω∗に付随するゼータ関数ζδ∗(t)はB∗において,絶対収束する. これらのゼータ関数をつなぐ関数等式を記述するために,いくつかの記号を用意する.まず,Hが Oε およびOδ∗それぞれに単純推移的に作用していることを踏まえ,α ∈ Cr に対してOε上の関数 |∆(x)|α (x = ρ(h)cε∈ Oε)およびOδ∗上の関数|∆∗(y)|α(y = ρ∗(h)cδ ∈ O∗δ)を, |∆(ρ(h)cε)|α:= h2α1 1· · · h 2αr r , |∆∗(ρ∗(h)cδ)|α:= h−2α1 1· · · h−2α r r (h∈ H) により定義する.V \ S上のH-不変測度dµおよびV \ S∗上のH-不変測度dµ∗はそれぞれ dµ(x) =|∆(x)|−ddx (x∈ V \ S), dµ∗(y) =|∆∗(y)|−ddy (y ∈ V \ S∗) で与えられる.ただし,dx, dyはV 上のユークリッド測度である.そして,これらを用いてΩおよ びΩ∗のガンマ関数を定義する.これらはGindikin [2]において具体的に計算がなされている. ΓΩ(α) := ∫ Ω |∆(x)|αe−⟨ x| IN⟩dµ(x) = (2π) n−r 2 r ∏ j=1 Γ ( αj− pj 2 ) (α∈ Cr), (3.1) ΓΩ∗(β) := ∫ Ω∗ |∆∗(y)| βe−⟨ IN|y ⟩dµ∗(y) = (2π) n−r 2 r ∏ k=1 Γ ( βk− qk 2 ) (β∈ Cr). (3.2) ここでn = dim V であり,Γ(s)は通常のガンマ関数である.ΓΩ(α)はRe α > 12pで,ΓΩ∗(β)は Re β > 12qでそれぞれ絶対収束し,いずれもCr上の有理型関数に解析接続される(cf. [2]).また, aεδ(α) := exp [ π√−1 2 (∑r i=1 εiδi ( αi− pi 2 ) + 1 2 ∑ j<k εjδknkj )] (α∈ Cr), (3.3) a∗δε(β) := exp [ π√−1 2 (∑r i=1 εiδi ( βi− qi 2 ) + 1 2 ∑ j<k εjδknkj )] (β∈ Cr) (3.4) とおき,α∈ Crに対して|α| = α 1+· · ·+αrとする.そしてτ (s) := (d−sσ)σ−1∗ とし,B∪τ−1(B∗) の凸包をDで表す.さらに,v(L) :=∫V /L dxとおく. 定理 3.2(Nakashima [9, Theorem 4.7]) 各ζε(s)はD上の,各ζδ∗(t)はτ (D)上の正則関数に解 析接続される.またs∈ Dにおいて,次の関数等式が成立する. ζδ∗((d− sσ)σ∗−1) = v(L)ΓΩ∗(sσ) (2π)|sσ| ∑ ε∈Ir a∗δε(sσ)ζε(s) (δ∈ Ir). この関数等式の係数を決定する上で本質的なのは,以下で定義する局所ゼータ関数のFourier変換 である.まず,S (V )をV 上の急減少関数全体のなすSchwartz空間とし,ΩおよびΩ∗の局所ゼー タ関数をそれぞれ,f, f∗∈ S (V ), ε, δ ∈ Ir およびs, t∈ Crに対して Φε(f ; s) := ∫ Oε |∆(x)|sσf (x) dµ(x), Φ∗δ(f∗; t) := ∫ O∗ δ |∆∗(y)| tσ∗f∗(y) dµ∗(y)
により定義する.これらはそれぞれRe s > dσ−1, Re t > dσ−1∗ で絶対収束し,いずれもs, tの有理 型関数として全空間Crまで解析接続される(cf. [1]).e[a] := exp(2π√−1 a)とおき,f ∈ S (V )の Fourier変換F[f]を F[f](y) := ∫ V f (x) e[⟨x|y ⟩] dy (y ∈ V ) で定義する.次の命題が局所ゼータ関数のFourier変換の様子を表すものである. 命題 3.3([9, Proposition 4.3]) ε∈ Irとする.f∗ ∈ S (V ), s ∈ Crに対して次が成り立つ. Φε(F[f∗]; s) = ΓΩ(sσ) (2π)|sσ| ∑ δ∈Ir aεδ(sσ)Φ∗δ(f∗; (d− sσ)σ−1∗ ). この命題はSato–Shintani [15] (Satake–Faraut [10])の手法を応用して証明される.式の左辺は Φε(F[f∗]; s) = ∫ Oε (∫ V
|∆(x)|sf∗(y)e[⟨x|y ⟩]dy
) dµ(x) であり,被積分関数は xに関してL1関数ではなく Fubiniの定理が適用できない.そこでまず, ρ(hx)cε= xとなるhx ∈ Hをとり,a > 0に対して ∫ Oε |∆(x)|se−2πa⟨ρ(hx)IN|IN⟩F[f∗](x) dµ(x) = ∫ Oε (∫ V |∆(x)|sf∗(y)e[a √ −1 ⟨ρ(hx)IN|IN⟩ + ⟨x|y ⟩]dy ) dµ(x) (3.5) を計算し,その後a→ +0とする.そのために,いくつか記号を導入する.各j = 1, . . . , rに対して Nj := ∑ k≥jnj とし,さらに Ej := ⊕ k>j Vkj⊂ Mat(Nj+1, nj;R), Lj :=RInj⊕ Ej ⊂ Mat(Nj, nj;R) とおく.ただしEr:=∅である.Lj の内積は ⟨ Lj|L′j ⟩ := hjh′j+ 2 ∑ k>j ⟨ TkjTkj′ ⟩ kj (hj, h ′ j ∈ R, Tkj, Tkj′ ∈ Vkj) により定義する.また,L+j :=R +I nj ⊕ Ej ⊂ Lj とする.N 次正方行列xの右下の Nj 次正方行列部分をx[j]で表し,πj を直交射影x7→ x[j]とする.V[j] := πj(V ), H[j] := πj(H)と すれば,H[j]はGL(Nj,R)の部分群であり,Ω∗[j] := πj(Ω∗)はH[j]が単純推移的に作用するV[j]の 中の等質開凸錐になる.各y[j] ∈ V[j]に対して,Lj 上の自己共役な線形作用素φj(y[j])を ⟨ Lj|φj(y[j])Lj ⟩ :=⟨LjtLj|y[j] ⟩ (Lj ∈ Lj) により定義する.自己共役作用素φj は[17]で詳しく研究されている.特に, φj(ρ∗(h−1[j])y[j]) =th[j]φj(y[j])h[j] (y[j] ∈ V[j], h[j]∈ H[j]) (3.6) をみたしており,y[j] ∈ Ω∗[j] かつLj ̸= 0ならば ⟨ Lj|φj(y[j])Lj ⟩ > 0となる. e1, . . . , er をRr の標準基底とする.各j = 1, . . . , rに対してmultiplier−ejを持つΩ∗上のH-相 対不変な有理関数をα∗j(y)で表す.ただしα∗j(IN) = 1とする.定義より,α∗j(ρ∗(h)IN) = h−2j で ある.
さて,式(3.5)に戻ろう.f∗をコンパクトな台を持つV\S∗上の関数とし,s∈ CrはRe s > dσ−1 をみたすと仮定する.今a > 0を固定しているのでFubiniの定理を適用できて,この式は ∑ δ∈Ir ∫ O∗ δ f∗(y) (∫ Oε |∆(x)|se[a √ −1 ⟨ρ(hx)IN|IN⟩ + ⟨x|y ⟩]dµ(x) ) dy (3.7) と変形できる.x∈ Oε, y∈ V をそれぞれ x = ρ(hx)cε with hx = r ∑ j=1 Lj (Lj = hjInj+ Tj ∈ L + j , Tj = ∑ k>j Tkj ∈ Ej),
y∈ V as in (1.1) with symbols y and Y , Yj :=
∑ k>jYkj∈ Ej. のように表せば,内積⟨x|y ⟩は次のように計算される: ⟨x|y ⟩ = r ∑ j=1 εj ( yjh2j + hj⟨Tj|Yj⟩ + ⟨ TjtTj|πj+1(y) ⟩) = r ∑ j=1 εj⟨Lj|φj(πj(y))Lj⟩ . (3.8) ただしπr+1(y) = 0である.したがって,z[j](a) := πj ( aIN − εj √ −1y) (a > 0) とおけば, a√−1 ⟨ρ(hx)IN|IN⟩ + ⟨ρ(hx)cε|y ⟩ = √ −1 r ∑ j=1 ⟨ Lj|φj(z[j](a))Lj ⟩ なので,β(s) = (β1(s), . . . , βr(s)) := sσ− 2−1p とおけば,式(3.7)は次のようになる. 22−1(n−r)+r ∑ δ∈Ir ∫ O∗ δ f∗(y) (∏r j=1 ∫ L+ j h2βj(s)−1 j e−2π⟨ Lj|φj(z[j](a))Lj⟩ dL j ) dy. (3.9) ここで,dLj = dhj ∏ k>jdTkj である. 補題 3.4 y[j] ∈ Ω∗[j] とする.βj ∈ CがRe βj > 0を満たすとき*1 ∫ L+ j h2βj−1 j e−2π⟨ Lj|φj(y[j])Lj⟩ dL j = 2−qj−1 Γ(βj) (2π)βj α ∗ j(y[j])−βj ∏ k>j α∗k(y[j])−2 −1n kj. 証明 まずy[j] ∈ Ω∗[j] より,対角成分が全て1であるnj ∈ H[j]を用いて, y[j]= ρ∗(nj) ( α∗j(y[j])cj+· · · + α∗r(y[j])cr ) with α∗k(y[j]) > 0 (k≥ j) のように表せる(Ishi–Nomura [6]).eLj = n[j]Lj ∈ L+j と変数変換すれば,式(3.6)より ⟨ Lj|φj(y[j])Lj ⟩ = ⟨ eLj r ∑ k=j φj ( α∗k(y[j])ck)eLj ⟩ = α∗j(y[j])eh2j + 2 ∑ k>j α∗k(y[j]) nkj ∑ ν=1 ( eTkjν)2 であるので,次の基本的な公式 ∫ +∞ 0 x2β−1e−2πax2dx = Γ(β) (2πa)β, ∫ +∞ −∞ e −2πax2 dx = a−2−1 (a > 0, Re β > 0) を用いれば,補題を得る. *1補題3.4の右辺の式は,2−qj−1(2π)−βjΓ(βj) ( α∗j(y[j])2βj−1det φj(y[j]) )−1/2 のように変形できる.
解析接続を考えることにより,補題 3.4は y[j] ∈ Ω∗[j] + iV[j] としても成立する.ここで,[6, Theorem 4.1]より,y[j] ∈ Ω∗[j]+ iV[j]のときRe α∗k(y[j]) > 0 (k≥ j) であることに注意する. さて,式(3.9)に戻ろう.今Re s > dσ−1を仮定しているので,Re β(s) > 0をみたす.したがっ て補題3.4を適用できる.まず係数については,ガンマ関数ΓΩ(s)の公式(3.1)を用いると, r ∏ j=1 2−qj−1Γ(βj(s)) (2π)βj(s) = (2π)2−1(n−r) (2π)|sσ| r ∏ j=1 2−qj−1Γ((sσ) j− 2−1pj ) = 2−2−1(n−r)−rΓΩ(sσ) (2π)|sσ| である.さてα∈ Cに対してχα(h) := h2α1 1· · · h2αr r (h∈ H)とおく.y ∈ O∗δをy = ρ∗(hy)cεと hy∈ H を用いて表すことにすれば,k≥ jのとき, lim a→+0α ∗ k(z[j](a)) = α∗k ( −εj √ −1ρ∗(hy)cδ ) =−εjδk √
−1χ−ek(hy) = χ−ek(hy) exp
( −π√−1 2 εjδk ) であるので, lim a→+0 r ∏ j=1 α∗j(z[j](a) )−(sσ)j+2−1pj ∏ j<k α∗k(z[j](a) )−2−1n kj = r ∏ j=1 ( χ−ej(hy) exp ( −π√−1 2 εjδj ))−(sσ)j+2−1pj ∏ j<k ( χ−ek(hy) exp ( −π√−1 2 εjδk ))−2−1n kj = aεδ(sσ) χsσ−2−1p(hy) χ2−1p(hy) = aεδ(sσ) χsσ(hy). 以上より,Re s > dσ−1およびf∗がV \ S∗内にコンパクトな台を持つときに Φε(F[f∗]; s) = ΓΩ(sσ) (2π)|sσ| ∑ δ∈Ir aεδ(sσ)Φ∗δ(f∗; (d− sσ)σ∗−1) が成り立つことが示された.あとは解析接続を用いてs ∈ Cr 全体に拡張し,さらに[12, Lemma 5.5]を用いてf∗∈ S (V )まで拡張すればよい. 注意 3.5 Sato–Shintani [15], Satake–Faraut [10]ではQkという写像を導入して,対称錐に対して 命題3.3を証明している.そのQkは,本稿の記号を用いると Qk = φk ( πk−1(aIN − εj √ −1y)) Ek と表せる.すなわち,[15], [10]ではL+k 上での積分(補題 3.4)において,内積を式(3.8)の中央の形 まで変形した後,まずEkについて積分をしてから,その後でhk に関して積分を行っている.その ため,計算の途中で少し煩雑な式変形が現れる.一方で,補題 3.4ではhkとEkを同時に積分して おり,計算の見通しがよくなっている. 注意 3.6 命題 3.3で計算した局所ゼータ関数の関数等式では,係数はΓΩ(sσ), aεδ(sσ)であるが, 定理3.2ではΓΩ∗(sσ), a∗δε(sσ)になっている.これは,命題3.3から定理3.2を導出する際に,ゼー タ積分というものを導入して ζδ∗((d− sσ)σ−1∗ ) = v(L) ΓΩ(sσ + u) (2π)|sσ| ∑ ε∈Ir aεδ(sσ + u)ζε(s) (u := 12(p− q))
という式を導くのであるが(これが[12]の一般論で得られる関数等式の形),今の等質開凸錐の場合 は,ガンマ関数の公式(3.1), (3.2)およびaεδ(α), a∗δε(β)の定義式(3.3), (3.4)より ΓΩ(α + u) = ΓΩ∗(α), aεδ(α + u) = a∗δε(α) (α∈ C r) が成り立つので,定理 3.2の形になるのである.
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